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三浦 陽一

要  旨  英語の「代名詞」(本稿では「関係詞」と呼ぶ)は話し手と対象の個人的でその 場限りの関係認識を本質とする。関係詞の認識には七種類(人、物、場所、時間、 様態、理由、程度)あり、それぞれ一個から数個の語彙をもつ。それぞれの語彙が 文中では名詞、形容詞、副詞、疑問詞、関係代名詞、関係形容詞、関係副詞、感嘆 詞、接続詞などの品詞として用いられる。関係詞は話し手が聞き手に配慮しつつ文 を支配するための基本語である。本稿では人称代名詞だけを扱う。 キーワード:関係詞、個人的かつ一時的、自己分裂した自分、特定 / 不特定

1.はじめに

 アップルコンピュータの創立者、スティーブ・ジョブズ(Steve Jobs, 1955―2011)の有 名なスピーチ(スタンフォード大学の卒業式で。2005 年 6 月)に、次のような一節がある (代名詞をイタリックにして示す)。

“I’m convinced that the only thing that kept me going was that I loved what I did. You’ve got to find what you love, and that is as true for work as it is for your lovers.”(http://news. stanford.edu/news/2005/june15/jobs ― 061505.html)  ここには I,me,you,your,that,what,it のような「代名詞」が全部で 11 個つかわれ ている(このうち二つの that は「接続詞」とされるが、「代名詞」と根本的に同質である ことは後述)。あらゆる英文にこれほど頻繁に「代名詞」が登場するわけではないが、英 語では文をつくるうえで「代名詞」が重要な役割を果たすことがうかがえる。  同じ趣旨を日本語で表現してみると、次のようになるだろう。 「私が今日までやってこれたのは、もっぱら自分のやっていることが好きだったか らです。好きで仕方がないことを探してください。好きな人がいればやっていける のと同じように、好きな仕事があればやっていけます。」

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 この場合、「代名詞」に似たものは「私」「こと」「の」だけであり、英語との違いは大 きい。  ジョブズのスピーチをみてもうひとつ気づくのは、ここに登場する「代名詞」は何かの 〈名詞の代わり〉ではないことである。もちろん、この場合“I”は話し手自身のことであ り“you”は聴衆のことであって、それが何の〈名詞の代わり〉であるかとは無関係に文 意は通じるし、that,what,it にいたっては〈代わりをしている名詞〉はどこにもない。  現行の文法書は「代名詞は主として名詞の繰り返しを避けるために、その代わりとして 用いられる語」(綿貫陽ほか『改訂新版 ロイヤル英文法』2000 年、171 頁)、「名前を言 わずに人と物を指す」(『コリンズ コウビルド英文法』2009 年、52 頁)、「代名詞はその 名のとおり、名詞の繰り返しを避けるために使われる」(宮川幸久ほか『アルファ英文法』 2010 年、171 頁)といった説明をしている。しかしこれはもともと英語の pronoun がラテ ン語文法の〈名 nomen の代わりをするもの pronomen〉という用語を拝借したものだとい う説明であったものが、いつの間にか定義であるかのように流布したものである。  つまり〈代名詞は名詞の代わり〉というのは「代名詞」という名称の由来の説明にすぎ ない。実際、「代名詞」が〈名詞の代わり〉とはいえない場合があることは誰でもわかる ことである(It’s raining. の it はなんの名詞の代わり?)。そこで、「それぞれの文法家によっ ていろんな説明がなされてきたが、たいていの場合、直接的に定義づけをすることを断念 して、英語の代名詞の性質や特徴を挙げるという方法が取られ」てきた(松浪有ほか編著 『大修館英語学事典』1983 年、446 頁。ゴチックは引用者)。  実は「代名詞」が「全く話手との関係概念の表現」であることは時枝誠記(1900― 1967)がすでに発見したところであり、むしろこれが定義である(時枝誠記『日本語文 法 口語篇』岩波書店、1950 年、75 頁)。この定義を英語に適用した最初の試みが宮下眞 二『英語文法批判』(1982 年)であり、フランス語を例にしてこの定義を確立・発展させ た業績が鈴木覺「関係詞論〈代名詞〉論の批判的検討」(2002 年)である。しかし上述の ように、たんなる名前の由来を定義のように思い込む状況はいまだに続いている。(なお、 「関係詞」の名称は鈴木覺氏の命名に従った)  関係詞(いわゆる代名詞)の本質は、おのおのの話し手が〈話題の対象にしているもの と自分との個人的かつその場限りの関係〉をもっぱら述べるところにある(以後、関係詞 のこの性質を「個人的かつ一時的 personal and temporal」と呼ぶことにする)。あらゆる文 は「話し手」が言ったものである。「話し手」が実在の人物であれ空想上の人物であれ、 話し手は〈そのときの自分〉を“I”といい、〈そのときの聞き手〉を“you”というのである。  関係詞は内容が抽象的で簡単な語であるから、〈一般名詞の代わり〉のように使って文 をスリムに整えることもできる。そのとき話し手は対象を自分の世界に引きつける糸のよ うに関係詞を操作しているのである。

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 本稿では「代名詞」という伝統的な名称も使うが、〈話し手と話題の対象との個人的か つ一時的な関係〉という本質に即して、主に「関係詞」という語を用いる。以下に述べる ように、正確には「代名詞」は関係詞の用法のひとつにすぎない。代名詞を「関係詞」と いう視点から無理なく説明し、従来の理解に誤りがあれば正すことによって英語習得への 道をより容易にすることが本稿のねらいである。

本稿の構成と用語の説明

 関係詞を解明する前提として、まず言語の一般的な構造を確認しておこう(図1)。  図1において、話し手(Speaker)は【対象】(Object)に向かって意識を向け(対象化)、 対象を概念でとらえて語彙に変換する(概念化)。対象化と概念化のふたつの作用を【認識】 と呼ぶ。次に話し手は認識内容を音声や文字にする過程に入る。そのプロセスおよび結果 が【表現】(Expression)である。  関係詞に特有なのは、通常の語彙が【対象】のみを認識の対象とするのに対して、関係 詞は〈話し手と対象の間の関係の種類〉を認識の対象とすることにある。このことは話し 手の内心(認識)の部分(図1の S → O → S =認識のプロセス)を視野に入れてはじめて 見えてくる。これまでの文法は表面に見える部分(図1の S → E =表現のプロセス)だけ で論じるために、〈代名詞は一般名詞を言い換える語〉といった観察しかできなかったの である。  英語の関係詞の分類は表1の通りである。表1の見方であるが、話し手の対象について の認識は表1の左から右へと発展して語彙となり(図1の S → O → S =認識プロセス)、 さらに文中では品詞となって表現される(図1の S → E =表現プロセス)。 図1 言語の構造

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 関係詞はすべて対象が話し手個人とどういう関係にあるかを表す語である。英語の話し 手は対象との関係を、①人(ひと)、②物(もの)、③場所、④時間、⑤様態、⑥原因、⑦ 程度の七つに分けている。  七つの関係はそれぞれいくつかの語彙をもつ。たとえば話し手が①人(ひと)を認識 の対象としたとき、対象の立場が話し手からみて「話し手自身」であることを表す語彙 (I)、「聞き手」であることを表す語彙(you)、「それ以外」の関係であることを表す語彙 (he/she)に分かれる。  七つの関係認識は話し手個人との関係が「不特定」である場合を含んでいる(本稿では これを不特定関係詞と呼ぶ)。たとえば対象がどのような人かが特定しないときは who と いう語彙を用いる。  関係詞は文中で用いられて人称代名詞、指示代名詞、疑問詞、関係代名(形容・副)詞、 表1 関係詞の全体像

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副詞、感嘆詞などの品詞となる。つまり成り立ちとしては「関係詞」であり、文中の役割 としては「代名詞」などの品詞となる。そして「代名詞」となったときは一般名詞を言い 換えて文をスリムにするという役割も果たす。このような関係詞と多くの品詞との関係は、 俳優と役柄の関係に似ている。一人の俳優は作品ごとにいくつもの役柄を演じる。そう することによってのみ、彼は俳優だといえるのである。(“One man in his time plays many parts, His acts being seven ages.” Shakespeare, As You Like It 人は一生に沢山の役を演じる ものだ。七つの年代[幼児、生徒、恋人、兵士、裁判官、老人、元の幼児]を次々に。シェ イクスピア『お気に召すまま』)  参考として、従来の代名詞の分類例をあげておく(表 2)。 不特定関係詞と「∼か」型の日本語 英語の不特定関係詞は日本語の「誰か」「何か」「ど れか」「どこか」「いつか」「いかが」「なぜか」といった「∼か」型の語に似ている。「な ぜか」を例にとれば、「なぜか」は事態の原因が不特定であるという話し手の認識によっ て成立した関係詞であり、そこから文中では「戦争になったのはなぜか」(→疑問詞的)、 「なぜか彼は来なかったが、困ったことだ」(→関係代名詞的)、「なぜかというと風邪を引 表 2 英語代名詞の分類例 出典:寺澤芳雄(編『英語学要語辞典』研究社、2002 年、531 頁

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いたからです」(→接続詞的)、「いったいなぜか?!」(→感嘆詞)のようにさまざまな品 詞として使われる。 不特定債権と不特定関係詞 「不特定」という関係を理解するために参考になるのは、民 法の「不特定債権」である。商取引においてたとえば「バナナ1トンを購入する」という ように種類(と数量)だけを指定した債権を「種類債権」もしくは「不特定債権」と呼ぶ。 この場合、債務者はどのような品質のものを引き渡せば足りるか、どのような行為があっ たあとに対象物が特定するかが問題になることがある(たとえば不慮の事故で商品が全焼 したとき再履行責任が免除されるかどうか判断する場合)。英語の不特定関係詞は、この 不特定債権のように対象との関係の種類(たとえば話し手からみて対象が「人」であるこ と)は特定しているが、その他の条件(どのような属性をもつ「人」であるか)は特定し ていないことを示す語彙である。参考:民法 401 条「債権の目的を種類のみで指定した場 合において、法律行為の性質または当事者の意思によってその品質を定めることができな いときは、債務者は中等の品質を有する物を給付しなければならない。2 前項の場合にお いて、債務者が物の給付をするのに必要な行為を完了し、または債権者の同意を得てその 給付すべき物を指定したときは、以後その物を債権の目的物とする。」このうち第 2 項の 「給付をするのに必要な行為を完了」あるいは「給付すべき物を指定」するという手順は、 関係詞で指し示した不特定な内容を直後の節で特定する英語の語順に似ている。 代名詞と音感 関係詞の発音にはグループごとにある種の共通性がある。いわゆる〈音象 徴 sound symbolism〉を思わせて興味深い。⃝人(ひと)関係詞は母音で終わる(I、we、 you、he、she、they,who。このうち he と she は摩擦音系の音をペアにしたもの)。⃝特 定している物事を表す関係詞は[t]または[ð]の音を含むものが多い(this、that、it、 they,there,then)。⃝遠近を表す関係詞のうち、近いほうは閉音系の母音[i]を含み(this, these,here)、 遠 い も の は 開 音 系 の 母 音[æ][o][e] を 含 む(that,those,there)。 ⃝場所をあらわす関係詞は[ ]音で終わる(here,there,where)⃝時間をあらわす関 係詞には[n]音がよくあらわれる(now,then,since,when)⃝不特定関係詞は[h] 音で始まる(who、what、which、where、when、how、why)。  以下、本稿では表1の A(人(ひと)関係詞。いわゆる人称代名詞)について論じる。(各 項目の記号は表1の記号と対応している)

A:人(ひと)関係詞 I,you,he,she,we,you,they

 認識の対象とする人と話し手がどのような関係にあるかを表現する関係詞。人のあり方 を示すものは名前、血縁、職業、年齢、人種、国籍など多種多様であるが、話し手との個

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人的で一時的な関係に着目することで、話し手はあらゆる人を少数の種類に分けて表現で きる。この話し手との関係のあり方を「人称」といい、一人称(話し手にとって「自己」 という関係)、二人称(話し手にとって「聞き手」という関係)、三人称(話し手にとって 話し手自身でも聞き手でもない関係)の三種がある。  話し手“I”は常に自分自身であって、逆に聞き手は常に変動する。話し手と聞き手は 互いの人格性が直接問題になるが、その他のもの(三人称で呼ぶもの)はこちらから話し かけているわけでもなければむこうが話を聞いているわけでもないから、人格性は間接的 に問題になるだけである。このように話し手からみた立場(話し手自身か、聞き手か、そ れ以外か)によって人を呼び分ける関係詞が人(ひと)関係詞(伝統文法でいう「人称代 名詞」)である。  参考として人称代名詞の分類例をあげておく。 性・数・格 人(ひと)関係詞は英語の語彙のなかで最も豊かな性数格の変化をもち、屈 折語らしさを保持している。 ⃝ 性…英語では性別の認識はあっても性別を関係詞で表現することは少なく、人(ひと) 関係詞(人称代名詞)に he と she の区別があるだけである。 ⃝ 数…人(ひと)関係詞には we、you、they という複数認識をあらわす語がある(後述) ⃝ 格…人(ひと)という認識のうえに主格・与格・対格(目的格)・属格(所有格)とい う属性認識を付加する文法形式。実体の存在(実体とその存在との関係)をおおづかみ に表したり(主格)、ある実体の動的属性に対する別の実体の受動的な関係を表したり(与 表 3 英語人称代名詞の分類例 人称代名詞 所有代名詞 再帰代名詞 数   人数  性 主格 所有格 目的格 単数 1 人称 I my me mine myself 2 人称 you your you yours yourself 3 人称

男性 he his him his himself 女性 she her her hers herself 中性 it its it itself 複数 1 人称 we our us ours ourselves

2 人称 you your you yours yourselves 3 人称 they their them their themselves 宮川幸久・林龍次郎(編)『アルファ英文法』研究社、2010 年 174 頁。it が「中性の人称代名詞」 となっているが、これは不適切であ屡(it の頁を参照)。

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格・目的格)、実体の他の実体に対する所有関係を表す(所有格)。

 人(ひと)関係詞(人称代名詞)の所有格は〈所有〉の主体を表す(my purse 私の財布)。〈所 有〉される側の名詞が行為をあらわす抽象名詞であるときは、人(ひと)関係詞は行為の 主体または行為の対象を表す。his arrival(彼の到着。he が arrival の主体≒所有者である ことを his があらわす)They decided to continue her education(彼らは彼女の教育を続けた。 she が education の対象≒所有者であることを her があらわす)行為の主体であっても対象 であっても行為を〈所有〉する主体はその人となるから同じ形が使えるのである。格より も具体的で細かな認識は前置詞があらわす(たとえば前置詞 to や for は与格と同じ関係を 与格よりも具体的かつ細かくとらえる)。所有関係のうえに所有物までふくめて認識した 人(ひと)関係詞が「所有代名詞」である。mine,ours,yours,his,hers,theirs. なお、 格関係の一般的な組み合わせを文法化したものが文型である。(格の本質については宮下 眞二『英語はどう研究されてきたか』1980 年、59―61 頁を参照) A ①:I

 話し手が<分裂した自分表す関係詞(「一人称単数の人称代名詞」)。I have a dream. (Martin. L. King)  われわれは自らを直接認識の対象にすることはできない(≒直接自分の顔を見ることは できない)。しかし観念のなかで(≒鏡の中で)もう一人の自分をたちあげ、それを対象 にすれば自分を対象化できる。(このように空想的にもう一人の自分をたちあげる人間の 能力を三浦つとむは「観念的自己分裂」と呼んだ。本稿では観念的自己分裂によって生ん だ自分の分身を〈分裂した自分〉と呼ぶことにする)  人は自分のおかれた立場によって、その都度ちがう〈分裂した自分〉をつくり、それを “I”と呼んでいる。たとえば友人にメールするときと会社の一員として取引先にメールす 図 2 “I”の対象・認識・表現

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るときでは自己意識に違いがある。形式的には同じ“I”でも内容の違う〈分裂した自分〉 を作り上げている。生身の自分はひとつしかないが、〈分裂した自分〉は無数といってよ いほどあり、母語ではこれをほとんど無意識に使い分けている。  話し手が〈分裂した自分〉を呼ぶには本名(Naoto Kan)、職業(politician)、あだ名(Irakan) など多くの語彙があるが、これらは他人が現実の自分を指すときも同じ語となる(一般名 詞)。しかし〈分裂した自分〉を“I”と呼べるのは話し手一人である。“I”が指すものは 自分の人格的な分身であり、このようにして人間はみな自分(の分身)との個人的関係= 人格をもつ。自分との個人的関係=人格性(“I”)をもつ存在を英語では「人」として扱い、 人(ひと)関係詞で呼ぶ。

“It’s me.”型の表現について It’s me, Yoshihiko.(僕だよ、佳彦だよ。ドアの外から名乗 るときなど)His wife is taller than him.(彼より奥さんのほうが背が高い)のように、伝統 的な文法規範では主格(I,he)になるべきところを目的格(me,him)にする表現があ る。フランス語の強調形の影響だとか(C’est moi. 私だよ)、動詞や前置詞のあとには目的 格にすべきだという類推からだとかいった説があるようだが(江川泰一郎『代名詞』1955 年、13 頁)、これらは由来の推測であって、この文そのものの文法的解明ではない。上記 の It’s me. とか His wife is taller than him. の me や him は、「一語文」と呼ばれる表現の一種 である。一語文には「はい」「いいえ」のように認識した内容じたいは表現されず話し手 の判断だけが示される場合と、「やった!」「火事!」のように認識内容の一部が表現さ れる場合がある。英語の目的格表現は後者の場合にあたり、上記の文だと“I am here.” とか“he is(tall)”のような認識を一語で“me”や“him”で表している。目的格を指標 にすることで文に相当する内容を簡潔に表現できるので、次第に定着したのであろう。 Most people my age are ready to retire, but not me and my band.(Mick Jagger)(私の年令に なるとたいていの人が引退を考えますが、私と私のバンドは違います。ミック・ジャガー。 not me and my band = I and my band are not ready to retire.)

A ①:we

 話し手が〈分裂した自分〉と他の人を「共同の話し手」として呼ぶ関係詞(「一人称複 数の人称代名詞」)。Yes, we can.(Barack Obama)

A ②:you(単数)

 話し手が対象の人を「聞き手」として表す関係詞(「二人称単数の代名詞」)。Just follow

your heart.(Steve Jobs. 自分が心から望むことをすればいいのです。スティーブ・ジョブ

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A ②:you(複数)

 聞き手が複数であるという認識があっても単数と同じ表現 you をつかう(「二人称複数 の人称代名詞」)。

you の由来 you の語源は ye の目的格複数形であり、もともと you は複数の聞き手を表し た。英語に限らず西洋語では二人称複数の語彙が二人称単数に使われるケースが多い(フ ランス語、スペイン語、ドイツ語など)。その起源はローマ帝国以来、支配者が自分自身 を“we”と呼ぶ慣習がヨーロッパ全体に広がり(royal “we”)それに呼応して臣下が支配 者(単数)を you(複数)と呼んだことにあるという(江川泰一郎『代名詞』1955 年、6、 8 頁)。単数の聞き手をあえて複数形で呼ぶことで、間接的でぶしつけでない語感が得ら れることから一般に普及したのであろう。 A ③:he,she  表現対象の人を話し手や聞き手以外の人として表す人(ひと)関係詞(「三人称の人称 代名詞」)。  英語では一人称と二人称の人(I と you)は性別の認識はあっても表現しないが、三人 称の人は he,she で性別で呼び分ける。性別は一生変わらない属性なので多くの言語で人 を呼び分ける基準になっている。  参考として、三人称の関係詞が個人的な関係を表すことをまとめて図示しておく。 図 3 “we”の対象・認識・表現 図 4 “you”(単数)の対象・認識・表現

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A ③:they  対象が複数の場合の三人称の関係詞。人(ひと)関係詞の中では珍しく外来語起源(ス カンジナビア半島の古ノルド語からの借用)とされる(寺澤芳雄編『英語語源辞典』1997 年、 1427 頁)。 “人々”をさす we、you、they 人(ひと)関係詞(人称代名詞)の複数形は漠然と「人々」 を表すことがあるが、意味にはかなりの違いがある。we は自分を含めた複数の人であり、 you は聞き手である人々に自分の気持ちを伝えるときの表現であり、they は話し手や聞き 手からやや距離のある人の集まりたとえば管理者、政府、マスコミ、外国人、「世間」な どを指す。 -self 型の複合関係詞 対象がそれ自身と一致し他とは一致しない独自のものであること 図 6  “he”(“she”) の 対 象・ 認 識・ 表現 図 7  関係詞は話し手と対象の個人的な関係を表す

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をあらわす抽象名詞 -self(複数 -selves)と関係詞を複合させた複合関係詞(「再帰代名詞」)。 myself,ourselves,yourself,yourselves,himself,herself,itself,themselves. -self 型 の 関係詞は認識の対象と対象自身の一体的関係を表すので、一種の格表現である。人(ひと) 関係詞(人称代名詞)と it にこの形があり、「他でもなく」と強調したり意味を明確にす るために使う。Do it yourself.(自分でやってください。命令の対象=聞き手(you)を強調) The girl was amusing herself with a doll.(その子は人形で遊んでいた。たんに her だと他の 女の子のことかと誤解しかねない)History repeats itself.(歴史は繰り返す。たんに it だと 何を指すか不明)なお、不特定関係詞は対象に不特定な部分があるので一体性が認識しに くい。そのため、-self のかたちはない。 A ④:who  対象の人について不特定の部分があるという話し手の認識をあらわす人(ひと)関係詞。  who があらわす話し手との不特定な関係の内容はいくつかありうる。物音などを直接の 対象にして、それをたてた人がいるはずだがそれが誰であるか不特定である場合(Who’s it? 誰? 不審な物音をいぶかったり電話の声に向かって言う表現)、対象が人であること は特定しているが、人としての種類(I か you か he か she かなど)や名前が不特定である 場合(Who said so? 誰がそう言ったか)、対象の人としての種類は特定しているが詳しい 属性が不特定である場合(Who is he? 彼は誰なの? 名前や人間関係を聞く)、複数の人 がいてその中の誰であるかが不特定である場合(“Who is the captain?”“Bob is.”キャプテ ンは誰? ボブです)などである。

不特定関係詞と性・格・数 不特定関係詞は「どういうものか不特定」であることを言う ので、性別や格の認識がある場合でも表現しないし、所有代名詞の形もない。例外は who

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で、人称代名詞と同様、who/whose/whom の格変化をもつ。ただし who は不特定な人ゆえ 独自性を認めがたいので -self の形はもたない。物をあらわす不特定関係詞 who,what, which の数の区別(単数か複数か)は動詞の部分であらわす。Who are they? (あれは誰な の?)What are these? (これはなに?)Her clothes, which are all made in Paris, are beautiful. (彼女の服はどれもパリで作られたもので、美しい) 不特定関係詞がいろいろな品詞に使える理由 他の関係詞が話し手にとって特定した対象 との関係を表現するのに対して、不特定関係詞は対象の種類は特定しているがその詳細は 不特定であることを表現する。そこから、不特定部分をとりたてて質問する疑問代名(形 容・副)詞に使えるほか、関係代名(形容・副)詞(対象を不特定のものとしてとらえ直 す)、接続詞(詳しい説明が後続することを予告する)、感嘆詞(にわかには特定できない →説明しにくい強い感情を表す)などとして文中で使えるのである。 不特定関係詞と語順 不特定関係詞は文や節の最初に置き、後続部分で補足する。すなわ ち不特定関係詞は文全体の内容を支配する強い語彙であるから、be や do をはさんで一呼 吸おいてから主語を述べるという語順が文法化した。What is his name? (彼の名前は?) ただし、不特定関係詞じたいが主語になるときは肯定文の語順でよい。Who is coming? (誰 が来る予定ですか?)

不特定関係詞による間接疑問文 不特定関係詞が支配する節が文中に埋め込まれた「間 接疑問文」は、語順を肯定文と一致させることが文法化している。I don’t know where he lives.(彼がどこに住んでいるか知らない)これによって文全体を支配する不特定関係詞 と区別でき、if,till など他の接続詞と類似の役割であることも表現できる。

話し手と聞き手以外はすべて三人称関係 英語では話し手自身(一人称関係)でも聞き手 (二人称関係)でもないものはすべて三人称関係にある。したがって三人称関係にあるも

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のはきわめて多種多様にのぼることになる。この多様さ(話し手にとっての関係の違い) を表現するために、以下に述べる種々の関係詞が発達した。

-ever 型の複合関係詞 who をはじめ、不特定関係詞には why を除いて -ever を付加し た 複 合 形 が あ る。whoever,whosever,whomever,whatever,whichever,wherever, whenever,however. -ever は時点を普遍的に把握する抽象名詞で、「いつであろうと」と いった意味をもつ。人(ひと)関係詞が -self を付加して他にはない個別性を強調するの に対して、不特定関係詞は -ever を付加して「どの時点であろうとも」という普遍性を強 調する語彙である。Come whenever you like.(いつでも好きなときに来なさい)However tired you may be, you must do it.(どれほど疲れていても君はそうしなければならない)似 た意味でやや口語的な表現に no matter(いかに∼であろうと問題なく)を付した形がある。 no matter who,no matter which など。

おわりに

 本稿は関係詞のうち人(ひと)関係詞(人称代名詞)の部分だけを扱った。残りの部分 については他の機会に発表する予定である。 参考文献(五十音順) 安藤貞雄『現代英文法講義』開拓社、2005 年。 江川泰一郎『英文法シリーズ 代名詞』研究社、1955 年。 鈴木覺「関係詞論〈代名詞〉論の批判的検討」、横須賀壽子編『胸中にあり火の柱 三浦つとむ の遺したもの』明石書店、2002 年所収。 寺澤芳雄編『英語語源辞典』研究社、1997 年。 寺澤芳雄編『英語学要語辞典』研究社、2002 年。 時枝誠記『日本語文法 口語篇』岩波書店、1950 年。 松浪有ほか編著『大修館英語学事典』大修館書店、1983 年。 松本道弘『it がわかれば英語がわかる』光文社、2007 年。 宮川幸久・林龍次郎編『アルファ英文法』研究社、2010 年。 宮下眞二『英語はどう研究されてきたか』季節社、1980 年。 宮下眞二『英語文法批判 言語過程説による新英文法体系』日本翻訳家養成センター、1982 年。 綿貫陽ほか『改訂新版 ロイヤル英文法』旺文社、2000 年。 John Sinclair ほか編(吉田正治訳)『コリンズ コウビルド英文法』研究社、2009 年。

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On English Pronouns

Yoichi MIURA

Abstract

Speakers of English use pronouns to denote their recognition of personal and temporal relations between their object and themselves. The recognition has seven categories: person, material, place, time, manner, reason, and degree. Each category consists of one or a few pronouns, which in turn will be used in sentences as various parts of speech such as noun, adjective, adverb, interrogative, relative pronoun, relative adjective, relative adverb, interjection, and conjunction. The pronouns are indispensable in making English personal, real, and succinct.

図 8  they の対象・認識・表現

参照

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