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Jpn. J. Clin. Immunol., 36 (2) 77~85 (2013) 2013 The Japan Society for Clinical Immunology 77 特集 自己抗体総説抗 M3 ムスカリン作働性アセチルコリン受容体抗体とシェーグレン症候群坪井洋人, 飯塚麻菜,

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筑波大学医学医療系内科 (膠原病・リウマチ・アレルギー) 特集自己抗体 総 説

抗 M3 ムスカリン作働性アセチルコリン受容体抗体とシェーグレン症候群

坪 井 洋 人,飯 塚 麻 菜,浅 島 弘 充,住 田 孝 之

Anti-M3 muscarinic acetylcholine receptor antibodies and Sj äogren's syndrome

Hiroto TSUBOI, Mana IIZUKA, Hiromitsu ASASHIMAand Takayuki SUMIDA

Department of Internal Medicine, Faculty of Medicine, University of Tsukuba (Accepted February 4, 2013)

summary

Sj äogren's syndrome (SS) is an autoimmune disease that aŠects exocrine glands including salivary and lacrimal glands. It is characterized by lymphocytic inˆltration into exocrine glands, leading to dry mouth and eyes. A number of auto-antibodies are detected in patients with SS. However, no SS-speciˆc pathologic auto-antibodies have yet been found in this condition. M3 muscarinic acetylcholine receptor(M3R) plays a crucial role in the secretion of saliva. It is reported that some patients with SS carried inhibitory auto-antibodies against M3R. To clarify the epitopes and func-tion of anti-M3R antibodies in SS, we examined antibodies to the extracellular domains (N terminal region, the ˆrst, second, and third extracellular loop) of M3R by ELISA using synthesized peptide antigens encoding these domains in 42 SS and 42 healthy controls(HC). Titers and positivity of anti-M3R antibodies to every extracellular domain of M3R were signiˆcantly higher in SS than in HC. Our results indicated the presence of several B cell epitopes on M3R in SS. Moreover, we analyzed the functions of anti-M3R antibodies by Ca2+-in‰ux assays using a human salivary gland

(HSG) cell line. The functional analysis indicated that the in‰uence of such anti-M3R antibodies on Ca2+-in‰ux in

HSG cells might diŠer based on the epitopes to which they bind. Interestingly, both IgG from anti-M3R antibodies to the second extracellular loop positive SS and anti-M3R monoclonal antibodies against the second extracellular loop of M3R, which we generated, suppressed Ca2+-in‰ux in the HSG cells induced by cevimeline stimulation. These

observa-tions suggested that auto-antibodies against the second extracellular loop of M3R could be involved in salivary dys-function in patients with SS. These results indicated the presence of several B cell epitopes on M3R in SS and the in-‰uence of anti-M3R antibodies on salivary secretion might diŠer based on these epitopes. Thus, anti-M3R antibodies could be not only potential pathologic auto-antibodies, but also new diagnostic makers and therapeutic targets for SS.

Key words―Sj äogren's syndrome; M3 muscarinic acetylcholine receptor; auto-antibodies

抄 録 シェーグレン症候群(SS)は唾液腺炎・涙腺炎を主体とし,様々な自己抗体の出現がみられる自己免疫疾患であ る.SS では,種々の自己抗体が検出されるが,SS に特異的な病因抗体はいまだ同定されていない.外分泌腺に発 現し,腺分泌に重要な役割を果たす M3 ムスカリン作働性アセチルコリン受容体(M3R)に対する自己抗体(抗 M3R抗体)は,SS において病因となる自己抗体の有力な候補であると考えられ,近年注目されている.我々のグ ループの研究で,M3R のすべての細胞外領域(N 末端領域,第 1,第 2,第 3 細胞外ループ)に対して,抗 M3R 抗体の抗体価および陽性率は健常人と比較して SS 患者で有意に高値であった.また SS 患者において,抗 M3R 抗 体は M3R の細胞外領域に複数のエピトープを有することが明らかとなった.さらにヒト唾液腺(HSG)上皮細胞 株を用いて,塩酸セビメリン刺激後の細胞内 Ca 濃度上昇に対する抗 M3R 抗体の影響を解析した.抗 M3R 抗体の 細胞内 Ca 濃度上昇に対する影響は,抗 M3R 抗体のエピトープにより異なる可能性が示唆された.興味深いこと に,M3R 第 2 細胞外ループに対する抗 M3R 抗体陽性 SS 患者の IgG と,我々が作成した M3R 第 2 細胞外ループ に対するモノクローナル抗体は,ともに HSG 細胞内 Ca 濃度上昇を抑制した.M3R 第 2 細胞外ループに対する抗 M3R抗体は,唾液分泌低下に関与する可能性が示唆された. 以上の結果より,抗 M3R 抗体は複数のエピトープを有し,唾液分泌への影響はエピトープにより異なる可能性 が示された.抗 M3R 抗体は SS における病因抗体としての可能性のほか,診断マーカーや治療ターゲットとなる 可能性も期待される.

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図 1 ムスカリン作働性アセチルコリン受容体の構造 4 つの細胞外領域と 7 つの膜貫通領域を有する.5 つのサブタイプ(M1RM5R)が存在し,中枢神経系,外分泌腺,平滑筋, 心筋等に発現する.M3R は外分泌腺や平滑筋に発現し,分泌や収縮に重要な役割を果たす.4 つの細胞外領域のうち,第 2 細胞 外ループはアゴニストによる受容体の活性化に重要と報告されている. は じ め に シェーグレン症候群(Sj äogren's syndrome ; SS) は唾液腺炎・涙腺炎を主体とし,様々な自己抗体の 出現がみられる自己免疫疾患である.SS は他の 膠原病の合併がみられない一次性 SS と,関節リウ マチ(rheumatoid arthritis ; RA)や SLE(systemic lupus erythematosus ; SLE)などの膠原病を合併す る二次性 SS とに大別される.本稿では,SS におい て,近年注目されている抗 M3 ムスカリン作働性ア セチルコリン受容体(M3 muscarinic acetylcholine receptor ; M3R)抗体の検出と機能解析について, 我々のグループでの研究結果を中心に解説し,抗 M3R 抗体の病態的意義について考察する. I. SS と抗 M3R 抗体 SSは前述のように唾液腺や涙腺といった外分泌 腺を障害する自己免疫疾患である.SS では外分泌 腺へのリンパ球浸潤に加えて,抗 SSA 抗体,抗 SSB 抗体,リウマトイド因子(Rheumatoid fac-tor; RF),抗核抗体(Anti-nuclear antibody; ANA) といった種々の自己抗体が検出されるが,SS に特 異的な病因抗体はいまだ同定されていない.近年, SS 患者において,外分泌腺に発現し,腺分泌に重 要な役割を果たす M3R に対する自己抗体の存在が 報告されている1,2).我々のグループの先行研究で は,M3R の第 2 細胞外ループの合成ペプチドを用 いた enzyme-linked immunosorbent assay(ELISA)

により,一次性 SS・二次性 SS3),および若年発症 SS4)において抗 M3R 抗体の存在を明らかにしてい る.現在,抗 M3R 抗体は SS の病態への関与,診 断マーカー,治療ターゲットの可能性から注目され ている2,5) II. ムスカリン作働性アセチルコリン受容体の構 造と機能 ムスカリン作働性アセチルコリン受容体は 4 つの 細胞外領域(N 末端領域,第 1,第 2,第 3 細胞外 ループ)と 7 つの膜貫通領域を有する,G タンパ ク共役型の受容体である(図 1)5).5 つのサブタイ プ(M1RM5R)が存在し,中枢神経系,外分泌腺, 平滑筋,心筋等に発現する.M3R は外分泌腺や平 滑筋に発現し,分泌や収縮に重要な役割を果たす. したがって,M3R は SS の主たる標的臓器である 唾液腺・涙腺にも高発現しており,抗 M3R 抗体は SSにおいて病因となる自己抗体の有力な候補であ ると考えられる. M3Rの内因性アゴニストであるアセチルコリン が唾液腺細胞上の M3R に結合すると,M3R が活 性化される.アゴニストによる M3R の活性化には, 4つの細胞外領域のうち,第 2 細胞外ループが重要 と報告されている6).M3R の活性化は,G タンパ ク,ホスホリパーゼ C, inositol 1, 4, 5-trisphosphate (IP3)および IP3 受容体を介して,細胞内 Ca 濃度 上昇を引き起こす.細胞内 Ca 濃度上昇により,管 腔側のクロールチャネルが活性化され,唾液分泌が 生じる1) III. SSにおける抗 M3R 抗体のエピトープと機能 解析 抗 M3R 抗体は,我々が行った第 2 細胞外ループ の合成ペプチドを用いた ELISA3,4)の他にも,種々

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表 1 SS 患者における抗 M3R 抗体の検出方法と機能解析 検出方法 検 体 細胞・抗原 文 献 機能解析 収縮抑制 SS 患者 IgG 平滑筋細胞 (7)(8) 細胞内 Ca 濃度上昇抑制 SS 患者 IgG 唾液腺細胞 (9)(11) M3R の細胞内在化誘導 SS 患者 IgG 唾液腺細胞 (12) 免疫学的方法 免疫蛍光法 SS 患者 IgG ラット涙腺組織 (13)

フローサイトメトリー法 SS 患者血清 M3R transfected cell line (14)

ELISA 法 SS 患者血清 リコンビナント M3R 蛋白 M3R 合成ペプチド(第 2 細胞外領域) 環状化 M3R 合成ペプチド(第 2 細胞外領域) (15) (3)(4)(15) (16) (文献 5 より引用改変) 図 2 SS 患者と健常人における抗 M3R 抗体価 SS 患者 42 例(一次性 15 例,二次性 27 例),健常人 42 例における,M3R ペプチド特異的吸光度(Δ OD)を示した.健常人 における平均値+2SD を陽性と陰性のカットオフレベルとした(グレイのライン).すべての細胞外領域に対する抗 M3R 抗体の 抗体価は健常人と比較して,SS 患者で有意に高値であった(P<0.05, Mann-Whitney's U-test). SSシェーグレン症候群,HC健常人コントロール,N terminalN 末端領域,1st第 1 細胞外ループ,2nd第 2 細胞外 ループ,3rd第 3 細胞外ループ の方法で検出が行われている(表 1)2,5).機能解析 による方法として,M3R を介する平滑筋細胞の収 縮や唾液腺細胞内 Ca 濃度上昇に対する影響を検討 した方法7~11),M3R の唾液腺細胞内在化の誘導を 検討した方法12)が報告されている.また免疫学的方 法として,涙腺組織を用いた免疫蛍光法13)や M3R 発現細胞を用いたフローサイトメトリー法14),およ びリコンビナント M3R タンパク15)や M3R 合成ペ プチドを抗原とした ELISA3,4,15,16)などの方法がこ れまでに報告されている.機能解析の結果からは, SS 患者の抗 M3R 抗体は,M3R を介する平滑筋収 縮や唾液腺細胞内 Ca 濃度上昇を抑制する可能性が 示されている7~11) M3R の B 細胞エピトープに関しては,前述のよ うに M3R の活性化に重要な第 2 細胞外ループが抗 M3R 抗体のエピトープの候補として注目されてき たが,最近第 3 細胞外ループが機能的エピトープで あるとする報告もなされている1,2,11).しかし,抗 M3R 抗体の正確なエピトープおよび機能との関連 はいまだ明らかにされていない.

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図 3 SS 患者と健常人における抗 M3R 抗体の陽性率

健常人における平均値+2SD をカットオフレベルとしたときの抗体陽性率を示した.すべての細胞外領域に対して,抗 M3R 抗体の陽性率は健常人と比較して,SS 患者で有意に高値であった(P<0.05, Fisher's exact probability test).

SSシェーグレン症候群,HC健常人コントロール,N terminalN 末端領域,1st第 1 細胞外ループ,2nd第 2 細胞外 ループ,3rd第 3 細胞外ループ 表 2 SS 患者における抗 M3R 抗体のエピトープ 抗 M3R 抗体の エピトープ数 抗 M3R 抗体のエピトープ N 1st 2nd 3rd 症例数 1 + - - - 1 例 - + - - 2 例 - - + - 2 例 - - - + 1 例 2 + + - - 1 例 + - + - 1 例 - + + - 2 例 - - + + 2 例 3 + - + + 1 例 - + + + 1 例 4 + + + + 14 例 合計症例数 28 例 (文献 17 より引用改変) + ; positive for anti-M3R antibodies, - ; negative for anti-M3R an-tibodies そこで,我々のグループでは,SS 患者において 抗 M3R 抗体のエピトープと機能を明らかにするた め,SS 患者 42 例,健常人 42 例の血清を用いて, ヒト M3R の 4 つの細胞外領域(N 末端領域,第 1, 第 2,第 3 細胞外ループ)の合成ペプチドを抗原と した ELISA を行った.さらにヒト唾液腺(human salivary gland; HSG)上皮細胞株における,M3R アゴニスト(塩酸セビメリン)刺激後の細胞内 Ca 濃度上昇に対する抗 M3R 抗体の影響を Ca 蛍光プ ローブである Fluo3 を用いて検討し,興味深い結 果を得た17) ELISAでは ,従 来報 告さ れて いた 第 2 細胞 外 ループ以外の細胞外領域(N 末端領域,第 1,第 3 細胞外ループ)も抗 M3R 抗体のエピトープとなる ことが示された.すべての細胞外領域に対して,抗 M3R 抗体の抗体価は健常人コントロールと比較し て , SS 患 者 で 有 意 に 高 値 で あ っ た ( P < 0.05, Mann-Whitney's U-test)(図 2).健常人における平 均値+2SD をカットオフレベルとしたときの抗体 陽性率は,N 末端領域は SS 患者 42.9(18/42 例),健常人 4.8(2/42 例),第 1 細胞外ループは それぞれ 47.6(20/42 例),7.1(3/42 例),第 2細胞外ループは 54.8(23/42 例),2.4(1/42 例),第 3 細胞外ループは 45.2(19/42 例),2.4 (1/42 例)であり,すべての細胞外領域に対し て,抗 M3R 抗体の陽性率も健常人と比較して,SS 患者で有意に高値であった(P<0.05, Fisher's exact probability test)( 図 3 ). SS 患 者 42 例 中 , 28 例 (66.7)で少なくとも 1 つの細胞外領域に対する 抗 M3R 抗体が認められ,多くの SS 患者において, M3R の複数の細胞外領域を認識する抗 M3R 抗体 が存在することが明らかとなった.抗 M3R 抗体陽 性 SS28 例中 14 例(50.0)では,M3R のすべて の細胞外領域に対する抗 M3R 抗体が検出された (表 2)17) HSG 細胞株を用いた抗 M3R 抗体の機能解析で は,第 2 細胞外ループに対する抗 M3R 抗体陽性 SS の IgG(N=2)は,健常人の IgG(N=1)と比 較して,塩酸セビメリン刺激後の細胞内 Ca 濃度上 昇を有意に抑制した(P<0.05, Mann-Whitney's U-test).一方 N 末端および第 1 細胞外ループに対す る抗 M3R 抗体陽性 SS の IgG(それぞれ N=1)は Ca 濃度上昇を有意に増強した(P<0.05,

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Mann-図 4 抗 M3R 抗体の塩酸セビメリン刺激後の Ca 濃度上昇に対する影響 HSG 細胞株を蛍光用プレートで 48 時間培養後,抗 M3R 抗体陽性 SS,陰性 SS,および健常人の血清より分離した IgG(1.0 mg/ml)を加え,さらに 12 時間培養した.Ca 蛍光プローブ(Fluo3)を添加後,M3R アゴニストである塩酸セビメリン(20 mM)で刺激し,細胞内 Ca 濃度上昇を蛍光プレートリーダーで測定した.測定は triplicate で行い,同様の実験を 3 回行った. 図には代表的な Ca 濃度変化を示した. 第 2 細胞外ループに対する抗 M3R 抗体陽性 SS の IgG は,健常人の IgG と比較して,塩酸セビメリン刺激後の細胞内 Ca 濃度 上昇を抑制した.一方 N 末端および第 1 細胞外ループに対する抗 M3R 抗体陽性 SS の IgG は Ca 濃度上昇を増強した.第 3 細胞 外ループに対する抗 M3R 抗体陽性 SS および抗 M3R 抗体陰性 SS の IgG は Ca 濃度上昇に影響しなかった.

IgG-IgG 添加なし,HC健常人の IgG を添加,M3RSS抗 M3R 抗体陰性 SS の IgG を添加,N+SSN 末端領域に対す る抗 M3R 抗体陽性 SS の IgG を添加,1st+SS第 1 細胞外ループに対する抗 M3R 抗体陽性 SS の IgG を添加,2nd+SS第 2 細胞外ループに対する抗 M3R 抗体陽性 SS の IgG を添加,3rd+SS第 3 細胞外ループに対する抗 M3R 抗体陽性 SS の IgG を添 加 図 5 抗 M3R 抗体の塩酸セビメリン刺激後の Ca 濃度上昇に対する影響はエピトープにより異なる 図 4 と同様の方法で,塩酸セビメリン刺激後の Ca 濃度のピーク値と刺激前の Ca 濃度の差(最大変化量)を測定した.それぞ れの最大変化量を,健常人の IgG を添加した際の最大変化量に対する比率で表示した.測定は triplicate,同様の実験を 3 回行 い,平均値を算出した. 第 2 細胞外ループに対する抗 M3R 抗体陽性 SS の IgG(N=2)は,健常人の IgG(N=1)と比較して,塩酸セビメリン刺激 後の細胞内 Ca 濃度上昇を有意に抑制した(P<0.05, Mann-Whitney's U-test).N 末端および第 1 細胞外ループに対する抗 M3R 抗体陽性 SS の IgG(それぞれ N=1)は Ca 濃度上昇を有意に増強した(P<0.05, Mann-Whitney's U-test).

Whitney's U-test).第 3 細胞外ループに対する抗 M3R抗 体 陽 性 SS お よ び 抗 M3R 抗 体 陰 性 SS の IgG(それぞれ N=1)は Ca 濃度上昇に影響しなか った(図 4, 5)17).抗 M3R 抗体の細胞内 Ca 濃度上 昇に対する影響は,エピトープにより異なる可能性 が示された17) IV. 抗 M3R モノクローナル抗体を用いた機能解析 前述のように第 2 細胞外ループに対する抗 M3R 抗体が,塩酸セビメリン刺激後の HSG 細胞内 Ca

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図 6 M3R の第 2 細胞外ループに対するモノクローナル抗 体(S066,S118)の M3R タンパク特異的な結合 M3R 第 2 細胞外ループの合成ペプチドを免疫した M3R ノックアウトマウスの脾細胞を骨髄腫細胞と融合させ, M3R の第 2 細胞外ループに対するモノクローナル抗体を産 生するクローン(S066,S118)を誘導した.Western ブロッ トでは,クローンから産生されたモノクローナル抗体は, M3R タンパクに特異的に結合した.一方で,コントロール タンパクである TRX には結合しなかった. 図 7 M3R 第 2 細胞外ループに対するモノクローナル抗体の塩酸セビメリン刺激後の Ca 濃度上昇に対する影響 クローンから産生されたモノクローナル抗体(S066, S118)を精製し,図 4 と同様の方法で HSG 細胞内 Ca 濃度上昇に対する 影響を解析した.

グラフは Ca 濃度変化,ヒストグラムは図 5 同様に,Ca 濃度の最大変化量を,Isotype control を添加した際の最大変化量に対 する比率で表示した.測定は triplicate,同様の実験を 3 回行い,平均値を算出した.

M3R 第 2 細胞外ループに対するモノクローナル抗体(S066,S118)は,塩酸セビメリン刺激後の細胞内 Ca 濃度上昇を,Iso-type control と比較して有意に抑制した(P<0.05, Mann-Whitney's U-test).

濃度上昇を抑制することを,より直接的に証明する ため,我々は M3R の第 2 細胞外ループに対するモ ノクローナル抗体を作成し,Ca 濃度上昇に対する 影響を検討した. M3R第 2 細胞外ループの合成ペプチドを免疫し た M3R ノックアウトマウスの脾細胞を骨髄腫細胞 と融合させ,M3R の第 2 細胞外ループに対するモ ノクローナル抗体を産生するクローン(S066, S118) を誘導した.クローンから産生されたモノクローナ ル抗体が,M3R タンパクに特異的に結合すること を Western ブロットで確認した(図 6)18).クロー ンから産生されたモノクローナル抗体を精製し, HSG 細胞内 Ca 濃度上昇に対する影響を解析した. M3R第 2 細胞外ループに対するモノクローナル抗 体(S066, S118)は,塩酸セビメリン刺激後の細胞 内 Ca 濃度上昇を Isotype control と比較して有意に 抑 制 し た ( P < 0.05, Mann-Whitney's U-test )( 図 7)18).前述の第 2 細胞外ループに対する抗 M3R 抗 体陽性 SS の IgG による機能解析の結果と一致した. V. 抗 M3R 抗体と SS 患者の臨床像との関連 抗 M3R 抗体陽性の SS 患者では,白血球減少の 頻度が有意に高いとする報告があるが19),機序は不 明である.M3R が発現している唾液腺・涙腺およ び平滑筋の機能障害(唾液分泌低下,涙液分泌低 下,膀胱・腸管機能障害)と抗 M3R 抗体との関連 については,結論は得られていない.我々のグルー プの検討では,抗 M3R 抗体陽性 SS(28 例)と陰 性 SS(14 例)を比較すると,抗 M3R 抗体陽性 SS は罹病期間が有意に短く,抗 SSA 抗体陽性率およ び血清 IgG が有意に高値であった.唾液分泌・涙 液分泌・口唇唾液腺生検での病理組織像を含めて, 他の臨床像には有意な差はみられなかった(表 3)17) VI. SSの病態における抗 M3R 抗体の位置付け Drachman は病因となる自己抗体が満たすべき 5 つの条件を提唱している20)

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表 3 抗 M3R 抗体陽性 SS と陰性 SS の比較 抗 M3R 抗体陽性 SS N=28 抗 M3R 抗体陰性 SSN=14 P 値 1 次性/2 次性(例) 12/16 3/11 N.S 年齢(歳) 51.4±12.1 56.4±12.1 N.S 罹病期間(年) 7.3±7.6 15.5±11.1 p<0.05 抗 SS-A 抗体陽性率() 92.9 57.1 p<0.05 抗 SS-B 抗体陽性率() 21.4 14.3 N.S リウマトイド因子陽性率() 46.4 50.0 N.S IgG (mg/dl) 2013±767 1427±515 p<0.05 1 次性 SS における腺外病変合併率() 83.3 66.7 N.S シルマーテスト(mm/5 min) 4.4±6.2 4.2±5.0 N.S ガムテスト(ml/10 min) 8.3±7.8 8.8±5.1 N.S 口唇唾液腺生検(Greenspan 分類) 3.1±0.5 3.0±0.8 N.S

N.S ; not statistically signiˆcant (文献 17 より引用改変)

◯ 患者で対象となる自己抗体が検出される ◯ 自己抗体がターゲットとなる抗原と反応する ◯ 自己抗体の投与により病態が再現される ◯ 対応する抗原の免疫により疾患モデルが発現 される ◯ 自己抗体の力価低下により,病態が改善する この 5 つの項目に関して,SS における抗 M3R 抗体の現時点での知見について考察する. ◯ 患者で対象となる自己抗体が検出される 前述のように機能解析および免疫学的方法により, SS 患者において抗 M3R 抗体が検出されている. ◯ 自己抗体がターゲットとなる抗原と反応する 我々のグループでは,従来注目されていた M3R の第 2 細胞外ループに加えて,N 末端領域,第 1, 第 3 細胞外ループもエピトープとなることを示した. ◯ 自己抗体の投与により病態が再現される SS患者の IgG をマウスに投与すると,マウスの 唾液分泌能が低下し,さらに SS 患者 IgG は,マウ ス唾液腺のムスカリン受容体へのアゴニストの結合 を阻害したとの報告がある21) ◯ 対応する抗原の免疫により疾患モデルが発現 される 我々のグループでは,M3R に対する免疫応答に よる SS 類似の唾液腺炎モデルマウスを樹立した. M3Rノックアウトマウスをマウス M3R の細胞外 領域(N 末端領域,第 1,第 2,第 3 細胞外ループ) の合成ペプチドで免疫し,M3R に対する高い免疫 応答を誘導した.M3R ペプチドを免疫した M3R ノックアウトマウスの脾細胞を,Rag1 ノックアウ トマウスに移入したところ,唾液分泌能の低下,抗 M3R抗体の出現,唾液腺への CD4 陽性 T 細胞優 位の細胞浸潤が観察され,SS に類似した唾液腺炎 モデルマウスが誘導された22) ◯ 自己抗体の力価低下により,病態が改善する 膀胱・消化管症状を有する SS 患者にガンマグロ ブリン投与(IVIG)を行ったところ,抗 M3R 抗体 が低下し,臨床症状も改善したとの報告がある23) 以上の結果から,現時点では SS において,抗 M3R 抗体は病因と関連する自己抗体の有力な候補 であると考えられる.今後さらなるデータの集積が 望まれる. VII. お わ り に SS において,近年注目されている抗 M3R 抗体 の病態的意義について解説した.我々の研究結果か ら,抗 M3R 抗体は複数のエピトープを有し,M3R を介する唾液分泌に影響する可能性が示唆された. 機能解析では,唾液分泌への影響は,抗 M3R 抗体 のエピトープにより異なる可能性が示された.興味 深いことに,M3R 第 2 細胞外ループに対する抗 M3R 抗体陽性 SS 患者の IgG と,我々が作成した M3R 第 2 細胞外ループに対するモノクローナル抗 体は,ともに HSG 細胞内 Ca 濃度上昇を抑制した. M3R 第 2 細胞外ループに対する抗 M3R 抗体は, 唾液分泌低下に関与する可能性が示唆された. 以上の結果から,SS での唾液分泌低下は,リン パ球浸潤による腺破壊に加えて,抗 M3R 抗体も影 響する可能性が考えられる.今後,抗 M3R 抗体の 機能に関して,より多数例での解析を行い,さらに 臨床症状との関連や疾患特異性も明らかにしていく

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必要がある.抗 M3R 抗体は SS における病因抗体 としての可能性のほか,診断マーカーや治療ターゲ ットとなる可能性も期待される.

文 献

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図 1 ムスカリン作働性アセチルコリン受容体の構造 4 つの細胞外領域と 7 つの膜貫通領域を有する.5 つのサブタイプ(M1R M5R)が存在し,中枢神経系,外分泌腺,平滑筋, 心筋等に発現する.M3R は外分泌腺や平滑筋に発現し,分泌や収縮に重要な役割を果たす.4 つの細胞外領域のうち,第 2 細胞 外ループはアゴニストによる受容体の活性化に重要と報告されている.は じ め にシェーグレン症候群(Sj äogren's syndrome ; SS)は唾液腺炎・涙腺炎を主体とし,様々な自己抗体の出現がみ
表 1 SS 患者における抗 M3R 抗体の検出方法と機能解析 検出方法 検 体 細胞・抗原 文 献 機能解析 収縮抑制 SS 患者 IgG 平滑筋細胞 (7)(8) 細胞内 Ca 濃度上昇抑制 SS 患者 IgG 唾液腺細胞 (9)(11) M3R の細胞内在化誘導 SS 患者 IgG 唾液腺細胞 (12) 免疫学的方法 免疫蛍光法 SS 患者 IgG ラット涙腺組織 (13)
図 3 SS 患者と健常人における抗 M3R 抗体の陽性率
図 4 抗 M3R 抗体の塩酸セビメリン刺激後の Ca 濃度上昇に対する影響 HSG 細胞株を蛍光用プレートで 48 時間培養後,抗 M3R 抗体陽性 SS,陰性 SS,および健常人の血清より分離した IgG(1.0 mg/ml)を加え,さらに 12 時間培養した.Ca 蛍光プローブ(Fluo3)を添加後,M3R アゴニストである塩酸セビメリン(20 mM)で刺激し,細胞内 Ca 濃度上昇を蛍光プレートリーダーで測定した.測定は triplicate で行い,同様の実験を 3 回行った. 図には代表的な C
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