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「蘇生を賭して」

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Academic year: 2021

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児 童 学 研 究 第34号 2004

巻 頭 畠

「蘇生を賭して」

土 田 隆 生 申

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近頃,子ども達が木を描くのを見て驚いた。 桜の木の幹をクレヨンの黒で描いていたからで ある。木の幹,特に桜は昔からその木肌の美し き,すなわちエンジがかった艶のある茶色が喜 ばれて,杖にされたり,民芸調の小箱等にされ てきた。それをなぜ黒色になのかと,子ども達 の視線の先を見ると,なんと,桜の幹は真っ黒 fごった。子ども達はただリアルに表現をしてい ただけである。 今,桜の幹は黒色なのである。桜の木だけで なく,見渡せば周りの木の幹が,今どれもみな 黒っぽいのに気づく。酸性雨の影響である。酸 で焼かれて黒ずんでいるのである。 酸性雨については日本でも,森や湖の酸性化, コンクリートツララ,小学校では朝顔の花の斑 点の観察で教える等,繰り返し警告されてはい るものの,他の環境問題のようには声高には 成っていない。勿論この木の幹の色に関しては, 誰もまだ言及はしていない。 我々が子どもの頃や若者だった時に見た茶や ベージュの木の色は,いつの間にかその元の色 を失ってきている。そのことを改めて指摘する と,皆「そう言えばそうだ」と驚く。人々は少 しずつ変わっていく変化には気付かないのであ る。人間は,そのように自然の美しさが奪われ ていくのを日々目にしながらも,認識にいたる ことなしかつての自然の美しさを少しずつ忘 れ去ってきている。それが現代人の現実である。 しかし現代の子ども達にとっては,木の肌の色 *京都女子大学家政学部教授(児童表現学) Takao Tsuchida は最初から暗灰色であったり,黒色なのである。 美しい木の肌の色が初めから無いというのが, 彼等の悲しい現実なのである。 木の色をもっと注意深く観察オ-ると,小枝は 太幹より若いのでその色は当然明るいはずが, 逆に幹より暗いのである。逆転しているのであ る。おそらく,小枝は若く柔らかい分,酸性雨 に弱く,より激しくその酸で焼けるからと思わ れる。又,上方や外側にある小枝は降る雨に曝 される度合いが高いことも関係してのことだろ う。上へ先へ行くほど今の木の色は暗く黒いの である。 環境問題が心配なのは,今よりももっと将来 が危ういことにある。深刻に日々進行していく 環境悪化で,大人よりも弱い子ども達が,そし てその子ども達の次世代がどうなってしまうの かと言うことである。何か,酸性雨で黒く成っ ていく小枝が,今の子ども達の運命を暗示して いるようで恐怖すら感じる。我々は我々の世代 の欲望のために,子ども達の現在から明るさを 奪い,その未来さえも暗黒の色で塗り潰そうと してはいないだろうか。 今,世界はひたすら,快適性と賛沢を追い求 めるという「不可逆の過程」から生じるエゴイ ズム体制,すなわち「力の文明」を中心として 動いている。その「力の文明」は強力である。 今後もその力は不可逆的に強大と成って世界を 動かそうとしていくことだろう。その世界の中 では,力による争いと環境破壊が決して絶える ことはない。 「希望を持たず,私たちは欲望の中に生きて いる。」と言ったのはダンテである。希望(ホー

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1-「蘇生を賭して」 プ)のない欲望だけの満足で、果たして人は生き られるのかと,ダンテはこの短い言葉の中で鋭 〈問いかけている。 「 力 の 文 明 」 に 対 置 で き る の は , 人 の 温 も り のある「教育」だけである。人間の生き方を全 発達的に問い直す「教育」だけである。一人一 人が大切にされる教育を受けた子ども達が,人 間らしく生きることとはどういうことかを正し く感じながら育ってくれれば世界は未来へと続 いていくのである。そのための「教育」が今こ そ求められるのである。子ども達という小枝の 蘇生を賭してである。 益々,混迷を深めるこの現代社会状況に対応 すべく,本年

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月より,今までの家政学部児童 学科と文学部教育学科とが一つに成って,新た に「発達教育学部」が発足する。人開発達を, 別々であった児童学的視点と教育学的視点から, 総合的に捉え直し,より広くより深く探求する 中てコ子ども達が「人間として心豊かな生き方」 を考え,その実現に向けての調和的・総合的な 「 生 き る 力 」 を つ け て い く た め の 適 切 な 支 援 の できる人材育成を目指してである。 この新学部発足に伴い,長年続けられる中で 多大な研究業績を重ね,広く子育て社会に貢献 の足跡を残し,常に我々の学問的研究精神の支 柱と成ってきたこの「児童学研究」も,新たに 生れる「発達教育学紀要」に参加することによ り,本34号をもって発展的に閉刊することと 成った。 今日まで,この「児童学研究」を育て,お世 話下された方々,そして寄稿や愛読いただいた 多くの皆様に感謝レ心より御礼申し上げると共 に,新たなステージへの参加を切望いたします。 2

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