患者さま用冊子
手術を受けられる患者さまへ
腰椎椎間板ヘルニア
~手術前後のリハビリテーション~
【注意事項】
この冊子は、運動器ケア しまだ病院をご利用する患者さまが、担当の医師・療法士の
指導のもとで、個別に運動療法を実施するための補足資料です。
症状を悪化させることがありますので、自己判断でのご使用をご遠慮ください。
1.はじめに
2
2.腰まわりの構造
3
3.腰椎椎間板ヘルニアとは
5
4.再発について
6
もくじ
5.コルセットについて
7
6.姿勢・動作について
8
7.入院中のリハビリについて
11
8.おわりに
17
腰椎椎間板ヘルニアの手術後、安全に、
できるだけ早く日常生活に復帰し、その後再発を予防するためには
時期ごとの症状に応じたリハビリテーションが必要になります。
当院では、入院中はもちろんのこと、
外来でも継続してリハビリテーションによるトレーニングを
実施します。リハビリテーションの内容や注意点を理解して
いただき、より安全に正しく実施していただくために、
この冊子をご活用ください
1.はじめに
この冊子をご活用ください。
ご質問やご相談などがございましたら
お気軽にリハビリテーション課スタッフまでお尋ねください。
スタッフ一同、全力で支援します。
また、入院中はこの冊子を使用しますので、
リハビリの時間にお持ちください。
スタッフ一同より
なぜヘルニアが起こるのか、それを知るために、まず腰まわりの構造について説明します。
1)腰のまわりの骨、関節
腰まわりは、大きくわけると、主に5つの腰椎(背骨)、骨盤、股関節から構成されています。 ≪正面≫ ≪左側面≫ ひとつひとつの腰椎は、椎間関節(ついかんかんせつ)という関節で連結しています。 また椎間関節の間のトンネル(椎間孔:ついかんこう)からは、神経の枝が出ています。 (神経については後ほど説明します。)2)椎間板
椎間板は腰椎と腰椎の間にあり、クッションのような役割を果たしています。 椎間板の中身は水分を多く含んだ、ゼリー状の髄核というものが中心にあり、そのまわりを2.腰まわりの構造
股関節 腰椎 腰椎 骨盤(前)
(後)
椎間板の中身は水分を多く含んだ、ゼリ 状の髄核というものが中心にあり、そのまわりを 線維輪というものが、切り株の年輪のように覆っています。 また、椎間板は腰椎の動きに伴い形を変えます。 髄核 【主な椎間板のはたらき】 ①上下の腰椎をつなぐ 線維輪 ②体重などによる負荷の緩衝作用(クッション) ③腰椎の動きを出す ≪椎間板を上からみた図≫ 左の図を見て下さい。 腰の動きにより(①)、椎間板の前が潰れるような ストレスを受ける(②)と椎間板が後ろへ 押し出されます(③)。 このように押し出された椎間板により、背骨の後ろに 通っている神経に影響を与えることで症状が出現する のがヘルニアです。 ≪腰椎の模型を横から見た図(左)と、腰を曲げた際の腰まわりのそれぞれの動きを表した図(右 2ページ参照 腰が曲がったとき 椎間板 ③椎間板 の動き ①腰の 動き ②椎間板 への ストレス 神経 腰椎①
椎間板②
③
3)腰のまわりの神経
首~腰の背骨の後ろ側にはトンネルがあり、そこには脊髄と呼ばれる神経の幹が 通っています。さらに椎間孔(ついかんこう)という左右のトンネルからは、 神経根と呼ばれる脊髄から枝分かれした神経が通っています。 髄核 腰椎 線維輪 神経の枝(神経根) 神経の幹(脊髄) ≪腰椎の模型を横から見た図(左)と、椎間板とその周囲を上から見た図(右)≫ ヘルニアによって、神経根のみが圧迫される場合もあれば、脊髄まで圧迫を受ける場合もありま 神経根が圧迫されると、その神経の支配している範囲に下半身の痛みが出やすく、 脊髄を圧迫されると、腰全体の痛みや、複数の神経の範囲に痛みが出やすいなどの 特徴があります。 神経の幹(脊髄) 神経の枝 (神経根) 椎間関節(前)
(後)
特徴があります。4)インナーマッスル(腰のまわり、奥深くにある筋肉の総称)
インナーマッスルとは、腰を支えるための筋肉で、コルセットと同じようなはたらきがあります この筋肉は、腰椎がグラグラ動くのを防ぎ、姿勢をきれいに保つことを助けます。 横隔膜 脊柱 お腹の空間(腹腔:臓器がたくさんある場所)を 横隔膜(おうかくまく)…天井 腹横筋(ふくおうきん)…胴周り 多裂筋(たれつきん)…後ろ側 骨盤底筋(こつばんていきん)…底 という筋肉が支えています。 腹横筋 この筋肉を総称して 多裂筋 『インナーマッスル』といいます。(右図) これらの筋肉がバランスよくはたらくことで 腰椎が安定します。 骨盤 どれかひとつでもはたらきが悪くなると、 腰椎は安定しません。 骨盤底筋 ≪左側面≫腰椎椎間板ヘルニアは、本来の位置から飛び出た椎間板の髄核・または線維輪の一部が 神経にあたり、刺激をあたえることで症状が現れます。 加齢に伴う椎間板の劣化が原因と言われていますが、日常生活のあらゆる場面での姿勢や 動作における、積み重なる様々な負担が大きな原因と考えられます。 ① 髄核 ②
3.椎間板ヘルニアとは
原因は体の中だけでなく、 生活スタイルや家屋環境、仕事内容や職場環境など、 様々な要因が重なっています。 リハビリでは、個々の生活スタイル、姿勢・動作の中で 負担のかかりやすい原因を探りながら、 体の機能の改善を図ったり、動作や生活スタイルへの アドバイスを行い、再発予防に取り組んでいきます。 線維輪 神経 (神経根) 神経(脊髄) 過度なストレスがかかると、 さらに負担がかかってくると、 髄核を覆っている線維輪の一部に 亀裂の入った線維輪から髄核が出てきます。 亀裂ができます。 これが『ヘルニア』です。 ≪飛び出たヘルニアが神経を圧迫している図≫ ヘルニアの出方は様々です。 出てきたヘルニアによって神経を圧迫されると、足の感覚が麻痺したり、力が入りにくくなったりします。 重度の場合、膀胱(尿)や直腸(便)の機能も悪くなってしまうことがあります。再発の原因は様々ですが、ヘルニアが発症した原因とほとんど同じことが多いです。 ヘルニアの手術では ヘルニアの膜に切開を入れ
4.再発について
再発は、残念ながらいつの時期でも起こりうります。 ヘルニアの手術後のリハビリで最も重要なことは、『再発予防』
です!!再発とは・・・?
手術前と同じような痛み・しびれが出現し、
MRIなどでヘルニアが発見された場合を再発といいます。
椎間板の中に残っている髄核が再び飛び出た状態です。
ヘルニアの手術では、ヘルニアの膜に切開を入れ、 出ているヘルニアを除去するとともに、 椎間板の中に残っている髄核もある程度とってしまいます。 切開を入れたところは、手術で再び閉じることができないため、 自然に膜が形成されるのを待つしかありません。 これらのことから、術後早期における再発の危険性は、非常に高くなります。1)コルセットの着用について
コルセットの役割:必要以上に腰が動くことを制限します。お腹への圧迫により、 腰回りの筋肉の働きをサポートします。 手術後は、臥床時・入浴時以外は必ず装着するようにしてください。 体を起こすときは、装着してから体を起こすようにしてください。 (体を起こす動作は腰への負担が大きくなります!)2)装着期間の目安
目安は手術後1ヶ月です。 医師・リハビリの担当者の許可があるまでは必ず装着するようにしてください。 1.お尻を持ち上げてコルセットを通します。 体を起こす動作は腰に負担がかかります!体を起こす前に寝たままで装着しましょう。5.コルセットについて
3)コルセットの装着方法
2.コルセットの下端のくぼみを骨盤にかけます。 くぼみ 3.ベルトをしめます。 ベルトの装着順 ①中央 ウエストのくびれに合わせる ②下 ③上 きつくしめなくてもOK ※詳しい方法は、手術前のリハビリ・手術直後のリハビリで説明します。椎間板にかかる負担は姿勢の違いでこんなに変わります!! つまり、椎間板が強く押されることで ヘルニア塊が押し出されやすくなります
6.姿勢・動作について
座っている姿勢は、 立っている姿勢よりも 椎間板への負担が 大きくなります! ヘルニアの原因には、姿勢が大きく影響します。 姿勢は単に座っている姿勢・立っている姿勢だけでなく、 仕事や生活などでの姿勢に注意する必要があります。 詳しくは、リハビリで指導させていただきます! 0 20 40 60 80 100 120 140 160 180 200 上向き 横向き 立位 前屈立位 坐位 前屈坐位 椎間板にかかる圧力 ① 理想の姿勢 腰の筋肉に過度に力を入れ、反りすぎることで逆に腰痛の原因にもなります。 入れ過ぎず、抜き過ぎずが大切です! もともと腰は若干反っているため、 無理なく背筋を伸ばした姿勢が理想といえます。 目安としては、軽く胸を張り、少しお腹に力が入った 状態が、理想の姿勢に近いと言われています。② 悪い姿勢 上記のような姿勢は、腰の曲がり・反りを助長するだけでなく、 腹筋・背筋を中心とした筋肉のはたらきが弱くなります。 長時間座るのは避けてください! 座る姿勢は、立つ姿勢よりも椎間板への負担が大きくなります。 長時間座る場合は、途中で横になる・立つなど、姿勢をかえるような休憩を入れてください。 長時間立つ姿勢にも注意してください! 家事や立って作業をする場合も休憩を入れるようにしてください。 腹筋 背筋を中心とした筋肉のはたらきが弱くなります。 また、足組み・あぐら・横すわりなどは、骨盤や背骨のゆがみを弯曲を助長 します。少しの姿勢の崩れが、腰の負担を増強させるので注意してください。 長時間同じ姿勢になってしまう時は、 姿勢を変えたり、横になったり、腰を動かす体操をして、 腰へかかる負担を和らげましょう! ※体操に関しては、術後のリハビリで指導させて頂きます。
③ 姿勢への工夫(※全ての方が、このように行うことで楽になるとは限りません) 1.台に足を乗せることで腰への負担が軽くなります。 (例) 炊事 洗濯 など 2.背もたれにクッションなどを入れると、腰をまっすぐ保ちやすくなります。 (例) 食事 運転 など 筋力が弱かったり、体が硬かったりすると、理想の姿勢を保つのに、 過度に筋肉がはたらいてしまう場合があります。 ④ 動作について 腰をかばいすぎると逆に体が硬くなってしまいますが、 このように、足もとに手を伸ばすような動作で 勢いをつけて急に曲げてしまうことは 腰に負担がかかりやすくなります。 普段何気なく行ってしまいがちですが、 術後は十分に注意してください。 具体的な各生活動作については、 冊子の後半に掲載しておりますのでご参照ください。
急激な動作は再発のリスクが高くなります!
無理のない範囲でゆっくり動作を行ってください。
7.入院中のリハビリについて
普段何気なく行っている動作の中には、腰に負担がかかる動作がたくさんあります。 動作を少し工夫するだけで、腰への負担が軽くなり、再発の危険性も低くなります。
以下に記載する動作は基本的な動作です。それ以外の動作についてや、不明な点に関しては リハビリ担当者にご相談ください。
手術日
手術後1日目
基本的にはベッド上安静です。 排泄も、尿器など使用し寝たままで行って頂きますが、 どうしても排泄できない場合のみ、手術後時間が経っていれば、 看護師付き添いのもと、トイレにいくことができます。 翌朝の食事は、基本的には寝たまま(横向き)になります。①ベッドから起きることができる
②歩いて(必要に応じて歩行器を使用して)移動できる
③トイレ・洗面動作ができる
予定
□ コルセット装着 5ページを参照し、寝た状態でコルセットを正しく装着します。 □ 起き上がり 一旦横向きになってから、体を起こします。 まっすぐ体を起こしたり、りきんだりすると、腰への負担が大きくなりますので ゆっくり緊張せずに、行ってみてください。④食事を座ってとることができる
⑤15分程度の活動ができる
手術後2~3日目
□ ズボン・パンツを脱ぐ/履く 脱ぐとき:立ったまま膝あたりまで降ろし、座って足を挙げて脱ぎます。 履くとき:座ったまま足を挙げてすそを通し、立ってから引き上げます。 □ 足元を洗う 手を足元に伸ばすのではなく、 足を手元に持ってきて洗います。 足を手元に持ってこれない場合は、 洗体ブラシを使用します。シャワーに入れる
①段差を昇り降りすることができる
②シャワー室内での移動が安全に行える
③15分程度でシャワーを終えることができる
予定
□ 頭を洗う 軽く体を前に傾けることは問題ありません。 腰を丸めないという点がポイントです。 あまり体を固めず、緊張せずにゆっくりと 曲げていってください。 自宅の浴室用の椅子が低く、座って体を洗いにくいときは、 立ったままで頭や上半身を洗うこともできます。手術後3日目以降
□ 床から立ち上がる/床に腰を下ろす 立ち上がるとき 先に体を起こしてから 膝を伸ばすようにします。 腰を下ろすとき 先に膝をついて座ります。①退院後に必要な動作の方法が習得できる
②30分程度までの活動時間が獲得できる
予定
□ 足元のものをとる 手を下に伸ばしてとると、腰に負担がかかりやすいので、 一旦腰をおろしてから、体に近づけて持ち上げるようにします。□ 浴槽をまたぐとき □ 掃除機をかける 壁など、支える場所があれば 立ったまま、またぐ形で行ってください。 埋込み式の深い浴槽の場合は、 一旦浴槽の縁に腰をかけてから 入るようにするとよいです。 一気に広い範囲をかけるのではなく、 細かく足を踏み替えながらかけるようにしましょう。 また、机の下などは、一旦膝(ひざ)を曲げて腰をおとすようにしてください。 □ 洗濯物をとり出す 正面から体をかがませながら行うと 腰が丸くなり、負担がかかります。 洗濯機に対して体を斜めに向け、 軽く膝を曲げてしゃがみながら 洗濯物をとってください。