─ ─259 ( ) 1 ) 日本大学文理学部地球システム科学科: 〒156-8550 東京都世田谷区桜上水 3-25-40 2 ) 神戸大学大学院自然科学研究科: 〒657-8507 神戸市灘区鶴甲 3-11 3 ) 国土交通省北海道開発局農業生産部: 〒060-8511 札幌市北区 8 条東 2 丁目
高橋 正樹
1 )・金丸 龍夫
2 )・二平 聡
3 )The Tanzawa tonalite is an elongated discordant pluton with a length of about 25km in EW and a width of about 5km in NS, which emplaced into Miocene submarine arc volcanic rocks at about 7Ma. The Tanzawa tonalite complex is composed of gabbro (49-53wt.%SiO2), older tonalite (53-60wt.%SiO2), main tonalite
(53-73wt.%SiO2) and younger tonalite (68-77wt.%SiO2), which was emplaced in this order. The mass of
main tonalite is classified into four emplacement units based on magnetic foliations: the Kurokuragawa, Mur-okubogawa, Mizunokizawa and Ishiwariyama units, from east to west. The Kurokuragawa and Ishiwariyama units mainly comprise felsic plutonic rocks with more than 65wt%SiO2, while the Murokubogawa and
Mizu-nokizawa units are laterally zoned plutons with mafic margin (less than 60wt.%SiO2) grading to felsic core
(60 to 73wt.%SiO2). The older tonalite, main tonalite and younger tonalite show the same trend on the silica
variation diagrams, implying that they were derived from the same parental magma through similar magmatic processes. The trend of chemical variation of Tanzawa tonalite on the silica variation diagrams can be explained by simple crystallization differentiation of plagiolcase and hornblende from andesitic magma. Anor-thositic rocks occurred in the main tonalite are enriched in Al2O3, CaO, Na2O and Sr, but they are depleted in
TiO2, FeO*, MnO, MgO, K2O,P2O5, Ba, Rb, Zr, Y and V. Such chemical characteristics show that they are
essentially the cumulate of plagioclase. Basaltic member of mafic inclusions and mafic syn-plutonic dikes in the main tonalite are higher in Na2O, K2O, Ba and Rb contents than host mafic tonalite. It is difficult to derive
tonalite magma by simple crystallization differentiation from mafic magma which produced mafic inclusions and syn-plutonic dikes. The high alumina basaltic magma of mantle origin underplated the lower crust and melted amphibolite with low alkaline content to give rise to low-K andesitic magma, which migrated upward into upper crust and was emplaced to solidify as Tanzawa tonalite. The Tanzawa tonalite is M-type and mag-netite-series granitic rocks with low K2O content but shows no characteristics of adakite.
Keywords: Tanzawa, tonalite, gabbro, plutonic rocks, crystallization differentiation, andesitic magma, M-type, magnetite-series, zoned pluton
丹沢トーナル岩体の全岩化学組成
-分析値
171 個の総括-
Whole-Rock Chemistry of Tanzawa Tonalite:
Summary of 171 Samples
Masaki TAKAHASHI
1 ), Tatsuo KANAMARU
2 )and Satoshi NIHIRA
3 ) (Received November 20, 2003 )1 ) Department of Geosystem Sciences, College of Humanities and Sciences, Nihon University: 3-25-40 Sakurajosui Setagaya-ku, Tokyo, 156-8550 Japan
2 ) Graduate School of Science and Technology, Kobe University: 3-11 Tsuruko Nada-ku, Kobe, 657-8507 Japan
3 ) Hokkaido Regional Development Bureau, Ministry of Land, Infrastructure and Transport: 2 Higashi 8 jyo Kita-ku, Sappo-ro, 060-8511 Japan
1 はじめに 中 新 世 の 島 弧 性 海 底 火 山 堆 積 物 中 に 貫 入 し た M-type・磁鉄鉱系列に属する丹沢トーナル岩体は, 未成熟な島弧地殻を代表する深成岩体であり,花崗岩 質大陸地殻の生成と進化を考える上で重要な鍵を握る 岩体であると考えられている(Taira et al, 1999 など)。 本論では,これまでの我々のグループの研究によって 得られた丹沢深成岩体を構成するトーナル岩類を中心 とした171 個あまりの全岩化学組成分析値を総括し, その組成上の特徴について議論することにしたい。 2 これまでの研究 丹沢深成岩体については,これまでに多くの研究が なされてきている。 相馬・吉田(1966 )は,丹沢深成岩体が,6 種の岩 相からなる閃緑岩質複合岩体と,それに先行して貫入 した斑れい岩質複合岩体よりなることを明らかにし た。一方,滝田(1974)はさらに詳細な研究を行い, 丹沢深成岩体は,主に斑れい岩および18 の独立した 岩体から構成されるトーナル岩質複合岩体からなるこ と,また,このトーナル岩質複合岩体は,野外での産 状や鏡下での特徴から10 の岩型に分類が可能である ことを示した。さらに,斑れい岩体の活動以降に形成 されたトーナル岩質複合岩体が,4つのステージから なることを明らかにした。それによれば,第1 期が大 滝沢型および熊木沢型のトーナル岩,最も広い面積を 占める第2 期が畦ヶ丸型およびユーシン型のトーナル 岩,小型の岩体からなる第3 期が,樅の木沢型,板小 屋沢型,地蔵沢型,用木沢型,箱根屋沢型のトーナル 岩,最後の第4 期が富士見型のトーナル岩である。 岩体の形態について,Yoshii( 1928 ),森下( 1934 ), 相馬(1968 ),滝田(1974 )は,東西に延びた細長い 底のすぼまるロート状の岩体を,見上(1958 )は北方 に傾いた板状の岩体を,荒井(1987 )は東西に延びた ダイアピル状の岩体を,それぞれ考えた。これらの研 究者は,丹沢深成岩体の貫入機構として,強制貫入や ダイアピル状の貫入様式を提唱した。これに対し,高 橋ほか(2000 )は,帯磁率異方性の面構造および線構 造を明らかにし,それらに基づいて,丹沢深成岩体が 複数の貫入単位からなり,全体として東西に伸長した 細長い箱形の形態を呈すること,また,主として岩体 の底の沈降によって空間を占めたロポリス的な貫入を 行ったこと,などを主張した。 石原ほか(1976 )は,丹沢トーナル岩体が磁鉄鉱を 多く含む高帯磁率の花崗岩であり,日本列島の他の中 生代・新生代花崗岩類と異なり,著しくK2O に乏しく, 低いK2O/Na2O 比を有する特異な性質を示すことを明 らかにした。また,Sn にも乏しいことから,丹沢トー ナル岩体の生成場として,大陸的要素の欠如した大洋
性環境を考えた。Ishizaka and Yanagi( 1977 )や川手・
藤巻(1996 )は丹沢深成岩体の Sr 同位体比を測定し , その87Sr/86Sr 初生値が 0.7033 ~ 0.7037 と枯渇したマン
トル物質に近いきわめて低い値を有することを示し た。また,Ishizaka and Yanagi(1977)は,低い Rb 量, Rb/Sr 比,K/Rb 比を有することから,丹沢トーナル岩 が未成熟島弧の環境下において低K2O カルクアルカリ 安山岩マグマの結晶分化作用によって生成されたと考 えた。こうした化学組成上の特徴から,高橋(1986) は,丹沢トーナル岩が,未成熟島弧地殻を代表する磁 鉄鉱系列・M-type 花崗岩であることを指摘している。
Kawate and Arima( 1998 )は丹沢トーナル岩体の岩
石学的研究を行い,岩体を構成する岩石のうちSiO2量
が62wt.%以下のものは,SiO2量が62wt%程度の安山
岩 質 マ グ マ の キ ュ ー ム レ イ ト( 集 積 岩 ) で あ り, 62wt.%以上のものは安山岩質マグマが結晶分化作用 を行った結果生成された分化マグマであると考えた。
一方,Nakajima and Arima( 1998 )は,伊豆諸島に産す
る低K2O島弧ソレアイト質玄武岩についてH2O不飽和 の条件下で融解実験を行い,丹沢トーナル岩を形成し た安山岩質マグマが,1.2Gpa 以下の圧力下において温 度1050℃で低K2O島弧ソレアイト質角閃岩が50%融解 することによって生成されたと推定している。 丹沢トーナル岩が中新世の海底島弧火山性堆積物で ある丹沢層群に貫入していることから,その年代が中 新世以降の新しいものであることは明らかである。丹 沢 ト ー ナ ル 岩 の 年 代 に つ い て は,Kawano and Ueda (1966 ) は, 黒 雲 母 の K-Ar 法 に よ る 年 代 値 と し て 5.2Ma,4.3Ma,7.6Ma の 3 つを報告している。佐藤ほ か(1986)は,4.8Ma,4.6Ma,5.1Ma の黒雲母 K-Ar 年 代,および10.1Ma,10.7Ma の角閃石 K-Ar 年代から, 丹沢トーナル岩体が14Ma ころに貫入固化し,その後 平均約50℃/Maで冷却したと推定した。これに対して, Saito et al.( 1991 )は,黒雲母と角閃石に関する多数の
─ ─260 ( ) ─ ─261 ( ) K-Ar 年代値を測定し,それらがほぼ 7Ma に集中する ことから,7Ma が丹沢トーナル岩の貫入・固化年代で あり,それより古い年代は鉱物中の過剰Ar によるも のであるとした。 3 丹沢トーナル岩体の地質 丹沢深成岩体は,東西約25km,南北約 10km の東西 に伸長した細長い形態を示す複合岩体である( 図1 )。 これらは貫入順序にしたがって,斑れい岩体,古期 ト ー ナ ル 岩 体(older tonalite ), 主 期 ト ー ナ ル 岩 体 (main tonalite ),新期トーナル岩体( younger tonalite )
の4つに大きく区分される。ここでいう斑れい岩体は, 滝田(1974 )の斑れい岩体,古期トーナル岩体は第 1 期の熊木沢岩型および大滝沢型,主期トーナル岩体は 第2 期の畦ヶ丸型およびユーシン型,新期トーナル岩 体は第3 期および第 4 期の各岩型にほぼ相当する . 斑れい岩体は,主に丹沢深成岩体北縁および南西部 に分布する(Fig.1 )。また,岩体中央部~西部では, 小規模な捕獲岩として出現する。丹沢層群との接触部 では,丹沢層群起源の捕獲岩を有する。岩相はきわめ て不均質で,斑れい岩質ペグマタイトが普通にみられ る。古期トーナル岩体は丹沢深成岩体の東部および南 西部に独立したストックとして出現する(図1 )。南西 部岩体と丹沢層群および斑れい岩体との接触部付近で は,それらの捕獲岩が認められるが,一般的には包有 岩に乏しい。主期トーナル岩と比べて,岩相の違いは ほとんど認められないが,古期トーナル岩は明らかに 熱変成を被っており,主期トーナル岩に先立って貫 入・固化したものと考えられる。斑れい岩体と古期 トーナル岩体をあわせた分布面積は14.3km2である。 最も大きな面積を占める主期トーナル岩体は,丹沢 山地蛭ヶ岳から山中湖東部まで,東西約20km,南北 約5km にわたって分布し,丹沢深成岩体の中で最も 広い分布面積を示す( 約90km2)。主期トーナル岩体 は,帯磁率異方性の面構造の分布形態に基づき,東か ら,玄倉川,室久保川,水ノ木沢,石割山の4 つの貫入 161
ユ ニ ッ ト が 識 別 さ れ る(Kanamaru and Takahashi, 2003 )。新期トーナル岩体は小規模であり,主期トー ナル岩体中に散在して分布する。 岩体中には苦鉄質包有岩がみられ,その分布密度は 長径10cm 以上のものが 0.5 ~ 1.5 個 /m2であることが 一般的であるが,多数密集してみられる場合もあり, 岩体内での分布は不均一である。また,苦鉄質syn- plutonic dike も認められる。苦鉄質 syn-plutonic dike の走向は,EW 性のものが卓越する。syn-plutonic dike はしばしば分解して,苦鉄質包有岩の集合体,そして 苦鉄質包有岩へと移化する。苦鉄質syn-plutonic dike 構成岩や苦鉄質包有岩には,急冷縁や火炎状縁組織な ど,捕獲時に高温液体であったことを示す証拠がみら れ,また,しばしば周囲のトーナル岩と漸移的な岩相 を呈している。こうした現象は,苦鉄質包有岩やsyn -plutonic dike を構成する苦鉄質マグマと周囲のトーナ ル岩質マグマとの間に,マグマ混合が生じていたこと を示唆する。 岩体中にはアプライト・ペグマタイトはほとんどみ られないが,厚さ数cm から 50cm 程度の小規模なシー ト,岩脈あるいはレンズ状の斜長石の濃集した優白質 斜長岩(anorthosite )様の岩体がよく発達する。岩体の 縁辺部には,同心円状の優黒色コートランダイト質 シュリーレンと優白色斜長岩からなるellipsoid( Wein-berg et al., 2001 )もみられる( Kanamaru et al., 2003 )。 水ノ木沢ユニットの西部には,幅2km にわたって NW - SE 方向にのびる左横ずれ剪断変形帯が発達し, 剪断帯内のトーナル岩には著しい葉理構造がみられ,
苦鉄質包有岩は著しい伸長変形を被っている。syn-
plutonic dike の EW 走向から推定されるσHmax の方向 とNW-SE剪断帯の左横ずれセンスとは調和的であり, 丹沢トーナル岩体は,マグマ固化時にEW 圧縮あるい はNS 引張の地殻応力場に置かれていたものと考えら れる。 丹沢トーナル岩体の貫入境界は明瞭であり,周囲の 母岩の構造を切っており,母岩は脆性的な破壊を受け ている。こうした貫入境界の特徴および帯磁率異方性 の線構造の走向傾斜などから,高橋ほか(2000 )や
Kanamaru and Takahashi( 2003 )は,丹沢トーナル岩マ
グマの貫入定置は,ダイアピルによってではなく,NS 引張応力場における底部の沈降を伴うプルアパート型 の割れ目充填を通して,一種のロポリスを形成するこ とによって行われたと推定した。 4 岩石記載 4. 1 斑れい岩類 細粒~粗粒で,輝石・角閃石ガブロノーライト,角 閃石斑れい岩,石英斑れい岩などが主体をなす。帯磁 率は60 ~ 120 × 10- 3 SI unit であり,丹沢深成岩体の 中で最も高い値を示す。磁鉄鉱系列に属する。主要構 成鉱物は斜長石,角閃石,単斜輝石,斜方輝石,かん らん石,であり,副成分鉱物として黒雲母,石英,磁 鉄鉱,スフェーン,燐灰石,ジルコンなどを含む。古 期トーナル岩や主期トーナル岩と接する付近では熱変 成作用を受けており,グラノブラスティック組織を示 す。角閃石は主に緑褐色ホルンブレンドであり,少量 のカミングトン閃石もみられる。角閃石は半自形でポ イキリティックに斜長石を含む場合が多い。輝石は単 独で産する場合と,ホルンブレンドの中核部に他形で 産する場合とがある。 4. 2 古期トーナル岩 中粒のトーナル岩を主体とし,石英閃緑岩を伴う。 帯磁率は38 ~ 54 × 10- 3 SI unit である。磁鉄鉱系列に 属する。主要構成鉱物は,斜長石,褐緑色ホルンブレ ンド,黒雲母,石英であり,少量のカミングトナイト, 斜方輝石,単斜輝石を伴う。副成分鉱物として,磁鉄 鉱,スフェーン,ジルコン,燐灰石を含む。主期トー ナル岩による熱変成作用を受けており,他形充填的に 黒雲母が生じている。西部岩体においては,石英の波 動消光など弱い変形組織が認められる。単斜輝石,斜 方輝石は角閃石の中核部に他形結晶として産する。 4. 3 主期トーナル岩 中粒 ~ 粗粒のトーナル岩,トロニエム岩および石 英閃緑岩よりなる。帯磁率は16 ~ 72 × 10- 3 SI unit と 変化に富み,岩体中央の外縁部で最も高く,東端およ び西端部で低くなる傾向を持つ。磁鉄鉱系列に属す る。主要構成鉱物は,斜長石,緑褐色~褐緑色ホルン ブレンド,石英,黒雲母であり,少量のカミングトン 閃石,単斜輝石,斜方輝石を含む。輝石は角閃石の中 核部に他形結晶として産する。副成分鉱物として,磁 鉄鉱,スフェーン,燐灰石,ジルコンを含む。変形葉 理の発達した岩相には,石英のサブグレイン化や斜長 石双晶の湾曲などの変形組織がみられる。また,変形 によってホルンブレンドが細粒結晶の集合体となって
─ ─262 ( ) ─ ─263 ( ) おり,このことは変形作用がホルンブレンドが安定な 高温下で進行したことを示している。 シート状の脈岩として産する優白質斜長岩は,斜長 石および少量の石英からなり,角閃石,黒雲母をとも なう。苦鉄質包有岩やsyn-plutonic dike を構成する苦 鉄質細粒岩は,主として斜長石と角閃石( 一部輝石 ) からなるが,苦鉄質包有岩には,分解反応縁を有する 斜長石や,角閃石の反応縁を持つ石英など,マグマ混 合の証拠となる組織を有する鉱物が含まれることがあ る。 4. 4 新期トーナル岩 主として斑状細粒のトーナル岩およびトロニエム岩 から構成される。帯磁率は3 ~23×10- 3 SI unitである。 磁鉄鉱系列に属する。主要構成鉱物は,斜長石,石英, 163
図 2 丹沢深成岩体の全岩主化学組成 SiO2変化図(1 )(FeO*,MgO,Al2O3,CaO,MnO )。
AOB:アルカリ玄武岩系列;HAB:高アルミナ玄武岩系列;LTH:低アルカリソレアイト系列;HIGH-K:高 K 系列; MED-K:中間 K 系列;LOW-K:低 K 系列
黒雲母,緑色ホルンブレンドであり,カミングトン閃 石をともなう。副成分鉱物として磁鉄鉱,スフェーン, 燐灰石,ジルコンを含む。変形葉理構造を示す岩相で は,石英のサブグレイン化,斜長石双晶の湾曲などの 変形組織がみられる。 5 全岩化学組成 全岩化学組成分析には蛍光X 線分析装置(東京大学 地震研究所の理学電気社製3080E3 型および茨城大学 理学部機器分析センターの理学電気社製3270 型)を使 用した。分析方法および分析誤差は高橋ほか(2003 ) による。分析値を表1a-f および 2a-c に,また試料採 取地点を付図1 ~ 10 に示す。 5. 1 全岩主化学組成
─ ─264
( ) ─ ─265 ( )165
表 1a 丹沢深成岩体の全岩主化学組成
表 1c 丹沢深成岩体の全岩主化学組成
─ ─266
( ) ─ ─267 ( )167
表 1e 丹沢深成岩体の全岩主化学組成
全岩SiO2量は,斑れい岩体で49 ~ 53wt.%,古期トー ナル岩体で53 ~ 60wt.%,主期トーナル岩体で 53 ~ 73wt.%,新期トーナル岩体で 68 ~ 77wt.%と,活動が 新しくなるにしたがって増加する傾向がある。 全岩主化学組成値をSiO2変化図でみると,古期トー ナル岩体,主期トーナル岩体,新期トーナル岩体とも に,すべての酸化物でほぼ同一のトレンド上にのり, ステージの違いによる差は認められない( 図2・3 )。 SiO2量が53wt.%から 75wt.%へと増大するとともに, TiO2量が1.0wt.%から 0.2wt.%,Al2O3量が20.0wt.%か ら13.5wt.%,FeO* 量が 11.0wt.%から 1.5wt.%,MnO 量 が0.2wt,%から0.04wt.%,MgO量が4.7wt.%から0.5wt.%, CaO 量が 10.0wt.%から 2.0wt.%,P2O5量が0.16wt.%か ら0.04wt.%とほぼ直線的に減少し,Na2O 量が 2.8wt.% から4.5wt.%,K2O 量が 0.17wt.%から 1.90wt.%へと増 大する。K2O 量では,そのほとんどが低 K 系列の領域 にプロットされ,著しくK2O に乏しい M-type 花崗岩 の特徴を示すが,以上の酸化物の組成変化とはやや異 なり,SiO2=65wt.%を越えたあたりで組成変化トレン ドの傾斜が急になる曲線的トレンドを示し,70wt.%以 上では中間K 系列のものもみられるようになる。SiO2 vs. Na2O+K2O 図では,すべて低アルカリソレアイト 系列に属する。はんれい岩体の分析値数は少ないが, トーナル岩体に比べて,ややMgO,K2O に富み,TiO2, P2O5に乏しい傾向を示す。 主期トーナル岩体中での全岩SiO2量の空間的変化を みると,岩体東部の玄倉川ユニットと西部の石割山ユ ニットがSiO2=65wt.%以上と珪長質であり,岩体中 央部の室久保川ユニット,水ノ木沢ユニットがSiO2= 65wt.%未満のものが多くてより苦鉄質である(図 4 )。 室久保川ユニットと水ノ木沢ユニットは,周縁部が SiO2=60wt.%以下とより苦鉄質であり,中心部に向 かってSiO2量が増大しより珪長質になるという水平方 向の組成累帯構造を有する。主期トーナル岩体全体で みると,SiO2=60wt.%未満が占める面積の割合が 18%, 60 ~ 65wt.%が 36%,65 ~ 70wt.%が 36%,70wt%以上 が10%となる。すなわち,SiO2=65wt.%未満のより苦 鉄質な岩石が全体の面積の54%と半分以上を占めてい ることになる。 主期トーナル岩中に含まれる斜長岩は,SiO2量が 58wt.%から 71wt.%にわたり,母岩の SiO2量と対応し た組成変化を示す。SiO2量の増大にともない,TiO2, FeO*,MnO,MgO,CaO,P2O5が減少し,Al2O3,Na2O, K2O が増大する。母岩のトーナル岩と比較すると,
TiO2,FeO*,MnO,MgO,K2O,P2O5に著しく乏しく,
Al2O3,CaO,Na2O に富む。
同じく主期トーナル岩中に含まれる苦鉄質包有岩と syn-plutonic dike は,SiO2量が51wt.%から 60wt.%まで
図 4 主期トーナル岩体における全岩 SiO2量の空間的分布。ユニツト区分はKanamaru and Takahashi(2003)による。K:玄
─ ─268
( ) ─ ─269 ( )
変化し,母岩のトーナル岩と比較して,MgO,FeO*, MnO,Na2O,K2O に富み,TiO2,P2O5,CaO,Al2O3に乏
しい。その多くは中間K 系列の領域にプロットされ, SiO2 vs. Na2O+K2O 図では,高アルミナ玄武岩系列に 属する。 5. 2 全岩微量元素組成 全岩微量元素組成をSiO2変化図でみると,古期トー ナル岩体,主期トーナル岩体,新期トーナル岩体とも に,すべての微量元素でほぼ同一のトレンド上にの り,ステージの違いによる差は認められない(図5・6 )。 SiO2量の増加にともない,Srは350ppmから140ppm, Yが40ppmから10ppm,Vが260 ppmから35ppm,Niが 10ppm から 2ppm,Cr が 15ppm から 2ppm へと減少し, Baが30ppmから500ppm,Zrが20ppmから120ppm,Rb が3ppmから30ppmへと増大する。このうち,LIL元素 であるBaとRbはSiO2=70wt.%を越えると急激に増加 する曲線的なトレンドを示す。 斜 長岩は,トーナル岩に比べ てSr に富むが,Ba, Rb,Zr,Y,V に乏しい。一方,苦鉄質包有岩および syn- plutonic dike は,トーナル岩に比べて Ba,Rb,V に富み,
Sr に乏しい。SiO2=55wt.%以下で比較した場合,苦鉄 質包有岩およびsyn-plutonic dike とトーナル岩では, Zr 量や Y 量に差がみられないため Rb/Zr 比,Ba/Zr 比, Rb/Y 比,Ba/Y 比で違いが認められ,トーナル岩の方 がこれらの比が低い。 また,Sr/Y vs. Y 図でみると,トーナル岩の組成は すべて通常の島弧珪長質マグマの領域にプロットさ れ,アダカイトの組成は示さない(図7 )。 6 議 論 6. 1 トーナル岩における組成変化トレンド トーナル岩は,貫入定置ステージの違いにかかわら ず,すべて同一の組成変化トレンドを示す。このこと は,同一起源マグマに由来し,ほぼ同一のマグマプロ セスをへて形成されたマグマが,ステージを変えて相 次いで貫入定置したことを意味する。K2O,Rb,Ba など 169 表 2a 丹沢深成岩体の全岩微量元素組成
表 2b 丹沢深成岩体の全岩微量元素組成
─ ─270 ( ) ─ ─271 ( ) のLIL 元素をみると明らかに曲線的な増加トレンドを 示し,これらの組成変化トレンドは結晶分化作用の結 果として生じたものであると推定される。Kawate and Arima( 1998 )は,丹沢トーナル岩中の Ce,Nd,Yb な どの希土類元素の組成変化トレンドがSiO2=62wt.% 付近に最高点をもち,SiO2=62wt.%以上では減少傾向 に転ずることなどから,丹沢トーナル岩の組成変化ト レンドがSiO2=62wt.%の安山岩質マグマからの「斜長 石+ホルンブレンド+磁鉄鉱」の結晶分化作用で説明 され,SiO2=62wt.%以下の岩石はこの安山岩質マグマ からの集積岩,62wt.%以上は分化した液からなると考 えた。トーナル岩の組成変化トレンドは,安山岩質マ グマからの結晶分化作用によるとするKawate and Ari-ma( 1998 )の考えで基本的に説明可能と思われる。す
なわち,SiO2=62wt.%以下の岩石は「安山岩質マグマ
+ 結晶 」からなる集積岩の,SiO2=62wt.%以上の岩石
は分化した液の,それぞれ固化したものということに なる。また,Sr/Y vs. Y 図( Defant et al., 1991 )によれ ば,トーナル岩マグマはアダカイトの性質を示さない ので,安山岩マグマの起源物質にはガーネットなどの
鉱物は含まれなかったものと思われる。 6. 2 斜長岩の全岩化学組成
斜長岩はAl2O3,CaO,Na2O に富むが,TiO2,FeO*,
MnO,MgO,K2O,P2O5に著しく乏しい。また,Sr に富 むが,Ba,Rb,Zr,Y,V に乏しい。こうした化学的特 徴は,斜長岩が斜長石に富み,苦鉄質鉱物や液成分に 乏しかったことを示している。一方,斜長岩は母岩の SiO2に対応したSiO2量変化を示す。以上のことは,斜 長岩が母岩のトーナル岩質マグマから斜長石が濃集す ることによって形成されたことを示している。トーナ ル岩中の優白質シート状脈などを構成する斜長岩質岩 は,何らかのメカニズムによってトーナル岩マグマか ら斜長石が濃集した結果生成されたものと思われる。 6. 3 トーナル岩と苦鉄質包有岩・syn-plutonic dike との成因的関係 苦鉄質包有岩やsyn-plutonic dike を構成する玄武岩 ~玄武岩質安山岩マグマは,苦鉄質トーナル岩よりも Na2O,K2O,Ba,Rb に富み,高い Rb/Zr,Rb/Y,Ba/Zr,
Ba/Y 比を示す。したがって,こうした苦鉄質マグマ からの単純な結晶分化作用によって珪長質トーナル岩
171
マグマを生成することは困難である。一方,これらの 苦鉄質包有岩やsyn-plutonic dike が,未固化あるいは 一部固化したトーナル岩マグマ溜り中に液体状態で注 入されたことは明らかなので,地下では成因的に異な る2 種のマグマが共存していたことになる。マントル で生成された高アルミナ玄武岩マグマが地殻下底部に 付加し,その熱でアルカリに乏しい角閃岩からなる下 部地殻物質が融解してアルカリに乏しい安山岩質トー
ナル岩マグマが生成され(Nakajima and Arima, 1998 ),
さらに,上昇し分化して定置したトーナル岩マグマ溜 り中へ,後から高アルミナ玄武岩マグマが注入され て,syn-plutonic dike や苦鉄質包有岩が形成されるに 至った,と考えると,両者の関係はよく説明できる。 7 まとめ (1) 丹沢深成岩体は,貫入・定置時期の古い方から順 に,斑れい岩体(49 ~ 53wt.%SiO2),古期トーナ ル岩体(53 ~ 60wt.%SiO2),主期トーナル岩体(53 ~73wt.%SiO2),新期トーナル岩体(68 ~ 77wt.% SiO2)からなる。 (2) 最も広い面積を占める主期トーナル岩は,帯磁率 異方性測定の結果から4 つのユニットから構成さ れることが判明しているが,東部の玄倉川ユニッ トと西部の石割山ユニットがSiO2=65wt.%以上 の珪長質岩からなるのに対して,中央部の室久保 川ユニットと水ノ木沢ユニットは,周縁部が苦鉄 質(SiO2=60wt%以下)で中心部が珪長質であり 図 6 丹沢深成岩体の全岩微量元素組成 SiO2変化図(2 )(Y,V,Ni,Cr )
─ ─272 ( ) ─ ─273 ( ) 水平方向の組成累帯構造を示す。 (3) 古期トーナル岩,主期トーナル岩,新期トーナル 岩はSiO2変化図上で一連のトレンドを示し,同一 起源マグマから,同一マグマプロセスをへて形成 されたマグマの固化物と考えられる。 (4) トーナル岩の組成変化トレンドは,K2O,Rb,Ba などのLIL 元素の挙動から,結晶分化作用の結果 生じたものと考えられる。SiO2=62wt%程度の安 山岩質マグマが結晶分化した結果,SiO2=62%以 下の集積岩と62wt.%以上の分化液とが生成され たらしい。 (5) 主期トーナル岩体中にみられる斜長岩は Al2O3,
CaO,Na2O,Sr に 富 む が,TiO2,FeO*,MnO,
MgO,K2O,P2O5 ,Ba,Rb,Zr,Y,V に著しく乏し
く,斜長石の濃集によって形成されたものと考え られる。 (6) 主期トーナル岩体中にみられる苦鉄質包有岩およ びsyn-plutonic dike は, ト ー ナ ル 岩 に 比 べ て Na2O,K2O,Ba,Rb に富んでおり,そのうち玄武 岩質岩は高アルミナ玄武岩である。こうした苦鉄 質マグマの単純な結晶分化作用によっては,アル カリに乏しいトーナル岩マグマを生成することは できず,両者は起源を異にする。 (7) 苦鉄質包有岩や syn-plutonic dike を形成したマン トル起源のややアルカリに富む高アルミナ玄武岩 マグマが地殻下底部に付加し,その熱で角閃岩か らなるアルカリに乏しい下部地殻物質が融解し, アルカリに乏しい安山岩質のトーナル岩マグマが 生成されたと考えると,両者の関係はよく説明で きる。 謝辞 本研究を進めるにあたり,茨城大学理学部の池田幸雄教 授,田切美智雄教授,木村真教授,藤縄明彦助教授には御 議論,御援助をいただいた。また,荒牧重雄東京大学名誉 教授(当時地震研究所教授)には蛍光X 線分析装置の使用 を許可していただいた。以上の方々に感謝の意を表します。 荒井 融(1987 ):丹沢山地のテクトニクス-変成岩類の相 解析による考察-.地質雑,93,185-200.
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