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在宅脊髄損傷者の褥瘡発生危険因子の検討

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(1)理学療法学 第 44 巻第 4 号 277 ∼ 283 頁(2017 在宅脊髄損傷者の褥瘡発生危険因子の検討 年). 277. 研究論文(原著). 在宅脊髄損傷者の褥瘡発生危険因子の検討* ─アンケート調査を用いた後ろ向き研究─. 延 本 尚 也 1)# 岡 野 生 也 1) 篠 山 潤 一 2) 山 本 直 樹 1) 安 田 孝 司 1)  代 田 琴 子 3)  安 尾 仁 志 2) 相 見 真 吾 2) 橋 本 奈 実 1) 太 田   徹 1)  深 津 陽 子 1)  鳥 井 千 瑛 1) 田 村 晃 司 1) 山 口 達 也 1) 陳   隆 明 1)4). 要旨 【目的】本研究の目的は在宅脊髄損傷者の退院後の褥瘡発生の有無を調査し,在宅脊髄損傷者の褥瘡発生 危険因子を明らかにすることである。 【方法】1996 年 1 月∼ 2005 年 12 月までの 10 年間に,当院を退院 した脊髄損傷者 310 名を対象に,郵送法による自記式アンケートを実施した。アンケート回答結果とカル テ診療録の情報を基に,後方視的に検討した。【結果】アンケート回収率は 51.0%であり,約半数の対象 者は退院後に褥瘡を経験していた。損傷の程度,入院中の褥瘡既往の有無,調査時の介助量,介助量の変 化,外出頻度,自家用車の運転の有無が有意な因子として認められた。【結論】在宅脊髄損傷者において, 完全損傷であること,入院中の褥瘡の既往があること,介助量が多いこと,活動性が低いことが褥瘡発生 危険因子となることが明らかとなった。一方で,同居人の存在や在宅サービス利用の有無については褥瘡 予防に有効に作用していない可能性が示唆された。 キーワード 脊髄損傷,褥創,危険因子,在宅. 7) して泌尿器疾患に次いで 2 番目に多く ,褥瘡の発生に. はじめに. より入院期間は有意に増加し. 3). ,褥瘡有病者は廃用性の. 1). 機能低下や動作能力の低下,休職による経済的負担など. 脊髄損傷受傷後の入院期間中において 24 ∼ 28%の発生. 多大な損失を負うこととなる。さらに,入院期間増加に.  褥瘡は脊髄損傷者に生じる代表的な合併症であり 率が報告されている. ,. 2)3). 。また,脊髄損傷者の 80%以. 上は生涯において褥瘡を経験するとも報告されてお り. 4‒6). ,慢性期脊髄損傷者における褥瘡発生率は非常に. 高いといえる。また,褥瘡は脊髄損傷者の再入院原因と *. Risk Factors of Pressure Ulcer in Community-resident Persons with Spinal Cord Injury: A Retrospective Study 1)兵庫県立リハビリテーション中央病院 (〒 651‒2134 兵庫県神戸市西区曙町 1070) Naoya Nobumoto, PT, Ikuya Okano, PT, Naoki Yamamoto, PT, Takashi Yasuda, PT, Nami Hashimoto, PT, Toru Ota, PT, Yoko Fukatsu, PT, Chie Torii, PT, Kouji Tamura, PT, Tatsuya Yamaguchi, PT, Takaaki Chin, MD, PhD: Hyogo Rehabilitation Center Hospital 2)兵庫県地域ケア・リハビリテーション支援センター Junichi Sasayama, PT, Hitoshi Yasuo, PT, Shingo Aimi, PT: Hyogo Community Care and Rehabilitation Support Center 3)兵庫県立福祉のまちづくり研究所 Kotoko Shirota, PT: Hyogo Institute of Assistive Technology 4)兵庫県立福祉のまちづくり研究所ロボットリハビリテーションセン ター Takaaki Chin, MD, PhD: Hyogo Institute of Assistive Technology Robot Rihabilitation Center # E-mail: nobu9137@gmail.com (受付日 2016 年 8 月 26 日/受理日 2017 年 2 月 16 日) [J-STAGE での早期公開日 2017 年 5 月 1 日]. 伴う医療費の増大が社会的にも大きな問題である. 4)8). 。.  慢性期の脊髄損傷者における褥瘡発生危険因子につい ては,Gélis ら. 9). が報告したシステマティックレビュー. において,男性,脊髄損傷受傷からの期間が長い,完全 損傷,下肢静脈血栓症あるいは肺炎の既往,受傷後入院 期間における褥瘡の既往が危険因子として強いエビデ ンスがあるとしている。また,学歴,就労・就学の有 無. 10‒12). ,結婚の有無 10)11),民族の違い 10),所得 13). などの社会的要因も危険因子として報告されている。こ のように慢性期脊髄損傷者においては,身体機能や合併 症などの医学的所見だけでなく,社会的環境やライフス タイルの違いなど,地域性を含めた様々な要因が褥瘡の 発生に影響するとされている。  日本においては,Sumiya ら. 6). は 218 名の地域在住の. 対麻痺者を対象に Cross-sectional study を行い,6 つの 調査項目より尿失禁があることを褥瘡発生危険因子に挙 げている。Morita ら. 14). は 61 名の地域在住の脊髄損傷.

(2) 278. 理学療法学 第 44 巻第 4 号. 者を対象にした Case-control study にて,19 の調査項. 性別,③損傷レベル,④損傷の程度,⑤入院中の褥瘡既. 目より年齢,受傷からの期間,褥瘡の既往の有無,使用. 往の有無,⑥退院後の期間)と,アンケートより得た生. あるいは所有している車いすと座面クッションの数,車. 活関連因子 7 項目(①調査時の介助量,②退院時と比較. いす乗車時間,外出頻度,自動車運転の有無,除圧方法. した介助量の変化,③同居人の有無,④在宅サービスの. の知識の数を褥瘡発生危険因子としている。しかし,こ. 利用の有無,⑤外出頻度,⑥就労・就学の有無,⑦自家. れらの報告は調査項目数あるいは対象者数の面より十分. 用車の運転の有無)より,褥瘡発生危険因子を検討した。. に検討されているとはいえない。また,介助量の程度や.  統計解析は EZR Version 1.24 を使用し,褥瘡あり群. 退院時との介助量の変化に着目した調査はみられない。. と褥瘡なし群での各因子の比較において,Mann-Whitney.  そこで本研究は,在宅脊髄損傷者の退院後の褥瘡発生. の U 検定,フィッシャーの正確確率検定を用いた単変. の有無を調査し,人口統計学的要因や神経学的要因など. 量解析を行った。また,有意差が認められ,3 変数以上. の個人因子と生活状況に関する生活関連因子に着目し,. 有する項目においては Bonferroni 法による多重比較を. 日本における慢性期脊髄損傷者の褥瘡発生危険因子を明. 行った。さらに,褥瘡発生危険因子をより明確にするた. らかにすることを目的とした。. め,単変量解析で有意差を認めた因子を説明変数とした. 対象と方法. ロジスティック回帰分析を行い,p 値を用いた変数減少 法によりすべての項目が p < 0.05 になるまで繰り返し. 1.対象. 解析を行い,危険因子を抽出した.各検定における有意.  1996 年 1 月∼ 2005 年 12 月までの 10 年間に,当院に. 水準はすべて 5%とした。. おいてリハビリ加療を受け,退院した脊髄損傷者 310 名.  なお,本研究はヘルシンキ宣言の倫理規定に則り,兵. である。. 庫県立リハビリテーション中央病院倫理委員会(承認番 号 1310)にて承認を得た後,郵送するアンケート調査. 2.調査方法. 用紙の紙面上に本研究の趣旨を記載するとともに,アン.  郵送法による自記式アンケートを実施し,2014 年 5 月. ケートに同意する方のみに回答してもらうことで倫理的. に郵送し,回収期限は 2014 年 8 月とした。質問項目は退. 配慮を行った。. 院後の褥瘡発生の有無,褥瘡発生部位,調査時の介助量, 退院時と比較した介助量の変化,同居人の有無,在宅サー. 結   果. ビス利用の有無,外出頻度,就労・就学の有無,自家用. 1.解析対象者の属性(表 1). 車の運転の有無とした。調査時の介助量は「自立」 「部分.  158 名から有効票を回収し,回収率は 51.0%であった。. 介助」 「全介助」の 3 段階,退院時と比較した介助量の変. このうち褥瘡発生の有無についての記載に欠損のない. 化は「減少」 「変化なし」 「増加」の 3 段階,外出頻度は「3. 149 名を解析対象とした。内訳は年齢が 40.1 ± 15.2 歳,. 回以上 / 週」 「1 ∼ 2 回 / 週」 「月 2 回以下」の 3 段階に. 性別が男性 121 名(81.2%) ,女性 28 名(18.8%)であっ. 分類した。就労・就学の有無は退院後一度でも就労・就. た。損傷レベルは頸髄損傷者 78 名(52.3%),胸腰髄損. 学した者を「あり」とした。また,アンケートの回答が. 傷者 71 名(47.7%)であった。損傷の程度は完全損傷. 得られた対象者については,個人因子として,カルテ診. 86 名(57.7%) ,不全損傷 63 名(42.3%)であった。入. 療録より退院時の年齢,性別,脊髄損傷レベルと損傷の. 院 中 の 褥 瘡 既 往 の 有 無 に つ い て は,「 あ り 」 が 75 名. 程度,急性期病院を含めた入院中の褥瘡既往の有無,退. (50.3%), 「なし」が 74 名(49.7%)であり,対象者の. 院後の期間を抽出した。損傷レベルは ASIA(American. 約半数は受傷から退院までの期間に褥瘡が発生してい. Spinal Injury Association)の NLI(Neurological Level of. た。退院後の褥瘡発生の有無については,「あり」が 76. Injury)を基準に「頸髄」 「胸腰髄」の 2 群に分類した。. 名(51.0%) ,「なし」が 73 名(49.0%)であり,約半数. 損傷の程度は「完全損傷」 「不全損傷」の 2 群に分類し,. は退院後に褥瘡が発生していた。褥瘡部位は足部 27 名. AIS(Asia Impairment Scale)A を「完全損傷」 ,B・C・. (35.5%) ,仙骨 21 名(27.6%),尾骨 21 名(27.6%) ,坐. D を「不全損傷」とした。なお,AIS E の対象者は含ま. 骨 18 名(23.7 %) , 大 転 子 3 名(3.9 %) ,その他 3 名. れていなかった。退院後の期間については,退院時期が. (3.9%)の順に多かった。なお,同居人の有無,外出頻. 1996 ∼ 2000 年までの前半 5 年間の者と,2001 ∼ 2005 年. 度,就労・就学の有無の項目にはそれぞれ 1 名,自家用. までの後半 5 年間の者の 2 群に分類した。. 車の運転の有無については 3 名の未記入回答があった。. 3.分析方法. 2.褥瘡あり群,褥瘡なし群の 2 群間における各褥瘡発.  退院後の褥瘡の有無によって褥瘡あり群,褥瘡なし群 の 2 群に分類し,個人因子 6 項目(①退院時の年齢,②. 生関連因子の比較結果  単変量解析の結果(表 2)については,個人因子は損.

(3) 在宅脊髄損傷者の褥瘡発生危険因子の検討. 表 1 対象者の属性. 傷の程度と入院中の褥瘡既往の有無の 2 項目に有意差を. 項目. 損傷レベル(名). 損傷の程度(名). 入院中の褥瘡の既往(名). 退院後の褥瘡発生(名). 褥瘡部位(名). 全体. 認め,完全損傷者(p < 0.01)と入院中の褥瘡既往のあ. n=149. る者(p < 0.01)に褥瘡発生例が多かった。年齢,性別,. 40.1 ± 15.2. 損傷レベル,退院後の期間の 4 項目には有意差は認めら. 男性. 121(81.2%). れなかった。生活関連因子については調査時の介助量. 女性. 28(18.8%). (p < 0.01) ,介助量の変化(p < 0.05) ,外出頻度(p <. 頸髄. 78(52.3%). 0.01),自家用車の運転の有無(p < 0.01)の 4 項目に有. 胸腰髄. 71(47.7%). 意差を認めた。また多重比較において,褥瘡あり群は有. 完全. 86(57.7%). 意に,調査時の介助量は全介助が多く,介助量の変化は. 不全. 63(42.3%). 増加した者が多く,外出頻度は月 2 回以下の者が多かっ. あり. 75(50.3%). なし. 74(49.7%). あり. 76(51.0%). なし. 73(49.0%). 足部. 27(35.5%). 仙骨. 21(27.6%). 尾骨. 21(27.6%). 坐骨. 18(23.7%).  次に,単変量解析で有意差を認めた,損傷の程度,入. 大転子. 3(3.9%). 院中の褥瘡既往の有無,調査時の介助量,介助量の変化,. その他. 3(3.9%). 外出頻度,自家用車の運転の有無の 6 項目を説明変数と. 退院時年齢(歳) 性別(名). 279. 年齢は平均±標準偏差を表記. ( )は割合を表記.褥瘡部位は n=76 に対する割合を表記.. た。一方,同居人の有無,在宅サービスの利用の有無, 就労・就学の有無の 3 項目には有意差は認められなかっ た。なお,在宅サービスについては対象者の 46.3%が利 用しており,その内 71%がヘルパー,15.9%がデイサー ビス・デイケア,5.8%が訪問看護,2.9%が訪問リハを 利用していた。. したロジスティック回帰分析の結果を表 3 に示す。そこ. 表 2 単変量解析による褥瘡発生関連要因の比較結果 項目 退院時年齢 性別 損傷レベル 損傷の程度 入院中の褥瘡の既往 退院後の期間 調査時の介助量. 介助量の変化. 同居人 在宅サービス利用 外出頻度. 就労・就学 自家用車の運転 ※1. 褥瘡あり群 n=76. 褥瘡なし群 n=73. 39.7 ± 14.5. 40.3 ± 16.2. 男性. 62. 59. 女性. 14. 14. 頸髄. 38. 40. 胸腰髄. 38. 33. 完全. 53. 33. 不全. 23. 40. あり. 47. 28. なし. 29. 45. 前半 5 年間. 31. 36. 後半 5 年間. 45. 37. 自立. 13. 26. 部分介助. 36. 36. 全介助. 27. 11. 減少. 7. 18. 変化なし. 47. 42. 増加. 22. 13. あり. 68. 60. なし. 7. 12. あり. 40. 29. なし. 36. 44. 週 3 回以上. 34. 46. 週1∼2回. 16. 19. 月 2 回以下. 25. 8. あり. 36. 38. なし. 40. 34. する. 32. 46. しない. 43. 25. p 値(※ 1) 0.843 1.000 0.624 0.003** 0.005** 0.326. 0.004**. 0.025*. 0.223 0.140. 0.004**. 0.622 0.008**. :年齢は Mann-Whitney の U 検定,その他の項目はフィッシャーの正確確率検定の有意確率を表記.. *:p < 0.05,**:p < 0.01.

(4) 280. 理学療法学 第 44 巻第 4 号. 表 3 ロジスティック回帰分析の結果 項目 損傷の程度. 回帰係数. オッズ比. 95% 信頼区間. p値. 0.687. 1.990. 0.908 ‒ 4.350. 0.086. 完全. 入院中の褥瘡の既往. あり. 0.803. 2.230. 1.0200 ‒ 4.870. 0.044*. 調査時の介助量. 全介助. 0.587. 1.800. 0.4790 ‒ 6.750. 0.384. 部分介助. 0.372. 1.450. 0.5570 ‒ 3.780. 0.446. 介助量の変化. 増加. 0.812. 2.250. 0.6480 ‒ 7.820. 0.201. 0.413. 変化なし 外出頻度. 1∼2回/週 月 2 回以下. 自家用車の運転. なし. 1.510. 0.5190 ‒ 4.400. 0.449. ‒ 0.338. 0.713. 0.2860 ‒ 1.780. 0.468. 0.711. 2.040. 0.7240 ‒ 5.720. 0.177. 1.780. 0.7190 ‒ 4.420. 0.212. 0.578. *:p < 0.05. 表 4 変数減少法による抽出結果 項目 損傷の程度. 完全. オッズ比. 95% 信頼区間. p値. 2.160. 1.030 ‒ 4.530. 0.041* 0.026* 0.006**. 入院中の褥瘡の既往. あり. 2.310. 1.110 ‒ 4.830. 自家用車の運転. なし. 2.720. 1.340 ‒ 5.550. *:p < 0.05 ,**:p < 0.01. から,変数減少法により有意項目を抽出した結果,損傷. まれていたことが考えられる。. の程度,入院中の褥瘡既往の有無,自家用車の運転の有.  また,入院中に褥瘡の既往があることも危険因子とし. 無の 3 項目が抽出され,完全損傷者,入院中の褥瘡既往. て 抽 出 さ れ, こ の 点 に つ い て も い く つ か の 先 行 研. のある者,自動車運転をしない者は有意に褥瘡発生リス. 究. クが高い結果となった(表 4)。. 験することで,褥瘡予防に対する危機意識や自己管理能. 10)12)19). と同様の結果となった。入院中に褥瘡を経. 力が高まり,退院後の再発予防に有効に作用することも. 考   察. 推測されたが,そのような予防効果は認められなかっ.  今回の調査において,褥瘡発生の危険因子として個人. た。皮下組織にまで及ぶ深い褥瘡の治癒後は,その部位. 因子と生活関連因子の両面が関連していることがわかっ. が瘢痕化し,皮膚の弾力性,可塑性が低下する。そのた. た。個人因子ではまず完全損傷であることが危険因子と. め,これまで以上に外力に弱い皮膚状態となり,再発リ. して挙げられた。損傷レベル以下の感覚脱失,あるいは. スクが高くなると考えられる。. 運動麻痺による動作能力の低下が褥瘡発生リスクを.  一方で,年齢,性別,損傷レベル,退院後の期間には. 高めると考えられ,この点については多くの先行研. 有意差は認められなかった。褥瘡有病者の特徴として,. 究. 10)15)16). でも同様の結果であった。また,Chen ら. 10). 疾患未分類下では 65 歳あるいは 70 歳以上の高齢者の割 20)21). の報告では AIS A の完全損傷者であることがもっとも. 合が圧倒的に多いとの報告がある. 褥瘡発生リスクの高い因子であると報告しており,本研. り,皮膚層が薄くなること,創傷治癒能力の低下,栄養. 究においても多変量解析にて危険因子として抽出され. 状態の悪化などにより褥瘡発生リスクが高まると考えら. た。日本における脊髄損傷者の在宅復帰後の褥瘡発生率. れる。しかし脊髄損傷者に関しては,多くの先行研究で. ,本研究対象者の退院. 9) 年齢は褥瘡発生危険因子として否定されており ,本研. 後の褥瘡発生率は 51.0%であり,先行研究よりもやや高. 究も同様の結果となった。日本における脊髄損傷の疫学. い結果であった。全国脊髄損傷データベースによると日. では完全損傷者の平均年齢は不全損傷者に比べ 10 歳以. 本における脊髄損傷者の完全損傷と不全損傷の割合は完. 上低いとされており. は 46.7%と報告されているが. 17). 。加齢変化によ. 18). 18). ,本研究対象者の平均年齢も完. 。それに対して本. 全損傷者が 34.6 ± 13.3 歳,不全損傷者が 47.3 ± 14.5 歳. 研究の解析対象者は完全損傷が 57.7%の割合を占めてい. であった。以上より,年齢による有意差が生じなかった. た。これらのことより,本研究の褥瘡発生率が先行研究. 理由として,褥瘡発生リスクの高い完全損傷者の方が低. に比べて高い理由として,対象者に完全損傷者が多く含. 年齢であったことが考えられる。. 全損傷が 39%であるとされている.

(5) 在宅脊髄損傷者の褥瘡発生危険因子の検討.  損傷レベルについても多くの先行研究と同様に有意差 9). 281. ると考えられる。しかし今回の結果からは,同居人の存. はみられなかった 。損傷レベル別における完全損傷者. 在や在宅サービスの利用が褥瘡予防に有効に作用してお. の割合は,頸髄損傷者 57.7%(完全損傷 45 名,不全損. らず,入院中の家族指導や在宅サービススタッフに対す. 傷 33 名) ,胸腰髄損傷者 57.7%(完全損傷 41 名,不全. る情報提供が不十分であった可能性が考えられた。. 損傷 30 名)と同等であった。頸髄損傷者と胸腰髄損傷.  次に,今回の調査結果を踏まえた褥瘡予防策について. 者を比較した場合,動作能力については頸髄損傷者の方. 考察する。Rintala ら. 22). 23). は入院中に褥瘡予防について. 。また,第 5・6 胸髄より高位の脊髄. の患者教育を行うことや,退院後の定期的なフォロー. 損傷者にみられる自立神経過反射が褥瘡発生危険因子で. アップは褥瘡の再発予防に効果的であると報告してい. が低下している あるとの報告. 3). もあり,頸髄損傷者の方が褥瘡発生リ. る。当院では入院中に,脊髄損傷者を対象とした褥瘡予 24). 。医師や看護. スクは高いと思われる。しかし今回,損傷レベルに有意. 防についての患者教育を実施している. 差が認められなかったことから,褥瘡の既往や活動性な. 師は褥瘡の基礎知識についての患者教育を行い,セラピ. ど,その他の要因が褥瘡発生危険因子としてより重要で. ストは圧力分布測定器を用いて各個人に適した環境調. あると考えられる。. 整,除圧動作指導を実施している。また,褥瘡を有して.  生活関連因子では介助量の多いことが褥瘡発生危険因 5). いる患者に対しては,創の形状を視診し,持続的な圧に. は慢性期脊髄損傷. よる創なのか,剪断力が働いて生じた創なのかを判断. 者を動作能力の違いにより,歩行が可能か,車いす自操. し,身体状況や動作方法,生活パターンと照合し,原因. が可能か,ベッド上生活かに区分し,褥瘡発生危険因子. の把握に努めている。そのうえで動作方法,除圧動作の. を検証した結果,動作能力が低いほど褥瘡発生率が高い. 指導,変更を行っている。また,同時にクッションを含. と報告している。しかし脊髄損傷者の場合,車椅子使用. めた車いすシーティングやベッドマットレスの適合を評. 者であっても日常生活が自立している者も多く,必ずし. 価し,必要に応じて調整,変更を行っている。車いす調. も移動形態と ADL 能力は関連しないと考えられる。本. 整についてはフットレスト高,背シート張り,座面角度. 研究は日常生活での介助量を目安に分類し,その結果全. などを調整することで圧分散を図ったうえで,クッショ. 介助者は有意に褥瘡発生率が高い結果となった。また,. ン変更の必要性を検討している. 褥瘡部位が坐骨に比べ足部や仙骨に多いことからも,褥. 査結果からは,退院後の褥瘡発生率の減少に対するこれ. 瘡発生者の多くはベッド上で発症した可能性が高いと推. らの取り組みによる効果は十分でないと考えられる。. 測される。一方で,日常生活が自立している 39 名の内. Cogan ら. の 13 名(33%)は退院後の褥瘡経験を有しており,脊. 対する褥瘡予防のための生活指導の効果については現在. 髄損傷者の場合には ADL 自立レベルの者においても十. 十分なエビデンスが得られていないと報告しており,こ. 分な注意が必要であるといえる。. の報告からも褥瘡予防の困難さがうかがえる。特に当院.  また,自家用車の運転をしない者,外出頻度が月 2 回. のように完全損傷者の割合が多い場合には,より一層の. 以下の者は有意に褥瘡発生率が高い結果となった。活動. 患者教育の充実が求められる。その点については今回の. 性の高い脊髄損傷者においては,床トランスファーや自. 結果も踏まえ,褥瘡発生リスクの高い脊髄損傷者には特. 動車トランスファー,障害者スポーツなどの,外的スト. に,家族あるいは在宅サービス従事者への介護指導,情. レスの強い応用動作時に褥瘡が発生する例もみられる。. 報提供を徹底する必要があると考える。その中で,在宅. 子として挙げられた。Salzberg ら. 14). 26). 25). 。しかし,今回の調. はメタアナリシス研究にて,脊髄損傷者に. においても自動車運転をす. で簡便に実施できる取り組みとして,日々の皮膚状態の. る者や外出頻度の多い者,車いす座位時間の長い者の方. 観察が挙げられ,ベッド上での頻繁な体位交換やプッ. が褥瘡発生リスクは低いと報告しており,外出頻度が少. シュアップによる自己での除圧動作よりも褥瘡予防効果. なく,活動性の低い者は褥瘡発生リスクが高いと考えら. は高いとの報告がある. れる。. 部位である仙骨,尾骨,坐骨などの殿部や足部の皮膚状.  以上より,生活関連因子については,疾患を問わず従. 態を習慣的に観察しておくだけでも,褥瘡発生を未然に. 来から危険因子として挙げられている介助量の多さ,活. 防止することができる,あるいは悪化する前に対処が可. 動性の低さが脊髄損傷者においても重要な因子であった。. 能になると考えられる。.  加えて,今回の調査で注視すべき点は,同居人の有無.  最後に,本調査の課題について考察する。本調査は自. や在宅サービス利用の有無において褥瘡発生率に有意差. 記式アンケートであり,脊髄損傷者本人の主観的判断に. が認められなかったことである。米国での調査では,既. よる回答であるため,褥瘡とみなす基準や介助量の区別. しかし,Morita らの報告. 10)11). 9)27). 。更衣や入浴時に褥瘡好発. が報告. が不明瞭であることが挙げられる。また,在宅にて褥瘡. されている。基本的には第三者が携わることで,皮膚. が発生した時期と,在宅サービスの利用や就労・就学の. チェックや除圧の機会が増え,褥瘡発生リスクは軽減す. 有無,自家用車の運転などの各褥瘡発生関連因子が成立. 婚者は独身者に比べ褥瘡発生率が低いこと.

(6) 282. 理学療法学 第 44 巻第 4 号. した時期との時系列が不明である。これらの点について は,より信頼性の高い結果が得られるよう,調査方法を 検討する必要がある。 結   論  本研究では,アンケート調査を用いた後ろ向き研究に より在宅脊髄損傷者の褥瘡発生危険因子を検証した。結 果より,完全損傷であること,入院中の褥瘡の既往があ ること,介助量が多いこと,活動性が低いことが危険因 子となることが明らかとなった。一方で,同居人の存在 や在宅サービス利用の有無については褥瘡予防に有効に 作用していない可能性が示唆された。本研究の結果は, 褥瘡発生リスクのより高い脊髄損傷者の把握が可能とな ることで,褥瘡予防アプローチを実践するうえでの有用 な基礎資料になると考える。 文  献 1)Johnson RL, Gerhart KA, et al.: Secondary conditions following spinal cord injury in a population-based sample. Spinal Cord. 1998; 36: 45‒50. 2)Chen D, Apple DF Jr, et al.: Medical complications during acute rehabilitation following spinal cord injury-current experience of the Model Systems. Arch Phys Med Rehabili. 1999; 80: 1397‒1401. 3)池田篤志:脊髄損傷の治療から社会復帰まで─全国脊髄損 傷データベースの分析から─.古澤一成(編),保健文化 社,東京,2010,pp. 32‒42. 4)Mortenson WB, Miller WC: A review of scales for assessing the risk of developing a pressure ulcer in individuals with SCI. Spinal cord. 2008; 46: 168‒175. 5)Salzberg CA, Byme DW, et al.: A NEW PRESSURE ULCER RISK ASSESSMENT SCALE FOR INDIVIDUALS WITH SPINAL CORD INJURY. Am J Phys Med Rehabil. 1996; 75: 96‒104. 6)Sumiya T, Kawamura K, et al.: A survey of wheelchair use by paraplegic individuals in Japan. Part 2: Prevalence of pressure sores. Spinal cord. 1997; 35: 595‒598. 7)Cardenas DD, Hoffman JM, et al.: Etiology and incidence of rehospitalization after traumatic spinal cord injury: a multicenter analysis. Arch Phys Med Rehabili. 2004; 85: 1757‒1763. 8)北川恒実,北村哲彦:脊髄損傷リハビリテーションにおけ る合併症のおよぼす影響:特に,褥瘡および尿路感染症 による身体的・医療経済的損失について.J Nippon Med Sch. 2002; 69: 268‒277. 9)Gelis A, Dupeyron A, et al.: Pressure ulcer risk factors in persons with spinal cord injury part 2: the chronic stage. Spinal cord. 2009; 47: 651‒661.. 10)Chen Y, Devivo MJ, et al.: Pressure ulcer prevalence in people with spinal cord injury: age-period-duration effects. Arch Phys Med Rehabili. 2005; 86: 1208‒1213. 11)Krause JS, Vines CL, et al.: An exploratory study of pressure ulcers after spinal cord injury: relationship to protective behaviors and risk factors. Arch Phys Med Rehabili. 2001; 82: 107‒113. 12)Klotz R, Joseph PA, et al.: The Tetrafigap Survey on the long-term outcome of tetraplegic spinal cord injured persons: Part III. Medical complications and associated factors. Spinal cord. 2002; 40: 457‒467. 13)Saunders LL, Krause JS, et al.: Association of race, socioeconomic status, and health care access with pressure ulcers after spinal cord injury. Arch Phys Med Rehabili. 2012; 93: 972‒977. 14)Morita T, Yamada T, et al.: Lifestyle risk factors for pressure ulcers in community-based patients with spinal cord injuries in Japan. Spinal cord. 2015; 53: 476‒481. 15)Mckinley WO, Jackson AB, et al.: Long-term medical complications after traumatic spinal cord injury: a regional model systems analysis. Arch Phys Med Rehabili. 1999; 80: 1402‒1410. 16)Krause JS: Skin sores after spinal cord injury: relationship to life adjustment. Spinal cord. 1998; 36: 51‒56. 17)山崎昌廣,小村 堯:脊髄損傷者の車いすスポーツ活動に は褥瘡形成に対する予防効果があるか? 体力科学.1994; 43: 121‒126. 18)古澤一成,徳弘昭博 : 不全型脊髄損傷者の疫学と病態.理 学療法ジャーナル.2009; 43: 187‒193. 19)Garber SL, Rintala DH, et al.: Pressure ulcer risk in spinal cord injury: predictors of ulcer status over 3 years. Arch Phys Med Rehabili. 2000; 81: 465‒471. 20)須釜淳子:療養場所別褥瘡有病者の特徴およびケアと局所 管理.褥瘡会誌.2008; 10: 573‒585. 21)大浦武彦:日本における褥瘡の現状と問題点.褥瘡会誌. 1999; 1: 201‒214. 22)元田英一:脊髄損傷の治療から社会復帰まで─全国脊髄損 傷データベースの分析から─.古澤一成(編),保健文化 社,東京,2010,pp. 91‒115. 23)Rintala DH, Garber SL, et al.: Preventing Recurrent Pressure Ulcers in Veterans With Spinal Cord Injury. Arch Phys Med Rehabili. 2008; 89: 1429‒1441. 24)篠山潤一:褥瘡対策チームと理学療法士.理学療法ジャー ナル.2011; 45: 937‒942. 25)延本尚也,岡野生也,他:脊髄損傷者の褥瘡予防に対する 理学療法士の関わり─車いす上座圧測定による評価と対応 ─.第 53 回近畿 理学療法学術大会抄録集.2013. 26)Cogan AM, Blanchard J, et al.: Systematic review of behavioral and educational interventions to prevent pressure ulcers in adults with spinal cord injury. Clin Rehabil. 2016; 20: 1‒10. 27)Reghavan P, Raza WA, et al.: Prevalence of pressure sores in a community sample of spinal injury patients. Clin Rehabil. 2003; 17: 879‒884..

(7) 在宅脊髄損傷者の褥瘡発生危険因子の検討. 〈Abstract〉. Risk Factors of Pressure Ulcer in Community-resident Persons with Spinal Cord Injury: A Retrospective Study. Naoya NOBUMOTO, PT, Ikuya OKANO, PT, Naoki YAMAMOTO, PT, Takashi YASUDA, PT, Nami HASHIMOTO, PT, Toru OTA, PT, Yoko FUKATSU, PT, Chie TORII, PT, Kouji TAMURA, PT, Tatsuya YAMAGUCHI, PT, Takaaki CHIN, MD, PhD Hyogo Rehabilitation Center Hospital Junichi SASAYAMA, PT, Hitoshi YASUO, PT, Shingo AIMI, PT Hyogo Community Care and Rehabilitation Support Center Kotoko SHIROTA, PT Hyogo Institute of Assistive Technology Takaaki CHIN, MD, PhD Hyogo Institute of Assistive Technology Robot Rihabilitation Center. Purpose: To investigate the occurrence rate of pressure ulcers in community-resident persons with spinal cord injury after discharge from hospital, and to determine the risk factors for pressure ulcers from the perspective of personal and lifestyle factors. Methods: This study included 310 community-resident persons with spinal cord injury who had undertaken rehabilitation treatment and were discharged from hospital between January 1996 and December 2005. A self-administered questionnaire was mailed to all subjects. The risk factors for pressure ulcers were investigated retrospectively on the basis of the self-administered questionnaire and the patients’ medical records. Results: The questionnaire recovery rate was 51%, and about half of the subjects reported experiencing pressure ulcers after discharge. The identified significant factors associated with pressure ulcers were transversal extension, history of pressure ulcer during hospital stay, amount of assistance required at the time of the survey, frequency of going outdoors, and driving a vehicle by oneself. Conclusion: Our results suggest that complete paralysis, a history of pressure ulcers, an increasing need of assistance, and a lower level of activity are risk factors in community-resident persons with spinal cord injury. Key Words: Spinal cord injury, Pressure ulcer, Risk factor, Community. 283.

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