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CKD を合併した心不全カヘキシアに対して栄養療法と運動療法の併用が著効した一例

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(1)理学療法学 第 450 46 巻第 6 号 450 ∼ 456 頁(2019 年) 理学療法学 第 46 巻第 6 号. 症例報告. CKD を合併した心不全カヘキシアに対して栄養療法と 運動療法の併用が著効した一例* 山 本 実 穂 1)# 野 添 匡 史 2) 大 西   晶 1) 桝 矢 璃 央 1) 大 澤 摩 純 1) 久 保 宏 紀 1) 山 崎   允 1) 間 瀬 教 史 2) 島 田 眞 一 1). 要旨 【目的】慢性腎臓病(以下,CKD)を合併した心不全カヘキシア症例に対して,分岐鎖アミノ酸(以下, BCAA)を含むたんぱく質摂取を中心とした栄養療法と運動療法によって身体機能の大幅な改善が得られ たので報告する。【症例紹介】心不全(CKD stage3b 合併)を発症後 1 ヵ月間の中心静脈栄養管理となり 20 kg の体重減少を招いた。身体機能の改善を目的に理学療法が処方されたが,第 76 病日時点で疲労感 が強く,運動耐容能(6 分間歩行距離 150 m)も低下していることからカヘキシアの状態と考えられた。 【経過】BCAA を含むたんぱく質の摂取量を 1.2 g/kg/ 日まで漸増し,運動療法はレジスタンストレー ニ ン グ を 中 心 に 行 っ た。 約 3 ヵ 月 間 で 体 重 は 8.4 kg 増 加 し 6 分 間 歩 行 距 離 は 557 m ま で 改 善 し た。 【結論】CKD を合併した心不全カヘキシア例であっても,たんぱく質摂取量を増やした栄養療法と運動療 法の併用は有効と考えられた。 キーワード 悪液質,慢性腎不全,心不全,栄養療法. 1) ことが報告されている 。運動療法は,たんぱく質の合. はじめに. 成と分解の経路の両方を標的とすることによって,心不 1)6)7).  心不全におけるカヘキシアは,炎症性サイトカインの. 全カヘキシアを改善させる可能性がある. 上昇によりたんぱく質の合成低下と異化亢進が生じ,進. レジスタンストレーニングは,カヘキシアを減少させる. 1). 。さらに. 行性の体重減少を生じる 。また,心不全による腸管浮. 3) ことができると報告されている 。栄養療法では,カロ. 腫や腸管虚血は栄養の吸収障害も生じるため,高度の栄. リー摂取に加えてたんぱく質,特に分岐鎖アミノ酸. 養障害に陥りやすい. 2). 。結果,心不全患者の約 10% に. カヘキシアが認められ. 3). ,最大 50% が栄養失調に陥っ 4). (Branched Chain Amino Acids:以下,BCAA)の摂取 は,心不全カヘキシア患者において有益であるといわれ 3). ていることが報告されている 。心不全患者におけるカ. ている. ヘキシアは予後不良因子であり,年間死亡率は 20 ∼.   一 方, 慢 性 腎 臓 病(chronic kidney disease: 以 下,. 5). 。. 。この心不全カヘキシ. CKD)患者においては,高たんぱく質食によって糸球. アは運動療法や栄養療法によって改善する可能性がある. 体における濾過量が増加することで腎機能が低下すると. 40% にもなるといわれている. いわれており *. Improvement of Physical Function using Nutritional and Exercise Therapy for Cardiac Cachexia Patients with Chronic Kidney Disease: A Case Report 1)伊丹恒生脳神経外科病院 (〒 664‒0028 兵庫県伊丹市西野 1‒300‒1) Miho Yamamoto, PT, Akira Onishi, PT, Rio Masuya, PT, Masumi Osawa, OT, Hiroki Kubo, PT, MSc, Makoto Yamazaki, PT, Shinichi Shimada, MD, PhD: Itami Kousei Neurosurgical Hospital 2)甲南女子大学 Masafumi Nozoe, PT, PhD, Kyoshi Mase, PT, PhD: Konan Women’s University # E-mail: [email protected] (受付日 2019 年 4 月 5 日/受理日 2019 年 8 月 28 日) [J-STAGE での早期公開日 2019 年 11 月 27 日]. 8). ,これはネフロンが障害されることによ. り残りの濾過膜の過剰濾過につながると考えられてい る. 9). 。慢性心不全患者に対する栄養療法では,異化亢進. を考慮して 1.2 ∼ 1.5 g/kg/ 日のたんぱく質摂取が推奨 されているが. 10). ,CKD 患者に対しては標準的なたんぱ. く質摂取量(0.8 g/kg/ 日)以上よりも,より厳格なた んぱく質制限(0.3 ∼ 0.6 g/kg/ 日)を行った方が,腎 臓死は 32%減少することが報告されており. 11). ,CKD. グレード 3b の中等度以上の腎機能障害を有する場合に.

(2) 栄養療法と運動療法が著効した CKD 合併の心不全カヘキシア症例. 451. 入院から約 1 ヵ月間は中心静脈栄養管理で経過した。リ ハビリテーションは発症後 3 週間頃より開始され,ベッ ド上での関節可動域練習や端座位練習,立位練習を行 い,1 ヵ月半頃より歩行器での歩行練習が開始されてい た。  リハビリテーション目的で第 76 病日に当院へ転院。 転院時 BNP は 308 pg/mL,EF は 55% まで改善してい たが,体重は発症前と比べて約 20 kg 減少し 38.9 kg, 2 , 筋 力 低 下( 握 力 BMI は 14.3 kg/m ( 身 長 165 cm). 22.8 kg,膝伸展筋力 15.2 kgf(それぞれ左右平均) ),低 栄養(血清アルブミン(alb)2.3 g/dL),疲労感があり カヘキシアの診断基準. 13). を満たしていた(表 3) 。また,. 2 eGFR37.9 mL/ 分 /1.73 m と stage3b の CKD も併存し. ていた。当院転院時,杖歩行が自立しているレベルで あった。 経   過 1.運動療法(表 1). 図 1 発症時胸部単純 X 線.  運動療法はレジスタンストレーニング(カーフレイ ズ, は,0.6 ∼ 0.8 g/kg/ 日のたんぱく質制限を考慮するこ とが示されている. 10). 回,3 ∼ 5 セットで 3 ヵ月間毎日実施した。本症例は β. 。.  CKD 患者に運動療法を行い,腎機能が悪化すること なく身体機能の改善を認めたとする報告はあるが. 上げ,スクワット,ランジ)と ADL トレーニン. グ(起立着座練習,段差昇降練習)を中心に各 10 ∼ 20. 11)12). ,. 遮断薬を内服していたため予測最大心拍数を Fernandes ら. 14). の計算式を用いて算出し(111 回 / 分) ,安静時心. CKD 患者に対してたんぱく質摂取量を増加させて運動. 拍数(約 70 回 / 分)からカルボーネン法にて目標心拍. 療法を行った際の,腎機能や身体機能の変化についての. 数を設定した(60 ∼ 80%の負荷で 95 ∼ 103 回 / 分) 。. 報告はほとんどみられず,CKD を合併した心不全カヘ. 運動中の自覚強度は修正 Borg Scale(以下,BS)を用. キシア症例に対して運動療法を継続的に行う際に,どの. いて評価し,修正 BS4 での運動中の心拍数は 95 ∼ 100. 程度のたんぱく質摂取量が安全かつ妥当かは不明で. 回 / 分であったため,自覚強度としては修正 BS4 以下. ある。. となるように留意して運動療法を実施した。自転車エル.  今回,CKD を合併した心不全カヘキシア症例に対し. ゴメーターを使用した有酸素運動も試みたが,軽負荷で. て,たんぱく質摂取を中心とした栄養療法と運動療法に. あっても末梢冷感,息切れ,収縮期血圧の低下を認めた. よって身体機能の改善が得られたので報告する。. ため当初は実施を見送った。これらの症状が認められな. 症例紹介. くなった 2 ヵ月経過後より,通常の運動に加えて週に 2 回の頻度で自転車エルゴメーターを用いた有酸素運動を.  症例は 70 歳代,男性。既往歴はなく,喫煙歴は 54 年. 実施した。実施時間は 15 ∼ 20 分間とし,負荷量は修正. (20 ∼ 30 本 / 日) 。4,5 日前から労作性呼吸困難を認め. BS4 となるように調整し,10 watt から開始し 30 watt. ていたが,その後安静時でも呼吸困難を認めたため自ら. まで漸増した。一時的に eGFR が低下した際には負荷. 救急要請。他院の循環器内科に救急搬送され,うっ血性. 量を下げるために中断したが,臨床所見に変化は認めら. 心不全の診断にて入院となる。脳性ナトリウム利尿ペプ. れなかったため,医師と相談し再開した。. チド(以下,BNP)1,049 pg/mL,左室駆出率(以下,.  エネルギー消費量は,「健康づくりのための運動指針. EF)34%,少量の心嚢水,中等量の両側胸水貯留,左. 2006」に記載されている,エネルギー消費量(kcal)=. 上肺野を中心に肺炎を認めていた(図 1)。心不全に対. 1.05 ×エクササイズ(メッツ・時)×体重(kg)を使用. しては,利尿剤とドブタミン,β 遮断薬にて加療し,肺. した. 炎については抗菌薬を,胸水に対しては 3 度の胸水穿刺. ションの時間は 60 ∼ 90 分として計算した。自転車エル. が施行された。入院当初は経口摂取可能であったが第. ゴメーターでの消費カロリーは 15 ∼ 25 kcal 程度であっ. 13 病日より重度の下痢を生じ,検査にて全小腸の粘膜. た。以上より,消費カロリーは入院時に 150 kcal 程度. 浮腫,潰瘍形成を認めたため,治療のために絶食となり. と し, 体 重 の 増 加 と と も に 消 費 カ ロ リ ー も 増 加 し,. 15). 。エクササイズは 3 メッツとし,リハビリテー.

(3) 452. 理学療法学 第 46 巻第 6 号. 表 1 運動療法の推移 入院時. 2 週間後. 4 週間後. 6 週間後. 8 週間後. 10 週間後. 12 週間後. 20 回× 3. 20 回× 4. 20 回× 5. 20 回× 5. 20 回× 5 ( 片脚 ). 20 回× 5 ( 片脚 ). 20 回× 5 ( 片脚 ). 腿上げ (重錘負荷量). ―. 20 回× 3 (1.0 kg). 20 回× 5 (1.5 kg). 20 回× 4 (1.0 kg). 20 回× 5 (2.0 kg). 20 回× 5 (2.0 kg). 20 回× 5 (2.0 kg). スクワット. 20 回× 3. 20 回× 3. 20 回× 5. 20 回× 4. 20 回× 5. 20 回× 5. 20 回× 5. カーフレイズ. ランジ. 20 回× 3. 20 回× 3. 20 回× 5. 20 回× 4. 20 回× 5. 20 回× 5. 20 回× 5. 起立着座練習 (高さ). 10 回× 3 (45 cm). 10 回× 5 (45 cm). 20 回× 5 (45 cm). 20 回× 4 (40 cm). 20 回× 5 (30 cm). 20 回× 5 (30 cm). 20 回× 5 (25 cm). 段差昇降練習 (高さ・重錘負荷量). 20 回× 3 (20 cm). 20 回× 3 (20 cm). 20 回× 5 (20 cm). 20 回× 4 (20 cm). 20 回× 5 (30 cm). エルゴメーター (時間・watt 数). ―. ―. 10 分 10-20 watt. ―. 15 分 20-30 watt. 20 回× 5 20 回× 5 (30 cm ・1.5 kg) (30 cm ・1.5 kg) 20 分 30 watt. 20 分 30 watt. 表 2 栄養療法および腎機能の推移. 摂取 kcal(kcal). 入院時. 2 週間後. 4 週間後. 6 週間後. 8 週間後 10 週間後 12 週間後. 退院 3 ヵ月後. 退院時. 1,600. 1,700. 1,800. 1,900. 2,000. 2,200. 2,200. 2,200. ―. 摂取たんぱく質量(g/kg/ 日). 1.0. 1.1. 1.1. 1.2. 1.2. 1.2. 1.2. 1.2. 1.2. 血清クレアチニン(mg/dL). 1.44. 1.16. 1.07. 1.25. 1.29. 1.32. 1.43. ―. 1.54. eGFR(mL/min/1.73 m2). 37.9. 51.6. 52.4. 44.2. 42.7. 41.6. 38.1. ―. 35.0. 1 日尿蛋白(mg/dL). ―. ―. ―. ―. 3,350. 2,807. 2,620. ―. ―. 尿蛋白 / クレアチニン比(g/gCr). ―. ―. ―. ―. 5.64. 4.47. 4.34. ―. 3.48. eGFR,estimated glemerular filtration rate.. 240 kcal 程度まで増加した。また,毎日運動療法開始前. 3.全身状態・ライフスタイル管理. に前日からの自覚的疲労感の残り具合を確認し,疲労感.  毎日体重測定を行い,増加が認められなくなった際に. が残っている際には負荷量を調整して実施した。. は管理栄養士に負荷量と摂取カロリーのバランスについ て相談し,こまめに運動量の調整を行った。また,心不. 2.栄養療法. 全・腎機能悪化の把握のために急激な体重増加にも注意.  入院後より体重の増加や身体機能の改善は認められた. を払った。経過の中で尿量の減少は認められず,浮腫な. が疲労感が残りやすかったため,当院入院後の第 88 病. どの心不全兆候も認められなかった。. 日より,理学療法の実施後に BCAA を含む経口栄養補.  血圧は,介入当初は運動時において収縮期血圧 130 ∼. 助食品(味の素社製,メディルプチロイシンプラス,. 140 mmHg とやや高値で経過していたが,148 病日より. BCAA2,070 mg,たんぱく質 8 g,熱量 200 kcal)を毎. 降圧薬(アンジオテンシンⅡ受容体拮抗薬)が開始され,. 日 1 パックの摂取を開始した。約 2 週間が経過した時点. その後は運動時においても収縮期血圧は 130 mmHg 以. で腎機能の悪化は認められなかったため,さらなる筋力. 下で経過した。. 強化を目的として,第 105 病日からは BCAA をより多 く含む他の経口栄養補助食品(大塚食品社製,リハデイ. 4.身体機能,歩行能力,腎機能の経過(表 2,3). ズ,BCAA2,300 mg,たんぱく質 11 g,熱量 160 kcal).  身体機能の評価として握力,膝伸展筋力,大. の摂取を開始した。1 日あたりの摂取熱量は 1,600 kcal. 筋厚,下. から開始し,2,200 kcal まで漸増,たんぱく質摂取量は. ル握力計(竹井機器工業株式会社,GRIP-D)を用いて,. 1.0 g/kg/ 日から開始し,1.2 g/kg/ 日まで漸増した。た. 端座位にて左右交互に 2 回測定し最大値を記録した. んぱく質提供量増加時には,特に心不全・腎機能の悪化. 膝伸展筋力はハンドヘルドダイナモメーター(アニマ株. がないことを確認しながら医師・管理栄養士と協働で栄. 式会社,μ Tas F-1)を用いて,端座位にて下. 養療法の管理を進めた。. し膝関節を 90 度屈曲させた姿勢をとり,下. 四頭筋. 周径を測定した。握力はスメドレー式デジタ 16). 。. を下垂 遠位部前. 面にセンサーパッドがくるように計測固定用ベルトを使.

(4) 栄養療法と運動療法が著効した CKD 合併の心不全カヘキシア症例. 453. 表 3 身体組成・栄養状態・筋力・筋量・運動機能の推移 入院時. 2 週間後. 4 週間後. 6 週間後. 8 週間後. 10 週間後. 12 週間後. 退院時. 38.9. 43.1. 44.5. 45.8. 45.9. 45.8. 45.9. 46.4. 2. BMI(kg/m ). 14.3. 15.8. 16.4. 16.8. 16.9. 16.8. 16.9. 17.0. 血清アルブミン(g/dL). 2.3. 2.6. 2.4. 2.4. 3.1. 3.0. 3.1. ―. 握力(kg)*. 22.8. 24.5. 24.9. 25.2. ―. 26.9. 25.3. 25.7. * 膝伸展筋力(kgf). 15.2. 17.0. 21.6. 20.5. ―. 27.9. 34.4. 31.1. 体重(kg). 大. * 四頭筋筋厚(cm). 1.9. 1.9. 2.3. 2.5. ―. 2.6. 2.8. 2.9. 下. * 周径(cm). 26.3. 28.3. 30.0. 30.5. ―. 31.0. 30.8. 30.3. 10 m 歩行時間(sec). 12.0. 10.8. 9.8. 8.7. ―. 8.6. 7.8. 8.1. TUG(sec). 10.8. 7.6. 6.9. 6.7. ―. 6.4. 5.5. 5.7. FBS(点). 52. 52. 54. 54. ―. 56. 56. 56. 6 分間歩行距離(m). 150. 300. 300. 472. ―. 507. 557. 567. * 左右の平均値 BMI,Body Mass Index;TUG,Timed Up & Go Test;FBS,Functional Balance Scale.. 。測定時にはセン. 低下を認めたものの,退院時には 38.1 mL/min/1.73 m2. サーパットを検者が固定し,最大限に膝を伸展するよう. と入院時と同様の CKD グレード 3b であり,入院時と. に口頭で指示を出して測定を行った。測定は疲労がない. 比較して大きな変化は認められなかった。尿蛋白におい. ことを確認して左右 2 回測定し,最大値を記録した。大. ては 8,10,12 週間後のみ測定されたが,その間におい. 用して下. 後方の支柱に固定した. 四頭筋筋厚は,大. 17). 直筋および中間広筋を含む大. ても 5.64 g/gCr から 4.34 g/gCr へと減少を認めた。. 四頭筋の厚さを,超音波診断装置(フクダ電子,UF4100AM)を用いて測定した。測定は仰臥位で行い,ト. 5.退院時指導と退院後の経過(表 2). ランスデューサーを用いて上前腸骨棘と膝蓋骨上縁を結.  第 169 病日に自宅退院となった。当院退院時には自主. 18). 。超音波. 練習として自宅でも一人で安全に行えるような下肢筋力. 画像診断装置を用いた筋厚測定は浮腫などの影響を受け. トレーニング(踵上げ,スクワット)と ADL トレーニ. んだ中点で 3 回測定し平均の値を記録した にくいことも報告されているため. 19). ,今回筋厚測定方. 法として採用した。. ング(起立着座練習)と,作業療法士よりストレッチ体 操の方法を指導した。また,退院後の屋外移動能力改善.  身体機能においては,握力,膝伸展筋力,大. 四頭筋. を目的に訪問リハビリテーションも実施された。退院後. 周径のすべてにおいて,当院入院時に比べて. の栄養管理については,腎機能を考慮し減塩・低たんぱ. 退院時に向上を認めた。特に,膝伸展筋力は 15.2 kgf か. く食の宅配弁当を昼と夜に利用して,1 日のたんぱく質. ら 34.4 kgf へ 増 加 し, 大. 摂取量を 1.2 g となるように設定し,訪問リハビリテー. 筋厚,下. 四 頭 筋 筋 厚 は 1.9 cm か ら. 2.8 cm へと大きな増加を認めた。. ションの際にたんぱく質摂取量の確認を行った。退院 3 ヵ.  歩行能力においては,10 m 歩行時間,Timed Up &. 月後の時点で屋外歩行は自立となり,買い物などの外出. Go Test とともに当院入院時に比べて退院時において短. も 1 人で可能となった。また,体重は 47.0 kg で退院時. 縮しており,特に 6 分間歩行距離においては当院入院時. のまま維持できており,浮腫は認められず心不全の再発. 150 m であったが,退院時には 557 m と大幅に向上し. 2 はなく,eGFR は 35.0 mL/min/1.73 m と CKD グレード. た。バランスの指標である Functional Balance Scale に. 3b と退院時と同様であり悪化は認められていなかった。. おいても,当院入院時は 52 点であったが,退院時には 満点まで改善した。そのため自立度は,屋内では杖なし. 考   察. で自立し,屋外は見守りで可能となった。.  本症例はうっ血性心不全発症後にカヘキシアの状態を.  栄養状態においては,当院入院時の血清アルブミンは. 呈した CKD 合併の高齢者であった。運動療法ではレジ. 2.3 g/dL で あ っ た が 徐 々 に 改 善 を 認 め, 退 院 時 に は. スタンストレーニングを中心に行い,栄養療法では. 3.1 g/dL まで増加した。体重も徐々に増加し,当院入. BCAA を含むたんぱく質の摂取を漸増した結果,心不. 院時と退院時を比べると 7.5 kg の増加を認めた。. 全・腎機能の悪化は認められず,身体機能,歩行能力は.   腎 機 能 に つ い て は, 当 院 入 院 時 eGFR は 37.9 mL/. 向上した。. 2. min/1.73 m で CKD グレード 3b であり,6 週間後より.

(5) 454. 理学療法学 第 46 巻第 6 号 26). 1.心不全カヘキシアに対する運動・栄養療法について. なかったとしている.  慢性心不全患者は,熱量とたんぱく質の摂取が不十分. 状態と代謝異常の両方の改善を示している結果と考えら. であり,身体活動のためのエネルギー利用能が低下して. れ,BCAA 摂取が不十分となれば,筋の代謝障害を軽. いる. 20). 。心不全患者の 54% においてエネルギー摂取量,. またはたんぱく質摂取量の不足,または両方の不足によ る栄養失調が認められたことが報告されており. 20). ,さ. 。この結果は BCAA 摂取が栄養. 減することができないことを示唆している。これは,通 常のエネルギー摂取のみではたんぱく質合成および組織 形 成 が 制 限 さ れ る 可 能 性 が あ る と い え る。Aquilani 29). はさらに,BCAA 摂取により最大運動負荷強度も. らに心不全によって,腸浮腫による吸収不良や,サイト. ら. カイン産生による食欲不振,ならびに疲労および呼吸の. 有意に増加したと報告しており,BCAA の摂取は循環. 増加による摂食制限により栄養失調が促進される可能性. 機能,筋肉酸素消費量,および有酸素エネルギー生産を. がある. 21). 。栄養失調はときに筋肉消耗および末梢浮腫. を伴うカヘキシアに進行する. 4). 。慢性心不全患者におけ. 改善することにより,運動能力を高めることを示唆して いる。. るカヘキシアへの移行は,食物摂取量の減少だけではな く,微量栄養素や多量栄養素の欠乏がこの疾患の進行に. 2.CKD における運動・栄養療法について. 寄与し,さらに腸壁浮腫および腸管灌流の減少の結果と.  腎不全および虚弱などの心不全に関連する一般的な併. しての腸からの吸収不良も大きく影響するといわれてい. 存 疾 患 も ま た, 心 臓 悪 液 質 の 一 因 と な る. る. 22). 。心不全カヘキシアでは骨格筋が疲労しやすくな. り,さらに骨格筋総量の低下,質の低下も生じるといわ 23). 4). 。 一 方,. CKD ではたんぱく質制限が必要といわれている. 30). 。.  CKD 患者に対する運動療法の効果については,低た. 。心不全患者における栄養失調およびカヘ. んぱく質食(0.6 g/kg/ 日)であってもレジスタンスト. キシアの発生は,生活の質を低下させ,死亡率を上昇さ. レーニングを行った方が筋力を増強し筋肉量も増加さ. れている. せるといわれていることからも. 4). ,心不全カヘキシアに. 対する栄養療法は重要といえる。. 31). ,さらに炎症を軽減し栄養状態を改善させると報. 告されている.  心不全カヘキシアは運動療法や栄養療法によって改善 する可能性があることが報告されている. せ. 1). 。運動療法を. 32). 。Watson ら 11) は CKD 患者に対して. 週 3 回 8 週間,1RM の 70% でレジスタンストレーニン グを行い,腎機能の悪化なく大. 直筋の筋肉量が増加. 行うにあたって,十分の熱量やたんぱく質の摂取といっ. し,膝伸展筋力の増加を認めたと報告している。また. た栄養療法を行った方が,身体機能の向上といったリハ. Headley ら. ビリテーションの効果が得られることが報告されてい. 運動を週 3 回 16 週間実施し,最高酸素摂取量が上昇し. る. 24). 。. 12). は,CKD stage3 の患者に対して有酸素. たと報告している。以上のように CKD 患者に対する運.  カヘキシアに対する栄養療法として有用とされるもの. 動療法は,中等度以下の運動では腎機能への長期的な悪. は,通常の食事に加えて高カロリー栄養補助食品等を利. 影響を認めず,身体機能の改善を認めたとする報告が多. 用した栄養の補給や,患者の病態に応じた個別のアプ. くある。CKD 患者に対する運動処方として,アメリカ. ローチを実施することが有効といわれている. 25). 。なか. スポーツ医学会のガイドライン. 33). では,レジスタンス. でも BCAA 摂取による効果について多く報告されてお. トレーニングにおいて,頻度として週 2 ∼ 3 日,運動強. り,その効果としては,通常のエネルギー摂取のみより. 度は 1RM の 70 ∼ 75%,時間は 10 ∼ 15 回で 1 セット. も循環機能や身体機能が改善すると報告されている。必. とし,患者の耐容能に応じてセット数の制限はなく,大. 須アミノ酸は,筋のたんぱく質代謝回転と好気性代謝の. 筋群を動かすための 8 ∼ 10 種類の運動が示されている。. 両方に影響を及ぼし. 26). ,さらに直接的に骨格筋や心臓. などの組織でたんぱく質合成を刺激し,分解を阻害す る. 27)28). 。さらに,インスリン抵抗性を低下させること. によってグルコースの酸化を間接的に改善することがで きるといわれている  Aquilani らは. 27). 。. 26). ,慢性心不全患者において適切なエ.  一方 CKD 患者に対する栄養療法としては,CKD グ レード 3b の中等度以上の腎機能障害を有する場合には, 0.6 ∼ 0.8 g/kg/ 日のたんぱく質制限を考慮することが 示されているが. 10). ,より厳格なたんぱく質制限(0.3 ∼. 0.6 g/kg/ 日)を行った方が,腎臓死は 32%減少するこ とも報告されている. 11). 。一方,低たんぱく質(0.55 g/. ネルギー摂取に加えて BCAA 摂取の有無で効果を検証. kg/ 日)を摂取していても,中等量のたんぱく質(0.80 g. したところ,摂取した方が体重は有意に増加し,また血. /kg/ 日)を摂取した者と比較して,死亡または透析療. 漿乳酸およびピルビン酸レベルが減少していたことか. 法開始のリスクは減少しなかったとも報告されてお. ら,筋の代謝障害を改善していたと結論づけている。さ. り. らに最大酸素摂取量や 6 分間歩行距離の改善を認めた. については一定の結果をみていない。. が,適切なエネルギーたんぱく質摂取のみの群では,体 重の増加や筋の代謝と歩行能力の有意な向上は認められ. 34). ,CKD 患者に対するたんぱく質摂取量による効果.

(6) 栄養療法と運動療法が著効した CKD 合併の心不全カヘキシア症例. 3.本症例における運動療法と栄養療法の効果  本症例では,運動強度や運動内容についてはガイドラ インと同様の内容であったが,頻度は毎日と高頻度で 行った。そのため,毎日運動後の疲労度を確認して負荷. 455. 得た。 利益相反  本症例報告について開示すべき COI はない。. 量の調整を行った。また本症例の運動療法はレジスタン ストレーニングを中心に行い,運動後に BCAA の摂取. 謝辞:本報告に際し,ご協力いただいた患者様,ご家族. を行い,腎機能の悪化がないことを確認しながら,たん. 様に心より感謝いたします。また多大なご理解とご協力. ぱく質の摂取量を 1.0 g/kg/ 日から開始し 1.2 g/kg/ 日. をいただきました伊丹恒生脳神経外科病院リハビリテー. まで漸増した。. ション部スタッフの皆様に深く感謝いたします。.  今回,体重の変化や疲労度などの全身状態を日々確認 しながら,腎機能の悪化や心不全兆候がないかを確認す ることでリスク管理を行い,さらに医師や管理栄養士と 相談しながら介入を行ったことで,安全に身体機能を大 きく改善させた一因になったと考えられた。また,6 分 間歩行距離が大きく延長していることからも,BCAA を摂取したことで筋力,持久力がより向上した可能性が ある。 4.本報告の限界  本報告の限界点として 1 つ目に,骨格筋量の測定が行 えていないためどの程度筋量が増加したかは不明であ る。2 つ目に,予測最大心拍数を算出するにあたって, 本 症 例 で は β 遮 断 薬 を 内 服 し て い た た め Fernandes ら. 14). の計算式を用いたが,現時点での信頼性は確立さ. れておらず,運動負荷強度の設定が正確に行えていたか 否かは不明である。3 つ目に,心肺運動負荷試験を行え ていないため,運動負荷が適切にかけられていなかった 可能性がある。重ねて,代謝機能や心肺機能がどの程度 改善したかは不明である。  4 つ目に栄養療法および腎機能の指標の測定が経時的 に追えていないこと,5 つ目に 8 週間後の身体機能評価 が測定者の問題により行えていないことが挙げられる。 結   論  今回,CKD を合併した心不全カヘキシア症例に対し て,たんぱく質摂取を中心とした栄養療法とレジスタン ストレーニングを中心とした運動療法を行った。腎機能 の悪化に留意しながら,医師や管理栄養士と協働でたん ぱく質摂取量および運動負荷を増加させ,退院時には栄 養状態・身体機能は向上を認め,退院 3 ヵ月後も腎機能 の悪化なく経過した。以上から,CKD を合併した心不 全カヘキシア例であっても,腎機能の悪化に留意しなが ら積極的な栄養療法と運動療法を実施することは有効と 考えられた。 倫理的配慮  本症例に対して本報告の趣旨を十分に説明し,理学療 法評価および経過について記載することについて同意を. 文  献 1)Saitoh M, Ishida J, et al.: Sarcopenia, cachexia, and muscle performance in heart failure: Review update 2016. Int J Cardiol. 2017; 238: 5‒11. 2)小笹寧子:栄養と心血管疾患 心臓悪液質.月刊心臓. 2016; 48: 1232‒1237. 3)von Haehling S, Ebner N, et al.: Muscle wasting and cachexia in heart failure: mechanisms and therapies. Nat Rev Cardiol. 2017; 14: 323. 4)Rahman A, Jafry S, et al.: Malnutrition and Cachexia in Heart Failure. JPEN J Parenter Enteral Nutr. 2016; 40: 475‒486. 5)von Haehling S, Anker MS, et al.: Prevalence and clinical impact of cachexia in chronic illness in Europe, USA, and Japan: facts and numbers update 2016. J Cachexia Sarcopenia Muscle. 2016; 7: 507‒509. 6)Hambrecht R, Schulze PC, et al.: Effects of exercise training on insulin-like growth factor-I expression in the skeletal muscle of non-cachectic patients with chronic heart failure. Eur J Cardiovasc Prev Rehabil. 2005; 12: 401‒406. 7)Toth MJ, Ward K, et al.: Chronic heart failure reduces Akt phosphorylation in human skeletal muscle: relationship to muscle size and function. J Appl Physiol. 2011; 110: 892‒900. 8)Brenner BM, Meyer TW, et al.: Dietary protein intake and the progressive nature of kidney disease: the role of hemodynamically mediated glomerular injury in the pathogenesis of progressive glomerular sclerosis in aging, renal ablation, and intrinsic renal disease. N Engl J Med. 1982; 307: 652‒659. 9)Bosch JP, Lew S, et al.: Renal hemodynamic changes in humans. Response to protein loading in normal and diseased kidneys. Am J Med. 1986; 81: 809‒815. 10)日本心不全学会ホームページ 心不全患者における栄養評 価・管理に関するステートメント.http://www.asas.or.jp/ jhfs/pdf/statement20181012.pdf(2019 年 4 月 1 日引用) 11)Watson EL, Greening NJ, et al.: Progressive Resistance Exercise Training in CKD: A Feasibility Study. Am J Kidney Dis. 2015; 66: 249‒257. 12)Headley S, Germain M, et al.: Short-term aerobic exercise and vascular function in CKD stage 3: a randomized controlled trial. Am J Kidney Dis. 2014; 64: 222‒229. 13)Evans WJ, Morley JE, et al.: Cachexia: a new definition. Clin Nutr. 2008; 27: 793‒799. 14)Fernandes Silva MM, Bacal F, et al.: Age-related maximum heart rate among ischemic and nonischemic heart failure patients receiving β -blockade therapy. J Card Fail. 2012; 18: 831‒836. 15)厚生労働省ホームページ 健康づくりのための運動指針 2006.http://www.mhlw.go.jp/shingi/2006/07/dl/s0719-.

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参照

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