視覚障がい児とデザイン
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(2) 4.さわる絵本の目的 前述で紹介した様々なさわる絵本を通して、見えない・見え にくい子どもたちは、当然ながら一般的な市販の絵本も読み聞 かせで聞いたり、自分で選んで読んだりすることがあるが、さ わる絵本があることによって手で物を触ることに慣れていく。 例えば、絵本は大好きで見る意欲はあるが、ぬいぐるみのよう なふわっとした立体の物が触れないというような、苦手な感触 や物を触ること自体に強い抵抗感がある子どももいる。そう いったときに、物語は知っている絵本で、絵が様々な素材で立 図3 反射材や凹凸のある絵本『ぷれいぶっく』. 体化されているさわる絵本を使用することで、触ることに慣れ るのである。また、絵を見て子どもが名称を答えられても、そ の細部まで知らない、知る機会がもてていないという場合があ る。このようなときでも、さわる絵本であれば大人と一緒に物 語の中で確認することができる。図7のように8)、時計の絵を 見て時計とは答えられても、長針や短針があるということを 知っているのか、梟も同じように、羽が生えていることを知っ ているのか、絵だけではわからない部分を再現することで情報 を楽しみながら得る機会ができるのである。 また、山や海などの自然、月や太陽などの天体といった実際 に自分の手では把握出来ない事象、動物の様々な姿や昆虫の細. 図4 ユニバーサルデザイン絵本『りんご』. 部など生き物の事、こういった自分の知らない事物を知ること ができる。その中で、手で“触る”ということに慣れていく と、子どもたちは物語に登場する物を“探す”ようになってい く。子どもへの絵本の読み聞かせでよくある、物語の流れを先 取り「つぎはおばけがでてくるで」と子どもが言うのと同じよ うに、物語の流れや登場人物などの位置を覚え、次第に自ら探 すようになっていくのである。 さわる絵本によって、手指の発達を促しながらも、「なんだ ろう」と不思議に思い、自らの手で触ってみようとする、 「もっ と見てみたい」、「知りたい」と思う気持ちを育む。見えない・ 見えにくい子どもたちは、さわる絵本も含め、様々な遊びの中 で両手の協応や目と手の協応の力をつけ、その力は子ども一人 一人の生活力へと繋がっていく。. 図5 拡大文字絵本『しろくまちゃんのほっとけーき』. 図6 さわる絵本『がたんごとんがたんごとん』. 図7 立体化された時計と梟『ねないこだれだ』. デザイン学研究特集号 Special Issue of Japanese Society for the Science of Design Vol.24-1 No.93 2016. 29.
(3) 5.絵本を読む環境と補助具 さわる絵本に限らず絵本を読む環境として、子ども一人一人. くは近い素材を使用する。特に服は毎日着るものであり、自然 と子どもたちの手や体が触れている素材であるため、いざ触ろ. の視覚に合わせ、見やすい姿勢や絵本の角度、補助具を取り入. うとした時の抵抗感が比較的少ない素材だと思われる。また、. れるなどの配慮が要る。机上で絵本を読む場合、安定した場で. 服を再現するときには物語の内容によっては、絵では通常見え. 絵本を見たり、触ったりできるようにするとともに、書見台. ていない服の下の体や下着を再現する場合もある。. (本を安定させて置ける角度調整可能な台)やルーペを使用す. また、図10のように現実には存在しないおばけや、触る機. る場合がある。肢体不自由の子どもたちの場合、仰臥位姿勢や. 会の少ないロボットの素材は、視覚障害の当事者に素材のイ. 座位保持椅子を使用しての安定した姿勢を保つことで、リラッ. メージを聞いて再現している。おばけはさらっとしたサテン調. クスし、絵本を見ようとすることに集中しやすい環境を作る。. の布を使用し、ロボットはホログラムシールでプラスチック. 小集団で絵本を読む場合、黒い衝立で周りを囲うなど、余計な. ボードをコーティングしている。本物に近い素材、子どもに. 視覚情報を減らすことも絵本に集中しやすい環境といえる。. とって身近な素材を使用しながらも、一つの物語で登場する キャラクターの目や口は同じ素材にし、統一性をもたせること. 6.さわる絵本のデザイン. もわかりやすさの点で重要である。立体化されている絵と背景. さわる絵本のほとんどが手作りされる中で、見えない・見え. のコントラストをよくし、ホログラムシールのような光る素. にくい子どもたちがより絵本を楽しめるための工夫がいくつか. 材、反射材を使用するなど、見えにくい子どもにとっても楽し. ある。実際に原作をもとに立体化されているさわる絵本を例に. める要素を取り入れ、すべての子どもが同じ絵本を共有して読. 紹介する。. むことが出来るようにしている。. ① 字の工夫 さわる絵本の多くは見開きの左が文字、右が触察部であるタ. 図11の布絵本では10)、原作はキャラクターの両手が一緒に 動くが、立体化した場合、片手ずつ触れることで、手というこ. イプが多く、絵本自体は大きくても美濃判サイズ(398mm. とがわかりやすくなる。重度心身障害のある子どもであっても、. 275mm)が多い。文字はゴシック体であり、図8のさわる絵. 全て布であることから握りやすく、子ども自身の体よりも絵本. 本. が小さいため、手を前に出すだけで触れることが可能である。. 9). では、美濃判サイズにフォントタイプ「HG ゴシック E」、. フォントサイズ「42ポイント」である。絵本の大きさにも左 右されるが、文字の大きさは1頁の中で文章全体がばらつくこ となく、かつ文節ごとに目で捉えやすいように配置する。字間 や行間が広く文章全体が広がると、見え方によっては視点が定 めにくい場合があるからである。墨字、点字ともに全頁文章の 開始位置を揃え、墨字は原作の文節と統一もしくは、点字の分 かち書きと区切りを同じにしている。文節で区切られること で、単語の意味ごとに文字を目で捉えやすくなる。文字の色に ついては、一文字ずつ色を変えてしまうと、一文字が際立って しまうため見易さという部分を追求すると、文節で色を変え る、もしくは全て同色が好ましいが、原作の雰囲気を優先する. 図8 美濃判サイズの紙における文章の配置『みんなでぽん!』. 場合もある(図9)。また、文字の背景とのコントラストをよ くするため、文字に白縁や黒縁をつけたり、太い紐で文字の形 を縫ったりすることもある。 ② 平面から立体へ 絵を立体化するとき、描かれている絵のすべてを立体化する と手で触れたときに情報が交錯するため、物語の中で何を触っ て知ってほしいかを明確にし、背景などは簡略化する。使用す る素材については、現実の物に近い素材を使用する。例えば、 登場人物の服の場合、フェルトは入手しやすく扱いやすい素材 であるが、日常でフェルトの服を着る機会はほとんどないた め、実際に子どもたちが普段着ている服の素材そのもの、もし. 30. デザイン学研究特集号 Special Issue of Japanese Society for the Science of Design Vol.24-1 No.93 2016. 図9 表紙タイトルの文字色(原作の雰囲気を再現したタイプ)『みん なでぽん!』.
(4) 読んであげることができない場合が多いと思われる。さわる絵 本の多くは、ボランティア団体の寄贈によるものであり、療育 施設や一部の図書館でしか読むことは出来ない。子どもたちに 当たり前にある、好きな絵本を自由に読むことが出来る環境、 保護者が子のために絵本を読んであげられる環境は、障害に関 わらず保障されるべきなのではないだろうか。また、見えな い・見えにくい子どもたちが大人になったとき、彼ら自身の子 どもたちに絵本を読んであげることが可能な環境なのであろう か。読めるかどうかの能力の問題ではなく、読んであげようと 思ったときにそれが出来る環境がまわりにあるのかという点が 図10 イメージと素材の関連、キャラクターの顔の素材の統一『みん なでぽん!』. 重要である。保育や療育の現場だけでは、保護者だけでは、出 来ない事もある。見えない・見えにくいという障がいがあって も、何かをしようとしたとき、情報を得ることや環境そのもの に障がいがない社会とはどうあるべきかをデザイン面からも考 えていきたい。 最後に、これは執筆者個人の経験や視覚障がいの当事者から の話をもとにした考察であり、実際の療育や弱視教育の現場と 異なる点もある。障がいのあるなしに関わらず、すべての子ど もが好きなことを見つけ、楽しめる環境となることを願いなが ら、保育、療育の現場で出来るデザインを考えていきたい。. 図11 両手がそれぞれ動くよう立体化された布絵本『いないいないば ああそび』. 7.おわりに 見えない・見えにくい子どもたちは、いずれ見ることや補助 具の使用に慣れたり、点字が読めるようになったりすると、大 人の読み聞かせばかりではなく、自分で読んで絵を確認し、一 つの物語を長く楽しむようになっていく。今ある視力を使って もっと見ようとする気持ちを大切にするため、絵本や教材、見 る環境を工夫し、補助具の使用に慣れ、視知覚の向上を促す。 また、さわる絵本で色んな物を触ることに慣れ、自分で探すこ とが出来る手になる、一定の時間話を聞くことに慣れる、手で 色んな事を知る。こういったことを、幼少期から遊びの中で経. 【参考文献・注釈】 1)さわる絵本や絵本の点訳を行っているボランティア団体が 療育施設等に絵本を寄付している.それぞれの団体で原作 をさわる絵本にするための許可をとっている. 2)社会福祉法人京都ライトハウス視覚支援あいあい教室. 3)きむらゆういち,いないいないばああそび,偕成社,1989. 4)レディバード社,ぷれいぶっく,主婦の友社,2006. 5)なかつかゆみこ,かむらやすこ,マックこば,ユニバーサ ルデザイン絵本 りんご,NPO 法人ユニバーサルデザイ ン絵本センター. 6)わかやまけん,しろくまちゃんのほっとけーき,こぐま 社,1972. 7)安西水丸,がたんごとんがたんごとん,福音館書店,1987. 8)せなけいこ,ねないこだれだ,福音館書店,1969. 9)まついのりこ,みんなでぽん!,童心社,1987. 10)3)同様.. 験していくのだが、見えない・見えにくいからといって、何で も手助けをするというのは大きな間違いである。障がいと折り 合いを付けながら、子どもたち自身が好きなこと、楽しいと思 えることを見つけられる環境を考えなければならない。 さわる絵本のデザインや絵本を読む環境について述べてきた が、これらは障がいのあるなしに関わらず、すべての子どもが 一緒になって楽しめる絵本であることがわかる。しかし、誰し もが幼少期に読んだような名作絵本や書店に並んでいる絵本 は、立体化されてはいない。ユニバーサルデザイン絵本として 売られている絵本しか、保護者自身は子どものために購入し、 デザイン学研究特集号 Special Issue of Japanese Society for the Science of Design Vol.24-1 No.93 2016. 31.
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