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アミ類の群れに関する研究

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日本甲殻類学会 Symposium Report

Carcinological Society of Japan

シンポジウム報告

Cancer 25: 127–130 (2016)

アミ類の群れに関する研究

Studies on the groups in mysids

阪本真吾

1

Shingo X. Sakamoto

はじめに アミ類は一般にプランクトンとして扱われるが,プ ランクトンネットにより採集された標本中にはみら れない場合が多い.アミ類の多くは日中には近底層 と呼ばれる海底直上の空間中に生息するためである. このためアミ類の採集には,そりネットによる海底 直上の曳網か,夜間灯火採集,あるいは潜水してハ ンドネットにより目視採集する方法が有効である. SCUBA潜水が普及した1960年代以降,浅海域におい て多くのアミ類が群れを形成することが明らかとな り,群れを対象とした研究も少なからず行われてきた. 自由集会ではアミ類の群れに関する知見を概説し た上で,筆者らの研究事例として,ヒメオオメアミ Idiomysis japonica Murano, 1978における群れの構造 とその時空間動態に関する知見を紹介させて頂い た.本稿では主に前半の内容であった従来の研究事 例について紹介したい. 群れの形態と構造 群れを示す名称には様々なものが用いられている が,Wittmann (1977)は野外観察結果に基づいてアミ 類の群れを分類し,群れ内部における個体の空間的 配置に秩序が無い集合をaggregation,個体間距離が 一定に調整されるなどの秩序が認められる群れを swarm,各個体が同一方向に遊泳し,指向性をもつ 群れをschoolと定義した.本稿では,これら様々な タイプの群れを包括的に扱うため,広義的な表現で ある“群れ(group)”を用いた. これまでに野外および実験室内における直接観察 を伴う研究成果によって,群れの構造や分布,およ び群れを構成する個体の行動に関して基礎的な知見 が明らかにされてきた (Clutter, 1969; Wittmann, 1977; O’Brien, 1988; Ohtsuka et al., 1995).群れの形状は一 般的には球・楕円状,あるいは海底上に水平に広が るカーペット状であるが(Ohtsuka et al., 1995),海 底形状や流れ等といった環境の変化に対して可塑的 に変化する (O’Brien, 1988).群れの規模は直径10 cm 程度のものから,長径数十メートルに及ぶ大規模な ものまで報告されており(Clutter, 1969; Wittmann, 1977; Ohtsuka et al., 1995),またOhtsuka et al. (1995)

によると,群れ内の密度は13~571個体/Lと報告さ

れている.群れ内外の境界は明瞭であるが (図1a),

群れの内部(図1b)では各個体(図1c)が常時移

動しており,群れの外縁に達すると内側に向かって 反転する行動がみられるため,群れ全体の形状が維 持されている(Wittman, 1977; Ohtsuka et al., 1995). 群れは一群となって常時移動するものと,移動性 が無く特定の位置に留まるものに分けられる (Clutter, 1969; Wittmann, 1977).移動性は種により異なるが, 成熟個体の群れにおいてのみ移動性を示す種もみら れ,これらの種では生活史段階によって移動性が変 化すると考えられる(Ohtsuka et al., 1995).非移動 性の群れは,礫の間隙や海底面のくぼみ,あるいは 海藻の周辺などに形成され,種ごとに特異的な生息 地選好性を示す (O’Brien, 1988; Ohtsuka et al., 1995).

1 神奈川県水産技術センター

〒238–0237 神奈川県三浦市三崎町城ケ島養老子 Kanagawa Prefectural Fisheries Technology Center,

Yoro-shi JogaYoro-shima, Misaki, Miura, Kanagawa 238–0237, Japan E-mail: [email protected]

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Cancer 25 (2016) 阪本真吾 特定の底性生物に蝟集して群れを形成する種もみら れ,その宿主として海綿類や,イソギンチャク類,サ カサクラゲ類,サンゴ類,ヤギ類,ガンガゼ類,多 毛類,クモヒトデ類,ヤドカリ類などが報告されて いる(例えばPatzner, 2004; Fukuoka, 2005; Wittmann, 2013).特にヤドリアミHeteromysis属の多くにおい て,このような共生生活が知られている. 群れは基本的に単一種で構成されるが,複数種が 同居した混群もしばしば報告されている.Ohtsuka et al. (1995)によると,混成率は10%未満であるが,約 半数に達する場合もあると報告している.Wittmann (1977)は,主要構成種の群れにゲスト種が混入するこ とにより混群が形成されると考え,また混群形成の 条件として好適生息域が重複していること,また群れ 形成の種特異性が低いことを挙げた.同報告による と,単独生活を行う種でも,ゲスト種として他種の群 れ内に出現することもある.異種間の群れ内同居が みられる一方で,同一種であっても体サイズの異な る個体間では同居せず,体サイズが同程度の個体間 で群れを形成することも多くの種で報告されている (Wittmann, 1977; O’Brien, 1988; Ohtsuka et al., 1995).

さらに空間的に連続した一群においても,群れ内部 では体サイズや種ごとに局所的集合を形成する例も 知られており (Wittmann, 1977; Ohtsuka et al., 1995; Kaltenberg & Benoit-Bird, 2013),特に大型の群れで

はこのような入れ子構造をもつ場合が多い(Clutter, 1969).同種における体サイズ別の群れ形成は,種 内捕食を回避するために小型個体が大型個体を忌避 することによって生じるものと思われる(Quirt & Lasenby, 2002).群れの組成が雌雄どちらかのみ,あ るいは特定の生活史段階のみである例はこれまでに も知られていないことから(Ohtsuka et al., 1995), 性や生活史段階に限らず,生涯群れを形成する性質 をもつと考えられる.

1. アミ類とその群れ.a: 砂地とコンブ目群落の境界域に出現したヤセモアミNipponomysis tenuiculus Ii,

1940の群れ.b: ヤセモアミの群れの内部.c: ヤセモアミ(雌).d: ヒメオオメアミIdiomysis japonica Murano, 1978.雄(上段左)と比較して雌(その他)に特異的な体色変異が認められる.e: ヒメオオメア

ミの群れ.ここに示した例では25個体が認められた.いずれも調査地は静岡県下田市大浦湾.スケール

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アミ類の群れ 群れの日周性と帰家行動

アミ類には夜間に表層に移動する日周的鉛直移動 を行う種も多く知られている (例えばBeeton & Bowers, 1982; Rudstam et al., 1989; Kotta & Kotta, 2001).日周 性に関するこれらの知見の多くは,船上からのネッ ト採集もしくは音響機器による調査結果に基づいて おり,群れ形成種の日周性について未だ多くは明ら かでないが,少なくとも夜間に群れが解散する種 と,夜間も群れが維持される種の双方が存在する (Clutter, 1969).Wittmann (1977)は野外において群 れの日周動態を観察し,群れの構造と局所的分布の 変化を記録した.これによると,日中には種ごと個 別に群れが形成されているが,日没には照度低下に 伴って個体間距離が広がるとともに群れの構造が崩 壊し,異種間の群れが混合して複数種からなる混群 が近底層に出現する.しかし翌朝には再び種ごとに 集合して,前日と同位置に群れを形成することが報 告されている.Twining (2000)は,放射性同位体標 識した個体を野外に放流し,翌日に再捕獲すること によって,夜間に移動した個体が翌日に再び前日と 同じ位置に群れを形成する帰家行動がみられること を明らかにした.同実験では放流個体の77%が前 日と同じ位置から再捕され,残りのうち約半数も近 隣から再捕された.群れが解散後に再び同じ位置に 形成される機構は明らかとなっていないが,生息地 選好性だけでなく,局所的な場所認識能力によるも のと考えられる(Twining, 2000). 群れの適応的意義 群れの適応的意義は群れを対象とした研究におい て最も重要なテーマのひとつである.最も一般的な 群れの機能として捕食回避が挙げられるが,アミ類 の群れにおける捕食回避機構についてO’Brien & Ritz (1988)は,捕食者に対する各個体の同期的な逃 避行動が捕食者を幻惑させる可能性を示している. 魚類の群れを対象とした研究成果からは,群れ形成 の結果により生じるパッチ状分布が捕食者の餌探索 効率を低下させる効果や,群れサイズの増大に伴っ て個体あたりの捕食リスクが低減する希釈効果(例 えばSandin & Pacala, 2005) などが明らかとなってお

り,これらの補食回避機構がアミ類の群れにおいて も機能しているかもしれない.また補食回避以外の 機能として,Ritz (2000)は群れサイズ(個体数)が 大きいほど酸素消費速度が小さいことから,エネル ギー収支の点においても群れ形成が有利である可能 性を示した.群れ形成が採餌効率の増加に寄与して いるとの報告もあるが(Ritz et al., 1997),その効果 は捕食者の存在や餌密度によって変化することも明 らかとなっている(Ritz et al., 1997; Lindén, 2007).

さらに繁殖に関する群れの機能として,Mauchline (1971)は繁殖可能な雌雄個体が同居することにより, 繁 殖 機 会 が 増 加 す る 可 能 性 を 示 唆 し た.O’Brien (1988)は,好適生息空間内に自身を保持するために 群れ形成が重要であると報告している.群れ形成に より得られる利益に対して,その損失としては,餌 などの資源をめぐる競争や,群れ内における同種個 体間の捕食などが考えられている(Johnston & Ritz 2001; Ritz et al., 2011).またアミ類には繊毛虫類, カイアシ類,等脚類など多様な生物による寄生が報 告されており(大塚ら,2006),群れ形成が寄生者 の伝搬を促進するリスクも考えられる. おわりに これまでに述べたように,アミ類の群れについて 約半世紀の間に様々な研究が行われてきたが,その 全容解明には更なる研究の発展が望まれる.特に群 れの形成機構,および群れの機能については断片的 な知見による所が多く,今後の検証が必要であると 思われる.前者に関しては,群れ形成の至近要因と しての集合・解散機構について多くが未解明である ため,今後は操作実験や行動観察などの行動学的手法 により,これらに関わる環境要因や個体の意思決定過 程を明らかにしていく必要がある.また後者に関し ては,野外調査や理論的手法により群れの利益およ び損失を定量的に評価し,群れ形成が適応度に及ぼ す影響とその機構が解明されることを期待したい. 最後に筆者らの研究事例を簡単に紹介したい.前 述のように,群れ形成が繁殖機会の増加に貢献して いる可能性が示唆されてきたが,その根拠として群 れ内に雌雄が同居すること以外は明らかでなかっ た.筆者らは,ヒメオオメアミ(図1d)を材料と

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Cancer 25 (2016) 阪本真吾 して,繁殖に関する群れの機能の解明を目指して研 究を行ってきた.本種の群れサイズは他種と比較し て著しく小規模であり(図1e),群れの研究に好適 である.この研究結果から,群れ内に同居する個体 間で繁殖が行われているかどうか,また群れ形成と 個体群密度の関係に関してある程度の知見が得られ た.これらの詳細については今後一連の論文として 発表予定である. 謝 辞 東海大学の田中克彦博士,株式会社水土舎の齋藤 暢宏氏には自由集会での発表の機会を,またCancer 編集長の下村通誉博士には本稿執筆の機会を与えて 頂いた.東北大学の青木優和博士は学生時代に研究 の機会を与えて下さり,また本稿執筆に際して写真 を提供して頂いた.リーフレイダーズの一政直美氏 はヒメオオメアミの出現情報を提供して下さり,さ らに潜水調査に協力して頂いた.この場をお借りし てお礼申し上げます. 文 献

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図 1.  アミ類とその群れ. a:  砂地とコンブ目群落の境界域に出現したヤセモアミ Nipponomysis tenuiculus Ii,  1940 の群れ. b:  ヤセモアミの群れの内部. c:  ヤセモアミ(雌) . d:  ヒメオオメアミ Idiomysis japonica

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