第9回
情報伝送工学
情報を持った信号の加工(フィルタ)
高周波フィルタとは
フィルタとは、ある周波数の電磁波のみを通過させる回路(部品)であり、アンテナからの 微小な信号を選択増幅するために、得に初段の増幅器前のフィルタには低損失な性能が 要求される。たとえば、下図におけるアンテナ直下に配置されているフィルタは、アンテナ から入力された信号のうち、必要な周波数帯域のみを受信回路に送り、一方送信回路か ら送られてきた信号を周波数の違いにより受信回路には入れず、アンテナから放射させる ためのものであり、ダイプレクサとも呼ばれる。これに対して、LNAやミキサの後部に取り 付けられたフィルタは、非線形素子により発生する高調波を抑圧するために配置される。 Demodulator (復調器) Modulator (変調器) RFバンドパス フィルタ アイソレータ アンテナ共用器 (ダイプレクサ) アンテナ ローノイズ・ アンプ ミキサ ミキサ 図9.1 携帯電話のブロック図高周波フィルタの種類
ローパスフィルタ (LPF) ハイパスフィルタ (HPF) バンドパスフィルタ (BPF) 低い周波数のみ通過 高い周波数のみ通過 挿入損失 挿入損失 挿入損失 ある帯域のみ通過 周波数 周波数 周波数 図9.2 高周波フィルタの分類 伝達関数としてのフィルタの種類として、低域のみを通過させるローパスフィルタ(LPF)、 高域のみを通過させるハイパスフィルタがあり、これらは集中乗数の場合にはCとLの位置 の違いにより実現される。さらにローパスとハイパスを組み合わせることにより、ある帯域の みを通過させるバンドパスフィルタ(BPF)も構成できる。集中定数型フィルタ
集中定数型フィルタとは、集中定数素子であるL(インダクタ)およびC(キャパシタ)のみ により実現するフィルタのことであり、CとLの組み合わせによりローパスおよびハイパス フィルタとなる。 ローパスフィルタ LPF ハイパスフィルタ HPF L L C C C C L L 図9.3 集中定数によるフィルタの実現ローパスフィルタの考え方
ローパスフィルタ LPF 低帯域を通過させるためには 挿入損失 周波数 L 1 L2 C1 C2 高周波でショート 低周波でオープン 高周波でオープン 低周波でショートローパスフィルタ(LPF)におけるL,C素子値の決定法
周波数 0 1 伝達特性 数学による伝達特性の計算 L1 L 2 C1 C2 伝達関数と対応するL,Cの 素子数と素子値の決定 図9.4 伝達関数(特性)と素子値との関係Cの電流周波数特性
i)
90
sin(
E
C
t
i
m c)
sin( t
E
v
m
Em =1.0V、c=50pFの時、iの波高値はsin( )=1とすれば f [Hz] 1000 Em・ω・C [A] -1~ 1 1・106 1・109 2・109 0.628 0.314 3.142・10-4 3.142・10-7 f [Hz] Em ・ω・ C 高い周波数ほど電流が流れるLの電流周波数特性
i)
90
sin(
1
t
L
E
i
m c)
sin( t
E
v
m
Em =1.0、L=200μHの時、sin( )=1とすればiの波高値は f [Hz] 1000 -1~ 1 1・106 1・109 2・109 0.796 7.958・10-4 3.979・10-7 f [Hz] Em ・ω・L 低い周波数ほど電流が流れる L Em 1 7.958・10-7 [A] 1kHz 1MHz周波数 0 1 伝達特性 ω 周波数 0 1 伝達特性 ω ωc : カットオフ周波数 n : 段数
1
10
10
LAr LAr : リップル量 in dB伝達関数の種類と特徴
高周波帯に用いられるフィルタは、一般に伝達関数と呼ばれる関数を満足するように素子 値を決定する。良く用いられる伝達関数としては、以下のバターワースやチェビシェフが有 名であるが、帯域外特性を有極に出来る楕円関数などもある。 1. バターワース関数
n c Alog
L
21
10
・・・(9.1) 帯域内でのリップル 無 帯域外での減衰量 小 帯域内でのリップル 有 帯域外での減衰量 大 この特性は以下の特徴を有している。 2. チェビシェフ関数
cA
log
cos
n
cos
L
2 11
10
c
cA
log
cosh
n
cosh
L
2 11
10
c
フィルタと伝達関数
ここで、ωC ・・・カットオフ周波数 n ・・・段数 ここで、 1 1010
LAr
Lar ・・・リップル量 ωC ωC L A L A バターワースは中心周波数から帯域外にかけて滑らかに挿入損失が増加している特 性を有し、数学的な関数としては次式のように与えられる。 この特性は以下の特徴を有している。 チェビシェフは中心周波数から帯域外にかけ、リップルを持って挿入損失低く抑えられ、 帯域外にて急に増加する特性を有し、数学的な関数として次式のように与えられる。 2 1 2 1 LAが1/2となる角周波数チェビシェフの場合 g 0 =1
1 12a
g
g n+1 = , k=1, 2, …, n 1 1 14
k k k k kg
b
a
a
g
1 n: 奇数 4 coth2 n: 偶数 但し 37 . 17 coth ln LAr n 2 sinh n k ak 2 ) 1 2 ( sin , k=1, 2, …, n n k bk 2 sin2 , k=1, 2, …, n R0 ’=g 0 C 1 ’= g 1 C 3 ’= g 3 Gn+1 ’=g n+1 n : 偶数 Rn+1 ’=g n+1 n : 奇数 C n ’= g n L 2 ’= g 2 L n ’= g n バターワースの場合 g 0 =1
n
k
g
k2
)
1
2
(
sin
2
g n+1 =1 , k=1, 2, …, nn段 プロトタイプLPFとそのgファクタ
gファクタ とは先の伝達関数の極より得られる伝達関数と同じ周波数特性を有する ように規格化された素子値であり、この値はそれぞれの段数に対して以下の様に与えら れる。 リップル[dB] nは段数スケール係数
規格化されたLPF素子の抵抗Rの単位はΩ、インダクタンスLの単位はH、キャパシタンス Cの単位はFであり、この時の角周波数は1[rad/sec]である。ここではフィルタの定数を一 定の率で任意の値に変更することにより任意の入出力インピーダンスおよび周波数でも伝 達関数が変わらない様にするためのスケール変換について考える。そのために図のL,C回 路にZg なるインピーダンスを持つ電圧源Vg とRの負荷抵抗を接続した場合を考える。 まず、この回路におけるRef点から右側を見た合成インピーダンスZ(jω)は
C
j
L
j
R
j
Z
1
となる。ここで、伝達関数を入出力電圧の比として
j V j V j H i o と定義すると およびV
o
j
I
j
R
なる関係より
C
j
L
j
R
R
j
Z
R
j
Z
j
I
R
j
I
j
V
j
V
j
H
i
1
0
となる。ここで、負荷インピーダンスRおよび角周波数が異なる場合にもこの条件を満足す る様な関係式を導き出してみる。そのためまず、インピーダンスZ(jω)をki 倍、角周波数ω を1/kf 倍した時のインピーダンスであるki ・Z(jω/kf )をあらためてZT (jωT )と定義し、この場 合の抵抗をR0 、インダクタンスをLT 、静電容量をCT とする。すなわち、 まずZT (jωT )は Ref
j
Z
j
I
V
i
j Z 通常は規格化されている場合には1
i f f i i T T f ik
k
C
j
L
k
k
j
R
k
j
Z
k
j
Z
k
1
周波数の変数であるωのみkf で規格化 となるが、これを改めて
T T T TC
j
L
j
R
j
Z
0
1
1ではない 分子のki が こちらに移 動した オームの法則から インピーダンスはki倍とおくと、この様な変換を行っても伝達関数が H(jωT )=H(jω)になるためには
,
R
k
R
0
iL
,
k
k
L
f i T
,
k
k
C
C
f i T
T T ff
f
k
・・・(1),
R
R
k
i
0L
j
L
,
k
k
j
T f i
T i fC
j
k
k
C
j
なる関係を満足する必要がある。これを整理すれば f Tk
という定義より なる関係を得る。つまり、角周波数ωT にて入出力インピーダンスをRT =50Ωとするために は上記の関係よりR,LおよびCをR0 ,LT およびCT に変換する必要がある。上記の式において ki をインピーダンス・スケール係数、kf を周波数スケール係数という。実際の伝達関数では、 入力インピーダンスが1Ωの時のgファクタが各素子値のCおよびLに対応することになる。例題
先の図において、回路定数ならびに信号源の角周波数がR=1Ω、L=1H、C=1F、ωT =1 rad/secの時に負荷抵抗をR0 =50Ω、周波数をf=1GHzとしても回路の伝達係数が変わらな いようにするためには、LT およびCT をいくらにすれば良いか? 式(1)よりki =R0 /R=R0 /1=R0 、kf =ω/ωT =ω/1=ωなる関係があり、f=1GHzの時に はω=2πf= 6.28×109であるから、R 0 =50Ωの時にはインダクタンスLT および静電容 量CT は以下の通り計算される。nH
.
H
.
.
L
R
L
k
k
L
f i T1
7
96
10
7
96
10
28
6
50
9 9 0
pF
.
F
.
.
R
C
k
k
C
C
f i T3
18
10
3
18
10
28
6
50
1
12 9 0
低域通過フィルタ
下図は規格化された低域通過フィルタ(LPF)の伝達関数Hn (jω’)であり、この図は 理想的な特性にω’≦0の部分を書き加えたものである。一般的な周波数領域におけ る低域通過フィルタの角周波数ωと規格化されたLPFの角周波数ω’の関係をG(jω) で表すと
cj
j
G
'
j
なる関係がある。 これが1GHzに おける入出力 が50Ωでの伝 達関数を満足 するためのLT とCT の値 1 1 最初の,
'
S
'
j
j
s
とすれば次式が成り立つ。 cs
)
s
(
G
'
S
下図の(a)は規格化された3次のLPFの構成を示したものであり、ここでのgn はGファクタで ある。これを(b)図のような伝達関数Hl (jω)のLPFに変換すると、フィルタの素子定数は以 下の様になる。すなわち、kf は任意の周波数に対して伝達関数を一定にする周波数スケ ール係数であるから、これをカットオフ周波数ωc に置き換えれば良いことになる。よって規 格化されたLn およびCn とLT 、CT との関係は以下の通りとなる。,
L
R
L
k
k
L
n c n f i T
0
c n f f n TR
C
k
k
C
C
0
図. 低域通過フィルタ(LPF)の伝達関数 (a) 規格化されたLPF (b) 遮断角周波数ωc のLPF ここで、 図. 低域通過フィルタ(LPF)の構成 T T T実際の設計
fc =300MHz, n=5, LAr =0.2dBであり、入出力インピーダンスが50オームのチェビシェ フ特性LPFの素子値(C1 ,C3 ,C5 ,L2 ,L4 )を求めよ n=5, LAr =0.2dBでのgファクタは g 0 = g 6 = 1.0000 g 1 = g 5 = 1.3394 g 2 = g 4 = 1.3370 g 3 = 2.1660 なので、プロトタイプLPFの素子値は R0 ’=1Ω L 2 ’ L 4 ’ C 1 ’ R6 ’=1Ω C 3 ’ C 5 ’ 1.3370H 1.3370H 1.3394F 2.1660F 1.3394F となる。ここで、入出力インピーダンスが50オームでは、L n ’とL n との関係やC n ’と C n との関係は、カットオフ周波数ωが与えられた場合には'
L
R
L
k
k
L
k c f i k
0
, c k f i kR
'
C
k
k
C
C
0
なる関係式にてR0 ,ki および各gファクタに対応する素子値を代入すれば良い。よって これらに値を代入すれば]
[
10
21
.
14
10
300
2
50
3394
.
1
12 6 5 1C
F
C
]
[
10
47
.
35
3370
.
1
10
300
2
50
9 6 4 2L
H
L
]
[
10
98
.
22
10
300
2
50
1660
.
2
12 6 3F
C
となるので、R=50Ωの場合における回路の素子値は ,'
R
R
Z
0
0
0 それぞれ(1)式に完全に対応している 0 0 R R R ki c c f k 規格化された インダクタンス 規格化されたキャパシタンスR6 =50Ω R0 =50Ω L 2 L 4 C 1 C 3 C 5 35.47nH 35.47nH 14.21pF 22.98pF 14.21pF となる。
プロトタイプHPF
(a)規格化された理想LPF 1 -1 +1 ω’ |Hn (jω’)| LPFではこの 部分を使用 1 ωc ω |Hh (jω)| (b)規格化された理想HPF 規格化された理想HPFである図(b)の特性は 図(b)のjω=±j∞ を 図(a)のjω’=0 図(b)のjω=+jωc を 図(a)のjω’=±1 に写像すればよい。すなわち、規格化されたLPFの角周波数ω’とHPFの角周波数ωとは次式の関係 を満足する必要がある。
j
j
G
j
'
(
)
c ωC を 中心に 回転 マイクロ波電子回路p.137より C n Ln Ln 図の規格化されたLPFのLn ,Cn について、これらのイン ピーダンスZL (jω’)およびZC (jω’)はそれぞれ ∞ 0なる関係がある。つまり、HPFではLPFのLとCの素子を入れ替えて k h