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Weiner, Graham & Chandler, 1982 Weiner, Graham, Stern, & Lawson, 1982 Blaine, Crocker, & Major, ;

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青年期における友人の慰め方が受け手の感情に与える影響:

励ましや共感の言葉かけと何もせずそっと離れる行動の比較

小川 翔大

(東京学芸大学大学院連合学校教育学研究科)  本研究は中学生,高校生,大学生を対象に,親しい友人から受ける慰め方の違いによる,慰めの受け 手に生じる感情の違いを検討した。慰め方の種類は,“励まし”,“共感”,“何もせずそっと離れる”の 3つであった。調査対象者には,人間関係のトラブルで親しい友人から慰められる話を読んでもらい, それぞれの慰め方で慰められた時の感情を評定してもらった。その結果,励ましや共感は,何もせず そっと離れる場合よりも,受け手の感謝が高く,反発が低かった。この結果から,慰めをする人が親し い友人の場合,あえて何もせずにそっとしておくより,励ましや共感の言葉かけをした方が,受け手に とって効果的な慰めになることが示唆された。また,慰め方の種類ごとで,学校段階による慰められた 時の感情の違いのパターンが異なっていた。励ましと共感を受けた場合では,大学生は中高生よりも感 謝が低く,反発が高かった。何もせずそっと離れた場合では,高校生は中学生と大学生よりも感謝が低 く,反発が高かった。各学校段階によって生じる慰められた時の感情の違いは,友人に対する期待や欲 求の発達的な変化によって生じていると考察された。 【キーワード】 慰め,サポート,共感,向社会的行動,青年の発達

問   題

 青年期において,同じような悩みを抱えている同世代 の友人の存在は心理的安定を保つために重要な役割を 担っており(松井,1990; 小畑・伊藤,2001),自分が落 ち込んだ時には友人からの情緒的サポートを期待してい る(Argyle & Henderson, 1984)。情緒的サポートとは, 「ストレスに苦しむ人の傷ついた自尊心や情緒に働きか

けてその傷を癒し,自ら積極的に問題解決に当たれるよ うな状態に戻すような働きかけ」(浦,1992)であり, 慰めもその一つである。

 これまで慰めは,情緒的サポートや向社会的行動 (Eisenberg & Mussen, 1989/1991; 岩立,1995 などを参 照)といった大きな分類の中の一部として扱われるに留 まっている。しかし,慰めは他の情緒的サポートや向社 会的行動とは異なる特徴が数多くある。例えば,情緒的 サポートや向社会的行動は行動の動機を問わないが,慰 めは相手をかわいそうに思い苦しみを軽減させたいと いう同情を感じることが主な動機となる(Hoffman, 2000/2001)。そのため,慰めによる情緒的な相互作用 は受け手の感情に与える影響も大きいだろう。例えば, 泣いている時に受ける友人からの慰めによって,抑うつ の解消,安心感や幸せな気分が高まることが示されてい る(Bylsma, Vingerhoets, & Rottenberg, 2008)。しかし, 慰めは心理状態の悪い人に対して生じることが多く,受 け手を傷つけてしまうリスクが高いため,特に受け手へ の配慮を必要とする行為だと考えられている(黒川, 2001)。  そこで本研究では,情緒的サポートの定義(浦, 1992)や,黒川(2001) 1)を参考に,慰めを「何らかの 困難に直面している個人を見た時に,その個人の不快感 を軽減し,心理状態を回復させることを目的に行われる 言語的・非言語的行動」と定義する。慰め方の種類に は,小川・中澤(2014)で挙げられている,励まし (「大丈夫だよ」,「気にするな」など)や共感の言葉かけ (「つらい気持ちだよね」,「かわいそうに思っている」な ど),身体接触といった非言語的行動(肩に手をおく, 抱きしめるなど)など,幅広い行動を含める。  慰め方の違いに焦点を当てた研究として,Samter, Burleson, & Murphy(1987)は,大学生に落ち込んだ友 人を慰める会話を提示し,慰めた人に抱く印象を評定さ せた。会話の内容は,友人の気持ちを前向きに変えよう とする励ましの言葉(「他に大切なことがあるよ」な ど),友人への同情の言葉(「かわいそうに思っている」 1) 黒川(2001)は励ましという語を用いて「何らかの不幸や困難に 直面している相手の心理状態を回復させることを目的とした言語 的・非言語的行為」と定義している。慰めは受け手の気持ちを落 ち着かせること,励ましは受け手を奮い立たせて何らかの行為を 行わせることに主眼を置いており,意味論的には区別すべきだが (田中,2012),共に受け手の不快感情の軽減を目的とすること, 実際場面では慰めと励ましを区別することが難しいことを踏ま え,黒川(2001)の励ましの定義を,本研究の慰めの定義の参考 とした。

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など),友人への共感の言葉(「あなたは本当につらいと 思う」など)である。その結果,慰めた人の同情と共感 の言葉は励ましの言葉よりも,好意的に評価された。ま た,中野・正保(2011)は大学生を対象に,深刻な出来 事(バイト先や学校でいじめにあったなど)と深刻でな い出来事(人前でうまく話せないなど)で,家族や友人 から受けたい慰め方が異なるかを検討した 2)。その結果, 深刻な出来事では,共感の言葉かけを求める人が多く, 励ましの言葉かけを求める人が少なかった。以上を踏ま えると,友人の同情や共感を示す慰めの言葉かけは,落 ち込んでいる受け手にとってよりポジティブに働くと考 えられる。  一方で,慰められた時に相手が自分に同情していると 評価することで,慰めが受け手にとってネガティブに働 く場合もある。一般的に,同情を感じる程度の強さは, 困難な状況を自分の力では改善できない人を見た時に最 も強くなる(Weiner, Graham & Chandler, 1982)。その ため,慰めの受け手は相手が自分に同情していると評価 した場合,相手が同情した原因が自分自身の能力の低さ にあると推論しやすい(Weiner, Graham, Stern, & Law-son, 1982)。この推論によって,慰めは受け手に自分の 能力の低さを強く認識させ,自尊心を傷つけて抑うつ感 情を高めてしまう(Blaine, Crocker, & Major, 1995)。  同情的な慰めが受け手に与える影響を左右する要因の 一つに,慰めをする人との親密さが挙げられる。小川 (2011)は大学生を対象に場面想定法を用いて,大学に いる同性の親しい人と親しくない人で,ネガティブな出 来事が起きた時に「かわいそうだね,大丈夫?」といっ た同情の言葉を受けた時に生じる感情の違いを検討し た。その結果,親しい人からの慰めはあまり知らない人 からの慰めよりも喜び感情が高く,相手への反発感情が 低くなった。この結果から,慰めをする人が親しい友人 であれば,同情的な慰めは受け手にとってポジティブに 働きやすいと言える。  しかし,近年の青年の友人関係では,友人から低い評 価を受けることを警戒し,互いに傷つけあわないように する表面的で希薄な関係を形成する傾向がある(福森・ 小川,2006; 岡田,2010)。そのため,友人が落ち込んで いてもあえて同情や共感を示す慰めをせずに,そっとし ておくことも多い。例えば,満野・三浦(2010)は大学 生を対象に,友人が泣いている場面で行う思いやり行動 とその行動の理由の関連を検討した。その結果,慰めに よって相手を傷つける懸念と泣いている友人への思いや り行動に負の関連があった。すなわち,相手が傷つくこ とを懸念するほど,相手に何もせずそっとしておく行動 をしていた。  これに対して山村(2013)は,友人が泣いていても何 もせずそっとしておく行動をとる理由のポジティブな側 面に着目し,小学校 4 年生,6 年生,大学生を対象にそ の行動をとる理由の種類を検討した。その結果,「その 子は一人にしてほしいから」,「泣いている所を見られた くなさそう」,「相談されるまで待つ方が本人の意思を尊 重している」など,相手の気持ちに共感したり,相手の 価値観を尊重する利他的な理由がすべての年齢で多くみ られた。近年では,このような行動の背景にある思いや りの重要性が主張されており(レビューとして,坂井, 2006),青年は不用意に相手の気持ちに踏み込まないこ とを“やさしさ”と考えることも多い(大平,1995)。  ところで,稲葉(1998)の文脈モデルによれば,サ ポートを期待している友人からサポートがなかった場 合,サポートを得られなかった人には心理的不満が生じ るとされている。これは慰めについても同様に考えるこ とができる。たとえ友人が利他的な理由で落ち込んでい る自分に何もせずにそっとしておいてくれたとしても, 友人が慰めをしなかった意図を自分が十分に理解できな ければ,慰められなかったことで心理的不満が生じるだ ろう。山村(2013)ではそっとしておく行動の詳細な内 容は設定されていないが,その種類には相手のそばで見 守る行動や,その場を離れる行動などが考えられる。泣 いている友人に対して「一人にしてほしい」や「泣いて いる所を見られたくない」といった理由が挙がることを 考えると,泣くといった心理的にひどく落ち込んだ場面 ではその場を離れて相手と距離をおく行動が特に多くみ られると考えられる。しかし,落ち込んでいる時に友人 から何もされずにその場を離れられた場合に,何もされ なかった人にどのような影響を与えるのかを実証的に検 討した研究はない。  また,慰めが受け手に与える影響を検討した研究に は,大学生や成人を対象とした研究はあるが,青年期に あたる中高生を対象にした研究はない。青年期の友人関 係の質は,中学生から大学生までに発達的な変化があ り,友人に対する欲求や期待は変化している(榎本, 2000; 落合・佐藤,1996)。発達段階によって友人に対す る欲求や期待が異なれば,友人から慰めを受けた時の影 響も異なることが予想される。例えば,友人関係の質は 同調的な友人関係から相互に認め合う友人関係へと変化 している(落合・佐藤,1996)。また,友人に対する親 和欲求(友達と親しい関係を望む欲求)はどの学年も共 通して高いが,相互尊重欲求(友達と互いの個性を尊重 する関係を望む欲求)は学年が上がると共に増加してお り,大学生で最も高くなる(榎本,2000)。さらに,大 学生は心理的にも自立するため,中学生や高校生ほど友 2) 中野・正保(2011)では,“慰め”ではなく“励まし”という語 を用いているが,本論文の定義に基づき,本論文内の用語の統一 のために“慰め”と表記している。

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人からの慰めを期待していない可能性がある。そのため 年齢が上がるにつれて,励ましや共感をはっきりと伝え る慰めを受けた時は,友人への親和欲求はあるものの自 分が期待する以上の慰めに煩わしさを感じて,心理的不 満がわずかに高くなるだろう。さらに,相手の視点に 立って気持ちを想像する視点取得能力にも発達的な変化 がみられ,中学生から大学生の間で高くなっていく(Da-vis & Franzoi, 1991; 出口・斉藤,1991)。友人関係の質 や視点取得能力の発達的な変化を踏まえると,自分が落 ち込んでいる時に友人が何もせずその場を離れた時は, 年齢が上がるにつれて,友人は自分の気持ちを理解して いると評価しやすくなり,何もしなかった友人に対する 心理的不満は低くなるだろう。  そこで本研究では,青年期にあたる中学生,高校生, 大学生を調査対象とし,親しい友人から受ける慰め方の 違いによって,慰めの受け手に与える影響が異なるのか を検討する。本研究で検討する慰め方の種類は,言語的 な慰めとして“励ましの言葉かけ”と“共感的な言葉か け”,非言語的な慰めとして“何もせずそっと離れる” の 3 つとする。また,本研究では慰められた時に受け手 に生じる影響を測定する指標として,慰められた時の感 情を用いる。感情を取り上げる理由は,慰めが個人の不 快感の軽減や心理的状態を回復させることを目的として 行われるためである。例えば,人はポジティブ感情にな ることで,ストレスによって生じた生理的な反応(心拍 率の上昇など)が元の状態により早く回復することや, ストレスとなる出来事を前向きに捉え,多面的な情報処 理を促すことが示されている(例えば,Fredrickson & Joiner, 2002; レビューとして山崎,2006)。また,慰め によって受け手に心理的不満が生じる場合もあるため, 慰められた時のネガティブ感情も測定する必要があるだ ろう。  慰められた時に生じる感情の質は,認知的評価理論 (例えば Lazarus & Folkman, 1984/1991; Weiner, 1985 な どを参照)に基づくと,慰められた出来事や状況に対す る評価によって決定されると考えられる。小川・中澤 (2014)は,大学生を対象に過去に慰められた体験をイ ンタビューし,慰められた時の感情と関連する評価次元 を検討した。その結果,慰められた時のポジティブ感情 とネガティブ感情を分ける評価次元として,「慰めの意 図」や「問題解決への有効性」が挙げられた。「慰めの 意図」の評価次元では,慰めをした友人が自分を理解し て元気づけようとしていると評価すればポジティブ感情 (主に“安心”,“ありがたい”など)が生起し,自分を 理解せず小ばかにしていると評価すればネガティブ感情 (主に“腹が立つ”など)が生起していた。また「問題 解決への有効性」では,慰めによって自分の中で問題に 前向きに対処できるようになったと評価すればポジティ ブ感情が生起し,慰めでは問題は何も解決しないと評価 すればネガティブ感情(主に“情けない”,“落ち込み” など)が生起していた。すなわち,自分の気持ちに対す る慰めをした相手の共感や同情の程度の評価,慰めの有 効性の評価は,受け手の感情をポジティブ・ネガティブ に分ける重要な評価だと考えられる。したがって,本研 究では認知的評価理論に基づき,上述した評価と感情の 関連についても併せて検討し,慰められた時の感情生起 に関するプロセスの詳細も補足的に検討する。  以上を踏まえ,感情を測定指標とした本研究の仮説を 2つ挙げる。  (1)落ち込んでいる人は友人からの共感や同情を伴っ た慰めを期待しており,慰めがないことに心理的不満が 生じると考えられる。そのため,慰め方の違いによって 受け手に生じる感情は異なるだろう。全体的な傾向とし て,受け手のポジティブ感情は,“共感的な言葉かけ” で最も高く,“励ましの言葉かけ”,“何もせずそっと離 れる”の順に低くなる。また,受け手のネガティブ感情 は“共感的な言葉かけ”で最も低くなり,“励ましの言 葉かけ”,“何もせずそっと離れる”の順に高くなる。  (2)慰め方ごとで慰めの受け手に生じる感情の発達的 な変化が異なるだろう。年齢が上がるにつれて心理的に 自立し,友人からの慰めに対する期待も徐々に低下して いく。そのため“励ましの言葉かけ”,“共感的な言葉か け”では,年齢が上がるにつれてポジティブ感情が低く なり,ネガティブ感情が高くなる。また,年齢が上がる につれて友人と互いの個性を理解して尊重する欲求や, 相手の気持ちに立つ視点取得能力が高まる。そのため, “何もせずそっと離れる”では,年齢が上がるにつれて 友人が自分の気持ちを理解してあえて何もせずそっとし てくれたと評価しやすくなるため,ポジティブ感情が高 くなり,ネガティブ感情が低くなる。

方   法

調査対象者  分析を行った調査対象者は東海地方の公立中学生 384 名(1 校,男性 206 名,女性 178 名,平均年齢 = 13.20, SD = 0.70),東海地方の公立高校生 311 名(1 校 3),男性 150名,女性 161 名,平均年齢 = 15.85,SD = 0.36),首 都圏の国立・私立大学生 264 名(3 校 4),男性 155 名, 女性 109 名,平均年齢 = 19.80,SD = 1.13)であった。 調査内容  調査対象者には,初めに同じ学校にいる調査対象者と 3) 普通科の進学校であり,ほとんどの生徒が四年制大学へと進学し ている。 4) 国立大学は 1 校,私立大学は理工系総合大学,文系・理系を幅広 く含めた総合大学の 2 校である。

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親しい同性の友人(以下,A さん)を思い浮かべても らった。次に,自分が落ち込んでいる時に A さんから 慰められる仮想の話を読んでもらった。仮想の話で用い る落ち込んだ出来事の内容は,小川(2011)の中で最も 多く挙げられた“人間関係のトラブル”とした。人間関 係のトラブルの内容は,自分は何もしていないのに,友 人 B さんから一方的に怒られる内容に設定した(Ta-ble 1)。A さんの慰め方は,“励ましの言葉かけ(以下, 励まし)”,“共感の言葉かけ(以下,共感)”,“何もせず そっと離れる(以下,離れる)”行動の 3 種類を設定し た。例えば,励ましの教示は「友人 B に怒られて誤解 もとけずに落ち込んでいるあなたに気づいた友人 A は, 『今は上手くいかなくても,きっと大丈夫だよ』と声を かけたとします。そのような友人 A の行動に対して感 じる感情や項目の内容について,当てはまる番号に○を つけて下さい」とし,調査対象者には,以下の慰められ た時の評価・感情に関する質問項目に回答してもらっ た。“共感”は「『つらい気持ちだよね,大丈夫?』と声 をかけたとします」,“離れる”は「あなたに声をかける ことなくそっとその場をはなれていったとします」と慰 め方を示す文章を変更し,同一の調査対象者に 3 つの慰 め方の教示をそれぞれ示して,各慰め方で質問項目に回 答してもらった。なお,慰め方の提示順序はカウンター バランスをとった。  (1)A さんとの親密性 A さんとの親密性を確認す るために,心理的距離尺度(金子,1991)を用いた。質 問項目は,中学生には項目内容の意味が理解しにくいと 考えられる「その人とはあいいれないところがある」を 除いた 9 項目を用いた。  (2)「人間関係のトラブル」の出来事の特性 本研究 で用いた「人間関係のトラブル」の出来事の内容につい て,調査対象者にとって落ち込むほどの脅威性があるの か,また,自分では回避したり改善することが難しく人 から慰めを受けやすい出来事であるのかを確認するた め,出来事の脅威性と統制可能性の評定を求めた。慰め られる出来事の脅威性は「あなたにとって困った出来事 だと思う」,「あなたを傷つける出来事だと思う」の 2 項 目を用いた。出来事の統制可能性は「あなたの努力で避 けることができたと思う」,「あなたにはどうすることも できなかったと思う(逆転項目)」の 2 項目を用いた。  (3)慰められた時の評価 友人の慰めの意図は,自 分の気持ちに対する友人の理解の程度(以下,気持ち理 解)として「友人 A はあなたの気持ちを自分のことの ように理解していると思う」,「友人 A はあなたの思い を受け止めてくれていると思う」の 2 項目,自分に対す る友人の心配の程度(以下,心配)として「友人 A は あなたの落ち込んでいる気持ちが良くなることを望んで いると思う」,「友人 A はあなたを心配していると思う」 の 2 項目を用いた。友人の慰めの有効性(以下,有効 性)は「友人 A の行動によって,この出来事の問題を 前向きに乗り越えられるようになると思う」,「友人 A の行動によって,この出来事の問題をしっかりと受け止 められるようになると思う」の 2 項目を用いた。  (4)慰められた時の感情 慰められた時の感情の評 定は,小川(2011)で用いた感情尺度 9 項目を用いた。 その際,「情けなさ」の項目については,感情の方向性 を明確にするために,「自分への情けなさ」と修正して 用いた。  評定はすべて 6 件法で行い,(1)から(3)の尺度は 「とても思う」(6 点)から「まったく思わない」(1 点), (4)の尺度は「とても感じる」(6 点)から「まったく 感じない」(1 点)で評定を求めた。評定で得られた データは,すべて SPSS(Version 21)を使用して統計 処理を行った。

結   果

A さんとの親密性と出来事の特性の確認  心理的距離尺度 9 項目について探索的因子分析(主 成分分析,プロマックス回転)を行った結果,金子 (1991)と同様に 1 因子にまとまったため(α = .86),9 項目の平均値を親密性得点とした。各学校段階の親密 性得点は,中学生 4.95 点(SD = 0.83),高校生 4.96 点 (SD = 0.70),大学生 4.71 点(SD = 0.71)であり,どの 学校段階も高い値となった。したがって,調査対象者に 思い浮かべてもらった友人は親密な友人であると考え る。  次に,脅威性と統制可能性の平均値と SD を算出し た。その結果,脅威性の全体平均値は 5.03 点(SD = 1.05)であり,本研究で用いた話の出来事は脅威性が高 く落ち込みやすい出来事だと考えられる。また,統制可 能性の全体平均値は 3.34 点(SD = 1.21)であり,中間 の 3.50 点よりもわずかではあるが低い値となった。し たがって,本研究で用いた話の出来事は,自分の意志で は回避しにくく,他者から慰められるに値する出来事だ と考える。 Table 1 人間関係のトラブルの話の内容 ある日,友人 B はあなたに対してすごく怒っていました。 友人 B に怒っている理由を聞いてみると「あなたが陰で悪 口を言っているのを聞いた」と言いました。しかし,あな たにはそのようなことを言った覚えはありません。誤解を 解こうとしたのですが,友人 B はあなたに対して怒り続け ていて,とても話ができませんでした。そのあと,あなた が友人 B の誤解がとけず落ち込んでいることに,近くにい た友人 A は気づきました。

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感情項目の因子分析  慰められた時の感情項目について,調査者対象者 1 名 につき 3 データ(慰め方 3 種類)を 959 名分すべて込み にして,ケース数 2877×変数 9 項目で探索的因子分析 (最尤法,プロマックス回転)を行った(Table 2)。因 子の数は解釈可能性,固有値の減衰状況(3.40,2.87, 0.92,0.60…)などを考慮して 3 因子とした。各因子の α 係数はすべて .84 以上であり,高い内的一貫性が確認 された。  本調査で用いた質問項目は小川(2011)とほぼ同じで あるが,因子分析の結果と解釈のしやすさを踏まえ,新 たに因子名を命名した。第 1 因子は「友人 A へのあり がたさ」,「嬉しさ」,「安心」といった友人に対するポジ ティブ感情を表す項目が集まったので「感謝」と命名し た。第 2 因子は「自分への苛立ち」,「自分への怒り」, 「自分への情けなさ」,「恥ずかしさ」といった自分に対 するネガティブ感情の項目が集まったので「自責」と命 名した。第 3 因子は「友人 A への苛立ち」,「友人 A へ の怒り」といった感情項目で,これらの感情は友人 A からの慰めに対して反発する感情であるため「反発」と 命名した。以上の結果を踏まえ,本研究では「感謝」を 慰められた時のポジティブ感情,「自責」と「反発」を 慰められた時のネガティブ感情として扱っていく。  また,各因子間相関は,感謝と自責の間で r = .10,感 謝と反発の間で r = −.54,自責と反発の間で r = .19 で あった。なお,3 種類の慰め方のそれぞれで因子分析を 行った場合も同様の因子構造が確認された。 感情得点の性差  感情得点に性差がみられるかを検討するため,学校段 階・慰め方別に男性と女性の感情得点について t 検定 (両側検定)を行った(Table 3)。その結果,高校生に おいて,“共感”の感謝の得点の差が有意であり,女性 が男性よりも感謝の得点が高かった(t(309) = 4.44, p < .01)。また,“離れる”の感謝の得点と反発の得点 の 差 が 有 意 で あ り, 感 謝 は 男 性 が 女 性 よ り も 高 く (t (309) = 2.64,p< .01),反発は女性が男性よりも高 かった(t(309) = 3.67,p< .01)。性差がみられたのはこ の 3 つのみであり,中学生と大学生ではすべての感情得 点で性差はみられなかったため,以下では性別を分けず に分析を行った。 慰め方と学校段階による感情得点の違い  各感情得点の学校段階・慰め方別の平均値(SD)を Table 4に示す。慰め方や学校段階の違いによって慰め られた時の感情が異なるのかを検討するため,各感情得 点について,学校段階(中学生,高校生,大学生)×慰 め方(励まし,共感,離れる)の二要因分散分析をそれ ぞれ行った。なお,多重比較はすべて Bonferroni 法 ( p < .05)で行った。以下では,各感情得点の分散分析 の結果を,慰め方の主効果,学校段階の主効果,学校段 階×慰め方の交互作用ごとにまとめて記述する。  (1)慰め方の主効果 慰め方の主効果は,感謝(F(2, 1912) = 136.15,p< .01,η2 = .20), 反 発(F(2, 1912) = 72.42,p< .01,η2 = .07)で有意であり,自責ではみら れなかった。各慰め方の主効果のグラフを Figure 1 に 示す。多重比較を行った結果,感謝では,“励まし”と “共感”は“離れる”より高く,“励まし”と“共感”に 差はなかった。反発では,“離れる”は“励まし”と “共感”より高く,“励まし”と“共感”に差はなかっ た。  (2)学校段階の主効果 学校段階の主効果は,感謝 (F(2,956) = 27.08,p< .01,η2 = .05),自責(F(2,956) = 9.09,p< .01,η2 = .02),反発(F(2,956) = 7.13,p< .01, η2 = .02),の 3 つすべてで有意であった。多重比較を 行った結果,感謝では,中学生( M = 3.98)が最も高 く,大学生( M = 3.71),高校生( M = 3.53)の順で低く なった。自責では,中学生( M = 2.72)と大学生( M = 2.76)が高校生( M = 2.42)より高く,中学生と大学生 に差はなかった。反発では,高校生( M = 2.15)と大学 生( M = 2.24)が中学生( M = 1.97)より高く,高校生 と大学生に差はなかった。  (3)学校段階×慰め方の交互作用 学校段階×慰め 方 の 交 互 作 用 は, 感 謝(F(4,1912) = 42.17,p< .01, η2 = .08), 自 責(F(4,1912) = 4.03,p< .01,η2 = .01), 反発(F(4,1912) = 21.29,p< .01,η2 = .04)で有意だっ た。各感情の学校段階×慰め方のグラフを Figure 2 に Table 2 感情項目の因子分析 F1 F2 F3 F1:感謝 友人 A へのありがたさ .92 .14 .01 嬉しさ .89 .38 −.07 安心 .83 −.10 .13 F2:自責 自分への苛立ち −.06 .93 −.04 自分への怒り .05 .89 −.03 自分への情けなさ .42 .65 −.01 恥ずかしさ .14 .53 −.01 F3:反発 友人 A への苛立ち −.04 .04 .93 友人 A への怒り −.47 .28 .88 α 係数 .92 .84 .92

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示す。多重比較の結果(Table 4),感謝では,“励まし” と“共感”は中学生と高校生で差がなく大学生が最も低 かったが,“離れる”は中学生と大学生で差がなく高校 生が最も低かった。自責では,どの慰め方も中学生と大 学生で差がなく高校生が最も低かった。反発では,“励 まし”と“共感”は中学生と高校生で差がなく大学生が 最も高かったが,“離れる”は中学生と大学生で差がな く高校生が最も高かった。 慰められた時の評価が感情に及ぼす影響  慰められた時の評価が感情に及ぼす影響を検討するた め,学校段階・慰め方別に,評価を説明変数,感情を目 的変数とした,重回帰分析(強制投入法)を感情ごとに それぞれ行った。重回帰分析に先立ち,説明変数間の相 関係数を算出したところ,気持ち理解と心配は,学校段 階・慰め方別に算出した相関がそれぞれ r = .72∼ .80 (すべて p< .01)と高く,多重共線性が生じる可能性が あった。そのため,気持ち理解と心配の項目を合わせた 全 4 項目の平均値を「慰めの意図」の得点として説明変 数に投入した。各評価得点の学校段階・慰め方別の平均 値(SD)を Table 5,重回帰分析の結果を Table 6 に示 す。  感謝は,すべての学校段階・慰め方別の重回帰分析で Table 3 性別ごとの感情得点の平均値・標準偏差と t 検定の結果 学校段階 慰め方 感情 男性 女性 t値 有意差 中学生 励まし 感謝 4.31(1.41) 4.37(1.51) t(382) = 0.42 男性:n = 206 自責 2.78(1.27) 2.67(1.15) t(382) = 0.90 女性:n = 178 反発 1.95(1.29) 1.85(1.23) t(382) = 0.76 共感 感謝 4.36(1.43) 4.37(1.55) t(382) = 0.03 自責 2.87(1.34) 2.68(1.19) t(382) = 1.48 反発 1.87(1.33) 1.87(1.23) t(382) = 0.05 離れる 感謝 3.19(1.74) 3.28(1.81) t(382) = 0.50 自責 2.79(1.29) 2.54(1.24) t(382) = 1.95 反発 2.14(1.39) 2.16(1.43) t(382) = 0.17 高校生 励まし 感謝 4.29(1.28) 4.46(4.46) t(309) = 1.18 男性:n = 150 自責 2.41(1.16) 2.56(1.07) t(309) = 1.20 女性:n = 161 反発 1.66(0.99) 1.75(1.06) t(309) = 0.71 共感 感謝 3.83(1.40) 4.48(1.21) t(309) = 4.44** 男性<女性 自責 2.31(1.18) 2.45(1.16) t(309) = 1.07 反発 1.95(1.29) 1.78(1.06) t(309) = 1.28 離れる 感謝 2.20(1.13) 1.87(1.01) t(309) = 2.64** 男性>女性 自責 2.32(1.26) 2.44(1.30) t(309) = 0.85 反発 2.56(1.45) 3.16(1.44) t(309) = 3.67** 男性<女性 大学生 励まし 感謝 3.75(1.40) 3.90(1.37) t(262) = 0.83 男性:n = 155 自責 2.80(1.26) 2.68(1.06) t(262) = 0.76 女性:n = 109 反発 2.17(1.26) 2.08(1.06) t(262) = 0.62 共感 感謝 3.89(1.33) 3.82(1.49) t(262) = 0.41 自責 2.75(1.25) 2.63(1.04) t(262) = 0.87 反発 2.14(1.27) 2.26(1.17) t(262) = 0.78 離れる 感謝 3.54(1.43) 3.34(1.49) t(262) = 1.07 自責 2.85(1.23) 2.79(1.13) t(262) = 0.34 反発 2.31(1.20) 2.49(1.29) t(262) = 1.17 注.数字右側の( )内は標準偏差。**p< .01(両側検定)

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高い説明率を示し(R2 = .51∼ .69),慰めの意図と有効性 が感謝に影響していた(慰めの意図は β = .42∼ .60,有 効性は β = .27∼ .43)。したがって,慰められた人は慰め をした人が自分の気持ちを理解して心配もしている,ま たは,慰めによって落ち込んだ出来事に上手く対処でき るようになったと評価した場合,感謝が高くなると言え るだろう。  自責は,各評価で有意な β 値がいくつか得られてい Table 4 学校段階・慰め方別の感情得点の平均値・標準偏差と分散分析の結果(交互作用のみ) 感情 慰め方 中学生= 384 高校生= 311 大学生= 264 全体= 959 学校段階×慰め方の交互作用 学校段階の多重比較 感謝 励まし 4.34(1.45) 4.38(1.27) 3.81(1.39) 4.21(1.40) F(4,1912) = 42.17 中 = 高>大 共感 4.36(1.48) 4.17(1.34) 3.86(1.40) 4.16(1.43) p< .01, η2 = .08 中 = 高>大 離れる 3.23(1.77) 2.03(1.08) 3.46(1.46) 2.90(1.61) 中 = 大>高 自責 励まし 2.73(1.22) 2.49(1.12) 2.75(1.18) 2.66(1.18) F(4,1912) = 4.03 中 = 大>高 共感 2.78(1.27) 2.38(1.17) 2.70(1.17) 2.63(1.22) p< .01, η2 = .01 中 = 大>高 離れる 2.67(1.27) 2.38(1.28) 2.82(1.19) 2.62(1.26) 中 = 大>高 反発 励まし 1.90(1.26) 1.71(1.02) 2.14(1.18) 1.90(1.18) F(4,1912) = 21.29 中 = 高<大 共感 1.87(1.28) 1.86(1.17) 2.19(1.23) 1.96(1.24) p< .01, η2 = .04 中 = 高<大 離れる 2.15(1.41) 2.87(1.47) 2.38(1.24) 2.45(1.42) 中 = 大<高 注.数字右側の( )内は標準偏差。学校段階の多重比較は Bonferroni 法( p< .05)。中:中学生,高:高校生, 大:大学生。 1 2 3 4 5 6 励まし 共感 離れる 1 2 3 4 5 6 励まし 共感 離れる 感謝 反発 (点) (点) Figure 1 感謝と反発の慰め方の主効果のグラフ 1 2 3 4 5 6 励まし 共感 離れる 中学生 高校生 大学生 1 2 3 4 5 6 励まし 共感 離れる 中学生 高校生 大学生 1 2 3 4 5 6 励まし 共感 離れる 中学生 高校生 大学生 感謝 自責 反発 (点) (点) (点) Figure 2 感情別の学校段階×慰め方の交互作用のグラフ

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るものの,すべての学校段階・慰め方別の重回帰分析で 説明率が低かった(R2 = .01∼07)。したがって,本調査 で用いた評価項目の自責に対する影響は低いと言えるだ ろう。  反発は,すべての学校段階・慰め方別の重回帰分析で R2 = .13∼ .25 の説明率を示し,慰めの意図のみが反発に 影響していた( β = −.33∼−.49)。したがって,慰めら れた人は自分の気持ちを理解せず,心配もしていないと 評価した場合,反発が高くなると言えるだろう。 Table 6 慰められた時の感情を目的変数,評価を説明変数とした重回帰分析のβ値と R2 励まし 共感 離れる 感謝 自責 反発 感謝 自責 反発 感謝 自責 反発 中学生 慰めの意図 .53** −.05 −.40** .51** −.22** −.44** .46** −.14 −.47** = 384 有効性 .27** .08 −.12 .29** .26** −.11 .41** .35** −.04 R 2 .59** .03 .25** .56** .04** .27** .65** .07** .25** 高校生 慰めの意図 .45** −.19−.37** .53** −.03 −.34** .55** .17−.33** = 311 有効性 .35* .28** −.13 .30** .11 −.17.22** .06 −.05 R 2 .54** .04** .23** .58** .01 .22** .51** .04** .13** 大学生 慰めの意図 .60** −.13 −.47** .42** .00 −.49** .51** .03 −.43** = 264 有効性 .28** .25** .01 .43** .14 .00 .31** .16 −.03 R 2 .69** .03.22** .65** .02 .24** .58** .03.20** 全体 慰めの意図 .53** −.11 −.41** .50** −.12−.42** .50** .02 −.43** = 959 有効性 .30** .18 −.10.33** .20** −.11** .36** .22** −.06 R 2 .61** .02** .24** .60** .02** .25** ..65** .06** .23** 注.VIF 値はすべて 5 未満であった(VIF = 1.15∼2.40)。*p< .05,**p< .01 Table 5 学校段階・慰め方別の評価得点の平均値と標準偏差 評価 慰め方 中学生= 384 高校生= 311 大学生= 264 全体= 959 気持ち理解 励まし 4.34(1.45) 4.20(1.21) 3.92(1.28) 4.18(1.34) 共感 4.45(1.37) 4.19(1.25) 3.97(1.25) 4.23(1.32) 離れる 3.61(1.65) 2.70(1.26) 3.68(1.25) 3.33(1.49) 心配 励まし 4.62(1.34) 4.66(1.03) 4.27(1.25) 4.54(1.23) 共感 4.59(1.28) 4.66(1.03) 4.35(1.21) 4.55(1.19) 離れる 3.84(1.66) 2.94(1.30) 4.02(1.27) 3.60(1.52) 慰めの意図 励まし 4.48(1.32) 4.43(1.04) 4.09(1.25) 4.36(1.21) 共感 4.52(1.26) 4.43(1.07) 4.16(1.17) 4.39(1.18) 離れる 3.73(1.59) 2.82(1.21) 3.85(1.19) 3.47(1.44) 有効性 励まし 4.07(1.48) 4.10(1.33) 3.55(1.30) 3.93(1.41) 共感 4.07(1.47) 3.88(1.29) 3.66(1.36) 3.89(1.39) 離れる 3.33(1.65) 2.30(1.15) 3.38(1.27) 3.01(1.48) 注.( )内は標準偏差。慰めの意図は気持ち理解 2 項目,心配の 2 項目の 全 4 項目の平均値である。

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考   察

慰め方による感情の違い  本研究では親しい友人の“励まし”,“共感”,“離れ る”の慰め方の違いによって,慰めの受け手に与える影 響が異なるのかを検討した。その結果,慰め方の主効果 において,感謝は“励まし”と“共感”の間には差がな く,“離れる”が最も低かった。また,反発は“励まし” と“共感”の間には差がなく,“離れる”が最も高かっ た(Figure 1)。感謝と反発で“励まし”と“共感”に 差 が み ら れ な か っ た 本 研 究 の 結 果 は,Samter et al. (1987)の結果と異なっており,仮説(1)は棄却され た。  Samter et al.(1987)の研究では,調査対象者は自分 と親しい友人を想定せず,自分とは関係のない大学生が 友人を慰める会話をみて回答している。そのため,慰め の言語的な内容のみで友人の気持ち理解や心配などの程 度を評価することになり,共感や同情を直接的に示す言 葉かけの方が励ましの言葉かけよりも好意的に評価され たのだろう。これに対して,本研究では,調査対象者は 自分と実際に親しい友人から自分が慰められた場面を想 像して評価や感情を評定している。そのため,慰めの言 語的な手掛かりだけでなく,普段の友人との親密な関係 性から,慰めをした時の友人の気持ち理解や心配などの 程度を評価することができる。したがって,自分と親し い友人であればどちらの慰めの言葉かけであっても,友 人の気持ち理解や心配などを慰めの受け手が同じように 評価することで,感謝が高くなり,反発が低くなったの だろう。  さらに,“励まし”と“共感”は感謝の得点が共に 4 点以上で高く(励まし:4.21 点,共感:4.16 点),反発 の得点は共に 2 点以下で低かった(励まし:1.90 点,共 感:1.96 点)。したがって,親しい友人からの言語的な 慰めは受け手のストレスを効果的に緩和しており,受け 手に与えるネガティブな影響は低いと考えられる。これ に対して“離れる”は,感謝の得点は 2.90 点と低い値 であった。親しい友人の場合,落ち込んでいる友人に対 してあえて何もせずそっと離れるよりは,言葉かけと いった具体的な働きかけをした方が良いだろう。  また,自責については,慰め方による得点の違いがみ られなかった。したがって,自責の得点の程度には他の 要因が影響していると考えられる。自責に影響する要因 についての考察は,重回帰分析の考察でまとめて述べ る。 学校段階による慰められた時の感情の違い  本研究では中学生,高校生,大学生を対象に慰められ た時の感情の違いを検討した。その結果,慰め方ごとで 学校段階による慰められた時の感情の違いが異なって いた(Figure 2)。仮説(2)については,“励まし”と “共感”で支持され,“離れる”で棄却された。  “励まし”と“共感”において,大学生は中学生と高 校生よりも感謝が低く,反発が高かった。この結果が生 じた理由は,大学生になると心理的に自立し,互いの価 値観や個の違いを尊重する友人関係を築くためだろう。 心理的に自立した大学生は,自分自身で問題に対処する ことを望んでおり,励ましや共感をはっきりと伝える慰 めの言葉かけを中学生や高校生ほど必要としていない可 能性がある。そのため,大学生は必要以上の慰めを受け ることで,感謝が低くなり,反発が高くなったのだろ う。  “離れる”において,高校生は中学生と大学生より感 謝(2.03 点)が低く,反発(2.87 点)が高かった。高校 生の友人関係の特徴として,榎本(1999)は他者を入れ ない閉鎖的活動が多くなり,その背景には友人への信 頼・安定感のみが影響していることを示している。稲葉 (1998)の文脈モデルを踏まえると,自分が落ち込んで いる時に固い絆を築き信頼している友人が何もしてこな いことは,落ち込んでいる人に心理的不満を感じさせや すいと考えられる。そのため,高校生は他の学年よりも 感謝が低く,反発が高くなったと考えられる。さらに本 研究では,高校生にのみ感情の性差がみられ,“離れる” において女性は男性よりも感謝が低く反発が高かった。 榎本(1999)は閉鎖的活動が特に女子高校生で多いこと も示しており,この感情の性差は特に女子高校生が友人 と他者を受け入れない固い絆を形成している事が一因か もしれない。  また,“離れる”において,中学生と大学生はどちら も高校生より感謝が高くなったが,その理由は中学生と 大学生で異なると考えられる。大学生では,何もせず離 れた友人に対して,自分の気持ちを尊重し,自分自身で 問題に対処するようにしてくれたと評価することで感謝 が高くなったのだろう。これに対して中学生では,友人 に対する不安やライバル意識がやや高く(榎本,1999), 高校生や大学生よりも友人と比較されることに敏感であ ると考えられる。そのため中学生では,友人が慰めをせ ず,自分と友人の立場や能力の比較が生じなかったこと に対して,感謝が高くなったのだろう。 慰められた時の評価と感情との関連  本研究では慰められた時の評価が感情に及ぼす影響を 明らかにするため,感情を目的変数,評価を説明変数と した重回帰分析を学校段階・慰め方別に行った(Ta-ble 6)。その結果,感謝を目的変数としたすべての重回 帰分析で,感謝は慰めの意図と有効性が正の影響を示 し,反発は慰めの意図のみが負の影響を示した。小川・ 中澤(2014)と比べると,慰めの意図が感謝と反発を分 ける評価次元であることは一致したが,有効性では感謝

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といったポジティブ感情の生起についてのみ一致した。 特に慰めの意図は,すべての学校段階で感謝への比較的 高い正の影響( β = .42∼ .60)を示しており,慰めが受 け手にとってポジティブに働いているかどうかを左右す る重要な評価次元だと考えられる。  次に,自責を目的変数とした学校段階・慰め方別の重 回帰分析では,説明率が極めて低くなった。この結果 は,本調査で用いた評価項目が自責の生起を予測する十 分な評価内容ではないことが原因として挙げられる。自 責と関連する評価として,例えば,慰められた時の自分 と相手の置かれている状況の違いに関する評価などが考 えられる。  この評価は,落ち込んだ出来事が生じたプロセスや内 容といった状況要因によって大きく異なると予想され る。本研究では人間関係のトラブルを用いており,自分 に落ち度はない内容のため,慰めをした友人との優劣の 比較は生じにくいが,テストといった学業に関する内容 では,普段の生活の中で友人との優劣を比較することが 多い(Frey & Ruble, 1985)。そのため,学業に関する内 容で友人から慰められた時,自分と相手の置かれている 状況や能力の違いをより強く認識することで,自分自身 の能力の低さを感じて自責が生じやすくなると予想され る(小川,2011)。今後は,自責が生じやすい学業場面 などに焦点を当て,自分と相手の置かれている状況や能 力の違いに関する評価が,自責にどのように影響するの かを検討することも必要だろう。 今後の課題  本研究では青年期に該当する中学生,高校生,大学生 を対象に調査を行った。その結果,学校段階によって慰 められた時の感情の程度が異なることを示したが,その 感情の違いが生じた背景にある,発達段階ごとの友人関 係の質や視点取得能力の違いについては実証的な検討を しておらず,考察をするに留まっている。したがって, 今後は,各発達段階でみられる友人に対する期待や欲 求,視点取得能力などをより詳細に検討し,それらと慰 められた時の評価や感情との関連も実証的に検討する必 要があるだろう。  また,本研究の限界として以下の 2 点を挙げる。ま ず,本研究は質問紙による場面想定法を用いているた め,現実場面への一般化の限界も考慮する必要がある。 調査対象者は落ち着いた感情状態で提示された話を読 み,慰められる場面を想像して回答している。特に,友 人から慰められた経験が比較的少ない中学生では,より 一般化の限界を考慮する必要がある。また,実際に慰め を受ける状況では,慰めを受ける人が心理的に不安定な 状態であるため,慰められた時に生じる感情の程度がよ り強い可能性がある。現実場面での友人の慰めが受け手 に与える影響を明らかにするため,プライバシーや倫理 的問題に配慮しつつ,回想法や実験的調査などを行う必 要があるだろう。  次に,調査対象者となった高校は 1 校(普通科の進学 校)のみであり,サンプルに偏りがあるため,特に“離 れる”でみられた高校生の結果の一般化には留意する必 要がある。高校によってクラス風土,学校の荒れ,友人 関係等のあり方は異なる可能性があり,本研究の結果を 慰められた時の感情の発達的変化として一概に結論づけ ることはできない。また,18 歳以上のサンプルも大学 生のみであり,同年代の社会人等のサンプルは含まれて いない。友人と接する機会の多い大学生と仕事が中心で 友人と接する機会の少ない社会人では,友人とのつき合 い方も異なる可能性がある。したがって,今後はより幅 広い母集団からサンプルを抽出していく必要があるだろ う。

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【Keywords】 Consolation, Support, Empathy, Pro-social behavior, Adolescent development

参照

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