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はじめに

 脳血管障害(cerebrovascular accident:以下CVA) 患者の転帰先に影響する因子を調査した先行研究では, 主に日常生活動作(Activities of Daily Living:以下 ADL)能力と家族の介護力が取り上げられている1)2)

ADL能 力 は, し ば し ばFunctional Independence Measure ver.3(以下FIM)によって評価され,特に運 動項目合計得点が自宅復帰に重要な影響を与えることが 明らかとなっている3)4).自宅復帰に必要となるFIMの 具体的な下位項目については対象者の属性や調査地域等 によって違いがみられるが,FIM移乗(トイレ)を重要 な因子とする文献が多い5)6).またFIM移乗(ベッド・ 椅子・車椅子)の得点や移動方法が歩行であることなど, 移乗・移動能力の重要性が指摘されている7)8).車椅子 利用者を対象にした研究ではFIMトイレ動作が重要とさ れ9),移乗に介助を要する者を対象とした研究では運動 項目が自宅復帰因子に選択されず,同居家族の有無や同 居家族数といった介護要員に関する因子が選択されてい る10).これらの結果はベッドからトイレまでの移動や排 泄の可否が,自宅復帰に至るための重要な要因であるこ とを示している.このように自宅復帰に必要なCVA患 者のADL能力や家庭環境については多くのことが明ら かとなっている.  またCVA患者の認知機能を含めて,転帰先に影響す る 因 子 を 調 査 し た 研 究 に はMini Mental State Examination( 以 下MMSE) を 用 い た も の が 多 い. MMSEは短時間で認知症の疑いがあるかを評価でき, その合計得点は全般的な認知機能障害の程度を反映して いるため,重症度の目安にもなる.一方で注意や理解, 判断といった要素的な認知機能を詳細に評価することは 困難である11).MMSEを用いた研究は,単に認知症の有 無や全般的な認知機能障害の程度のみでは転帰先を決定 する因子にならないことを示唆している10)12).認知面の 状態像を含めた研究はFIM認知項目を用いており,FIM 理解を自宅復帰因子とする他13),独居生活者やFIM運動 項目が70点未満の者を対象とした場合にFIM記憶を重要 とする報告がある12)14).FIM認知項目の採点は,日常生 活における特定の課題の遂行状況を観察して行ってい

回復期リハビリテーション病棟に入院した

脳血管障害患者の転帰先に影響する要因

─認知機能に着目して─

永井 邦明

1)

,小川 敬之

2)

,山口 史哲

1)

,村上 賢治

1)

1)平成まほろば病院リハビリテーション課

2)九州保健福祉大学大学院保健科学研究科

Key words:自宅復帰,脳血管障害,認知機能 要旨:本研究の目的は回復期リハビリテーション病棟に入院する脳血管障害患者の転帰先に影響する要因を,神経心理 学的検査に基づく詳細な認知機能の情報を含めて検討することであった.調査対象者は65例(男性37例,女性28例)で ある.対象者を自宅復帰群と施設退院群の2群に分類し,年齢,性別,麻痺側,発症から当院入院までの日数,当院在 院日数,同居している家族の構成人数,キーパーソンの年齢,キーパーソンの性別,キーパーソンの協力度,キーパー ソンの就労の有無,対象者以外の同居している要介護家族の有無,FIM運動項目の各得点,COGNISTAT検査項目の各 標準得点を比較した.転帰先を従属変数としてロジスティック回帰分析を行った結果,自宅復帰に影響する因子として FIM移乗(ベッド・椅子・車椅子)の得点とCOGNISTAT記憶の標準得点が選択された.脳血管障害患者の自宅復帰に 向けて介入を行う際はこれらの要因を念頭に置いて支援を行う必要がある. 受付日:2017年4月8日 受理日:2017年7月4日 発行日:2017年8月13日

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る15).しかし,これらも認知機能の部分的な側面の評価 であり,脳卒中患者の転帰先に影響する要因を認知機能 の観点から詳細に検討した報告は少ない.  日常生活の課題遂行には,その基盤となる見当識,構 成,記憶などの神経心理学的検査で測定される要素的な 認知機能が関係すると考えられており,これらは日本語 版Neurobehavioral Cognitive Status Examination(以 下COGNISTAT)を用いて評価されることが多い16)17) COGNISTATは要素的な認知機能を個別に測定し,そ れぞれの重症度を評価することができる.松田らは COGNISTATで測定された見当識,記憶,呼称,構成, 計算といった項目の成績が戸締り,冷暖房機器の使用, ガスや火器の取り扱いといった安全管理能力,食事の支 度,掃除,洗濯といった家事能力と関係することを報告 している18).このように要素的な認知機能は種々の社会 生活機能に関係するため,転帰先に影響を及ぼす可能性 がある.要素的認知機能を含めて転帰先に影響する因子 を検討した資料は,自宅復帰に向けて目標を絞った機能 訓練を行う,あるいは引き継ぎ先の事業所等へ患者の経 過や現状を申し送る際に有益な情報と成り得る.  そこで,本研究では回復期リハビリテーション病棟に 入院したCVA患者の転帰先に影響する要因をより詳細 な認知機能面を評価できるCOGNISTATに基づく認知 機能の情報を含めて検討した. 方法 1.研究デザインと施設概要  本研究は1か所の保健医療機関で行われたケースコン トロール研究である.116床の回復期リハビリテーショ ン病棟からなり,理学療法士32名,作業療法士8名,言 語聴覚士4名が勤務している. 2.対象  対象は2015年10月10日から2016年10月31日の期間に当 該保健医療機関の回復期リハビリテーション病棟に入院 し,自宅または施設に退院したCVA患者177例である. この内,原因疾患の発症前は自宅で生活していた者のみ を対象とした.研究の中で用いる神経心理学的検査の実 施が困難な意識混濁,失語症,構音障害,失行症,四肢 麻痺を呈する者や病態の悪化によって急な転院をした 者,本研究の協力に同意しなかった者は対象から除外し た. 3.評価項目  退院時における患者の①年齢,②性別,③麻痺側(全 員右利き),④発症から当院入院までの日数,⑤当院在 院日数,⑥同居している家族の構成人数,⑦キーパーソ ンの年齢,⑧キーパーソンの性別,⑨キーパーソンの協 力度,⑩キーパーソンの就労の有無,⑪同居している要 介護家族の有無,⑫FIM全運動項目の各得点(13項目) ⑬COGNISTAT全検査項目の各標準得点(10項目)の 計34変数を評価した.①−⑤は院内カルテから情報収集 を行い,⑥−⑪は患者の家族から情報を得た.⑫は担当 の理学療法士,作業療法士,言語聴覚士が評価を行い, ⑬は著者が評価を行った. 3.1 FIM  FIMは対象者のADLがどの程度自立して行われてい るかを日常生活の観察に基づいて測定する評価法であ る.運動13項目,認知5項目の計18項目からなり,運動 項目は食事・整容・清拭・更衣(上衣)・更衣(下衣)・ トイレ動作・排尿管理・排便管理・移乗(ベッド・椅子・ 車椅子)・移乗(トイレ)・移乗(浴槽・シャワー)・移 動(歩行・車椅子)・階段から構成される.それぞれの 項目を1点(全介助)~7点(完全自立)の7段階で採 点する15) 3.2 COGNISTAT  COGNISTATは多面的な認知機能を測定する神経心 理学的検査である.見当識・注意・理解・復唱・呼称・ 構成・記憶・計算・類似・判断の10項目について,それ ぞれ標準得点を算出することができる.標準得点は12点 満点であり,9点以上が正常,8点が軽度障害域,7点 が中等度障害域,6点以下が重度障害域を意味する.検 査には専用の検査用紙や図版カード,構成用プレートの 他,紙,ボールペン,鍵,硬化,鉛筆,はさみ,のりと いった身近な物品も使用する.COGNISTATは多数の 下位検査から構成されているが,検査時間は約30分程度 であり,負担の大きい検査を受けることが困難な高齢者 の評価に向いている18) 3.3 キーパーソンの協力度  キーパーソンの協力度は小山らに習い,以下の6段階 に分類した.0:主治医からの来院要請に応じようとし ない.1:主治医から連絡したときのみ来院.2:身の 回りの事(洗濯やお金)の手配に来院.3:週2回程度 の面会.4:週2回程度の面会+病後の生活設計につい て積極的に話し合う姿勢がある.5:ほぼ毎日面会し, 病棟でのADL訓練に参加19) 4.解析方法  本研究の対象者を自宅復帰群と施設退院群の2群に分 類した.有意水準をp<0.01に設定し,χ²検定とMann-Whitney U検定を用いて34変数を群間比較した.また有 意差が見られた変数間の相関を確認するため,分散拡大 係数を用いた.分散拡大係数が5を超える場合に多重共

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線性を疑い,全ての変数の分散拡大係数が5以下になる まで相関のある変数を除外した.この手続きで残った変 数を独立変数,転帰先を従属変数とし,有意水準をp< 0.05未満に設定してロジスティック回帰分析を行った. 統計処理ソフトは,SPSS Statistics Premium Grad pack ver24を使用した. 倫理的配慮  退院時に本研究の説明を受け,研究の協力に口頭およ び書面にて同意した者のみを調査対象とした.説明の際 に研究対象になることを拒否・撤回でき,その場合にも 不利益を被らない旨を伝えた.また,本人の理解や意思 表示が困難な場合には家族から承認を得た.調査データ は連結不可能匿名化し,分析を行った.本研究は九州保 健福祉大学の倫理審査委員会から承認を受けている(15-046). 結果  最終的な解析対象は65例で,全対象者の36.7%であっ た.そのうち自宅復帰群は46例,施設退院群は19例であ り,全体の平均年齢は70.7±13.5歳,男性37例,女性28 例であった.脳卒中が大多数であり,その中でも病変を テント上に有する虚血性疾患が多かった.FIMの総得点 が103.2±20.7と高く,ADLの障害は比較的軽度であっ た.FIM認知項目合計点も28.3±5.8と高水準であり,認 知症の周辺症状が目立つ者はわずかであった.入院期間 は128.7±49.3日であり,比較的長期間に及んでいた(表 1).  群間比較の結果,当院在院日数,FIM全運動項目, COGNISTAT見当識・理解・復唱・構成・記憶・判断 の20変数が自宅復帰群で有意に高かった(表2).  上記の変数間で分散拡大係数を確認したところ,FIM 整容・清拭・更衣(上衣)・更衣(下衣)・トイレ動作・ 排便管理・移乗(ベッド・椅子・車椅子)・移乗(トイレ)・ 移乗(浴槽・シャワー)・移動(歩行・車椅子)・階段の 11変数で5を超えており,多重共線性が疑われた.これ らの変数を用いてロジスティク回帰分析を行うには,相 関のある変数を除外する必要があった.  自宅復帰に影響する要因として,FIMの項目では特に 移乗,移動が重要とされている他,トイレ動作や整容の 必要性を指摘した文献があり7)13)14),これら以外の項 目を優先的に除外した.本研究ではFIM移乗の3項目や トイレ動作でも分散拡大係数が5を超えていたが,この 内,特に重要と考えられるのは移乗(ベッド・椅子・車 椅子)と移乗(トイレ)であった.ここでは,相関する 変数がより少ない移乗(ベッド・椅子・車椅子)を残し た.このような先行研究や専門的見地から,FIMの清拭・ 更衣(上衣)・更衣(下衣)・トイレ動作・排便管理・移 乗(トイレ)・移乗(浴槽・シャワー)・階段を除外し, 分散拡大係数が5以下の変数に統一された.最終的に残 った変数は,当院在院日数,FIM食事・整容・排尿管理・ 移乗(ベッド・椅子・車椅子)・移動(歩行・車椅子), COGNISTAT見当識・理解・復唱・構成・記憶・判断 の12変数であった.  上記の12変数でロジスティック回帰分析を行った結 果,FIM移 乗( ベ ッ ド・ 椅 子・ 車 椅 子 ) の 得 点 と, COGNISTAT記憶の標準得点が転帰先に影響する因子 と し て 選 択 さ れ た( 表 3). こ の モ デ ル のHosmer-Lemeshow検定結果はp=0.86で適合していることが示さ れ,判別的中率は86.2%であった.また,転帰先に影響 を与える因子として選択されたFIM移乗(ベッド・椅子・ 車 椅 子 ) の 得 点 とCOGNISTAT記 憶 の 標 準 得 点 で 表1 対象者の属性 全 体 自宅復帰群 施設退院群 例数 年齢 性別(男性/女性) 原因疾患   脳梗塞   小脳梗塞   脳幹梗塞   脳出血   くも膜下出血   急性硬膜下血腫   慢性硬膜下血腫 FIM運動項目合計点 FIMの総合得点 COGNISTAT標準得点 65例 70.7±13.5 37/28 37例 2例 3例 13例 6例 2例 2例 75.1±16.4 103.2±20.7 78.1±19.6 46例 68.3±14.0 30/16 27例 2例 1例 9例 5例 0例 2例 81.9±9.3 112.1±11.8 84.3±15.3 19例 76.5±10.4 7/12 10例 0例 2例 4例 1例 2例 0例 58.6±18.3 81.7±22.0 63.2±21.2 平均値±標準偏差

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Receiver Operating Characteristic(以下ROC)曲線を 作成した(図1).FIM移乗(ベッド・椅子・車椅子) は曲線下面積0.84,カットオフ値5.5点で自宅退院に対す る 感 度93.5 %, 1 − 特 異 度42.1 % で あ っ た. COGNISTAT記憶は曲線下面積0.72,カットオフ値7.5点 で感度54.3%,1−特異度15.8%であった.カットオフ 値の決定には Yuden Indexを用い,感度−(1−特異度) が最大になる点を選択した. 考察  本研究ではFIM運動項目全ての得点が自宅復帰群で有 意に高かった(p<0.01).FIM運動項目合計得点が自 宅復帰に重要な影響を与えることは先行研究で明らかに されており3)4),この点については議論の余地が無い. また協力的な介助者が存在しなければ,移乗に介助を要 する状態は著しく離床時間と活動範囲を制限するため, FIM運動項目の中では移乗能力が注目されている7).本 表2 各変数の比較 自宅復帰群(n=46例) 施設退院群(n=19例) p値 年齢 性別(男性/女性) 麻痺側(左/右) 発症から当院入院までの日数 当院在院日数 同居している家族の構成人数 キーパーソンの年齢 キーパーソンの性別(男性/女性) キーパーソンの協力度 キーパーソンの就労(有/無) 同居している要介護家族(有/無) FIM 食事 整容 清拭 更衣(上衣) 更衣(下衣) トイレ動作  排尿管理 排便管理 移乗(ベッド・椅子・車椅子) 移乗(トイレ) 移乗(浴槽・シャワー) 移動(歩行・車椅子) 階段 COGNISTAT 見当識 注意 理解 復唱 呼称 構成 記憶 計算 類似 判断 68.3±14.0 30/16 25/21 30.8±14.0 118.0±35.9 1.3±1.1 59.3±16.6 18/28 3.2±1.3 18/28 1/45 6.7±0.5 6.4±0.7 5.7±1.4 6.2±0.9 6.1±1.1 6.3±0.7 6.6±0.9 6.7±0.5 6.5±0.6 6.5±0.6 5.7±1.1 6.3±0.6 5.6±1.3 8.1±3.2 7.6±3.0 8.1±2.8 8.8±2.3 8.7±1.8 8.3±2.4 7.5±1.9 8.7±1.9 8.5±1.6 9.6±1.8 76.5±10.4 7/12 12/7 32.6±12.2 154.6±66.6 2.6±1.6 63.3±16.2 5/14 2.9±1.0 9/10 2/17 6.1±0.8 5.1±1.1 3.4±1.7 4.8±1.6 4.3±1.8 4.7±1.6 4.9±2.0 5.1±1.6 4.8±1.5 4.8±1.8 3.1±2.0 4.3±2.1 2.6±1.9 4.5±3.6 5.4±4.0 4.4±3.8 6.6±3.1 7.0±2.9 6.1±2.5 5.9±1.7 6.8±3.1 7.7±1.2 8.2±1.8 n.s. n.s. n.s. n.s. * n.s. n.s. n.s. n.s. n.s. n.s. * * * * * * * * * * * * * * n.s. * * n.s. * * n.s. n.s. * 平均値±標準偏差 *p<0.01 n.s.:not significant 表3 転帰先に影響する退院時因子の抽出 因   子 オッズ比 95%信頼区間 p値 FIM移乗(ベッド・椅子・車椅子)の得点 COGNISTAT記憶の標準得点 0.1 0.6 0.07−0.51 0.41−0.95 0.001 0.031

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図1 転帰先に影響する退院時因子のROC曲線 研究ではFIM移乗(ベッド・椅子・車椅子)が自宅復帰 に必要な変数として選択されたが,先行研究ではFIM移 乗(トイレ)を選択していることが多い5)6).これは FIM移乗(ベッド・椅子・車椅子)との得点が酷似して おり,ロジスティック回帰分析を行う際に多重共線性を 排除するため,研究者が意図的に移乗(ベッド・椅子・ 車椅子)を除外し,移乗(トイレ)を選択していること が原因と考えられる.移乗に関する項目の点数は運動項 目合計得点と強い正の相関があると報告されている20) この事実は,FIMの運動項目合計得点を自宅復帰の最も 重要な因子とする従来の考えとも調和しており,この運 動項目を紐解けば特に移乗動作が重要と分かる.  本研究で転帰先に影響する因子として選択されたFIM 移乗(ベッド・椅子・車椅子)のオッズ比は0.1である. これはFIM移乗(ベッド・椅子・車椅子)が1点減少し たとき,自宅復帰に至る確率が0.1倍になることを意味 する.またROC曲線を用いた分析では,FIM移乗(ベ ッド・椅子・車椅子)が6点に達していない者は自宅復 帰に至ることが困難であった.6点と5点の違いは6点 が1人で乗り移れるのに対し,5点は介助者による事前 準備や助言,監視が必要な点にある.1人で移乗できる 身体能力を有していても認知機能の障害で移乗方法の口 頭指示を要したり,車椅子のブレーキ操作を忘れるとい った問題から付き添いが必要となるケースもありうる. 本研究結果において転帰先に最も重要な影響を与える因 子はFIM移乗(ベッド・椅子・車椅子)であるが,FIM 移乗の6点と5点の分かれ目には身体能力だけでなく, 認知機能が関係している可能性もあり,引き続き検討が 必要である.  また本研究ではCOGNISTAT理解,復唱,構成,記憶, 判断の標準得点が自宅復帰群で有意に高かった(p< 0.01).この内,自宅復帰に影響する因子として選択さ れたのは記憶であり,オッズ比は0.6であった.これは COGNISTAT記憶の標準得点が1点減少したとき,自 宅復帰に至る確率が0.6倍になることを意味する.また ROC曲線を用いた分析ではCOGNISTAT記憶の標準得 点が8点に達すると自宅復帰に至る可能性が高くなるた め,記憶障害の程度が転帰先に一定の影響を与えること を示唆した.8点は軽度障害域を意味するが,脳卒中治 療ガイドライン2015では軽度記憶障害に対して,視覚イ メージ法など内的ストラテジーの使用やメモ,スケジュ ール表,ポケットベルといった外的代償手段の活用を強

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く推奨しており21),日常生活でこれらの手段を実用化し やすい軽度記憶障害者は自宅復帰に至る可能性が高いと 考えられる.記憶障害になると健康を維持する上で必要 な服薬を忘れたり,場合によっては火の始末や食事する こと自体を忘れる可能性もあり22)23),安全性の観点から 同居者の付き添う場面が多くなりやすい.いくつかの先 行研究は各認的側面を含めて自宅復帰因子を検討し,そ の上で記憶を選択している12)14).本研究の結果はこの点 において先行研究を支持するものとなった.しかし,こ れらの殆はFIM認知項目のみを用いている.FIM記憶は 「日課を覚えている」,「よく出会う人が分かる」,「依頼 を実行する」の3要素を実際の生活でいくつ行っている か,どの程度自立しているか,メモリーノートなどの補 助具に頼っているかを加味して採点され,特定の生活課 題 に お け る 実 施 状 況 を 評 価 し て い る15). 一 方, COGNISTAT記憶は,いくつの単語を再生,再認でき るかといった神経心理学的検査に基づく純粋な記憶機能 を測定している18).COGNISTAT記憶の成績は,FIMの 理解,問題解決,記憶の項目で評価される課題の遂行に 関係することが示唆されており16),神経心理学的な記憶 機能は種々の生活課題の達成に寄与する可能性がある. この点が,記憶機能が転帰先にまで影響する原因と考え る.記憶障害は介入すべき課題であるが,脳卒中後の記 憶障害に対する効果的な機能訓練は確立されていな い24).現状では適切な記憶に対して励ましや認めを提供 し,記憶行動への意欲を高めることや声かけで生活情報 を適切に伝えるような人的支援の他,目標地点までの軌 跡をテープなどの線で廊下に明示する,スケジュールを 目のつきやすいところに掲示するといった環境設定を重 視する必要がある.さらにメモ帳や日記,ICレコーダ ーをはじめとする補助具の利用といった個人的技能の獲 得も重要である.ただし,補助具を実生活で利用する場 合も記憶障害の病識および記録行動と参照行動を獲得し ていなければならず,最低限の記憶機能は求められ る23).本研究結果も記憶障害が中等度から軽度に改善す れば,自宅復帰が促進される可能性を示唆しており,今 後は適切な評価と支援方法に加えて,記憶機能の改善が 転帰先に与える影響や記憶障害に対する機能訓練の開発 およびその意義についてもより一層の考究が求められ る.  また先行研究では同居家族数をはじめとする介護要員 が自宅復帰の重要な要因とされているが10)25),本研究で はこれらの項目に統計学的な有意差を認めなかった.こ れは介護要員を重要とする先行研究に比べて対象者の FIM総合得点が高かったことに起因すると考える.介助 に要する時間はFIM 1点につき1日2分程度であると 考えられており26),FIMの総合得点が高くなるにつれ介 助に要する時間は減少する.本研究結果はFIM総合得点 が高得点である場合,自宅復帰を目指す上で介護要員の 重要性が小さくなる可能性を示唆した. 研究の限界と課題  本研究では神経心理学的検査を全例に対して筆頭著者 が実施した.検査者は事前に研究内容や対象者の情報に ついて理解した上で,単独で評価していたため,測定バ イアスが否定できない.また,本研究の対象者は30分程 度の神経心理学的検査に耐えることができ,協力的で生 活意欲の高い者が多かった.抑うつや生活意欲の低下が みられる患者を対象に含めて,追加調査を行うことが今 後の課題である. 結語  本研究では回復期リハビリテーション病棟に入院した CVA患者の転帰先に影響する要因を神経心理学的検査 に基づく要素的な認知機能を含めて検討した.ロジステ ィック回帰分析,ROC曲線を用いた分析の結果,自宅 復帰を規定する因子はFIM移乗(ベッド・椅子・車椅子) の得点が6点以上であること,COGNISTAT記憶の標 準得点が8点以上であることを示唆した. 謝辞  本研究にご協力いただきました調査対象者の皆様,医 療機関職員の皆様,九州保健福祉大学の先生方に深く感 謝申し上げます.本論文は2016年度九州保健福祉大学大 学院保健科学研究科に提出した修士論文に基づくもので ある.本研究において開示すべき企業等との利益相反は 生じなかった. 引用文献 1) 井上智貴,山路義生,石川誠,丸井英二:回復期リハビ リテーション病棟における脳卒中患者の自宅退院に関す る因子の検討─脳卒中1,505例の多変量解析による病 型別検討─.順天堂医学57(3):257-262,2011 2) 二木立:脳卒中患者が自宅退院するための医学的・社会 的諸条件.総合リハビリテーション11(11):895-899, 1983 3) 吉田和雄,高田幹彦:脳卒中回復期リハ開始時期による 機 能 予 後 の 違 い に つ い て ― 運 動FIM(Functional Independence Measure)を用いて―.脳卒中28(3): 396-402,2006 4) 浜岡克伺,前田理奈,岡林碧,杉元歩実,山川卓伸,他: 脳卒中患者の在宅復帰に必要な基準値─Functional Independence Measureを用いた検討─.理学療法科学 29(6):933-937,2014 5) 植松海雲,猪飼哲夫:高齢脳卒中患者が自宅退院するた めの条件:Classification and regression trees(CART)

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による解析.日本リハビリテーション医学会誌39(7): 396-402,2002 6) 岡本信弘,増見伸,山田学,有久恵美子,兒玉隆之:回 復期リハビリテーション病院におけるFIMを用いた自宅 復帰因子の検討.理学療法科学27(2):103-107,2012 7) 寺井敏,宮本秀和,鍋島篤子:異なった退院先を呈した 回復期リハビリテーション病棟入院患者の比較研究:脳 血管障害および廃用症候群での検討.日本リハビリテー ション医学会誌45(4):236-241,2008 8) 金山剛,大平雄一,西田宗幹,永木和載,阪本充弘,他: 回復期リハビリテーション病棟における在宅復帰患者の 特徴.理学療法科学23(5):609-613,2008 9) 杉浦徹,櫻井宏明,杉浦令人,岩田研二,木村圭佑,他: 回復期退院時の移動手段が車椅子となった脳卒中患者に 求められる自宅復帰条件─家族の意向を踏まえた検討 ─.理学療法科学29(5):779-783,2014 10) 奈良友里恵,渕上健,佐野一成:移乗動作に介助を要す る患者の自宅復帰要因の検討.理学療法32(10):943-947,2015 11) 河野禎之:認知症のアセスメントにおける認知機能検査 の意味と課題.認知神経科学16(3・4):200-208,2015 12) 澤村大輔,境信哉,桜庭聡,杉正明,戸島雅彦:独居の 脳卒中片麻痺患者が自宅退院を果たすための重要な因 子.北海道作業療法31(2):73-80,2014 13) 中川知美,風晴俊之,菊池豊,常田康司,藤本幹雄,他: 脳血管障害患者の自宅退院を規定する要因は何か:回復 期リハビリテーション入棟時の状態からの検討.日本病 院会雑誌56(2):214-217,2009 14) 辻村享,安田公,櫻井宏明,和田陽介,舟橋輝,他:回 復期リハビリテーション病棟の脳卒中患者において自宅 復帰に影響するADL回復過程の特徴.中京大学体育学 論叢53(2):43-48,2012 15) 千野直一,椿原彰夫,園田茂,道免和久,高橋秀寿:脳 卒中の機能評価−SIASとFIM[基礎編].金原出版株式 会社,東京,2015,pp.77-138. 16) 後藤貴浩:高次脳機能障害の評価におけるCOGNISTAT の有用性.日本心理学会大会第74回大会発表論文集: 395,2010 17) 後藤貴浩:高次脳機能障害の評価におけるCOGNISTAT の有用性:第2報―スクリーニング評価と継時的評価に おける有用性―.日本心理学会大会第75回大会発表論文 集:286,2011 18) 松田修,中谷三保子:日本語版COGNISTAT(コグニ スタット)検査マニュアル.ワールドプランニング,東 京,2009,pp.5-41. 19) 小山哲男,道免和久:脳卒中患者の自宅復帰指標の作成. 日本リハビリテーション医学会誌45(SUPPLEMENT): S391,2008

20) Koyama T, Matsumoto K, Okuno T, Domen K: Relationships between independence level of single motor-FIM items and FIM-motor scores in patients with hemiplegia after stroke:an ordinal logistic modelling study. J Rehabil Med. 38(5): 280-286, 2006. 21) 小川彰,出江紳一,片山泰朗,嘉山孝正,鈴木則宏,他: 脳卒中治療ガイドライン2015.株式会社協和企画,東京, 2016,pp.309-312. 22) 上村智子:記憶障害のある独居高齢者の服薬自己管理の ための支援:アラーム付き薬入れを用いて.作業療法30 (3):363-368,2011 23) 本田哲三,原元彦,遠藤てる,立石雅子,坂爪一幸,他: 高次脳機能障害のリハビリテーション―実践的アプロー チ―.医学書院,東京,2015,pp.68-81.

24) Nair RD, Lincoln NB: Cognitive rehabilitation for memory deficits following stroke. Cochrane Database Syst Rev. 18(3): CD002293, 2007. 25) 渕上健,奈良友里恵,佐野一成,伊藤岳之:回復期リハ ビリテーション病棟における認知症患者の自宅退院因子 の検討.理学療法33(2):173-176,2016 26) 才藤栄一,園田茂,道免和久:脳卒中患者の新しい評価 法FIMとSIASに つ い て. 医 学 の あ ゆ み163(5):285-290,1992 ©日本臨床作業療法学会

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