14 香川大学農学部学術報告 金時ニンジン種子の発芽に関する研究
Ⅶ 発芽遅延現象と CarJr・OtOlの含量との関係半
安 芸 精 一,渡 辺 正 一
Ⅰ 緒 金時ニンジン種子の発芽率は他の・−・般そ菜種子に比して−最も患い、・渡辺民らほこ.の発芽不」艮の原因と対策について, 1954年来種々の角度から総合研究を行ない,種々の点を明らかにしているが,中でも種子自体の特性として,胚の未熟 (13)と種子中に発芽抑制物賀の存在が(15)発芽不良の主要原因であるとして.いる.発芽抑制物質紅関しては著者ら(12) ほその物質を明らかにするため,1959年から19る1年にわたり種々検討したところ,発芽不良をおこすに十分なる物質 をエ−テル可溶の中性区分から無色針状結晶として単離し,その結晶体の分子式と物理化学的性質を明らかにして ’●caI■Ⅰ−OtOl”と命名報告したい ひきつづき,種子の発芽における遅延項,象とCaI工OtOlの含垣との関連性を究明するため紅,2,5の実験を行なっ たのでここ紅報告する. この報告紅あたり,太学部植物病学研究室教官各位に色々と実験上の御指導を賜った.記して深謝の意を表する。 Ⅱ 実験材料と方法 実験紅用いた−・逮の種子は19る1年占月下旬から7月上旬に香川大学遊学部付属農場で採種した金時ニンジン砲手 (植物学上の果実)で,採種後塩化石灰入りのデレク−ダー中に入れて,室内条件下で密栓貯蔵したものを各実験紅 過賞供試した.caIIOtOlの抽出方法 は十分に乾燥した種子をそれぞれ粉 砕し,ソックスレ−脂肪抽出器で50 時間エーテル抽出したのち,二エーテ ル抽出物を前報(2)の方法(第1図) にしたがい,エーテル可溶中性区分 の(粗分離)発芽抑制力で,CaIⅠ−OtOl の含有鼠の多少を検定した.なお, CaIIOtOlの含有量をエーーテル可溶中 性区分の発芽抑制力で検定した理 由は.前報(2)において,単離された CarIOtOlの発芽抑制力が中性区分で の抑制力とはとんど同じで,中性区 分中caIⅠOtOl以外の発芽抑制物質が はとんど検出されないことと,純粋 分離中のloss をも考慮して,太区 分で検定することが適当と考えられ たからである. つぎに発芽抑制力を評価する方法 は各実験とも,熱消毒した直径9cm ・エーテル抽出物 ←H9SO4添加(pH20) 中一エ−テル添加振敵 エーテル可溶部 ←4%NaOH水溶液添加 ←1エーテル添加振盗 ←4%NaOH水溶液添加 ←エ−テル添加振扱 ] ・エーテル■可溶部 溶・巨ー−
水溶部 エーテル可溶灘 ←H2SO4添加(pH20) ←エ−テル添加振盗 部 − 溶 発 蒸 エ−ナノ「可溶部 水洗 塩基性区分 中性区分 脱水 (+++) 蒸発 (−) 注)+,−は抑制の有無 主観性区分 及び程度を示す (+) 第1図 エ−テル抽出物の粗分離 糖園芸学会昭和57年皮春季大会(東大農学部)において発表欝14巻欝1号(1962) 15
のぺトリー皿にNo.るのろ紙を敷き,これに被検液4ml分注後,エーテルをとばして,果皮を除去した金時ニンジン
種子(開花後40日目の完熟種子)を−・皿に100堪露床し,そうして蒸留水4血加えて発芽床とした.被検液の原液お よび希釈倍数は前報(2)紅準じて一行なった.実験の結果ほ.いずれも2回乃至5回の反復としたものである. なお,詳細についてほ便宜上,個々の実験項目で説明することとする1. JⅡ 実 験 結 果 1.、種子の熟度別および貯蔵期間とearI・OtOIの含盈との関係 充実験はCa【【OtOlの含有騒が穐子の熟度別および貯蔵期間の経過にともなってどのように変化するかを知るため に行なったものである.19る1年5月28日に開花始めの同一】・なる草本50個体を選んで標識し,開花後51日と開花後40日 の2回にわたって,それぞれの花撒の兢づつを収穫した.収穫した未熟,完熟種子は塩化石灰入りのデレケー・ター中 で貯蔵し,同軸・試料を19占1年7月24日と19る2年2月1日とに取り出して,分析時の種子の含水鼠,発芽および1,ODO 粒蓮を調査(第1表)するとともに,それぞれ種子40gを供試してCaIⅠOtOlの含員をみた(第2表,常2,5図).な お,太実験項目においてこは出来るだけ供試種子の条件を同一紅する必要があるい 滞1表の結果からして,とくに穐子 の熟度とCaIIOtOlの舎監を検討する 場合において,未熟磯子と完熟種子 との含水率ははば同じであったが, 1,ODD粗垂が異なっているので,両 種子の供試粒数を同一!こするため, 1,D∞舟重から逆辞しで,未熟種子の 原液補正屋を求めた.すなわち, 1981年7月24EJの場合では完熟種子 に刺して1、8ml,19占2年2月1日で ほ1.4mlをそれぞれ増擾したものを 原液として行なった. まず種子の熟度とCaIIOtOlの合鼠 については第2表,第2図の発芽抑 制力の曲線からみて,19る1年7月24 日,19る2年2月1日の場合とも未熟 種子が完熟種子よりも多いことが明 確となった つぎに貯蔵期間によるca【工OtOlの 合認の消長については男2表,第5 図の発芽抑制力の曲線からみて,未 熟,完熟範子ともに19る2年2月1日 の場合が19る1年7月24E‡の場合より 幾分減少しているが,その差異は認 め挫い.すなわちCa工Ⅰ−OtOlの合鼠ほ 種子の貯蔵によって増減しないもの と考えられた 2..earrotolの含有部位 第1表 分析時における未熟,完熟種子の状態 未熟種子(開花後51日) 19占‘1..7‖2419占2.2.1 完熟種子(開花後40日) 19る1.7.24 19る2ル2.1 占9.D 87‖5 100 127 発 芽 勢(%) 指 数 150 240 100 1る0 発 芽 率(%) 指 数 45,7 占7..0 100 155 710 92.d lDO 150 含 水 率(%) る.54 7.10 る.50 る80 1,000粗垂(g) 1.508 1..552 1.る80 1,占9う 原液補正星(ml)1 1・8 14 0 0 発芽温度:19占1年7月24日 27・一520C,19る2年2月1日 27−280C 第2表 種子の熟度別及び貯蔵期間と発芽抑制力との関係 太実験はCaIⅠ・OtOlが金時ニンジン 発芽締切日7酎乱()内は発芽指数 種子(植物学上の果実)中,いずれ 発芽温度:19る1年7月24日28−550C,1962年2月川2占−280C の部イ立に含有されているかを知るため紅,開花後5る日日の炎熱梅子について行なった“ 実験方法ほ十分に.乾燥した果実2ロgを手でよくもんで果皮を除去し,果皮(5いdg)と種子(種皮および胚珠含有Ifi 香川大学農学部学術報告 14.4g)に2分して,所定の方 法によりCaIIOtOlの含鼠を調べ た(第4表卜 本衷の各部椋の 発芽抑制力からみて,CaIⅠOtOl ほ果皮および穐了いずれの部位 にも含有されているが,その大 部分は果皮中に存在することが 明らかとなった.. なお,分析時における毛付種 子と毛除種子の発芽ほ滞5表の とうりであった. る.水洗処理によるc8rrOtOl の溶出について さきに.渡辺氏(14)ほ新梅子の 発芽促進をはかるための】・方法 として水洗処理の予措が効果的 であることを報告した… 太実験 は水洗処理による発芽促進効果 の理由がCa工ⅠOtOlを溶出する ためかとうかを明らかにするた め,開花後5占日日の黄熟種子 50gを用いて行なったい 方法は供試種子重の10倍鼠の 兼溜水を加えて,4時間浸潰し たのら,ろ過して浸出液と残部 (水洗種子)とに.分別し,両区分 についてCarIOtOlの溶出を検討 したい まず,浸出故についてほ これに∴エ−テルを添加振絶し て,エーテリレ可溶郊と水溶部と に分別し,両区分の抑制力な調 べたところ,抑制作用はエ−デ ル可溶部紅全く認められなかっ た(第5表) つぎに水洗種子については十 分乾燥後,無水洗梯子と同−・・条 件下でエーテリレ抽出し,所定の 希 釈 倍 数 第2図 種子の熟度による発芽抑制力の比較 100 90 発80 叶70 月二 60 指 50 数40 30 20 10 0 100 90 発80 ル70 牙 60 指 50 数40 30 20 10 0 掠池 2†J■‡4†J7 8イ.守16情よ伸申 希 釈 倍 数 帰漁 2†.■‘;4イ.■1■ 8†∴16仙女伸一メ 希 釈 倍 数 第5図 稚子の貯蔵期間紅よる発芽抑制力の比較 方法でCaIIOtOlの含鼠をみた (第占表).本表の発芽抑制力からみて,水洗種 子と無水洗稲子との両者間紅はCa工工・OtOlの含嵐に 有意義な差異ほ認めがたかったい 以_トの結果か ら,水洗処理による発芽促進効果はCaI工OtOlが溶 山したためとほ考えられないよ・うである. なお,分析特における水洗蘭子と触水洗種子の 第5表 分析時における毛付種子と毛除椰子の発芽
発 芽 勢:発 芽 率
% 8る、0(100)
95.0(110) % 28い7(100) 45い0(157) モ付種子(果実) 毛除椅子(種子) 発芽勢締切[14日間,発芽率締切日1相聞, 発芽時の種子含水率は7り01%第14巻第1号(1962) 発芽は第7表のとうりである.. 17 第4表 ニンジン果実各部位の発芽抑制力の比較 原 液 才 2 倍14 倍!8 倍ll占 倍l対 照 区 発芽湿度 25−290C,発芽締切日7日間 欝5表 エ−テル可溶部と水溶部との発芽抑制力の比較
堅
_川.】_】_■_叫】 発芽率(%) 指 数 発芽率(%) i;;:;ll…;ニ; 77 .. O 95.1 7.5 9‥5 エーブソレ 可溶部ーニ.三二
発芽温度 24−290C,発芽締切日7日間 畢d表 水洗禰子と無水洗種子の発芽抑制力の比較 竺 _.___倍】8 倍llる 倍靂 対 照 区
;:;7;…:≡ 発芽率(%) 拾 数 水洗処理 発芽温度 2る・−550C,発芽締切日7日間 Ⅳ 考 察 発芽抑制物質が穐子あるいは.果実中のいずれの 部位匿存在するかについては従来,果皮とか種 皮,胚乳,胚あるいほ果実全体とか種々の結果が 得られている(5g).充実験の結果においてほ果皮 および種子のいずれ紅も含有されているが,その 第7表 分析時紅おける水洗種子と無水洗種子の発芽 発 芽 勢(%)l発 芽 率(%) 無 処 理 区 水洗処理区 71.5(100) 80い0(112) 75.7(10ロ) 825(109) 発芽勢締切日7日間,発芽率締切日lる日間 処理時の種子含水率は占、78% 大部分は果皮中に存在することが明らかとなった.この結果から,果皮中にCa汀OtOlの多いことは毛除種子(果皮除 去)が毛付種子に比して著しく発芽促進に良好であるという渡辺氏(14)の結果および分析時の発芽(第5表)の状態 を証明するもので,宅除の効果ほ果皮中のCaI−Ⅰ−OtOlを除去するためであるという−・根拠を与えるものと考えられるり つぎに梅子の熟度とcaI−OtOlの含鼠については熟度によつて異なり,完熟種子よりも未熟種子に多いことが明らか となった.このよう紅梅子が成熟するにつれて何故caIⅠOtOlの含屋が少なくなるかという点については不明で,さら に・検討を加えなければならない1.種子の貯様による発芽抑制物質の消長についてほ近藤民ら(8)は小麦で,貯蔵期間の]8 香川大学農学部学術報薯 経過にともなって消滅するという考え方をとられている.金時ニンジン種子の場合において.も,乾酪貯蔵によって漸 次発芽率が増加すること(1314)から,光,乾燥などの作ノ召によって発芽抑制物質の能力を減退するのでほなかろうか と考えられるが,太実験の結果では未熟,完熟種子とも貯蔵によってCaI工OtOlの含鼠に有意義な差奨ほ認められなか った・・−−・方,分析時の種子の発芽ほ貯蔵により著しく増加した.単離されたCarrOtOlが熱,光,CaC12乾燥に対して 極めて安定であることはすでに報窯(2)したところで,これらのことから考察すると貯蔵によって発芽率の糊口は,貯 蔵によりCarrOtOlの含駁が減少するという考え方でなく,胚珠の後熱が進み,発芽力が増加してCarrOtOlの抑制力に 打勝つためであろうという考え方が至当のようである.. 発芽抑制物質の流失に関して,渡辺民ら(15)ほ水洗処理によって発芽を良新一〉川種子の熟度によって異なるが−【 にすることから,発芽抑制物質の精出ということが考えられているが,太実験の結果から,Car工OtOlの含有遠は水洗種 子と無水洗横寺との両者間に有意義な差異を認めがたか/つた巾すなわち,水洗処理ではCaIⅠ・OtOlを溶出さすことが出 来ないということで,単離されたCaIⅠOtOlが冷水に不溶であることほすでに報告(2)したところである..それでは何 故,水洗処理が発芽促進に効果的であるかば不明で,水浸出液が発芽を著しく抑制することから(第5表)(215),さら に本浸出液について発芽抑制物貿のみでなく,溶液のpHおよび浸透圧の点から詳細な検討を加え,いずれが決定的 要因であるかを究明しなけれはならない. Ⅴ 摘 要 著者らは前報において,金時ニンジン感子の発芽不良をおこすに十分な発芽抑制物質を単離して−●ca工IOtOl”と命 名報告した..その後さらに種子の発芽における遅延現象とCarIOtOlの含墨との関連性を究明するため,19占1年から 19占2年にわたり2,5の実験を行なった小 結巣はつぎのとうりである… (1)caIⅠOtOlの含鼠は種子の熱度によって異なり,完熟種子よりも未熟種子に多い.またCaI工OtOlの含星ほ凍軌 完熟種子とも貯蔵期間によっての増減は認められなかった1. (2)ca工IOtOlは果実全体に含有されるが,その大部分は果皮中に存在するl (3)ca工Ⅰotolほ水洗処理(4時間浸漬)によって溶出されないようであった. (4)以上の結果から,毛除(果皮除去)が発芽促進に効果的である原陸lほ毛除によりca工工OtOlの舎監の減少を来す ためであり,貯蔵によっての発芽率の増加ほ貯蔵によりcarIOtOlの含騒が減少するためでなく,後熱が進み胚珠の発 芽力の増加によるものでほなかろうかと考えられる. 参 考 文 献 (1)安芸精一・:金時ニ∵/ジン種子中の発芽抑制物質,農 及閑,5る(う),559【5占0(19る1) (2)−−−,渡辺正一」・:金時ニン汐ン梅子の発芽に関す る研究(第る報),国学雑,50(4),511−引7(19る1)‖ (3)Cox,L,G.,MuNGER,H。Mい,SMrTH,E.A。:
A germination inhibitor in the seed coats of Certain varieties of cabbage,Plant PhySiol., 20(2),289−294(1945). (4)CROCKER,W。,BARTON,L V.:Physiology Of Seeds,114−126,Waltham,Chronica Botanica Con(1955). (5)EvENARI,M.:Germinationinhibitors,Boi‖ 兄紺、,15(5),155・鵬194(1949)り (6】深城貞義:果汁の種子発芽に及ぼす影響問題につい て,九大農学芸雑誌,4(2),119−155(1950)‖ ((7)掘 裕,杉山直儀:タカナ類の種子の休眠につい て(第2報),園学祁,22(4),225−229(1954)小 (8j 近藤万太郎,笠原安夫:小麦の稚発芽現象について (軍4報),農及閑,18(8),占0牛込04;18(7),707− 709(1945)、 (9)中山 包:発芽生理学,259−258,東京,内田老鶴 岡(19dO).
(10)TooLE,E.Het al.:Physiology of seed ge・ rmination,AnnRev。PlaniP^ySiol.,7, 299−52.5(195る). (11)塚本洋太郎,佐野 泰:汐ヤガイモの休眠に関する 研究(第1報),京大食研報告,21,59−5D(1958). (1』二戸刈義次(編):作物の生理生態,192−220,東京,朝 倉苔店(1955) (13)渡辺正一,浅野 弘,前田 正:金時ニンジン種子 の発芽に関する研究(第1報),香川脳科大学報,7 (1),27−・50(1955).
第14巻第1号(1962) 1,4 ㈹ 一山一一▲:同上(第2報),関学椎,25(4),25一ト244 個 叫−,安芸精一一・:同上(第5報),香川大殿学報,
(1957) 11,155−1占1(1959)
On germination of Kintoki−CarrOt Seeds
Ⅶ The relations between the CarrotoIcontents and
delayed germination phenomenaSeiichiAKIand ShoichiWATANABE
S11mmary The authoISisolated a germinationHinhibitor from Kintoki−CarrOt Seeds,and nameditin a PreCeding paper as t<Carrotol‖.Theactivity of Carrotolis sufficient to demonstrate acauseof thelower germinationrate of Xintoki・CarrOt Seeds.As the further study,SOme eXperiments were carried out extending fIOm1961to1962in order to elucidate the relations between the CarrotoIcontents and
periodicalchanges of germination rate of the Kintoki−CarrOt Seeds.
Results obtained.were as follows:
(1)The content of CarIOtOlin the seeds vazied with the maturity of the seeds,the highest content WaS eSti皿atedwithi血matur・e Seeds(51day after flower opening)The expeIiments with mature and immatuIe Seedsindicated no remarkable changein content of the Carrotolthroughout the storage period.
(2)The g工eateIpart Of Ca工IOtOIwere foundin pericarp,thoughit was detected from allpaItS Of Kintoki・CarrOt Seeds(botanicalfruit)
(3)No significant elution of the CarrotoIwas found by the treatment of4hours soaking of the seeds (41From the above results,itis concluded that the stimulative efLect of re皿OVaiof pericarp depends on the quantitative decIeaSein the content of Ca工rOtOlin seeds,and theincreaseo董ge工minationrateby storagemay depend on the effect of afterqIipeningI−ather than on the decrease o王the CaIIOtOl