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消費者教育の実践

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消費者教育の実践

宮 坂 広 作

消費者教育の意義 1 消費者教育の概念

消費者教育の概念規定として、もっとも包括的なものは、今井光映氏のそれであろ う。「消費者が商品・サービスの購入など消費生活の目標を実現するにあたって、必 要な情報・知識を収集し、それらを分析・理解し、個人的・社会的に責任がもてるか たちで選び、枠組みした価値にそって、批判的思考を働かせて選択対象の長所・短所 を比較考量(トレード・オフ)し、優先順位を決め、購入したものを有効に使用するこ とはもちろん、その後始末にも責任をともついう、一連のジレンマ問題解決的な意思 決定過程の、シティズンシップの教育」だ、というのである。(◯66p.27)あまりにも多 くのことが語られているので、繁雑にすぎると思うような向きには、「消費者をもつ と賢くするための努力です」と言えば、満足してもらえるのであろうか。このばあい にも、「賢く」とはどういうことを意味するのかという問いが返ってくるだろう。そ れを説明しようとすれば、上記のような長たらしい言い方にならざるをえないのであ る。消費者教育には、消費者問題の歴史的過程の中で、いろいろな期待がかけられて きた。そこで、その意味内容がしだいに膨らんできたのである。(◯65

消費者問題が発生しなければ、消費者教育の必要を叫ぶ声は起きなかったであろ う。消費者教育は、消費者問題を解決する有力な方法としてよび出されたのである。

(◯15・◯32そのことは、消費者問題・消費者運動の歴史をふり返ってみれば明らかで ある。戦後の欠乏の時代、不良マッチ追放運動から主婦連合会が生まれ、有力な消費 者団体になったように、欠陥商品の告発というのが消費者運動のテーマであり、これ を反映した消費者教育としては、商品知識の習得と権利意識の涵養が要請された。

(◯31政府の消費者行政があまりにも立ち遅れていることが批判され、先駆的な自治 体では担当の課が設けられるようになった。(◯24ついに「消費者保護基本法」(1 年)が成立し、同法は国に対して、商品・役務に関する知識の普及と情報の提供、生 活設計に関する知識の普及等消費者に対する啓発活動の推進、消費生活に関する教育 の充実などの施策を講ずることを要請した(第12条)。この法律では、「消費者の役 割」(第5条)として、「経済社会の発展に即応して、みずからすすんで消費生活に関 する必要な知識を修得するとともに、自主的かつ合理的に行動するように努めること

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によって、消費生活の安全及び向上に積極的な役割を果たす」ことを求めた。

上記の法の制定に伴って、消費者保護のための施策を講じることが行政の責任だと いう認識が高まり、各自治体は消費生活センターを設けるようになって、そこで消費 者教育がさかんにおこなわれるようになった。(◯14・◯29・◯34

消費生活センターにおける消費者啓発の内容は、かなり広汎な範囲に及んでいる が、食品添加物問題・表示問題・合成洗剤問題などがしばしばとりあげられた。いず れも基本的な問題であり、重要な事柄であったものの、消費者運動が大手六家電メー カーの闇カルテル摘発、欠陥車問題・PCB 問題・再販問題などへの取り組みを通じ て、大企業の加害性を告発する方向に激化し、他方、消費者被害に対する損害賠償請 求訴訟への支援、独占禁止法の改正や消費生活関係立法、消費税への反対などと、社 会的視野を広めていったことから、行政による消費者啓発と消費者運動のあいだには 乖離が大きくなっていった。(◯21・◯30・◯33近年は、いわゆる「悪徳商法」がはびこっ ていることから、それにかかわる注意喚起の情報提供がさかんにおこなわれ、いまや 消費者問題はそれに特化されているような印象がある。

2 学校における消費者教育

成人消費者に対する消費者教育は、主として消費者団体や消費者行政によっておこ なわれたが、消費生活センターでは子ども・生徒を対象とする教育活動をおこなうと ころがあらわれた。子どもが放課後や休日に参加できるよう、単発あるいはシリーズ のプログラムを提供したのだが、テーマとしては添加物問題がしばしばとりあげら れ、着色料の実験が好評であった。また、学校の教師、とくに家庭科の教員が生徒た ちに、消費生活センターを訪れて見学・調査することを課題とすることも多くなっ た。学校内部における消費者教育はなかなか進まなかったが、これを促進・援助する ために、消費者行政サイドが消費者教育副読本を作成して学校側に提供するように なった。編集作業にあたっては、教育委員会から推薦された指導主事などを委員に加 え、各学校への配布については当然教育委員会の了解を得るなど、こまかな配慮もな されたのだが、せっかく配付されたテキストが充分活用されたとは言いがたい。(◯38

〜◯51

しかし、消費者問題の重要性がしだいに認識されるようになって、文部省も学習指 導要領の中に関連事項を取り入れ、学校教育の中でも消費者教育がおこなわれるよう になってきた。家庭科がメインの教科であるが、社会科もまた関連が深く、消費者教 育はこの両教科によって担われてきたが、近年「総合的学習」が導入されたことに よって、この時間に消費者教育を実施するケースが出てきた。金銭教育や環境教育と 関連させ、家庭科教育と社会科教育を総合するような、内容ゆたかな学習がおこなわ れる可能性が生じたのである。とはいえ、学習指導要領における消費者教育関連事項

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はそれほど多くはなく、したがって教科書における記述もきわめて不十分である。ま た、総合学習のばあいは教科書もないし、教育内容・方法がまだ定式化されていな い。消費者教育は全体として未熟であり、その展がりも点からようやく線になったと いうところであろう。それだけに、ひとりひとりの教師の意欲的・創造的な取り組み が必要なのである。

そうした教師たちの取り組みに期待し、それを援助するために、内閣府国民生活局 消費者企画課では、「消費者教育専門家派遣制度」を実施している。24年度に実施 された同事業で、専門家たちがとりあげた具体的な消費者問題は、消費者関連法制 度・マルチ商法(高校)・悪徳商法・クレジットカード(高校社会科・家庭科)・携帯電 (高校社会科)・筆箱の中身(中学社会科)・繊維製品の表示(小学校家庭科)などがと りあげられている。本稿の筆者は、以下で子どもの消費者問題を、衣・食・住その他 の諸分野について概観したのち、とくに食の安全性を重視する立場から、豆類ときの この二つを選んで消費者教育の材料として検討してみた。食品としての重要性という 点では、米や肉・牛乳を選ぶべきであろうが、それらについては資料も豊富で調査し やすいことから、あえてマイナーなものを選ぶことにした。最終章では、消費者問 題・環境問題・金銭問題の三つにかかわる総合的なテーマとして、ゴミ問題を扱って いる。総合学習でとりあげるのに最適な課題であるので、この記述に多くの紙数を費 やすことになった。

子どもと消費者問題 1 食の安全性にかかわる問題

食品添加物の問題は、いわば古典的・伝統的なテーマであるが、こんにち子どもの 食生活の安全性を考えるとき、なお中心的な課題である。「食品衛生法」(17年制 定)にもとづく「指定食品添加物」(合成のもの)は、25年4月現在で39品目、「既 定食品添加物(天然のもの)」が着香料を除いて40品目、着香料が約40品目、「一般 飲食添加物」は約10品目である。使用している食品添加物を物質名で表示すること が、91年から原則義務とされたが、「調味料」は一括表示でよく、また表示免除をさ れているものもある。一括表示で「酸味料」と表示されているのはリン酸塩類で、保 存・酸化防止・PH 調整の機能を兼ねている。(◯6号)

調味料(アミノ酸等)つまり化学調味料は、ほとんどの加工食品に用いられており、

その中身はグルタミン酸ナトリウム・イノシン酸ナトリウム・グアニル酸ナトリウム などであり、これらを混ぜ合わせたのが「複合化学調味料」である。グルタミン酸ナ トリウムを一度に多量に摂取すると、人によっては手足のしびれ、頭痛、目まい、吐 き気などが起きることがある。味付けコンブ、炒飯、焼きそばなどを食べた直後に起

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きる。75年に「風味調味料」の JAS 規格が施行されたが、これは化学調味料20パー セント、糖分・塩分70パーセント、風味原料10パーセントの構成なので、糖分・塩分 を摂りすぎるおそれがある。

香料は数十〜数百の香気成分から調合することで、それぞれの食品に適した香気を つくり出すことができる。天然の食品に含まれている香気成分を分析し、化学合成さ れたものを組み合わせることで、天然のものと変らない香気を出すのである。合成香 料は指定食品添加物として90種類以上が認められているが、そのすべてが安全である ということではない。香料として微量に使われたくらいでは実害がないだろうという ことで認められているのであり、香りのつよい食品を多量に摂ったとき、化学物質が 体内でどう作用するかはわからない。22年、香料メーカーが食品用香料の製造に無 許可のものを成分として使い、ためにこの香料を原材料にした菓子類・スープ類など 0種類以上の加工食品が違法となり、メーカーが自主回収をおこなった。無許可添 加物として使われていたのは、アセトアルデヒド、イソプロパノールなどで、それら には発ガン性があるといわれている。

子どもの嗜好品であるアイスクリームには、乳化剤・増粘多糖類・着色料・香料が 含まれているばあいがほとんどである。乳化剤として一括表示されているので、どん な化学物質が使われているのかわからないが、一般によく使われる「ショ糖脂肪酸エ ステル」は、大量に摂取したばあい、人によっては下痢を起こすことがあり、また「ソ ルビタン脂肪酸」の材料のソルビトール(甘味料)も、大量に攝ると下痢を起こすと いわれている。増粘多糖類も一括表示であるが、海草や食物の種子から抽出した天然 添加物が主に使われている。これらについても、問題を起こした例があり、安全とは 言いきれない。

夏場などに子どもが好んで飲むジュースについて、清涼飲料水に甘味をつけるもの として、従来の天然甘味料「ステビア」に代わり、人工の合成甘味料「スクラロース」

が使われるようになった。砂糖を原料とはするものの、有機塩素化学物で、毒性がつ よく、動物実験では9例中4例の流産が発生したとか、スクラロースを5パーセント 混ぜた餌を4週間与えられれらラットで、膵臓などが萎縮したとかいう報告があり、

弱いながらも DNA を損傷する危険性が指摘されている。それにもかかわらず、1 年に厚生省(当時)の食品衛生調査会の審議をパスして、食品添加物と指定された。

最近、若者のあいだで「アミノ酸飲料」の人気が高いが、そうした飲料の中には上述 のような添加物が入っている。ダイエット目的で飲まれるようであるが、かえって健 康をそこなうおそれがある。清涼飲料には、25グラムから32.5グラムの砂糖が使われ ており、飲みすぎると糖分の過剰攝取になる。

子どものおやつとして与えられるスナック菓子には、化学調味料が入っている。グ ルタミン酸ナトリウムは、前述のような症状のほか、イライラして怒りっぽくなる、

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幼児の脳障害、ホルモン異常、催奇形性・染色体異常・高血圧などの危険がある、と されている。油分として「食物性(または油脂)」と表示されているものに、酸化防止 剤の BHA(ブチルヒドロキシアニソール)が添加されているのではないかという疑いが ある。最終製品にまで残留する量が少ないという理由で、表示が免除されているもの の、ラットの実験で発ガン性がみられたものである。パーム原料油とパーム核原料油 に限って使用を認められているが、99年4月以来そうした制限が緩和され、他の油脂 やバターなどに使用されるようになった。最近、BHA は環境ホルモンだという指摘 もあり、「ジャンク・フード」の危険性がいわれている。

そのほか、コンビニのおにぎりでは、「合成保存料無添加」と銘打っていても、PH 調整剤を入れて防腐や加熱殺菌の効果を出し、「グリシン」という調味料を使って抗 菌・保存の役割を担わせるというやり方がある。外国産のチョコレートには、ジンマ シン、アレルギーを起こしたり、発ガン性のある着色料を使ったものがある。カップ めんのスープや具にも化学調味料やその他の添加物が入っており、中華ラーメンのか んすいのアルカリ剤は、多食すると消化管粘膜を傷める。スナックめんの歯ざわりを よくするために添加されるリン酸塩は、多食するとカルシウムを奪い、胃が弱くなっ たり、鉄分の吸収を妨げて貧血を招きやすい。食品添加物の攝りすぎによって、HLD 症が起きる危険も指摘されている。(◯4・15号 pp.1〜6)

2 被服の安全性にかかわる問題

被服は、外界の温度の変化に対して、人体が適応していけるよう、人体と環境との 調節作用をおこなうためのものである。外界の温度に適応した素材の衣服、枚数を選 んで着用することで、健康をまもっている。ところが、着用者の健康をまもるべき被 服が、かえって健康を害する原因になるような事態が起きている。消費者としては、

安全な衣服を選択して購入するよう、十分に注意する必要がある。

被服の安全性に関する問題の中心は、繊維製品の製造過程で使用される化学物質の 有害性である。症状としては皮膚障害である。繊維製品の加工には、仕上処理剤・染 料・助剤・糊剤などが用いられており、これによって防水・はっ水、防汚、帯電防 止、防しわ、難燃、防虫、柔軟、防菌などの機能をもった、付加価値の高い商品がつ くり出されている。しかし、加工処理剤には皮膚に侵入して接触皮膚尖を起こすよう な物質がある。ところが、購入した衣服に処理剤が大量に付着していることは通常な いので、高濃度の化学物質に直接ふれたばあいの一次刺激ではなく、アレルギー反応 による接触皮膚炎だ、と考えられている。(◯99p.13)

抗菌加工製品は、家電・キッチン用品・建材などに使われているが、繊維関係では 靴下・肌着・下着・タオル・ふきん・寝具・カーテン・カーペットなどに用いられて いる。そもそも抗菌靴下が18年前に登場したのが、抗菌グッズがあらわれた最初で

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あった。その後急速に各種生活用品に広がっていったのは、高温多湿の国である日本 では、カビや細菌の繁殖の好条件が揃っており、また国民とくに若者のあいだで清潔 志向がつよくなったこともあり、抗菌グッズは国民的支持を得て、いまやその年間販 売額は80億円をこえるといわれる。「抗菌」の意味や効果はあいまいであるが、繊維 商品については業界がいちはやく自主基準を設け、安全性や効果、耐久性などの基準 を満たしたものに「SEK」マークを付けるようにした。経済産業省は98年12月、「抗 菌加工製品ガイドライン」を策定し、「抗菌」とは「製品の表面における細菌の繁殖 を抑制すること」と定義し、抗菌加工製品についてはその詳しい内容を消費者に情報 提供することを要求した。抗菌加工がしてあるからといって、殺菌作用があるわけで はなく、また殺菌力のあるような化学物質は、人間の皮膚に障害を与えたり、アレル ギーをひき起こすおそれがある。また、人間の体にはもともとたくさんの常在菌がい てうまくバランスをとっているのに、抗菌剤によって皮膚常在菌が影響を受けること や、耐性菌が生まれることの可能性を指摘する声もある。(◯No.54,pp.38〜9)

衣服の安全性については、合成繊維の多くが、吸湿性の低さのために、汗がそのま ま皮膚に付着し、皮膚に微生物が繁殖しやすくする。肌着・靴下に微生物が繁殖して 腐敗・発酵現象が起き、悪臭を発したり、炎症を起こしたりするので、抗菌剤加工で 対応したのであるが、吸湿性の高い綿類を使うことも考えられる。合成繊維の吸湿性 が低いことから、電気絶縁性にはすぐれているものの、反面静電気を帯電しやすいの で、帯電した被服は周囲にあるほこりや微粒子を吸引・吸着し、空気中の微生物によ る汚染によって、伝染性疾患などを起こす可能性がある。

つぎに、ファッションと安全性の問題についてであるが、ファッションというの は、消費者が衣服・装飾品をつうじて自己表現し、自分の美意識をアピールすること であるから、ほんらい個人の権利にかかわることであり、他からとやかくいうべきこ とではないであろう。髪の毛やスカートの長さがどうであれ、社会に迷惑をかけなけ れば、個人の嗜好の問題として放任してよい問題である。校則などできびしく取り締 まるべき事柄ではあるまい。しかし、学校内でいきすぎたファッション競争などがお こなわれるようになると、いろいろな弊害が生じるし、それに「不良ルック」とみな されているような風俗が流行すれば、学校の名誉にかかわる。そこで制服を指定する ことで、ファッション規制をおこなう学校も多いのだが、これは個人の権利を侵害す ることになりかねず、生徒のファッション・センスを圧殺してしまうことになる。よ しんば制服をやめても、生徒の服装は流行の方向に画一化しやすく、自主的な選択な どできないという説は一理あるが、自由にしなければ自主性は育たないし、自由とい うのは放任であってはならず、どういうものが良い趣味なのか、選択能力を高めるた めの学習をしっかり援助する必要がある。

ファッションについて指導するばあい、教員の――というか、年長世代の――

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ファッション・センスは生徒たちに受け入れられないことが多いであろう。ファッ ションの次元では、年齢のギャップは避けられない。そのばあい、大人たちは生徒と 大いに論争し、異なる美意識や趣味の存在することを教えた方が良いのだが、それを 生徒に押しつけるわけにはいかない。大人が言うべきことは、健康を害するような ファッションは誤りだということである。髪を脱色し、染色することは、髪や頭皮に ダメージを与えはしないか、そもそもやたらにシャンプーすることは、洗髪剤の種類 にもよることだが、はたして髪や頭皮にとって良いことなのかを問いかけるべきでは ないか。

子どもたちのファッションについて、安全性という観点から気になることはいくつ もある。ミニスカートを寒国の女学生まで愛用し、冷え性になっているかと思えば、

夏場にロングスカートを引きずって歩行困難な子もいる。夏、ルーズソックスをはい て、見るからに暑苦しそうな女子生徒の群れが、どういうわけか駅の入り口や階段に たむろして、他の客の通行を妨げている。夏の高温多湿時に、厚地・細身のジーンズ で腰部・大腿部を締めつけている若者が、大道をかっこよく闊歩する。こういう服装 の若者には、浮腫を発症した者があると聞く。女性がナイロンパンティやパンティス トッキングを愛用するようになってから、尿道炎・膀胱炎・腎孟炎の患者がふえたと もいう。

ただし、近年化繊メーカーが新しい繊維を開発し、それらの中にはシャツにしたば あい吸湿性を高める機能をもったものがある。それは、「肌再生アミノ酸」とよばれ るアルギニンを繊維に化学結合させたもので、「着るアミノ酸」ともいわれる。これ を素肌に近いところで着用すると、汗でアルギニンが溶け出し、それが肌に觸れると 角質層の水分の保持と潤いを保つというのである。併せて、抗菌防臭・消臭性や PH コントロール機能がある、ともいう。この他、生地にプロタミンCを固定し、皮膚か ら分泌される皮脂によりプロタミンCが溶け出し、皮膚から吸収されてビタミンCに 変化するというのもある。これらは洗濯を繰り返すことで効果は徐々になくなってい くし、また皮膚への吸収率も低いとみられるので、あまり大きな期待をすることはで きない、といわれている。(◯No.58,p.45)

3 住居や施設の安全性にかかわる問題

住宅や学校など公共施設の安全性を脅かすものは、なんといっても化学物質であ る。壁紙や合板の接着剤に使われるホルムアルデヒド、塗料に含まれるトルエンやキ シレンなどが原因で、居住者にいろいろな症状があらわれるのが、「シックハウス症 候群」である。目やのどの痛み、頭痛や激しい咳、鼻血などに悩まされる。われわれ の生活環境には、食品添加物・タバコ・化粧品・農薬・排気ガスなど大量の化学物質 があり、われわれはそれらをどうしても吸収してしまうが、体に蓄積したものがいっ

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たん許容量を超えてしまうと、体内の神経システムが化学物質に対して過剰な反応を 示すようになるのを、「化学物質過敏症」とよんでいる。(①No.53,pp.46〜7)この

「化学物質過敏症」のうち、住宅内の化学物質が原因で起こるものを「シックハウス 症候群」というのである。

化学物質過敏症の症状としては、前述のようなもののほか、発熱・耳鳴り・嘔吐・

下痢・皮膚炎のほか、頭がぼんやりする、眠れない、胸がつまる、いらいらして怒りっ ぽくなるといったものがあり、ひどくなると日常生活が困難になるほどである。しか し、症状には個人差があり、同じ条件のもとでも発症する人としない人とがある。そ こで、かつては「虚弱症」とか「神経症」とかいわれたり、不登校の口実、怠学とか んぐられたりした。いまでも発症のメカニズムが解明されたとはいえず、治療法が確 立されたわけでもない。シックハウスや化学物質から遠ざかって、清浄な環境の中で 生きるようにするしかない。ところが、家族ぐるみで引っ越すというのは、なかなか 容易ではない。空気がきれいなところはふつう田舎であるから、そこで仕事に就くの はむずかしい。といって、子どもひとり疎開させるのも、病気の子どもだからいっそ う心配になる。

転居が最善の対策だとしても、転居先で薬品加工したカーペットやカーテンを敷い たり、殺虫剤や芳香剤を多用したら、元の木阿弥になってしまう。転居ができなけれ ば、化学物質を含むものは極力使わず、換気に気をつけ、室内に空気がよどまないよ うにする必要がある。シックハウス症候群の問題についての国の対策としては、ホル ムアルデヒドなど数物質について、室内濃度の指針値(たとえばホルムアルデヒドでは 0.4ppm)を示しているが、これには強制力がない。住宅生産団体連合会では、2

年3月に「住宅内の化学物質による室内空気質に関する指針」を改定し、内装材や収 納家具などに用いる合板は、日本農林規格の FcO、パーティクルボードは日本工業 規格の EO と、ホルムアルデヒドの放出量がもっとも少ないものとし、内装仕上げ用 の接着剤や塗料には、ホルムアルデヒドやトルエンなどを用いないことを決めた。

近年、化学物質をなるべく使わず、天然の材料を使って家を建築しようとする建設 会社もあらわれた。筆者は13年前に東京から信州に移ったとき、そういう建設業者を さがして家を造ったのだが、そういう造り方をすると建築経費がかさみすぎるので、

やむなく一部は新建材を使わざるをえず、中途半端に終わってしまったのは残念であ る。寒冷地のこととて、冬季は二重サッシの窓をしめきりにすることが多く、石油ス トーブを長時間使用するので、結露がひどく、畳は防虫・抗菌加工したものを使わな いため、カビ・ダニの発生が不安である。コタツには豆タンを用いているが、東京か ら冬わが家を訪れる孫の小学生は、朝起床するとき頭が痛いとか気分が悪いとか訴え ることが多い。妻は豆タンの中に化学物質が含まれているものと推測し、保健所や メーカーに問い合わせたが、はかばかしい返答は得られなかった。

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最近クローズアップされたのが、アスベスト被害である。アスベスト(石綿)は、

溶岩が熱水などの作用によって鉱物の結晶が繊維状に成長したもので、耐久・耐熱 性、絶縁性にすぐれ、軽くて加工しやすく、しかも安価なので、建材にもっとも利用 され、鉄骨やコンクリートへの吹き付け材、セメントと混ぜた石綿スレート(屋根・

壁・床・天井・間仕切りなど)の他、煙突や水道管にも使用された。電線や管の被覆、

防火幕、保温剤、自動車などのブレーキやクラッチ、さらに魚の焼き網やストーブの 芯、トースター・オーブン・ヘアドライヤーの断熱剤にも使われ、もっとも利用がさ かんだった70年代には、30種類にも及んだという。(◯0・11号,pp.1〜7)

ところが、アスベストは悪性中皮腫・肺がんをひき起こすほか、じん肺の一種であ るアスベスト肺の原因になる。アスベスト肺は、石綿関連の工場で働いている労働者 の災害であるが、わが国ではすでに17年に報告があった。国際的には、石綿を扱う 労働者の発がんが15年に初めて報告され、50年代には発がんについて、60年代には 悪性中皮腫について、石綿との関連が明らかになった。これに対し、デンマークが1 2年にアスベストの吹き付けと断熱剤への使用を禁止して以来、欧米諸国では石綿の

使用・流通を禁止する措置があいついでおこなわれるようになった。16年には ILO で石綿条約が採択され、段階的使用禁止の方針が決まった。

わが国の対応ははなはだにぶく、政府はアスベストの危険性について72年には認識 していたというのだが、75年に吹きつけを原則禁止したのちも、吹き付け工事が実際 におこなわれていた。ILO 条約条約案に対しても総会で反対し、これを批准したのは 5年8月である。青石綿を禁止したのが95年、04年10月になってようやく全石綿の原 則禁止を決めたが、実際には10種類の石綿含有製品を挙示するというやり方であっ た。それでも、05年7月には3年以内に全面的禁止をおこなう方針である、と伝えら れている。05年7月から10月にかけて、厚生労働省・国土交通省などが対策をうち出 し、中皮腫患者の全員救済、一般住宅やマンションにおける飛散防止や除去などの方 針を決め、また政府・与党として被害救済のための新法制定作業に着手している。

さて、教育関連では文部省(当時)が、89年に全国の学校について石綿の使用状況 を調査している。当時、学校施設の石綿問題がマスコミなどで騒がれていたことから の対応であったが、調査対象を70年以前の建築物に限定したり、調査すべき吹き付け アスベストを三種類に限定し、わざわざ吹き付けアスベストではないと列挙した15品 目の中にアスベストを含むものが多数だったりと、この調査はいちじるしく正確を欠 いた。今回のアスベスト騒動で文科省がおこなった全国実態調査の中間報告(8月末 時点)では、公立学校14校、社会体育施設67、その他計44ヶ所で、石綿の粉じんが 飛散する恐れのあることが判明した。87年調査の結果にもとづき、自治体が石綿除去 をする場合の補助をおこなってきたというのだが、実際には多数の学校が放置され、

中間報告はまだ4割だけ調査が済んだ段階である。こんご、学校からの石綿除去作業

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や在校生・卒業生・教職員の健康診断などを早急に実施しなければならない。膨大な 出費を覚悟しなければならないが、これまでの対策の遅れや不備のツケを払わざるを えないということである。

国の法整備に先立って、石綿被害への独自対策に取り組む自治体がふえている。条 例を新設・改正したり、補正予算を組むなどしており、たとえば富山県では県有施設 や学校などの緊急工事に計2億9,0万円を計上した。福島県も2億円の支出を決め たが、同県の白河市立第一小学校では、教室や職員室など計34ヶ所で石綿が使われて おり、除去作業に約2ヶ月がかかるあいだ、3〜6年生の授業を体育館や食堂で行う ことになる、という。理科室や音楽室など11ヶ所で石綿の劣化があり、浮遊して人が 吸い込む恐れがあるので、立ち入り禁止となり、カリキュラム・時間割の変更を余儀 なくされるとのことで、教育上のマイナスは明らかである。

長野県の各自治体の調査では、佐久市の給食センター、小諸市の6小中学校と2保 育園で、ガス回転釜・ガスフライヤー・自動ガス炊飯器などの調理器に石綿が使われ ていることがわかった。食物に直接觸れるものではないので、健康に影響はないとさ れるが、小諸市では、2,0万円を支出して入れ替えることにしている。また、佐久 市立の中学校では、廊下・天井に石綿を含む吹き付けがあるのが分かり、市教委はビ ニールで覆う飛散防止の応急措置や一部立ち入り禁止をおこない、生徒への問診票な どによる健康調査を実施することにした。こうした騒ぎが、全国の学校で起きている ことであろう。

4 その他の消費者問題

上述のような安全性にかかわる諸問題のほかにも、子どもをめぐる消費者問題がい ろいろある。消費者教育の材料は、いたるところにある。子どもがいつも使っている 文房具をとりあげた授業をいくつか見た。たとえば、ペンケース・コンクールという のがあって、その材質・丈夫さ・サイズ・デザインなどの観点で生徒たちが人気投票 をした。商品についてよく検討してから買おうという趣旨のものであった。デザイン といっても、テレビのアニメのキャラクターが多く、美的センスを磨くようなもので はなかった。価格が観点からはずされたのは、教育的配慮からであろうが、ピンぼけ の感は否めなかった。

鉛筆や消しゴムをとりあげた授業には、見るべきものがあった。原料から製品にな るまで、その性能、大切に使う必要、価格などを学習して、文房具についての関心を 高めることで、文房具の買い方、扱い方から資源問題にまで視野を広めていた。ここ で消しゴムについてちょっとコメントしておくと、ゴムを使うと鉛筆の字が消えるこ とを発見したのはイギリス人で、18世紀後半のことである。ゴムの表面で鉛筆の粒子 をからめ取っていたので、ゴムの表面がまっ黒になると、ナイフで削り取って使えな

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くなるまで大切にした。いまは生ゴムを使うことはほとんどなく、塩化ビニールに可 塑剤を混ぜた、「プラスチック字消し」が大部分で、消しカスの中に鉛筆の粒子を丸 め込み、消しゴムにまとまってつくようにしている。ふつうの鉛筆用のほか、マーク シート用、色鉛筆用、革製品用などがあり、形もさまざまである。可塑剤が溶け出し て鉛筆表面の塗料を溶かすような事故もあり、教室のなくし物の筆頭になりやすい。

消しゴムにまで香料を使うのはいきすぎである。(◯No.40,pp.32〜5)

環境問題の見地から、塩ビ製品を避けようということで、消しゴムの代替品が生ま れた。しかし、定規・分度器・クリヤーケース・テープ・ペンケースなどでは、塩ビ が使われている。水彩絵の具、クレヨン、ポスターカラーなどにも、色によっては塩 素が含まれているというので、最近では非塩ビのものがふえてきた。プラスチック製 品を極力避けなければならないのは、それらがゴミになったときの処分に困るからで ある。また、紙製品を買うさいには、再生紙を使うようにしたい。資源愛護という目 的のほかにも、紙パルプの製造工程で漂白のために、塩素系の薬剤が使われてダイオ キシンが出たり、紙ゴミとして燒却するさいにもダイオキシンを出したりするからで ある。

清潔好きな子どもたちが多くなり、シャンプーを毎日使う子もいる。合成洗剤の シャンプーを使うと、化学物質が皮膚から浸透し、抜け毛や湿疹、かゆみなどを引き 起こし、肝臓にまで障害を与えることもある。天然原料でも、合成界面活性剤が添加 されていたら、安全というわけにはいかない。石鹸シャンプーに切り替えるべきなの である。最近は中学生やもっと小さい子まで茶髪になっている。そのために髪の毛が 傷んだり、皮膚がかぶれたり、目を傷めてしまうことがある。染料にはよく注意した 方がよい。ヘアダイイングには、お金も時間もかかるので、しないですめばそれに越 したことはない。筆者がかつて短大に勤めていたころ、茶髪につてディスカッション したさい、ある女子学生が、「かつては内気で引っ込み思案な性格だったが、茶髪に したことで明るくなり、積極的になった」と、茶髪の心理的効用を強調した。本人が そう思っていることを、否定すべくもない。たとえ、回りに茶髪が多くなったので、

それに同調せざるをえなくなったというのが真相だったとしても。

家庭生活と電磁波の問題にも注意する必要がある。(◯91・◯3号 pp.4〜5)アメリ カや日本の疫学調査の結果、電磁波の強い部屋(4ミリガウス以上)の子どもの小児白 血病の発症率は、2.3倍だということがわかった。電気毛布を使っていた子どもは、

1.3倍、寝室の明かりを使用していたばあいは1.4倍、テレビの長時間視聴で1.4倍 という数値であった。母親が妊娠中に電気製品を使用したときも、生まれてくる子ど もに影響のあることもわかった。ヘアドライヤーをひんぱんに用いたばあい、小児白 血病の発症率は1.7倍、テレビを近く(1m 未満)で見たばあいが1.9倍、長時間視 聴で1.1倍であった。アメリカの研究では、家電製品による電磁波で、ガンが発生す

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る可能性がある、とされている。とくに体から至近距離で使う電気製品に注意すべき だ、というのである。(◯No.58,p.58)もっとも、電磁波に比べると、タバコのリス クの方がはるかに高い、とされている。

さて、至近距離で長時間使用し、電磁波を浴びるものに携帯電話がある。中毒とい われるくらい、携帯電話を手ばなすことができず、しょっちゅう電磁波に被曝してい る若者・子どもたちがいる。電磁波もさることながら、携帯電話の通信料の問題があ る。大人の家計調査(21年上半期)では、食費6万7,0円、被服費が1万8,0円 に対し、交通・通信費は1万6,0円となっている。0年前と比較して、食費が14パー セント、被服費が32パーセント減っているのに、交通・通信費は25パーセントふえて いるのである。通信費の大部分は電話代とみられるが、大学生の携帯電話代では、自 宅学生が7,0円、自宅外生では9,0円である。しかも「出会い系サイト」をめぐる 犯罪・事件が頻発しているのである。(◯No.58,pp.36〜7)

最後に、意外なところにある消費者問題として、子ども・若者のあいだでも大変人 気のあるゲーム・フィッシング(ブラックバスが対象)で使われるプラスチックワーム の加塑剤が水中に溶出するという問題に注目したい。これらの物質は環境ホルモンと して水生生物に被害を与えるが、釣り人が被害を受けるわけではない。だから、消費 者被害問題としての消費者問題ではなく、消費者の環境責任・環境倫理としての消費 者問題なのである。ワームの製造・使用禁止の措置が必要であろう。(◯No.39,pp.

4〜5)ブラックバスは生態系を乱す外来魚として、移動などを禁止されたのだが、

釣具店ではワームが依然として売られている。

食品研究の事例二つ 1 豆類とその加工品

豆類の食品的価値

豆類が食品として高く評価されているのは、まずそれが蛋白質を多量に含んでいる からである。その40パーセント以上が蛋白質であり、しかも蛋白質を構成しているア ミノ酸の質が良い。蛋白質を多量に含んでいる食品としては、肉類や卵があるが、こ れらの食品はコレステロールや脂肪が多く、健康上の問題を生じることがあるので、

豆類のような食物性蛋白を攝ることが必要になる。肉類などの過剰摂取によって、肝 臓に障害が出ることがあるが、これを抑制する作用をもったレシチンが、大豆の中に は含まれている。

大豆には蛋白質の他に油脂が含まれており、それ以外にもカルシウム・リン・ビタ ミン類(B2・B12・E・K)などがあって、これらはコレステロールの蓄積防止や老 化防止に貢献している。豆類には、大豆の他に小豆(アズキ)・エンドウ・ササゲ・ソ

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ラ豆・インゲン豆などがあるが、カルシウムとリンの比率がそれぞれちがっていて、

大豆がもっともアルカリ性が高い。

豆類は、日本で古くから食品として重用されてきて、加工技術が発達した。豆の形 のままだと消化しにくいし、食べにくいので、これを発酵させたり、豆腐にしたりす る工夫がなされた。納豆(なっとう)の工夫は、中国の寺院で最初おこなわれたもの で、入唐した日本の留学僧が持ち帰ったのである。納豆という名称は、もともと寺院 の納所(なっしょ、台所)で作られたことから来ている。当時は豆を煮て麦粉をまぶし て発酵させたものに、塩などを加えた「塩納豆」であった。のちに、煮た豆を藁づと に包み、ムロに入れて保温し、納豆菌を繁殖させて「糸引き納豆」を作るようになっ た。発酵するさいには、ビタミン B2が二倍近く増え、納豆菌のおかげで消化がよく なる。

豆腐は、そのほとんどの成分が蛋白質であるから、蛋白質の摂取ということでは、

実に効率の良い食品である。昔から、歯が十分成長していない乳幼児や、歯を失って しまった老人が食べやすい食品として珍重されてきた。筆者の母が晩年、歯疾に悩ま され、硬いものがまったく食べられなくなったとき、豆腐を食べて生きながらえた し、筆者も歯の治療中には豆腐を主食にしてきた。親子二代に亘って豆腐には恩義が あるということになる。

豆腐や納豆、ゆば、みそといった大豆の加工品が、日本人の食生活を豊かにし、そ の生命を支えてきた。豆類は寺院の食事、つまり精進料理の中心食材であり、粗食で 知られた僧侶たちに長命の人が多かった理由は、小食とともに大豆の完全利用のおか げだった、とみられている。大豆に比べて、小豆の方は嗜好的食品として利用される ことが多く、汁粉や甘納豆などに使われる。砂糖で味つけされるので、砂糖を過剰摂 取するおそれがあり、また餡(あん)や甘納豆の保存のために添加物が使われるので、

消費者問題にかかわってくる。

大豆はたいへん作りやすい作物なので、農薬を使う必要はほんらいないはずであ る。日本の農家はかつて大豆を、水田の畦(あぜ)に植えていた。あんな狭い所に植 えてもぐんぐん大きくなり、なにも手入れしなくてもけっこう実った。大豆の囲りの 雑草は除去したが、大豆の成長率が早いので、周囲の草の繁茂を抑える効用もあっ た。ところがこんにち、大豆は外国から輸入されるようになり、栽培中農薬が使われ たり、輸送中にも農薬が使われたりするおそれが出てきた。また、大豆に遺伝子組み 換えがおこなわれるようになり、これが最大の消費者問題になってきている。

大豆の主たる輸出国はアメリカである。かつては中国も大豆輸出国であったが、こ んにちでは輸入国になった。日本で使われる大豆のほとんどが輸入されたものであ る。戦前、「満州国」があったころ、大豆や大豆粕は満州から輸入された。資源の乏 しい同国では、大豆はまさに主要産物・輸出品であった。日本は大豆を手に入れるた

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めに「十五年戦争」を起こし、やがて敗戦に至った、ということになる。こんにちで も、大豆というのは国際貿易の上での戦略的物資になっている。輸出量をコントロー ルして価格を操作し、輸入国にいろいろな要求を出すというやり方である。わが国の 大豆工業(みそ・醤油など)は、アメリカからの大豆にまったく依存し、左右されてい る。

わが国としては、大豆の国内生産量を増やした方がよい。大豆製品が日本人の食生 活にもっている重要性という点から、また、食品の安全性を確保するという点から も、自給率をもっと高めるべきである。アメリカ式大農法での生産コストに対抗でき ないことがネックであるが、遺伝子組み換えをおこなわないことがメリットで、需要 が多くなり、生産コストとひきあう価格になるかもしれない。わが国でも小豆などの 大量栽培がおこなわれるようになったが、小豆には価格変動の激しさというリスクが あり、また大量栽培に伴う農薬の問題もある。

豆と消費者問題 1)豆類の危険性

豆類は、人間の健康を維持し、増進するすぐれもものとして、たいへん評判のよい ものであるが、その安全性について問題になったことがある。

大豆に含まれているサポニンという物質が、甲状腺に腫瘍をつくるという研究結果 が発表されたことがあった。これは東北大学でおこなわれたもので、大豆40パーセン トを含む飼料を実験動物(シロネズミ)に与えたところ、30〜40日で甲状腺の大きさ が二倍になり、半年で10倍、1年では30倍に肥大し、肥大した腫瘍の観察によって悪 性ガンと判定された。甲状腺肥大に対しては微量のヨードを与えると防げるので、日 本人のように海草を多量に摂取しているばあい、問題はない、というのである。そも そも全食料の40パーセントが大豆だなどという食生活をしている人はふつういないの で、実際には問題にならないと柳沢文正教授は述べている。(◯95pp.42〜4)

大豆サポニンについて、便通を促して腸をクリーニングしてくれるほか、泡だちの いい石鹸のような性質があり、血管に付着したコレステロールを洗い流してくれる、

というようなサポニン善玉説もある。それによれば、体内で脂肪の酸化を防ぐ働きが あり、成人病だけでなく、ガンやエイズの抑制効果も期待されるので、研究がすすめ られている、というのである。残念ながら筆者には、この説の真疑は確かめられな い。豆腐の名誉回復に役立つ話なので大いに歓迎したいところである。

大豆の問題点として、納豆を食べると血液が固まりやすくなって血栓症を引きおこ し、心筋梗塞や脳梗塞を発するという、ぎょっとするような研究結果があることを、

柳沢教授が紹介している。(◯95p.45〜6)ただし、これは手術時に血を固まりやすくす る薬品を用いている患者にだけあてはまることで、一般の人であれば問題はない、と 述べている。柳沢教授は健康人のばあい、納豆は最良の食品であり、長生きしたいと

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思えば、毎日納豆を食べるべきだと、納豆を礼賛してやまないのである。(◯95p.46)

2)農薬の問題

国産大豆のばあいは、あまり農薬を用いないが、輸入大豆については用心しなけれ ばならない、といわれている。栽培過程で除草剤が使われたり、ポストハーベストで 農薬が使われたりするので、国内産の方が安全性が高いとされている。いちおう表示 はされているが、かつてはその表示の信用性に疑問ありという調査結果が出された。

8年の大豆輸入量は49万トン、国内生産量は28万トンで、自給率はたった6パー セントであった。国内生産量には農家の自家消費量も含まれており、実際に市場に出 回ったのは、17万トン程度であったという。豆腐業界は、豆腐原料用の大豆は47万ト ンでそのうち国産品は7万トンであるとしながら、業界団体が業者を対象としておこ なったアンケート調査では、4割を超える製造業者が国産大豆を使用している、と回 答した。どの程度の割合で国産大豆を使用しているかは不明であった。当時、国産大 豆の価格の方が輸入大豆よりも高かったが、その価格差は業者によってまちまちで、

2倍から6倍の開きがあった。しかも食味では、国産と輸入ではっきりした差はな かった。これでは業者が輸入品に走るのは当然であり、消費者の支持なくして国産大 豆は生き残れない。(◯89

3)遺伝子組み換えの問題

こんにち、輸入大豆をめぐる大きな問題として、遺伝子組み換え作物の問題があ る。日本が輸入する大豆の75パーセントはアメリカからであるが、アメリカ産の大豆 の70パーセント以上が、遺伝子操作大豆になっている。アメリカの政府当局は、遺伝 子操作作物についてあまり問題意識をもっていないようにみえる。微生物殺虫剤の BT の殺虫毒素を含む BT 大豆や、強い除草剤を使っても枯れない除草剤耐性大豆な どがつくりだされている。

6年から遺伝子操作大豆の輸入が認められており、BT 大豆も入ってきている。

しかし、遺伝子操作技術は未完成であり、操作作物の安全性は十分確認されたとはい いがたい。わが国の消費者のあいだには、遺伝子操作食品について不安感をもってい る人が多く、21年4月から、豆腐をはじめとする食品について、遺伝子操作原料を 使用しているかどうかの表示をすることが義務づけられた。また、豆腐業界ではかつ て国産大豆を50パーセント使っていれば「国産大豆使用」と表示してよいとしていた が、20年4月からは10パーセント使用のばあいのみ「国産」と表示できるように 改められた。(◯89

わが国の豆腐メーカーのほとんどが、遺伝子組み換えではない大豆を使っている、

と言っている。しかし、国産表示の豆腐について DNA 検査をおこなったところ、最 大手の豆腐メーカーの製品から遺伝子組み換え DNA が見つかったケースもあり、ま た「有機豆腐」と銘打ったものに、遺伝子操作大豆が混じっていたこともある。表示

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の信ぴょう性について疑問なしとはいえないのである。(◯4・15号,p.7)

遺伝子組み換え大豆は、日本でも栽培されはじめた。組み換え作物推進派の農家団 体が、21年から全国各地で栽培をおこない、茨城では花粉の飛散による遺伝子汚染 を恐れた反対派が、開花した組み換え大豆を鋤きこみ、刑事事件となった。推進派で は、混乱や反対を押しきってまで栽培するつもりはないと言っているが、各地で反対 派とのあつれきが起きており、規制の条例を制定しようとしている自治体もある。安 全性は厚生労働省が認めているところだが、その審査基準には問題がある、と批判さ れている。遺伝子組み換え作物については、慎重な対応が必要である。(◯6号,p.

8・19号,p.10 ◯No.49)

4)国産大豆の不足と値上がり

豆腐メーカーは、消費者の国産大豆嗜好に配慮して、国産大豆を原料とする豆腐の 製造量を増やしてきた。国も大豆の生産を奨励した、ということもあり、98年ごろか ら作付面積・収穫量とも増加してきており、ひところは自給率3パーセントにまで落 ち込んでいたのが、01年には27万トンが生産され、88年の水準近くにまで回復した。

市場での販売価格も60kg あたり5,0円を下廻るようになった。ところが、03年、0 年と天候不順などによる不作で、国産大豆の集荷量は10万トン弱になってしまい、と くに豆腐製造適品種の価格は2万5,0円台まで急騰した。豆腐製造における国産大 豆の需要は12万トン前後とみられるが、国産大豆の全生産量はそれを下廻っており、

業者は数量の不足と価格の高騰に苦しめられている。やむなく製品価格に転嫁しよう としても、現在の売り値がすでにかなり高いので、さらなる値上げは困難だというの が実情である。(◯No.46,pp.14〜5)

5)ニガリと添加物

豆腐の味を決定するのは、原料の大豆とニガリと水分だといわれてきた。国産大豆 の方が輸入物よりおいしいとされてきたが、これは前述のように必ずしも実証されて いないようである。豆腐づくりには凝固剤として酸化マグネシウム・塩化カルシウム を用いるが、昔は「ニガリ」(海水から塩をつくる際の副産物)を使った。今でも「天然 にがり」を使っていることを売り物にしているメーカーがある。つまり、「塩化マグ ネシウム含有物(にがり)」と表示されるものだが、いま、不足しがちなミネラル分を 補給するものとして、にがり食品がブームとなっているという。岩手県の県民生活セ ンターの調査によれば、にがり製品15銘柄のミネラル分含有量には、大差のあること がわかった。してみれば、にがりを使った豆腐のばあいも、マグネシウム・ナトリウ ム・カリウムの含有量には格差があるとみるべきであり、また、ミネラル分の攝りす ぎは健康を害するばあいがある。天然にがりもさることながら、大豆の泡立ちを抑え るための消泡剤などの添加剤によって、豆腐の旨みがなくなったり、妙な後味が残っ たりする、といわれている。より自然に近い食物が、安全でかつ美味だというのは、

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