一
彦根城博物館所蔵『今昔物語』巻十七の本文の位置づけ
彦根城博物館所蔵 『 今昔物語 』 巻十七の本文の位置づけ
中 根 千 絵
はじめに
論者は︑『説林』五三号において︑彦根城博物館所蔵『今昔物語』︵全巻︑表紙の題は『今昔物語』と書いてあるが︑
内題には『今昔物語集』とある︒︶の紹介を行ったが︑その際︑本の空白部分の分析︑流布本系共通脱文の分析から︑
彦根城博物館所蔵『今昔物語』は︑内閣文庫本Bに近い流布本系の本であり︑内閣文庫本Bより良い本であろうと論
じ ︶1
︵た︒しかし︑その位置づけが正しいかどうかは︑諸本との一語一語の比較を経て︑初めて︑立証されるものである︒
巻一については︑先に論集で分析を行い︑彦根城博物館本は内閣文庫本Bとのみ一致する箇所が多く︑これは︑『説
林』五三号で論じたのと同じ傾向であるが︑旧日本古典文学大系の底本である東大本甲や東北大本︑野村本とのみ一致
する箇所もあり︑彦根城博物館所蔵『今昔物語』は︑流布本系諸本︵内閣文庫本ABC︑東大本乙︶と古本系諸本︵東
大本甲︑東北大本︑野村本︶の間の状態を有する希有な本であるということを述べ ︶2
︵た︒巻二︑巻五︑巻七︑巻九の場合
は︑鈴鹿本という原本に近い本が残っているせいか︑古態を残すとされる東大本甲︑東北大本︑野村本と一致する箇所
は非常に少ないという結果が得られ ︶3
︵た︒但し︑巻五︑巻七では全体として︑流布本系の諸本と表記が一致するにも関わ
らず︑固有名詞等については︑古本系諸本に依っており︑これは巻四と同じであ ︶4
︵る︒巻三・巻六・巻十では︑特に︑野
村本が流布本系と古本系との狭間で揺れている様を見てとることができた︒また︑様々な要件から︑流布本系は︑校訂
二 愛知県立大学日本文化学部論集 第12号 2020
本文を目指した書物群ではなかったかと推測した︒但し︑彦根本のように︑中間的な表記を有する書物の場合には︑い
まだ︑そのどちらとも見定めがたいとし︑今後︑さらに︑巻ごとの分析を続け︑彦根本の性格を見極めると共に︑古態
本と流布本の総合的な分析を行っていきたいとし ︶5
︵た︒巻四の場合に顕著な傾向として現れるのは︑古本系との一致度が
高く︑内閣文庫本Bとの一致度は低いということである︒これまで︑彦根城博物館本は古態本と流布本の中間的な本と
して位置づけてきたが︑巻四にいたって︑古態本の表記を有することが判明したことにより︑改めて︑彦根本の位置づ
けを考えてみなければならないこととなっ ︶6
︵た︒また︑巻十一・巻十二では内閣文庫本Bにおいて︑出典等による補入が
ある部分については︑その表現は一致しない︒こうしたことから︑彦根城博物館本は︑内閣文庫本Bより前に成立した
写本である可能性が高いと考え ︶7
︵た︒巻十二の分析においては︒さらに︑内閣文庫本B︑Cおよび野村本は校訂本文を目
指した書物であることを明らかとした︒また︑巻十二においては︑彦根城博物館本のみが最も古い鈴鹿本の表記の一部
を残していることも指摘し ︶8
︵た︒巻十三では︑古態を残すとされる東大本甲︑東北大本︑実践女子大本︑國學院大本と一
致する箇所は多くないという結果が得られた一方︑B本のみと重なる箇所も見られなかった︒代わりに︑東大本乙が古
本系と表現が一致する場合︑流布本系と表現が一致する場合の両方において︑彦根本と一致する箇所が多いことが認め
られた︒両本の表現の全てが一致するというわけではないので︑直接の書承関係があるとはいえないものの︑彦根本が
乙本と同系統の本文を引き写した可能性︑あるいは︑その逆の可能性を指摘した︒また︑固有名詞について︑底本であ
る東大本甲では︑「欠験記ニ依テ補フ」という朱傍があり︑古本系とされる実践女子大本︑國學院大本は︑同じ固有名
詞を記しているが︑流布本系の乙本︑A本︑B本︑C本︑また︑彦根本も︑欠を補わず︑□としている︒このことか
ら︑古本系においても校訂がなされないわけではないことが明らかとなっ ︶9
︵た︒巻十四においても古本系とされる実践女
子大本︑國學院大本︑野村本が校訂本文を目指した本であることを指摘し ︶10
︵た︒巻十五の本文の異同からは︑彦根城博物
館本が古態本と流布本の両本の系統を見ることができる環境にあったと仮定し︑古語としての漢字の表記には忠実であ
りながらも︑順序の入れ替えのような明らかな誤謬については︑訂正するという意識が垣間見られることを指摘し ︶11
︵た︒
三
彦根城博物館所蔵『今昔物語』巻十七の本文の位置づけ
巻十六では︑彦根城博物館本はB本と乙本のいずれかの表記にほぼ合致し︑古態本系の欠字部分のほとんどが流布本系
では踏襲されず︑欠字をなくして︑意味合いが通じるような表現に変更されている様が見てとれ ︶12
︵た︒
巻十七についても引き続き︑彦根城博物館所蔵『今昔物語』の本文を他の諸本と比較することにより︑彦根博物館所
蔵『今昔物語』巻十七の位置づけを試みることにしたい︒但し︑諸本の収集は︑いまだ︑その途上にあり︑旧日本古典
文学大系『今昔物語集』の校異と頭注から必要な部分を抜き出す形で︑諸本との比較を行うこととする︒
彦根城博物館所蔵『今昔物語』巻十七の本文異同
凡例 一番上の段は旧日本古典文学大系のページと行︑次の段は彦根城博物館所蔵本の本文︑次の段は彦根城博物館所蔵本
と同じ本文を持つ本の種類である︒︵但し︑異体字などの字形が異なるものについてはこれに含め︑その都度指摘し
た︒︶★印は彦根城博物館所蔵本独自の部分であり︑その部分については諸本の例を示した︒旧日本古典文学大系に載
る考察は必要に応じて「 」に入れて付した︒
各本の略語は次の通りである︒
底│旧日本古典文学大系『今昔物語集』の底本︵鈴鹿本︶︻旧日本古典文学大系『今昔物語集』の底本が現在の諸本の
うちの古態本にあたると考えられることから︑底の字を使うことで︑それが一見して明らかとなるようにした︒︼ 甲│
東大本甲 北│東北大本 実│実践女子大本 国│國學院大本 野│野村本 以上︑古本 乙│東大本乙 A│内閣文 庫本A B│内閣文庫本B C│内閣文庫本C 以上流布本 彦│彦根城博物館所蔵本
大︱旧日本古典文学大系
四 愛知県立大学日本文化学部論集 第12号 2020
巻十七目録
五〇三 受岩護︵第十四︶ B 得活語︵第十七︶ ABC 下野國依僧地蔵助 ★ 「下野國僧依地蔵助」AC「下野國依僧地蔵語」底甲実国乙B︵底は依僧に顚倒符︶
︵第三十︶
文珠生基見女人悪語 ★ 「文殊生行基見女人悪給語」AC「文殊生基見女人悪語」底甲実国乙B ︵第三六︶
奉化︵第四五︶ 諸
巻十七第一話
五〇四
4年来ニ諸
6此レニ依テ諸
7現身ノ諸
11 逢来タリ実国乙B
12 月ノ廿四日ニ諸︵底の月ノは傍書補入︶
16 夜終諸︵底には顚倒符︱あり︶
諸本
「 「
夜終」に作るは︑底本に存する顚倒符「︱」を理解する能わざりし為の変化
と思われる︒」
五〇五
4泣ク甲実国乙B
4年来ABC
五
彦根城博物館所蔵『今昔物語』巻十七の本文の位置づけ
5其感應有甲実国乙BC
6悲キ哉ヤ貴哉ト悲哉貴底甲実国乙B︵底は悲哉貴みせけち︶
6涙流乙B
7難キ事也ト底甲乙大「難キ事也ノ」B「難キ有事也ト」実国「難有キ事也ト」A「難有事也ト」C
巻十七第二話
五〇五
12 前司ノトB「前司ノ□ト」乙AC「前司□ノ□ト」底甲実国大︵甲実国の上の空格は半字分︶
12 後諸
五〇六
5明ノ日暁甲実国乙BC
5行ムニ人ヲ以テ甲実国ABC
6化身値奉ラム乙AB 9 宿善 諸
13 洋ク信スルニ甲実乙AB
13 値ヒ給乙B「値給」C「値ヒ給フ」甲実国A「値ヒ給ヘリ」底大「このままでも通るが︑
常識的な考え方としては「値奉レリ」の誤用もしくは混淆と見られる︒」
五〇七
1此下ノ「此ノ」諸「上下ノ」大︵底本破損のため「上」不分明︶
巻十七第三話
五〇七
7者ニテソ有リケリ乙B
9地蔵菩薩ABC
六 愛知県立大学日本文化学部論集 第12号 2020
12 諸道カ父ノ実国ABC
12 勝ヌル事ヲ喜テ甲実国乙AB
12 此箭ヲ拾フBC「此ノ箭ヲ拾フ」甲実国乙A「此ノ箭拾フ」底大
五〇八
3貴キ悲キ事也甲実国乙AB
3念シ奉レハ人ノ故ニABC
巻十七第四話
五〇八
9ノ郡ニ甲ABC「ノ群ニ」底実国乙大「群」の正字は「郡」
11 動カシ甲実国ABC「動カ」乙「動カス」底︵破損のためス不分明︶
五〇九
2文時家ニ諸
5駿テ馬ニ乙B
6害セムト人ハ諸「害セムズル人ハ」底大 「諸本かく作るは︑底本の文字不分明なるに基づく譌︒」
7過ヌ方ヨリ甲実国乙AC
7主大夫殿ノ甲実国乙AC
8年十余許ノ乙AB
10 驚キ懐テ甲実国ABC「驚テ懐テ」乙「驚キ恠ムデ」底︵底本やや不分明︶
五一〇
1生スル乙ABC
七
彦根城博物館所蔵『今昔物語』巻十七の本文の位置づけ
巻十七第五話
五一〇
8然彼男BC
10 此ヲ見テ底甲乙B
11 数寄セテ底甲実国
11 曳出シ奉テハ為ルニ乙ABC
17 鋤䦣ノ等ヲ実国乙
五一一
1五十餘ノ乙ABC
3安置奉リツ甲実国乙A
4親ナリケレハ乙ABC
4壽久聖人実国ABC
巻十七第六話
五一一
13 焼ニケル甲乙ABC
13 一人小僧諸
14 焼テ失ナムトス乙ABC
15 辺リ草木乙AB︵乙ABは邊︶
16 等身ノ諸大「等人ノ」底︵人みせけち身と傍書︶
「底本は︑もと「身」を「人」と書いて︑みせけちにしたるは︑よみの証として採る
ことができよう︒」
五一二
1火ヲ消ツ事ハ甲実国乙AB
八 愛知県立大学日本文化学部論集 第12号 2020
2云リ甲
2辺ニ諸︵諸は邊︶
巻十七第七話
五一三
5思甲実国乙B
6貴ヒ悲ム諸
8堂ヲ造リ実国乙ABC
9首ヲ仰テ乙ABC
11 出来ル所信施ノ物諸
11 置ク所見シ乙AB
巻十七第八話
五一四
5寄諸
9沙弥甚タ行甚タ★ 「
沙弥ノ所行甚ダ
」
底大
「
沙弥ノ
行甚タ
」甲「
沙弥ノ所甚タ行甚タ
」
実国
「沙弥甚タ行」乙「沙弥甚タタ行甚タ」A「沙弥甚ク行甚タ」B「沙弥甚行甚」C
11 然レハ沙弥ヲ諸
14 国内ノ諸
15 悲ヒ歎クテ底実国大「悲ヒ歎キテ」甲乙AC︵甲の悲は変︶「悲ニ歎クテ」B 「底・実・国の三本作るは︑「悲ビ歎ク」と「悲ビ歎キテ礼拝シケリ」との混淆︑未推
敲を示すものか︒或はまた︑音便形「歎イテ」の変化か︒」
九
彦根城博物館所蔵『今昔物語』巻十七の本文の位置づけ
17 弃テヽ底甲ABC
巻十七第九話
五一五
8老タル母并ニ妹底乙ABC
13 見夢覚ヌ乙AB
14 夜暁ヌABC
17 感シ貴テ諸
五一六
3助ケム為ニ甲実国乙A
4絹ヲ得給ヒケム夜甲実乙ABC
5浄源カ孝養ノ甲実国ABC
巻十七第十話
五一六
10 所念地蔵乙ABC
12 哀ノ事乙ABC
14 通ニ乙ABC
15 号ヒ来テ甲実国乙AB「号来テ」C「歩ビ来テ」底大 「底本の字体︑卒然と見れば「号」の如くにも見えるので︑他本は悉く「号」と誤る︒」
17 合始メテ乙AB
五一七
1思ニ乙ABC
1地蔵菩薩ノ「地蔵忸ノ」大
一〇 愛知県立大学日本文化学部論集 第12号 2020
1像ノ造テ甲実国B「像ヲ造テ」底乙AC大 「因みに︑底本︑下の「像ヲ」は︑「像ウ」の如くに見える︒之に従えば︑捨てがなを
施した例となる︒」
1其前功徳ヲBC「其ノ前功徳ヲ」甲実国乙A「其ノ前ニシテ其ノ功徳ヲ」底大
4首ヲテAB
6結ヘル乙ABC
巻十七第十一話
五一七
13 冨士ノ容ニ乙AB
14 有リトテ依テ甲実国乙AB
五一八
2此乙ABC
2璃テト「憑テト」諸 諸本かく作る︵甲本はムを重書︑実・国二本はムと傍書︶「キの誤写も
しくはテキの意と見るべきものか︒」
4為ムキ乙AB
巻十七第十二話
五一八
11 安置シ奉テケリ甲実国乙
12 此地蔵ヲ★ 「地蔵」諸「此ノ地蔵」底大
17 亡宣ノ方ヲAB
五一九
1坐シ給ヘリト底B
一一
彦根城博物館所蔵『今昔物語』巻十七の本文の位置づけ
1涙流シテ甲実国AB
3至シテ乙ABC
巻十七第十三話
五一九
11 彼着宛テB
12 土頽テ口塞ルト乙AC
14 精進シテ乙ABC
17 其時ABC
五二〇
2偏甲実国乙B
3悲ミケレハ乙AC
巻十七第十四話
五二一
6方ヘ乙ABC
6行着甲実国乙B「行テ着」A「行ツキ」C「行着ヌ」底大 「底本の文字やや不分明のため諸本かく作る︒下句との関係は︑「即チ」の省略された
如き語法と見る︒」
9此外ABC
11 入滅シケリ乙ABC
一二 愛知県立大学日本文化学部論集 第12号 2020
巻十七第十五話
五二二
5難シ大 「諸本に異文はないが︑茲は文脈上「无シ」の意でなければならぬ︒この字の正
字的用法からは
「无」
の意は出て来ない
︒思うに或は
︑︿ナシ﹀と耳で聞いたもの
を︑同音の借字「難」で写したものかと推せられる︒」
6毎日勤トス諸
8夢中ニ諸
10 化度シ給告ケ給フト甲実国乙AB「化度シ給へト告ト」C「化度シ給フト告ゲ給フト」底大 「底本の文字やや不分明のため諸本・C本かく作る︒」
巻十七第十六話
五二三
4一勝地諸
4江ノ優婆塞ノ底実国乙B
6修行僧諸
14 馥ハシテ香乙B
16 地蔵菩薩諸︵ABC以外は教︶
巻十七第十七話
五二四
7短也乙ABC
9笠置ノ底BC
11 一百八返諸︵甲実国の返は反に之繞を加筆したるごとき字体なり︶
一三
彦根城博物館所蔵『今昔物語』巻十七の本文の位置づけ
11 忘ル乙ABC
12 卅ト乙ABC
13 死乙B
16 得テ乙ABC
五二五
4小僧在甲実国乙B
5亦卅餘人ノ諸︵Cの卅は三十︶
6大善根ノ人也ケリ乙ABC
10 流轉生死業縁ノ甲実国乙C︵甲実国乙Cは転︶
11 弃テハ諸
12 宣フト程ニ甲乙A
巻十七第十八話
五二六
5天姓トシテ底実国乙AB︵底は重書して性と訂︶
6海ヲ渡甲実国乙AB
7渡癘発甲実国乙AB︵甲実国乙ABは發︶
8死ヌ底実国
10 然々ノ人也底ABC︵底ABCは︶
11 死乙B「死ヌ」底大「死ス」諸
12 似諸
13 罪ノ軽重定ム実国乙AB
一四 愛知県立大学日本文化学部論集 第12号 2020
14 雷響ノ如シ諸
17 ヒ進甲実国乙B︵歩の字変︶
五二七
1在乙B
7然速ニ甲実国乙AB
12 思ル人諸「過ル人」底大 「茲は前出の「其ノ辺ヲ過ル人ヲ呼テ語テ云ク」を承けるものであるから︑底本の如
くでなければ文意は通じ難い︒」
12 本國ニ返甲実国乙B
12 聞人甲実国乙BC「此ヲ聞人」底大
14 仕ケリト諸大「仕ケリトナム」AC
巻十七第十九話
五二八
5名付ABC
5遊ヒ戯ル諸
6供養スルコトヲシテ実国B「供養スル□ヲシテ」底甲乙AC大
6師ニ随テBC「師ニ随ヘテ」諸大 諸本かく作る︒「かく︑「随ヒテ」とあるべきものが「随ヘテ」とあるのは︑天竺部に
おける類例︑「接ヘ
」 「
員ヘ」とあるべきものが「接ヒ
」 「
員ヒ」とある事実と同一の
現象に基くものか︒」
8氣色有ヲ実ABC
一五
彦根城博物館所蔵『今昔物語』巻十七の本文の位置づけ
9其ノ時B
10 押シ入甲実国乙B「押入」AC「押シ入ル」底大 底本の文字やや不分明︒
11 纔ス実国乙AB
11 法花経読誦シ諸
12 仕リツヽ諸大「仕ヱツヽ」A「仕エツヽ」C 「諸本かく作るが︑このままでは文意通じ難い︒恐らく︑「仕リツツアリシ間」の意味
を籠めてかくいったものであろう︒」
13 遙隨AB︵ABは随︶
14 閻魔廳ニ甲実国乙AB
14 見廻カスシB
17 時戯ニ所作也キトAB
五二九
1悪趣ノ辺甲実国乙AB︵甲実国乙ABは邊︶
5山ヲ廻流浪諸
8此在シケリ甲実国
巻十七第二十話
五二九
13 一人入道ノ僧甲実国ABC︵Aの僧は傍書︶
16 公真カ身乙ABC
五三〇
2
見ルニ
︹脱
︺罪人
「
見ルニ
︑︹東西ヲ忘レテ更ニ思ユル事无シ
︒而ルニ
︑一人ノ小僧ウ有リ
︑其ノ形
一六 愛知県立大学日本文化学部論集 第12号 2020
チ︑端厳也︒︺罪人」大
2傍ナル人甲実乙B
4跪ツイテ諸大「跪テ」AC数少いイ音便の例︒
6得甲乙B「得ムト」底大「得ン」実国AC︵Aのムはン︶
7免セム諸大「諸本かく作るが「免ゼムヤ」の意か︒」
7汝カ父母藝ノ国ノ甲乙B︵甲乙Bは國︶
8祝師C大「物師」諸 諸本︑「禾偏に作るは︑「秘」におけるが如き譌︵「程」を示偏に作
るは︑その逆︶︒」
11 官人ノ前行訴諸「官人ノ前ヘ行キ訴テ」底大
11 頂摩テ甲実国乙B
12 善ク行シAB
巻十七第二十一話
五三一
2但馬前司國擧甲実国乙B大「但馬國司國擧」底︵上の國を前と訂︶「但馬国前司国挙」AC
3但馬前司國擧ABC︵ABCは国挙︶「但馬前司國擧」底甲実国乙大
3私ヲ願テ底実国
3身ニ受テ病ヲ
底甲実国乙大
︵底は病の左下に反読符|あり︶
「
身ニ受テニ病ヲ
」B「
身ニ病ヲ受
テ」AC
5文ヲ持乙ABC
5訴フ事実国乙AB
一七
彦根城博物館所蔵『今昔物語』巻十七の本文の位置づけ
7申ク乙B
9夢幼如シ乙AB
10 嚴ニ諸
11 助ケ甲実国乙AB
11 何故有テ諸
12 立給ヘト甲実国乙B
14 命依シ奉ラムト甲実国乙A
14 此ヲ聞テ底甲乙B
15 実アラハ甲B︵甲Bは實︶
16 國挙免シ放ツ諸︵諸は擧︶
17 不語甲実国BC
巻十七第二十二話
五三二
11 月ノ日諸「□月ノ□日」底大
12 穴ニ入頭ヲ逆サケテ乙ABC︵Aの頭は道︶
15 見廻ス甲実国乙AB
15 一人无★ 「一人无シ」諸大「一人モ无シ」C 諸本かく作る︒「かかる否定表現に︑今日とは異なり︑モを使用しないことは天竺部
に多く見受けられる︒」
一八 愛知県立大学日本文化学部論集 第12号 2020
16 其庭有甲実国乙B
五三三
2催ス所甲実国乙BC
8此男C
9設諸
13 親シノ族ニ乙AB
巻十七第二十三話
五三四
4神社司ノ甲実国乙AC「神社司」B「神社ノ司ノ」底大︵破損のためノ不分明︶
4小年ノ時諸大諸本かく作る︒「少年」に同じ︒
6長徳四年ト云フ甲実国乙B
9一人花筥ヲ底乙B大「一人ハ花筥ヲ」甲実国AC︵甲実国のハは補入せるものの如し︑B以外の
筥はすべて笞に作る︶
「諸本の「筥」が︑すべてムチの意の「笞」に作るは︑字形相似に基く誤り︒」
11 知ルヤ否ト乙AB
13 此如六軀ノB
16 涙流シテ諸
五三五
3心専ニシテ甲実国乙AB
5地蔵本誓ヲ諸
8云貴ヒケリ甲実国A︵Aの云は傍書︶
一九
彦根城博物館所蔵『今昔物語』巻十七の本文の位置づけ
巻十七第二十四話
五三五
14 公私ニ被用タル事乙ABC「公私ニ被用タル事」底甲実国大︵底は料紙薄きため空白︶
五三六
1鹿迯ルニ随テ甲実国乙AB
3幾ノ程ヲ不経スシテ大「幾程ヲ不経ズシテ」AC
3遂ニ死シヌ諸大「遂ニ死ヌ」C 諸本かく作る︒「シヌは︑全訓すてがなとは見ない︒」
4琰魔王大「閻魔王」AC
4此レヲ見ルニ乙B
6罪業ノミ造テABC︵Cのテはラに近し︶
8懺悔セヨ甲実国乙B
15 地蔵菩薩諸︵ABC以外は教︶
15 発セハ人乙AB︵乙ABは硯︶
15 既如此シ底乙B︵既は変︑底は偏を艮に作る︶
16 救ヒ助ケ給ハムカ乙AB
巻十七第二十五話
五三七
5一ノ寺アリB「一ノ寺リ」底甲実国乙大「一ノ寺有リ」AC B・A・Cにより補読︒
5千包諸大
6此別當ナル僧諸︵Bのナは変︶
二〇 愛知県立大学日本文化学部論集 第12号 2020
6像令造シム甲実国乙B
7心ヲ迷乙B
8尋子求ム騒ク間ニ★ 「尋ネ求ム騒ク間ニ」甲実国乙A「尋ネ求ム騒ノ間ニ」B「尋ネ求ム騒ク間」C
「尋ネ求メ騒グ間ニ」底大
11 免ニ成ABC
11 綵色シ不奉サル底甲実国乙
15 起居諸
16 庄野ニ乙ABC
五三八
2汝我不知ヤ乙B「汝ヂ我レハ不知ヤ」底大「汝我ヲ不知ヤ」甲実国C「汝ヲ我レヲ不知ヤ」A
2因播ノ国ノ國隆寺
甲実国乙
︵甲実国乙は幡
上の国が國︶
「
因幡國國隆寺
」B「
因幡ノ國隆寺
」
AC
「因幡ノ國ノ國隆寺シテ」底大︵破損のためシテ不分明︶
4可供養甲実国乙B「供養スヘシ」AC「可供養□」底大︵底本︑破損のため不分明︶
7地蔵菩薩ノ像ヲ乙ABC︵乙は教︶「地蔵教ノ像ノ」甲実国「地蔵教ノ僧ヲ」底大 「底本かく作るが︑諸本「像」︒「僧
」 「
像」の傍は余りにていないので︑字形相似とい
うよりは︑類音の故に説話を聴き取って書き移す際に誤られたものか︒但し︑「僧」
と「像」とは︑いわゆる開合のちがいがあるので︑同音名なりしが故ではなく︑な
お︑聯想が︑「像」↓「僧」への変化を齎したものと見るべきであろう︒」
9語り傳ヘタルトヤ甲AB「語り傳タルトヤ」実国C「傳タルトヤ」底乙大 「書写相の疎を物語るものといえよう︒」
二一
彦根城博物館所蔵『今昔物語』巻十七の本文の位置づけ
巻十七第二十六話
五三八
17 汝カ此布ヲ持テ★ 「汝ガ此ノ布ヲ持テ」底甲実国乙大「汝チ此布ヲ持テ」B「汝此ノ布ヲ持テ」AC
17 彼津ニ行AC
17 魚買テ甲実国乙AB
17 持来ル底甲乙B︵甲のルは変レに加筆せし如し︶
五三九
3引テアリ乙B「引上テアリ」底甲実国「引テ有リ」A「引テ有」C
6放テ入レツ乙AB
7助ケツト也ト亀ニ「助ケツト」諸大「助クル也ト龜ニ云ヒ令聞テ海ニ放テ」 云ヒ令聞テ海ニ放チ 底︵クルをケツトと訂 也以下をみせけち︶
妻 諸本︑このあたりに衍文あり︒即ち︑「助ケツト妻」を「助クル也ト亀ニ云ヒ令聞テ
海ニ放チ妻」に作る︒
9幾程ヲ諸
9経乙B「経ヘテ」底「経テ」甲実国AC ヘは「経」の全訓すてがな︒
10 云フ人諸大
11 水ヲ吸口ニ入テ乙ABC︵Bのヲは変︶
11 夫ヲ荷甲実国乙AB
13 至諸
14 此レ諸大「諸本かく作るが︑類似の場面における常套表現から推すに︑もと「我レハ此
レ」とあったものであろう︒」
二二 愛知県立大学日本文化学部論集 第12号 2020
15 利益セムカ諸︵Cのムはン︶「利益セムガ為ニ」底大
15 有リシ諸大「諸本かく作るが︑上に係助詞なくして連体形で文を止めたことに注意︒「有リ
シガ」もしくは「有リシニ」の意であろう︒」
15 江辺ニシテ諸︵諸は邊︶
16 男甲乙ABC
16 亀買取テ甲実国乙AB
16 放チテ乙B
五四〇
2縛甲実国乙AB
6聞宣ハク甲実国乙B
7我カ身ニ今助クル事★ 「我カ身ニ今助カル事」B︵助は変︶「人ヲ助クル事」AC「我ガ身ニ替テ人ヲ助
クル事」底甲実国乙大
11 実首ノ娘実国乙B︵実国乙Bは實︶
12 聞テ底AC
13 娘亦男ヲ見甲実国乙B
14 互ニ実国乙ABC︵実国乙は異体︶
14 冥途事ヲ地蔵菩薩語B ケリ
巻十七第二十七話
五四一
6七条ヨリハ乙ABC「七条ヨリハ□西ノ洞院ヨリハ□」底甲実国
二三
彦根城博物館所蔵『今昔物語』巻十七の本文の位置づけ
西ノ洞院ヨリハ
9日夜三時甲実国ABC
12 恐レ怖フト諸大「恐レ怖ルト」C 諸本かく作る︒「文脈より推すに︑「恐レ恠ブト云ヘドモ」の譌であろう︒」
13 後寺ニ底甲実国乙B「彼ノ寺ニ」AC大 「諸本の「寺」は「等」の省文であろう︒」
五四二
1参女ノ甲実国乙AB
2畫キ奉レラム底B
巻十七第二十八話
五四二
6第廾九「第廾八」大
6助活語実国乙ABC
7東者底乙AB大「本者」甲実国「本ハ」C
「 「
本者」が原姿であろう︒」
9月廾四日ニ諸
9六波羅蜜ノ乙AB
9誓願説ケルヲ諸
16 泥塔ヲ造テ底
五四三
1我レヲ甲実国乙AB
二四 愛知県立大学日本文化学部論集 第12号 2020
巻十七第二十九話
五四三
10 尼有乙B
13 庭中ヲ諸︵Bのヲは変︶
15 徃返シテ乙ABC
五四四
2ヲ★ 「我ヲ」BC「我レヲ」乙A「我レヲバ」底甲実国大
2知レリヤ否ヤ★ 「知レノヤ否ヤ」B「知レルヤ否ヤ」AC「知リヤ」乙「知リヤ否ヤ」底甲実国
大
2苦難ヲ救フ甲実国乙AC
6文夫也乙ABC
8女人教甲実国乙B
9吉ヲ持テ甲実国「吉ラ持テ」B「告ヲ持テ」乙AC「吉ク持テ」底大「底本の字体︑分明を
欠く為に︑諸本誤る︒」
11 其要句教ヘムB
12 ナホキナリソトB
14 心一ニシテ乙ABC
16 入滅ニケリ底乙B
巻十七第三十話
五四五
7満ツ程ヨリ甲実国乙AC「満ク程ヨリ」B「満程ヨリ」底大︵破損のためかな不明︶
8一躰造リ奉テ諸
二五
彦根城博物館所蔵『今昔物語』巻十七の本文の位置づけ
9儲テB
10 此施シテ乙A
12 可極楽徃生スシト底甲実国乙B︵底は生の左下に反読符|あり︑底甲実国乙Bは樂︶
16 延貴二年ト甲実国乙B︵国の貴は変︶
16 響膳ヲ甲実国乙B
五四六
3人有乙ABC
4狹乍ラ「居乍ラ」底甲実国大︵底の居は草体︶「尼乍ラ」乙ABC︵乙Bの尼は異体︶
5月廾四日ニ甲実国乙AB
巻十七第三十一話
五四六
13 日来経テ甲実国ABC
15 夜暁ム㽃ヲB︵Bは事︶「夜琅ム事ヲ」C「夜暛ム事ヲ」甲実国乙A「夜ノ暛ム事ヲ」底大︵ノ
は古体 乃︶
15 夫ノ故ニ祥蓮カ音ニテABC︵Bのカは変︶
17 信施受テ諸「信セヲ受テ」底大 「底本の「ヲ」は「ゾ」の如くにも見える︒」
五四七
1時ニ乙ABC
1来リ給諸
3ヘム諸大「諸本かく作るが︑恐らく霊異記「経ヌラン」の短絡であろう︒」
二六 愛知県立大学日本文化学部論集 第12号 2020
巻十七第三十二話
五四七
17 巻数ヲ諸︵底実国の数は䯢︶
五四八
2巻数ヲ既ニ諸
2満スルハ乙ABC
5修以所ノ乙ABC
5善根ノ底乙ABC大「善根ヲ」甲実国
10 ムナミキクモノ甲実国乙B
12 貴テ諸
15 不日乙ABC
16 掌ヲ合テB
五四九
1利益カ為ニハ底B
巻十七第三十三話
五四九
7志シ有ケル乙AB
9詣ス乙ABC
11 有ケルニ諸「有ケルヲ」底大
11 虎門屋甲乙ABC
12 有「有アリ」大 アリは︑「有」の全訓すてがな︒流布本は之を欠く︒
12 門ニABC
二七
彦根城博物館所蔵『今昔物語』巻十七の本文の位置づけ
12 袙メ底実AC
13 宿シ給ヒテムアト乙B
14 立給ヘシ甲乙ABC「立給ヘ」国「立給ヘレ」底実大
15 僧貴テ入テ諸「僧喜テ入テ」底大 「諸本︑「貴テ」に作るので︑文意不通を来している︒」
16 皆食甲実国乙AB
17 几帳大 「古本および乙本の字体「檠」は︑「凡」と︑その異体「䆛」とを併せたもので︑
窮極は増画による譌か︒」
五五〇
2参リ給ナルハ諸
2䆛帳「几帳」大
2手ノテ乙AB「手ノ」C「手ノ□テ」底甲実国大
3立不被畢ヌ乙AB︵Aの被は彼︶
3深更ニ乙AC
4廾餘許ノ□也B「廾餘許ノ程ド也」底大「廾餘計ノ□也」甲実国AC「廾餘計ノ也」乙 「ドは程の捨てがな︒諸本は之を欠き︑空格にするか︑文意不通のまま続けている︒」
5姿厳事乙B︵乙Bは嚴︶
5長ク見エ底甲実国
6内ノ有カシキ事ABC「内ノ□有カカシキ事」底︵上のカみせけち︶「内ノ□有カシキ事」甲実国乙大 「思うに︑空格は「可」が擬せらるべきもの︒要するに︑「アルベカシキ事」という語
であったものと推せられる︒」
二八 愛知県立大学日本文化学部論集 第12号 2020
7佰薫スルニヤ実国乙AB「炎薫スルニヤ」C「空薫スルニヤ」底甲大
8此宿甲実国BC
10 立不畢セリツル乙ABC
10 和テ甲実国乙B
11 念シ奉リB
15 云力ニ甲実国乙BC
15 不通シトニハ乙AB
16 此ク寡ニテA
16 其レニ中テ乙AB
五五一
3遊ヒ戯レ諸
4陸ヒ聞エト乙
5曙方ニ乙B
6得テ諸
10 物ト令食テ底実国乙
11 経読居タリ甲実国乙AB︵甲実国乙ABは讀︶
12 夜痛深更ヌレハ甲実国A
12 聞テ甲実国B
13 喜テ乙ABC
15 此ク経ハ浮給ヒツ乙B
16 中ニ乙ABC
二九
彦根城博物館所蔵『今昔物語』巻十七の本文の位置づけ
16 穢カルシ乙AB
五五二
1後可有キ事吉カラヌB
2此氣近ク御スルモB
2思フ事ヲハ乙B
9二年許ヲ諸大︵底は料紙薄キため空白︶「二年計ヲ」C
10 内論議卅講ナト諸︵Cの卅は三十︶
13 成得ヘテ甲実国乙B
15 不害キ事ナト乙AB
16 氣近キ事有リトヤ諸︵底の事は傍書補入︶
五五三
1言少フ「言少衛フ」諸
1渠ノ上ノ諸︵彦Bの枕は変︶
3成リ給ヘリヤト底甲実国B
4此聞ク心ノ甲実国乙B
7押量リツABC
9御スルヲト有ケレト甲実国乙AB「御スルソト有ケレト」C「御スルニト有ケレト」底大
9法ヲ乙ABC
10 糸吉カルヘト実国乙B
10 此諸
10 勧スルニコソ有ケレト乙ABC
16 人ノサモナキニ乙B︵乙のナは无︶「人中ノサモ无キニ」AC「人ホノサモ无キニ」底甲実国大
三〇 愛知県立大学日本文化学部論集 第12号 2020
古本かく作る︒「文脈よりすれば︑「少シモ」の意︑或は「ホノボノ・ホノグラシ」等
のホノと同根ではないかとも推せられるが︑なお「人ホロサモ無ク成ナムトス」のホ
ロサの変化とすべきであろう︒」
五五四
3凰シ臥テ底甲実国
5告テ云ハB
8何為キト甲実国乙AB
9得シ事ヲ乙AB
12 然ル乙ABC
15 謀リ給ハムニ時ニ愚B ナラムヤ
五五五
1好ム方ニ諸大「好ム方ニ付テ」の意であろう︒
巻十七第三十四話
五五五
7公ケ営ABC
10 留マテ住テ諸
15 百巻書冩シテ諸
16 現シ給フ也ケリ乙ABC
五五六
1衣レ給B
三一
彦根城博物館所蔵『今昔物語』巻十七の本文の位置づけ
巻十七第三十五話
五五六
6人聞クニABC
13 竒異ノ也トテナム底B大︵底Bは奇・事︶「奇異ノ事也トテナト」AC「寄異ノ事也トテナト」甲実国
乙
13 悲ケルトナムB
巻十七第三十六話
五五六
17 日記ノ諸大「諸本かく作るが︑意不明︒或は︑日本の意の「日域」の聞き誤りか︒」
五五七
1行基︹脱 ︺行基乙ABC脱 「行基︹ト生レ給ヘル也︒而ルニ︑古京ノ元興寺ノ村ニ法會ヲ行フ人有テ︑︺行基」大
8行基菩薩甲実国乙B
巻十七第三十七話
五五七
13 堀令開諸
14 一人女人ABC
五五八
1此ヲ聞ク諸︵ACの此は是︶
1聖人トテ諸
3子細諸︵底は細みせけち︶「子」大 「諸本「子細」に作るのは︑底本︑一旦誤り書きし「細」のみせけちにしあるを︑抹
消符を見落せるに基く︒従って︑少くとも此の場合においては︑諸本が鈴鹿本を経由
三二 愛知県立大学日本文化学部論集 第12号 2020
せし証となる︒」
3此子音ノB
5浮出テヽ︹脱 ︺云乙ABC脱 「浮出デヽ︑︹足ヲ踏反リ︑手ヲ攢ミ︑目ヲ大キニ見暉カシテ︑掶出ダシテ云ク︑「妬
哉︑我︑今︑三年徴ラムトシツル者ヲ」ト︒母︑此レヲ聞テ︑恠ムデ返来テ︑法□聞
ク︒教︑女ニ問テ宣ハク︑「何ニ︒子ヲバ投弃テツヤ否ヤ」ト︒女︑具ニ︑子ノ水ヨ
リ浮出デヽ︺云」大
10 世前ノ諸︵底は顚倒符あり︶「前世ノ」大 「諸本かく作るは︑底本に存する顚倒符を理解する能わざりし為︒」
巻十七第三十八話
五五九
4得意トニテ乙AC
4過ケルニ底乙AC
5持タリケル念珠ヲ諸 入道寂照ニ与テケリ
5其後ABC
6四五歳皇子B
10 此持タルB
11 生レ給乙ABC
13 文殊化身ニ在スト乙B
三三
彦根城博物館所蔵『今昔物語』巻十七の本文の位置づけ
14 在マシケ「在マシケレ」諸大「在マシテ」B 「諸本かく作る︒トの省略された語法と見る︒」
16 悲シキ事有レB「悲キ事有レ」AC「悲ヒキ事有レ」甲実国乙「悲シキ事ノ有レ」底大 かく作るのは底本のみ︒︵但し︑破損のため︑やや不分明︶︒諸本︑助詞を欠く︒
17 人返テ語ルヲ諸
巻十七第三十九話
五六〇
5ノ諸大
5僧トモテ諸
5法文ノ学シケレハ乙ABC
6慈ヒフ心甲実国乙B
14 語リ傳ヘタルト也B「語リ傳ヘタルト」A「語リ傳ヘタルトヤ」大
巻十七第四十話
五六一
2此ヲ実国B「此ラヲ」底甲乙大「是ヲ」AC
4ノ郡ニ諸大
4□ト云フ諸大
6後諸
8従者諸
9不聞スシテ甲実国乙B
三四 愛知県立大学日本文化学部論集 第12号 2020
10 将キコヘ甲実国乙B
11 䑸中速ニ諸
五六二
1撫ク乙AB
1弓ヲ取ルニ乙ABC
7立給ヘルヲト甲実国B
8持経者ヲセリ甲実乙ABC
8受也ト諸
10 恐テ怖レテ乙ABC
10 無実事ニ甲実国乙B︵甲実国乙は无︶
11 普賢教示シ給フ也ト諸︵ABCは菩薩︑Bのフは変︑諸は事︶
11 語リ諸大 「底本破損のため不分明︑「語」に傍書「諸」もしくは「皆」あるものの如し︒」
11 此夢ノ★ 「此ノ夢ノ事」諸「此ノ夢ノ事ヲ」底大
五六三
1火ヲヲ乙B
2出ニケリ諸
3年来経テABC
巻十七第四十一話
五六三
11 一巻誦スル程ニ諸「一巻ヲ誦スル程ニ」底大底本の文字やや不分明︒
11 誦シケリ乙ABC
三五
彦根城博物館所蔵『今昔物語』巻十七の本文の位置づけ
11 一日大「一日ニ」AC
11 三十四部ヲ誦シテABC「三十四部ヲ誦シケル」甲実国乙「三十四十部ヲゾ誦シケル」底大 「やや異様な表現であるのは︑もと或は「卅卌部」とあったものをかく改めたものか
と思われる︒」
13 生国ニ下諸︵諸は國︶
14 営テナムト乙ABC︵乙ABCは營︶
14 下テ有ル間諸
14 國司ト云フ人実国乙ABC「司ト云フ人」甲「國司ト云フ人」底大
15 不下事咎メテ諸
16 誰人ノ乙ABC
17 乗合ウシテ乙AC
五六四
1貞遠甲実国乙B
5忽乙ABC
8拙フ愚ナルカ故ニ乙B
10 丁寧乙ABC
12 傳ヘタルト也「傳ヘタル也」B「傳ヘタルトヤ」大
巻十七第四十二話
五六四
16 国ノノ郡諸本欠字︒「國ノノ郡」大
16 ノ郷ニ諸大
三六 愛知県立大学日本文化学部論集 第12号 2020
五六五
3各居ヌB
4香諸︵Bの香は変︶
4何者トス見ス★ 「何者トハ見ス」AC「何者トス見ヌ」B「何者トス見ト」甲「何者ト不見ズ」
底実国乙
5懸ルニ諸
8無乙B
11 東西ニ思ユル事諸
15 夜ノ曙ルヲB
16 抱キ奉佛ヲ乙B
16 見レハ︹脱 ︺「見レバ︑︹毘沙門天⁝︺⁝」大
大系の五六五ページの
16行目の上の方から五七七ページまで脱文︒
︵巻十七第四十二話の「見レハ」の次の文から巻十七第五十話まで脱文︶
おわりに
『今昔物語』巻十七の本文の異同を見ると︑古本系の空白部分を詰めた箇所については︑巻十六で見受けられた傾向
と同様に︑流布本系諸本︵内閣文庫本ABC︑東大本乙︶と一致する箇所が多く︵第二十一話︑第二十四話︑第二十七
話︶︑それ以外については︑古態本の東大本甲︑実践女子大本︑國學院大本と一致する箇所が多くみられた︒また︑こ
れまでの巻では︑内閣文庫本Bの表現が彦根城博物館本の表現と一致する箇所が多く︑空白などの形 ︶13
︵式と同じ傾向に
三七
彦根城博物館所蔵『今昔物語』巻十七の本文の位置づけ
あったが︑巻十七の場合もそれは同様であった︒この二本の書写の先後関係については︑これまで断じられなかった
が︑巻十七では︑彦根城博物館本の表記が底本や古態本系と同じ表記のところで︑内閣文庫本Bが写し間違って異なっ
た表記になっている例がしばしば見られ︑内閣文庫本Bが彦根城博物館本を写して出来上がった本であることが本巻に
おいて明らかとなった︒
また︑以前に︑巻十五では︑彦根城博物館本が古態本と流布本の両本の系統を見ることができる環境にあったと仮定
し︑古語としての漢字の表記には忠実でありながらも︑順序の入れ替えのような明らかな誤謬については︑訂正すると
いう意識があったと考察 ︶14
︵し︑巻十六の場合には︑流布本との一致度の高さからみて︑流布本しか見ていない可能性も考
え得るとし ︶15
︵て︑巻ごとに見ている本が異なるかのような論述を行ってきたが︑巻十七においては︑鈴鹿本︵京都大学蔵
本︶という原本に近い本が残っていることから︑これまでの一見︑矛盾するかのような現象の謎を解く例証が見つか
り︑古態本系と流布本系の書写関係の中で彦根博物館本がどこに位置するかを見出すことができた︒
まず︑巻十七において︑古態本系から流布本系への写しの書写系統を追うことのできる例をいくつか挙げておきた
い︒第八話では︑「沙弥ノ所行甚ダ」︵傍線部は論者︒以下︑同じ︒︶が原本に近い鈴鹿本の表記であるが︑東大本甲で
は︑「所」が判別できず空白︵「沙弥ノ□行甚タ」︶となっており︑実践女子大本と國學院本では︑「所」を「所甚タ」
︵「沙弥ノ所甚タ行甚タ」︶としている︒そして︑ここから流布本系は︑「所」の下に誤って付された「甚」を踏襲し︑東
大本乙「沙弥甚タ行」︑内閣文庫本A「沙弥甚タタ行甚タ」︑内閣文庫本B「沙弥甚ク行甚タ」︑内閣文庫本C「沙弥甚
行甚」のように展開している︒彦根城博物館本もまた︑「沙弥甚タ行甚タ」となっており︑底本や東大本甲ではなく︑
他の流布本と同様︑実践女子大本と國學院本の系統の古態本を引き写していることがわかる︒
巻十七では原本に近い鈴鹿本のみ表記が異なる場合も多い︒たとえば︑第一〇話では「其ノ前ニシテ其ノ功徳ヲ」が
鈴鹿本の表記だが︑それ以外の諸本はすべて「功徳」の前の「其ノ」が抜けている︒第十八話では鈴鹿本「過」が諸本
ではすべて
「思」
になっている
︒第二十五話では
︑鈴鹿本
「
求メ
」
が諸本では
「
求ム
」
となっている箇所や鈴鹿本
三八 愛知県立大学日本文化学部論集 第12号 2020
「僧」が諸本では「像」になっている箇所がある︒このことは︑一度︑読み誤った古態本系統の本があれば︑それに基
づいてすべての本がそれを踏襲していることを示すものである︒
第二十九話では︑鈴鹿本「吉ク持テ」が古態本系の東大本甲︑実践女子大本と國學院本では︑「吉ヲ持テ」となり︑
流布本系の東大本乙︑内閣文庫本A︑Cでは︑「告ヲ持テ」と「吉」が「告」に変わっている︒彦根城博物館本は︑古
態本系表記と同じ「吉ヲ持テ」である︒内閣文庫本Bは︑「吉ラ持テ」となっており︑彦根城博物館本の表記を誤って
写したと思われる︒第四十一話では︑鈴鹿本に「三十四十部ヲゾ誦シケル」とあるところ︑古態本系と東大本乙では
「三十四部ヲ誦シケル」となり︑流布本系の内閣文庫本A︑B︑Cでは︑「三十四部ヲ誦シテ」となっている︒彦根城博
物館本は︑流布本系表記「三十四部ヲ誦シテ」と同じである︒これまで︑彦根城博物館本は古態本系と流布本系の間に
ある本と考えてきたが︑巻十七の表記の諸本の違いを見ると︑それは︑彦根城博物館本が古態本系統の本を引き写しな
がらも︑自らの校訂の方針によって変更を加えた結果︑流布本の性格と近しいものとなったように思われる︒
以上︑底本の字を読み間違った箇所の表記について︑諸本を総合的に分析すると︑次のようなことがいえるように思
われる︒それは︑実践女子大本と國學院本の系統の古態本から︑その表記は彦根城博物館本に継承され︑その後︑彦根
城博物館本から内閣文庫本Bへ書写された流れがあり︑また︑一方で別系統の古態本︵東大本甲に近い本︶を引き写し
た東大本乙から内閣文庫本A︑Cの系統へと書写された流れがあったということである︒書写の過程で︑写し間違いや
校訂があり︑それによって︑古態本と流布本の表記が時折︑交錯するようにみえることはあるものの︑基本的には諸本
の書写の過程は︑右のようなものであったと考えてよいだろう︒
また︑第十九話では︑鈴鹿本および東大本甲︑乙︑内閣本A︑Cが空白にしている部分を実践女子大本と國學院本︑
および彦根城博物館本では︑「コト」としており︑校訂を加えていることがわかる︒巻十三の分析時に実践女子大本と
國學院本のような古態本も校訂しているのではないかということを指摘し ︶16
︵たが︑ここでそのことがより明確となったも
のと思われる︒
三九
彦根城博物館所蔵『今昔物語』巻十七の本文の位置づけ
ひき続き︑他の巻においても︑そうした表記の意識の在り方について検討を加えていき︑彦根城博物館本の諸本にお
ける位置づけを明らかとしたい︒
注︵
1︶中根「未紹介本『今昔物語』︵彦根博物館所蔵︶についての一考察」︵『愛知県立大学説林』
53号 二〇〇五年三月︶
︵
2︶中根「彦根城博物館所蔵『今昔物語』巻一の本文の位置づけ」︵『愛知県立大学文学部論集』
54号 二〇〇六年三月︶
︵
3︶中根「彦根城博物館所蔵『今昔物語』巻二の本文の位置づけ」︵『愛知県立大学文学部論集』
55号 二〇〇七年三月︶
︵
4︶中根「彦根城博物館所蔵『今昔物語』巻五の本文の位置づけ」︵『愛知県立大学日本文化学部論集』
1号 二〇一〇年三月︶︑中根
「彦根城博物館所蔵『今昔物語』巻七の本文の位置づけ」︵『愛知県立大学日本文化学部論集』
3号 二〇一二年三月︶︑中根「彦根城博
物館所蔵『今昔物語』巻九の本文の位置づけ」︵『愛知県立大学日本文化学部論集』
4号 二〇一三年三月︶
︵
5︶中根「彦根城博物館所蔵『今昔物語』巻三の本文の位置づけ」︵『愛知県立大学文学部論集』
56号 二〇〇八年三月︶︑中根「彦根城
博物館所蔵『今昔物語』巻六の本文の位置づけ」︵『愛知県立大学日本文化学部論集』
2号 二〇一一年三月︶︑中根「彦根城博物館所
蔵『今昔物語』巻十の本文の位置づけ」︵『愛知県立大学日本文化学部論集』
5号 二〇一四年三月︶
︵
6︶中根「彦根城博物館所蔵『今昔物語』巻四の本文の位置づけ」︵『愛知県立大学文学部論集』
57号 二〇〇九年三月︶
︵
7︶中根「彦根城博物館所蔵『今昔物語』巻十一の本文の位置づけ」︵『愛知県立大学日本文化学部論集』
6号 二〇一五年三月︶
︵
8︶中根「彦根城博物館所蔵『今昔物語』巻十二の本文の位置づけ」︵『愛知県立大学日本文化学部論集』
7号 二〇一六年三月︶
︵
9︶中根「彦根城博物館所蔵『今昔物語』巻十三の本文の位置づけ」︵『愛知県立大学日本文化学部論集』
8号 二〇一七年三月︶
︵
10 ︶中根「彦根城博物館所蔵『今昔物語』巻十四の本文の位置づけ」︵『愛知県立大学日本文化学部論集』
9号 二〇一八年三月︶
︵
11 ︶中根「彦根城博物館所蔵『今昔物語』巻十五の本文の位置づけ」︵『愛知県立大学日本文化学部論集』
10号 二〇一九年三月︶
︵
12 ︶中根「彦根城博物館所蔵『今昔物語』巻十六の本文の位置づけ」︵『愛知県立大学日本文化学部論集』
11号 二〇二〇年三月︶
︵
13 ︶︵
1︶ に
同じ
︒
︵
14 ︶︵
11︶ に
同じ
︒
四〇 愛知県立大学日本文化学部論集 第12号 2020
︵
15 ︶︵
12︶ に
同じ
︒
︵
16 ︶︵
9︶ に
同じ
︒