金持ちの話
著者 江口 一久
雑誌名 国立民族学博物館調査報告
巻 45
ページ 524‑541
発行年 2003‑12‑26
URL http://doi.org/10.15021/00001819
41 2 たくさんの頭をもつ怪物とただの子ども
お話︑お話︒ジャッラ・タボーイェル︒
さて︑子どもがいた︒子どもには家族がいた︒子どもは野原に母
親とすんでいる︒母親は子どもを十人うんだ︒この十人の子どもの
うち一人には︑頭が二つあった︒一人には︑頭が三つあった︒一人
には︑頭が四つあった︒一人には︑頭が五つあった︒一人には︑頭
が六つあった︒一人には︑頭が七つあった︒一人には︑頭が八つあ
った︒一人には︑頭が九つあった︒一人には︑頭が十あった︒十番
目の子どもには︑頭が一つあるだけだったゆ母親と子どもたちは︑
みんなそこにやってきて︑野原にはいると︑野原の動物をたべる︒
一人は人間だった︒
さて︑母親と父親は︑人間の子どもに一本の杖をやった︒頭をた
くさんもっている子どもたちは︑でかけていくと︑つぎからつぎへ
と野原の動物をつかまえて︑たべる︒人間の子どもはじっとしてい
る︒食べ物がなかった︒
さて︑母親は人間の子どもに︑﹁ここに杖がある︒おまえもいき
なさい︒おまえはおまえとおなじような人のところにいきなさい︒
おまえはそこにいて︑たべていくものを手にいれるのだ︒おまえに
杖さえあれば︑十分だ﹂といった︒子どもは自分の杖をもった︒子
どもはあっちこっちをあるき︑やってきた︒ さて︑子どもは人のすむ村にやってきた︒子どもの杖は︑鳥をた たきおとせる︒ さて︑人が子どもをみて︑子どもに︑﹁だれそれよ︑おまえさん の杖をおくれ︒それで︑鳥をうちおとす﹂といった︒その人が鳥を うちおとしにいくと︑杖がおれてしまった︒ さて︑子どもはたちあがり︑大声をあげた︒ さて︑その人は︑﹁どうしょう﹂といった︒子どもは︑杖を父親 と母親にもらった︑その杖で︑食べ物や飲み物を手にいれるといっ た︒子どもは︑﹁どうしてくれる﹂という︒ さて︑その人は︑﹁それでは︑わたしはこの鳥をおまえにやる﹂ といった︒ さて︑その人は鳥を子どもにやった︒子どもはどんどんあるいて いった︒ さて︑子どもがいくと︑人びとは草をもやしていた︒草をもや している人は子どもに︑﹁おまえさんの鳥をこちらによこしなさい︒ やいてあげよう﹂といった︒その人は鳥をとり︑やいているうち に︑鳥はもえてしまい︑灰になってしまった︒その人は灰をかきま わしたけれども︑鳥はなかった︒ さて︑子どもはその人に︑﹁わたしの鳥をかえしておくれ︒やけ ていないのか﹂といつった︒
さて︑その人がみてみると︑﹁やけすぎて︑灰になってしまった﹂ 24 5
といった︒
さて︑子どもはたちあがり︑ないている︒
さて︑その人は︑﹁どうしょう﹂といった︒
さて︑子どもは︑﹁鳥で︑食べ物や飲み物を手にいれる﹂といっ
た︒ さて︑その入は︑﹁それでは︑わたしはこの灰をおまえにやる﹂
といった︒
さて︑その人はだちあがり︑灰をとり︑子どもにやった︒子ども
はどんどんあるいていく︒
さて︑子どもがやってくると︑非フルベ族の人たちが藍染めを
していた︒藍染めをしていたけれども︑灰がたらなかった︒子ども
は︑﹁そこでなにをしているのか﹂といった︒藍染めをしている人
は︑﹁わたしの服をそめている︒でも︑灰がたらない﹂といった︒
さて︑子どもは︑﹁わたしの灰をおまえさんにあげる﹂といった︒
藍染めをする人は︑﹁わたしにその灰をおくれ︒藍染めにっかう﹂
という︒ さて︑藍染めをする人は子どもの灰をうけとり︑それをつかって
藍染めをしにいった︒藍染めをする人が子どもの灰をうけとり︑そ
れをつかって藍染めをしにいくと︑子どもはやってきて︑いくとい
った︒ さて︑子どもは︑﹁わたしの灰をかえしておくれ﹂といった︒ さて︑藍染めをする人は︑﹁灰だって︒わたしはほかの灰を手に いれていない︒なにができるか﹂といった︒ さて︑子どもはたちあがり︑ないている︒ さて︑藍染めをする人は︑﹁なにができるか︒それでは︑わたし はこの服をおまえにやる﹂といった︒ さて︑藍染めをする人はしろい服をとると︑子どもにやった︒ さて︑藍染めをする人は子どもに服をやった︒子どもはどんどん あるいていく︒ さて︑子どもがやってくると︑人が死んでいた︒そこにいる入た ちは埋葬するためのしろい服を手にいれることができなかった︒人 びとはないている︒ さて︑人びとは︑﹁ほら︑よそものがやってきた﹂といった︒人 びとは子どもにしろい服があるかどうかたずねた︒子どもは服があ るといった︒ さて︑子どもはその人たちに服をやった︒人びとはその服を死ん だ人のところにもつていき︑その人を埋葬した︒ さて︑その人を埋葬すると︑子どもはなきだした︒人びとは︑ ﹁どうしたのか﹂といった︒子どもは自分の服のためにないている といった︒そこにいた人は︑﹁おまえさんの服とはどういうことか︒ 死体にきせて︑埋葬したではないか﹂といった︒子どもは︑服と交
換して︑食べ物や飲み物を手にいれるつもりだったといった︒ 25 5
さて︑人びとは︑﹁どうしょうもない︒あの死体をほりだし︑お
まえさんにやろう﹂といった︒子どもは︑﹁うん﹂といった︒人び
とは死体をほりだしにいき︑かえってきて︑子どもに死体をやっ
た︒ さて︑子どもはその死体をもった︒
さて︑子どもはいくと︑その死体を木にもたれさせた︒
さて︑子どもはその自分のしろい服を死体にきせておいた︒子ど
もはずっとそこにすわっている︒
さて︑人がやってきて︑そこをとおりかかり︑子どもに︑﹁ど﹂
うも﹂という︒人がやってきて︑そこをとおりかかり︑子どもに︑
﹁どうも﹂という︒人がやってきて︑そこをとおりかかり︑子ども
に︑﹁どうも﹂という︒人がそこにやってきて︑女の死体をみて︑
﹁それはだれだ﹂といった︒
さて︑子どもは︑﹁女だ﹂といった︒
さて︑その人はやってきて︑死体のまわりをあるき︑死体に手で
ふれ︑うごかした︒その人は死体にふれている︒
さて︑子どもは︑﹁それは母さんだよ﹂といった︒その人が死体
をおすと︑たおれた︒死体がたおれた︒人びとがみてみると︑死ん
でいた︒ さて︑子どもは︑﹁どうするのか﹂といった︒
さて︑子どもはたちあがり︑ないている︒死体をたおした人が︑ ﹁どうしたのか﹂といった︒子どもは︑﹁おまえさんは母さんをころ してくれた︒母さんをころしてくれた︒母さんをころしてくれた﹂ といった︒死体をたおした人が︑﹁どうしたらよいだろう﹂といっ た︒子どもはないたままだ︒ さて︑人びとは︑﹁どうしょうもない﹂といった︒ さて︑死体をたおした人は王さまの娘をつかまえた︒ さて︑死体をたおした人はその娘を子どものところにつれていっ た︒人びとはその娘を子どもにやるべきだといった︒子どもにその 娘をやらなければといった︒子どもが母親だといっているもののか わりに︑子どもによめさんをやろうというわけだ︒ さて︑人びとは子どもが母親だといっているものを埋葬した︒王 さまは子どもをよび︑子どもによめさんをやるといった︒人びとは 娘たちをつれてきた︒子どもは娘たちをみて︑そのなかから一人を えらんだ︒子どもはその娘をよめさんにする︑母親はとひもどせな いので︑それでじゅうぶんだといった︒ある日︑子どもはでかけて いく︒ さて︑子どもは自分のところにかえるといった︒子どもは母親を みにいく︒母親は野原の怪物だった︒子どもはあるいていく︒どん どんどんどんあるいていく︒子どもと娘があるいていくと︑頭が二 つの怪物がいた︒頭が二つの怪物が︑﹁ようこそ︑友よ︒ようこそ︑
友よ︒ようこそ︑兄弟よ︒ようこそ︑兄弟よ﹂といった︒ 26 5
さて︑子どもはそれにこたえた︒頭が二つの怪物が︑﹁おまえの
杖はどこにある﹂といった︒子どもは︑自分の杖はなくなったとい
った︒頭が二つの怪物が︑﹁その杖でなにをしたのか﹂という︒子
どもは︑﹁ほら︑ぼくはよめさんを手にいれた﹂といった︒頭が二
つの怪物が︑﹁よめさんはどこにいる﹂という︒子どもは︑﹁ほら︑
ぼくのうしろにいる﹂という︒
さて︑娘はなきはじめた︒子どもと娘はすすんでいった︒二人が
いくと︑頭が三つの怪物が子どもをみて︑﹁ようこそ︑兄弟よ︒よ
うこそ︑兄弟よ︒ようこそ︑兄弟よ﹂といった︒二人がつくと︑頭
が三つの怪物は子どもに︑﹁おまえの杖はどこにある﹂といった︒
子どもは︑﹁杖はなくなった﹂といった︒頭が三つの怪物が︑﹁その
杖でなにをしたのか﹂という︒子どもは︑﹁杖のおかげで︑ぼくは
よめさんを手にいれた﹂といった︒頭が三つの怪物が︑﹁よめさん
はどこにいる﹂という︒子どもは︑﹁ほら︑そこにいる︒頭よ﹂と
いう︒ さて︑頭が三つの怪物はたちあがり︑おどった︒
さて︑子どもはまえにすすんでいった︒子どもと娘がまえにす
すんでいくと︑頭が四つの怪物がいた︒頭が四つの怪物が︑﹁よう
こそ︑兄弟よ︒ようこそ︑兄弟よ︒かえってきたのか﹂という︒子
どもは︑﹁うん﹂といった︒頭が四つの怪物が︑﹁おまえの杖はどこ
にある﹂といった︒子どもは︑﹁ごらんのとおり︑杖はなくなった﹂ といった︒頭が四つの怪物が︑﹁その杖でなにをしたのか﹂という︒ 子どもは︑﹁ぼくはよめさんを手にいれた﹂といった︒頭が四つの 怪物が︑﹁よめさんはどこにいる﹂という︒子どもは︑﹁ほら︑そこ にいる﹂という︒娘は頭が四つあるのをみると︑大声をあげる︒二 人はさきにすすんでいった︒二人はいってしまった︒ さて︑頭が六つある怪物が子どもに︑﹁ようこそ︑兄弟よ﹂とい
った︒子どもは頭が六つある怪物にであった︒頭が六つある怪物
が︑﹁おまえの杖はどこにある﹂といった︒子どもは︑﹁ごらんのと
おり︑杖はなくなった﹂といった︒頭が六つの怪物が︑﹁その杖で
なにをしたのか﹂という︒子どもは︑﹁ぼくはよめさんをもらった﹂
といった︒頭が六つの怪物が︑﹁よめさんはどこにいる﹂という︒
子どもは︑﹁ほら︑そこにいる﹂という︒
さて︑怪物はおどりながら︑野原にいった︒娘はずっとよこに
なって︑ないている︒子どもは自分たちのところにかえるといっ
た︒二人がまえにすすんでいくと︑頭が七つある怪物がいた︒頭
が七つある怪物は子どもに︑﹁ようこそ︑兄弟よ︒ようこそ︑兄弟
よ﹂といって︑むかえた︒頭が七つある怪物は︑﹁おまえの杖はど
こにある﹂といった︒子どもは︑﹁杖はなくなった︒杖はなくなっ
た﹂といった︒頭が七つの怪物が︑﹁その杖でなにをしたのか﹂と
いう︒子どもは︑﹁ぼくはよめさんを手にいれた﹂といった︒頭が
七つの怪物が︑﹁よめさんはどこにいる﹂という︒子どもは︑﹁ほ 27 5
ら︑そこにいる︑頭よ︒よめさんがいる﹂という︒頭が七つある
怪物が︑﹁よめさんはどうしてないているのか﹂という︒子どもは︑
﹁頭をみたからだ﹂といった︒頭が七つある怪物は︑﹁頭をみて︑な
くのをよしなさい︒頭はさきにいる﹂といった︒二人がまえにすす
んでいくと︑頭が八つある怪物がいた︒頭が八つある怪物は子ども
に︑﹁よう亡そ︑兄弟よ︒ようこそ︑兄弟よ︒おまえの杖はどこに
ある﹂という︒子どもは︑﹁杖はなくなった﹂といった︒頭が八つ
の怪物が︑﹁その杖でなにをしたのか﹂という︒子どもは︑﹁ぼくは
よめさんを手にいれた﹂という︒頭が入つの怪物が︑﹁よめさんは
どこにいる﹂という︒子どもは︑﹁ほら︑そこにいる﹂という︒頭
が八つある怪物が︑﹁よめさんはどうしてないているのか﹂という︒
子どもは︑﹁頭をみたからだ﹂といった︒頭が八つある怪物は子ど
もに︑﹁頭をみて︑なくのをよしなさい︒頭はさきにいる﹂といっ
た︒二人がまえにすすんでいくと頭が九つある怪物がいた︒頭が九
つある怪物は子どもに︑﹁ようこそ︑兄弟よ︒おまえの杖はどこに
ある﹂といった︒子どもは︑﹁杖はなくなった﹂といった︒子ども
は︑﹁ぼくはよめさんを手にいれた﹂という︒頭が九つある怪物が︑
﹁よめさんはどこにいる﹂という︒子どもは︑﹁ほら︑そこにいる﹂
という︒頭が九つある怪物が︑﹁よめさんはどうしてないているの
か﹂という︒子どもは︑﹁頭をみたからだ︒まちがいなく頭をみた
からだ﹂といった︒頭が九つある怪物は︑﹁なくのをよしなしさい︒ 頭はさきにいる﹂といった︒ さて︑二人は人の体のうえに頭が十ある怪物をみつけた︒ さて︑頭が十ある怪物がやってきて︑子どもに︑﹁ようこそ︑兄 弟よ︒ようこそ︑兄弟よ﹂といった︒子どもはそれにこたえた︒頭 が十ある怪物は︑﹁おまえの杖はどこにある﹂といった︒子どもは︑ ﹁杖はなくなった﹂といった︒頭が十ある怪物が︑﹁その杖でなにを したのか﹂という︒子どもは︑﹁ぼくはよめさんを手にいれた﹂と いった︒頭が十ある怪物が︑﹁よめさんはどこにいる﹂という︒子 どもは︑﹁ほら︑そこにいる﹂という︒頭が十ある怪物が︑﹁よめさ んはどうしてないているのか﹂という︒子どもは︑﹁頭をみたから だ﹂といった︒ さて︑娘はしずかになり︑なくのをやめる︒娘は頭をみる︒頭が 十ある怪物がいう︒ ﹁ようこそ︑友よ︒ おまえの杖はどこにある﹂ 子どもはいう︒ ﹁友よ︑ぼくはよめさんを手にいれた﹂ 頭が十ある怪物がいう︒ ﹁よめさんはどうしてないているのか﹂ 子どもはいう︒ ﹁友よ︑ぼくは頭をみた︒ 28 5
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