奈良教育大学学術リポジトリNEAR
学習過程における個人差インベントリー(日本版)
の作成
著者 豊田 弘司
雑誌名 奈良教育大学紀要. 人文・社会科学
巻 40
号 1
ページ 189‑198
発行年 1991‑11‑25
その他のタイトル Development of Japanese Edition of a
Self‑Report Inventory for Assessing Individual Difference in Learning Processes
URL http://hdl.handle.net/10105/1799
奈良教育大学紀要 第40巻第1号(人文・社会)平成3年
Bull. Nara Univ. Educ, Vol. 40, No. 1 (Cult. & Soc.),1991
学習過程における個人差インベントリー(日本版)の作成
豊 川,1/ ‑I (奈良教育大学心理学教室)
(平成3年4月4日受理)
人間の個人差に関する研究が数多く行われてきたが、 Cronbach (1957)の研究以来、学習に おける個人差に対する関心は強い。しかし、関心は強いものの個人差を取り上げた組織的な研究 はほとんどなされていないし、極めて実験室的な研究(Eahard, 1974; Thompson, Hamlin &
Roenker, 1972)に限られたものであるといえよう(Schmeck, Ribich & Ramanaiah, 1977)。この ような状況をふまえて、 Schmeckら(1977)は、アカデミックな事態における学習過程を査定す るためのインベントリーを開発した。彼らは、従来の研究においで情報処理の過程として認識さ れているいくつかの概念を参考にして、アカデミックな事態で生じる様々な学習活動を記述して いる文を因子分析を用いて整理し、 4つの因子に分かれる62項目文からなる学習過程インベント リー(InventoryofLearningProcesses、略してILP)を完成させたのである。その4つの因子と は、練合‑分析(Synthesis‑Ana一ysis)、学習法(Study Methods)、事実の保持(Fact Retention) 及び精微的処理(Elaborative Processing)である。統合一分析因子には、評価(evaluation)、体 制化(organization)、弁別(discrimination)及び外挿法による推定 extrapolation)といった学 習活動に対応する項目文が含まれ、学習法因子には、学習法の組織的、伝統的な利用を表す項目 文が含まれている。また、事実の保持因子では、情報の保持に対する偏好性及び情報の詳細な部 分に関する保持に関する項目文が含まれている。さらに、精微的処理因子は、情報の視覚化、要 約、関連づけ、符号化及び応用を表す項E]文から構成されていたO
本研究では、 Schmeckら(1977)で作成されたILPを邦訳し、大学生を調査対象とした結果か らILPの日本版を作成し、その因子構造についても検討する(研究1)。また、ILPの日本版によっ て算出された学習過程の下位尺度ごとの得点がどの程度学業成績を予言するのかについても検討 する(研究2)。さらに、研究1で開発された日本版ILPの児童版を作成し、学習活動の発達的 変化及び学業成績との関係について検討する(研究3 )0
研 究 1
日的
schmeckら(1977 によって開発されたILPの日本版を作成し、因子構造についても検討する。
方法・
被調査者 大学生189名(男57名、女132名)であり、平均年齢は20歳3か月(年齢範囲は、 18 歳10か月〜22歳9か月)であった。
質問項目 Schmeckら(1977)のILPは、統合一分析(18項目)、学習法(23項目)、事実の保 持(7項目)及び精微的処理(14項目)という4つの因子に対応する合計62項目から構成されて いる。回答方法は、 2件法が用いられている。本研究では、原文をできるだけ忠実に邦訳し、 E]
本譜の表現や内容に関して検討し、その結果、 50項目を適切な項目として採用した。回答形式は、
189
190
出 il、 I.J2作法では被調査者が回答しにくい項目文があると判断したので、 =よくあてはまる"日だいたい あてはまる" "あまりあてはまらない" =まったくあてはまらない"の4段階評定を採用した。各 項目文に関して、学習活動として望ましい反応から、 4、 3、 2、 1点として得点化された。
手続き 上述した調査項目50項目を集団実施した。調査者が1項目文ずつ朗読し、それに被調 査者が4段階評定で回答する方式がとられた。
結果と考察
因子構造 各項目文の平均と標準偏差に、特に逸脱するようなものがなかったので、全50項目 について主因子法による因子分析を行い、その後、バリマックス回転を行った。その結果、
Schmeckら(1977)の4因子構造とは異なり、 3因子構造になった。すなわち、統合一分析と精 微的処理の因子がともに第1因子を構成し、第2因子に学習法、第3因子に事実の保持にはC封寸 応する因子が認められた。ただし、複数の因子に渡って因子負荷量の高い項目が12項目、共通性 の低い.20以下)項目が9項目認められた。したがって、これらの項目は、日本版ILPから削 除した。このようにして、日本版ILPを構成する29項目が決定されたのである。これら29項目 に関する因子分析(バリマックス回転後)の結果が、 Tablelに示されている。
第1因子は、 Schmeckら(1977)の統合‑分析因子に対応する9項目(Table lの項目番号では、
7、 11、 17、 23、 29、 35、 39、 45、 48)及び精微的処理因子に対応する4項目(10、 16、 44、 47) によって構成されているので、精微化因子と命名した。 Jacoby&Craik (1979)によれば、記憶 研究における精微化(elaboration)とは、記銘項目に情報を付加することとされている。また、
太田・原(1980)では、連想、上位概念による群化、体制化、文章化など、既存の認知構造との 関連において符号化が豊富になることを精微化としてとらえている(豊田、 1987)c より一般的 には学習・記憶しようとする事柄に対して、その事柄にとって適切な情報を付け加えることとい えるであろう。学習内容を統合し、分析する過程においても必ずその内容に関する適切な情報は 必要であり、それによってその内容の分析が行われると考えられる。また、学習者が学習内容を 自分の中に統合した結果、既存の認知構造との関連によって符号化が豊富になることは明らかで ある。このような理由で、精微化という命名にしたのである。
第2因子は、すべてSchmeckら(1977)の学習法因子に対応する10項目から構成されている ので、そのまま学習法の因子と命名した。 Tablelの具体的な項目をみると、 E]常の学習場面に おける工夫、いわゆる学習習慣に近いものであるといえる。最後に、第3因子は、Schmeckら(1977) の事実の保持因子に対応する5項目(Tablelの項目番号は、 9、 15、 21、 26、 37)、統合‑分析 因子に対応する1項目(6)から構成されていた。ただし、最後の項目6は、 Schmeckらの研究では 統合一分析に含まれているものの、明らかに覚えることが苦手であるかを尋ねるものであり、事 実の保持に含まれると考えられる。したがって、この因子を、 Schmeckら(1977)の事実の保持 と対応する因子として、記憶効率と命名した。ここでの記憶効率とは、項目の内容から考えると、
記憶力及び記憶することに対する自信が含まれたものである。
下位尺度間の相関係数 上述したように、日本版ILPを構成する29項目の内、精微化、学習 法及び記憶効率の各因子に対応する項目をそれぞれ日本版ILPの下位尺度として、これらの下 位尺度間のピアソンの積率相関係数を算出した。その結果、精微化尺度と学習尺度間には有意な 相関が認められたが r‑.26、 P<.01)、他の尺度間には有意な相関は得られなかった(学習法 と記憶効率間は、 γ‑.13;記憶効率と精微化間は、 γ‑.07)c したがって、これら3つの下位尺度 はお互いにかなり独立したものといえよう。
学習過程インベントリーの作成
Tablel 日本版ILPに含まれる29項目の因子構造
191
因子負荷量
項目番号'/項目文 M SD 1.精微化
(10)ある事柄の背後にある理由を探ろうとすることは、
めったにない。
35 映画や本に含まれるその作品の意図を記述すること ができる。
(47)新しい事柄を学習した際に、それの現実場面‑の適 応の仕方は、あまり浮かんでこない。
(23)複雑な課題に直面した場合に、どのようにやってい くかを計画するのが苦手である。
11論文体テストが得意である。
48 異なるところから得たいくつかの情報の間の矛盾を 解決しようとする。
(29)理解しないで、覚えることが多い。
45 答えがわからない場合でさえも、うまく推測するこ とができる。
(44)学んだ事柄を自分の経験にあてはめようとはしな い。
(17)自分の考えをうまく表現する言葉を見つけるのが難 しい。
39 ものごとをすばやく考える。
(16)問題解決の手順を計画することは、めったにできな い。
(7)批判的な評価をさせるような問題を処理するのが難 しい。
2.学習法
12 楕題(研究課題)を注意深く完成する。
5 定期的に学んだ内容を復習する。
8 毎日の勉強のスケジュールを守る。
(34)辞書を使うことは、めったにない。
27 ある事柄を理解するために、いくつかの本を参考に する。
(46)めったに図書館は利用しない。
24 ある講義科目で学んだすべての情報をまとめるよう なノートをつくっている。
(14)読んだ内容の要旨を書いておくことは、あまりない。
36 ある事柄を覚えるために役立つ簡単な図表をつく る。
(40)いつも勉強する場所が決まっていない。
3.記憶効率
(37)自分の記憶力は、かなり乏しい。
9 たくさんの情報を覚える必要のある試験が得意であ
.74 .17 ‑.10
.66 .06 ‑.12
. 66 .09 .03
. 64 .20 .20
.60 .00 ‑.04 .58 .23 ‑.06
.57 .30 ‑.13 .57 .04 .13
.56 .19 ‑.14
.51 ‑.03 .28
.47 ‑.16 .45 .17
.44
2.78 .74 .59
2.49 .75 .45
2.64 .67 .44
2.43 .83 .49
2.24 .93 2.67 .71
2.78 2.53
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.31 ‑.10 .75 2.52 .67 .03 ‑.06 .72 2.01 .53
る。15公式、人名、年号を勉強するのが、たいへん得意で‑.19.14.712.17.94.56 wm.(6)ある事柄について注意深く勉強していても、テスト・15‑.10.642.63.82.44 に備えてその事柄を覚えるのが苦手である。
(Z冒)室詣語監禁菖孟冒票禁号O,;試験では、成削二票霊:542 452:473:;≡:書芸
良くない。
寄与率 16.05 12.03 10.12 38.20
*項E]番号は、 50項目の調査用紙の掲載番号であり、 ( )が付いている項目は逆転項目であるo
192
巴 ffl ・;.∴ n]信頼性 信頼性は、 T位尺度ごとに検討された。項目一全体相関item‑total correlation)は、
ピアソンの積率相関係数であり、精微化尺度が.43‑.67 (P<.001)、学習法尺度が.48‑.64 (P
<.001)及び記憶効率尺度が.52‑.74 (P<.001)で有意であった。内部一貫性を推定するクロ ンバックのα係数は、精微化尺度が.81、学習法尺度が.70、記憶効率尺度が.76であり、高い値 を示している。
研究2
日的
研究1において作成された日本版ILPの3つの下位尺度得点(精微化、学習法、記憶効率)が、
学業成績をどの程度予言するかについて検討する。
方法
被調査者 大学生104名(男子34名、女70名)であり、平均年齢は20歳6か月(年齢範囲は、
19歳2か月〜22歳1か月)であった。
質問項目と手続き 研究1と同じく、 29項目に整理されていない以前の50項目すべてを集団実 施した。すなわち、調査者が項目文を朗読し、それに被調査者が4段階評定で回答する方式がと られた。
また、被調査者の学業成績としては、彼らの受験した生徒指導Ⅲの試験得点(素点)を用いた。
この試験の内容は、生徒指導に関わる重要項目について説明を求める問題が得点の80%を占め、
残りは、専門用語を空欄に入れる形式のものであった。採点は、著者が行い、前者の重要項目の 説明を求める問題では各問につき3‑4個のキイ・ワードを設定し、それが記入され、それにつ
いての適切な説明がある場合には、部分得点としてカウントしていった。そして、この部分得点 をそのまま合計して、各被調査者の素点を算出したのである。
結果と考察
下位尺度得点と成績との関係 実施した50項日中、日本版ILPを構成する29項[=こついて分 析を行った。まず、下位尺度に対応する項目の合計得点を3つの下位尺度に算出した。これらの 下位尺度得点の平均は、精微化尺度が33.95 (SD : 5.29)、学習法尺度が24.43 {SD : 4.18)、記 憶効率尺度が14.13 (SD:3.24 であった。
試験の成績(平均が78.82、 ∫βが11.54)を目的変数、精微化、学習法及び記憶効率の各尺度 ごとの得点を予測変数とした回帰分析を行ったところ、学習法尺度得点における標準化偏回帰係 数は.22で有意であったが(f(ioo)‑2.14、 P<.05)、精微化尺度の標準化偏回帰係数が‑.18 (t(100)
‑‑1.76)、記憶効率尺度得点の標準化偏回帰係数が.18 (t(,oo)‑1.87 で、いずれも有意ではな かった。したがって、試験の成績に及ぼす学習法の効果は有意であるが、精微化及び記憶効率の 効果は実質的なものであるとは言えない。なお、このときの回帰式全体の説明率は^‑.097で あり、有意であった(F(3.ioo)‑3.59、 P<.05)。
精赦化と記憶効率の効果が実質的なものでないことが示されたので、学習法のみを予測変数に して剛再分析を行ったOその結果、標準化偏回帰係数が.20で有意であり(i(io2)‑2.08、 P<.05)、
この単回帰式の説明率はR'‑.04であり、有意であった(F,(1.102)‑4.33、 P<.05)。
さらに、学習法の効果をより明らかに示すために、学習法尺度得点の上位群と下位群について 試験の平均素点を算出した.その結果、上位群は80.88点(SD : 12.58)、下位群は72.87点(sD
学習過程インベントリーの作成
193
:9.89)であり、両群の間に有意な差が認められた(t‑2.33、 P<.05 c
このように、説明率は低いものの、学習法が試験の成績に影響するという結果は、興味深い。
Schmeckら1977)では、学習法と意図記憶事態での再生成績との間の有意な相関関係を兄いだ している。本研究で取り上げた試験は、意図記憶事態の再生成績とみなすことができるので、こ の結果は、 Schmeckら(1977)の結果と一致する方向にあるものと考えられる。本研究で用いた 試験は、多くの事柄の個々の理解に依存する内容であったので、学習法尺度によって推定される 堅実な学習を行う学生は、成績の上昇する可能性が高くなったと考えられるであろう。杉村・井 上・豊田1986)は、小・中学生の学習習慣を家庭での学習習慣、学習意欲及び学校での学習習 慣に分け、その中の家庭における学習習慣において、勉強の仕方という構成要因を設定している。
そして、学業成績の上位群と下位群間で勉強の仕方の得点に有意な差のあることを兄いだしてい る。この勉強の仕方は本研究での学習法に対応すると考えられるので、一般に学習法が学業成績 に影響することはデータとして実証できる可能性が高いものであると考えられる。
成績上位群と下位群の比較 上述の分析によって、下位尺度得点としての学習法が試験の成績 に影響していることが示されたが、ここでは、さらに詳細に成績との関係を検討した。すなわち、
29項目すべてについて試験成績の上位群(27名)と下位群(25名)間に個々の項目の評定得点に 差がみられるか否かを検討したのである。その結果、学習法尺度に含まれる項目8 (毎日の勉強 のスケジュールを守る)及び項目46 (めったに図書館は利用しない)において両群間に有意な傾 向が認められた(項目8及び46ともに、 ∫‑1.93 c
奥村・清水(1989)も、保母養成校の学生を対象にして、図書館の利用の程度と学生の成績を 比較し、利用の多い学生が成績の良いことを示している。したがって、図書館の利用は、成績に 影響を与える可能性の高いものであると考えられよう。また、記憶効率尺度に含まれる項目26(定 期試験では、よい成績を取る)において両群間に有意な差が認められたU(50)‑2.02、 P<.05)c これは、本研究で目的変数として用いた試験が大学での定期試験であるので、当然の結果である と考えられるが、むしろ、大学生になれば、自分の試験に備えての記憶の程度を正しくモニター できていると考えることもできるであろう。
研究3
日的
日本版ILP (児童用)を作成し、学業成績との関係及び学習活動の発達的変化について検討す る。
方法
被調査者 小学2年生60名(男30、女30)、 4年生60名(男34、女26)及び6年生60名(男29、
女31)である。
質問項目 日本版ILPの29項目に整理する前の50項目の中から児童の学校での学習実態に適 合する項目30項E]選び、それを児童に理解しやすい表現に修正したしたものを、児童版として採 用した(うち、 15項巨=ま、逆転項目である。)。なお、児童では4段階評定は難しいと考えたので、
=はい" "いいえ''で回答される2件法を用いた。
手続き 研究1及び2と同様に、上述の調査項目30項目を集団実施した。あらかじめ質問の項 目番号及び白まい、いいえ)が印刷された回答用紙を配布し、調査者が読み上げる質問項目に対
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豊 田 弘 司し、あてはまれば"はい"、あてはまらなければ"いいえ''のいずれかに丸を付けさせた。
結果と考察
因子構造 研究1と同じように仝30項目について主因子法による因子分析を行い、その後、バ リマックス回転を施した。ただし、複数の因子に因子負荷量の高い項目が、 2年生で3項目、 4 年生で8項目、 6年生で5項目認められた。また、どの因子に対する負荷量も低い項目も、 2年 生で3項目、 4年生で6項目、 6年生で5項目が認められ、これらの項目は研究1と同様に削除 された 2‑3つの学年に渡って上記の項目に該当するものもあったので、結局12項目が削除さ れ、 18項目を日本版ILP (児童用)として採用した。これらの項目が、 Table2に示されている。
この18項目について、各学年ごとに主因子法による因子分析を行ったところ、どの学年において も3つの因子が抽出された Table3には、バリマックス回転後の因子負荷量が示されている。
ただし、小学2及び4年生において兄いだされた因子は、弁別性が乏しく、因子の命名が困難で あったのに対し、 6年生においては弁別性の高い3つの因子が抽出された。
第1因子は、日本版ILP (大人版)の3つの因子に含まれている項目が混在した因子なってい るが、項目の内容を検討すると、記憶効率因子にはCが寸応するように思われるO そして、記憶の 中でも、特に、学習した情報を思い出すという操作すなわち検索を強調した項目が多い。したがっ て、検索の因子と命名した。第2因子は、 Jacoby&Craik (1979)の精微化の定義に対応して、
学習内容に対する情報の付加及びその付加の結果生じる現象を言及する項目から構成されてい る。したがって、日本版ILP 大人版)の精微化よりも意味は限定されるが、精微化の因子と命 名した。第3の因子は、学習内容の要約や思考活動に関する項目から構成されているので、思考 の因子と命名した。被験者数は少なかったが、試みに信頼性を下位尺度ごとに検討した。内部一 貫性を検討するためにKuder‑Richardsonの公式20によるα係数を算出した。その結果、精微化 尺度がα20‑‑.39、検索尺度がα20‑‑.39、思考尺度がα '‑.33であった。
学業成績との関係 上述した因子をそれぞれ対応する尺度として、その尺度に含まれる項目の 得点を各尺度得点として算出した。そして、この各尺度得点を説明変数とし、従属変数に学業成 績(教師の知的4教科に関する合計評価点、各教科3点満点、合計12点満点)をとって各学年ご とに重回帰分析を行った。その結果、 6年生においてのみ、本研究で抽出された因子が学業成績 を予測した。 6年生における3つの尺度得点の平均は、検索尺度が2.42 5か: 1.58)、思考尺度 が3.43 (SD : 1.69)精微化尺度が3.92 (SD : 1.76)であった。これらの得点を予測変数とする 回帰分析を行ったところ、検索尺度得点における標準化偏回帰係数が.37で有意であり U(56)‑
3.02、 P<.01)、精微化尺度の標準化偏回帰係数も.34で有意であったU(56)‑2.ォ、 P<.Ol)0 しかし、思考尺度に関しては、標準化偏剛肩係数は.11で、有意にはならなかった(f(56)‑.93)c したがって、学業成績に及ぼす検索と精微化の効果は有意であるが、思考の効果は、実質的なも のでないと言えよう。なお、 3つの尺度得点による回帰式全体の説明率はi?^‑.298であり、有 意であった(F(3,56)‑7.91、 P<.Ol)C
また、思考の効果が実質的なものでないことが示されたので、検索と精微化尺度得点を予測変 数として回帰分析を行った。その結果、検索尺度の標準化偏回帰係数は.34で、精微化尺度の標 準化偏回帰係数は.36であった。なお、この2つの予測変数による回帰式の説明率は^‑.287で あり、有意であった(F(2.57)‑H.45、 P<.01 。
本研究では、検索(研究1の記憶効率にほぼ相当)が学業成績を予言することが示されたが、
このことは、研究1で記憶効率が試験の成績を予言できなかったことと一致しない。小学生では、
学習過程インベントリーの作成
Table2 B本版ILP 児童用)の項E]文
95
(1)自分が覚えたことをまとめるのが、難しいですか?
(2)テストのためにものを覚えるのが、難しいですか?
3 日分の考えていることをうまく言うことができますか?
4 作文を書くのが、好きですか?
5 同じようなものでも、その違いをすぐに見つけることができますか?
(6)先生の言うことが速すぎて、わからないことがありますか?
7 テストの前の日には、一一一生懸命に勉強をしますか?
(8)明日、学校で何を勉強するのかは、あまり考えないですか?
9 栢題をきちんとしますか?
(10)国語辞典や図鑑は、ほとんど見ないですか?
(ll)練習問題は、あまりしませんか?
12 学校で習ったことが、どうしてそうなるのかを考えることがありますか?
13 授業中に、前に習ったことを思い出すことがありますか?
14 本を読んだすぐ後に、その本に書いてあったことを思いだしてみますか?
(15)新しく習ったことが、頭の中で絵(イメージ)のように思い浮かべることがあまりありませんか?
(16)先生の言ったことを、自分の言葉でまとめるのが、難しいですか?
(17)今、勉強したばかりのことについて、あまり考えない方ですか?
18 新しく何かを習った時、今まで自分がしたことを思い出すことがありますか?
( )の付いた項目は、逆転項目である。
Table3 日本版ILP (児童用)の因子構造
早香
目
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項目番号は、 Table2の番号に対応している。
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Table4 日本版ILP (児童用)において発達的変化の認められた質問項目
wmm 回 書
2年 4年 6年
(2)テストのためにものを覚えるのが、難しいですか?
4 作文を書くのが、好きですか?
5 同じようなものでも、その違いをすぐに見つけることができますか?
(6)先生の言うことが速すぎて、わからないことがありますか?
7 テストの前の日には、一生懸命に勉強をしますか?
(8)明日、学校で何を勉強するのかは、あまり考えないですか?
12 学校で習ったことが、どうしてそうなるのかを考えることがあります か?
14 本を読んだすぐ後に、その本に書いてあったことを思いだしてみます か?
(15)新しく習ったことが、頭の中で絵(イメージ)のように思い浮かべる ことがあまりありませんか?
(16)先生の言ったことを、自分の言葉でまとめるのが、難しいですか?
37 26 21*
(61.67 43.35 25.00 11 34 52*
(18.33) (56.67) (86.67) 13 18 31' (21.67) (30.00) (51.67) 35 27 19*
(58.33) (45.00) (31.67) 29 41日 (10.00) (48.33) (68.33)
40 39 日 (66.67) (65.00) (15.00)
33 19*
(55.00) (15.00) (31.67) 15 22*
(25.00) (15.00) (36.67) 34 22 18**
(56.67) 36.67 30.00 36 44 30*
(60.00) (73.33) (50.00)
数字は「はい」と答えた人数、 ( )内の数字はその%を示している **P<.01 *pく.05
覚えなければならない内容が多く、そのために記憶に依存する程度が高いと考えられるが、大学 生では、記憶よりも理解に依存する程度が高く、その違いが結果に反映されたとみることができ
よう。また、研究1で用いられた試験の内容は、あまり記憶に負荷がかからないものであったこ とも影響していると考えられるであろう。それ故、今後の課題として、目的変数の算出の手段と しての試験内容を検討することが必要であろう。また、研究3で目的変数として取り上げた学業 成績は教師の3段階評定得点であり、研究1で用いたような試験の素点ではなかったので、その 違いが反映されている可能性も考えられるので、目的変数の性質の違いについても検討する必要 があろう。
発達的変化 本研究の目的の一つは、学習活動の発達的変化を検討することであった。日本版 ILP (児童用)の18項目についてx2検定を行い、発達的変化の認められた項目をTable4に示し た。発達的変化を示した項目と示さなかった項目の違いというものは、現時点では明確でない。
要 約
学習の個人差を査定するインベントリー(日本版ILP)の作成に関して、 3つの研究がなされ た。まず、研究1では、 Schmeckら(1977)の原尺度を邦訳し、 50項目に対する因子分析の結果、
適切な29項目からなる日本版lLPを作成した。この日本版lLPは、 3つの下位尺度から構成さ れていた。その3つの尺度とは、精練化、学習法及び記憶効率であった。研究2では、上述した 3つの下位尺度得点と試験成績の関係を検討した。 3つの下位尺度得点を予測変数とする重回帰
学習過程インベントリーの作成
IKH
分析の結果、学習法尺度得点のみが学業成績を予言することが示された。さらに、研究3では、
日本版lLPの児童用を作成し、学習活動における発達的変化と学業成績に及ぼす影響を検討し た。小学2、 4、 6年生を調査対象にした因子分析の結果、 18項目が日本版ILP 児童用)とし て選択された。学年によって因子構造は異なったが、 6年生において、弁別性の高い3つの因子 (検索、精微化、思考)が抽出された。この3つの因子を下位尺度として、各尺度得点を予測変 数とする重回帰分析を行ったところ、検索と精微化が学業成績を予言することが示された。また、
学年ともに発達的変化のある項目がいくつかみられ、学習活動における発達的変化が示された。
引 用 文 献
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<付記>本研究のデータの収集・分析については、奈良教育大学心理学専攻4回生の新山憲一君、
松山由紀さん、吉田真奈美さん、同研究生の尾添伸二君の協力を得た。記して感謝の意を表しま す。
198
Development oHapanese Edition of a SelトReport Inventory for Assessing Individual Difference in Learning Processes
Hiroshi TOYOTA
(Department of Psychology, Nara University of Education, Nara 630, Japan ) (Received April 4, 1991)
The first study was carried out to develop the Japanese edition of a selトreport inventory for measuring individual differences in learning processes for adults by Schmech, Ribich & Ramanaiah (1977). The subjects were 189 undergraduate students at Nara University of Education. They were presented a list of 50 statements representing learning behaviors which might be utilized in academic settings. They were then asked to rate the likelihood that the behavior represented in each statement occurred on 4‑point scales. Factor analysis yielded three factors which comprised 29 0f the original 50 statements. Each factor consisted of six or more items with loadings exceed‑
ing. 35 and having minimal overlap with the other factors. Factor I was marked by items which‑
stressed evaluation, organization, discrimination, summarizing, relating, encoding, and applying in‑
formation and was refferred to as Elaboration factor (Elaboration scale). This factor seemed to correspond to the Synthesis‑Analysis and the Elaborative Processing factors in Schmech et al.
(1977). Factor II , which was called the Study Methods represented the use of systematic study techniques (Study Methods scale). Factor IE was comprised items which indicated a preference for memorizing information and retention of information; it was called the Memory Efficiency fac‑
tor (Memory Efficiency scale). Scale intercorrelations showed that the three scales were relatively independent.
The second study investigated the relationship between the above three scale‑scores and test performance in a psychological course. 104 undergraduates students were asked to do the same as that in the first study. Multiple regression indicated the Study Methods scale predicted 4 % of test performance, but the Elaboration and the Memory Efficiency scales did not.
The third study developed the children's scales and investigated the developmental change in learning behaviors and the relationship between the children's scale‑scores and academic achieve‑
ments in elementary school. The subjects were 60 second, 60 fourth and 60 sixth graders. They were asked to respond the 30 statements. Developmental changes were obtained in some state‑
ments. Using the factor analytic approach, the following three scales were obtaind: Retrieval, Ela‑
boration and Thinking. Multiple regression indicated the Retrieval and the Elaboration scales pre‑
dieted 23 % of the academic achievements.