氏 名 まつおか たいすけ
松岡 泰祐
学 位 の 種 類
博士(医学)
報 告 番 号
甲第
1858号
学位授与の日付
令和
3年
3月
16日
学位授与の要件
学位規則第
4条第
1項該当(課程博士)
学 位 論 文 題 目
Inhibition of NLRP3 inflammasome by MCC950 improves the metabolic outcome of islet transplantation by suppressing IL-1β and islet cellular death
(門脈内膵島移植における NLRP3 インフラマソーム阻害剤 MCC950 投与による IL-1β と移植膵島の細胞死の抑制が膵島移 植成績を改善する)
論 文 審 査 委 員 (主 査) 福岡大学 教授
白澤 専二
(副 査) 福岡大学 教授
川浪 大治
福岡大学 講師
白須 直人
内 容 の 要 旨
【背景】
膵島移植は摘出した膵臓からインスリン産生細胞である膵 β 細胞を含む膵島を単離抽 出し経門脈的に移植する細胞移植療法であり、1 型糖尿病を主体とするインスリン依存性 糖尿病に対して行われる。1 型糖尿病は自己抗体により膵 β 細胞が破壊されインスリン 分泌が枯渇し生じる疾患で、本邦における患者数は 2017 年度厚生労働省研究班による疫 学調査では約 10-14 万人と推定されている。血糖コントロールにはインスリン投与が必須 であるが、糖尿病専門医の診療下でインスリン治療を行っても管理が難しい症例が存在し、
血糖変動性が強く高血糖のみならず低血糖にも悩まされることがある。特に意識消失を伴 う無自覚性重症低血糖発作は生命にかかわる可能性がある。
一方、膵島移植により移植された膵 β 細胞は生理的なインスリン分泌が可能で、血糖
不安定性の強いインスリン依存性糖尿病の治療として発展してきた。しかしながら、膵
島移植では移植直後に生じる自然免疫反応などにより約 70%の膵島が障害を受け拒絶され
ると言われており、特に炎症性サイトカインが膵島障害の一つの大きな要因であると報
告されている。炎症性サイトカインを惹起する一因子である NLRP3 インフラマソームは
細胞質内に存在するタンパク複合体で IL-1β, IL-18 の活性化、および細胞死を引き起
こすことが知られている。また、MCC950 は、NLRP3 インフラマソームを特異的に阻害す
る低分子化合物で、多種の免疫、炎症による疾患において有効であることが報告され、
近年注目されている。
【目的】
本研究の目的は門脈内膵島移植マウスモデルにおける移植後早期に生じる自然免疫反 応と NLRP3 インフラマソームの関与を明らかにし、NLRP3 インフラマソーム阻害剤であ る MCC950 投与による移植後の血糖降下作用の改善効果を明らかにすることである。
【対象と方法】
マウス膵 β 細胞腫瘍化細胞株である MIN6 にサイトカインカクテル(TNF-α, IFN-γ, IL-1β)の添加培養を行い、NLRP3 インフラマソーム関連遺伝子である IL-1β と NLRP3 遺伝子について qPCR で検討した。
野生型 C57BL/6J マウスから膵臓を摘出後、膵島を単離し、LPS、もしくはサイトカイ ンカクテル(TNF-α, IFN-γ, IL-1β)の添加培養を行い、IL-1β および NLRP3 の遺伝子 発現の変化を qPCR で検討した。さらに、NLRP3 インフラマソーム阻害剤である MCC950 を 添加し、その効果について明らかにした。
次に、単離した膵島 50 個を用いてサイトカインカクテル、またはサイトカインカクテ ル+MCC950 を添加培養し、膵島組織、および膵島細胞の生存率をそれぞれ検討した。死 細胞は Propidium Iodide、生細胞は Hoechst 33342 で染色し評価した。
続いて移植実験を行った。レシピエントとして 8-10 週齢の雄の野生型 C57BL/6J マウ スにストレプトゾトシンを尾静脈投与し糖尿病マウスを作成した。野生型 C57BL/6J マウ スから膵島を単離し、経門脈的に膵島 170 個を移植したコントロール群と移植前後に MCC950 を腹腔内投与した MCC950 治療群を作成した。移植後 3 時間後、6 時間後、12 時間 後に肝臓を摘出し組織学的所見について検討した。TUNEL 染色、IL-1β、および F4/80 の 免疫染色を行い、移植した膵島の細胞死、IL-1β 発現とマクロファージの遊走について 比較検討を行った。
また、経門脈的に膵島 170 個を移植した後に移植後 28 日間の血糖値、体重、血漿 C-ペ プチド濃度を測定した。
【結果】
MIN6 の培養細胞に対するサイトカイン刺激により IL-1β および NLRP3 の遺伝子発現が 増強していた。また、単離膵島についても LPS、およびサイトカインの刺激により IL- 1β と NLRP3 の遺伝子発現が増強し、MCC950 の投与によりそれらの遺伝子発現の増強が 抑制された。
次に、サイトカイン刺激により膵島組織の生存率はコントロール群と比較して減少し
( p < 0.0001)、MCC950 を添加培養することで改善を認めた( p < 0.0051)。同様に、サイ
トカイン刺激により膵島細胞の生存率はコントロール群と比較して減少し ( p <
0.001)、MCC950 を添加培養することで改善を認めた( p = 0.009)。これらの事から NLRP3 インフラマソームはサイトカイン刺激により膵島の細胞死を誘導し、MCC950 投与がこれ を改善させることが示唆された。
移植膵島のアポトーシスは移植後 3 時間、6 時間、12 時間において時間依存性に増加 していた。MCC950 治療群はコントロール群と比較して 6 時間、12 時間後のアポトーシス を有意に減少させた(6 hours; p = 0.0218, 12 hours; p = 0.0015)。次に、膵島移植後 早期の移植膵島と膵島周囲に IL-1β が同定された。コントロール群では MCC950 治療群 と比較して移植後 3 時間で有意に IL-1β 陽性細胞の増加を認めた(3 hours; p = 0.0043)。また、F4/80 の染色においてコントロール群では移植膵島の周囲にマクロファ ージの遊走を認め、その数は時間依存性に増加していた。MCC950 治療群では 6 時間、12 時間で有意にマクロファージの数が減少していた(6 hours; p = 0.0037, 12 hours; p = 0.0015)。
さらに、MCC950 治療群ではコントロール群と比較して有意に 28 日間の血糖値の改善を 認めた( p = 0.04)。血漿 C-ペプチド濃度には有意差を認めなかったものの MCC950 治療群 での増加が認められた。一方、体重変化については両群間に差を認めなかった。
【結論】
膵島移植後早期に生じる宿主の自然免疫反応に NLRP3 インフラマソームが関与してい ることが示唆された。また、NLRP3 インフラマソームを阻害することで膵島のアポトー シス、IL-1β 産生、マクロファージの移植部位への遊走が抑制されることが明らかとな った。NLRP3 インフラマソームをターゲットとした治療は膵島移植の治療効果を改善さ せると考えられる。
審査の結果の要旨