自治体行政の「総合化」と庁議制度
― 横浜市の観察から ―
松 井 望 はじめに
(1)「総合性」と自治体行政
自治体行政にとって「総合性」とは、迂遠概念である。行政学者の金井利 之は、地方分権一括法に関連する改革をめぐり自治制度官僚が発した各種言 説に関する分析を通じて、国の本省レベルでの縦割・割拠化という分立性、
国・自治体間での融合性、そして、自治体レベルでの統合性を組み合わせた ものを「総合性」
1を捉える。しかし、自治体にとって「総合性」とは、地 方分権改革が進められた 1990 年後半以降に初出したものではない。行政学 者の市川喜崇は、このような「総合性」概念は、戦後の自治制度改革に通底 された概念であるとする。つまり、「旧自治省と自治体関係者」が、他省が
「機能的集権」を進めようとするなかで、その「対抗概念」として提示され たことにその淵源を見出す。更に、その後長らく「旧自治省と自治体関係者」
の「機関哲学」、「自明の前提」
2として共有された概念であることを指摘す る。ただし、市川は、このように長く用いられてきた概念であっても、地方 分権一括法の改正に伴う新規性をも指摘する。それは、地方自治法第 1 条の 2 の新設であり、ここに「政策過程の総合性」が「付与」
3されたことにある、
という。
では、「政策過程の総合性」を、自治体行政内部では、実際にはどのよう に確保しているのだろうか。本稿の問題関心は、この点にある。上記の金井 1 金井利之『自治制度』(東京大学出版会、2007 年)、106 頁。
2 市川喜崇「市町村総合行政主体論と「平成の大合併」」寄本勝美・小原隆治・編
『新しい公共と自治の現場』(コモンズ、2011 年)、347 頁。
3 市川喜崇・前掲注 2、 349 頁。
による整理に倣いつつも、より単純に、首長の下であらゆる事案が組み合わ さる過程を「総合化」と言い換えるとすれば、独任制の統治機構を採用する わが国の自治体行政では、最終的には一人の長のもとで、政策は決定される。
もちろん、政策内容の具体性と抽象性には様々な程度がある。また、自治体 独自の政策もあれば、国からの要請のもとにその採択を判断しなければなら ない政策もある。個別政策が擦り合わせることなく併設されたり、「総合化」
の質や資源配分で、傾斜や優先順位付けがなされることもある。しかし、そ れらもまた、首長が行う政策の「総合化」の判断の結果でもあろう。そのため、
自治体行政では、結果的には、首長の下での政策の「総合化」以外の選択は 存在しないともいえる。ただし、首長の下に至る「政策過程の総合性」まで の過程や手続は多岐にわたる。では、どのように「総合化」が図られるのだ ろうか。
本稿では、以上の問題関心から、自治体行政内部での「総合化」の手続の 特性を明らかにするものである。その際、主に首長及び直近下位部門長等か ら構成される会議体である「庁議制度」を具体的な観察対象に考察する。独 任制とはいえ、全ての政策を首長ひとりが調整し、独断で決定へと至るわけ ではない。「総合化」に至る過程では、自治体行政内でも多様な制約要因や 多様な主体が存在する。そして、自治体行政内部での合意のもとに進められ る。そのため、これらの手続は合意の形成とそのための調整過程であるとも 換言できよう。これらの手続のなかでも、会議体は、その調整の場として活 用される。しかしながら、会議体に関する研究は限定されている。そこで、
政策の「総合化」に至る手続のなかでの会議体の役割を、庁議制度を対象に 分析する。
(2)庁議制度の認識
行政組織内における会議体のみならず、庁議制度に関する研究は、皆無に
近い。それは、庁議制度への半ば印象論的な想念が、その研究を少なくして
いる要因であろう。そのため、同制度に関して論じられる場合は、政策過程
における課題設定の一部や組織管理のなかで言及されることに留まる。この
ようななかでも、行政学者を中心に同制度に関して記述された幾つか指摘か ら、その特徴を抽出してみると次のようなものがある。
まずは、全国の市レベルへのアンケート調査結果をもとに分析をした行政 学者の伊藤大一は、「庁議付議以前に、事前に事案についての実質的意思決 定がなされているものがほとんど」
4として、制度と実態との乖離を指摘す る。つまり、制度は存在した場合でも、その制度の機能面での実質的意味が 限りなく低いものであると捉えている。また、課題設定に関する論考では、
行政学者の伊藤修一郎は、 「行政府の政策アジェンダ」の存在に着目しつつも、
「わが国においては、幹部の合議による意思決定も、議会と異なりその過程 を外部に明示するしくみはないので、外から測りがたい」として、庁議制度 への観察の困難性を指摘する。あわせて、上記の伊藤大一の考察を援用し、 「そ もそも、定期的な庁議が意思決定の場とは限らず、「形式的な庁議」の前の
「実質的な庁議」で決定される場合が少なくない」
5と、庁議制度とは形式的 なものであるとも論じる。その他にも、政令指定都市制度の組織機構を考察 した、行政学者の伊藤正次によれば、「規程上、調整機構が制度化されてい るとしても、実際の調整活動は非公式な部局間折衝等で行われている場合が ある」
6とする。これらは、自治体行政内部での調整手続では、事前の非公 式な調整に依拠している部分が多いことを確認するものである。
このように庁議制度は、自治体行政内部の調整手続では、総じて形式的な 役割に留まるものとして捉えられているようである。一方で、既に拙稿でも 論じたように、上記のような庁議制度に対する認識とは異なり、担当者レベ ルではその活用を指摘することもある
7。つまり、庁議制度の制度、そして その運用は、各自治体では異なる。もちろん、元来、調整を予定していない
4 伊藤大一「庁議の研究」『都市問題研究』第 80 巻第 9 号、1989 年 9 月、25 頁。
5 伊藤修一郎「政策波及とアジェンダ設定」 『レヴァイアサン』28 号、2001 年、18 頁。
6 伊藤正次「行政組織の構造と変遷」財団法人東京市政調査会編『大都市のあゆみ』
(財団法人東京市政調査会編、2006 年)、215 頁。
7 松井望「庁議制度と調整機構」村松岐夫・稲継裕昭・財団法人日本都市センター
編著『分権改革は都市行政機構を変えたか』(第一法規、2009 年)、49 ~ 53 頁。
庁議制度があることも確かであろう。しかし、自治体内の事案の調整手続上 に同会議体が位置づけられているとすれば、そこには何らかの意味があるよ うにも考えられる。例えば、単なる報告に留まることもあれば、事案の調整 手続の通過点、更には、国レベルの事例を敢えて例示すれば、事務次官等会 議や閣議のように、事案を調整する際の終着点としての役割をもつこともあ るのではないだろうか。そこで、本稿では、自治体行政内での政策の「総合 化」に向けた調整手続のなかでの、特に庁議制度の役割に焦点を当てて、 「政 策過程の総合性」の特性を明らかにする。
1.庁議制度の一般形態
8とはいえ、庁議制度は、個別自治体毎で、その形式と運用ともに、多様で ある。本稿内で論じる対象の共通了解を図る必要があろう。そこで、一般的 な形態に関しては、同制度の設置根拠となる設置規程に基づき一般形態の抽 出を試みた拙稿
9をもとに、まずは、再整理をしておく。
まずは、その設置目的である。同制度では、「決定」「調整」「連絡」の 3 つ あるとされてきた。確かに、これらの目的は、いずれかを単独に規定されてい る場合もある。一方で、併記されていることも多い。そのため、実態的には相 互に補完的、連続的な機能を果たしている。これは、審議事案の規定方式か らも分かる。一つには、個別事案を予め個別具体的に明記しておく、いわば「制 限列挙」方式を採用する制度もある。もう一つは、必ずしも具体的な規定を していない、いわば「概括例示」方式を採用する制度もある。前者であれば、
庁議制度では限定化された対象を扱うことになる。方や、後者であれば極め て広範囲な事案を対象とすることになる。しかし、広範囲な事案とはいえ、庁 議への参加者には無尽蔵に時間があるわけではない。通常の勤務時間内での 開催が原則であるため、日々の執務時間と、庁議制度を含めた会議体への参 8 松井望「中枢管理機構としての庁議と調整」『都市政策研究』第 5 号、2011 年。
9 松井望・前掲注 8、松井望「首長と事務機構-首長の意思決定を支える仕組みと
しての庁議制度-」『都市とガバナンス』第 12 号、2009 年 9 月号を参照。
加と審議時間との間にはトレードオフ関係が生じる。そのため、制度的には概 括例示方式により広範囲な事案を扱うことを可能としつつも、一定の基準によ り選別手続が行われる。具体的には、多くの自治体では「基本性」・「重要性」
の基準を規程上設けている。しかし、この「重要性」基準には、同制度が作 動するうえでは特徴を生み出す。つまり、その「重要性」を、誰が、どのよう に判断するかという点である。この点が本稿での主たる考察対象である。
次に、人員構成の編制とその運営である。庁議制度では、その主宰者は概 ね首長であると規定されている。そして、主宰者である首長と、その直近下 位部門長から構成されることが基本的な構成になる。このことは、局処的な 事案が付議される場合でも、自治体行政内部で政策分野毎に分担して管理す る各部門長が一堂に会することで、手続上は内容面の共有化と方針の了解を 試みることになる。これにより自治体行政内部での政策の「総合化」を図る ことが企図されている。ただし、その構成は、幾つかのパタンがある。首長・
副首長は基本的な構成員ではあるものの、直近下位部門長では、全部門長が 構成する場合と限定例示される場合とに分かれる。つまり、全ての部門長が 構成員であることは所与ではない。特に、後者は、官房部門長型、官房部門 長に特定事業部門長と公営企業部門長が加わる型、また、官房部門長、特定 事業部門長、公営企業部門長に教育長が加わる型もある。官房部門系の部門 長の参加があることで、庁議制度という会議体による調整での調整可能性を 高めている。このようにその構成員の形態は、むしろ多様性があり、単に、
一同が会すると「総合化」が図られるものでもない。そこで、同制度を作動 させ政策の「総合化」に向けた手続が重要となる。
第三に、組織体系の編制と運営も整理しておく。組織内での意思決定手続
がそうであるように、自治体行政内部で設置された会議体も単一で機能する
ことは極めて限定的である。前述の伊藤正次が、「調整組織が制度化されて
いるとしても、実際の調整活動は非公式な部局間折衝等で行われている場合
がある」
10と指摘するように、調整目的に応じて、公式・准公式・非公式な
10 伊藤正次・前掲注 6、215 頁。
会議体が設置されることが実際のところである。この点からすれば、自治体 行政内での会議体を通じた調整手続全てを「庁議システム」であるとも言い 換えることも可能である。しかし、そのような会議体間の連続性をすべて捉 えることは、観察上、極めて困難である。そこで、本稿では、あくまで単一 の設置規程を根拠とする、庁議制度に限定し、その運用形態を分析する。そ の際、単一規程に基づく場合でも、単一の会議体のみを規定する方式(単 層式)、複数の会議体を規定する方式(複層式)と、そのパタンが分かれる。
更に複層式には、幾つかのパタンがある。例えば、上位の会議体への付議事 案の調整を図る、いわば「前捌き」作業をはかるようなパタン(「付議事案 事前整理型」)もあれば、上位の会議体で一定の方向性や調整方針が審議さ れた後に、その結果を受けて、下記の会議体へその内容を指示するパタン(「審 議事案実施確保型」)もある。
まず、後者の「審議事案実施確保型」を見ておく。このような制度パタン の庁議制度では「決定」された事案の実効性確保が主眼となる。「決定」さ れた事項を担当する所管体系に対して、会議体での方針確定後の実施を委任 する内部統制的な色彩をもつパタンである。つまり、会議体として「決定」
されたとしても、同会議体自体は公式な決定手続ではなく、「決定」された 内容が概括的であることで、所管体系では極めて裁量の幅を与える。その裁 量の幅を縮減するために、統制機関として庁議制度が置かれることもある。
ただ、このような用途は、複層式でも限定的である。むしろ、前者の「付議 事案事前整理型」としての利用が比較的一般的である。 「付議事案事前整理型」
により、付議事案の振り分け機能を果たすものの、その方式は 2 つに分かれ る。まずは、一端、限定された職層から構成される会議体で付議事案の内容 を審議した後に、より多くの構成員からなる会議体で付議事案として提案す るパタンである
11。いわば、上位下降型とも呼べるパタンである。これにより、
庁議制度の主催者が議題設定を主導性や能動性を確保することを可能として
いる。もう一つは、下位上昇型とも呼べるパタンもある。つまり、主要な直
11 松井望・前掲注 9、25 頁。
近下位部門長から構成された会議体が、正式な付議事案として確定される前 に、事前審議するものである。このことは、会議体への付議(又は、不付議)
の選択が、各部門長に委任されることも意味する。そのため、議題設定の観 点からは受動的な制度である。ただし、これらの二つのパタンはあくまで理 念型である。実際には、機能的な分離の複層式(二層式)が図られ、明確な 分離が図られるとは限らない。本稿で観察した、横浜市の都市経営戦略会議 と都市経営執行会議の事例は、その一つである。
最後に、手続と対応である。付議事案は、各直近部門長からの申請に基づき、
庁議制度を所掌する部門長が整理する。その整理には、あくまで文書形式に 関する形式的な整理と、付議事案の具体的な内容に関わる内容的な整理の何 れかが行われる。この付議に至るまでは、上記の「重要性」基準に基づくため、
庁議を所掌する部門長もまた受動的である。つまり、付議事案の内容は、付 議する部門側と庁議制度を所掌する部門側である付議を受ける側では「非対 称」
12な関係にある。そのため、庁議制度への付議事案以外で、付議を行う べきとも類推されるような、「重要性」基準に合致する事案は、潜在的には 存在する可能性が常時あることになる。更には、庁議制度を所掌する部門側 が適当と想定する事案を、付議する部門側が付議を行うとは限らない。それ は、「重要性」に対する認知の非対称性があることや、付議側は文書決裁手 続における合議とは異なり、必ずしも自らの事案に関連することない不特定
(多数)の部門長からも発言や関与が想定されることにもなるため、これらを 回避し、自らの事案に関連する特定された部門のみに対峙すればよいとの認 識があるためである。つまり、付議を行う側には、庁内での世評や非難の回 避を図りつつ、やや確信犯的に不付議という選択肢をもつことにもなる
13。
12 森田朗『許認可行政と官僚制』(岩波書店、1988 年)、52 頁。
13 これらへの対策も皆無ではない。つまり、潜在的な「重要性」をもつ事案を顕
在化するための採掘経路として、首長(又は、副首長)への文書決裁手続のな
かで、その重要性を判断を期待する「上位下降型」の経路を整備することもの
一つである。ただし、依然として、文書決裁手続という経路での「火災報知器
型監視」の成果であり、不
0付議な事案の会議体への付議を担保するものではない。
また、審議後の対応に関しては、規程上、明確に規定する都市は限定的で ある事実もあった。公式的な決定手続である文書決裁手続との連続性を、理 念型的に整理すれば、庁議付議→庁議審議・「決定」→文書決裁、となるこ とが考えられる。ただ、文書決裁手続と庁議制度の両者には「乖離」
14があ り、会議体内での決定に止まり、自治体としての最終決定には至らない。こ のような庁議制度と文書決裁手続とは、規程上は、その連携を予期されてお らず、むしろ、断絶状態にある。その背景には、文書管理規程・決裁規程上 の庁議に関する規定の不明瞭さもある。つまり、各都市の文書管理規程・決 裁規程等では、「回議」や「合議」を規定する。しかし、「庁議制度」を規定 は皆無である。そのため、確かに、「庁議制度」は、「政策稟議」
15の一形態 ではあるものの、「公式的」な会議体である庁議制度の調整手続では、あく まで、准公式(または、非公式)手続としての位置付けに留まるのである。
14 松井望「自治体行政機構における集中と分散―「会議体による調整」と「職に よる調整」―」 『分権時代における市町村の組織及び人材に関する研究会報告書』
財団法人自治研修協会、2010 年、39 頁。
15 大森彌「日本官僚制の事案決定続き」『年報政治学 1985 現代日本の政治手続』
岩波書店、1986 年、104 頁。
【 19 4 5 年以 降 の 歴 代 横 浜市 長】
5項 目 審議・付議事項 市 名名称庶務報告・連絡協議・(総合)調整審議決定(策定)主宰・長進行定例開催随時開催規定なし全部門長限定部門長単層式複層式層数付議事案事前整理審議事案実施確保付議先概括例示方式概括例示方式+制限列挙方式制限列挙議会事項決定事項に関する規定決定事項への対応決裁手続の一体的規程 札幌市市長副市長会議,企画調整会議市長政策室企画調整部○○○○市長―○○○2○―市長政策室長○―○結果を速やかに関係の局長等に通知― さいたま市都市経営戦略会議/行政会議政策局/市長公室○(行)○○市長―○○○1―――○―――― 川崎市政策・調整会議総合企画局○○○市長―○○○1○―総合企画局長○―○決定及び指示事項を速やかに事案関係局長等に通知― 相模原市経営会議,政策会議企画市民局○○○○(政)―副市長/企画市民局長(政)○○○6○―企画政策課○(政)○―――― 静岡市経営会議経営管理局企画部経営企画課○――○○○2○経営管理局経営企画部経営企画課○―○付議された事項は,その協議を経て市長が決定する― 浜松市庁議企画部○○――○○○4○―企画部○―――― 京都市未来まちづくり戦略会議総合企画局○――○○○1――企画局長○―――― 大阪市政策会議政策企画室○市長―○○○2―――○―――― 堺市庁議―○○市長市長公室長○○○1――政策調整担当課長○―――― 神戸市政策会議企画政策局長○○市長―○○○2○――○―――― 岡山市局長会議/課長会議秘書課/企画局○市長副市長/企画市民局長(政)○○○1――企画局長○―――― 広島市幹部会議企画総務局企画調整部○○市長企画総務局企画調整部○○○1――企画総務局長○○○審議決定した事項の実施については,市長が決定する― 福岡市市政運営会議総務企画局企画調整課○○市長―○○○1―――○――――
目的開催規定構成(部門長)組織体系複層式の機能審議・付議事項
期間 市長名 1941年2月10日~1946年11月30日 半 井 清 1947年4月9日~1951年4月4日 石 河京市 1951年4月25日~1955年4月3日 平 沼亮三 1955年4月25日~1959年2月13日(在職中死去 ) 平 沼亮三 1959年4月25日~1963年4月22日 半 井 清 1963年4月23日~1967年4月22日 飛 鳥田一雄 1967年4月23日~1971年4月22日 飛 鳥田一雄 1971年4月23日~1975年4月22日 飛 鳥田一雄 1975年4月22日~1978年3月1日 飛 鳥田一雄 1978年4月16日~1986年4月15日 細 郷道一 1982年4月16日~1986年4月15日 細 郷道一 1986年4月15日~1990年2月15日(在職中死去 ) 細 郷道一 1990年4月8日~1994年4月7日 高 秀秀信 1994年4月8日~1998年4月7日 高 秀秀信 1998年4月8日~2002年4月7日 高 秀秀信 2002年4月8日~2006年4月7日 中 田 宏 2006年4月8日~2009年8月17日( 任期途中退 職) 中 田 宏 2009年8月17日~ 林 文子
【 政 令 指 定 都 市 の 庁議 制度 】
2.横浜市の庁議制度
以上の一般形態の整理を踏まえて、次に、庁議制度を通じた「総合化」へ の調整手続の特徴を明らかにする。「総合化」という観点からは、全ての事 案が庁議制度を通じて審議が図られることが想定さそうではある。特に、概 括例示方式を採用する庁議制度である場合、その対象事項は極めて広範囲で あることも考えられなくはない。では、実際には、庁議制度を通じて、どれ くらいの事案を処理しているのだろうか。
しかし、拙稿でも扱ったように郵送質問紙調査に基づく担当者の処理方針 に関する意識調査はあるものの、自治体総体での庁議制度で処理された事案 の件数等の内容に関するデータセットは現在のところない。そのため、自治 体行政内部での調整手続を見る上では、これらの情報を公表している個別自 治体を対象に観察する手法に限られてくる。そのため、本稿でも、これらの 情報を公表している一つの自治体に限定しつつ、庁議制度の特徴を抽出する。
対象は横浜市の庁議制度を対象におく。横浜市の庁議制度は、2002 年に、
都市経営戦略会議と都市経営執行会(以下、「戦略会議」「執行会議」と略)
の二層式の制度で採用された。同方式では、導入後、他の自治体への参照事 例となり、他自治体でも二層式の採用が広まった時期もあった
16。2011 年 4 月 現在での、政令指定都市レベルでの庁議制度の一覧を見てみても、大阪市では、
2004 年 4 月から 2010 年 5 月の期間は、都市経営会議と執行会議の二層式の複 層式を採用していたこともあり、一時期、二層式の庁議制度を設置する志向も あった(なお、大阪市では 2010 年 6 月からは政策会議として、単層式へと移 行した)。そのような横浜市の二層式の特性を、端的に言えば、付議と「決定」
の設置規定上の分離にある。つまり、首長を含む会議体(戦略会議)が処理 する事案は、まずは首長を含まない会議体(執行会議)でその内容を精査する。
そして、戦略会議へと付議事案するか否か判断し、付議事案として適当と判
断された場合、戦略会議に付議される。つまり、「付議事案事前整理型」とし
16 松井望・前掲注 14、39 頁。
て執行会議が設置されており、戦略会議での審議内容を確定することになる。
確かに、前述の伊藤修一郎の指摘のように、「行政政府内の政策アジェン ダ」を「明示」することは容易ではない。しかし、同市の場合、両会議の審 議概要が公表されてきたこともあり、両会議体間での付議事案の数やその題 目、そして、その扱いを、「行政政府」外からも観察することが可能である。
もちろん、両会議体のみが、その調整手続の全てではない。そこで、これら 公開された審議概要に加えて、聞き取り調査の結果を踏まえて、可能な限り、
これらの会議体を中心とした調整手続の作動の把握を試みていく。この作業 を通じて、首長の下での政策の「総合化」に向けた調整手続のなかでの、庁 議制度の特性を把握することができるものと考える。そこで、横浜市の庁議 制度の運営を以下では分析する。
【対象となる時期の横浜市の庁議制度:規程モデル】
決定 決定 決定
戦略会議
執行会議
【中田第1期】 【中田第2期】 【林第1期】
戦略会議
執行会議
経営会議 決定
(1)中田市政期〔2002 年 4 月~ 2009 年 8 月〕の「庁議制度」
① 背景
戦略会議と執行会議が設置されたのは、中田市政の初年度である 2002 年 8 月であった。設置に先立ち、横浜市では 2002 年 7 月 17 日に「市役所構造改 革宣言」をし、市長が決定する領域の質的な変更を図る方針を採用した。つ まり、市長が自ら決めるための仕組みとして、この戦略会議と執行会議が設 置されたのである。横浜市では、この二つの会議体以前にも庁議制度はあった。
前市長である高秀市政の下では、「市長・助役会議」が置かれた。しかし、「市
長・助役会議」は「対外的にはこれが政策決定の場だと説明されていなかっ た」
17との認識が示されていたことからも分かるように、その役割は不確定な ものであった。また、運営方式も非公開、更には不定期
18な開催のため、庁 内での調整手続で、同会議体を通じて行われることは、むしろ限定されてい た。そこで、市長交代に伴い示された上記の方針のもとで、制度が変更され た。この制度改正により、「市の政策決定をスムーズに進めるため」、「それま でのタテワリの上意下達の稟議書方式」から「会議によって庁内意思決定を 行う方式へと変更」
19されることが考えられていたようである。また、当時の 市政関係者の記録に基づけば、「大規模自治体では、官房各部門において縦 割り構造が硬直化する傾向」があったこと、「全庁的な調整機能を持つはずの 企画調整担当部署までもが、縦割り部局の寄合い世帯になる現象」
20があった との認識もある。つまり、自治体行政内では、各部門毎での分立傾向が見られ、
政策の「総合化」への支障になっていたようである。そこで、新たにこれら の会議体を設置し、政策の総合化を図ることが期待されたのである。
まずは、第 1 期目の戦略会議と執行会議の形態に関して、同設置規程をも とに整理しておく
21。その目的は、戦略会議では「都市経営に関すること」
「重要な政策に関すること」「効率かつ効果的な行政運営に関すること」「前 3 号に定めるもののほか、前条の目的を達成するために必要な事項」 〔第 2 条〕
に関して「都市経営の視点からの的確な政策判断」するためとある。つまり、
上述の一般形態でも触れた、庁議制度の設置目的の 3 区分(「決定」「調整」
「連絡」)からすれば、相互に補完した連続的な機能が予定されていたようで もあった。また、戦略会議で扱う事案も、同規程では概括例示方式を採用し、
加えて、「重要性」基準も規定する。このことは、制度上は付議事案の選定
17 南学・上山信一『横浜市改革エンジンフル稼働』 (東洋経済新報社、2005 年)、37 頁。
18 横浜市都市経営局都市経営推進室への聞き取り調査(2011 年 1 月 19 日(水)
13:30 ~ 15:30)の結果より。
19 野田邦弘『創造都市・横浜の戦略』(学芸出版社、2008 年)、64 頁。
20 南学・上山信一・前掲注 19、28 頁。
21 「横浜市都市経営戦略会議設置規程」(平成 14 年 8 月 15 日、達第 26 号)。
に、付議を行う側に裁量的な判断を与えるものであった。方や、執行会議で は、「戦略会議に付議すべき事項についての調整を行うため」〔第 6 条〕とあ り、戦略会議への付議機関であることに限定されている。つまり、組織規程 上は、複数の会議体を規定する方式(複層式)であり、 「付議事案事前整理型」
を採用した二層式であった。
ただし、戦略会議では扱う事案の内容は、決裁規程との間での相互補完性 が高い。特に、中田市政では「市長・助役の決裁区分の変更」
22されており、
決裁事案数という量が制度上は限定されている。例えば、『横浜市役所分権宣 言』(2002 年 7 月 17 日)では、2002 年 8 月現在、市長決裁 1,300 件があった ものの、そのうち「260 件を助役決裁」へと改めた。また、助役決裁 3,500 件 に関しても「1,800 件を局長決裁」
23としている。中田自身の記録では、「最終 決裁権は、形式上確かに市長である私にある。訴えられるのは私かもしれな い。しかし、事実上、最高決定権というのは、局長、あなたが持ってくださ いという体制にしていった」
24と、当時、決裁権限の下方移譲を指向していた ことを明らかにしている。このような決裁事項の量的側面では限定したこと は、自ずと両会議体での調整すべき事案に関しても制約することになった。
なお、人員構成の編制は、市長・副市長と直近下位部門長をさらに限定例 示をする。具体的には、戦略会議では、市長、副市長、収入役、技監、都市 経営局長、総務局長、財政局長行政運営調整局長、都市経営戦略室長が公式 の構成員とされており、官房部門長型となる。ただ、「必要と認めるときは、
戦略会議の議事に関係職員を参与させることができる」ともあり、構成員は 事案次第で、柔軟性をもつことが制度的に保障される。方や、執行会議は、
戦略会議の構成から市長を除き、市民局長を新たに加えた職員から構成され る。職員の同一性は高いといえる。こちらも「必要と認めるときは、執行会
22 横浜市報道発表(平成 14 年 7 月 17 日)「緊急改革推進本部を設置し、「横浜市 役所の構造改革」に本格的に着手します」
23 相川俊英『横浜改革 中田市長 1000 日の闘い』(ブックマン社、2005 年)、51 頁。
24 横浜市都市経営局編『オンリーワン都市 横浜』(有隣堂、2003 年)、55 頁(中
田発言)。
58
議の議事に関係職員を参与させることができる」ともあり、各回の構成員の 柔軟性は高い。
② 中田市政期第 1 期目における戦略会議と執行会議の運用
25
では、実際には、この二つの会議体はどのように運用されたのか。特に、
付議事案の伝達と処理手続に焦点を絞り、その手続を見ていく。しばしば、
事案決定手続に関する議論では、公式と非公式の二分法に基づき分析され、
非公式な手続こそが事実上の決定されることを指摘される。本稿では、この ような認識を否定するものではないが、公式的な設置規程に基づく庁議制度 をこのような二分法で位置づけることが困難であると考える。つまり、公式 と呼ばれる手続に関しても、規程上規定されており、実際にも最終的な決定 に至る手続と、規程上は規定されていた場合でも最終的な決定の判断には至 らない手続に分かれている。そこで、前者を公式手続、後者を准公式手続に 区分する。更に、規程が整備されてはいない手続は、非公式手続として位置 づける
26。庁議制度は、准公式手続と位置付けたうえで、その他二つの手続 との相補性にも配慮しつつ、聞き取り調査の結果をもとに、論述する。
25 横浜市都市経営局都市経営推進室への聞き取り調査(2011 年 1 月 19 日(水)
13:30 ~ 15:30)の結果をもとに整理。
26 アンソニー・ダウンズ『官僚制の解剖』(サイマル出版、1975 年)、136 頁。
第1段階 第2段階 第3段階
準備
統合(付議)(→決定)決定
公式 局長決裁
(市長・副市長)決裁准公式 執行会議 経営戦略会議
非公式 局長打合せ 部長会議 市長説明
担当課打合せ 「庶務」整理
第1段階 第2段階 第3段階
準備(付議) 統合(→決定) 決定
公式 局長決裁
(市長・副市長)決裁不付議 付議 不付議
付議調整 付議
不付議
まずは、第 1 段階である。第 1 段階では、付議事案の準備と形成期である。
事案の形成では、非公式な手続としての「局長打合せ」が開催された。同打 合せに先立ち、同局内の「局企画」
27と、局内の所管課(「局企画」は陪席)
と、庁議制度を所管する部門である政策課との整理が行われている。この際、
局内での政策の総合化を図る「局企画」による調整よりも、局内の各所管課 と全庁的な調整部門との間での調整にむしろ重みがある。あわせて、財政部 門へも照会も行われる。その際、財源的な裏付けの有無に関して意見を示さ れることもある。ただし、執行会議への付議の際に、財政部門からの合意は 必要条件とはされはいない。あくまで照会に留まる。つまり、非公式手続の 段階では、仮に付議事案となる場合には、関係各方面での合意が蓄積された
「熟度の高い」
28完成品としてまとめられるわけではなかった。これら非公式 な「局長打合せ」後に、准公式手続である執行会議への付議事案と移行し、
仮に執行会議への付議に該当しない場合でも、局長決裁という公式な決定手 続に移行されることもある。
第 2 段階は、付議事案の審議である。ここでは、執行会議の付議以前にも、
更に前捌き的会議体として、政策調整部長会議という、非公式な会議が前置 されていた。同会議は、都市経営局、総務局(行政運営調整局)、市民局(市 民活力推進局)部長と付議を行う部門の部長から構成された会議体である、
執行会議開催前に必ず開催された。その後、執行会議に付議され審議される。
制度上は、執行会議では戦略会議への付議の妥当性の判断がその業務となり、
執行会議でも不付議を選択することもある。その場合、公式な手続としての 市長決裁へと移行する場合、執行会議へ付議をした局長による決裁を促す場 合、更には、戦略会議への付議を選択せず、市長への説明を促す場合がある。
第 3 段階は、付議事案の審議段階である。この准公式な手続である執行会 議での議論を踏まえて、戦略会議へと付議された事案を審議する。ただし、
27 打越綾子『自治体における企画と調整 事業部局と政策分野別基本計画』(日本 評論社、2004 年)、64 ~ 65 頁。
28 原田久『広範囲応答型の官僚制』(信山社、2011 年)、82 頁。
この段階でも文書決裁ではないため、准公式的な手続に留まる。その後、審 議結果次第では、公式的な手続へと移行する。第 1 期での戦略会議の運営の 中では、例えば、「審議案件を決定するためには、共通認識を持つべき議題 かどうかを判断することが必要。随時必要なものは議題に上げていく」、「条 例改正等は議会と答申等のスケジュールを見て議論をする時間を確保すべ き」、 「やるべきものは早くやるということにする」 (2004 年 4 月 6 日戦略会議)
という議事録からも分かるように、戦略会議での決定を期待する向きはあっ たようでもある。
③両会議間での付議事案の分析
29では、ここからは、両会議での付議事案の内容を分析していく。付議事案 の内容的な特性を把握するためには、付議事案を一定基準のもとで整理する ことがまずは必要となる。そこで本稿では、毎年度実施されるものであるか、
経年的で実施されるものであるかという観点から、単年度と複数年度に分け、
またその内容が事業に関するものであるか、全般にわたる内容であるかで事 業型と政策計画型に、議事案を 4 つに区分した。その量的な変化を把握する ことにした。
まずは、 「単年度・政策計画」に関する事案である。これは、単年度の計画、
予算・システム改革に関する事案として、具体的には、「都市経営基本方針・
重点政策課題」、「予算編成システム改革」、「局再編制の実施」等がある。二 つ目は、「複数年度・政策計画」に関する事案である。これは、複数年度に わたる計画、条例や規則・方針に関するものであり、具体的には、「中期政 策プラン策定」「新時代行政プランⅠ」等である。第三に、「単年度・事業」
に関する事案である。行事の開催や、報告等をこの区分に置いた。具体的に
29 両会議及び後述の経営会議の開催日時、構成員、議題の名称、審議概要は、横 浜市のウェブサイト内に、「会議の概要」として公開されている(http://www.
city.yokohama.jp/me/keiei/seisaku/senryaku/)。ただし、現在は、2006 年 4 月
以降のみの会議の概要を掲載。本報告内の各数値は、2002 年~ 2005 年の「会
議の概要」をもとに、算出。
は、「局区横断チーム中間報告」等である。最後に、「複数年度・事業」に関 する事案である。例えば、 「市立大学改革」 「新規廃棄物最終処分場の整備」 「戸 塚駅西口第一地区第二種市街地再開発事業」等がある。
単年度・政策計画複数年度・政策計画単年度・事業複数年度・事業
計
全議案数2002年 8 32 0 4 44 44
2003年 24 12 6 6 48 50 2003/6/2,2003/12/1は会議について
2004年 17 1 4 4 26 27 2004/4/6は会議について
2005年 19 5 1 6 31 31
仮に、制度通りの運用をされている場合には、戦略会議で扱われる事案は、
全て執行会議を通過していることが想定される。しかし、その事案を見てい くと、必ずしも一様ではない。中田市政期第 1 期での事案の内容を見てみる と、次のような特徴が分かる。まずは、複数年度・政策計画を初年度に審議 を図るものの、その後、年を経ると、単年度の政策・計画へと移行している ことである。庁議制度でもその対象が毎年度毎年度に関する政策経営事案た だ、この結果は、就任当初には、長期的な政策や計画を策定し、その後は、
これらをもとに政策運営を図り、そのためにも各年度に関する内容を審議す るという、経験的にも推論しうる結果とも一致する結果ではある。
二つ目は、同一課題の継続的議論が行われていることが特徴的である。例 えば、2002 年度では、「中期政策プラン・新時代行政プランⅠ」が 26 回、「政 策決定プロセスの情報提供ルール」が 4 回、2003 年度では「中期財政ビジョン」
が 4 回、「新時代行政プラン・アクションプラン」が 5 回、「局区横断チーム 報告」が 5 回、「予算編成システム改革」が 5 回、2004 年度は「平成 17 年 4 月の局再編成」が 4 回、2005 年度は「平成 18 年度局再編成」が 9 回扱われ ている。このことは、戦略会議が、一過性ともいえるような形式的な調整手 続上の通過点としてではなく、実際にも調整の場として用いられていたもの であることが推察できる。
三つ目は、事業に関しては、付議件数が限られている点である。これは、
「総合化」という観点からは、興味深い意味があるように考えられる。それは、
「重要性」基準に基づき、極めて選別的な行動がここに観察される点である。
つまり、付議事案が提出されていくなかでは、個別性や分立性が高い事業は、
そもそも同会議体を経由する手続が採用されにくくなっているようである。
これら三つの特徴から庁議制度の特性をまとめてみると、付議事案に関し ては、単年度の政策計画に関する事案に限定され、庁議制度の場でこれらの 調整が図られているようである。この作動には、付議を行う執行会議の判断 に依拠されているようにも考えられる。では、執行会議では、どのように付 議事案の判断を行ったのだろうか。
年度 開催回数 議題数
1回あたりの議題数(平均)付議件数 付議率 差戻件数 差戻率 開催回数 議題数
1回あたりの議題数(平均)議案/付議事案2002 20 51 2.55 14 27.45 1 1.96 21 44 2.10 31.82
2003 39 101 2.59 15 14.85 15 14.85 31 50 1.61 30.00
2004 34 102 3.00 12 11.76 15 14.71 24 27 1.13 44.44
2005 49 100 2.04 12 12.00 19 19.00 25 31 1.24 38.71
執行会議 戦略会議
このことを明らかにするために、執行会議で扱われた事案を分析する。ま ずは、結果から見てみると、執行会議から戦略会議への付議件数が限定的で あることは特徴的である。特に、戦略会議の事案に占める執行会議からの付 議事案の割合を、 「付議事案占有率」として算出した場合、31.82%(2002 年)、
30.0%(2003 年)、44.44%(2004 年)、38.71%(2005 年)とある。つまり、
戦略会議で扱われた 6 ~ 7 割程度の事案は、そもそも執行会議を経由するこ となく、戦略会議が独自に事案を採用していたことが分かる。このことは二 層式が予期していた、「執行会議による付議→戦略会議による審議」モデル との乖離状況を生んでいる。
ただし、このような付議事案が限定化されることは、戦略会議の指向性と
も符合する。確かに、2003 年 6 月 2 日の戦略会議では、「戦略会議や執行会
議などで議論を重ねることと、そのプロセスを共有することが重要」との認
識が示され、設置後 1 年程度は、戦略会議での積極的な審議を期待していた
ようでもある。しかし、2003 年 12 月 1 日段階では、「方向性を決定する案
件とブレーンストーミング的な議論を行う案件とを区別して行う必要があ
る」として、「限られた時間で有効な議論を行うため、あらかじめ論点を整
理すること」の必要性も指摘されている。これにより、戦略会議での事案に
ついても、多くの事案よりも、執行会議を通じた付議事案の制約化をも志向
していたのである。
このような戦略会議での事案をみると、執行会議から戦略会議への付議の 経路は限定的であったと整理ができる。そしてこのことは、戦略会議へと付 議される事案には、執行会議以外の経路が存在していたことも推察される。
これは、同会議の議事録を確認してみると、執行会議では、戦略会議への付 議手続という選択肢のみならず、担当部局から市長への説明を求める指示が されており、「執行会議による付議→戦略会議による審議」という手続に限 定されていなかったことも把握できる。また、執行会議では、関係局長会議 の段階で、再度確認を求めるという、より非公式な会議体での再審議を求め ることもあった
30。更に、執行会議に付議された事案を、 「局案了解」と判断し、
戦略会議への付議事案としない場合もある。これらの結果からは、執行会議 は、戦略会議への付議事案を審議するのみではなく、庁内での調整事案に関 しても准公式的に決定する機関であったことを意味する。これにより、戦略 会議で扱われる事案は特定化し、具体的には、2004 年 9 月以降では執行会 議から戦略会議の付議件数は減少していく。
これらの結果からは、場合によっては、各部門間で無差別に提出されたも のを受けて、執行会議がまさに能動的に「前捌き」的に選別したと考えるこ とも可能である。しかしながら、執行会議自らがその選別の全てを判断した、
と結論付けることはやや拙速である。一般形態の議論でも触れたように、執 行会議もまた、執行会議への付議事案に対しては制度的に受動的である。こ の付議に関する受動性は、どのように機能しているのか。この点を明らかに するためにも、執行会議へ付議された事案の内容を見なければならない。そ こで、次に、付議を行った局名毎の議事案数をもとに分析してみる。
30 具体的には、次のような事案である。「(仮称)横浜環状北西線の構想段階から の計画の検討開始」(2003/6/19)、「平成 14 年度アントレプレナーシップ事業の 事業化」(2003/7/24)、「工事の入札・契約制度の見直し」(2004/1/28)、「昼休 み時間帯における市民対応」(2004/3/24)、「平成 17 年度 国の制度及び予算に 関する提案・要望について」(2004/7/7)、「広報よこはま配布方法の見直し案」
(2004/10/22)、 「「市民の声(仮称)」事業の構築」(2004/12/1)、 「市民の声(仮称)
事業の構築」(2004/12/21)、 「平成 18 年度国の制度及び予算に関する提案・要望」
(2005/7/6)。
同分析の結果からは、官房系局の付議数が多いことが把握できた。これを 換言すれば、庁議制度を通じて扱われる事案とは、個別性の高い、いわゆる
「縦割り」的な事案を、タテ割り局が付議するというよりも、多くの局の間 で共通的課題となる、いわゆる「横割り」的な事案が、ヨコ割り局から付議 されているようでもある。具体的には、都市経営基本方針、重点政策課題の 策定、予算編成の進め方(ただし、予算編成方針ではない)、機構改革等といっ た全処的な事案がこの場で審議されている。
また、実際にも事業局からの付議件数が限定的である。これは、同市に対 する聞き取り調査によれば、「局によっては自己完結」
31しており、各局では 執行会議への「不付議」を選択する指向性があるという。もちろん、各事業 局が全ての事案を、自己完結に、そして、公式な決定を行っているわけでは ない。事案の内容によっては、非公式な市長説明という手続を採用する。ま た、事業局からの提案は皆無ではない。官房系局と他の部門との間で共同付 議とも呼べるような手続を採用されている。官房系局の付議が多いことには、
このような背景もある。
これらの結果から、政策の「総合化」と庁議制度に関して考えてみると、
次のようなことが考えられる。つまり、庁議制度の場で扱われる事案とは、
元来、統合化を予期されているような全処的な事案が中心となり、個別性や
分立性が高い事案は、そもそも付議自体が限定されることになる。その理由
としては、制度的には付議手続では、付議を行う側に、その判断が委任され
ている点にある。つまり、「重要性」基準という概括的な付議事項が定めら
れている限りでは、付議する側の裁量性が極めて高くなる。そこで、幅広な
裁量性のもとで、付議する側が付議の決定を選択することになる。このよう
な状況は、付議案件が顕在化しにくくなり、「総合化」を図ることが適当と
判断されるような事案が潜在化することにもなる。これに対して、庁議制度
を所管する部門が、潜在的ではあっても付議事案となるに適するような事案
の採掘や、常時モニタリングを行うことで、これらの裁量的な判断行動を抑
31 横浜市都市経営局都市経営推進室への聞き取り調査・前掲注 25。
制できるとも考えられなくもない。実際に、横浜市の執行会議でも、「重要 な施策・事業に関する決定については、執行会議への付議を徹底すること」
(2003 年 5 月 8 日開催)との指摘があり、各局への執行会議へ付議を求めた こともあった。これは、ほぼ一年後に開催された同会議でも、「付議すべき 案件の考え方や付議する時期などは、都市経営局で判断基準を整理し、各局 区へ周知する必要がある。」(2004 年 5 月 26 日開催)との発言が議事録から も把握でき、そのような指向性は高かったようである。しかし、実際には依 然として、上述の通り、付議局が偏在する状況にあった。このように執行会 議への付議事案の能動的な管理を行えないという、極めて受動的なシステム であることが庁議制度の特性といえる。
局等名 付議件数
全付議数内占有率局等名 付議件数
全付議数内占有率局等名 付議件数
全付議数内占有率都市経営局 71 46.41 市民局 37 24.18
都市計画局(都市整備局)18 11.76
事業本部 49 32.03 福祉局 31 20.26
建築局(まちづくり調整局)23 15.03
総務局 59 38.56 衛生局(資源循環局) 17 11.11 道路局 16 10.46
財政局 56 36.60 経済局 12 7.84 緑政局(環境創造局) 4 2.61
環境保全局 8 5.23
局等名 付議件数
全付議数内占有率局等名 付議件数
全付議数内占有率港湾局 9 5.88 消防局 3 1.96
交通局 11 7.19 私立大学事務局 4 2.61
水道局 6 3.92 教育委員会事務局 15 9.80
病院経営局 2 1.31 区 17 11.11
対象期間:2004年10月6日~2006年3月28日分(153議案)
④ 補遺:第 2 期における戦略会議と執行会議の形態
第 1 期では、以上のような。当初の制度上の設置規程と運用上の作動の実 態との間で乖離ともいえるような状況にあった。そこで、中田市政第 2 期で は、むしろ、運営実態に即した制度改正が、2006 年 5 月と 2007 年 7 月の 2 度にわたり行った。ここでは、補足的にその制度改正の状況を記述しておく。
その改正の要諦は、複層式の方式は持続されたものの、付議を結節点とし た両会議体が連続する二層式から、各会議体の独立性を高めたものであった。
具体的には、第 1 期戦略会議との相異点は、戦略会議の設置規程で、「都市
経営の重要な方針に関すること」「市政全般にわたる特に重要な政策に関す
ること」「前 2 号に定めるもののほか、前条の目的を達成するために必要な
事項」と規定し(下線は著者)、審議事項「重要」性の範囲を広げ、戦略会
議自体での処理事項を拡大した。さらに、当初規定されていた「効率かつ効 行政運営に関すること」を削除されたことで、行財政システム改革のテーマ 以外にもその対象を拡大する。あわせて、報告事案に関しても規程から削除 し戦略会議では扱わないこととした。これは、議論の場としての徹底化が図 るためであったという
32。
もう一方の執行会議では、2006 年 5 月に、まずは設置規程を「局区の重 要な施策、事務事業ついて審議するほか、必要に応じて戦略会議に付議すべ き事案についての調整を行うため」と改正された(下線は著者)。つまり、
執行会議内での審議機能と、従来通り戦略会議に付議を行う機能を併記して いた。しかし、翌年の 2007 年 7 月には、「市政に係る重要な施策及び事業に 関すること」「区局を横断する重要な施策の調整に関すること」「前 2 号に定 めるもののほか」「目的を達成するために必要な事項」と更に改められ、こ れにより執行会議の機能では審議が第一目的となる。これにより、戦略会 議と執行会議の完全分離化(2007 年 7 月改正)に行ったのである。そして、
このように、完全分離化は、庶務の分離(2007 年 7 月改正)をもたらし、
戦略会議は、都市経営局都市経営推進部都市経営推進課、執行会議は同局政 策部政策課になる。同一市政のなかでも、異なる機能を有する分離された庁 議制度が併置されることになった。
(2)林市政期〔2009 年 9 月~ 〕の「庁議制度」
① 背景
以上でみてきた調整手続における庁議制度の特徴は、異なる方式を採用す
る庁議制度でも把握することが可能であろうか。このような関心から、2009
年 9 月に就任した林市政の庁議制度を見ていく。就任当初は、中田市政第 2
期で採用された複層式の庁議制度を継続的に利用していた。しかし、異なる
二つの庁議制度が個々で審議するよりも、合議制を重視とした林市長の考え
32 横浜市都市経営局都市経営推進室への聞き取り調査・前掲注 25。
を受けて
33、2010 年 4 月には一層式を採用した経営会議
34へと改組した。こ の改組では、「意思決定するだけでなく、将来の政策展開に向けた共通認識 をつくる場としての役割も持たせること」
35を目的とされており、合議制の 会議体を置くことへの期待が議事録からも把握できる。
より具体的に整理をしておく。設置規程上の目的では、「市政運営の重要 な方針に関すること」「重要な事業及び政策に関すること」「前 3 号に定める もののほか、前条の目的を達成するために必要な事項」〔第 2 条〕とある(下 線は著者)。つまり、「重要方針を決定」し、「重要な施策、事業等の政策判 断を迅速かつ的確に行う」「将来を見据えた議論」と決定の場
36とすること が期待されていた。また、中田市政の戦略会議と比べれば、同会議が審議対 象と規定しなかった「事業」を追加している。これより、同会議では「重要 性」基準に基づく付議事案の範囲は、より拡大するかのようでもあった。ま た、人員構成では、市長と副市長、そして、直近下位部門長を限定例示する ことでは、従前の方式とも変わらない。ただし、技監を委員からは除き、区 長
37を新たに追加する。これは委員の限定化を図る一方で、区長を委員に追 加することで、特定部門長のみでは限られる「現場感覚」
38志向も加えるこ とが企図された。先の中田市政期の戦略会議と執行会議の手続に準じて経営 会議に関しても整理をしておくと、次の通りである
39。
33 横浜市都市経営局都市経営推進室への聞き取り調査・前掲注 25。
34 「横浜市都市経営会議設置規程」(平成 22 年 3 月 25 日、達第 2 号)。
35 横浜市都市経営戦略会議第 19 回(開催日平成 22 年 2 月 26 日)、議案「市政重 要事項に係る意思決定の仕組みの見直しについて」。
36 横浜市都市経営局都市経営推進室への聞き取り調査・前掲注 25。
37 区長は18区長中、毎年度輪番制により「議長区」を選出。議長区長が同会議に出席。
38 横浜市都市経営局都市経営推進室への聞き取り調査・前掲注 25。
39 横浜市都市経営局都市経営推進室への聞き取り調査・前掲注 25。
都市政策研究 第 6 号 2012 年
公式 局長決裁
(市長・副市長)決裁准公式 執行会議 経営戦略会議
非公式 局長打合せ 部長会議 市長説明
担当課打合せ 「庶務」整理
第1段階 第2段階 第3段階
準備(付議) 統合(→決定) 決定
公式 局長決裁
(市長・副市長)決裁准公式 経営会議
非公式 局長打合せ 調整会議 市長説明
担当課打合せ
「庶務」整理(政策課)
「庶務」整理(都市経営推進室)
不付議 付議 不付議
付議調整
付議調整 付議
付議
不付議
まず、第 1 段階では、付議事案の準備・形成期であり、付議事案を形成し ていく段階である。この手続自体は、戦略会議、執行会議の時代との変化は ない。つまり、「局長打合せ」を開催し、あわせて、経営会議の「庶務」を 担当する部門と間で整理が進められる。ただし、上記の中田第 2 期での戦略 会議と執行会議の分離により、両会議の庶務もまた分離をしており、2011 年 4 月の政策局への移行までは、都市経営局での都市経営推進部都市経営推 進課と政策部政策課のそれぞれによる二重の庶務的な調整が行われていた。
二つの庶務が置かれていることは、重複指摘や個別指摘の存在することにな り、付議する側には「二度手間」ともなる事案もあった、という。また、財 政部門への照会も行われるが、これも戦略会議の頃と同様で合意を前提とす るものでなかった
40。経営会議においてもまた、付議に至る段階では、万事 調整済みの事案であることを「庶務」は要求していないようでもあった
41。 第 2 段階では、付議事案の審議と「決定」が行われる。しかし、経営会議 に付議される以前には、やはり戦略会議・執行会議と同様に、前捌きの場と しての調整のための会議体が設置されている。同会議を経た後に、経営会議 40 横浜市都市経営局都市経営推進室への聞き取り調査・前掲注 25。
41 横浜市都市経営局都市経営推進室への聞き取り調査・前掲注 25。
で審議が行われる。審議結果は、司会(都市経営戦略室長)が議論状況を踏 まえ、「局案通り」「局案修正」の何れかを選択される。第 3 段階は、付議事 案の「決定」後の手続となる。この場合、戦略会議・執行会議のころと同様 に、経営会議での決定事項がそのまま文書決裁へと移行することはない。む しろ、決定内容の詳細設計は、各局へと委任され、その後、内容を確定化し ていく手続が採用されている
42。
以下では、このような一層式の庁議制度の運用実態を分析する。果たして、
二層式で見られた審議事項の偏在化ともいえるような特性は、一層方式へ移 行した後ではどのように変化したのであろうか。
② 事案の性質分析
経営会議での審議事案を見てみる。データ集約の関係上、2010 年 12 月段 階までの内容をもとに分析する。
まずは、審議事案の全体像としては、経営会議では、この間、40 件が提 出されている。そのうち、7 割近い 26 件は、「局案」通りの結論が示されて いる。また、継続審議事案の多さも指摘できる(「平成 23 年度に向けた局 再 編 成 」(2010/4/12)(2010/5/7)(2010/6/7)(2010/9/27)(2010/10/19)
(2010/11/2)、 「地球温暖化対策の今後の進め方」 (2010/5/7) (2010/7/12)、 「平 成 23 年度 市政運営の基本的な考え方」 (2010/8/16) (2010/8/30))。つまり、
経営会議では、付議事案の決定をしつつも、同一事案が繰り返し審議されて おり、調整手続の場としても利用されていることが分かる。
では、どのような事案を扱ってきたのか。戦略会議と同様、付議局の状況 を見てみる。その結果、官房系局内からの付議の多さを見ることができた。
これは、上記の戦略会議と同様の特徴である。この点からも、方式が異なっ
ていた場合でも、共通して見られる特徴としては、庁議制度では官房系局が
処理する事案との親和性の高さを指摘できそうである。しかし、官房系局で
も、付議局は限定されている。つまる。総務局からは定常的に付議されては
42 横浜市都市経営局都市経営推進室への聞き取り調査・前掲注 25。
いるものの、都市経営局からの付議率は低下している。この点も特徴的では ある。2011 年 4 月には、都市経営局が政策局へと再編された。この点から も分かるように、2 名の市長間での同局の重みが変化したことが、その低下 率の要因とも推察される。二つ目の特徴は、単年度、そして、事業に関する 事案が増加していることである。この理由には、上記の通り、設置規程にお いて「事業」が経営会議の審議事項に規定されたこともある。つまり、公式 制度面での改正が一つの理由である。ただ、制度面のみが、その要因ではな い。戦略会議と執行会議の間で行われていた、事業に関する公式的な「前捌 き」という調整手続が省かれて、事業局から経営会議に事業に関する事案を 付議する機会が増加したことも推察される。つまり、 「重要性」基準に則して、
事業局自ら判断した場合であっても、「前捌き」で付議が回避されていた場 合が解消し、直截的に経営会議に付議する機会が増加したと考えられる。二 層式に比べても、一層式の庁議制度の場合、付議事案は、予め「総合化」を 志向された事案のみならず、個別性と分立性が高い事案もまた、付議される ことになるのである。
単年度・政策計画 複数年度・政策計画 単年度・事業 複数年度・事業 計
2010 年度 12 8 0 20 40
局等名 付議件数
全付議数内占有率局等名 付議件数
全付議数内占有率局等名 付議件数
全付議数内占有率都市経営局
4 10.00 市民局 2 5.00 経済観光局 2 5.00
事業本部 3 7.50
こども青少年局1 2.50 都市整備局 3 7.50
総務局 16 40.00
健康福祉局2 5.00 建築局 0 0.00
環境創造局
2 5.00 道路局 0 0.00
資源循環局3 7.50
局等名 付議件数
全付議数内占有率局等名 付議件数
全付議数内占有率局等名 付議件数
全付議数内占有率港湾局 2 5.00 消防局 0 0.00
教育委員会事務局4 10.00
交通局 0 0.00
私立大学事務局0 0.00 監査事務局 0 0.00
水道局 0 0.00
人事委員会事務局0 0.00
病院経営局