【学位論文審査の要旨】
リチウムイオン電池は、エネルギー密度が大きいために電子機器などの電源として使用 されてきた。最近では電気自動車や定置用電源の電池としても利用されるようになってき た。リチウムイオン電池などの蓄電池では化学物質の酸化・還元に伴うエネルギーの放出 あるいは蓄積により電気エネルギーを供給・貯蔵する。リチウムイオン電池のエネルギー 密度は使用する電極材料に依存する。これまでに、正極にはリチウム含有遷移金属酸化物 が用いられ、負極には炭素系材料が使用されてきた。リチウムイオン電池のエネルギー密 度の向上には新しい正極や負極となる材料が必要である。本研究では負極材料に焦点を当 てて研究を行なった。イントロダクションではこれらの内容が詳細に述べられている。
リチウムイオン電池の負極の代表例は黒鉛である。黒鉛は372 mA h g-1の理論容量密度 を有する優れた負極材料であり、長年に渡って使用されてきた。現時点のリチウムイオン 電池ではこの理論容量を既に使用することできており、これ以上の負極容量を望むことは できない。黒鉛以外の負極材料に関する研究が必要となっている。
そこで、本研究ではリチウム過剰バナジウム酸化物(L1.1V0.9O2、LVO)に関する研究を 行なった。LVO は優れた負極となる可能性が報告されている。特に単位体積当たりの容量 密度が大きく、体積当たりのリチウムイオン電池のエネルギー密度の向上に資する可能性 がある。黒鉛の単位体積当たりの容量は 790 mAh cm-3であるが、LVOは1360 mAh cm-3 と非常に大きな容量密度を有している。負極材料としてSiやSnなどの検討も進められて いる。非常に大きな容量を有するが、充放電時の体積変化が非常に大きく、負極材料とし て使用することは難しい。LVOの充放電時の体積変化は40%程度であり、比較的小さいた めに負極としての利用が可能である。LVO のもう一つの特徴として、その低い放電電位が 挙げられる。遷移金属酸化物負極委はチタン系材料やニオブ系材料などがあるが、その中 でもLVOは約 0.1 V vs. Li/Li+と非常に低い放電電位を示し負極材料として適合している。
このLVOを負極に用いる場合にいくつかの問題がある。LVOのサイクル特性が低いことや
電子伝導性が低いことが問題となっている。本論文ではこれらの問題を解決するために、
第1章ではLVOの合成条件に関する検討を行い、第2章では炭素被覆によるLVOの改 良を、第4章ではMnのドーピングによるLVOの改良に関する検討を行った。第3章では、
単粒子を用いた基礎的な電気化学計測を行い、LVOおよび炭素被覆に関する議論を行った。
第1章では、焼成時の熱処理温度をパラメーターとしてLVOの結晶性と粒径に関する最適 化を行った。結晶構造および電気化学的な特性に関する考察も含めて、還元雰囲気、1100 ℃ での処理が適することを明らかにした。
第2章では、電子伝導性を改善することを目的に炭素をLVO粒子の表面にコーティング する検討を行った。炭素のコーティングによりLVO粒子の電子伝導性が飛躍的に改善され ることを見出した。電気化学的な特性も大きく改善され、サイクル特性に優れたLVO負極 を作製することができた。
第3章では、炭素コーティングをしたLVO粒子を用いて単粒子測定を行った。この方法
では、粒子そのものの電気化学的な特性を評価できるため、材料としてのポテンシャルを 明確に知ることができる。単粒子測定で得られた結果は、粉体の集合体からなるコンポジ ット電極の特性より良い結果を示しており、粒子そのものは炭素のコーティングにより十 分に高い性能を示すことが明らかなった。これらの結果より、コンポジット電極の作製方 法が実際の電池では重要になることを見出した。
第 4章では、炭素コーティング以外の電子伝導性の向上方法として Mnのドープを行っ た。MnのドープによりLVOの電子伝導性が改善されることが既に報告されており、実際 にMnをドープした材料を合成し、その電気化学的な特性について調査した。Mnによる電 子伝導性の改善と電極特性の向上を確認することができたが、炭素コーティングに比較す るとその効果は小さいものとなった。今後、MnドープしたLVOに炭素をコーティングし た材料に関する評価が必要であることが示された。
本研究により、現在使用している黒鉛負極により大きな容量密度を有するLVO負極の開 発を行うことができた。特にLVOの密度が黒鉛に比較して高いことから、リチウムイオン 電池の体積エネルギー密度を向上させる上で有用な負極材料になると考えられる。今後、
サイクル特性のさらなる改善や寿命の測定などは必要であるが、優れた負極材料の候補を 示すことができた。
以上、本論文の研究成果はリチウムイオン電池のエネルギー密度の向上に資するもので ある。また、LVO の基本的な特性の評価や結晶構造学的な考察を含めて学術的な面からも 十分なアプローチをしている研究である。博士論文として十分に学位に値する内容を含ん でいるものと判断される。