理論地理学ノート,No.22(2020),41~58
郡山市におけるインバウンド誘致の現状と展望
-未来へ歩み続ける「郡山人」と地域振興-
河 野 龍 大
Ⅰ はじめに
近年,訪日外国人旅行者(以下,本報告では「イ ンバウンド」と表記する)数が急激に増加し,首都 圏の主要観光地には外国人の姿が目立つようになっ てきた.それに乗じて観光や宿泊の需要も高まり,
2019年ラグビーワールドカップや2020年東京五輪 開催に向けて,もはや首都圏のみではこの需要を賄 え切れない状況になりつつある.そこで,首都圏か らのアクセスが良い福島県郡山市を事例に,地方都 市におけるインバウンドの観光誘致の現状と今後の 展望を探ることを本研究の主題とする.
郡山市は東北地方における陸の玄関口になってい る.豊富な観光資源に恵まれながらインバウンド誘 致が芳しくなかった東北地方全体を考えた時に,郡 山市の観光誘致を考えることは東北全体の誘致に繋 がると言える.また,近年の観光行動として,体験 型のコンテンツを楽しむ「コト消費」が注目されて きている.他の同規模の都市と比べて強力な観光施 設や観光資源に乏しい郡山市であるが,その広大な 行政域には,市街地以外にも,猪苗代湖に隣接した 農村地域や山岳地帯といった自然豊かな環境が存在 し,体験型の観光が展開する可能性を秘めている.
以下,Ⅱにおいて研究対象地である郡山市の概要 に触れるとともに本研究の手法を示し,Ⅲにおいて 市内の公的機関・施設や民間機関・施設の取り組み の現状に言及し,Ⅳにおいて市内中心部の主要観光 施設や農村部にある温泉・民宿を実際に訪れて実態 や課題を把握する.その後,Ⅴにおいて郡山市で働 く外国人の郡山観光に対する考え方について述べ,
Ⅵにおいて市内における新たな観光形態として注目 される「Asaka 座」と呼ばれる複合型コンテンツに ついて紹介し,Ⅶにおいて最終的なまとめを行ない,
郡山市そして全国の地方自治体に対して,今後のイ ンバウンド誘致への提言をする.なお,本研究が指 すインバウンドは訪日外国人旅行者であるが,統計 上の区別が難しいことから,市内に滞在する外国人 は目的に関係なく広義のインバウンドとして扱う.
Ⅱ 調査対象地と研究手法
1.郡山市の概要
郡山市は,福島県中通り地方のほぼ中央に位置す る内陸都市である.人口は33万人強で,福島県内で はいわき市に次いで第2位,東北地方全体では仙台 市,いわき市に次ぐ第3位の規模を誇る.面積は約
757.2 ㎢で県内4 位,安積平野や郡山盆地とも呼ば
れる平坦地に市街地が広がり,周囲は安達太良山,
阿武隈山地,猪苗代湖に囲まれている.東北地方の 交通の要所とも言われ,東北新幹線,JR 東北本線,
磐越西線,磐越東線が交差し,磐越自動車道や国道 49号線による自動車移動の利便性も高い.
2.スケールごとのインバウンド取り込み状況 まず,東北地方と福島県,そして郡山市における インバウンドの状況について触れる.東北地方の観 光は,東日本大震災の影響により,全国的なインバ ウンド急増の効果を十分に享受できず,2016年の東 北地方全体の外国人延べ宿泊者数は718,600人と,
2010 年から約 25%の増加に留まっている.同時期
で4.4倍に増加した四国地方の延べ宿泊者数と比較 すれば,その増加率の低さが分かるだろう.特に福 島県は,震災の物的被害に加えて福島第一原子力発 電所の事故による風評被害で,2010年の約96,040人
から2016年の約79,720人へと減少しており,東北
6 県の中でも特に厳しい状況にある.近年は増加の 見込みにあるが,依然として風評被害の影響や観光 地としての県内全体の認知度不足,福島空港国際路 線の運休継続などにより厳しい状況が続いており,
今後の改善が求められる.県内のインバウンドを国 別に見ると,震災以降に韓国,香港からの観光客が 戻っておらず,台湾は震災前の水準まで回復してい る.また,タイ,ベトナム,オーストラリアは近年 新たな市場として成長している.
ここからは郡山市におけるインバウンドの状況に ついて言及する.県内主要都市の福島市,会津若松 市,いわき市と比較すると,郡山市の2017年の外国 人延べ宿泊者数は7,943 人となっており,会津若松
市の39,497人,福島市の10,582人に次ぐ3番目の 数値になっている.いわき市は2,269 人で,人口規 模に反してインバウンド宿泊者数が少ない.郡山市 は2015年から3年間緩やかな減少傾向にあったが,
2018年は増加の見込みにある.福島市,いわき市は ほぼ横ばいであるが,会津若松市は2015年の10,815 人から2017年の39,497人へと,4 倍近い成長を見 せている.県内のインバウンドは会津若松市が牽引 している状況で,郡山市は他都市と同様に外国人の 取り込みが少ない.
続いて,郡山市におけるインバウンドを国別に見 る.2017年では郡山市に滞在する外国人はアメリカ,
台湾,香港の順に多く,県内他都市と比べ,タイ,
中国からの取り込みが少ない.しかしこれは1年間 の延べ宿泊者数であり,長期滞在している特定の外 国人が統計に大きく影響するものと考えられ,参考 程度の情報に過ぎないと思われる.
郡山市におけるインバウンドの述べ宿泊者数を参 加形態別に見ると(第1表),郡山市では一人での宿 泊が非常に多く,家族での宿泊が少ない.このこと から,郡山市ではビジネス目的のインバウンドが非 常に多いと考えられる.滞在者の宿泊に関する購入 単価を見ると,他都市よりも低い傾向にあり,一人 での滞在の多さが影響していると考えられる.
以上から,東北地方のインバウンド取り込みの状 況は,震災の影響によって国内の他地域と比べて遅 れをとっており,特に福島県は原発事故による風評 被害で厳しい状況にあること,郡山市は県下最大級 の人口・経済規模を持ちながら,インバウンドの取 り込みが十分に行なわれておらず,観光地としての 認知度不足が否めないことがわかる.しかし,郡山 市は全国的な観光地こそ存在しないものの,東北地 方有数のコンベンション施設や宿泊施設が充実して おり,インバウンドの取り込みは今後の経済発展,
地域振興において重要な要素となりうるものと思わ れる.
3.研究手法と目的
本研究は,郡山市内の各機関・施設への聞き取り 調査によって行なう.聞き取りすることで地域の現 状について情報が収集できると考えるからである.
事前の連絡で聞き取りを了承していただいた各機 関・施設を,聞き取りした順に以下に記す(以下,
敬称略).
・英語ボランティアガイド「クローバー」
・郡山市観光協会
・郡山市役所産業観光部観光課
・郡山市役所農林部農業政策課
・けんしん郡山文化センター
・ホテルハマツ
・郡山市役所文化スポーツ部国際政策課
・湖南町にある農家民宿「木惣路(きそじ)」
聞き取り調査は2018年8月と11月に実施した.
聞き取り調査の対象としては,市内のインバウンド 誘致に関わりが深いと思われる公的機関・施設に加 え,ボランティア団体,宿泊産業関係者,民宿経営 者といった幅広い立場の方々を選んだ.また,調査 中に話を伺うことが可能な場面では現地の方々へ可 能な限り聞き取りを行なった.
先に挙げた各機関・施設について,それぞれの聞 き取りの目的を記しておく.英語ボランティアガイ ド「クローバー」は,同じ英会話教室に通う主婦 4 名がボランティアで外国人に向けたガイドを行なっ ている.実際に外国人と接して感じることや,ボラ ンティアや市民として郡山市のインバウンド誘致を どう捉えているかを知ることを目的とした.郡山市 観光協会は,郡山市役所産業観光部観光課と連携関 係にあるが,独立して市内多方面の組織と関わりの ある機関である.観光だけでなく,地域振興という 立場でも活動を行なっていることから,インバウン ドの急増に対して関心が高いと考えられ,市内全体 でのインバウンド誘致の実情を把握することを目的 とした.郡山市役所への聞き取りも行なったが,対 第1表 福島県におけるインバウンドの参加形態(2017年)
家族 夫婦・カップル 女性グループ 男性グループ 男女グループ 一人 郡山市 4% 23% 8% 6% 11% 47%
福島市 6% 41% 5% 6% 13% 29%
会津若松市 10% 42% 10% 5% 14% 21%
いわき市 36% 20% 8% 5% 7% 24%
福島県 15% 33% 8% 6% 13% 26%
注)郡山市観光協会が掲載している観光予報プラットホームを一部改変.
象部署は産業観光部観光課,農林部農業政策課,文 化スポーツ部国際政策課とした.産業観光部観光課 は,市内の観光に関わるあらゆる業務を担当してい ることから,市内のインバウンド観光に関する実情 を把握するだけでなく,今後の展望について行政と しての立場を聞くことを目的とした.農林部農業政 策課は,市内の農業に関わり,農地を中心とした振 興事業を執り行なっている部署だが,本調査ではグ リーンツーリズム1)事業に焦点を当て,その取り組 みの内容や実情を捉えることを目的とした.文化ス ポーツ部国際政策課は,2020年東京五輪に向けたホ ストタウン事業の内容を中心に聞き取り,外国人に 向けてどのようなプロモーションを行なっているか を明らかにすることを目的とした.けんしん郡山文 化センターは,音楽都市としての歴史を持つ郡山市 の音楽を中心とした文化活動を把握することを目的 とした.ホテルハマツは,市内最大規模のホテルで あるので,市内の宿泊産業の実情を知ることを目的 とした.とくにホテルハマツは,民間企業の考え方 を知る上で重要であると考えた.
また本研究では,観光を実際に体験することでわ かることもあると考え,都市部から農村部までに至 る郡山市域の多様な観光施設を訪れた.とくに民宿
「木惣路」は,市西部の湖南町で暮らす農家が事業 を行なっている.民宿でインバウンドを受け入れた 経験があるので,農村部の住民としてインバウンド 誘致をどのように考えているかを聞くことを目的と した.その際,インバウンドにとって,郡山の観光 がどのような存在であるかを捉えるよう心掛けた.
以下Ⅲにおいては,郡山市役所の各部署,けんし ん郡山文化センター,クローバーと郡山市観光協会,
ホテルハマツの順に,インバウンドに対する取り組 みの現状と課題を把握する.続いてⅣにおいては,
郡山市中心部の主要観光施設,郡山市立美術館,磐 梯熱海温泉,湖南町の農家民宿において自ら観光を 行ない,インバウンドの受け入れ体制とインバウン ドを呼び込むために必要なことを考察する.
Ⅲ 市内における各機関・施設の取り組み
1.郡山市役所産業観光部観光課
産業観光部には産業政策課・観光課・産業創出課 の3課が存在するが,その中でも観光課は,観光地 の整備,プロモーションを担当し,ブランド品認証 といった物産の振興にも携わる.インバウンド誘致 についての観光課の立場は,訪日需要の増加に対す
る国・県の動向と呼応し,広域的な取り組みを進め るとともに,観光関係機関と連携を図りながら,日 本遺産2)をはじめとする観光資源を活かし,交流人 口の拡大による地域経済の活性化を推進するという ものである.以下,具体的な内容について記す.
観光地や地域の魅力を発信するために,観光協会 と連携し観光パンフレットを作成している.2015年 から「Koriyama City Guide」と呼ばれる日本語・英語・
韓国語・中国語繁体字・中国語簡体字に対応した多 言語パンフレットを発行しており,現在タイ語・ベ トナム語・ドイツ語のパンフレットを作成中である.
内容は同一で,翻訳者を雇用して制作にあたってい る.観光協会は元々観光課の1機関として存在して いたが,特定の店舗や観光地をパンフレットなどで プロモートすることが公的機関の性質上難しく,自 由な情報発信を目的として独立した.観光地からの 声が観光協会を経由しないと観光課に届かないとい う情報伝達の遅延が危惧されたが,観光課としても 積極的に地域の魅力発見事業に参加し,現場の声を 聞き意見交換を行なっている.また,統計情報とし て観光客入り込み数を公表しており,その中にはイ ンバウンドの情報も含まれている.
全国と比較して遅れをとっている県内のインバウ ンド事情を踏まえ,観光課は,プロモーション活動 の推進,観光案内所やガイドブックの充実,多言語 対応サイト「FUKUSHIMA15」の活用を最優先課題 としている.観光案内所は,JR郡山駅構内の2階に ある.JNTO3)による観光案内所のランク分けではカ テゴリー2 に分類されるが,カテゴリー3 へのラン クアップを目指して対応言語の増加などを図ってい る.
ガイドブックは,先に挙げたように,タイ・ドイ ツ・ベトナムへの言語対応を目指している.特にベ トナムは福島空港へのチャーター便が開設され,増 便を図っていることから,新たなインバウンド誘致 対象として期待されている.FUKUSHIMA15は,現 在整備中の多言語対応ウェブサイトで,福島県の事 業である.郡山市の魅力を世界に発信するために重 要なコンテンツになると考えられる.
インバウンド誘致のプロモーションの重要事項の 一つに,「こおりやま広域連携中枢都市圏」と呼ばれ る郡山市を中心とした4市7町4村で構成される地 域連携が挙げられる.総人口は約 59 万人で県内総 人口の約3割を占め,経済を持続可能なものとし,
少子高齢・人口減少社会の中で安心・快適な生活を 営んでいけるようにするための共同体を目指してい
る.この共同体で,コトづくり,外国人インフルエ ンサーによるツアー企画,台湾・タイ・ベトナム・
オーストラリアといったターゲット市場に対する観 光情報の発信などの事業を展開している.
福島県,そして東北地方全体で見たときに,郡山 市は MICE4)の発信地として重要な役割を持ってい る.中でも市内にある「ビッグパレットふくしま」
は東北地方最大規模のコンベンション施設であり,
5,945m2の多目的展示ホールは大規模な国際 MICE
の誘致が十分可能なキャパシティと言える.カジノ を併設するといったIR5)化に対しては,首都圏の都 市ほどの採算が見込めないことや治安上の問題を考 慮して慎重な姿勢である.都市間の交流にも力を注 いでおり,姉妹都市であるオランダのブルメン市と は音楽を中心として,2017年に覚書を締結したドイ ツのエッセン市とはウィンタースポーツを中心とし て,それぞれ積極的な誘致を行なっている.
観光課としては,先に述べた郡山市の観光特性か ら,観光旅行の目的地というよりはビジネス利用を 目的としたインバウンドが中心であるという事実を 受け止め,東北地方,そして福島県における玄関口 として少しでも滞在してもらうための取り組みを重 視している.そのために,MICE 施設やコンテンツ のプロモーションを工夫している.ただし,単体の 都市で何かを働きかけるというよりは,周辺の広域 圏や会津若松市・仙台市といった周辺の主要観光都 市との協調が必要であるという立場にある.
2.郡山市役所農林部農業政策課
農業政策課は,市役所農林部5課の中の1部署で,
農業に関わるあらゆる制度の計画や,地産地消ブラ ンドの推進,農地振興のために様々な企画を行なっ ている.今回はその中でも農地や農家の振興を通じ て地域の発展に寄与するグリーンツーリズムに主題 を置き,インバウンド誘致の強い力と成り得るグリ ーツーリズムの現状と今後の展望を聞き取ることを 目的とした.グリーンツーリズムとは,自然・文化・
人間との交流を楽しむ滞在型の余暇活動のことで,
観光客が農家を中心とした地域住民と近い距離で交 流する点で他の観光行動と異なる.欧米ではバカン ス目的の利用で普及し,インバウンドの需要増加に 伴って日本でも注目されるコト消費のひとつとなっ ている.以下に農業政策課からの聞き取り内容を述 べる.
郡山市内では,グリーンツーリズムを推し進めて いくために,農村地域の住民を中心とした協議会が
複数存在する.農業政策課が監督や資金援助で関わ っているものとして,郡山市逢瀬町・湖南町を中心 とした「ふるさと田舎体験協議会」がある.ここで は,農作業や郷土料理の調理といった農家の生活を そのまま体験できる「農村生活体験」が主な企画で ある.受け入れ先は地域の農家で,参加希望者は観 光協会のホームページなどを通じて協議会もしくは 農業政策課に連絡し,予約する仕組みになっている.
受け入れ人数は個人から修学旅行で利用する小学校 1 学年全体といった団体にまで渡り,滞在時間も日 帰りから数泊までと幅広い.過去には東京農工大学 の留学生が団体で利用した例もある.2017年は市内 の専門学校で学ぶ約 20 人の留学生が農村生活体験 を行なった.また,震災後は毎年関東から湖南町へ のバスツアーを企画している.100 人ほどのキャパ シティで国内利用者がほとんどであるが,国内での 認知度と評判を向上させることはインバウンド誘致 にもつながり,地域全体の発展としても重要な事業 であるといえる.
農家との関わりが深いことが農業政策課の特徴で ある.民宿を中心とした形態で農村生活体験事業に 携わる農家に対して,市として管理や連絡,助言や 補助を行なっている.ふるさと田舎体験協議会の今 後の課題としては,農業政策課から自立した組織と してより積極的に事業を展開していくことである.
グリーンツーリズムでは個々の農家が現場の事業 主となるので,良い意味でも悪い意味でも提供者に 意識の違いが生まれる.特定の民家しか提供できな い付加価値が生み出される反面,観光客という外部 の人間を受け入れることに消極的な農家も多く,単 に事業拡大とはいかない世界である.特にインバウ ンド受け入れにあたっては,言語の壁に加えて文化 や価値観の違いを乗り越えていかなければならない.
外国人に馴染みの少ない農家にとって,インバウン ドを受け入れることはハードルが高いように考えら れる.市としてこういった不安を解消し,積極的な 農家と最大限に協力していくことが重要である.
市西部の逢瀬町や湖南町は,会津若松市へつなが る宿場町としての歴史があり,現代でも会津へ抜け る時,あるいは会津から郡山方面へ移動する際にこ れらの地域を通過する.そういった意味で,市街地 からは遠いが自動車でのアクセスは比較的良い.そ れに対して,市東部は山間地域になっており,農地 こそ存在するが観光客がアクセスすることはほとん どない.こういった観光産業が未開拓の地で,地元 の協議会が発足し,市と協力してプロモーションす
ることで,あらたな交流人口が生じる可能性はある.
しかし,現状こういった地域へのアプローチはなさ れておらず,今後検討すべき事項の1つである.湖 南町については,後で再度取り上げる.
また,これから郡山市に必要なものとして,中小 企業診断士6)と呼ばれるコーディネーターの存在が 挙げられる.市主体の事業展開にあたって,経営的 側面からの助言が必要であると感じている.国内に おける大都市の多くは,NPO7)団体と行政の連携が とられていて,コーディネーターの存在は大きい.
こういった事項はすでに議論されていて,こおりや ま広域連携中枢都市圏全体してのアプローチも視野 に入れている.
3.郡山市役所文化スポーツ部国際政策課
文化スポーツ部には,文化振興課・スポーツ振興 課・国際政策課の3課が存在するが,その中でも,
今回は市内の国際化と国際交流を通じたシティプロ モーションを行なっている国際政策課に話を伺った.
特に観光課や観光協会との連携が強く,異なる立場 からの考えを聞き取った.
国際交流課は,インバウンド需要の増加を非常に 大切と捉えている.郡山市は優れた自然・文化・食・
社会基盤といった資源を有していながらも,そのプ ロモーションが十分でないと考え,認知度向上を目 指した積極的なプロモーションを行なっている.プ ロモーションは,市内と市外の内向き・外向き両面 において行なっている.以下は,その具体的な内容 である.
現在国際政策課として力を入れている項目として ホストタウン8)推進事業が挙げられる.東京五輪を 意識したスポーツや音楽での交流,さらに郡山市の 特産品である鯉料理を通じた交流を推進している.
鯉料理は安積疏水の完成した明治期以降に,その恩 恵を受けて広く庶民に根付いた歴史があるが,鯉を 食べる文化のある中国やハンガリーなどからのイン バウンドは好んで食べるようである.
また,シティプロモーションのため,郡山市のイ メージキャラクターである「がくとくん」を積極的 に各種イベントで使っている.2017 年は市内外に 102 回出張しており,市役所職員や地元学生などが
「がくとくん」の中に入る人としてプロモーション 活動を行なっている.また,市内の他のイメージキ ャラクターとバンドを組み,演奏を披露することも ある.音楽都市としての特徴的なプロモーションが 伺える.
国際政策課が主体となっているプロモーションと しては,日本遺産に認定された,近代郡山発展の礎 となった安積開拓・安積疏水かいさく事業をテーマ としたストーリーがある.日本遺産は,有形の文化 財を登録する世界遺産とは異なり,国内の文化・歴 史等のストーリーを認定することを目的としており,
これに認定されると地域の活性化が期待される.国 際政策課では安積開拓・安積疎水に関するストーリ ーを広く発信していくことを重視しているが,とく に開成社9)の発足とその活動,事業に大きく貢献し た大久保利通の存在,工事の過程や成果,開成山公 園に咲く桜の由縁などをプロモートしている.また,
遺産構成文化財として認定された施設は,工事で用 いられた市内の発電所や水門といったもので,これ らを見学するツアーをインフラツーリズム 10)の一 環として推し進めている.富山県の黒部ダムなども このインフラツーリズムの成功例で,郡山市におい ても可能性を期待できる.
国際政策課には,2015年8月よりオランダ出身の ヨースト・クラルト(Joost Kralt)さんが職員として 勤務されている.学生時代から日本の大学などで日 本語と日本文化を学び,長崎市役所でのインターン シップの経験もあり,大変勉強熱心な方である.郡 山市にとっては彼のような外部からの職員は異なる 立場からの刺激やアイデアを与える貴重な人材であ り,特に国際政策課では重視している.ヨーストさ んについてはメールによる質問に応じていただいた のでⅤで詳しく記す.
また,郡山市出身の有名人を「郡山市国際交流特 使」や「郡山市フロンティア特使」に認定して,プ ロモーションへの協力や助言をもらっている.こう いった人々の協力は,郡山市にとって大変大きなも のとなる.
さらに,国際政策課として外国人の記者を招き,
郡山市についてのインタビューを行なっている.そ の結果,郡山市単独で独自の魅力を推していくべき という意見があったという.具体的には,市内の紅 葉や日本最古とも言われる開成山公園の桜,日本遺 産構成文化財に登録されたインフラ施設,「安積野」
と呼ばれる東北地方唯一のウイスキー蔵元における ブランドといったものである.特にウイスキーブラ ンドは福島県が力を注いでいる日本酒と比べて事業 規模が小さく,注目されることは少なかったために 意外な意見であったという.インバウンドにとって,
日本らしいコンテンツは魅力的だが,特定の都市を 訪れるためにはそこにしかない唯一の魅力が必要で
あるように国際政策課では感じている.
以上のような取り組みを行ない,内外へ積極的な プロモーションをしている国際政策課だが,インバ ウンドに限らず,県外の人々に対しても,福島県,
そして郡山市の現状と魅力を知ってもらいたいとい う想いが強い.そのためには一度郡山市を訪れ,少 しでも滞在してもらう必要があると考え,そのきっ かけづくりのためのプロモーションを常に企画して いる.
4.けんしん郡山文化センター
けんしん郡山文化センターは,公益財団法人郡山 市文化・学び振興公社が指定管理者として管理運営 を行なうコンサートホールを中心とした複合施設で ある.中ホールや会議室に加え,2,004席という東北 地方最大のキャパシティを誇る大ホールでは,国内 のみならず海外のオーケストラをはじめ様々な団体 を呼び,各種コンサートを開催している.国内の有 名人を呼ぶことも多く,市外から多くの人が訪れて いる.特に郡山市は先に述べているように,音楽に 歴史的な所縁があることから,こういった音楽・文 化の発信地となる施設でインバウンドの誘致につい てどのように考えているかを調査することが必要で あると考え,今回聞き取りを行なった.
施設として,インバウンドに対しての意識は特別 なものではなかった.現状インバウンドの来場は非 常に少なく,市民のための施設であることが第一と いう立場にある.以下に具体的な聞き取り内容を記 す.
けんしん郡山文化センターは,市政 60 周年を迎 えた 1984 年に開館し,市民に寄り添った文化施設 としてその役目を果たしてきた.2011年の東日本大 震災によって臨時休館を余儀なくされたが,翌年 3 月に再開館した.復興後の事業は震災前よりも拡大 していて,来場者数・イベント数ともに増加してい る.復興直後は郡山市外から来場する人が多かった が,徐々に市民の来場と活動が戻り,現在は震災前 と変わらない状況になった.郡山市は合唱や管弦楽 をはじめとする音楽活動が非常に盛んで,2012年よ り隔年で日本学校合奏コンクールグランドコンテス トと呼ばれる全国大会が開催されている.その点で,
国内の音楽活動に関しては全国から多くの人を観 客・演者として呼び込むことが可能である.
インバウンドについては,国外から観客が来場す るケースはあまり多くないという.毎年ヨーロッパ 圏を中心とした海外の団体を招聘してオーケストラ
の公演を数件行なっているが,来客者の多くは郡山 市民である.こういった海外団体は国内を回るツア ーの開催地の一つとしてこの施設を選択することが 多く,滞在は一時的で,施設側との交流は少ない.
イベントは,基本的に主催者から連絡を受け日時な どを交渉する.郡山市の関連機関が主体となって経 営する施設なので,自発的に各団体への出演の打診 は行なわない.こうした施設の特性から,インバウ ンドを含む市外・県外からの集客にはこだわらず,
あくまでも市民からのニーズに応えていくという姿 勢が伝わってくる.館内の案内板には英語表記が散 見され,インバウンド来場に対する想定がなされて いる.特別にマニュアル化された多言語対応ガイド は存在しないが,外国人が来場する際,多くの場合 には本人か同伴する日本人が対応できるので,施設 側として特別な対応をしたことはほとんどなく,今 後も何か対策を検討する予定はないという.
施設としては来場者を対象にアンケートを実施し ている.館内に数カ所あるアンケートボックスで,
任意で利用者から意見を集めている.集まった意見 のうち,市外の意見は1割程度で,アンケート内容 が日本語なので寄せられる声もほとんどが日本語で ある.施設としては,利用者層やニーズの変化に対 して柔軟に対応するために,今後より積極的にアン ケートを実施する予定である.
イベント開催にあたっては,主催者側と運営する 施設側とのギャップに悩んでいるという.主催者が 思い描く企画は,集客数や諸費用を考えると経営的 に厳しいものが多く,なかなか積極的に受け入れら れないことが多いようだ.ここからも,現状少ない インバウンドを呼び込むためのイベントを企画する ことの困難さが窺える.
けんしん郡山文化センターとしては,市民のニー ズが第一という立場をとっている.しかし,急増す るインバウンド需要も注視していて,客層に変化が 起これば臨機応変の対応をしていくようである.
5.クローバーと郡山市観光協会
クローバーは,市内在住の同じ英会話教室に通う 主婦4名のボランティア団体である.市内の観光地 や体験事業を英語でインバウンドに案内することを 中心に活動している.活動やプロモーションにおい て郡山市観光協会のバックアップを受けており,相 互に関わり合いが深いことから,ここではこの2団 体について同時に述べていく.クローバーについて は,市内におけるインバウンドの現状をボランティ
アそして市民という立場から聞き取ることを目的と した.また,郡山市観光協会は,先に述べた観光課 との関わりが深く,異なった立場からの考えを聞き 取ることを目的とした.
2 団体のインバウンドに対する共通の考え方は以 下のように要約される.郡山市の資源は「人」にあ り,震災という困難から立ち上がり,地域復興と発 展のために常に挑戦を止めず未来を構想し動き続け ていく人々がいることこそ郡山市の最大の魅力であ ると言える.ホープツーリズム11)を行なっていくと いう動きは福島県を中心として東北地方全体で謳わ れていることであるが,郡山市は安積開拓の歴史上,
外部から多くの人が招かれ,仕事を見つけ,外部と の融合から生まれた新しいコンテンツが多く存在す る.これらの魅力を最大限に発信していくことが,
地域振興,そして伸び悩むインバウンドの獲得に重 要な要素となるという.そして何よりも,地域振興 にやりがいを感じ,楽しむことが大切であると考え ている.観光協会で活動される川村徹氏は 2017 年 にJTB12)から観光協会へ出向したが,元々は岩手県 出身で,郡山市には縁がない.出向して1年余りで あるが,都市空間デザインや地域振興など,観光の 枠に限らず常に研究し,試行錯誤している.郡山市 をより良いものにしていこうという想いを持った 人々が多いことも,この都市に住む人々の傾向であ り,財産であるという.以下,具体的な取り組みに ついて記す.
クローバーの活動が始まったのは 2017 年.2018 年4月に観光協会と連携を開始し,観光協会のホー ムページにもその活動内容が掲載された.4 名中 2 名が福島地域通訳案内士13)の資格所有者で,週1回 の英会話教室で実践的な英語を学びながら,別の日 にボランティアでガイドを引き受けている.引き受 けた案件数は,2017年で7件,2018年1月1日か ら11月25日までで15件となっており,徐々にそ の数は増えている.依頼者の多くは外国人であり,
主に英語のメールでやり取りしながら日程調整する.
ただし,参加する外国人は元々日本に長く居住して いるケースが多い.過去にガイドを利用したインバ ウンドの国籍と人数は,イギリス3名・ジャマイカ 2名・フィリピン3名・インド2名・オーストラリ ア3名・オーストリア1名・アフガニスタン1名・
タンザニア2名・フィリピン2名・サウジアラビア 1 名と様々である.ツアーは郡山駅周辺の主要観光 地の案内に加え,柏屋14)での饅頭作り体験といった コト消費の体験も多く盛りこんでいる.ガイドツア
ー参加者は独自に連絡してくることもあるが,知り 合い伝いに広がり,紹介という形で新たな出会いが 生まれている.また,クローバーの方から提供して いただいた過去のツアー記録を見ると,一度利用し た人がリピーターという形で複数回利用している場 合が多いこともわかる.中には大使館勤務の外国人 がガイドに満足し,お礼という形でクローバーを東 京の自宅に招待するという例もある.クローバーの 事業は一般的な観光産業と異なり,異文化交流とい う側面が強いように思われる.
ガイド後に行なうアンケートの内容を見せていた だくと,利用者が皆ガイドに大変満足していること がわかった.特に,次の具体例が示すように,観光 地やガイド内容そのものというよりは,体験型のコ ンテンツやクローバーとの交流に満足し,また利用 したいという声が多かった.
・本当の日本を体験できた
・説明時は,緊張しないことと,相手の反応を見なが らガイドすると良い
・大変親しみやすい距離感でリラックスできた
・ガイドを通じた交流が楽しい
・有益な内容が多い
・饅頭作りが楽しかった
・大変満足したので,このような取り組みを続けて欲 しい
これは,営利目的ではないこと,クローバーのボ ランティア自身がガイドにやりがいを感じ,常に探 究心を持って楽しく取り組んでいることの現れであ るように思われる.ガイドの一人である鈴木美枝子 氏は,郡山市内で育ち,学生時代は英語科で英語を 学び,カナダでの海外留学や海外旅行の経験もある.
子育てなどで一時は英語に触れる機会が減ったが,
2014 年ごろに福島特例通訳案内士育成研修受講生 募集の新聞記事を見て,再度英語学習に取り組むこ とを決意し,資格取得に至った.一度は離れた世界 に再度挑戦してみたいという鈴木氏の表情は非常に 充実していて,多忙な中でもやりがいと楽しさを心 に抱いて取り組んでいるように感じられる.鈴木氏 の活動やコメントは,福島民友新聞社発行のシニア 向け情報誌にも取り上げられている.
観光協会は5名で構成され,JTBから出向してい る川村氏と,多くは市役所からの出向者が職員とな っている.そして,先に述べたように,民間出身者 から自由なアイデアを取り入れ,公的機関では紹介 できないような特定の店舗をパンフレットに掲載す るといったことを目的として,市役所観光課から独
立した.他機関とのつながりの中で,郡山市の総合 的な観光プロモーションを企画・実施している.ま た,市役所と民間企業やボランティア団体との橋渡 し的な役割も担っている.今後の最大テーマは,少 子高齢化社会に対抗するための市内における交流人 口の拡大である.
ところでクローバーの方は,JR郡山駅周辺の空間 デザインに工夫が足りないと感じている.駅構内の 2 階にある観光案内所は新幹線中央改札口を出て直 進した左手にあるが,その手前に階段があり,改札 を出る人の多くは階段で1階へ降りてしまう.実際,
観光客の足を止めるような物産の展示が乏しく,そ のまま駅出口に向ってしまう.駅構造としては効率 的だが,観光的な側面で見ると配慮が足りないと思 われる.また,クローバーの方が懸念しているのは,
JR 郡山駅西口が市街地の中心となっているために,
集中的にビルが建設され,駅を出た際に圧迫感を感 じてしまうのではないかという点である.道路の区 画整理といったハード面の整理には時間と費用を要 するので,駅利用者が足を止めて市内の物産品や観 光に関心を抱いてもらうための工夫は他の面で行な えるし,そうすればインバウンドの滞在にもつなが るのではないかと,クローバーの方は考えている.
6.ホテルハマツ
ホテルハマツは,JR郡山駅から徒歩圏に立地する 郡山市を代表するホテルの一つである.インバウン ドの滞在に関わる宿泊業界の現状と展望を知るため に聞き取り調査を行なった.以下はその内容である.
ホテルハマツとしては,インバウンドに限らず,
宿泊者の動向は常に注視している.2020年開催予定 の東京五輪は一時的な需要に過ぎないので,その先 3,4年,あるいはそれ以降を想定している.首都圏 に近い郡山の強みを活かし,東京や仙台といった主 要都市の滞在に絡めて郡山に少しでも滞在してもら おうという姿勢である.
ホテルハマツは,2004年設立.宿泊と飲食店業以 外に,ブライダル・各種パーティー・会議・催事の 企画・運営に関する業務を行なっている.定期的に 有名人を呼んでコンサートなども開催している.宿 泊そのものよりは,そのほかの事業が主体となって おり,複合的な施設となっている.郡山市内の13ホ テルが加盟している「郡山ホテル協会」と,国内の 厳正な基準を満たしたホテルのみが加盟できる「日 本ホテル協会」に登録されており,後者は郡山市に おいて唯一の加盟ホテルとなっている.日本ホテル
協会に加盟していることで,政府との意見交換や支 援が可能となっており,市内の宿泊産業を代表して 要望などを出している.インバウンドに関しては,
英語・中国語対応のホームページだけでなく,館内 の設備などにも基本的に英語表記を付けるようにし ている.また,外国人の雇用も積極的に行なってお り,聞き取りに応じてくれた外国人従業員の方につ いて後ほど詳しく述べる.
ホテル宿泊者のうち,インバウンドは2.5%程度で,
市内の他のホテルよりも低めの割合であるという.
その要因は,予約形態が近年の主体であるインター ネットではなく,電話を中心としたアナログ対応に ある.ホテルハマツは,宿泊やその他施設利用者と の繋がりを重視するために電話による受付を積極的 に行なっている.インバウンドの大多数はビジネス 利用であり,前後に首都圏や仙台市・福島市といっ た地域に滞在することが多い.月によって国籍や人 数は大きく変動し,エンジニアや研修生の滞在が多 い.また,宿泊利用者は概してリピーターが多く,
インバウンドもこの傾向にある.
東日本大震災により郡山市も被害を受けたが,復 興作業に関わる多くの人の滞在はホテルハマツをは じめとした宿泊施設に流れた.これにより,ホテル ハマツを含む業界全体としては震災後に多くの顧客 を獲得した.
多くのホテルは非常時に毛布や食料などの備蓄を 備えており,ホテルハマツも例外ではないが,民間 企業として避難者の受け入れには慎重である.施設 内で事故が起きた際に責任問題が発生するだけでな く,従業員も被災者となり,館内にいる全ての人へ の対応が最優先であるからである.2018年は北海道 の地震 15)で災害時のインバウンドへの対応が問題 となり,宿泊施設の役割も見直されているが,現状 のシステムでは被災者の受け入れは難しいという.
福島空港におけるチャーター便の増加が郡山市で もインバウンド誘致の追い風となっているが,ホテ ルハマツとしてはそこまで楽観視はしていない.と いうのも,多くのインバウンドは空港から首都圏な どに移動してしまうからである.空港に着いた客が 移動前に郡山市内で一泊してもらうことが現実的な インバウンド誘致だが,一時滞在してもらうための プロモーションが弱いという.
郡山市役所や観光協会とは事務的手続きで関わり はあるが,結局は個人のやりとりがないと動くこと は少ないらしい.民間企業と公的機関のやりとりに は個人間の信頼づくりが不可欠であるように思われ
る.組織として関わりが深いところに「公益財団法 人郡山コンベンションビューロー」がある.コンベ ンションの開催に際して首都圏などに営業を行なっ ており,コンベンションの開催地としてホテルハマ ツは会場を提供している.2018年2月には,本市出 身の指揮者である本名徹次氏を招いた音楽都市とし
ての発展とインバウンド誘致に向けたセミナーを開 催した.国際MICEの誘致においてこういったコン ベンション施設の協力は不可欠であり,インバウン ド獲得の重要な要素となる.
ホテルハマツとしては,郡山市の宿泊業を背負っ ている意識があり,インバウンドをはじめとした外 第2表 市街地における主要観光地の状況
観光地名 人の多さ 駅からの距離 インバウンドの有無 多言語対応の有無
➀ 開成山公園 ○ × × ×
➁ 開成山大神宮 ○ × × ○
➂ 開成館 △ × × ○
➃ 安積歴史博物館 ○ × × ×
➄ 21世紀公園麓山の杜 △ △ × ×
➅ 麓山公園 × △ × ×
➆ 郡山公会堂 △ △ × ×
➇ 如法寺 × ○ × ×
➈ 安積国造神社 △ ○ × ×
注)筆者の現地調査による.
第1図 市街地周辺における主要観光地
注)地図はGoogle Mapを参照して作成した.地図中の丸数字の番号は主要観光地の位置を示し,第2表の番号と一致する.また,
星印はホテル,網掛け部分は緑地・公園,四角は主要観光地以外の主な施設・機関,実線は主な道路,破線は主な鉄道を示す.
なお,郡山市街地は主として郡山駅の西側に展開している.
部からの顧客を獲得して市内の交流人口増大に寄与 しようという使命感を持ち合わせている.しかし,
2020 年東京五輪といった目前の行事というよりは,
それ以降の情勢を見ていきたいという姿勢である.
Ⅳ 市内の主要観光地及び体験型観光の実態
1.郡山市中心部の観光地
JR郡山駅西口からの徒歩圏を中心に,市街地にお ける主要な観光地を視察して回った.調査日は2018 年8月21日火曜日で,午前から昼過ぎにかけて調 査した.これらの訪問から,現状インバウンドのニ ーズは少ないことが判明した.しかし,インバウン ド訪問を想定した準備は行なわれており,今後の需 要拡大が期待される.需要拡大のために,より広域 的なプロモーションが必要であると思われる.
第2表は調査した順に結果をまとめたものである.
第1図は表中の観光地を地図上に示したものである.
選択した観光地は,郡山市の市街地に位置し,観光 パンフレットやTripAdvisor16)で紹介されていた9つ の主要観光地である.「人の多さ」は,相対的に多く 感じたものから順に○・△・×と評価した.「駅から の距離」は,JR郡山駅西口から徒歩で近い順に○・
△・×と示した.また,各観光地にインバウンドと 思われる人がいるか確認したが,全ての観光地にお いて見当たらなかったので,「インバウンドの有無」
は全て×と表記している.パンフレットや案内表記 などに英語などの多言語対応が存在する場合は「多 言語対応の有無」に○を,そうでない所に対しては
×を示した.
開成山公園には,陸上競技場やプールといった運 動施設の中に開放感のある噴水広場や池が存在する.
その規模は,郡山市でも最大級で,安積開拓に伴っ て先人たちが植林した大量の桜は,県内でも有数の 花見スポットとして知られている.ここでは案内に 外国語の表記が存在しなかったが,隣接する開成山 大神宮において安積開拓に関わる案内が英語で紹介 されているうえ,安らぎの空間を楽しむ公園として の特性上,不便することはないように思われる.開 成山公園に隣接する開成山大神宮では,パンフレッ トは日本語表記のみであったが,英語による案内表 記が見られた.開成館にも同様に英語による建築物 の解説が数カ所に存在した(第2図).その他の観光 地には英語などの多言語対応は見られなかった.安 積歴史博物館の職員の方に話を伺うと,インバウン ドは稀に見受けられるが,そのほとんどが市などの
企画するツアーの一環として団体で訪れるケースだ という.
第2図 開成館における英語表記(筆者撮影)
市内の観光地では,個人旅行のインバウンドはほ とんどおらず,そのニーズは少ないものと思われる.
実際に訪れることで,地域の歴史や風土に触れ,満 足度の高い観光を実現することは可能だ.しかし,
インバウンドにおける郡山市訪問のきっかけ作りと して,観光地そのものが大きな動機付けとなるかは 疑問が残る.しかし,広域圏への訪問,またはコン ベンションやビジネスによる市内滞在の中で,副次 的な行動としてこれらの観光地へ訪問することは十 分想定される.それを念頭に置いたプロモーション の工夫が必要であると考える.
2.郡山市立美術館
郡山市立美術館は,JR郡山駅からバスで10分ほ ど離れた地点にある市経営の美術館である.ターナ ー17)を始めとしたイギリス美術や日本の近代美術,
そして郡山市にゆかりのある画家の作品を中心に展 示している.海外の企画展を定期的に実施している ことから,国際色豊かな展示を展開しているこの美 術館にインバウンド誘致の可能性を感じたので,今 回の調査地に設定し,主に館内を観察した.
結論として,郡山市立美術館は,展示品に加え,
開放感あふれる空間デザインにより,インバウンド にとって快適な観光地として注目される可能性があ る.市内にゆかりのある美術品を継続して展示する ことで,郡山市の姿に触れ,より身近なものとして 感じてもらうことができると思われる.しかし,駅 から少々離れていることや,観光地としての認知度 不足が負の要因として挙げられる.市街地での滞在 の息抜きに,リラックスした空間を提供できる点を