【学位論文審査の要旨】
阪神大震災以降、土木学会コンクリート標準示方書等基準類における要求耐震性能が見 直され、既設コンクリート構造物の多くにおいて、耐震補強が進められている。これまで も、鋼板巻立て工法が既設コンクリート橋脚などの柱状構造物に数多く適用されているが、
本工法においては、鋼板と既設コンクリート部材との狭い隙間を確実に充填できなければ ならない。この充填材としては、一般に、樹脂系材料とセメント系材料の 2 種類が使用さ れている。本研究で対象とするセメント系材料は、水、セメントおよび砂を主材料とする モルタルであるが、間隙を流動させるとともに、品質の安定を図るため、さらに数種類の 混和剤が適宜用いられている。この充填モルタルは、樹脂系材料に比べてコスト面で優れ ているが、水、セメント、砂、それぞれの密度の違いに起因して材料分離の懸念があり、
充填モルタルには、流動性と材料分離抵抗性という、相反する性質を適切に併せ持った間 隙充填性が要求される。
本研究では、5mm程度の間隙を充填するモルタルの配合について検討し、間隙充填性を 評価する試験方法について提案している。試験では、混和剤として増粘剤と高性能減水剤 を取り上げ、その混入量を変化させてモルタルの粘性を調整し、日本建築学会基準「JASS
(Japanese Architectural Standard Specification)15M-103 フロー試験」でフロー値
250mm となるモルタルをもとに、充填性試験の結果から最適配合を提案している。また、
流動解析法の1つであるMPS(Moving Particle Semi-implicit)法を一部改良し、モルタル の流動特性を解析的に評価した。本解析手法は、一般に、水等の流動挙動を表現するのに 利用されているが、ビンガム流体とみなした場合のモルタルの流動性ならびに材料分離抵 抗性を表現するために、粘性項を新たに組み込み、試験結果との整合性を検討している。
本研究で得られた主要な成果は以下のとおりである。
(1) 増粘剤と高性能減水剤の混入量をそれぞれ 0~0.45%ならびに 0.7~5.0%に変化 させたモルタルを用い、レオロジー試験(塑性粘度及び降伏値)、フロー試験(JASS 15M-103 およびJHS 313-1999)、Jロート試験(JSCE-F 541およびJSCE-F 543による、JPロー ト流下時間および J14 ロート流下時間)を行い、混和剤の組合せの相違による、流動特性 ならびに材料分離特性を明らかにした。
(2) 本学で考案した二重円筒試験装置、充填性確認試験装置を用い、流動性、材料分 離抵抗性を把握した。それぞれの試験方法および結果は次のとおりである。二重円筒試験 装置は、径の異なる2本のアクリルパイプを用い、間隙幅2、3あるいは5mmとなるよう 径の大きいパイプ(外パイプ)の中に径の小さいパイプ(内パイプ)を立てた状態で配置 する。そして、内パイプの内側にモルタルを所定の高さまで注入後 1 分静置し、内パイプ を2、3あるいは5mm引き揚げ、間隙部に流動・上昇させ、充填高さと理論平衡高さから 充填率を求めて塑性粘度との関係を検討した。その結果、フロー250mmのモルタルにおい て、良好な充填性を有すると判断できる充填率 90%以上を満足するためには、塑性粘度 2500~3600mPa・sとする必要があり、そのためには増粘剤を0.01~0.15%、高性能減水
剤を0.7~1.2%とすることを提案した。
また、充填性確認試験装置は、間隙幅2、3、5mmで長さ240mmの流動部と、その両端 にモルタル貯留槽を有するものとし、仕切りを有する片側の貯留槽に所定量(3ℓ)のモルタ ルを入れ、その後仕切りを挙げてモルタルを間隙部に流動させ、他方の貯留槽に流入する までの時間を測定するものである。目視ならびに二重円筒試験の結果とも考え合わせ、流 動所要時間が3〜8秒のモルタルが適当と言えることを示した。
(3) MPS法を用いて、モルタルの流動特性ならびに充填性を検討した。塑性粘度2500
~3600mPa・sのモルタルを対象として、粘性項を考慮した解析を行った。一般にMPS法 では、流体の密度を一定としているが、本研究では、モルタルにおいて懸念される材料分 離を考慮したモデルを新たに構築した。その結果、実験結果との比較により、解析精度の 向上がはかられ、コンクリート分野へのMPS法の適用の可能性を示している。
以上、本論文では、耐震補強を主対象とした鋼板巻立て工法における間隙充填材料の配 合選定において材料に要求される品質を明らかにし、その流動性・材料分離抵抗性を数種 類の試験方法によって評価している。また、レオロジー特性等を考慮した解析(MPS法)
により、狭い間隙をモルタルが充填する挙動を精度よく表現出来ることを示している。
本研究の成果は、橋脚の耐震補強における鋼板巻立て工法用間隙充填モルタルの適切な 配合を選定するために活用されるほか、既設コンクリート構造物あるいは新設コンクリー ト構造物の狭隘部の充填に用いる材料の考え方を提示しており、コンクリート工学分野の 発展に寄与するところが大きい。
よって、本論文は、博士(工学)の学位を授与するに十分な価値があるものと認める。