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Academic year: 2021

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現代中国の地方都市における言語変異の研究―江蘇 省徐州市を例として

著者 日高 知恵実

著者別表示 Hidaka Chiemi

雑誌名 博士論文要旨Abstractおよび要約Outline 学位授与番号 13301甲第4712号

学位名 博士(文学)

学位授与年月日 2018‑03‑22

URL http://hdl.handle.net/2297/00051234

Creative Commons : 表示 ‑ 非営利 ‑ 改変禁止 http://creativecommons.org/licenses/by‑nc‑nd/3.0/deed.ja

(2)

博士論文

現代中国の地方都市における言語変異の研究

―江蘇省徐州市を例として―

(概要)

金沢大学大学院人間社会環境研究科 人間社会環境学専攻

学 籍 番 号: 1521082011 名: 日高知恵実 主任指導教員名: 岩田礼教授

2018 3

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i

目次

1. はじめに

1.1 本研究の目的 1.2 研究対象 1.3 本論文の構成

2. 徐州方言に関する先行研究

2.1 漢語方言における徐州方言の位置づけ 2.2 徐州方言の記述言語学的研究

2.3 徐州方言の音韻体系 2.3.1 声母

2.3.2 韻母 2.3.3 声調

3. 調査項目および調査実施概要

3.1 調査項目の選定および調査票について 3.2 調査方法

3.3 調査実施概要

3.4 被調査者160名の内訳

3.5 録音機材

4. 現代徐州方言話者に見られる言語変異 4.1 語彙的変異

4.1.1 ニンジン 4.1.2 トマト 4.1.3 キャベツ 4.1.4 トウガン 4.1.5 ヒョウタン 4.1.6 トウモロコシ 4.1.7 ヒマワリの花 4.1.8 ヒマワリの種 4.1.9 ネズミ 4.1.10 ヘビ 4.1.11 チョウ 4.1.12 セミの成虫 4.1.13 セミの幼虫 4.1.14 あご 4.1.15 へそ 4.1.16 おやゆび

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ii 4.1.17 ひざ

4.1.18 ひじ 4.1.19 くび

4.1.20 父親(呼称)

4.1.21 母親(呼称)

4.1.22 祖父(呼称)

4.1.23 祖母(呼称)

4.1.24 外祖父(呼称)

4.1.25 外祖母(呼称)

4.1.26 伯父(呼称)

4.1.27 伯母(呼称)

4.1.28 叔父(呼称)

4.1.29 母親の姉妹(呼称)

4.1.30 雹 4.1.31 ちりとり 4.1.32 大ほうき 4.1.33 小ほうき 4.1.34 濃い 4.2 音声的変異

4.2.1 “杷”の声母 4.2.2 “箕”の声母 4.2.3 “芝”の声母 4.2.4 “指”の声母 4.2.5 “梳”の声母 4.2.6 “叔”の声母 4.2.7 “竹”の声母 4.2.8 “唇”の声母 4.2.9 “鼠”の声母 4.2.10 “深”の声母 4.2.11 “梳”の韻母 4.2.12 “里”の韻母

4.2.13 “雹”の声調調値

4.2.14 “腐竹”の声調調値

4.2.15 “蝴蝶”の声調調値

4.2.16 “狐狸”の声調調値

4.2.17 “把”の声調調値

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iii 5. 言語変異と社会的属性

5.1 徐州方言話者における世代差の特徴

5.1.1 1960年代生まれと1980年代生まれの間に存在する世代差

5.1.2 過渡期における複数の語形の併用現象

5.1.3 1950・1960年代生まれに見られる非そり舌化現象

5.2 徐州市街地と郊外の比較 5.2.1 徐州市街地と郊外の差異

5.2.2 北郊外出身者に見られた特徴―「ちりとり」

5.2.3 南郊外出身者に見られた特徴―「ヘビ」

5.3 親族の出身地が与える影響

5.4 性差・世代差・場面差から捉える言語変異―「月経」名称・表現の使用実態 5.4.1 先行研究における月経の名称・表現

5.4.2 被調査者数と調査手法

5.4.3 男性被調査者の回答とその考察 5.4.4 女性被調査者の回答とその考察 6. おわりに

6.1 まとめ

6.2 今後の課題と展望 謝辞

参考文献

【附録1】 徐州方言調査票

【附録2】 調査カード一覧

(6)

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はじめに

本研究は中国の地方都市の一つである江蘇省徐州市を例とし、この地域における言語変 異(linguistic variation)の諸相を多角的な視点から分析するものである。

本研究の目的は、共時態である言語変異の諸相を分析することで、その成因を明らかに し、さらに現在進行中の言語変化を捉えることにある。現代において若年層を中心に共通 語化の傾向が存在するのは十分予想されるが、言語変異の現れ方は項目ごとに異なり、共 通語化のプロセスも一様ではない。また、言語変化があらゆるレベルで起きていることを 踏まえると、「標準語の影響」では一概に説明できない現象も存在すると推測される。現代 中国においてどのような言語変化が起きているのか、そしてそれが社会とどのような関連 があるのかを明らかにすることは、中国社会を知る上でも重要である。

この目的を達成するため、本研究では多人数調査を実施し、多くのデータを収集した。

その中には、方言そのもののデータはもちろんのこと、被調査者の社会的属性に関する情 報も含まれる。収集したデータは、項目ごとに微細な分析をおこない、それらの事例を積 み上げることで、帰納的なアプローチを目指す。こうした研究は、従来の方言学でおこな われてきた農村部の調査では明らかにされることのなかった「ことばの多様性」に目を向 けた成果が期待される。

おわりに

本論文では調査データを整理し、分析することで、中国江蘇省徐州市におけるさまざま な言語変異の様相を明らかにした。本論文の主な考察内容は以下のとおりである。

(1)多人数調査を実施することにより、先行研究の補足をした

『徐州方言詞典』(1996)に記述されている方言データは、徐州市街地出身の中高年層の 男性3名から得られたものである。そのため、伝統的な徐州方言については詳細に記述さ れているものの、現在の徐州市における方言の使用実態を必ずしも十分に反映しているわ けではない。今回筆者は幅広い世代を対象とした多人数調査を実施した。これにより、『詞 典』には記載されていなかった多くの変異形を明らかにし、先行研究を補足することがで きた。一方で、『詞典』には記載があったものの、調査ではあらわれなかった変異形も存在 した。たとえば「くちびる」は、“嘴唇子, 嘴唇子, 嘴頭子”という語彙的変異があるとさ れていたが、このうち“嘴頭子”は徐州市出身者からは1例も聞かれなかった。つまりこ れは、かつて徐州市において使用されていた“嘴頭子”が現在ではすでに消滅しているか、

少なくとも消滅危機にあることを意味している。

(2)変異形の新旧や言語変化の過程を明らかにした

「可能な限り」という条件付きではあるが、調査結果から浮かび上がった世代差を手掛 かりに、各項目における変異形の新旧や言語変化の過程を明らかにした。たとえば、徐州 方言における「キツネ」“狐狸”の調値は、現在確認できるものの中では高年層に高い割合

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であらわれる[35+55]が最も古く、[35+軽声]は接尾辞“子”の脱落をきっかけに[35+55]

から変化したものであることが、調査結果から明らかとなった。“狐狸”を[35+軽声]と発 音するのは標準語とまったく同じであるため、一見すると近年使用され始めた新しい形式 のように思われるが、実際は一部の中高年層にしかあらわれない例外的な調値であった。

若年層で支持されている[55+軽声]は、徐州方言と北京方言の声調対応規則に合わせて変 換させた地方共通語であり、最も新しい音声形式であることがわかった。

(3)関連項目を比較することで、言語変化の速度の違いを明らかにした

本論文では「ヒマワリの花」と「ヒマワリの種」、「セミの成虫」と「セミの幼虫」、「大 ほうき」と「小ほうき」、(水が)深い」と「(色が)濃い」の“深”の声母、“心里”と“家 里”の“里”の韻母など関連項目の比較をおこない、両者の間に生じる「ズレ」について 分析した。「セミの成虫」と「セミの幼虫」の語形は、古い語形の残存状態においてはっき りとした違いがあらわれており、特に興味深い結果となった。そのほかにも、「父親」と「母 親」の語形を比較し、“答答”の消失する速度が“娘”よりも早いのは“答答”の孤立性と

“娘”の使用率の高さに起因するものであると結論づけた。これらの事例は「どのような 語が共通語化の波に乗りやすく、どのような語は生き残るのか」といった問いに対する一 つの答えを提示できたものと思われる。

(4)徐州市における世代差の特徴を明らかにした

4章で考察した個別の事例を積み重ねていくことによって、現代の徐州市における世 代差の特徴を明らかにすることができた。特に強調したいのは次の2点である。①1960 代以前に生まれた世代と1980年代以降に生まれた世代では、言語的に大きな隔たりが存在 することがわかった。本論文ではこうした言語差について「学校教育における標準語の普 及」「テレビの普及」から説明をおこなった。②1950・1960年代生まれを中心とする一部 の話者に「非そり舌化現象」が見られることがわかった。これは、規則的には伝統的な徐 州方言、標準語のいずれにおいてもそり舌音で発音されるはずの字に、非そり舌化した歯 茎音が現れる現象である。筆者はこの現象について、話者のイメージする「誤った」徐州 方言への回帰、すなわち一種の過剰修正(hypercorrection)が起きたと結論づけた。

(5)世代差以外の要因による言語変異についても明らかにした

本研究で扱った言語変異の多くは世代差によるものであったが、世代差以外の要因につ いても考察をおこなった。具体的には、①徐州市街地と郊外の言語状況を比較した結果、

世代差を通じて古いと認定された形式が、市街地よりも郊外に保存されていることがわか った。また北郊外や南郊外など、特定の地域にあらわれる変異形の存在も明らかにした。

②祖父母や両親の出身地が方言に与える影響について、「親族呼称」を例に分析をおこな った。その結果、本人は徐州市で生まれ育っていても、呼称の対象となる親族が外地出身 者である場合、外部方言の語形を取り入れて使用する事例が見られた。③ケーススタディ として女性特有の生理現象である「月経」の名称・表現を取りあげ、性差・世代差・場面 差という三つの観点から言語変異を捉えた。

参照

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