開放経済における知的財産保護水準の戦略的決定と 経済成長
著者 池下 研一郎
雑誌名 金沢大学経済学部論集
巻 27
号 2
ページ 257‑287
発行年 2007‑03‑30
URL http://hdl.handle.net/2297/6260
戦略的決定 と経済成長*
地 下 研 一 郎
1.は じめに 2.基本 モデル
2.1.基本 モデル の設定 2.2.定常状態
3.イ ノベー シ ョンと知的財産保護 に関す る南北 モデル
3.1.モデルの設定 3.2.均衡動学 3.3.定常状態
4.知的財産保護 に関す る戦略的決定
4.1.知 的財産保護 に関す る非協力 ゲーム
4.2.知的財産保護 に関す る国際的取 り決 めの可能性
5.おわ りに 6.補論
6.1.基本 モデル における定常状態 とイ ノベー シ ョン率 の導 出 L6.2.位Z)および脚 の導 出
1
は じめに知的財産権の保護 をいかに行 うか とい う問題 は研究開発活動を促進 し,高 い経済成長を達成す る上で極めて重要な問題である。 しか もある国の知拍財 産保護は,貿易や技術移転などを通 じて国際的に波及 し,他国の経済成長や 厚生 に対 して影響を与える。
1 9 8 0
年代か ら1 9 9 0
年代 において, アメ リカをは じめ とした先進国が途上国に知 的財産保護 の強化 を迫 り, その成果 と して TR肝S(Trade‑RelatedAspectsofhtellectualPropertyRights)協定 が実現 し‑257‑
た背景 と して,上記のよ うに途上 国の低 い知的財産権 の保護水準が,先進国 の経済成長や厚生 を著 しく低下 させていた ことが考 え られ る。
閉 鎖 経 済 に お け る最 適 特 許 保 護 に 関 す る研 究 はNor曲aus
( 1 9 6 9 )
や Scherer( 1 9 7 2 )
によ って初 めて行 われた。特 にNordhaus( 1 9 6 9 )
やScherer( 1 9 7 2 )
においては,最適 な特許 の保護期間について分析が行われている1。第2節 で分析 され るよ うに,保護水準の強化は経済 に対 して2つの効果を与 え る。
1
つ は保護水準を強化す ることによって経済 のイノベー ションが促進 され,消費者 よ り多 くの (よ り品質 の高 い)財を消費す ることが可能 になる とい う点である。 したが って追加 的な保護水準の強化 は, イノベー ションの 促進 による動学的な意味で厚生 の上昇 という限界的な便益 を生み出す。一方 で特許水準の強化 は,経済 における独 占を強め,消費者余剰 を引き下 げ, よ り大 きな死加重を生 み出す ことにな る。 つまり追加的な保護水準の強化 は, 静学的な意味での厚生水準 の低下 とい う限界的な費用 を生 じさせ る。明 らか に最適 な保護水準 は, (内点解 と して得 られる限 りにおいて)追加的な保護 水準 の上昇 による限界便益 と限界費用 は等 しくなるところで決定 され る。 し か し彼 らの分析 は閉鎖経済 を取 り扱 ってお り,特許保護の国際的な波及効果 につ いては分析 していない。一方 で,Laiandqiu
( 2 0 0 3 )
お よびGrossmanandLai( 2 0 0 4 )
において は,南北2
国か らなる貿易 モデルを用 いて,知的財産権保護 の国際的波及効 果が分析 されてい る。Laiandqiu( 2 0 0 3 )
は,各 国政府 が 自国の特許保護 政策 を決定す るような非協力ゲームを用 いて,途上国の知的財産保護水準が, 先進 国 よ りも緩和 され る傾 向があ ることを示 した。GrossmanandLai( 2 0 0 4 )
ち,Laiandqiu( 2 0 0 3 )
と同様 の問題意識 に基づ いて分析 しているが, こ れ らの モ デ ル に は い くつ か の相 違 点 が あ る。 例 え ばGrossman and Lai( 2 0 0 4 )
は,生産部 門 と研究開発部 門の間の労働移動 の可能性 を考慮 してい るが ,Laiand Qiu( 2 0 0 3 )
で は そ の可 能性 は考 え られ て いな い. また Grossman andLai( 2 0 0 4 )
にお いて は,Laiandqiu( 2 0 0 3 )
よ りもよ り一 般的な需要関数 を用 いて分析 がな されてお り,2
国の設定す る知的財産保護 政策が戦略的代替性 を持つ ことが示 されている2。 しか し彼 らの分析 では, 知的財産保護政策が経済成長 に対 して どのような影響 を与 えるのか考慮 され‑258‑
ていない。
特 に経済成長 と知 的財産権保護 の関係 を取 り扱 った文献 と して は,Judd (1989),Helpman(1993),Lai(1998),Hunt(1999),YangandMaskus(2001), Glassand Saggi(2002),Gob and Olivier(2002), お よ びIwaisako and Futagami(2003)な どが挙 げ られ る。Helpman(1993),Lai(1998),Yang andMaskus(2001)およびGlassand Saggi(2002)は知 的財産権保護 の水 準 として外生的な模倣率や,模倣 の費用パ ラメータを用 いてお り,直接的 に 特許 のデザイ ンの考察 した ものではない。特 にYangandMasknS(2001)お よびGlassandSaggi(2002)において は,途上 国 における知 的財産保護 の 強化 は,先進国のイ ノベーションと,途上国への技術移転 を促進す ることが 確認 されている3。一方 で,GohandOlivier(2002)は,バ ラエテ ィ拡大型 の内生的成長 モデルを用 いて, いわゆ る中間生産物 を供給す る川上 の部 門 (upstream sector)と最終生産物 を生産す るを川下 の部門 (downstream sector) の2つの産業がある場合,川下 の最終生産物への特許保護 の水準 の効果が, 市場規模効果を通 じて中間財部 門における研究開発 を妨 げる可能性 があるこ とを示 した。 一方 でIwaisakoandFutagami(2003)もまた, バ ラエ テ ィ拡 大型の内生的成長 モデルを用いて,知的財産保護政策が経済成長 と厚生 に対 して どのような影響 を与 えるか につ いて分析 して い る。 またHunt(1999) はAghionandHowitt(1992)と同様 のモデルを用 いて特許保護 のデザイ ン とイノベーシ ョンの関係 について分析 している。
本論文では,GrossmanandHelpman(1991)のバ ラエテ ィ拡大型 の内生 的成長モデルを拡張 し,両国政府 によって設定 され る特許保護水準が,経済 成長 だけではな く厚生 に対 していかなる影響 を与 え るのか, もしくは厚生 を 最大 にす る最適 な保護水準はどのように決定 され るかを閉鎖経済 の もとでの 基本 モデルを用 いて分析する。 その際 に政府 が知 的財産の保護水準 を設定す るためには,人的な費用がかか るもの とす る。実際 に法的に設定 された知 的 財産保護水準を施行 してい くためには,様 々な司法や行政 に関す る費用が発 生す るであろう。 しか しほとん どの研究では,知的財産保護 の政策実施 コス トは考慮 されていない。本論文では,知的財産保護水準 に関す る政策施行費 用を導入 し, この施行費用が経済成長や最適特許保護 に対 して どのよ うな影
‑259‑
撃を与えているかを考察 している。 分析 の結果,厚生水準を最大にす るよう な知的財産保護水準 は, イノベー シ ョン率を最大化す るような保護水準 よ り も過小 になることが示 され る。 これは上で も述べたように保護水準の強化が 死加重の増加 という追加的な厚生損失 を発生 させ るのみな らず,保護政策の 費用増加 という費用 を発生 させ るか らである。
また本論文の後半 においては 「北」 と呼ばれる先進国 と 「南」 と呼ばれ る 途上国が互 いに貿易を しているような
2
国か らなるモデルを設定 し,一国の 特許保護水準が,他国の成長や厚生 に対 してどのような影響を与えるかを分 析 している。 このとき閉鎖経済のケース と同様 に各国について,厚生水準を 最大 にす るような知的財産保護水準 は, イノベーシ ョン率を最大化す るよう な保護水準 よ りも過小 になる。一方で, 自国の経済厚生 を最大 にす るような 貿易相手国の保護水準 は, イノベー ション率を最大 にす るような水準を同 じ にな る。 これは他国の保護水準の増加 は 自国に死加重 の増加や保護費用 とい う追加的費用を負担 させ ることな しに, 自国の研究開発のイ ンセ ンテ ィブを 高めるか らである。最後 に各国政府が 自国の厚生水準を最大 にす るような特許保護水準を設定 す る場合, いかなるナ ッシュ均衡が実現す るかを,簡単なゲームを用 いて考 察す る。 この ときナ ッシュ均衡 において両国とも過小 な保護水準を選択す る ことが示 され る。 また途上国の経済規模 が小さく,財生産や研究開発の生産 性が低 く,研究開発の成果 に対す る評価 が低 く,知的財産保護政策の実施費 用が高 いほど,途上国は先進国 と比較 して (ナ ッシュ均衡 において) よ り低 い知 的財産保護水準 を設定す ることが明 らかにされ る。 この帰結 はGross‑ manandLai
( 2 0 0 4 )
やLaiandqiu( 2 0 0 3 )
の帰結 とも整合的であ り,逮 上国が先進国に対 して低 い保護水準を設定する傾向があるという定型化 され た事実 を説明す るものである。 また世界全体の厚生水準を最大 にす るような 両国の保護水準や知的財産保護 の国際的な政策協調の可能性やその効率性 に ついて も分析 している。本論文 の構成 は以下 の通 りである。第
2
章において, まずベ ンチマークと して閉鎖経済 における基本 モデルを分析 し,特許保護 の程度が,経済成長お よび厚生 に対 して与え る効果 について分析する。第3章 においては, 2国モー260‑
デルを分析 し,各国政府が設定す る知的財産 の保護水準が,2国の経済成長 や厚生水準 に対 していかなる影響を与えるかを分析す る。 また第4章では各 国政府が 自国の厚生 を最大にす るよう保護水準 を決定す る際にどのような状 況が実現す るかを,簡単な非協力ゲームの枠組みで分析す る。 また知的財産 保護の国際的協調政策 について も議論を行 う。最後 に第
5
章では,本論文 の 主要な帰結をまとめ,今後の課題 について述べ る。2 基本モデル
本節においては,知的財産保護の効果を分析す るための基本モデルを構築 す る。本章で考察 され るモデルは,第
3
章 で開放経済のケースを分析す るた めに用いられ る。本章で展開され るモデルはGr o s s ma na n dHe l p ma n ( 1 9 9 1
, 第3章)を単純 に拡張 した ものである。2.1 基本モデルの設定
家計は自らの労働を供給す ることによって賃金 を得て,資産か ら利子収入 を得 る。我 々は人 口は上で一定であ り,各家計 は
1
単位の労働を保有 し,家 計の選好はすべて同 じであるもの と仮定す る。家計は2種類の財を消費す る。1つは同質財であ り, もう1つは差別化 された財である。家計 は自らの通時 的な予算制的式を もとに,生涯効用を最大 にす るように消費の流列を決定す
るが,その生涯効用 は以下のように与え られ る。
U(0)‑ e‑ptlβlogD(i)+(1‑β)logY(i)]dt. (1) ここでpは主観的な割引率であ るとす る。D(i)はt時点 における差別化 され た財の消費か ら得 られる指標を表 している。経済 には数多 くの差別 された財 が存在 してお り,〟(∫)によって,差別化 された財の総数 (測度)が表 されて いる もの とす る。 あ る特定の種類 の差別化 された財 は,実数ノ∈[0,〟(∫)] によってイ ンデ ックスが付 けられているもの とす る。具体的にはβ(∫)は以下 のように表現 され る。
‑261‑
D(i,‑
l L
n't'x(3
・,i,adu ・ ]
去 (2)ここでパ ラメータα,βにつ いては, 0<α< 1および 0<β< 1が成 り 立っ もの とす る。 よ く知 られているようにβはこの消費者の総支出に対す る 差別 された財への支 出の割合 を表 している。言 い換えれば,βは消費者の差 別化 された財 に対す る噂好を表すパラメータであると言えるだろう.
x (
j,i) はJ時点 におけるノ番 目の財 の需要量 を表わす。 同質財 はニ ュメ レールであ る もの とす る。 またt時点 における第j番 目の財の価格 をp(
j,i),家計の支 出をE(i)とお く. この とき各財の需要 は以下のよう表わされ る。I(3',i)
‑
βE(i) I.n(i)p(3・,,i)烏 dj,Y(i)‑(1‑β)E(i)・
p(3・,i)一去 ,
( 3 )
(4)
D(i)の適切 な価格指標 としてPD(i)を導入す ることによって,効用のフロー であるβlogD(t)+(1Iβ)Y(i)はlogββ(1‑β)(卜β)+logE(t)‑βlogPD(t) と分解できる4。 したが って通常の動学的最適化問題 を解 くことによ り,支 出の成長率 は以下のようにな る。
E(i)
‑ ‑r(i)‑p.
E(i) (5)
同質財 および差別化 された財 を生産す るために,α単位 の労働が必要である もの とす る。 同質財 については完全競争条件の もとで生産 される。賃金率を W(∫)とお くと, 同質財 はニ ュメ レールであることか らW(∫)α‑
1
,すなわち W(i)‑1
/aが成 り立つ。次 に政府が設定す る知的財産保護の程度 について定式化す る。知的財産保 護 の定式化 についてはい くつかの方法が考え られ る。先行研究においては特 許保護期間の長 さ,特許保護 の幅,外生的な模倣率および模倣のコス トな ど の方法が考え られ,分析 されている。 しか し,本論文ではGrossmanandLai (2004) と同様 に,発明 された財が (現実 に)特許保護 され る確率を,保護 の程度を表わす変数 とす る5.本論文ではこの確率 を
W
で表わす もの とす る.分析の簡単化のために,一度
W
の確率で特許保護がなされ ることが決定 され‑2621
れば,特許 は無限期間に渡 って保護 されるもの とす る。言 い換えれば, この Wは,政府が, どれほど特許保護を行 っているかを表わす努力水準 と言 うこ とができる。 したが って この経済 においては,特許で発明 された知的財産が 保護 されている財 と保護 されていない財が, それぞれ
W
と1‑W
の割合で存 在 していることになる。さらにある
W
の保護水準を実現す るためには費用がかか るものとす る。具 体的にはWの保護水準を実行す るために γwe(ただ し0>1)
だけの労働 を 政府が雇用す る必要があるもの とす る。実際に知的財産保護政策を適切 に実 施 してい くためには,特許 に関す る行政機関のみな らず,警察組織,知的財 産 に関す る紛争を処理す るための司法手続 きな どが必要であ り,膨大 な人 的 費用が必要である。 しか し上記 のような保護政策の直接的実施費用 はほとん ど考慮 されることはほとんどなか った。 その意味で知的財産保護政策 に関す る直接的費用を考慮す ることは,本論文の1つの大 きな特徴である。本論文 では保護費用はその保護水準 に対 して逓増 的であるものとし,保護費用 は家 計か ら一括で徴収 されるものとする。 したがって政府がどのような保護水準を 選択するかという問題は家計の動学的最適化に一切影響を与えることはない。保護 されている財 については,特許保有者 は独 占的にその財を生産す る権 利を保持す るので
( 3 )
よ り,p m ( i ) ‑1 / a
の価格 がつ け られ ることにな る。特許 で保護 された財の需要量 をx m ( i )
とお くことに しよ う。 その とき特許保有者 の得 られる利潤を7
T(t)とお くと,7
T(i)はq( i ) = ( 憲) 3 ‑ ( i ) ( 6 ,
と表わされる。一方で特許保護がなされない財 については,発明がな されて ち, その技術 は瞬時 に模倣 されて しまう。 したが って,特許保護がなされな い財 については
pc ‑
1の価格がつ け られ ることにな る。 また このタイプの財 の需要量をx c ( i )
と表わす ことにす る.明 らかにこのタイプの財 について利潤 は発生 しない。次 に研究開発部門について定式化 しよう。 本論文 において,研究開発 は差 別化 された財の種類増加 という形で実現す る。〟(∫)を研究開発 によって生 み 出された新製品の価値 とすると,V(i)は (バ ブルが存在 しないとすれば)新
一263‑
製品が生み出す期待利潤の現在割引価値 の総和 に等 しい。すなわち
V( i )
‑w L
00q(S)e ‑ I : r '
S''ds'dsが成 り立つ。むをJに関 して微分す ることによって以下 の条件が得 られ る。
i・(i)+U打(i)‑r(i)V(i).
(7)
(8) 次 に研究開発活動 につ いて,参入および退出が 自由であるとす る。
1
単位 の新 しい研究開発成果が もた らす経済的価値は〃( ∫ )
で与え られ る。一方で1
単位 の新製 品を生 み出す ためには,1
単位当た りでa b / n ( i )
だけの労働が必 要であるもの とす る。 ただ しb>1であるものとす る. この仮定 は研究開発が 財 の生産 よ りも (投入 され る労働単位で測 って)'b倍だけ困難であることを 意味 している。分母 の〝( ∫ )
は,J
時点 までの研究開発活動か ら漏 出 し,蓄積 された知識 ス トックを表わす もの とす る。 したが って研究開発への 自由参入 条件 は以下のように表わ され る。V(i)≦W(i)ab a
n(i) n(i)I (9) ただ し,(9)はh(i)>0の ときは等号 で成 り立つことになる.
上述 したように,特許で保護 され,独 占的に市場 に供給 されている財の総 数 は
wn( i )
,特許で保護 されず,完全競争市場の状態 にある財の総数 は (1‑W)n(i)である。 この経済 における総所得 は賃金 と研究開発 出資 に対す る配 当か らなる。 この総所得 は支出されるか,貯蓄されるか, もしくは政府によっ て租税 として徴収 されるかのいずれかであるが,貯蓄は研究開発投資へ とファ イナ ンスされ,租税 は政府 によって知的財産保護政策の実施 に用い られ るた め,以下の国民所得 に関す る均衡条件が成 り立つ。
W(i)L+un(i)7T(i)‑E(i)+W(i)abh(i) n(i)
+W(i)TuO. (10)
2.2
定常状態本節 においては,前節で展開 されたモデルの定常状態について分析す る。
なお式の導 出な どの詳細 につ いては補論
6.1
節 に示 してあるので,本節 に‑264‑
おいては結果のみを示すことにする。 定常状態 においては,支 出E(i)は一定 とな る。 このことは(5)より,定常状態において利子率が主観 的割 引率 と等 しくなるこ とを示 している。 これより定常状態 における支 出がF (W)‑(L‑γwO)/a+bpの 水準 に求 まる。定常状態 にお け る〝の成長率 をgとお くと,gは以下 の よ うに 求 め ることができる。
9=(1‑α)Wβ(L‑JYUO+abp)
balw+(1‑U)α一浩 】 ーβ・ (11) 定常状態 におけるgの成長率 (す なわちイノベー シ ョン率) が,知 的財産保 護 を表わす
W
によ って どの程度影響 を受 けるかを分析す ることにす る。 その ためにイノベー シ ョン率gをWの関数,すなわ ちg‑g(W)と して,Wに関 し て微分す るとd9(U) β(1‑α)α浩 (L‑TWO+abp)‑
C
TuO【W+(1‑U)αた 】二二二二‑ ∵=二二
二
dL, ab lu+(1‑W)α烏
】 2
Bは ここでW事をイノベ ー シ ョン率 を最大 にす る・よ うな特許保護水準 であ ると し よう。 この とき( 1
2)よ り,W事は以下 の関係 を満 たす ことが示 され る。α一浩 (L‑TU
C+
abp)‑
07LJelw+(1‑LJ)α 浩 】. n3) 図1
(a)および (b)はイノベー シ ョン率 と保護水準 の関係 を示 している。図
1
(α)よ り,知 的財産保護 の政策実施 の困難 さを表すパ ラメー タであ る γやβが十分 に大 きければ唯一 の内点解 を持つ ことが示 され る。 さ らにイ ノ ベー シ ョン率 を最大 にす る保護水準 は経済 の規模 が大 きいほど (上が大 きい ほ ど),生産や研究 開発 の生産性 が高 いほ ど (αが小 さいほ ど),知 的財産 の 保護 は容易であるほ ど (γが小 さいほ ど), よ り高 まることが示 され る6。次 に定常状態 における経済厚生 が,
W
によ って どの よ うに影響 を受 けるか につ いて見てみよ う。簡単化のために,経済 は0
時点 において定常状態 にあ り,政府 によってあ る知的財産 の保護水準W
が設定 されている もの とす る。この ときの経済厚生 はWの水準 に依存す るので,W(W)‑p
U( 0 )
とす ると,W(
W)は以下のように表わされ る.W ( U ) = β ( 三 ‑ 1 ) (
9(U)・log【UαTf;I(1‑U)])・logF (U)・A・‑265‑
(14)
吾+bp
(a) u' 1
図1 イ ノベー シ ョン率を最大にする保
ただ し,A‑1ogββ(1‑β)(1β
) +l o g 〃( 0 )
である 護水準。
ここで由を
( 1
4)で表 され る経済厚生 を最大 にする保護水準であるとしよう.こ の とき由を
満 たすべ き条件 はdW(W)/dw‑0を解 くことによって以下 のよ う に得 られ る。
αた (L‑TUC+abp)‑CTUClw+(1‑W)
α 烏 ] ab
+
+ (1‑α)(α一浩 ‑1
)lu+(1‑W)a
烏】
abe
e J
TWO‑1lu+(1‑U)ここで,(13)式 と(15)式を比較す ると,右辺 に 2つの項 が新たに追加 されている ことがわかる。右辺の第2項 は保護水準を上昇 させ ることによって, よ り多 くの財 に独 占価格が付与 され ることにな り,死加重が増加す ることを意味 し ている。 これは知的財産保護強化の限界的な費用の一部である. またu5)式 の 第
3
項は,特許保護水準を強化す ることによ り, よ り多 くの資源が保護政策 に投入 されることを意味 している。結果 として経済全体での支 出水準が減少 し,厚生 もまた低下す ることにな る。(15)式右辺の第2項 および第 3項 は明 ら かに正である。 したが って以下 の命題が成立す る。命題
1
(わくW' ,
すなわち厚生 を最大 にす る特許保護水準 はイノベー シ ョ ン率を最大 にす る保護水準 よ りも小 さい。図
2
では,保護水準 と厚生の関係が示 されている。(15)よ り,経済厚生 に関 し て も経済の規模が大 きいほど (上が大 きいほど),生産や研究開発の生産性 が高 いほど (αが小 さいほど),保護政策の実施が容易であるほど (γが小 さ いほど),厚生を最大 にす る保護水準が大 きいことが示 され る。 また研究 開 発の成果である差別化 された財 に対す る消費者 の評価が高 いほど (βが大 き いほど),厚生を最大 にす る保護水準が高いことも明 らかである。3 イノベー シ ョンと知的財産保護 に関する南北モデル
本章 においては,前章 で展開された基本 モデル拡張 し,開放経済 における 知的財産保護 のイ ンセ ンテ ィブについて分析を行 う。特 に一国内の知的財産 保護政策が世界のイノベーションや経済厚生 に対 して どのような影響 を与え るのかについて分析す る。特 に他国の保護率の上昇 は, 自国にとって,死加 重の増加や保護政策への資源配分 とい った追加的な費用を伴 うことな く,イ ノベー シ ョンを促進す ることができるとい う意味で国内の保護強化政策 とは 異な った効果を持つ ことが明 らかにされ る。
3. 1
モデルの設定「北」 および 「南」 と呼ばれ る2国を考察す る。北 もしくは南の変数 であ ることを表す ために,下付 きのi(i‑N,S, ただ しNは北の変数,Sは南 の変 数であることを表す) を用 いる。第2章 同様,両国の家計は同質財 と差別化 された財の両方 を消費す るが, これ らの財 は
2
国間で貿易 されているもの と す る7。i国では,家計 はムだけの労働が保有 してお り,通時的な効用 は( 1 )
と 同様 に以下 のように定式化 される。Ui(0)‑
L00e‑ptlPilogDi(i)+(1‑Pi)logYi(i)]dt. Bn濫 D,I(i)はi国の消費者 による差別化 された財の需要指標 を表 してお り,具体的
には基本 モデル と同様,以下 のように表 される。
D
i (
i,‑l r ' t ' x i ( 3 ・ 7
t,Q d j ] 去
・ (17,ここで,xi(j,i)はi時点 における第 個 の家計によるj番 目の差別化 された財 に関す る需要 を表す。〟(∫)は
2
国に存在す る差別化 された財の総数 (測度) を表す。差別化 された財 は北 もしくは南 の どちらかの国で発明され るが,そ れ らの財 は互 いに貿易 されるために,両国の消費者 にとって消費可能である。また以前 と同様 に
0<a<1
および0<β, < 1
である。Y・(i)はi国の消費者 による同質財の需要量 を表 し,同質財 はニ ュメレールであるもの とす る。 こ の とき差別化 された財および同質財の需要 はそれぞれ(3)および(4)と同様 に し‑268‑
て得 られ る。
f国では,北および南の両国で発明 された財が消費 され る。各国政府 はそ の財が 自国で生産 されたか,海外で生産 され輸入 されたか とは無関係 に, 自 国内で一律 の知的財産の保護水準 wiを設定す る8. さらに前章 と同様 にW,・の 保護水準 を実現す るためには, γiWヲだけの労働を雇用す る必要があるもの とす る。本論文ではβに関 しては両国であるである一方,γに関 しては両国 で異 なるものす る。すなわち,両国間の知的財産保護の困難 さの違 いはγの みを用いて表現 され ることとな る。本論文では一般的 にγ∫> γ〟であるもの として議論を進めることにす る。つま り北 よ りも南のほうで知的財産保護 が よ り困難であると想定す る。 これは多 くの途上国において司法制度や行政機 構の整備が不十分であ り,保護政策 を実行す ることが実際 に困難 であると考 え られるか らである。 また基本 モデル と同様 に保護政策 の費用 は家計か ら一 括税 として徴収 され るが,γは徴収 された保護費用 を用 いて,実際の保護政 策を行 う際の効率性 とも考えることができる。一般的に途上国における行政 の透 明性 および効率性 について は先進 国 ほ ど高 くない と考 え られてお り,
γ∫> γ〃はこの傾向を反映 していると考え ることもできる。
いまi国で
1
単位 の差別化 された財 および同質財 を生産す るのに,aL・単位 の労働が必要であるものとす る。 同質財が両国で生産 されているな らば,2
国間でwN(i)aN‑ws(i)as‑1が成立 していなければな らない.すなわち,労働 生産性の差 は賃金率 によって完全 に相殺 され ることになる。本論文では, こ れ以降同質財が両国で生産 されているような状況のみを考察す る。i国において発明 された財が,北 と南 の両国で特許保護 を受 ければ,i国の 特許保有者が両国の市場に対 して独 占的に財を供給す る権利を保有す ること にな る. したが って この場合 の価格 はpm(i)‑1/αである。 この ときi国の市 場か ら得 られ る利潤 は
q
i ( i ) ‑ ( 憲) I ‑ i ( i ) ( 1 8 ,
と表 される。一方で,例えば北で発明 された財が南で特許 を受 けることがで きないな らば,北の特許保有者 は北の市場 においてのみ独 占利潤を得 ること ができる。一方で,南 においてはその財を生産す るための技術 は,南の企業
‑269‑
によって瞬時 に模倣 され る。 この とき技術 を模倣 した南の企業 は,限界費用 に等 しい価格,すなわちpc(i)‑
1
の価格 で南の市場 に財を供給す ることにな る。 (模倣 によ って技術 を手 に入 れた)南 の企業 は,北で販売 を行 う権利 を 持たないために,北の市場 に対 して財を輸 出できないことに注意 しておこう。最後 に北で発明 された財が両国で特許保護 を受 けることができない場合 には, 両国において財生産 の限界費用 は
1
であ るために, どの国で生産 され るかは 問題 とはな らず,価格 Iipc(i)‑1とな る。第i国で発 明 された財の経済的価値 をvi(i)としよう。 この発明は北 におい てwNの確率 で7TN(i)の利潤 を もた らす一方 で,南 においてはwsの確率 で7Ts (i)の利潤 を もた らす. したが ってvi(i)に関す る非利鞘条件 が以下 の よ うに 得 られ る。
bi(i)+wN打N(i)+LJs打S(i)
‑
ri(i)vi(i).( 1 9 )
こ こでni(i)とはi国 で発 明 され た財 の総 数 を表 す もの とす る。 明 らか に 恥(∫)+〝∫(∫)‑〟(∫)である。研究開発 に関す る技術 は第2章 と同様 に与 え られ る。i国内で
1
単位 の新 しい発明を生 み出すためにa.・b/ni(i)単位 の労働が必要 であると仮定す る.簡単化 のためにパ ラメータb>1
は両国で共通であると 仮定す る。 さ らにi国の知識資本 ス トックは,過去 に両国で発明 された発明 の数 によって測 られ るもの とす る。すなわち過去の研究開発 の成果で測 られ る知識資本 ス トックは両国間で互 いに流 出 し合 うことになる。 この ことは他 国における研究開発 自体が 自国の研究開発 の効率性を高めているとい う意味 で正の外部性 を もた らしている。 また研究開発の 自由参入条件 は以下 のよう に得 られ る。w i (
i)aib a㌔ 右肩 「 ≡ni(i)●
vi(i)≦ CO)
最後 に国民所得 につ いての均衡条件 を記述す ることによってモデルは閉 じ られ る.
(
dNni(i)はi国で発明 された財 の うち,北 において特許保護 されてい る財の総数 を表 している。一方でwsni(t)はi国で発明 された財の うち,南 に おいて特許保護 されている財の総数 を表す。 したがってこの国はの総所得 は, wi(t)Li+wNni(i)7TN(i)+wsni(i)7Ts(i)と表 され ることにな る。 これ らの所‑270‑
得は支出され るか,貯蓄 され るか,租税 として徴収 されるかのいずれかだが, 前節 と同様 に貯蓄は研究開発投資に用 いられ,租税 は保護水準wiの実現 に用 いられる。 したがって国民所得の均衡条件が以下のように表 される。
wi(i)Li+wNni(i)打N(i)+usni(i)打S(i)‑Ei(i)
+
wi(i)γaibhi(i)申 ) +wi(i)TiU.?.
位 1 )
3.2
均衡動学本節 においては,経済の均衡経路 につ いて分析を行 う。 まず分析のために 新 しい変数 としてnN(i)/ns(i)
‑
N(i)を定義す る. この ときN(i)の変化率が以 下のように表 され ることが示 され る (式の導 出については補論6.2
を参照 せよ)01g(i) N(i)+1 N(i) N(i)
JN ‑EN(i)
]‑(N (i)+1)
ただ し,JiおよびAiは以下のように定義 され る.
J i
‑
Li‑T iWtq, Ai‑JN‑Es(i)
wi(1‑α)Pi
ai ' ̀ーllui+(1‑ ui)α浩 ● 一方で両国の支出の成長率は以下のように表現 される。
EN(i)=二:Es(i)
EN(i) Es(i)‑言【EN(i)
・
Es(i)] 一
言(JN・
Js)‑p・ 位認したが って経済の均衡経路はEN,Esお よびNに関す る連立微分方程式で あ
● ● ● る
位
2)およびC3)によって表 される. この経済の定常状態 はEN‑Es‑N‑0を満 たす ように決定 され る。 したが って定常状態 におけるEN,Es,Nをそれぞれ E;,Es+,N*とお くと,位
Z)およびC3)よ り定常状態では以下 の関係が満足 されなければな らない。
.Ⅳ● JN‑E
ふ
Js‑E;
'
Eん+E
; ‑
JN+Js+bp.(紬
e5) まず,
e
2)および伽 を用 いてNの挙動 について分析す る。倒は りN‑0を満 たす (EN,Es,N)は図3(a)のようにEN‑JNの とき,N‑ 0とな り,かつ‑271‑
Es
‑
Jsを漸近線 とす るような曲面 で表 され る. この曲面の上方 にある領域で● ●
はN>0であ り,下方の領域ではN<0である.次に任3)および鍋を用いて,EN およびEsの挙動を分析する.
e
5)よ りN,・=0を満たす (EN,Es,N)は図3(b) のようにE;+Es' ‑J
N+Js+bpを満 たす垂直な平面で表 され る。C
3)よ りE;+図3(a) 〟の変化 図3(b) ENおよびEsの変化
Es'>JN+Js+bpを満たす領域ではEs,Esは共 に同 じ大きさだけ増加するO一方 でぷ+Es'<JN+Js+bpを満たす領域ではEN,Esは共に同 じ大きさだけ減少する.
図
3
(α)および (∂)を組み合 わせ ることによって, この経済の位相図は図 4の ように表 され る. 図4よ りこの経済 の定常状態 は糾
および脚
を満たす(EN,Es,N)空間内の曲線EEと して求 め られ る.Nの任意 の初期値N(0)に 関 して,C4)およびe5)を満たすE;,Es'が一意 に定 ま り, それ以外 のEN,Es, が選択 された場合,経路は定常状態か ら離れて発散 してい くもの となる。 し たが って経済がⅣの初期値〃(0)か ら出発す ると同時 に,〟(0)の もとでの定 常状態値 である
E;
およびE s
'が選択 され (図4におけるA点), その点 に と どま り続 けることになる。 この ことは政策変数である保護水準が変化 した と して も,北で開発 された財の比率 と南で開発 された財の比率 (〟)が全 く変 化せず,各国の支出が新 しい定常状態上 に位置す るように変化す ることを意 味 している。言 い換えればこのモデルにおいて経済 は移行動学を持たず,均 衡経路 は定常状態 に瞬時的に移動す る。3.3
定常状態次 に基本 モデル と同様に, このモデルにおける定常状態 について分析 しよ
図
う。 まず前節 で見た よ うに定常状態 にお いては両国で発明 された財 の総数 の 比率 を表 す〃(∫)は, その初期 水準Ⅳ(0)で一定 に保 たれ る。 この こ とは両国 のイ ノベ ー シ ョン率 は同一 にな るこ とを意 味 している。 また各 国の支 出水準 は
伽
お よび鍋
を解 くことによ り,E; (
W)‑(Li‑γ,・WiO)/aj+bE,・pで一定 とな る。 こ こでE,・‑ni/nで あ る。 先程 と同様 に3.2
節 で の議論 よ りE
,・は定常状 態 においてその初期値 の まま一定 で あ り,保護水準 の変化 に影響 されない。したが って基本 モデル と同様 に,両 国の利子率 は と もに主観 的割引率 と一致 す る ことにな る。具体 的 に定常状態 のイ ノベー シ ョン率 は以下 の よ うに求 め
られ る。
g‑ 宇 〈L
J
NβN(LN‑TN成 +E
NaNbp )
.LJ
sβS(Ls‑TsW呈+E s a
sbp )
aNlLJN+(1‑LJN)α浩 】 I aslLJs
+
(1‑ws)α浩 】) ‑ p
・ e6' これ を( l
l)と比較す ると,以下 の命題 が成 り立つ。命題
2 2
国間の貿易 が存在す る場合 の イノベー シ ョン率 は貿易が存在 しな い場合 の両国の イ ノベー シ ョン率 よ りも大 きい。2国 モデル の イ ノベ ー シ ョン率 は両 国 の知 的財産 の保護水準 (w N,Ws)に 依存 して い る。 この ことによ りg‑g(w N,Ws)とお くと,gをwiで偏微分す る
ことによ り,以下 の関係 が得 られ る。
oTiLJtqlLJi+(1‑ LJi)αTf
; ]
∂ g (
uN,LJ s )
Pi(1‑α)α浩 (Li‑TiLJtq+
Eiaibp)‑∂LJi aib lLJi
+
(1‑ LJi)α‑浩 】2e7) した が って∂g(toN,Ws)/∂W,・‑0を解 くことによ って成長率 を最 大 にす る よ うな保護水準wi'を求 め ることがで き る.扉が満 たすべ き条件 は以下 のよ うに与 え られ る。
C ヒ
(
11 1
0(LiITiLJtq+
Eiaibp)‑07iWtPlwi+(1I ui)αた ] .
e8)C8)よ り,経済 の規模 が大 きいほ ど,生 産 や研究開発 の生産性 が高 いほど,保 護政策 の実施 が容易で あ るほ ど, イ ノベ ー ション率 を最大 にす るよ うな保護 水準 もまた高 くな ることが理解 され る. 特 に跳)よ り以下 の命題 が成 り立つ。
命題3 LN>Ls,aN<as,γN<γSかつEN>E∫であるな らばW;>ws*である。
一方 でwiは0か ら1までの値 を取 り得 るため に,(w N,Ws)は集合[0,1]2
の元 で あ る と言 え る。俳)を もとに,g>
0
であるよ うな (w N,Ws)の取 る領一274‑
域 をE3とお くと,E?は図
5
のよ うに表わ され る。 ここで,Wiは他国が知的 財産の保護水準が0である場合 においてg>0
を保つために最低必要な 自国 の保護水準である。重要な点は,た とえ 自国の保護水準が0
であった として ら,他国の保護水準が十分高い限 りにおいて,研究開発を行 うイ ンセ ンテ ィ ブはな くな らないということである。 これは,他国が十分高 い保護水準を維 持 している限 りにおいて,貿易を通 して高 い収益を実現す ることが可能だからである。
次 に経済厚生 について分析 しよう。基本モデルのケースと同様 に,経済が 初期時点において定常状態にある場合の経済厚生を評価す ることに しよう。
i国の厚生水準 は,両国の知的財産保護 の水準 に依存す るため,
wi (
w N,ws)‑pu.・(0)とす ると,w,・(w N,Ws)は以下のように与え られ る。
w i(UN,US)
=P i ( :
‑1)(9(UNPS)・logluiaTt I(1‑ wi)])・logEI(ui)・^i,e g ,
ただ し, A.・‑log(βi)Pi(1‑ β.・)(1 ei)+log
n( 0 )
である。Cg)を もとに, 自国 の経済厚生が, 自国や外国の知的財産権保護水準 によって どのように影響を 受 けるかを考察 しよう。特にここでは北の経済厚生を例 にとって考えよう。(ゐX,めざ)を北の厚生を最大にするような保護水準 とすると, ∂wN(w N,Ws)
/∂
1 WN 図5 イノベー ション率が正であるような保護水準の組か らな
‑2 る領域
wi‑0,(i‑N,S)を解 くことによ って,(dX,めざ)が満 たす
2
つの条件 をそ れぞれ以下 の ように求 め ることがで きる。α烏 (LN‑TN成 +ENaNbp)‑ CTN成 luN+(1IWN)α一浩 】
+ +
aNb
β 〃
(1‑α)(α烏 ‑1)【uN+
(1‑uN)α烏 】aNba CTN
U S ‑ 1 l uN+( 1
‑uN)α‑た 】2P
み(1‑α)2 LN‑TN鴎+ENaNbp施EE
および
α浩 (Ls‑TsW豊+Esasbp)
=
07sU豊【us+(1‑ws)α烏 1. (31) 鋤よ り北 の厚生 を最大 にす る北 の保護水準 は, イノベー シ ョン率 を最大 にするよ うな保護水準 よ り過小 にな ってい ることがわか る。 これ は命題
1
の場合 と全 く同 じ理 由による.一方 でC8)および( 3
1)より北の厚生 を最大 にす る南の保 護水準 とは,南がイノベー シ ョン率 を最大 にす るよ うな保護水準 に他な らな い ことがわか る。言 い換 え るとd ) S " ‑ws
'に他な らない。 これ は南 の政府が保 護水準 を強化す ることで北 は死加重 を増加 させ ることな く, そ して 自国の保 護強化 に対 して追加的な負担 を強 い られ ることな く,経済厚生 を高めること が可能 にな るか らである。南 の厚生 を最大 にす る両国の保護水準 (のk,のき) につ いて も同 じ結論 が得 られ る。 したが って各国はそれぞれ貿易相手国に対 して, イ ノベー シ ョン率 を最大 にす るよ うな保護水準 を望むであろう。 しか し各国はあ くまで 自国の厚生水準 を最大 にするような保護水準 を選択す ると 考 え られ る。特 に2
国が 自国の厚生水準 を最大 にす るように,知的財産 の保 護水準 を決定す るよ うな状況 においては,興味深 い帰結 を もた らされ ること にな る。4
知 的財産保護 に関す る戦時的決定本章 で は両 国の政府 が, 自国の知 的財産権の保護水準決定す るような非協 力 ゲームを考 え る。特 に本論文 では,南北両国の政府 が他国の設定す る保護 水準 を所与 と して, 自国の保護水準 を最大 にす るよ うな保護水準を決定す る ような状況 を考 え る。 また初期時点 において各国政府 が決定 した知的財産権
‑276‑
の保護水準 は, それ以降変更 されないような状況を考える9。 これは両国政府 がプレーヤーであり,戦略集合が[
0 , 1
] 2,各 プレーヤーの利得関数が位9)で与え られるような同時手番非協力ゲームのナッシュ均衡を求めることと同 じである。4.1
知的財産保護 に関する非協力ゲーム本節では上で示 したように,両国政府が 自国の経済厚生 を最大 にす るよ う に保護水準を決定す るゲームを考える. この とき,(30)よ り,各国は他国が ど のような保護水準 を選択す るか に関わ らず 血書を選択す る ((3馴こおいて, 北 の保護水準 を決定す るのに,南の保護水準 は無 関係である)。言 い換えれ ば 叫 はi国にとって,支配戦略に他 な らない。 したが って以下の命題 を得 る。
命題4 政策決定ゲームにおいて唯一のナ ッシュ均衡 は
( a )
N"
,のき )
で与え ら れる。この ナ ッシュ均衡 は図6において示 されている。南 と比較 して北の経済の規 模が大き く,保護政策の実施が容易であ り, イノベー ションの成果である差 別化 された財への評価 が高 い場合,
曲
射まの
言よ りも高 くな る傾 向が あ る。のX >曲
芸であるようなナ ッシュ均衡 において,南の政府 は北の高 い保護努力図
水準 に 「ただ乗 り」 している状態であるといえる。 南の政府 は差別化 された 財に対す る保護を十分に していないにもかかわらず,北の高い保護水準によっ て研究開発を行 うイ ンセ ンテ ィブが維持 されている。 さらに北の政府 による 高 い保護水準のために,南の経済厚生 は比較的に高 い。他方,南の政府が低 い保護水準 を選択 してい るために,北 の厚生水準 は比較 的 に低 い。 さ らに a)X<Wぷかっのきくws*が成 り立つ. したが ってナ ッシュ均衡 においては,両 国のイノベー ション率 は最大化 されていない。 ここでは若干強い仮定の もと で これ らの結果を命題 と して要約 してお く。
命題5 LN>Ls,γN<γS,βN>βS,aN<asおよびEN>Esであるならば,由X>
鞘
が成 り立つ。 さ らにナ ッシュ均衡においてイノベー ション率 は最 大 になることはない。4.2
知的財産保護 に関する国際的取 り決めの可能性前節 においては,他国の保護政策 を所与 として,各国が 自国の経済厚生 を 最大 にす るように保護政策 を決定す る場合 に,保護水準がイノベーションを 最大 にす るという観点か らも,各国の経済厚生を最大 にす るという観点か ら ち,過小 になることを示 した。本節 においては,効率的な保護水準 について 考察す る。 また最後 に知的財産権保護 に関する国際的調和 に関 して も考察す る。 まずは2国の厚生水準の総和を最大 にするような保護政策の組み合わせを 求めることにする。厚生 の総和 はW(wN,Ws)‑WN(wN,Ws)+ Ws(wN,Ws)で表 され る。 ここで2国の厚生 の総和 を最大 にするような保護水準の組を
( 最
, W'S) とす ると, ∂W(w N,Ws)/∂wi‑0を解 くことによって,(局 ,W'S)の満 たす条件 が得 られ る。 例 えば∂W(wN,Ws)/∂wN‑0を解 くことによって以 下の条件が得 られる。α一浩 (LNITN鴎
+
ENaNbp)‑
G7NW餌uN+
(1‑uN)α一浩 】 aNb(βN
+
Ps)(1‑α)(α 浩 ‑1)【uN+
(1‑wN)α浩】
aNba e7NUL‑1【wN
+
(1‑wN)α浩 】2 βN(βN+
βS)(1‑α)2 LN‑・YN鴎 +ENaNbp(
3 3
W(w N,Ws)をwsで微分す ることによって,南の保護水準 に関 して も同様の 条件を得 ることができる。位8)杏(30)および
鋤
を比較す ることによって,明 らか‑278‑