大学入試センター試験と出願大学選択:
「センターリサーチ」データによる 定量分析
島 根 哲 哉
*は じ め に
本稿では,大学への進学を希望する受験生の出願先選択が,大学入試センタ ー試験(以後,センター試験)の結果や合格の可能性の評価を踏まえたものと して,説明することを試みる。
近年,大学はこれまで以上にその研究・教育活動を通じて豊かな社会の実現 に貢献することを求められており,さらにその成果を定量的に評価することも しばしば求められる。多面的な大学の活動の評価のために,活動成果として発 表された論文数や取得された特許数を集計したり,卒業生,在学生を対象に教 育内容についてアンケート調査を実施することもある。
大学への進学を目指す受験生は,大学の活動をどのように評価しているので あろうか。未だ入学を果たしていない受験生が大学の教育内容や修学によって 獲得される能力を十分に理解しているのかは議論すべき問題ではあるが,最も 高い関心を持って大学の比較検討を行い,出願先大学を選んでいるのが彼らで あることは疑いの余地がない。実現した選択の結果から,消費者の選択肢への 評価を明らかにするためには離散選択モデルによる分析が有効であることは知 られている。しかし,商品や旅行先の選択のように彼らの選択行動から,選ん だ大学に入学することにより期待される効用を離散選択モデルで直ちに計測す
* 香川大学大学院地域マネジメント研究科
[email protected]
ることは難しい。それは,大学は入学者の選抜をしており,最も高い効用をも たらすと判断した大学に出願をしても必ずしも入学を実現することができない からである。そこで,本稿では受験生が直面するそれぞれの大学への合格の可 能性の違いを踏まえて,彼らの出願先の選択を分析することで,受験生の視点 から見た大学の評価を試みたい。
出願大学を選択する問題については,様々なアプローチから分析された例が あるが,明示的に出願した大学に合格する可能性について定式化して分析を 行っている例としては,Chade et al.( )をあげられる。彼らは特に併願の ある出願戦略について,出願先が 校の場合について理論的に検討している。
出願に要する費用を考慮して,能力の異なるそれぞれの学生が他の学生の行動 を戦略的に捉えて出願する状況を考える。様々な情報構造の場合について,入 学を果たす学生の分布を比較静学により分析している。また,Fu( )は,
併願のある場合の出願戦略について
NLSY
データを用いて構造推定をする実 証分析である。Fu( )では全米の 年制大学を{私学,公立},{エリー ト,非エリート}の組み合わせにグループ化し,いずれに出願をするかを分析 した。いずれも出願先を選択する判断において,出願先の大学から合格を得ら れる可能性の程度が重要であることが示されている。一方で,受験雑誌によれば,試験の科目や配点の変更により志願者の出願先 が変動することがしばしば指摘されている。つまり,実現することが不確実な 大学入学後に期待される効用ばかりでなく,合否に関わらず出願すれば経験す ることとなる選抜の手続きそのものの負担が,出願先の選択に関わっていると 考えられる。出願先選択の分析にあたってはその影響を考慮する必要がある。
デ ー タ
本稿では,南関東(埼玉県,千葉県,東京都,神奈川県)に立地する国公立 大学の経済・経営系学部学科の前期日程の募集と,関東地方に立地する国公立 大学の医学部(医師養成課程)の前期日程の募集を対象とした(表 ,表 参 照)。
分析対象を国公立大学の前期日程を対象とした理由は,第一希望校として,
他の併願先の結果にかかわらず,合格した場合に入学する学生が多くを占める と考えたからである。多くの受験生は複数の大学に出願し併願をすると考えら
募集人数 志願者数 合格者数
大学 略号 募集区分 略号
東京大学
ut
文科二類 前期日程ut_b
, , ,一橋大学
hit
商学部 一般 経済学部 一般:前期日程hit_b
hit_e
,千葉大学
chib
法経学部経済学科 一般:前期日程chib e
埼玉大学
sai
経済学部経営・経済・社会環境設計 前期一般 経済学部経営・経済・社会環境設計 前期センターsai_eg sai_ec
横浜 国立大学
ynu
経済学部経済システム/経済 一般・前期日程 経済学部経済システム/法と経済 一般・前期日程 経済学部国際経済 前期日程
経営学部(昼)経営 一般・前期日程 経営学部(昼)会計・情報 一般・前期日程 経営学部(昼)経営システム科学 一般・前期日程 経営学部(昼)国際経営 一般・前期日程
ynu_ee ynu_el ynu_ei ynu_bb ynu_ba ynu_bs ynu_bi
首都大学 東京
met
都市教養経営学系 一般 都市教養経営学系 前期
A区分
都市教養経営学系 前期B
区分met_b met_ba met_bb
,
横浜市立大学
ycu
国際総合科学経営科学系 一般・前期日程ycu_b
, ,募集人数 志願者数 合格者数
大学 略号 募集区分 略号
東京大学
ut
理科三類:前期日程ut_r
東京医科歯科大学tmdu
医学部医学科:前期日程tmdu_m
筑波大学tkb
医学群医学類:前期日程tkb_m
群馬大学gu
医学部医学科:前期日程gu_m
千葉大学chib
医学部医学科:前期日程chib_m
横浜市立大学ycu
医学部医学科:前期日程ycu_m
表 分析対象:募集区分・募集人数・志願者数・合格者数(経済・経営系学部)
表 分析対象:募集区分・募集人数・志願者数・合格者数(医学系学部)
れる。併願をした受験生が複数の大学から合格通知を受け取った場合,大学に 入学して実際に効用(便益)が生じるのはそのうちの一つだけである。Chade
et al.
( )で詳細に検討されるように,出願先の決定は,個別の大学ごとに出願を判断するというよりも,併願校を含めた出願校のポートフォリオを期待 効用を最大化するように決定すると考えるべきである。さらに,併願する大学 がより高い効用が期待できる場合には,出願の判断を併願大学の状況を入れず に捉えることは難しい。ここで,国公立大学については,私立大学と比べてか なり学費が低く,合格した私立大学と比較して国公立大学を選択するものが多 いと考えた。このとき,国公立大学そのものの入学時に得られる効用が意思決 定の基礎となっていることが期待される。さらに国公立大学同士の併願につい ても,前期日程については合格しても,後期日程の試験までに入学の意思を示 すことが求められ,またこれに入学の意思を示した時にはそれ以降の受験機会 の権利が失われることから,前期日程の志望が優先されると言える。これらの 特徴から,国公立大学の前期日程への出願は第一希望の出願であると考えた。
受験生の出願および合否に関するデータは,代々木ゼミナール発行の「大学 入試難易ランキング」および同校が
Web
上に公開した「大学別得点分布表」⑴ を用いた。このデータは代々木ゼミナールが実施した「センターリサーチ」の 調査結果で,センター試験の自己採点の結果,出願の希望,さらに実際に出願 した大学についての合否についての受験生にアンケート調査したものがまとめ られている。前年の入試の結果としてセンター試験の得点別に合格者と不合格 者の人数が示されている点が注目に値する。計画されたサンプリング調査では ないが,国公立大学に関しては,調査に協力し,またその結果に基づいて出願 方針を決定する志願者が多いため,参加者は十分に多いと考えられる。国公立大学については,それぞれの入学試験日程について出願者,受験者,
合格者の数が公式に発表されている。この結果から「センターリサーチ」を通 じて捕捉された受験生が,それぞれの大学の出願者の中で占める割合が合否別
( ) 現在は非公開
にわかる。本稿では,「センターリサーチ」に回答したサンプルは,全合格者,
全不合格者からランダムに抽出されたとみなした。さらに,全合格者数とサン プルの合格者数,全不合格者数とサンプルの不合格者数の比率でサンプルを複 製し,擬似的にそれぞれの大学の出願者データを作成した。
今回利用した「大学別得点分布表」では,度数分布表の形式で合格者,不合 格者別にセンター試験の得点が示されている。度数分布表に総人数として含ま れながら,表中に現れなかったものについては,合格者については表の最も高 い階級よりも高く,不合格者については最も低い階級よりも低い,階級を追加 しここに属するものとした⑵。
センター試験の結果の利用方法はそれぞれの大学に任されており,大学によ りセンター試験で受験を要求する科目とそれらを評価する際に用いる配点が異 なる。利用したデータではそれぞれの大学ごとの科目と配点で計算された出願 者の得点が記録されている。そこで,異なる大学への出願者の間で比較できる ようにするため,ここでは記録されたセンター試験の結果に関しては正解率と して扱い,それぞれの得点を規定の満点で除したものとする。
大学合格の条件付き確率
. モデル:合格確率と出願大学の選択
進学を希望する受験生
n
が,出願可能な選択肢j= ! "! !
から つの大学を 選ぶとする。出願した大学j
を受験し,入学を果たした場合には"
$! #
$! "
$% の効用を,試験の結果が不合格であった場合に"
!! #
$! "
$%の効用を得るとす る。ここで,"$は入学試験に合格し,大学j
に入学を果たすことで獲得する ことが期待される効用を表し,大学で獲得される能力を通じて追加的に得られ る生涯の所得などの現在価値などが含まれると考える。一方で"
!は入学試験 の結果が不合格であった場合に得られることが期待される効用とする。#$は,大学
j
を受験するにあたりその合否の結果にかかわらず生じる出願の広義の( ) 著しく高いセンター試験の正解率にも関わらず不合格の例は除外した。(千葉大学医 学部の 例)
コストを表し,出願費用,試験準備の負担などが含まれる。"$%は受験生
n
の 嗜好や居住地から大学までの距離など,個人ごとに異なる出願先の決定要因と する。出願時に受験生n
はそれぞれの大学j
に出願した場合に合格できる可能 性を確率!
$%として既知であるとする。このとき,j大学に受験生n
が出願し た場合の期待効用は以下のように表せる。!
$%$ % " ! !
$%& "
!" !
$%"
$" #
$" "
$% ⑴受 験 生
n
は こ の 期 待 効 用!
$%を 最 大 に す る よ う に 出 願 先$
%#を 選 ぶ。$%#$
#&$%#'
$!
$%。ここで,合格確率!
$%をn
は知っているとして,観測できない"
$%が独立に第一種の極値分布に従うと仮定すると,受験生n
が出願先にj
大学を選ぶ確率は条件付きロジットモデルとして以下のように表せる。
図 全合格者数・不合格者数に合わせて複製されたサンプルのセンター試験の得点率分布
( 年入試・経済・経営系学部)
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&'& #
!" "
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&" $
&&
⑵しかしながら,受験生
n
が直面するそれぞれの大学に出願した場合に合格 する確率は研究者には明らかではない。. 合格確率のロジットモデルによる推定とその問題点
出願を検討している受験生は,大学ごとの他の受験生の出願動向や試験を通 じた選抜方法について十分な知識を持ち,さらに自身のセンター試験の結果に 基づいた合格の確率を理解しており,これは実現した合否の結果に近い正確な 理解であると仮定する。そこで大学ごとに実際の出願者数に合わせて複製され たサンプルで合格・不合格をそれぞれのセンター試験得点率でロジットモデル により推定した。得点率の定式化については 次までの多項式を試みたが,
次項を加えると結果が不安定になる場合があり, 次項のみとした。得られた 推定式に基づいて,得点率
s
の場合のj
大学の合格の条件付き確率"
%'の推定 値" (
%"%& (
を得た。しかしながら,実際に出願した受験生を対象とする「センターリサーチ」の 結果をサンプルとして,センター試験の結果で条件づけられた合格の確率をロ ジットモデルなどを用いて推定する場合には,サンプルセレクション問題の恐 れがある。高木( )は,出願の希望を持った受験生がセンターリサーチの 結果を見て,センター試験の得点の成績上位層と下位層が,それぞれ他の大学 に出願先を切り替えてしまう「輪切り」を問題としている。しかし,受験生は 同じ成績上位層でも,従来の準備状態からより高いセンター試験の結果を期待 していたものと,期待していたよりも高いセンター試験の結果を得たものが混 在していると考えられる。これらのうち,より高い成績が期待されたものは,
次試験においても良い結果を残せると確信し,より難易度の高い出願先に挑 むと考えられる。一方で,期待していた以上のセンター試験の結果を得たもの は, 次試験にそれほどの結果が期待できないため,出願先の変更をためらう かもしれない。これは成績下位層についても同様で,予想よりもセンター試験
の結果が振るわなかったものは,同じ成績下位層であっても, 次試験におい て挽回できる機会があると考え出願先を変更しないと考えられる。このように 分析者にはわからないが受験生本人が知る情報に基づいて,より合格の確率の 高い学生とより合格の確率の低い学生がサンプルから除外された状態でロジッ ト分析を行った場合,センター試験の結果の違いが合格の確率に与える効果が 薄められてしまう恐れがある。
このようなサンプルセレクションが生じる可能性は,センター試験の結果以 外の合否判定の要素があるためと言える。例えばセンター試験の結果が良くな かった場合に,センター試験の結果のみで合否の判定が行われるのであれば,
センター試験の結果に応じた合格の可能性と大学入学時に得られる効用を出願 先決定の判断の基準となり「輪切り」は生じるがサンプルセレクションは生じ ないであろう。 次試験など他の判定要素の配点が十分大きい場合には, 次 試験で挽回が可能と私的情報に基づいて判断する受験生は同程度のセンター試 験の結果を得た学生より挑戦的な出願先を選ぶであろう。つまりセンター試験 以外の要素に配点する大学では,サンプルセレクションにより条件付き合格確 率の推定にバイアスを生じやすくなると考えられる。
. 代ゼミ「センターリサーチ」のボーダーの利用
「センターリサーチ」とは,センター試験の自己採点の結果を予備校が集計 して合格可能性を示すサービス(河合塾のバンザイシステム,駿台・ベネッセ のデータネットなど)のことであり,今回利用したデータも本来このサービス を実現するために収集されたものである
⑶
。広く普及していることからも,実際 に受験生が合格の可能性の見積もりに利用する情報として有力なものと思われ る。その精度については,高木( )によれば,名古屋工業大学機械工学科 の実際の合格者・不合格者の分布と比較して「河合塾のボーダーはかなり妥当 な線である」と評価している。
( ) 代々木ゼミナールは現在は「センターリサーチ」の事業を行っていない。
このボーダーが推定される手順については,受験雑誌「螢雪時代」の記事に よれば「図はある大学の受験者を合格者と不合格者に分けて,センター試験の 得点率で分布を作成したものです。(中略)( 次試験の)得点は加味されてい ませんので,センター試験の得点が高くても不合格,低くても合格,となって いる受験生もいます。合格者と不合格者の数がほぼ半々になっている得点率
%を「ボーダー得点」としています(後略)」(螢雪時代, 年 月号
p.
) と説明されている。詳細は不明な点もあるがパラメトリックな仮定を置かない 手順で求められ,前述のセンター試験得点の条件付きの合格確率と必ずしも一 致した概念に基づくものではない。一方でそれぞれの予備校は,それまでの模 擬試験などを通じて,一般には公表されていないそれぞれの受験生の能力につ いても情報を持っていると考えられる。センター試験の点数だけを用いて実際 に出願した受験生のサンプルによる推定で問題となるサンプルセレクションに ついても対処されていることが期待できる。そこで,本稿では合否のセンター 試験スコアによるロジット分析を通じて求めた条件付きの合格確率と合わせ て,代々木ゼミナール発表の「センターリサーチ」の判定に基づく合格可能性 を用いて,結果を比較した。利用にあたっては,センター試験得点に対する各判定の閾値が得られたので,
これを得点率
s
に直して,それぞれの受験者の得点率に対応する判定に対して,その階級値を合格可能性
! !
!!" "
として与えた(表 参照)。ただし,代々木ゼ ミナールが実施していた「センターリサーチ」に関しては, 年入試より年入試以前 年入試以降
判定 階級名 合格可能性 階級値 階級名 合格可能性 階級値
A
合格安全圏 %以上 . 合格安全圏 %以上 .B
標準合格圏 − % . 標準合格圏 − % .C
合格挑戦圏 − % . ボーダーライン − % .D
合格低率圏 %以下 . 合格挑戦圏 − % .E
− − − 合格低率圏 %以下 .表 代々木ゼミナール「センターリサーチ」判定の定義
! "
#
! "
#
if k
がl
大学の募集区分 それ以外if k = j
それ以外発表形式が改められ,従来 段階(A:合格安全圏,B:標準合格圏,C:合 格挑戦圏,D:合格低率圏)で発表されていたものが, 段階(A:合格安全 圏,B:標準合格圏,C:ボーダーライン,D:合格挑戦圏,E:合格低率圏)
で発表されるようになり,これに伴いそれぞれの段階が示す合格可能性の定義 の説明も変更された。
出願先選択分析
式⑴で示したように,受験生
n
は,入学後に得られる効用&
)ばかりではな く,入学許可が得られる可能性"
),,不合格であった場合に実現する効用&
!, 合否に関わらず受験する際に生じる費用など'
)について考慮して期待効用水 準の最大化を図るとする。この時,観測されない個人的な要素である#
),を第 種の極値分布と仮定すれば,受験生n
がj
大学に出願する確率を式⑵で記述 することができた。ここでは,受験生
n
のセンター試験スコア(得点率)-,に基づくj
大学へ の合格の確率"
),を推定値" $
)%$ % -
,,"$
)($ % -
, を用いて,&),&!,')を推定し,これらの大学による違いと,大学の教育活動の成果や入学試験の実施方式との 関係を明らかにする。
■募集区分別,大学別ダミーによる出願先選択モデルのロジット分析
式⑴に含まれる
&
!,&
),'
)j= ! &! $
を定数のパラメータとして募集区分 別ダミー変数"
!,大学別ダミー変数"
#を用いた条件付きロジットモデルと して推定する。つまり,期待効用を以下のように定式化して,推定を行う。.
),# $ " ! " $
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)" #
), ⑷ただし,"*!
$%# )
,"+#$%# *
募集区分別のダミー変数を用いた式⑶のモデルを経済・経営系学部への出願 者について適用して,各年毎に推定した場合と カ年をプールしたサンプルと について推定した。&"を一定として制約した場合について推定した結果(表
,表 ),&"をパラメータとして推定した結果(表 ,表 )を以下に示す。
⑴ ⑵ ⑶ ⑷
–
%
! − .***
− .***
− .***
− .***
% #
#hit_e
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それぞれの表の中で⑴,⑵,⑶と記されたものがそれぞれ, 年, 年,
年入試に対応するデータのみの分析で,⑷はこれら カ年分をプールし たサンプルを用いた分析の結果である。表中ではそれぞれの募集区分について 表 で示した略号を用いて表記している。いずれの例も東京大学文科二類(
ut _b
)をゼロとして基準にした特定化を行っている。つまり,"%$"#!を東京大 学文科二類に入学後に獲得する効用として,"&をj
大学に入学後に獲得する 効用とすれば,パラメータとして推定されるのはこれらの差( '
&""
&! "
%$"#!で あることに注意する必要がある。これは#
&についても同様で,識別されるの は基準となった選択肢との差である) '
&"#
&! #
%$"#!である。表 ,表 にある全てのケースについてもカイ 乗統計量をみると有意なこ とから
(
%一定であることが棄却され,合格の確率を考慮してそれぞれの出願 先の評価を行うことが有効であることがわかった。さらに,)%を加えて分析 した結果の表 ,表 と対応させて尤度比検定をそれぞれ行うと,全てのケー スで)
%一定の仮説が棄却され,試験の合否決定前の条件も出願の判断に影響 することが確認できた。また, 年毎のクロスセクションの分析の結果については,尺度が共通では ないため推定された係数の大きさについて直接に異なる年次で比較することは できないが,それぞれの年での選択肢の比較した結果を表していることから,
推定結果の選択肢間の順位について経年的に比較を行うこととする。順位の経 年比較を容易にするために,推定された
(
%,)%の値の大きいものからの順位 をグラフにまとめた,図 ,図 ,図 および図 ,図 ,図 を作成した。順位の変動を,)&を一定に制約した推定の結果に基づく,図 ,図 でみ ると,順番の入れ替わりが多く行われ, 年から 年, 年から 年を通じてそれぞれロジットモデルに基づく条件付き合格確率
! &
&!#$ '
% を用い ているケースで 回,センターリサーチの報告に基づく合格可能性! &
&$#$ '
% を 用いたケースで 回確認できる⑷
。
( ) 順位の入れ替わりは図中のグラフの交点を数え上げることで確認できる。
図 推定結果 入学後効用
" !
!の順位変動 経済・経営系学部,ロジットモデルによる合格確率! !
!!" $
#利 用,%#=一定図 推定結果 入学後効用
" !
!の順位変動経済・経営系学部,センターリサーチによる合格確率
! !
"!" $
#利用,%#=一定
図 推定結果 入学後効用
" !
!の順位変動経済・経営系学部,ロジットモデルによる合格確率
! !
!!" #
"利用
図 推定結果 入学前効用
# !
!の順位変動経済・経営系学部,ロジットモデルによる合格確率
! !
!!" #
"利用
図 推定結果 入学後効用
" !
!の順位変動経済・経営系学部,センターリサーチによる合格確率
! !
!!" #
"利用
図 推定結果 入学前効用
# !
!の順位変動経済・経営系学部,センターリサーチによる合格確率
! !
!!" #
"利用
一方で,&$を出願先により異なるとして推定した場合,図 ,図 で確認 すると両例とも, 回ずつ
%
$順位の入れ替わりが確認された。ここで図 , 図 で,入学試験前効用に相当する&
#の順位の変動を見るとそれぞれ 回 と 回の順位の入れ替わりが観察された。&$を定数として分析した場合に入 学後の効用%
$に多くの順位の入れ替わりが観察された一方で,&$も推定する と,大学入学後に期待される効用%
$の順位は大きく変化することなく,推定された
&
$の方が入れ替わりが激しい。つまり,大学入学後の評価については比較的安定しているが,一方で入学の可能性に影響されない試験前の評価がよ り多くの順位の変動をもたらすことがわかった。そのため,制約を課して
&
$ を取り込まずに定式化した場合には,本来&
$で説明されるべき変動が%
$の推 定結果に偏りをもたらす恐れがある。ここでは,合格確率にロジットモデルよる推定値
! !
$!とセンターリサーチの公表値
! !
$"を用いているが,それぞれの対応する結果を見ると,異なる係数が推定値として出ている。しかしながら順位でみると,一致する部分も多い。与 えている合格確率の系が異なり,いずれを採用するかで受験生全体での合格確 率の平均値の違いなどから推定された係数の値そのものはずれるが,推定結果 に現れる選択肢の順序については一致する部分も多いことが確認できた。これ によりロジットモデルで合格確率を推定した場合のサンプルセレクション問題 の影響が限定的であったことが推測できる。
埼玉大学(
sai
),横浜国立大学(ynu
),首都大学東京(met
)などでは一つ の学部に複数の入学試験方式を導入したり,複数の学科・コースを設置してい る。これらの募集区分を経て入学した学生は同一の学部のカリキュラムに沿っ て教育を受けることから,同程度の水準の効用が得られると考えることができ る。募集区分別ダミーを利用した分析の結果(図 ,図 参照)を見ると,入 学後に期待される効用を表す%
$の推定値は,横浜国立大学の経済学部,経営 学部や首都大学東京については,近い順位で比較的まとまって現れ,この考え を裏付ける。その一方で埼玉大学に関しては二つの方法で大きく結果が異なり,実態に沿ったものであるか疑問である。
そこで,入学後の効用に対応する部分について大学毎に一定な
'
%!と置いた 式⑷のモデルに基づいて推定を行った。募集区分別ダミーの分析と同様に,(
%を定数とした分析結果を表 ,表 に,(%をパラメータとして推定した結 果を表 ,表 に示す。またそれぞれの'
%!,(%の推定値の大きさの順位に ついてグラフとしてまとめたものを,(%を一定とした推定結果の'
%!について 図 ,図 に,'
%!,(%いずれも推定した結果について図 −図 に示す。'
%!の順位に注目すると,!"
%"に基づいた場合と! "
%#に基づいた場合で,よく⑴ ⑵ ⑶ ⑷
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. . . .Log-lik.
− . − . − . − .Chi-squared
. . . .表 大学別ダミーを用いた出願先選択モデル推定結果 経済・経営系学部,ロジットモデルによる合格確率
! "
"!" &
$ 利用,($=一定Standard errors in parentheses
* p< . ,** p< . ,*** p< .
似通ったものが得られる。その一方で,'$を一定と制約した場合とこれをパ ラメータとして推定した場合では,現れる順位の特徴に違いが見られる。例え ば首都大学東京(met)は,'$を一定とした場合は 年ではいずれも 番 目であるが,'$を推定した場合にはいずれも 番目となる。対応する
'
$の順 位を確認すると首都大学東京は 年入試では'
$が − 番目と高順位であ ることが確認できる。このようにここでも,'$を一定とした場合に,&$の推 定に影響が現れることがわかる。⑴ ⑵ ⑶ ⑷
–
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N
AIC
. . . .Log-lik.
− . − . − . − .Chi-squared
. . . .表 大学別ダミーを用いた出願先選択モデル推定結果
経済・経営系学部,センターリサーチによる合格確率
! "
"!" %
#利用,'#=一定Standard errors in parentheses
* p< . ,** p< . ,*** p< .
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AIC
. . . .Log-lik.
− . − . − . − .Chi-squared
. . . .表 大学別ダミーを用いた出願先選択モデル推定結果 経済・経営系学部,ロジットモデルによる合格確率
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# 利用,'#推定* p< . ,** p< . ,*** p< .
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ynu_bi
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N
AIC
. . . .Log-lik.
− . − . − . − .Chi-squared
. . . .表 大学別ダミーを用いた出願先選択モデル推定結果
経済・経営系学部,センターリサーチによる合格確率
! "
"!" %
# 利用,'#推定* p< . ,** p< . ,*** p< .
図 推定結果 大学別入学後効用
# !
"!の順位変動 経済・経営系学部,ロジットモデルによる合格確率! !
!!" %
#利用,&$=一定
図 推定結果 大学別入学後効用
# !
"!の順位変動 経済・経営系学部,センターリサーチによる合格確率! !
"!" %
#利用,&$=一定
図 推定結果 大学別入学後効用
# !
"!の順位変動 経済・経営系学部,ロジットモデルによる合格確率! !
!!" #
"利用
図 推定結果 大学別入学前効用
$ !
"の順位変動 経済・経営系学部,ロジットモデルによる合格確率! !
!!" #
" 利 用図 推定結果 大学別入学後効用
# !
"!の順位変動 経済・経営系学部,センターリサーチによる合格確率! !
!!" #
"利用
図 推定結果 大学別入学前効用
$ !
"の順位変動 経済・経営系学部,センターリサーチによる合格確率! !
!!" #
"利用
次に,医学部の入試に関する分析結果を,表 −表 と図 −図 に示 す。%#,&#について,東京大学理科三類(ut_r )をゼロとして推定した。カ イ 乗統計量をみるといずれのケースでも有意に係数がゼロである仮説が棄却 されることから,%#が一定であることが棄却される。また表 ,表 の
&
# が一定に制約された推定の結果と,表 ,表 の結果を用いて尤度比検定を 行うと,これについてもいずれのケースでも&
#が一定であるという仮説が有 意に棄却される。推定された係数の順位を,&#を一定とした場合と異なるパラメータとして 推定した場合で,図 と図 ,そして図 と図 を比較する。経済・経営
⑴ ⑵ ⑶ ⑷
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. . . .表 募集区分別ダミーを用いた出願先選択モデル推定結果 医学系学部,ロジットモデルによる合格確率
! "
!!" $
" 利用,&"=一定Standard errors in parentheses
* p< . ,** p< . ,*** p< .
系学部の場合と異なり
&
#を固定した場合の方が入学後効用の水準%
#の順位の 変動が乏しく,&#を推定した場合により多くの%
#の順位の変動が確認できる。また,&#の順位の変動も多く観察できる。
医学部の入試について特筆すべきは,新医師確保総合対策および緊急医師確 保対策により,一部の大学で定員の増加が 年より実施されている。定員 の増加は観察した − 年についても行われ,群馬大学医学部(gu_m)な どでは,分析対象となった募集区分についても募集定員の変更が見られる。こ のような環境の変化が,&#を一定とした場合には
%
#と&
#の影響が混合して しまい現れにくくなっているとも考えられる。⑴ ⑵ ⑶ ⑷
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. . . .Log-lik.
− . − . − . − .Chi-squared
. . . .表 募集区分別ダミーを用いた出願先選択モデル推定結果 医学系学部,センターリサーチによる合格確率
! "
!!" $
"利用,&"推定Standard errors in parentheses
* p< . ,** p< . ,*** p< .
図 推定結果 入学後効用
" !
!の順位変動 医学系学部,ロジットモデルによる合格確率! !
!!" %
#利用,&
$=一定図 推定結果 入学後効用
" !
!の順位変動 医学系学部,センターリサーチによる合格確率! !
"!" %
#利用,&
$=一定図 推定結果 入学後効用
" !
!の順位変動 医学系学部,ロジットモデルによる合格確率! !
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# !
!の順位変動 医学系学部,ロジットモデルによる合格確率! !
!!" #
" 利用図 推定結果 入学後効用
" !
!の順位変動 医学系学部,センターリサーチによる合格確率! !
!!" #
" 利用図 推定結果 入学前効用
# !
!の順位変動 医学系学部,センターリサーチによる合格確率! !
!!" #
" 利用!"#
!"# !# "
#
■出願大学の属性による出願先選択モデルのロジット分析
!
#,"#についてここまでは,定数のパラメータとして推定し,推定された 結果の大小について順序に基づいて議論をした。ここでは,それぞれの大学の 選択肢としての魅力を表す!
#,"#がどのように形成されているのか,大学の 教育内容や成果,入試方法の特性により説明することを試みる。これにより,受験生から見た大学の評価と大学教育や入試方法の関係を明らかにする。その ために,以下のように志願者
n
がj
大学に出願した場合の期待効用を定式化す る。&
#$# $ " ! ! #
#$ % %
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!" ! #
#$ % %
$!
#!"
!" !
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"" "
#$ ⑸ただし,!#!は入学後効用
!
#に対応するj
大学の属性ベクトルであり,!#"は 入学前効用"
#に対応するj
大学の属性ベクトルである。"
!,"
" はそれぞれ に対応する係数ベクトルとする。経済・経営系学部については
!
#!を募集定員(quota), 経済学専攻(M_econ),経営学専攻(M_busi)によって,!#"を入学試験で課されるセンター試験の教 科数(nSC), 次試験の教科数(nS ), 次試験の配点比率(exW)で構成 されるとした。ここで,募集定員と教科数は実際の数で,配点比率は合否判定 に占める 次試験の結果の割合で から の数値で,専攻については,経済学
(もしくは経営学)のカリキュラムに入学可能な募集区分であれば を,そう ではなければゼロを取るダミー変数である。
医学系学部については,!#!を募集定員(quota),医師国家試験合格者数
(nMed),医師国家試験合格率(rMed)で,また
!
#"を 次試験の教科数(nS ) と 次試験の配点比率(exW)の式で構成されるとした。ただし,国家試験合 格者数は入学試験の時点で直近の医師国家試験における卒業生の合格者数,ま た国家試験合格率は国家試験を受験した卒業生の合格率である。ここでは, 年から 年の ヶ年のサンプルをプールしたものを分析 の対象とする。
それぞれの結果を,表 −表 に示す。