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クラスにおける語嚢ノート作成の経緯と効果

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長崎大学留学生センター紀要 第15 2007

45

初級

クラスにおける語嚢ノート作成の経緯と効果

夢田 美有紀

キーワー ド 初級学習者 語桑学習 チームティーチング

1

.は じめに

日本語 をゼ ロか ら学習す る際、ひ らがなやカタカナ と文型、語嚢 とを平行 して学習することが多い。そのため、文字の習得 に時間がかかると、文型、

語嚢の習得 に支障をきたす ことがある。文型が分かっていても、語嚢が少な いために日本語で文を産出す ることが困難な 日本語学習者 (以下、学生) を 多 く見てきた ことか ら、文字、語嚢を効果的 に提示することが 日本語学習 に 役立つのではないか と考 えるようになった。

文字 については現在 さまざまな教材があるが、語嚢学習の教材はあま り多 くないのではないだろ うか。また、谷内

( 2 0 0 2 )

は 日本 における語桑研究の 遅れを指摘 しているが、現在でもあま り多 くない ように思われ る。 しか し、

項 目学習 としてばか りでな く体系学習 としての要素 も語嚢学習 に取 り入れ ることができる」 (相津

2 0 0 6 , p. 3 7 )

、 「学習者 にとって単語 リス トはやは り 有効なものであ り、その内容 と提示方法が吟味 されることにより、語嚢習得

に対す るさらなる効果が期待できる」 (水野 ・福井

2 0 0 3 , p. 6 4 )

な ど、語嚢 研究が進む ことによる語嚢学習‑の効果は指摘 されている。

筆者は前任校 において初級の教科書 を作成 ・改定 してきた。その教科書は 各課の始めに語桑練習をつ けたのが特徴的であった。文法学習の前 に語桑練 習を行い、語嚢をある程度理解 させれば文法学習を比較的楽 に進め られ ると 考えたか らである。実際に使い、語桑練習が文法学習を助 けるだけでな く、

学生が多 くの新出語の中で どれがその課 に特 に必要な語嚢を判断する指針 と なっていること、 さらに、必要 に応 じて前の課の語嚢練習を見ることにより、

アウ トプッ ト活動 をする際に役 に立っていることを感 じた。

この経験か ら、長崎大学留学生セ ンターの初級 クラスにおいても語桑練習 に相当するものが作 りたい と考 え、初級 クラスのコーディネーターになった のを機 に語嚢 ノー トを作成 した。本稿ではこの語嚢 ノー トの作成の経緯 と使

(2)

46

初級Ⅰクラスにおける語桑ノー ト作成の経緯 と効果

用の実際、 さらに今後の方向性 について述べたい。

2.

語嚢 ノー トの作成

前任校での経験か ら、語嚢ノー トを作 ることによる学生‑の効果はある程 度期待ができると考 えていたが、長崎大学では、教師間の連携 も期待できる

と考 えた。

長崎大学ではチームティーチングで授業が行われてお り、教師は週 に一度 しかそのクラスに入 らない。積み残 した文法な どは次の担 当者 に引き継いで いるが 、 どんな練習 をしたかな どの細かい部分は各担 当教員 に任 されている。

当然、語桑の扱いについても各教員 に任 されてお り、必要な語嚢が落ちたま ま進んで しま う可能性 もある。語桑 ノー トを作ることによる教師‑の効果 と して、(彰教師が 自分の担当課で最低限必要 とされ る語嚢を把握できるので、

必要な語嚢を入れ忘れ ることがない、②前の課までにどんな語嚢が入ってい るべ きなのかを学生 に示せ るので、覚えるべ き語桑だ と学生 に言いやす くな る、があると考 えた。学生‑の効果 としては語桑 ノー トを持 っているため、

教師か ら必要語桑だ、覚えるべ き語嚢だ と言われ ることにより、語桑学習の 必要性 を自覚 しやす くなることが考 え られる。また、初級では語桑は絵カー ドにより導入 され ることが多いが、絵カー ドがな くても日常生活や勉強 ・ア ルバイ トを行ってい く上で重要な語嚢 もある。それ らをこの語尭 ノー トで拾 い、 日常生活で使 うのにも役立てたい と考 えた。

2.1. 2 0 0 5

年度後期

以上のように考え

、2 0 0 5

年夏に主教材である 「新 日本語の基礎

Ⅰ」

に沿っ て語嚢 ノー トを作成 した。語嚢 ノー トのタイ トルは学生 にも分かるよう 「よ

しゅ うノー ト」 としたが、 ノー トの性格上、本論では 「語嚢ノー ト」 と示す。

各課の新 出語嚢の中か らその課の学習項 目に必要 と考 えた語嚢を抽出し、必 要 に応 じて学生が使いそ うな語嚢 も提示 した。語桑は基本的 には絵 とひ らが なをつ けて提示 した。絵は主 にク リップアー トのものを使 ったが、適当な絵 がない場合は教材 に使われているものを使 った。絵 にしにくい語嚢 について は、語桑 に英語、中国語の意味をつ けて提示 した。英語 と中国語 しか訳 をつ けなかったのは、今までの受講生を考 え、 この二言語 どちらかで多 くの学生 が理解できると考 えたか らである。

(3)

長崎大学留学生センター紀要 第15 2007

47

各課で中心的 に取 り上げた語嚢は以下のものである。

1

課 :国名

2

課 :物

3

課 :場所

4

課 :動詞、曜 日、時の副詞

5

課 :動詞、場所、交通手段、 日付、週、月、年

6

課 :動詞、動詞の目的語 となる名詞

7

課 :動詞、道具、家族

8

課 :形容詞、形容詞 に接続する名詞

9

課 :形容詞、形容詞の主題 となる名詞、病気表現

l

o裸 :位置の名詞、部屋 にある物、場所

1 1

課 :助数詞、助数詞を使 う名詞

1 2

課 :形容詞、天気

1 3

課 :動詞、空腹時な どの表現

1 4

課以降は動詞や形容詞を主 に提示 し、その動詞や形容詞 とともに使 える 名詞を中心 に取 り上 げた。

また、各課で取 り上げられている語桑のほかに付 け加 えた語嚢は以下のも のである。 これ らの語嚢の前 には

「*」をつ け、追加語嚢であることが分か

るようにした。

1

課 :クラスに入 って くる可能性のある学生の国

5

課 :市電 ‑・交通手段の語嚢 として

6

課 :食べ物 (教科書では

8

課)、飲み物 (教科書では

9

課) ・‑肉、魚、

ジュース、 コー ヒーな どの上位概念 として

8

課 :暖かい (教科書では

1 1

課)、 うるさい‑・新出形容詞の反対の形容詞 として

1 2

課 :晴れ ・‑天気の語桑 として

21

課 :違います ・‑ 「同じです」が絵で分かるように

逆 に、提示 を遅 らせたものは 「りんご

で、教科書では

6

課で扱われてい るが、他の果物の名前が扱われている

9

課 に入れた。提示 を遅 らせた り早め

(4)

4 8

初級 Ⅰクラスにおける語嚢 ノー ト作成の経緯 と効果

た りしたものは、本来提示 されるべき課 にも語嚢を載せ、

夢」

をつ けて、語 嚢ノー トで載せてある課を示 した。

このようにして作成 した語桑 ノー トを必要枚数カ ラーコピー し、冊子 にし た。学生 には授業の初 日に配布 してもらい、初 日のガイダンスで毎 日持 って くるように指導 した。担当教員 には授業開始前の打 ち合わせ会で配布 し、適 宜使 ってもらった。2005年度後期、筆者はコーディネー トのみで授業には入 らなかったので、効果は実感できなかったが、学期終了時 に担当教員に使用 感を聞いた ところ、おおむね好評であった。また、各課の語嚢導入時に使 う 以外 に、た とえば 「ほしい」の練習の ときに名詞がなかなか出て こない学生 のために名詞が多 く出されている

2

課のページを見るように指示 して授業を 進めた教員 もお り、語嚢 ノー トが活用 されていることが伺 えた。一方、学生 は毎回の授業 に必ず持 って来てお り、教室活動 に必要であると感 じているよ

うであった。

2.2.

2006年度前期 ・後期

2005年度後期終了時にもらったコメン トと筆者の印象 をもとに、2006年度 前期 に向けて改定 を行 った。まず、学生の提出した宿題か ら、例外的に

2

ループになる動詞の分類の定着に時間がかかった と感 じたため、動詞のグルー プ分 けを習 う

1 3

課以降に提示 され る動詞 については、グループも提示 した。

また、長崎をあま り知 らない学生のために簡単な地図や観光案内があればタ スク活動の役 に立つ とい うコメン トをもらったため、25課の後 ろに長崎の食 べ物、祭 り、観光地、買い物の場所や食事の場所の簡単な説明 と地図を入れ た。 さらに、初 日にプ リン トとして配 っていた挨拶表現や教室用語、数字 を

1

課の前 に入れた。 このほかに以下のものを追加 ・変更 した。

2

課 :大学の場所 として 「図書館、保健管理セ ンター」を追加

4

課 :絵 にしに くいため省いたが提示 してほしい とコメン トがあ り 「休み ます、講義」を追加

5

課 :学生がよく使 う交通手段である 「バイク、 自転車」を追加、「一人で」

が分か りやすいように 「一緒 に」 (教科書では

6

課)を追加、電車 と 汽車の違い、市電の説明を追加

1 6

課 :顔、首、頭の区別が分かるよう、顔だけの絵 を提示

(5)

長崎大学留学生セ ンター紀要

1 5

2 0 0 7

24課 :「案内しますの絵の差 し替 え

49

2 0 0 6

年度前期のために語秦 ノー トを印刷 に回したが、印刷の都合上、前期 と後期 に受講す るであろ う学生分 をあわせて印刷することになった。そのた め、 この改訂版は

2 0 0 6

年度前期だけでな く、後期 も使った。

3.

アンケー ト調査 とその結果

語桑 ノー トを使った教員の使用感を知 るため

、2 0 0 6

年度後期終了時に筆者 が初級 Ⅰのコーディネーターになってか ら初級 Ⅰを担当した教員を対象 にア ンケー トを行った。二期担当した教員

3

名、三期担当した教員

1

名、一期担 当した教員

1

名の計

5

名か ら回答が得 られた。なお、前期終了時にも使用感 について口頭で聞いている。また、前 ・後期 ともに授業終了時にコメン トを もらうこともあった。

複数回答であるが、語嚢 ノー トを導入 に使 った教員が

3

名、練習 に使 った 教員が

1

名、授業では特 に取 り上げなかった教員が

2

名であった。授業中に 特 に取 り上げなかった教員は学生が語嚢 ノー トを持 っているため、語嚢ノー トに出ている語桑は見てきているもの として授業 を進めた、 とコメン トして いる。

語嚢 ノー トの利点 として予習復習の習慣がついた こと、新出語嚢の導入 に 時間を とられなかった こと、学生の生活 に即 した語桑が提示 されているので 活動 に使いやすい ことな どがあげられていた。学生が語嚢 ノー トを持 ってき ているため、語桑ノー トの該当ページを開かせ、学生が必要 に応 じて語柔を 見なが ら教室活動を進められ るようにす るな ど、語嚢を手助 けす ることによ

り、 日本語 を産出する活動の役 に立っていた ようである。

語嚢 ノー トに取 り上げられていない語桑、絵カー ドのあるものは絵カー ド で提示 し、練習問題 に出ているものは練習問題の前 に確認するな ど、必要 に 応 じて補足 していた ようである。 しか し、各課の新出語 をすべて押 さえてい

るわけではな く、必要 に応 じて提示 しているとコメン トした教員が多かった。

このコメン トか らも、基本 となる語嚢 リス トがあると、各教員の判断で手薄 になる可能性のある語嚢が押 さえられる可能性が伺 える。

語桑 ノー トがあって困った点、語嚢 ノー トに必要のない項 目については特 にない、または空 白であった。

(6)

5 0

初級Ⅰクラスにおける語柔 ノー ト作成の麻績 と効果

語嚢 ノー トにあった らいい項 目として、時間の言い方、文法項 目として取 り上げられている助数詞すべて (語嚢 ノー トには二種類 しか載せていなかっ た)、配偶者が自己紹介で使 える語桑、があげられていた。時間の言い方や助 数詞は一度の授業では覚え切れない可能性が高 く、覚えられてもす らす ら言 うには時間のかかる項 目であるため、語桑 ノー トに示 してお くことで、必要 に応 じて何度 も見ることができ、定着が促進できると考 えられ る。

4.

今後の課題

担 当教員か らのコメン トと筆者の授業での学生の反応な どをか ら、今後改 定 したいと考 えているのは以下の部分である。

1

課の前の教室用語 に 「始めましょう、終わ りま しょう、休みましょう」を 追加

1

課 :配偶者が 自己紹介で使 える語嚢の追加 4課 :時間の言い方の追加

7

課 :「子 ども」 に 「子 どもさん、お子 さんを追加

9

課 :い形容詞を丁寧体 に変更

1 1

諌 :助数詞の追加

23

課 :「押す、調節す る」の絵の差 し替 え

24

課 :「送 る、 コピーする、連れて行 く」の絵の差 し替 え

今後は語嚢 ノー トの改定 に加 え、 より効果的な語嚢の提示方法 についても 探 っていきたい。谷 口 ・赤堀 ・任都栗 ・杉村 (1994)は初級 と中級の学習者 に語桑の自由連想 をしてもらった結果、初級学習者はエ ピソー ドによって語 嚢が結ばれていることが多い ことを明 らかにした。 この結果 を利用 し、課 ご

とに提示する新出語の うち、エピソー ドでまとめられるものをまとめて提示す れば、 より効果的に語嚢が定着 させ られるのではないか と考 えている0

今後は担当教員だけでな く、学生にアンケー トを実施する予定である

。2 0 0 6

年度後期の授業終了時に学生 にもアンケー トを行ったのであるが、分析 に十 分な回答数が得 られなかったため、今回は分析の対象 としなかった。次回は 初級 Ⅰを受講 した全員の学生か らアンケー トを回収 し、学生の目か ら見た語 嚢 ノー トについて分析 し、 よりよい語嚢 ノー トにしていきたい。

(7)

長崎大学留学生センター紀要 15 2007

5 1

謝辞 :本論文を書 くにあた り、筆者がコーディネーターになった

2 0 0 5 年度後

期以降に初級 Ⅰを担 当した先生方 にアンケー トに協力 していただきま

した。 ここに記 して感謝いた します。

参考文献

相滞一美

2 0 0 6

語嚢習得 をどう捉 えるか言語

』γ ol . 3 5No . 4 p p . 3 2 ‑ 3 7

谷 口すみ子 ・赤堀侃司 ・任都栗新 ・杉村和枝

1 9 9 4

「日本語学習者の語桑習

得一語嚢のネ ッ トワークの形成過程‑

『日本語教育

』8 4

p p . 7 8 ‑ 9 1

水野マ リ子 ・福井美佐

2 0 0 3

初級 日本語教育 における語嚢教育について」

『神戸大学 留学生セ ンター紀要

』9 p p . 5 9 ‑ 7 9

谷内美智子

2 0 0 2

第二言語 としての語桑習得研究の概観一学習形態 ・方略 の観点か ら

‑ 」

言語文化と日本語教育

』p p . 1 5 5 ‑ 1 6 9

<資料 >

・ 教員‑のアンケー ト

初級 Ⅰを担当された ことがある先生方

今年の

6

月 に刊行する長崎大学留学生センターの紀要 に初級

1

のために作成 してきた予 習ノー トの作成経緯や ノー トを使っている先生や学生の使用感な どについてま とめて書 き たい と考 えています。お忙 しい ところお手数ですが、以下のアンケー トにお答 えいただけ ました ら幸いです。解答は220日までにお願いいたします。答 えだけをメールでお送 り いただいてもかまいません。

124日 夢 田美有紀 日本語初級 Ⅰ予習ノー トについてのアンケー ト

(彰担当学期 :2005年前期 ・2005年後期 ・2006年前期 ・2006年後期 ・それ以前 (診ノー トを どの活動で、 どのよ うに使いま したか.

( )導入 : ( )練習 : ( ) タスク :

③担当の課の以外の課の語桑 ノー トを使 ったことがあれば、どのように使ったか、覚えて いれば何課で何課のノー トを使 ったかお教 え くだ さい。

④ ノー トがあってよかった点は何ですか。

⑤ ノー トがあって困った点は何ですか。

⑥ ノー トで取 り上げていない語桑 もあ りま したが、それはどのように扱いましたか。

(8)

5 2

初級 Ⅰクラスにおける語嚢 ノー ト作成 の経緯 と効果

(∋ノー トにあった らいい項 目は何ですか○

⑧ ノー トに必要のない項 目は何ですか○

⑨長崎大学の初級 Ⅰ以外の初級の授業で新出語嚢を どのように扱っていますかo

・語桑 ノー トの一部 (この時点ではまだカタカナを習い終わっていないので、

カタカナの上 にル ビがふ ってあるが、文字の導入がすべて終わった以降の 課ではル ビをつ けていない。)

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* と し ょか ん l i br ar y 圏弔領 seAta‑

*ほ けん か ん りセ ンター heal t hc ent e r 保 健管理 中心

( 留学生セ ンター講 師)

参照

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