泉熱の各種抗生物質によう治療 効果に関すろ実験的研究
金沢大学医学部小免科学旧敏室員(主任 泉仙助教授)
西 岡 雄 彌
y ・吻α.N 8肋乃α (昭和29年1月21日受答)
緒 我々はさきに「マウス」に特有な脾腫を來す,
病原「ウィルス」を泉熱慰者血液及び尿より分 離iしたことを報告し1),病理解剖学的に,根細 胞の変性,Kup晩r星細胞の活性化,腎細尿管 の壊死崩壌,リンパ腺の細胞の変性,脾の髄質 の僧門性細胞の浸潤,流血申におけるVirocyte の出現等の変化を來す〜二とを報告2)したが,こ れらの病変を各種の実験と並行して,病変の推
言
移を追究して,病原体決定への手段としなけれ
ばならなV・.
ここに著者は分離「ウィルス」による感染「マ ウス」の脾腫を主徴として判定することによ り,極めて客観的なよりど〜=.うにより「ウィル ス」について実験をすすめるととが可能である ととを提唱する.〜二こには各種抗生物質に対す る感受性を検討した結果について報告する.
実験材料及び実験方法
実験動物:「マウス」体重149前後のもの.DT
系,これは西岡3)らが核酸の定量実瞼に用いるため に,1949年來近親交配させたものを継代繁殖させてい るもので,從來まで我々が泉熱の実験に用いているも のである,特に脾の重量及び血液像に個体差の少いこ
とを特徴としている.「ウィルス」は,西岡の分離したものを「マウス」に 継代し,その肝及び脾を「ハートレーブイヨン」を生 理的食塩水で30%の割合にうすめたものに「ペニシリ
ン」,「ストレプトマイシン」を1COO unit/mlの割合 に加えたもので10%乳剤とし,その0・25ccを「マウ ス」の腹腔内に注射した,実験には感染後一週間を経
たものを屠殺して肝脾をとり,「ペニシリン」,「スト レプトマイシン」を加えない30%「ハートレーブイヨ
ン」で上記の如く10%乳剤となし,これに各種の抗生物質を投与量が夫々表に示した用量になるように加
え,マウスの腹腔内に,各群各濃度,5匹ずつ注射し た.注射後1週閻で屠殺して体重をはかり,剖梅,脾の色調の変化及び重量を「1・ルジオソバランス」によ
り測定,著明な病変を呈しているものの一一・部は血液寒
天及び肝々ブイヨン」に培養して,無菌的であること を確めた.更に脾重×100と体重の比を計算したが1・00 以上の値を示すものは,肉眼的にも脾の病変が著明で
ある.
実 験結果
(1)「ペニシリン」,「ストレプトマイシン」
は,本「ウィルス」当初の分離過程より菌の発 育を抑制するために用いたものであるが,「ペニ シリン」は2500軍位を用いても効力を認めな
いし,「ストレプトマイシン」は21ngでも無効
であった.
(II)Neomydnも4mgを刑v・ても効力は認
められなV・結果:が得られた.
【50】
(III)Chloramphenico1も4mgを用いても直 接本「ウィルス」に対しては何ら作用を示さす,
いすれも感染後7日目の・剖検所見では著明な発
症をみてv・る.
(IV)これに反して, Aureomycinは0.25mg まで有効であり,0.125mgでも%発症を阻止
した.
(V)Terramycinは,1mgで%,0.5mgで%
発症の阻止が認められ,Aureomyclnよりやや 大量を必要とするが,直接病原「ウィルス」に 作用のあることが判明した.
(VI)Viscos{n lよG. Groし1pe,1・. Pugh, D.
Weiss, M. Kochi 4)らにより{11fectious bro1、一 chitis VjrUsに対し:有効であるごとが報告され ているので,本「ウィルス」に対しても試みて みた.4m9では毒性が即く「マウス」が全部急 死したが,lm9まで完全に発症を阻止,0.5m9 では%阻止した.
(VII)次に治療実験として,10%乳剤を0.2 5cc腹腔内注射により前以て感染させた「マウ ス」について,先ず「オーレオマイシン」有効
:量0.48mgを2時聞,24時聞及び72時闇後に 夫々5匹の「マウス」に注射して,感染後1週 聞合に剖検すると2時聞及び24時間後に治療し たものは発症を阻止しているが,72時聞後で はすでに脾腫を防ぐことは年記なかった.しか
し乍ら〜二の場合の変化は,対照群よりV・くらか 赤味がかった色で黒褐色の色調は少ない.
「テラマイシン」の有効量2m9でも同様24 時聞後には著明な治療効果が認められて,完全 に発症を阻止した.これに反しVlscoslnでは 同時注射では前にのべたように有効であった が,24時諏訪の注射では発症阻止するととは不
可能であった.
(D ストレプトマイシン及びペニシリン
量
脾 臓 体
色臨δ隣げ
脾/体
×100
2(m9)
ストレプトマイシン
1 十 十 十 十 十
180
235 220
175 177
__因
十
1 1十
}o.5「+
十 十
i
十 十 十 十
226
148 164 192 125 161205
170 186 18111.6 12.7 13.4 13.3 13.0
12.9 13.7 13.8 13.エ 12.7
12.6 13.5 13.5 13.7
旨2.3
5
1。55 1.88 1。54 1.33 1.35
1.75 1.08 1.20 1.47 0.99
1.28
・・52
l:lll
}・・47
ペニシリン
2500u
+i225
十 十 十
175
176176
12、3 8.2 12.0
、.8訓 2.16 1.47
口・・9い・6・
(II) ネオマイシン
量
脾 臓
「_一_
コ色1
重 さ (m9)
体
14(mg)
十 十 十
重 さ
(9)
2
± 十 十 十
・261・0.0
9引9.0 1gotg.8
1
70110.1981、G.、
195 132
10.3 9.6
脾/体
x100
1 十 十 十 十 十
1.20 1.06 1.95
175 77
112
155 1610.69 0.99 0.89 0.38
12.5 8.0 10.5 12.0 11.5
1.40 0.96 1.69 1.29 1.40
(III) クロラムフェニコール
「
1量 脾臓 重さ倒
(mg)
4mg
21ng
1mg
0.5mg
1+1・6・
十 十 十 十 十 十 十 十 十 十 十 十 十 十 十 十 十 十
}+
iO.25mg
0.125
mg
十 十 十 十 十 十 十 十 十 十
1245
350 179 308 226
105237 210 172 418
180275 110 357 302 190
132129 242
137248 120 129 209 215 223 206 206 139
体
重さ(9)
11.0 13.5 13.8 10.7 14.5
12.5 7.0 14.8 12.5 10.3
14.5 11.0 12.0 9.0 14.3
12.9 10.7 9.5 10.2 10。5
脾/体
×100 1.45 1.81 2.51 1.67 2.18 1.89 1.25 1.56 1.59 1.67
2.88 1.61 2.29 1.22 2.51
9.7 i 1.41
}12.3 1 1.98 8.6 9.6 12.2
11.6 11.0 11.8 11.8 9.8
2.40 1.88 1.46 1・29
2・311
一一 w r一一Ai
1.38 1.33 1.72
1.86 1.86 1.74 1.74 1.42
0.25
0.125
1_一 一一
〇.05
1 一一一一一一一
iO.03
4010.3 6012.2
71 12.5
7812.3
81 12.6
一 1 61 12.1 一 1 55 11.3 十 231 12.9 十 1 130 12.5 十 1 124 12.1
一 89 10.4
十 115 11.3
十 11110.1
十 107 10.4 十 109 10.7
十 65 7.5
十 215 ユ2.6 十 224 12.4 十 130 11.5 十 211 12.0
(V) テラマイシン
0.39 0.54 0.59 0.63 0.64
(IV) オーレオマイシン
1脾臓 体脾/体ヨ
里陣陣m,亨再,弄・1・・
一 55 9.3 【 0.59
− 82 12.6 0.65 0.5 一一 50 10.9 0.46
(m9)
一 44 12.3 0.35 − 62 11.5 0.60
0.51 0.49 0.79 1.02 1.01
0.85 1.01 1.10 1.03 1.02
0.86 1.71 1.81 1.ユ2 1。76
[脾臓㌔倒懇
i4(mg)
体
重さ(9)
55{10.0
55
10.033 9.1
75 15.1E1− 78{13.5
一 6510.5
・2 1−155 9・8
1 − 78 10.9
i一777・5
ドー
11
一 「 56 10.1 一 1 78 13.7
− i 117 14.1
一 5310.6
+ロ201…8 1 ト
一168ト
10.0
一1721・.・
師}i閣}il
脾/体
×100 0.55 0.55 0.33 0.49 0.49 0.58 0.62 0.50 0.13 0.55 0.56 0.83 0.50 1.11
0。68 0.71 0.81 0.93 0.93
【52】
0.25 十 十 十 十 十
98 139
140176
1310.125
+1
十 十 十 十
172 146 192
142
(VI)ビス
・・.21・.87i
ll:釧1:捌
13.引1.39
..運⊥理…
11.5 11.6 11.3 11.5 198 t 10.7
コ シ ン
1.49 1.26 1.70 1.24
1・851
量1幽鵡陰ぎ騰}
一‡i,!
一i
−1
−1
45 11・oio・411
77・2・・i・・54i 58 13・0!0・45169 12.0 1 0.57 …
72U・・i・・65…
・…【・・47{
12.O i O.48 1
・2.51・.42}
(VII)治療実験
膿}墨幽÷臨
1 オーレオ・マイシン(0・48m9)
1
2
].
0.5
0.25
0.125
一i
十 十 十
十 十 十 十 十
52 58 51 73 56
十 十 十 十 十
「 52
72
2 − 6162
_ 53!属 67 1− 54
24 P=ll
十 156 子一Tm2・2
+…212
72 +i176
十{ 245
+}172「
10.7 13.5 12.5 12.7 12・2 P1・・9 P
/0・Oi
}1:劃
・5・21 15.8}
・・.81
11:1
15.2
…81
12.1 0.51 1
11・3%1.1
5218.5一・.5エ[
529・… 57i
260 15.5 1.68 1 159 10.5 1.51 1
1801§・52・12.1
91 9.9 0.92 1 176 11.5 1.53 1 179 9.8 1.93 1 364 ユ2.3 2.95 1
270 11.6 2.33 211 10.6 1.99 1 145 9.5 1.52 402 12.3 3.25 380 11.6 3.26 1
25・…51・・45
0.531
0.530.53i o。431
_一一_一
0.61}
0.541
。.491 1:認、
1.3ガーi
1:器
1:1引
テラマイシン(2mg)
24
i一 80
68 76
7145 ピスコシン(2mg)
14.9 ユ4.4 16.2 14.5 12.3
0.54 0.47 0.47 0.49 0.37
十 十 24 十 十 十
264i15.8 P1.67
266 15.6 1 1.70
‡
258 15.5 1.66
111け1:1翻
以上の実験結果より,西岡の分離した「ウィ ルス」で,感染「マウス」の脾の腫脹及び色調 の変化を発症の指標として実験をすすめたとこ ろ,「ペニシリン」「ストレプトマイシン」「ネ オマイシン」「クロラムフェニコール」は直接 本病原体に対し何らの作用を呈しなV・が,
「オーレオマイシン」及び「テラマイシン」は 直接同時注射によっても,叉,感染後の実験的 治療実験によっても「ウィルス」の婆症を阻止 することが明らかにされた.なお「ビスコシン」
は,invitroでは:直接「ウィルス」に対して作用 するが,治療実験の上からは「オーレオマイシ ン」「テラマイシン」にみるような著明な治療効 果は認められなかった.
泉熱の臨床所見の上から本疾患に対する治療 の問題として,「オーレオマイシン」の治療効果 について活澄な討論がなされている.落合5)は はじめて本疾患に「オーレオマイシン」が治療 上卓効のあるととを報告し,その後柳下6)もこ れを認め,我々も,集団発生に際して系統的に 13例について治療実験を試みた結果「オーレオ マイシン」が卓効のあることを示し,「サルフ ァ剤,「ペニシリン」「ストレプトマイシン」の 無効であることを報告した.
これに対し北岡7),前田,木村8)らは,夫々 各自の分離せられ1たDeurotropicの「マウス」
を艶死させる病毒に対して「オーレオマイシン」
が実験的に治療効果を示さなかった点より,
「オーレオマイシン」の治療効果についても肯定 的な結論を与えてV、なV・.長岐9)らも自然治i癒 経:過との区別が難しいとして,「オーレオマイ シン」投与後完全に48時間以内に下熱しなけれ ば有効と判定しないという基準を特に設けて,
北岡,木村らの設に賛成している。しかし乍 ら,「オーレオマイシン」投与により極めて短 時日に良品な治癒機転の認められることは,そ
の後も矢沼10),村上,俵,藤原,大日方11),泉,
寸話,吉田,広島,白藤12、,松村13)らのひとし
く認めると〜二ろであり,「オーレオマイシン」の
治療上に有効なヒとを確認している.北岡,木村,長岐らの論拠とするとヒろは,
急速な下熱,全身症状の好転は認めているが,
氏らの分離「ウィルス」に藥剤が作用しない点 より,本疾患の二次的侵襲として細菌の存在を 想定し,それに「オーレオマイシン」が作用す
るので,「ウィルス」そのものに作用しなV・と の説をとって読明している.一方,「オーレオ マイシン」投与後再び発熱することを経験した 例をあげて無効読をとっているが,然らばどの ような細菌,特に「ストレプトマイシン」「ペニ シリン」或いは「サルファ剤に対して感受性が なぐ「オーレオマイシン」に感受性のあるどの ような種類の細菌の二次感染があるのか,何ら 実験的根拠の上に立って証明されていない,更 に治療上,投与藥量その他の点で不充分な治療 が行われれば,当然耐性「ウィルス」或いは細 菌の二次感染が起り得るから,その結果あらわ れるであろう発熱をもつて,「オーレオマイシ ン」が無効なりとする論拠は治療の面からいっ ても承服し難い結論である.
我々のここに示した実験的結果は,落合5),
柳下 3),西岡14),泉12),村上且1),松村13)らの臨
床所見上よりの「オーレオマイシン」有効説を 直接実験的に証明したものであり,更にとれと 近縁関係にある,流行性肝炎におけるLentini
15),伝染性輩核球症におけるAubertin 16)ら,急
性伝染性リンパ球症におけるMalhortra l7)の「オーレオマイシン」:有効なりとの報告に関溶 して向リンパ性ウィルス疾患の治療の問題に ついて意義のあるものと考える.
「クロラムフェニコール」「テラマイシン」に ついては,臨床上の治療実験の報告が少ないの で今後の検討に侯たなければならないであろ
う.
結 我々の分離した「ウィルス」に対して「オー レオマイシン」「テラマイシン」は同時接種及び 実験的感染の治療実験の結果ともにin vitroで もln vivoでも:有効であったが,「オーレオマ イシン」の方が種位投与量が少なくても有効で
論
ある.Viscos{nはill vitroにおいては有効であ るが,ln vivoには無効であり,且つ毒性が蒼 いので,実際の治療には適しないのではないか
と考えられる.
「クロラムフェニコール」については有効で
【54】
あろうとの臨床上の報告もあるが「ストレプト マイシン」「ペニシリン」「ネオマイシン」と同 じように我々の探索した範囲内の投与量では有
効であるとは認められなかった.
稿を終るに臨み御指導御校閲を賜った泉教授に深謝
する.
文
1)西岡久寿彌(1953):Japan J・exp・Med・
23.147. 2)草野信男・西岡久寿彌(1953):
臨床,6・173・ 3)西岡久寿彌・野村達次
(1952)=Japan・J・exp・Med・22・157・
4)Groupe G, Pugh影. Weiss D.and K:ochi M.(1951):Proc. Soc. exp. Biol and Med.
78・:No・1 5)落合国太郎(1950):泉熱
研究協議会第一回報告. 6)柳下徳雄(1951): 日本医事新報,1421・1981・ 7)
北岡正見他五氏(1952):泉熱の病原体に関す
る研究・21. 8)木村光雄〔1952):泉熱 に関する研究報告・37.(泉熱研究協議会)
9)長岐佐武郎他五氏(1952)=同上誌,73.
献
10)矢沼喜八(1952):泉熱,86.(泉熱研究協
議会) 11)村上栄他三氏(1952):泉熱に関する研究報告,(泉熱研究協議会) 12)
泉仙助他四氏(1952):診療室,4.401.
13) 松才寸昔邑雄 (1953) : 治療, 35・ 57。 14)
西岡雄彌(1953):十全会雑誌・55.No.4。
15)Lentini S.(1950): Policlinico.57.518.
16)Aubertin et Rivi壱re(1950): Soc. M6d.
et Chir・de 」BordeIlux。 17) W区alhorta. S.
L(1951): 1.ancet. Aug 4. :文献15).
16).はK:iseel et Arnould:Les maladies a
▽irus:Lymphotrope・GDoin et CIE(1952)に
よる.