50 高山赤十字病院紀要 第41号:p50-53(2017)
平成 28 年度 第 2 回臨床病理検討会(CPC)
症 例:顕微鏡的多発血管炎治療中に意識状態の悪化を来した一例 報告者:桐山 俊弥 指導医:山口 公大
【症例】80歳代 女性
【入院年月日】2015年1月某日
【死亡年月日】入院第7日
【主治医】山口 公大
【主訴】意識障害
【現病歴】
2010年頃より頻尿のため、当院泌尿器科を受診されていた。2015年4月某日の血液検査にてCre 1.18 mg/
dlと腎機能障害を認めた。当院内科を受診したところds-DNA抗体とMPO-ANCAの上昇を認め、顕微鏡的 多発血管炎が疑われた。本人、家族の方の希望もあり腎生検は施行されなかったが、自己免疫機序による 腎障害疑いとのことで2015年5月に当院内科入院となり、プレドニゾロンにて治療開始となった。
内科退院後は腎機能の改善に伴い、ステロイドを減量し、外来にて経過観察していた。2015年7月に、腹 痛および食思不振を主訴に当院内科を受診したところ、腹部CTにてfree airを認めたため、消化管穿孔と 診断し、ハルトマン手術および横行結腸人工肛門造設術を施行した。術後はリハビリにてADLの拡大を 図り2015年10月外科退院となった。
その後は外科外来にてフォローしていたが、皮下膿瘍、直腸皮膚瘻を認めたため、2015年10月にネラトン チューブ留置となった。その後の内科外来にて高CRP血症を認めたため、原因検索のために2015年11月に 内科入院となった。画像上明らかな感染は無かったが、腹腔内ドレナージがあることより、腹腔内感染症 を疑い、SBT/ABPC 6 g/dayにて治療を開始した。血液および尿の培養結果よりESBL産生E.coliが検出 されたため、SBT/ABPCに感受性があることを確認して投与継続となった。その後、炎症反応は改善し たため、SBT/ABPCは終了し、難治世瘻孔の治療のため外科転科となった。
入院34日前より夜間の不隠状態を認めるようになり、抑肝散を投与された。また、難治世瘻孔治療のため に第ⅹⅢ因子製剤投与を開始とした。入院28日前に造影検査を施行し瘻孔閉鎖を確認したため、ドレーン を抜去した。この頃より睡眠薬をベロスピロンに変更されており夜間せん妄は改善してきたが、日中の傾 眠傾向が出現するようになった。入院20日前より喀痰の持続排出を認め、CT撮影したところ下肺野に浸 潤影を認めた。ルート確保が困難であったためGRNX 400 mg/dayの投与を開始した。入院18日前からは 日中の傾眠傾向が強くなったため、相対的副腎不全を考え、プレドニゾロン10mg内服追加となった。入 院14日前の採血にて炎症反応の改善を認めたため、GRNXは中止とした。入院8日前からは傾眠傾向が継 続強いており覚醒がなかった。
2016年1月はじめ頃より37℃台後半の発熱を認めた。食事摂取も不良であり、薬剤による意識障害も疑わ れ、精神科病院への転院予定となった。創部からの排膿は継続していたが、外来治療も可能と判断し、入 院前日に精神科病院へ転院となった。
転院時はJCS 200の意識障害であり、酸素化の低下も認めたためカヌラ2Lで酸素投与開始となった。内
服含め、経口摂取は困難な状況であり夜間にJCS 300まで意識レベルが低下した。入院当日の午前中に
体位変換を行ったところ酸素化不良、血圧低下を認めたために当院救急搬送となった。CTにて両側肺野
の間質影の増強が認められたのみであり、頭部CTでは意識障害となるような明らかな異常所見は指摘で
きなかった。血液検査では腎機能の悪化を認め、食事摂取が1週間近くできていなかった事も考え、脱水
による多臓器不全の状態と判断し、同日当院内科に入院となった。
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【既往歴】
25歳時 虫垂炎にて手術 77歳時 白内障にて手術
81歳時 右肘部管症候群 両手根管症候群に対して手術 82歳時 右変形性股関節症にて右人工骨頭置換術 83歳時 左変形性股関節症にて左人工骨頭置換術 88歳時 HBV既感、右上腕二頭筋断裂、帯状疱疹
【現存症】
高血圧症、脂質異常症、便秘症、過活動膀胱、左副腎腺腫、ステロイド糖尿病
【家族歴】
特記事項なし
【生活歴】
喫煙:なし 飲酒:なし 排便:一日1行 アレルギー:なし
【内服薬】
プレドニゾロン5mg 4.5錠、ランソプラゾール 15mg 1錠、アレンドロン酸 35mg 1錠、アムロジピン5mg 1錠 、アルミサル タン 40mg 1錠、ケトプロフェンテープ 40mg、大建中湯 2.5g 3包、ロスバスタチン 2.5mg 1錠、 ビオスリー配合錠 3錠、
リノグリプチン 5mg 1錠
【入院時身体所見】
身長:140cm 体重:43.2kg
体温:36.2℃ 収縮期血圧:170mmHg 脈拍数:100回/分 SpO2:88%(マスク6L)
意識レベル:JCS 300
眼瞼結膜貧血なし、眼球結膜黄染なし、咽頭発赤なし、扁桃腫大や白体付着なし、頚部リンパ節腫大なし、甲状腺腫 大なし呼吸音清で副雑音なし、心音整で雑音なし、腹部平坦軟で圧痛なし、腸蠕動音正常、四肢冷汗湿潤なし、下腿 浮腫なし、項部硬直なし、脳神経所見正常、従命可、対光反射両側迅速
【入院時検査所見】
・血液検査所見
T-bil 0.5 mg/dl、TP 4.6 g/dl、Alb 1.6 g/dl、ALP 247 IU/L、ChE 72IU/L、AST 33IU/L、ALT 15IU/L、LDH 440IU/L、 γ-GTP 124 IU/L、CK 66 IU/L、CK-MB 10.0 IU/L、Na 144mEq/L、K 5.8mEq/L、Cl 112 mEq/L、
Ca 6.9 mg/dl(補正値:9.3 mg/dl)、IP 5.6 mg/dl、Fe 32μg/dl、Mg 3.4 mg/dl、UIBC 78 μg/dl、BUN 79.1 mg/
dl、Cre 2.23 mg/dl、AMY 42U/L、CRP 5.77 mg/dl、NH3 3.49 μmol/L、血糖 92 mg/dl、HbA1c 7.6%、KL-6 1757.5 U/ml、フェリチン 1543.7 ng/ml、 トロポニンT 0.673 ng/ml
白血球8800/μ、赤血球 260×10^4/μ、Hb 8.4mg/dl、Ht 26.6%、MCV 10.23fl、MCH 32.3 pg、MCHC 31.6%、Plt 6.7×10^4/μ、好塩基球0.1%、好酸球 0.1% 、好中球 86.6%、単球1.2%、 リンパ球 12.0%、PT-ct 12.2秒、PT秒 10.5秒、
PT-INR 0.86、APTT-ct 29.8秒、APTT秒 27.0秒、Fbg 240.3 mg/dl、AT-Ⅲ 84.0%、FDP 11.4μg/dl 、DDダイマー 8.9μg/dl
・尿検査所見
pH 5.5 尿蛋白定性 2+ 糖定性 – ウロビリノーゲン 1+ 潜血 1+ ケトン体 – ビリルビン – 比重 1.016 色調 orange 混濁 2+
RBC 10-19/HPF WBC 100以上/HPF 扁平上皮 10-19/HPF 硝子円柱 1+ 細菌 3+
・動脈血液ガス分析
pH 7.440 、pCO2 28.9、pO2 144.3、HCO3- 19.2、BE -4.1、SatO2 97.9、FiO2 50%
・心電図
HR 92bpm sinus rhythm 完全右脚ブロック
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・胸部単純X線写真(A→P)
心胸比 61% CPangle 左でやや鈍 両側肺野全体的にスリガラス影 腫瘤性陰影はなし
・喀痰培養 MRSA 1+ Staphylococcus aureus 3+ Klebsiella pneumoniae 1+
・尿培養 Escherichia coli ESBL 4+
・頭部CT
明らかな出血なし 頭蓋内占拠性病変なし
・胸腹骨盤部CT
両側肺野に間質影あり 大動脈石灰化著明 S状結腸憩室あり その他腹部臓器に明らかな異常所見なし
【入院後経過】
第1病日:内服困難であったため、ステロイドを静注に変更して投与継続とした。尿検査にて膿尿も確認されたため SBT/ABPCにて治療開始とした。入院時の採血上KL-6の上昇もみられたことより間質性肺炎の増悪と判断した。
第2病日:体温37.7℃と微熱も認められた。
第5病日:採血にて血小板と赤血球の減少を認め、高LDH血症及び低Ca血症の状態であったため血球貪食症候群 の状態になっていると考えられた。また、呼吸状態の急速な悪化もみられ、胸部聴診でも肺野の稔髪音の増悪も認めら れた。
第7病日:呼吸状態は徐々に悪化し、逝去された。
(第5病日時 死亡前最終データ)
T-bil 0.6 mg/dl、TP 3.8 g/dl、Alb 1.2 g/dl、ALP 314 IU/L、ChE 63 IU/L、AST 56 IU/L、ALT 15IU/L、LDH 751 IU/L、 γ-GTP 179 IU/L、Na 152mEq/L、K 3.2mEq/L、Cl 119 mEq/L、Ca 5.8 mg/dl(補正値:8.6 mg/dl)、
IP 2.6mg/dl、BUN 48.7 mg/dl、Cre 1.00 mg/dl、CRP 3.37 mg/dl
白血球6400/μ、赤血球 231×10^4/μ、Hb 7.7mg/dl、Ht 23.7%、MCV 102.6fl、MCH 33.3 pg、MCHC 32.5%、Plt 1.4×10^4/μ、好塩基球 0.2%、好酸球 0.0 %、好中球 89.1%、単球 1.9%、 リンパ球 8.8%
【臨床診断】
顕微鏡的多発血管炎の疑い
【臨床上問題となった事項】
・今回は本人の希望がなかったため、腎生検は施行しなかったが、顕微鏡的多発血管炎の 診断は正しかったのか。
・意識障害、呼吸不全を来した原因は何であったのか。
・血球貪食症候群の診断は正しかったのか。
【病理解剖結果】
<主剖検診断>
ANCA関連腎障害加療中 敗血症
1. 気管支肺炎+肺硝子膜症+無気肺+気管点状出血(L 270g R 390g)
2. 左腎膿瘍+膿瘍性腎梗塞(L 130g R 100g)
<副病変>
1. 亜急性心筋梗塞、肝動脈硬化症(350g)
2. ダグラス窩膿瘍、S状結腸憩室穿孔によるストマ造設状態(2015.7.21)
3. 脂肪肝(570g) 4. 左副腎腺腫(アルドステロン症) 5. 腎乳頭腺腫
6. 大腸腺腫 7. 両側胸水(L 250ml R 400ml、黄色透明) 8. 脾臓萎縮(30g)
9. 膵脂肪浸潤(100g) 10. 大動脈粥状硬化症
11. 甲状腺腺腫様咬傷腺腫(過形成) (15g) 12. 慢性膀胱炎
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