サルコイドーシス経過中にHHV-6の再活性化を認め, 薬剤性過敏症症候群の合
併が疑われた1例
粟野暢康1),酒寄雅史1),園田 唯1),近藤圭介1),小野 竜1),守屋敦子2),安藤常浩2),生島壮一郎1),熊坂利夫3),
武村民子3),今門純久4)
Nobuyasu Awano1), Masashi Sakayori1), Yui Sonoda1), Keisuke Kondo1), Ryu Ono1), Atsuko Moriya2), Tsunehiro Ando2),
Soichiro Ikushima1), Toshio Kumasaka3), Tamiko Takemura3), Sumihisa Imakado4)
【要旨】
症例は40歳男性.X年6月の気管支鏡検査でサルコイドーシスと診断され,神経サルコイドーシスと考えられる四肢の 痺れに対し,同年7月よりプレガバリンを内服していた.X+1年4月より肝障害と全身の広範な皮疹を認め緊急入院.血清 ACE 28.3 IU/L,sIL2R 4,860 U/mL,リゾチーム 14.1 µg/mLと肝サルコイドーシスの合併を疑ったが,肝生検では肉芽腫 を認めず,胆汁うっ滞とリンパ球浸潤を認めた.また,皮疹は多形性紅斑であり,尿中バルビツール酸系薬物検査が陽性 であったことと,ペア血清でのHHV-6 IgG抗体価の上昇を認めたため,薬剤性過敏症症候群(DIHS)が疑われた.全薬剤 を中止し,ステロイドパルス療法と免疫グロブリン製剤の併用で救命し得た.本例はDIHSを発症する既知の薬剤を使用し ていなかったが,サルコイドーシス経過中にHHV-6の再活性化を認めた稀な例であったため報告する.HHV-6の活性化は DIHSとサルコイドーシスに共通した病態であり,これは制御性T細胞(Treg)が関与している可能性があり両疾患の病 態解明に重要と考えられる. [日サ会誌 2014; 34: 55-62] キーワード:サルコイドーシス,薬剤性過敏症症候群,制御性T細胞,免疫再構築症候群,HHV-6
A Case of Sarcoidosis Suspected of Complicating Drug Induced
Hypersen-sitivity Syndrome, with Reactivating HHV-6
Keywords: sarcoidosis, drug induced hypersensitivity syndrome, regulatory T cell, immune reconstitution syndrome,
HHV-6 1)日本赤十字社医療センター 呼吸器内科 2)同 感染症科 3)同 病理部 4)同 皮膚科 著者連絡先:粟野暢康(あわの のぶやす) 〒150-8935 東京都渋谷区広尾4-1-22 日本赤十字社医療センター 呼吸器内科 Japanese Red Cross Medical Center 1) Department of Respiratory Medicine 2) Department of Infectious Diseases 3) Department of Pathology 4) Department of Dermatology
はじめに
サルコイドーシスは原因不明の炎症性疾患で,Propioni-bacterium acnesによる感染症や自己免疫などが関与して いると考えられている.経過中にアレルギー疾患,膠原 病を合併する症例も多数報告されている. 今回われわれは,サルコイドーシス経過中にHHV-6の 再活性化を認め,薬剤性過敏症症候群(DIHS)の合併が 疑われた稀な1例を経験した.サルコイドーシス,DIHS はともにCD4T細胞,制御性T細胞(Treg)が関与して いると報告されている.これらの病態に関して,示唆に 富む症例と考え報告する.症例呈示
●症例:40歳,男性 ●主訴:発疹,呼吸困難 ●既往歴:小児喘息,B型肝炎(感染時期不明.無治療) ●家族歴:祖母 肺癌 ●生活歴:喫煙:40本/1日×3年間(17歳から20歳),以 後20本/1日×20年間(入院時まで),飲酒:なし,粉塵 吸入歴:なし,渡航歴,ペット,住居に特記する事項なし, 腹部,背部,四肢に刺青(17歳時に施行) ●職業:無職●内服薬: ・X-2年以前に覚醒剤の使用歴あり.以後使用なし. ・ X年6月から乳酸菌製剤3 g/日,ブロチゾラム0.25 mg/ 日. ・ X年7月からX+1年4月9日までプレガバリン 開始時150 mg/日,2週間後より300 mg/日. ・X+1年4月9日ファモチジン20 mg/日. ・ X+1年4月9日からウルソデオキシコール酸600 mg/日, メトクロプラミド15 mg/日. ・ 抗てんかん薬,抗不整脈薬,サルファ剤,抗生剤,アロ プリノールの使用歴なし ●現病歴:X年6月,呼吸困難を主訴に当科を受診し,気 管支鏡検査でサルコイドーシスと臨床診断された(肉芽 腫は認めず).診断時,神経サルコイドーシスと考えられ る四肢の痺れを認めたため,同年7月よりプレガバリンを 内服していた. X+1年3月より肝障害を認め,肝サルコイドーシスの合 併が疑われた.4月9日に施行した造影CT撮影後に嘔気, 嘔吐を認め,造影剤アレルギーを疑いファモチジン,メ トクロプラミドが処方された.また,肝障害に対しては ウルソデオキシコール酸が処方された. 翌4月10日から掻痒感と発赤を伴う小丘疹が顔面から全 身に徐々に拡大した.4月14日から呼吸困難も出現したた め救急搬送を要請し受診し精査,加療目的で同日入院と なった. ●入院時現症:意識清明,身長171 cm,体重66 kg,体温 38.5℃,血圧126/76 mmHg,脈拍数110回/分 整,呼吸 数27回/分,SpO2 97%(3L 鼻カヌラ),頭頸部では眼球 結膜に黄疸を認めた.結膜充血はなく,角膜,眼瞼結膜 病変も認めなかった.顔面全体は著明な浮腫を伴うびま ん性の紅斑を認めた.下口唇は痂皮化するも水疱やびら んは認めなかった(Figure 1a).頬粘膜に発赤,口腔内 に出血斑を認めた.胸部では心音,呼吸音に異常を認め なかった.腹部はやや膨隆し軟.腹部全体に紅斑を認め, 中央は紫紅色で融合傾向を認めた.水疱やびらんは認め なかった(Figure 1b).体表所見では顔面から体幹,四 肢に至るまで広範な小丘疹,紅斑を認めた.下肢は毛嚢 炎様の丘疹も認めた(Figure 1c).腹部,背部,四肢に 刺青を認めた.体表のリンパ節腫脹は認めなかった.神 経学的所見では四肢末梢に痺れ,感覚鈍麻を認めた. ●サルコイドーシス診断時検査所見,診断根拠(X年6月) 気管支肺胞洗浄液(BALF):総細胞数3.1×105 /mL,リ ンパ球数44.8 %,CD4/CD8比2.3. 経気管支肺生検:肉芽腫を認めなかった. 血液検査:ACE 21.7 IU/L/37℃,可溶性IL-2受容体(sIL-2R) 727 U/mL, リゾチーム6.8 µg/mL,Ca 8.9 mg/dL, T-SPOT 陰性. Gaシンチグラフィ:両側縦隔,肺門部,涙腺に異常集積 を認めた. 胸部単純写真,CT検査:両側肺門,縦隔リンパ節腫脹を 認めたが,肺野には異常を認めなかった. ●入院時検査所見 血液検査(Table 1):白血球11,100 /µL,CRP 5.39 mg/ dLと炎症反応の上昇を認めた.ALT優位の著明な肝逸脱 酵素の上昇を認め,ALP,γ-GTP,ビリルビンなどの胆 道系酵素も著増していた.サルコイドーシスの活動性マー カ ー と し て は,ACE 28.3 IU/L/37℃,sIL-2R 4860 U/ mL,リゾチーム14.1 µg/mLと上昇を認めたが,免疫グロ ブリンは低値であった.肝障害をきたすウイルス検査はB 型肝炎ウイルスが既感染を示したのみであった.また入 院初期に検査したHHV-6 DNA検査(geniQ)は陰性であ り,HHV-6 IgG検査(蛍光抗体法)は20倍と低値であった. 尿中乱用薬物検査(トライエージ®)では,ベンゾジアゼ ピン,バルビツール酸系で陽性反応を認めた. 胸部単純写真(Figure 2):両側肺門リンパ節腫脹を認め た.肺野には明らかな異常を認めず,サルコイドーシス 診断時と比較し著変は認められなかった. 胸腹部CT検査(Figure 3a,3b):両側肺門,縦隔リンパ 節腫脹を認めたが,肺野には異常を認めなかった.これ らの所見はサルコイドーシス診断時と著変を認めなかっ a) b) c) Figure 1. a) 顔面全体は著明な浮腫を伴うびまん性の紅斑を認める.下口唇は痂皮化するも,水疱やびらんは認めない b) 腹部はやや膨隆し軟.腹部全体に紅斑を認め,中央は紫紅色で融合傾向を認める.水疱やびらんは認めない. c) 顔面から体幹,四肢に至る広範な小丘疹,紅斑を認め,下肢は毛嚢炎様の丘疹も認める.
た.新たな所見としては胃体部小弯,肝門部,門脈本幹 周囲,膵頭部背側に多発リンパ節腫脹を認めた.その他 には脂肪肝を認めた. [腹部超音波検査]肝腫大と肝縁鈍化を認めた.肝腎コン トラストを認め,脂肪肝が疑われた.肝内に腫瘤を認め ず,その他の臓器に明らかな異常所見を認めなかった. ●入院後経過(Figure 4):入院時の皮膚所見と経過よ り,Stevens-Johnson症候群(SJS)やDIHS,中毒性表皮 壊死症,多刑滲出性紅斑などが鑑別に挙げられた.顔面 の特徴的な皮疹と粘膜疹が乏しかったことより,DIHSの 可能性が高いと考えられ,尿中乱用薬物検査でもバルビ ツール酸系が陽性を示した.しかし,医療機関から同系 統の薬剤処方歴はなく,本人も内服を否認した.また, 詳細な薬剤歴の聴取を行ったが,DIHSを発症しうる薬剤 の内服歴は認めなかった. 重症薬疹と考え,入院時に使用していた全薬剤を中止 し,入院当日よりプレドニゾロン60 mg/dayを開始した. しかし,肝障害や皮疹の悪化を抑えられず,第3病日より ステロイドパルス療法(メチルプレドニゾロン1,000 mg/ day),免疫グロブリン製剤,ウリナスタチンを投与した. 第2病日に施行した肝生検では毛細胆管,肝細胞内に胆汁 のうっ滞を認め,薬剤性肝障害が疑われた.肉芽腫は認 めず,軽度のリンパ球浸潤を認めたものの線維化は認め られなかったため,肝サルコイドーシスや慢性肝炎は否 定的であった.パルス療法後はプレドニゾロンを65 mg/ dayより開始し漸減した.入院2週間頃より肝障害と皮疹 が改善傾向を認めたため,乳酸菌製剤,ブロチゾラム, ST合剤,アレンドロン酸,ランソプラゾールを開始した が,病状の悪化を認めなかった.プレドニゾロン45 mg/ dayまで漸減し,第37病日退院となった.以後,外来でプ レドニゾロンを10 mg/dayまで漸減しているが,皮疹の 再燃は認めていない.なお,本例は入院中にHHV-6の再 活性化を確認した(Table 2).また,DLSTは入院中と 退院後に施行したが,ウルソデオキシコール酸が弱陽性 を示したのみであった(Table 2). Hematology WBC 11,100 /µL Ba 0.5 % Eos 9.0 % Stab 62.5 % Seg 15.5 % Ly 1.0 % Atypical lym 2.0 % RBC 545×104/µL Hb 17.2 g/dL Plt 18.3×104/µL Biochemistory TP 6.6 g/dL Alb 4.1 g/dL AST 338 IU/L ALT 973 IU/L LDH 531 IU/L ALP 1192 IU/L γ-GTP 370 IU/L T-Bil 8.4 mg/dL D-Bil 6.0 mg/dL T-cho 368 mg/dL BUN 17 mg/dL Cre 0.64 mg/dL Na 130 mEq/L K 3.8 mEq/L Cl 95 mEq/L Ca 8.7 mg/dL Serology CRP 5.39 mg/dL sIL2R 4860 U/mL ACE 28.3 IU/L lysozyme 14.1 µg/mL IgG 717 mg/dL IgA 71 mg/dL IgM 34 mg/dL IgE 29 IU/mL ANA 40 倍未満 抗ミトコンドリアM2抗体 40 倍未満 IL-6 36 pg/mL Coagulation PT % 55 % PT-INR 1.35 APTT 34.0 sec FDP 9.9 µg/mL Urine Protein 30 mg/dL Glucose 100 mg/dL Bil 1+ Ca(蓄尿) 64 mg/day Infection プロカルシトニン 0.68 ng/mL HBs抗原 0.1 C.O.I. HBs抗体 128.8 mIU/mL HCS(PCR) 未検出 HIV(EIA) 未検出 HAV IgM(EIA) 0.2(−) CMV IgM(EIA) 0.44(−) CMV IgG(EIA) 15.3(+) EBV IgM 10 倍未満 EBV IgG 80 倍 VZV IgM(EIA) 0.1(−) VZV IgG(EIA) 23.1(+) HHV-6(geniQ) (−) HHV-6 IgG(蛍光抗体法) 20 倍 Abused drugs in urine
benzodiazepine (+) cocain (−) opioid (−) amphetamine (−) barbiturate (+) tricycric antidepressent (−) Table 1. 入院時検査所見 Figure 2. 胸部単純写真 両側肺門リンパ節腫脹を認める.肺野には明らかな異常
肺門,縦隔リンパ節腫脹を認め,血清ACEと可溶性IL2 受容体の軽度上昇を認めた.病勢は安定していたため無 治療経過観察となっていた.今入院時は新たに腹腔内リ ンパ節の腫脹を認め,血清ACE,リゾチーム,可溶性IL2 受容体の著増を認めた.これら血清マーカーは薬疹の治 療,改善と並行して低下した(Table 2).一方,サルコ イドーシス診断時に正常範囲内であったIgG,IgA,IgM は今回の入院時,皮疹増悪時に低下していた.これらは 皮疹消失後も改善を認めず,特にIgGは退院後1年以上低 値が持続している(Table 2).なお,サルコイドーシス の肺外病変は現在まで認められておらず,神経サルコイ ドーシスと考えられた四肢の痺れは頚部脊柱管狭窄症に よる症状であると判明し,副腎皮質ステロイドホルモン 薬(以下ステロイド)治療後も改善を認めなかった. a) b) Figure 3. CT検査所見 a) 肺野に異常を認めず,両側肺門,縦隔リンパ節腫脹を認める.サルコイドーシス診断時と比較し著変を 認めない. b) 胃体部小弯,肝門部,門脈本幹周囲,膵頭部背側に多発リンパ節腫脹を認める. Figure 4. 入院後経過
PSL: prednisolone,mPSL: methylprednisolone,IgG: immunoglobulin
乳酸菌製剤 ブロチゾラム プレガバリン ST合剤,アレンドロン酸, ランソプラゾール追加投与 全内服薬中止 ファモチジン 造影 CT 4/9 PSL/mPSL(mg) 6080 65 60 50 45 IgG ウリナスタチン 肝生検 4/15 mPSL 1,000 mg/day 3 日間 5,000 mg/day 3 日間 30 万単位 6 日間 4/27 入院 4/14 退院 5/20 メトクロプラミド ウルソデオキシコール酸 X+1 年 1,400 ALT (IU/L) ALP (IU/L) T-Bil (mg/dL) 1,200 1,000 800 600 400 200 0 4/3 4/8 4/13 皮疹 4/18 4/23 4/28 5/3 5/8 5/13 5/18 5/23 5/28 IU/L 12 10 8 6 4 2 0 mg/dL
考察
本例はサルコイドーシス経過中に重症皮疹をきたし, DIHSの合併が疑われた.DIHSは重症薬疹のひとつで, 限られた原因薬剤使用後に発症し,その発症率は1,000人 から10,000人に一人といわれている1).診断基準(Figure 5)に示すように,抗痙攣薬や抗不整脈薬の使用後2–6週 間後に発症する例が多いが,長期内服後に発症する例も 報告されている.発熱,肝障害,顔面の特徴的な皮疹と HHV-6の再活性化が特徴とされている.本例は主要所見 の2から7を満たした.唯一,既知の原因薬剤の使用歴を 認めなかったが,主要所見の一致と口腔内や角膜,眼瞼 結膜病変をほとんど認めなかったことより,DIHSを発症 していたと考えられた.DIHSと鑑別が必要な疾患として はSJS,中毒性表皮壊死症,多形滲出性紅斑などが挙げ られる.本例は顔面に特徴的な皮疹を認め,粘膜疹が軽 度であったことなどより,いずれも否定的と考えられた. しかし,皮膚生検による病理組織学的検査がなされなかっ たため,完全な鑑別は困難であった.特にSJSとの鑑別は 困難で,HHV-6の再活性化を認めたSJSの症例報告もあ る2–4)ことから,本例もDIHSとSJSを合併していた可能 性も考えられた.なお,HHV-6の再活性化に関して,本 例は経過中に免疫グロブリン製剤を使用したが,血清免 疫グロブリン値の上昇はみられなかった.このため,免 疫グロブリン製剤の補充による影響は否定的であった. また,ステロイドの使用による免疫機能低下は,HHV-6 の再活性化に寄与しないことが示されている5). また,本例は造影CT撮影後に嘔気,嘔吐を認めており, 造影剤アレルギーが強く疑われた.皮疹の出現はその翌 日からであり,造影剤投与後から時間が経過していたも のの,造影剤による皮疹の可能性も考えられた.さらに, 関連性のない2薬剤によるDIHSの症例報告もあることか ら6),造影剤を含めた多数の薬剤が本例の皮疹に関与した 可能性も考えられた. 用薬物検査(トライエージ®)では,バルビツール酸系で 陽性反応を認めたものの,原因薬物の内服歴がなかった 点である.トライエージ®は金コロイド粒子免疫法を使用 した尿中薬物検査で,ベンゾジアゼピン,コカイン,バ ルビツール酸系など8種類の薬剤を同時に測定できる.各 項目の感度,特異度は明らかでなく,偽陽性や偽陰性も みられる.バルビツール酸系の検査はバルビタール,フェ ノバルビタール,エトスクシミド,チアミラール,チオ ペンタールなどの使用で陽性になるが,本例が入院前に 使用していた薬剤のうち,陽性になると報告されている ものはなかった.また,本例が使用していた薬剤のうち, 神経系に作用しうるものとしてプレガバリンが挙げられ るが,同剤使用者のトライエージ®に対する反応は不明で あった.このため,本例はトライエージ®の反応が偽陽性 であったか,あるいは患者が正直に解答せず,処方薬以 外のバルビツール酸系薬物を内服していた可能性は否定 できなかった.病院は捜査機関ではないので,これ以上 の追求はできなかった. また,本例はサルコイドーシス診断時と皮疹出現時と もに呼吸困難を訴えた.サルコイドーシス診断時は検査 上呼吸不全をきたしておらず,呼吸困難の原因は不明で あった.一方,一般的にはDIHSに呼吸器症状は合併し ないが,皮疹出現時は実際に低酸素をきたしていた.聴 診所見は正常で胸部単純写真,胸部CT検査ではともに肺 野に異常を認めなかった.また,血液検査や生理学検査 の結果から,肺血栓塞栓症などの血管病変を疑う所見も みられなかった.このため,皮疹出現時に低酸素をきた した原因は不明であったが,発熱や頻呼吸を認めており, 気道感染を合併していた可能性や,SJSのように呼吸器病 変を合併する病態が隠れていた可能性も考えられた. DIHSは限られた薬剤の使用後に発症し,中でも抗痙攣 薬は重要な原因薬剤である.本例が内服していたプレガ バリンはγアミノ酪酸(GABA)の構造類似化合物で, Table 2. 追加検査所見sarcoidosis serum marker and HHV-6 IgG
Unit Date X年6月13日 X+1年2月21日 4月3日 4月9日 4月16日 5月2日 5月7日 6月12日 8月7日 IgG mg/dL 905 853 717 479 399 ACE IU/L 21.7 19.4 23.7 29 28.3 7.5 8.3 lysozyme µg/mL 6.8 14.1 3.3 sIL2R U/mL 727 1010 4860 376 269 HHV-6 IgG (蛍光抗体法) 20倍 160 倍 薬剤リンパ球刺激試験 X+1年4月16日(ステロイドパルス療法中) X+2年10月15日(プレドニゾロン21 mg内服中) S.I. S.I. ファモチジン 1.4(−) プレガバリン 1.3(−) メトクロプラミド 1.6(±) フェノバルビタール 1.4(−) ウルソデオキシコール酸 2(+) ウルソデオキシコール酸 2.1(+) S. I. : stimulation index
る.抗痙攣薬のガバペンチンと構造的,薬学的に類似し ており,海外では抗てんかん薬としても使用されている. 副作用としての発疹は約1.5%に発症すると報告されてお り,時に重症薬疹をきたすといわれている7).このため, プレガバリンがDIHSの原因となった可能性も考えられた が,検索した限りでは同剤によるDIHSの報告は唯一例の みであり8),大変稀少であった.また,DIHSにおける薬 剤リンパ球刺激試験(DLST)は発症初期よりも回復期 に陽性になりやすく,発症数か月から一年後と長期間陽 性になる場合も多いと報告されている9).本例では発症初 期と一年半後にDLSTを施行しているが,ウルソデオキ シコール酸が弱陽性を示したのみであった.本例はステ ロイド使用中にDLSTを施行しているため,リンパ球機 能が抑制され,原因薬剤が偽陰性を示した可能性がある. DLSTの結果からは原因薬剤の推察,同定は困難であっ た. DIHSは発症後に免疫異常をきたし,1型糖尿病,甲状 腺機能障害,ADH不適合分泌症候群などを合併するこ とが知られている.サルコイドーシスも免疫異常を呈す る疾患であるが,検索した限りサルコイドーシス経過中 にDIHSを発症した報告は一例も認めなかった.DIHS急 性期には原因薬剤による免疫変調により,免疫グロブリ ンやB細胞が減少する10, 11).一方,CD4+CD8+FOXP3+の 制御性T細胞(Treg)が著増し,症状の軽快とともに減 少すると報告されている12).同様に,サルコイドーシス 活動期にはTregが増加することが報告されている13).活 動期にTregが増加するという点でサルコイドーシスと DIHSは共通しているが,その機能には相違がみられる と報告されている.即ち,活動期のサルコイドーシスに おけるTregの増加はサルコイドーシス悪化の原因ではな く,局所の肉芽腫性炎症を抑制できない,機能不全を伴っ たTregの増加と考えられている13).一方,DIHSにおい てはまず,原因薬物の内服後に感作Tリンパ球が増加す る.それとともにTregが増加することにより,感作Tリ ンパ球の活性化が抑制され,DIHSの発症が抑えられる. Tregの増加によっても抑制しきれないほど感作Tリンパ 球が増大したとき,DIHSが発症するといわれている.原 因薬剤を中止することで免疫が復活し,臨床症状の悪化 をもたらす.このように,機能の相違こそあれ,Tregが これらの疾患に大きく関わっていることは大変興味深い 点であった.本例では発疹の発症急性期にサルコイドー シスの血清マーカーが著増しており,発疹の改善ととも に血清マーカーも改善した.発疹の病勢とサルコイドー シスの活動性は,並行して変動したと考えられた.なお, 入院時のCT検査では新たに腹腔内リンパ節腫脹を認めた が,サルコイドーシスによるものか薬疹の随伴症状によ るものかは不明であった. DIHSにおいて,原因薬剤の中止はTregの増加によっ 概念 高熱と臓器障害を伴う薬疹で,薬剤中止後も遷延化する.多くの場合,発症後2–3週間後にHHV-6の再活性化を生じる. 主要所見 1.限られた薬剤投与後に遅発性に生じ,急速に拡大する紅斑.多くの場合紅皮症に移行する. 2.原因薬剤中止後も2週間以上遷延する. 3.38度以上の発熱. 4.肝機能障害. 5.血液学的異常:a,b,cのうち一つ以上. a.白血球増多(1,1000 /mm3以上) b.異型リンパ球の出現(5%以上) c.好酸球増多(1,500 /mm3以上) 6.リンパ浮腫張. 7.HHV-6の再活性化. 典型DIHS:1~7すべて. 非典型DIHS:1~5すべて.ただし4に関しては,その他の重篤な臓器障害をもって代えることができる. 参考所見 1. 原因薬剤は,抗けいれん剤,ジアフェニルスルフォン,サラゾスルファピリジン,アロプリノール,ミノサイクリン,メキシ レチンであることが多く,発症までの内服期間は2–6週間が多い. 2. 皮疹は,初期には紅斑丘疹型,多形紅斑型で,後に紅皮症に移行することがある.顔面の浮腫,口囲の紅色丘疹,膿疱,小水疱, 鱗屑は特徴的である.粘膜には発赤,点状紫斑,軽度のびらんがみられることがある. 3.臨床症状の再燃がしばしばみられる. 4. HHV-6の再活性化は,①ペア血清でHHV-6IgG抗体価が4倍(2管)以上の上昇,②血清(血漿)中のHHV-6DNAの検出,③ 末梢血単核球あるいは全血中の明らかなHHV-6DNAの増加のいずれかにより判断する.ペア血清は発症後14日以内と28日以 降(21日以降で可能な場合も多い)の2点にすると確実である. 5.HHV-6以外に,サイトメガロウイルス,HHV-7,EBウイルスの再活性化も認められる. 6.多臓器障害として,腎障害,糖尿病,脳炎,肺炎,甲状腺炎,心筋炎も生じうる. Figure 5. 薬剤性過敏症症候群診断基準 文献1より抜粋
て抑制されていた免疫を復活させ,臨床症状の著明な悪 化をきたすことが知られている.これは免疫再構築症候 群(IRS) の病態に類似すると考えられている14).IRS はHIV患者に対して抗HIV治療を行った際,急速にHIV-RNA量が減少し,HIV感染症により機能不全に陥ってい た単球やマクロファージなどの機能が回復することや, CD4+細胞が増加してくることなどで患者の免疫能が改善 し,体内に存在する病原微生物などに対する免疫応答が 誘導されるために起こる症候群である.最近では,IRSは HIV患者のみならず,ステロイドや免疫抑制剤の減量時 や,免疫低下をきたすウイルス感染からの回復期などに もみられる普遍的な現象であると報告されている.IRSの 診断基準は未だに確立されていないが,①免疫応答の回 復に伴ってみられる臨床症状の著明な増悪,②免疫応答 の回復を反映するCD4+T細胞の増加,③病原体の量的低 下,などをきたす病態とされている.これらはDIHS発症 時にみられる病態と合致しており,DIHSはIRSそのもの であるとも考えられている15).活動期にTregが増加する という点で,サルコイドーシス,DIHS,IRSは共通して いる.Tregの働きを研究することが,これらの疾患の病 態解明に繋がりうると考えられた.
結論
サルコイドーシス経過中にHHV-6の再活性化を認め, DIHSの合併が疑われた稀な1例を経験した.DIHSを発症 する既知の薬物使用歴がなく,他の薬疹や皮膚疾患との 鑑別に苦慮した.HHV-6の再活性化は特徴的であり,プ レガバリンなどの薬剤がDIHSを発症した可能性も考えら れた. サルコイドーシスとDIHSはTregが増加する点で共通 しており,IRSの病態とも繋がりうると考えられた.サル コイドーシスにおけるTregの役割に関して,更なる研究 が望まれる. 謝辞:本例に関して,終始適切な助言を賜り,ご指導い ただきました杏林大学附属病院皮膚科 塩原哲夫先生に深 謝いたします.引用文献
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