ミャンマーにおける外国資金調達取引につい
ての実務的観点
ミャンマーの多くの分野の場合と同様に、現在、外 国の資金調達と担保権設定を行う際、しばしば、理 論と実務の間に大きな溝がある。資金調達取引を完 了するためには、債権者および債務者は、適用され る法律に注意を払うだけでなく、当局その他の利害 関係者の実務を熟知するのが良いだろう。加えて、 国際融資はミャンマーでは新しいものであるため、 しばしば、ルールまたは先例が存在せず、個々のケ ースについて進め方を見出すため、当局および他の 利害関係者との協力が必要とされる。一般的には、 債権者も債務者も同様に、現時点でミャンマーにお いて資金調達取引を完了するために必要な物を過小 評価する。 外国ローンについてミャンマーではどの承認が必要 か、また、どれほどの時間がかかるか？ 商業ローン、開発ローンおよび株主ローンを含む全 ての外国ローンは、ミャンマー中央銀行（CBM） による承認を受ける必要がある。 2012 年の外国投資法施行時点の、外国ローンに関 するミャンマー中央銀行の政策の簡単な背景に注目 することは、役に立つだろう。外国為替を規律する 基 本 的 な 法 律 で あ る 2012 年 の 外 国 為 替 管 理 法 （FEMA）は、その制定以来改正されなかったけれ ども、実際には、その後、数回政策が転換した。 当初、すなわち、外国為替管理法制定直後、ミャン マー中央銀行は、特に外国為替の被仕向送金を緩和 した。2013年、ミャンマー中央銀行は、外国投資と 結び付いた借り入れによる資金調達の影響を懸念す るようになり、投資規制当局であるミャンマー投資 委員会（MIC）が、直接投資プロジェクトについて 、より高い自己資本比率を要求するように推奨し始 めた。これは、2014年中期に、ミャンマー中央銀行 が地方銀行に対し、海外から、とりわけローンとし て得た資金を払い出す前に新たな要件を課したこと で、政策の急速な引き締めに至った。理論上、外国ローンは実際には、ミャンマーにおい ては法的に曖昧な状況にある。外国為替管理法によ れば、「資本口座からの支払い」のみ、ミャンマー 中央銀行から事前承認を得る必要があるが、「経常 口座からの支払い」は不要である。ローンは、両方 のカテゴリーに再分類されると言及され、（未定義 の）「短期ローン」は、「経常口座」 に分類され る。加えて、「異常」または「重要」な 経常口座 からの支払いも、ミャンマー中央銀行の承認を要す る一方で、両方の条件も未定義のままである。しか し、法的定義はほとんど重要ではないようである。 実際には、ほとんどの地方銀行は、ミャンマー中央 銀行による明確な承認がない限り、外国からの借り 入れで得た資金を払い出そうとしない。これは、ミ ャンマー中央銀行によりすべて承認された、貸出実 行、返済、利子支払の実際のスケジュールが必要と されることを意味する。 ミャンマー中央銀行の承認が得られるまでにかかる 期間を推測することは困難である。我々が知るかぎ りでは、数日で承認が得られる場合もわずかながら 存在したが、他のケースでは数週間、数ヶ月間かか ることもあった。誤った書類または不完全な書類を 提出することで引き起こされる遅延、もしくは、地 方銀行自身のプロセスと結びついた遅延も見られる ことに注意せよ。 債務者が、外国投資法による許可（ミャンマー投資 委員会の許可）を得ている場合、ミャンマー投資委 員会は、ローンおよび担保契約を承認しなければな らない。債務者がミャンマー投資委員会の許可を得 ている場合、さらなる承認が必要となるために、プ ロセスは、外見上、より複雑かつ長期になる。しか し、実際には、ミャンマー投資委員会は、お役所仕 事を減らすことを助け、必要に応じてコミュニケー ションを改善する、重要なファシリテーターの役割 を果たす。 最後に、ミャンマー投資委員会またはミャンマー中 央銀行が、資金調達取引に対する他の関係省庁の見 解を求める可能性は排除されない。それは、例え ば、政府から免許を得た会社に関する資金調達取引 における、電力省が例として挙げられるだろう。他 の例では、マイクロファイナンス機関の借り入れに よる資金調達に対するマイクロファイナンス監督委 員会（BOARD）が挙げられる。 オンショア債務者か、オフショア債務者か？ 多くの場合、債権者および債務者は、資金調達の基 本構造に関する限り、二つの基本的な選択肢の間で 選択することができる。(1) ミャンマー事業・プロ ジェクト会社（MMCo）が債務者であり、（ほぼ SPV である）外国親会社がしばしば保証人である場 合。(2) 外国直接親会社（SPV）が債務者であり、 ミャンマー事業・プロジェクト会社が保証人である 場合。もちろん、両方の会社を共同保証人にするな ど、他のバリエーションも存在する。どちらにせ よ、債権者は、債務不履行の場合に執行することが できるように、ミャンマー事業・プロジェクト会社 のミャンマーでの資産に接近しなければならない。 これら二つの基本的な選択肢のうち、どちらが好ま しいだろうか？両方に利点と欠点が存在する。 同時に、選択肢 2（オフショア債務者）は、承認の 点で負担が少ない、なぜならば、融資は外国会社間 で行われ、海外で執行することは容易だからであ る。しかし、資産はミャンマーにあり、ミャンマー 事業・プロジェクト会社の保証は、債権者から取り 除かれたもう一段階であると主張する者もいるだろ う。 最も重要なことの一つは、選択肢 2 のオフショアル ートが選ばれた場合、どのように SPV が債権者か ら受領した借入金を、その子会社であるミャンマー 事業・プロジェクト会社に移すかを解決することで ある。何が起ころうとも、債権者は、ミャンマー事 業・プロジェクト会社が、債務を弁済するために十 分な現金を送金することを認められるように保証さ
れなければならない。必要な許可および手続きは、 SPV とミャンマー事業・プロジェクト会社間の契約 によって異なる。たとえば、SPV が、ミャンマー事 業・プロジェクト会社の資本を増強するため、借入 金を利用する場合、ミャンマー事業・プロジェクト 会社は、ミャンマーにおける減資と結びついた制限 および手続きのため、容易に SPV に対し債務を弁 済するために送金することはできない。その結果、 その方法による構造では、現金が引き出せなくな る、そしてその方法は、間違いなく回避されること になる。 我々の見解では、選択肢 2 の場合に、必要な承認が 少ないと考えることは、ほとんど誤りである。現金 を引き出せない問題のため、出資はほとんどの状況 において提案されておらず、SPV は、ミャンマー事 業・プロジェクト会社に株主ローンによって資金を 提供する以外の選択肢を持たない。そしてそれは、 第三者の融資と同じオンショアの承認を必要とす る。加えて、ほとんどの商業ローンおよび開発ロー ンの債権者は、取引および書類がミャンマー当局に よって署名されることを好まないだろうか？選択肢 2 は、選択肢 1 がそうであるように、利点を有す る、しかし、我々の経験上、承認手続きは、全体的 に見て同一である。 最適な税務構造はどのようなものか？ 特に債務者は、実際にミャンマーの租税コストを負 担するため、各選択肢に対する源泉税の課税結果を 考えることを強く望む。その意味で、少なくともミ ャンマーとの租税条約（DTA）を締結した国に居住 しない債権者に関して、選択肢 2 は源泉税の減免の 可能性を与える。つまり、債務者のグループは、ミ ャンマーとの租税条約（DTA）を締結した国―通常 はシンガポール―において、ミャンマーの利子に対 する 15％の源泉税を、ミャンマー・シンガポール 租税条約により 10％に軽減するため、SPV を利用 することができる。もちろん、債務者は、シンガポ ールにおける課税結果も考慮しなければならないだ ろう。特に、シンガポールは非居住者たる債権者に 支払われる利子に対して 15％の源泉税率を適用す る。その結果、シンガポールルートは、最終的な債 権者がシンガポール人である、または、シンガポー ルの租税条約により（ごく稀に）減免が認められる 場合にのみ、税務上の意味をもつ。たとえば、モー リシャス・シンガポール租税条約によれば、利子に 対する源泉税は、少なくとも原則として、0％に減 じられる。 しかし、一定の場合で、シンガポール SPV を介し た間接ローンは、現実には、その他のローンよりも 高い税負担を生み出す。特に、債権者が、多国間条 約によるミャンマーの源泉所得税免除から利益を得 る場合、ローン及び利子をシンガポール経由にする ことは、追加の税負担を生み出すことにしかならな い。 セキュリティパッケージについての先行条件を履行 するためにどれほどの時間がかかるか？ ミャンマーにおける登録その他の担保権を有効にす る手続きは、資金調達取引を完了するための、より 困難な実務上の障害の一つである。典型的には、債 務者は、セキュリティパッケージの有効化について の先行条件を含む、先行条件（CPs）が履行されれ ば、融資を受けることができる。担保契約に署名す ることは、ローンおよび担保契約が既にミャンマー 中央銀行によって承認された（そして、ミャンマー 投資委員会により受諾された）場合、問題ではな い。しかし、担保権を登録することは全く別の話で ある。 歴史的に、ミャンマー法は、抵当権、固定および変 動担保権、質権だけでなく、保証および譲渡担保も 含む、英国法の担保権の全レパートリーを定める。 しかし、これらの大半は、過去 40 年間ほとんど全 くと言っていいほど利用されてこなかった。例え ば、ミャンマーの財産移転法は 6 種類の担保を認め るが、実際には、登録されない「権利証書の預託に
よる担保」が、国内で一般に用いられてきた唯一の 種類である。 少なくとも二つの政府組織が、担保の登録に関係す る。「会社登録事務所」（本質的には登録官）は、 ごく最近、会社による担保権の登録に関する行政手 続を復活した。わずかな登録が行われ、依然として 全ての利害関係者との手続きに関する多くの誤解が 存在する。「証書登録官事務所」（数種類の土地登 記を担当するが、それ以外の問題についても権限を 有する）は、不動産に対する担保権および抵当権の 登録に関与しなければならないだろう。証書登録官 事務所は、限られたリソースしか有しないため、新 しい取引の潮流に追いつくことが困難である。証書 登録官事務所は、2012 年以前から、外国の借地人 との土地の長期リースを登録することとなっている が、ワークフローに対処することが困難であった。 民間航空局または郵便電気通信局など、他の当局 も、状況に応じて、同様に関与しなければならな い。登録その他担保を有効にする手続きにどれほど の時間が必要となるかは、何よりもまず、求める担 保権の種類に依拠する。担保権は、我々の経験上、 最初のいくつかの登録によって道筋が示されてか ら、合理的な期間内に登録がなされるようになると 考えられる。しかし、そうであっても、追加調査お よび遅延をもたらす契約または構造における「罠」 に引っかからないように極めて慎重でなければなら ない。我々は、不要な遅延を引き起こさないため に、できるだけ、我々が当局とともに既に有効に用 いてきた書類に従うように試みる。しかし、問題に 関する未熟さがあるとすれば、当局が、取引のいく つかの観点を調査するために時間をかけることや、 当承認について別の規制当局の援助を求めることは 排除され得ない、そしてそれは、遅延を招き得る。 結論として、決定の前に、登録は先行条件となり 得、後行条件（CS）であるべきとの当局の発展し た実務を考慮しなければならない。これは、登録の 締め切りおよび印紙税の支払いを計画することにつ いてさらなる問題を含む。制定法の文言と当局によ る実務の間のミスマッチは、対処が容易ではない。 言語、原本および署名者 英語は、ミャンマー連邦共和国の公用語の一つであ り、取引書類をミャンマー語に翻訳する必要は公式 には存在しない。しかし、それはあくまで理論上に すぎない。実際には、あなたは依然として、書類が ミャンマーの法規に従うことを、様々な規制当局を 納得させなければならない。書類のミャンマー語へ の翻訳が有益である場合、複雑な法律文書を英語か らミャンマー語に翻訳することは数週間を要するこ とに注意すべきである。 会社による担保権の登録に原本が必要かどうかにつ いて、所定のルールは未だ存在しない、しかし、証 書登録官事務所での登録は、通常原本が必要であ る。そしてそれは、印紙税の課税時期にも影響を与 える。 最後の実務上のポイントは、担保権の登録について 登場しなければならない者に関するものである。書 類が、当局での署名を必要とする場合、これは、代 理人ではなく、本人が直接行わなければならない。 それは、容易にミャンマーに来ることができない者 によって書類に署名しなければならない場合に、問 題を生じさせる。 ご質問がございましたらメールにて Edwin Vanderbruggen をご連絡ください
