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特集東アジアの理科の大学入試問題分析 る点である 日本では国公立大学の場合 センター試験と大学の個別 (2 次 ) 試験を受験する 一方 中国では高考の成績で決まり 大学の個別試験は課されない でも基本的に修能の結果によって決まる 大学によっては 個別試験を課す場合もあるが その内容は小論文や面接

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   河合塾では、英語、数学、国語の東アジアの統一試 験の分析を行い、2012年度ガイドライン4・5月号 でその分析結果を掲載した。  その後、教育のグローバル化、大学の国際化の影響 はますます強くなっている。そこで今年度は、新しい 学習指導要領の先行実施でも注目を集めている、理科 4科目(物理・化学・生物・地学)を分析した。  また、東アジアだけではなく、イギリス、アメリカ の科学教育について、2人の研究者に話を聞いた。  理科教育について考える契機となれば幸いである。

東アジアの理科

大学入試問題分析

 

特集

CONTENTS

 今回の分析対象としたのは、2010 ~ 2012 年の韓国、 上海(中国)、北京(中国)、台湾の統一試験である。各 国の統一試験の問題を、日本の大学入試センター試験(以 下、センター試験)と比較して分析した<表1>。  記事をご覧になる際、留意していただきたいのは、統 一試験の位置づけや出題形式は、国によって異なってい 分析対象とした統一試験の概要 解説 入試文化は「イノベーション人材」を育むことが できるか?(長崎大学井手弘人准教授) 物理 化学 生物 地学 コラム イギリスの科学教育 アメリカの科学教育 ………

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分析対象とした統一試験の概要

試験名称/ 入試時期・受験学年 教科・科目名 入学時期 時間(分)試験 (点)配点 設問数 出題形式 韓国 「大学修学能力試験」通称:修能 11 月・高3 物理Ⅰ 3月 30 50 20 全問客観式 物理Ⅱ 30 50 20 化学Ⅰ 30 50 20 化学Ⅱ 30 50 20 生物Ⅰ 30 50 20 生物Ⅱ 30 50 20 地球科学Ⅰ 30 50 20 地球科学Ⅱ 30 50 20 中国 (注) 上海 「全国大学統一入試」 通称:高考 6月・高3 物理 9月 120 150 33 次ページ参照 化学 120 150 59 生物 120 150 73 前後 北京 「全国大学統一入試」 通称:高考 6月・高3 理科総合 9月 150 300 31 次ページ参照 台湾 「大学学科能力測験」通称:学測 2月・高3 自然科学 9月 100 128 68 次ページ参照 日本 「大学入試センター試験」通称:センター試験 1月・高3 理科総合 A 4月 60 100 26 全問客観式 理科総合 B 60 100 27 ~ 29 物理Ⅰ 60 100 22 ~ 25 化学Ⅰ 60 100 28 ~ 33 生物Ⅰ 60 100 29 ~ 33 地学Ⅰ 60 100 30 ~ 31 <表1>各国の統一試験の概要(2010 〜 2012 年) (注)中国には、全国版の問題と、省・市・自治区が独自に作成する問題とがある。

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る点である。日本では国公立大学の場合、センター試験 と大学の個別(2次)試験を受験する。一方、中国では 高考の成績で決まり、大学の個別試験は課されない。韓 国でも基本的に修能の結果によって決まる。大学によっ ては、個別試験を課す場合もあるが、その内容は小論文 や面接、実技などが中心のようだ。台湾の学測は、大学 入試の第一段階という位置づけであり、試験範囲が高校 2年生までの学習内容である。また、出題形式は、日本 のセンター試験は全て客観式であるが、他の国では記述・ 論述問題も出題されている。  このように、科目設定、出題形式が国により異なるた め、<表2>にまとめた。各科目分析内容と合わせて参 考にしていただきたい。なお、「物理・化学・生物」に ついては、各国の理科試験に含まれているが、「地学」 については中国(上海・北京)では「地理」の試験範囲 として出題されるため、今回の分析には含んでいない。 <表2>各国の統一試験の出題形式・設問数等(2010 〜 2012 年) 中国 上海 「高考」物理・化学・生物 出題形式 設問数/配点 物理 化学 生物 第一部 選択式問題 20 問/ 56 点 22 問/ 66 点 30 ~ 31 問/ 60 点 第二部 記述・論述式問題 13 問/ 94 点 37 問/ 84 点 42 ~ 43 問/ 90 点 計 33 問/ 150 点 59 問/ 150 点 72 ~ 73 問/ 150 点 中国 北京 「高考」理科総合 「理科総合」という1つの問題冊子に、物理・化学・生物分野の設問が混在している。 出題形式 設問数/配点 全体の 設問数 計 物理 化学 生物 第一部 選択式問題 8 問/ 48 点 7 問/ 42 点 5 問/ 30 点 小問 20 問 31 問/ 300 点 第二部 穴埋め・記述式問題 4 問/ 72 点 4 問/ 58 点 3 問/ 50 点 大問 11 問 台湾 自然科学問題(理科全体) 「自然科学」という1つの問題冊子に、物理・化学・生物・地学分野の設問が混在している。 出題形式 設問数/配点 設問数/配点全体の 物理 化学 生物 地学 第一部分 一 小問集合(単一選択問題) 12 問程度 10 ~ 12 問 7 ~ 9 問 11 ~ 14 問 28 問/ 56 点 二 小問集合(複数選択問題) 15 問/ 30 点 三 総合問題 5 問/ 10 点 第二部分 小問集合 (単一選択、複数選択混合) 6 問程度 3 ~ 4 問 9 ~ 7 問 5 ~ 9 問 20 問/ 32 点 ※ 物理は 2012 年より第一部・第二部の区分がなくなったが、総設問数・配点は変わらない。

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るとともに、「問題状況は学問的状況とともに、日常生 活で接することができる内容および時事性ある素材」を 活用する方針が打ち出されている。とりわけ「時事性」 において、これまでも学校教育において伝統的に教授さ れてきた「知」との関連性が強く意識される傾向にある。 科学的なリテラシーとして「思考」「処理」を重視して いる傾向は、問題解決における「即応性」に長じた人材 層を厚くしようとする意図も見える。ここに、韓国らし い「イノベーション人材」に求める「知」の姿を見るこ とができる。  2012 年4・5月号『Guideline』で述べたように、中 国の入試は国家による統一入試形式ではあるものの、各  韓国は初・中等教育の教育課程(ナショナル・カリキ ュラム)と入試の研究開発機能が「韓国教育課程評価院」 (KICE)に一元化されている。この構造自体が、日本を 含む他の国・地域と大きく異なる点である。  日本の学習指導要領に相当する、2009 年に告示され た「2009 改定教育課程」(告示当初は「未来型教育課程」 という別称を用いていた)においてめざすところは、一 言で「創意性教育」と呼ばれている。今年 11 月に全国 一斉に行われる大学修学能力試験(「修能」)からこの新 教育課程に準拠することになるが、理科に相当する「科 学」については、科学「探究領域」として出題される。 そこでは「総合思考力と概念の理解および適用を測定す るように、単元間を統合した質問項目の出題を推奨」す

韓国

−科学的な「知」をめぐる文脈の違いを概観する 長崎大学教育学部 井手 弘人 准教授−

「未来型教育課程」対応入試への変容と

科学「探究領域」

中国

「第 12 次五か年計画」で強調される国家主導の

「科教興国」

解説

入試文化は「イノベーション人材」を育むことができるか?

 東アジア(日本・中国・韓国・台湾)において、入試 はひとつの「文化」とみるべきであろう。遠くは科挙制 度の発達からはじまり、階級の移動装置として公認され た「知」の量を測定する伝統が長く継続していた。日本 は科挙制度を採用せず階級移動も極めて限定的な時代が 長く続いたが、近代教育制度の浸透と歩調をあわせるよ うに、入学試験の導入と定着とともに東アジア的な階級 移動システムの要素を導入することに成功した。このよ うな背景もあり、従来から科挙の伝統が定着してきた他 の東アジアの国・地域において、入試の意味は 21 世紀 をすでに 10 年を経過した現代においても日本とは大き く異なる。それは、システムが「流行」(時代の要請) によって「不易」(入学選抜のシステム)を自己強化す る場面として現れることも多い。  現在、その「流行」なるものは「イノベーション人材 の育成」であろう。「創意性」や「創新」といった言葉 を用いながら、国家発展のための科学技術の革新に携わ るリーダーの発掘・育成を人材育成の柱に据えている国 が多く、入試内容もこうした「流行」に対応する動きを 見せている。しかし、「創意性」ある人材を求めている にもかかわらず、蓄積された「知」の表明を行わせる入 試システムは矛盾するようでもある。  科学技術による国家間競争が増す中、東アジア各国の 「イノベーション人材」に向けた「知」はどのように意 識されているのだろうか(あるいは意識されていないの か)。各国の科学的な「知」の問い方に、その意図を見 つけることができる可能性がある。 ※東アジアの大学入試に関する概要は、「東アジアの大学入試問題 分 析 」(『Guideline』2012 年 4・5 月 号、pp.16-28、http:// www.keinet.ne.jp/gl/12/04/toku2_1204.pdf)を参照されたい。

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直轄市・省による「独自問題」の出題もあり多様である。 ここでは中国の「イノベーション人材の育成」政策と入 試との関係について触れておきたい。  2010 年 7 月、中国政府は「国家中長期教育改革及び 発展計画綱要(2010 ~ 2020)」を発表した。ここでは、「生 徒全員に目を向けて全面的な発達を促し、国家と人民の ために奉仕する社会的責任感、果敢に模索するイノベー ション精神、効率的に問題解決する実践能力の向上に力 をいれる」こととしている。生徒の主体性育成をめざし、 「素質教育」のような主体的・創造的な思考場面を強調 したカリキュラムの編成・運用を行う一方で、入試によ る「選抜」システムについて大きな変更を加えているわ けではない。しかし、第 12 次五カ年計画において、「科 教興国」(科学教育によって国家振興を推進する)とい うワードを用いながら殊更に強調しているのは、やはり 「イノベーション人材の育成」である。特に都市部の学 校では、先端の研究機関における実験機会の提供などを 通じて創造的思考の過程を経験する場面を多く増やして いる。これまでの「内容知」としての知識量に基づく学 習から、思考過程で重要となる「方法知」を含めるカリ キュラム編成が増えてきた。  一方で、日本でも長年にわたり展開されてきた、経験 に基づく「構築的な学習観」と、知識獲得を重視した「系 統的な学習観」との論争も活発である。一連の「イノベ ーション人材の育成」政策とそれに基づくカリキュラム 改革は中国政府の強いイニシアティブによって進められ ている。「創新」の人材育成の手法については強い国家 関与に対する異論も提起されており、こうした議論は「応 試教育」か「素質教育」かといった二分法的な議論に発 展する機会が多く、両者の議論をいかにソフト・ランデ ィングさせるかといった議論が、これから展開されてい く状況にある。  「イノベーション人材の育成」と入試との戦略的な関 係性が見えはじめた中国・韓国に対し、一線を画してい るのは台湾である。台湾の大学学科能力測験(学測)は

台湾

「国民基本教育十二年制」へ向けた、

初・中等教育の役割明確化

「スタンダード測定」に徹している。この大きな要因は 民進党政権以来、国民党への政権交代後も推進された「国 民基本教育十二年制」実施に向けた措置とも関係がある。 これは、従来の 9 年間の義務教育期間に加え、後期中等 教育を志望する者は入学試験無く無償で進学することが できる、という制度である(進学しない選択も残されて いるため、「義務教育」という表現は用いていない)。し たがって、大学入試もスタンダードを重視する方向が定 着しつつある。ただし、高校1・2年及び高3の選修科 目を含めた「指定科目試験」については、スタンダード ではなく大学側から求められる「知」を前提にすること をうたっているため、難易度は高くなる(しかしながら、 入試制度は多元的になっているため、あくまでも選択の 一つとしての試験である)。なお「イノベーション人材」 については、高等教育機関に在籍する優秀人材を国費で 世界のトップ大学に留学させ、その人材を台湾に還流さ せること等に重点を置いており、台湾内と世界各地との いわゆる「ブリッジ人材」の層を厚くすることが戦略的 に推進されている。科学系高校など英才教育の強化傾向 を除けば、イノベーション人材の育成は高等教育機関の 役割という側面が強い。  このように、初・中等教育から「イノベーション人材」 の育成が意識され、かつ、全体的な「底上げ」を強化し ている韓国、先進的・実験的な位置付けをもつ都市部を 中心として科学に対する「知」の位置付けを大きく変革 しようと試みる中国、初・中等教育と高等教育との役割 を明確化し、より基礎・基本を重視する方向を強める台 湾とでは、自ずと高等学校卒業段階における科学に対す る「知」の意味も変わり、入試での問い方も変わってくる。 出題される内容や難易度のみならずそれを要求している 国家の「文脈」も含めてみると、日本の中等教育から高 等教育への接続として問われる(あるいは問われ続けて いる)「理科」の「知」の意味が見えてくるかもしれない。 Profile 

井手弘人

准教授 長崎大学教育学部准教授。専門は、カリキュラム論、比較教 育学、教科教育学(社会科、生活科・総合学習)。現在の研究テー マは、統合的カリキュラムの日韓比較研究、歴史教育の多様 化と対話に関する日韓比較研究など。中央教育審議会大学分 科会大学グローバル化検討ワーキンググループ の専門委員を 歴任。

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<出題例> 2010 年 韓国「物理Ⅰ」 題例> のような、複数物体の運動方程式の問題では、 質量、張力、エネルギーの正誤が問われており、問題全 体についての把握が必要になる。難易度はセンター試験 と同程度である。個々の問題は思考力を要求する良問も 多いが、試験時間を考えると計算にあまり時間を割けな いため、高得点をとるにはそれなりの技量が必要だろう。 日本と異なる出題傾向としては、 x − t グラフの評価、 3体の運動、運動量と力積、距離と変位の区別問題など が目立った。原子分野もしっかりと出題されている。日 本の高校物理で扱わないテーマでは、ボーズ・アインシュ タイン凝縮についての出題があった。また重力加速度の 大きさを 10 として計算したり、曲線のグラフが近似さ れて直線で表されているものもあり、日本と比べて「数 学ではなく理科寄り」という印象を受けた。 試験時間・設問形式  第一部分:一 . 小問集合(単一選択問 題)、二 . 小問集合(単一選択問題)、三 . 小問集合(複数選択問題) 第二部分:四 . 穴埋め問題、五 . 実験問題、 六 . 計算問題  の 2 部構成である。総問題数は 33 問で、 試験時間は 120 分である。試験時間は妥 当だが、小問が大半であることと、物理 1 科目での試験時間と考えると、なかな かスタミナを要する設定である。 内容  第一部分の小問集合は知識問題も多く、 内容を知っていれば、すぐに解答できる ものも多いが、三のように正解が複数あ 試験時間・設問形式  物理Ⅰ・Ⅱの区分は、原子分野が入っていることを除 けば日本の現行課程「物理Ⅰ」「物理Ⅱ」の分け方に近い。 共に問題数は 20 問で、試験時間は 30 分である。日本の 大学入試センター試験(以下、センター試験)と比べて 短時間で解かなければならない。解答は全て客観式だが、 選択肢が複雑で(A、B、Cの3つの事象から正しいも のを選ぶ問題で、正しい事象が2つ以上ある)、センター 試験のように消去法によって解答を導くことは難しい。 内容  目立つ特徴として、1つの問題において、複数の物理 量の正誤を問うていることが挙げられる。例えば <出 韓国 教育課程評価院ウェブサイト(http://www.kice.re.kr/)より。日本語訳は河合塾。 ※ 本記事における日本の高等学校教育課程の名称は、以下のように表記しています。  新課程:2009 年3月に告示された高等学校学習指導要領に基づく教育課程  現行課程:1999 年3月に告示された高等学校学習指導要領に基づく教育課程

物 理

問い方に工夫のある韓国

実験に関する出題がある上海・北京、日常を問う台湾

韓国

1つの問題で複数の物理量の正誤を問う出題も

中国(上海)

知識問題も多いが、

単なる消去法では解答しにくい問題も

19. 図のように、質量がそれぞれ m、2m である 重り A、B と紐に繋がれた積み木が静止している。 積み木を静かに離すと、積み木は摩擦がない水平 面 S1で距離 d だけ等加速度運動をして摩擦があ る水平面 S2で距離 2d だけ等加速度運動をして静 止した。S2と積み木の間の運動摩擦係数は 0.5 で ある。  これに関する説明として正しいもののみを < 解 答例 > の中から選んだのはどれか。 (ただし、物体の大きさ、紐の質量、滑車の摩擦、 空気抵抗は無視する。) k. 積み木の質量は 3m である。 n. B に繋がれた紐が積み木を引っ張る力の大きさは積み木が S1で運動する時の 方が S2で運動する時より小さい。 t. 積み木が S2で運動する間、摩擦力が積み木にする仕事は積み木の運動エネル ギー変化量と同じである。 < 解答例 > ① k    ② n    ③ t    ④ k , n    ⑤ n, t ※ 記号は韓国語の表記に従う。 積み木

(6)

る問題では(正解数は指示されていない)、問題を精査 せねばならず、韓国の問題と同様に消去法がとりにくい。 計算に持ち込むと、かなりの手間を要する問題もあり、 定性的に正解を選ぶことを期待されていると思われる問 題もあった。また、論理回路の問題が必ず 1 問出題され、 原子分野からの出題もある。第二部分の五は実験問題で あり、物理の複数分野から 4 問が出題されている。物理 実験の手順やポイントを理解しておく必要がある。難易 度は概ね日本のセンター試験や標準的な国公立大学個別 (2次)試験と同等である。 試験時間・設問形式  第一部分は選択式の小問集合で 20 問(物理分野は 8 問)、第二部分は穴埋め・記述式の大問 11 題(物理分野 は4題)で、試験時間は全科目で 150 分である。長丁場 ではあるが、試験時間としては妥当だろう。 内容  第一部分の小問集合はセンター試験と同程度の難易度 で、知識のみで対応できる問題もある。相対性理論やジョ セフソン効果といった現代の物理の内容に触れる出題も ある。第二部分は毎年実験に関する問題が出題されてい る。その際に器具の使用方法(マイクロメーター、マル チメーター)、実験手順、グラフ描図、誤差の扱いなど、 かなり細かい部分まで問われている。第二部分の他の問 題については日本の国公立大学個別(2次)試験の内容 に近く、難易度も標準~やや難のレベルである。原子分 野も出題されている。またこの3カ年分に限っていえば、 剛体・熱に関する問題は一切出題されていない。 <表> 2010 〜 2012 年の入試問題比較

中国(北京)

実験に関する問題が出題され

現代の物理の内容に触れる出題も

項目 力学 熱 波 韓国 [物理Ⅰ] 等速・等加速度運動 (6) 熱量計算 (0) 波の原理 (3) つりあい・運動方程式 (5) 気体の法則 (0) 音波 (0) 剛体 (0) 分子運動論 (0) 光波 (5) エネルギー・運動量 (13) 熱力学第一法則 (0) 円運動・単振動・万有引力 (0) 韓国 [物理Ⅱ] 等速・等加速度運動 (6) 熱量計算 (0) 波の原理 (0) つりあい・運動方程式 (0) 気体の法則 (3) 音波 (0) 剛体 (0) 分子運動論 (0) 光波 (0) エネルギー・運動量 (3) 熱力学第一法則 (3) 円運動・単振動・万有引力 (9) 中国 (上海) 等速・等加速度運動 (9) 熱量計算 (0) 波の原理 (5) つりあい・運動方程式 (7) 気体の法則 (5) 音波 (0) 剛体 (2) 分子運動論 (1) 光波 (1) エネルギー・運動量 (7) 熱力学第一法則 (1) 円運動・単振動・万有引力 (5) 中国 (北京) 等速・等加速度運動 (2) 熱量計算 (0) 波の原理 (2) つりあい・運動方程式 (1) 気体の法則 (0) 音波 (0) 剛体 (0) 分子運動論 (0) 光波 (2) エネルギー・運動量 (2) 熱力学第一法則 (0) 円運動・単振動・万有引力 (5) 台湾 等速・等加速度運動 (8) 熱量計算 (3) 波の原理 (20) つりあい・運動方程式 (3) 気体の法則 (3) 音波 (3) 剛体 (1) 分子運動論 (0) 光波 (8) エネルギー・運動量 (3) 熱力学第一法則 (0) 円運動・単振動・万有引力 (2) (  )の数字は問題数

(7)

試験時間・設問形式  自然科学問題(理科全体)で出題される。 第一部分:一 . 小問集合(単一選択問題)、二 . 小問集合 (複数選択問題)、三 . 総合問題 第二部分:小問集合(単一選択、複数選択混合) の2部構成である。試験時間は 100 分と短めだが、複数 選択の問題は正解数が指示されており、問題の多くは平 易な知識問題なのでそれほど時間はかからない。 内容  日常をテーマに物理の問題としたものが目立ち、切り 口としては面白い。第一部分・三の総合問題は1つの科 学的なテーマについて、物理・化学・生物・地学から出

台湾

日常をテーマにした出題が目立つ

題されている。日本の高校物理では扱わない分野(回転 運動、熱の放射・伝導・対流)からの出題もあり、原子 分野からも出題されている。難易度はセンター試験と同 程度であり、日常をテーマにしているため、日本の現行 課程「理科総合A」に近い内容である。  どの国の問題も日本の学習内容とかけ離れてはいない。 日本のセンター試験のみと比べるのであれば、韓国、上 海、北京に関してはセンター試験より難しい問題も出題 されている。また各国とも原子分野からの出題があり、 この部分については日本の現行課程が出遅れている感は ある。新課程において原子分野が復活することは、アジ ア諸国の履修状況からみても、歓迎できることである。 項目 電磁気 原子 その他 韓国 [物理Ⅰ] 静電気 (0) 光子・粒子の二重性 (6) コンデンサー (0) 原子核 (0) 電流回路 (10) 磁場・電磁力 (3) 電磁誘導 (3) 交流 (0) 韓国 [物理Ⅱ] 静電気 (3) 光子・粒子の二重性 (2) コンデンサー (3) 原子核 (10) 電流回路 (2) 磁場・電磁力 (7) 電磁誘導 (0) 交流 (5) 中国 (上海) 静電気 (6) 光子・粒子の二重性 (6) 論理回路 (3) コンデンサー (1) 原子核 (9) 実験 (11) 電流回路 (4) その他 (2) 磁場・電磁力 (4) 電磁誘導 (8) 交流 (1) 中国 (北京) 静電気 (2) 光子・粒子の二重性 (0) 単位 (1) コンデンサー (1) 原子核 (3) 現代 (2) 電流回路 (1) 実験 (4) 磁場・電磁力 (5) 電磁誘導 (0) 交流 (1) 台湾 静電気 (0) 光子・粒子の二重性 (0) 単位 (1) コンデンサー (0) 原子核 (1) 科学史 (1) 電流回路 (0) その他 (5) 磁場・電磁力 (3) 電磁誘導 (1) 交流 (6)

総評

(  )の数字は問題数 <表> 2010 〜 2012 年の入試問題比較

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化 学

選択肢に工夫がある韓国

身近な現象や社会問題を題材とした上海

 日本の大学入試センター試験(以下、センター試験) と比べると、内容は多く、やや難しい。また、化学Ⅰ、 化学Ⅱとも選択問題であるが、<出題例1>のように、 選択肢を1つずつ検討しなければ正解にたどりつけない 問題が多く、解答時間内にすべて解答することは難しい だろう。  入試問題は、化学Ⅰと化学Ⅱの2種類がある。化学Ⅰ の分野は日本の「化学Ⅰ(現行課程)」とほぼ同じであ るが、気体や希薄溶液の法則、高分子化合物も含まれる。

韓国

選択肢を1つずつ検討することが必要

無機分野では身近な現象から出題

<出題例1> 2012 年 韓国「化学Ⅱ」 表は、 25℃ の水溶液における何種類かの弱酸と弱塩基のイ オン化定数に関する資料である。 この資料に関する説明として正しいもののみを < 解答例 > の 中から選んだのはどれか 。(ただし、25℃で水のイオン積(Kw) は 1×10−14 である。) ① k  ② t  ③ k, n   ④ n, t   ⑤ k, n, t ※ 記号は韓国語の表記に従った。 k. 塩基の強さは、CN−の方が HCOOより弱い。 n. C6H5NH2の共役酸は HCN より弱い酸である。 t. 各物質の 0.1M 水溶液の中で、全体イオン数が最大の ものは CH3NH2である。 < 解答例 > 弱酸 イオン化定数(Ka) 弱塩基 イオン化定数(Kb) HCOOH 2×10− 4 CH3NH2 4×10− 4 HCN 5×10− 10 C6H5NH2 4×10− 10 韓国 教育課程評価院ウェブサイト(http://www.kice.re.kr/)より。日本語訳は 河合塾。 ※ 本記事における日本の高等学校教育課程の名称は、以下のように表記しています。  新課程:2009 年3月に告示された高等学校学習指導要領に基づく教育課程  現行課程:1999 年3月に告示された高等学校学習指導要領に基づく教育課程 理論分野では、水の表面張力や中和など水溶液中の反応 におけるイオンの量を問う問題などが目立つ。無機分野 では、鉄のさび、光化学スモッグ、下水処理など身近で 起こる現象を取り扱った問題が多い。化学Ⅱの分野は日 本の「化学Ⅱ(現行課程)」の理論分野とほぼ同じで、 無機、有機および天然または合成高分子化合物の分野は 含まれていない。金属の酸化還元反応や電気分解などに 関する問題では、日本の教科書では取り扱っていない標 準電極電位を用い解答する問題が出題されている。また、 平衡定数を用いる問題などは日本の難関私立大学や国公 立大学個別(2次)試験と内容、難易度ともほぼ同じで ある。  問題は前半の選択問題(配点 66 点)と後半の記述・ 論述(配点 84 点)に大別される。前半の選択問題は設 問数 22 の小問集合で設問数、内容、難易度ともセンター 試験とほほ同じであるが、選択肢の数はやや少ない。後 半の記述、論述問題は大問7題(大問1つに3~5の設 問)の総合問題で、前半の選択問題より多く出題される。 内容、難易度また問題量とも日本の難関私立大学や国公 立大学個別(2次)試験とほぼ同じである。  無機物質の分野では、題材が豊富で設問が多い。記述・ 論述問題では、日本の教科書で取り扱っていない反応や 知見が頻繁に登場する。このような反応を提示し、理論 分野の知識を用いて考察する問題が多い。例えば、<出 題例2>のように 2012 年の窒化ケイ素 Si3N4セラミッ クをつくる反応を題材とした反応速度や平衡定数に関す る問題、2011 年のヒ素 As を製造する過程を題材とした 鶏冠石 As2S3と HNO3 の反応や電池を構成する問題など である。

中国(上海)

無機では日本で扱わない反応や知見が頻繁に登場

有機では反応の種類、化学反応式、反応の目的などが多く出題

(9)

<図表> 2010 〜 2012 年 各国の入試問題比較 表中の「化学Ⅰ」「化学Ⅱ」は日本の現行課程。各国の入試問題を「化学Ⅰ」「化学Ⅱ」の理論、無機、有機に当てはめて分類した。 韓国 [化学Ⅰ] 化学Ⅰ 理論 無機 有機 水の密度、表面張力、状態変化と気体、金属のイオン化傾向、 水溶液中のイオンと沈殿の量、中和とイオンの量、蒸気圧降 下*)、気体の法則* 鉄の腐食、鉄の製錬、周期表と化合物 の性質、窒素とその化合物、炭酸水素 カルシウムの性質、塩素の性質 界面活性剤の性質、石油の分留、エ チレンの反応、炭化水素の構造、高 分子化合物 韓国 [化学Ⅱ] 化学Ⅰ 化学Ⅱ 理論 理論 原子の構造、中和滴定、滴定曲線、熱化学とエネルギー図、 結合エネルギー 結晶の構造、電子式と形、混合気体の法則、蒸気圧、原子の性質、気体の溶解度、分子の極性、電離平衡、混合気体の平衡、沸点上昇、標準電極電位** 上海 化学Ⅰ 化学Ⅱ 理論 無機 有機 理論 有機 中和滴定の実験誤差、 ヨ ウ 素 滴 定 に よ る SeO2の定量 環境基準の指標、塩 素の反応、塩基性炭 酸銅や炭酸アンモニ ウムの生成実験 石油の分留、サリチ ル酸と炭酸塩の反応、 抗菌活性物質の合成 亜鉛に希硫酸の反応速度に与える 影響、水の電離平衡の移動 ポリクロロプレンの合成 北京 イオン交換膜を用い た電気分解 混合物の分離の装置、日常生活と化学物質、 銀とその化合物 高機能高分子の合成 反応経路 結合エネルギー、亜硫酸と亜硫酸イオンの電離平衡 植物油、糖の正誤問題、核磁気共鳴の水素スペクトル** 台湾 化学Ⅰ 理論 無機 有機 基礎法則、化学量、反応とエネルギー、化学結合、KI 水溶液の電解、 原子の構造、周期表と元素の性質、燃焼熱、中和、酸化還元、気体の 法則* 食塩など日常の化学物質 異性体、イオン交換樹脂 *日本の「化学Ⅰ」には含まれていないが、便宜上、「化学Ⅰ」に含めた。 **日本の教科書では取り扱われていない。  有機化合物の分野は配点が 17% (選択問題 4%、記述 13%)で、そ の割合はセンター試験の有機分野 25%や私立大学、国公立大学個別 (2次)試験より少ない。有機分野 の記述問題では、 2012 年では灰色 かび病に抗菌活性をもつ有機化合物、 2011 年では心臓病治療薬の中間物 質として得られる有機化合物の合成 過程の系統図を用いて、反応の種類、 化学反応式、反応の目的などを問う 問題が目立つ。ほとんどが日本の 「化学Ⅰ(現行課程)」からの出題で、 「化学Ⅱ(現行課程)」からの出題は、 合成高分子からの出題がみられる程 度で、糖、タンパク質などの分野か らの出題はほとんどない。 <出題例2> 2012 年 中国(上海)「化学」 金属の代わりに窒化ケイ素(Si3N4)セラミックを用いてモータの耐熱部品を作ると、 モータの熱効率を大幅に高めることができる。工業上では、化学蒸着法で窒化ケイ素 を精製するが、その化学反応は下記の通りである。 3SiCl4(g)+2N2(g)+6H2(g) 高温 Si3N4(s)+12HCl(g)+Q(Q>0)  空欄を埋めよ。 31.一定温度で上記の反応を行うとき、反応容器の容積が 2L で、3min 後に平衡に 達した場合、固体の質量が 2.80g 増加したと測定したとしたら、H2の平均反応速度 は  mol/(L・min) で、この反応の平衡定数の数式 K=   。 32.上記の反応が平衡に達した後、下記の説明で正しいのは、 a.その他の条件は変わらずに圧力が大きくなり、平衡定数 K が減少する b.その他の条件は変わらずに温度が上がり、平衡定数 K が減少する c.その他の条件は変わらずに Si3N4物質の量を大きくすると平衡は左に移動する d.その他の条件は変わらずに HCl 物質の量を大きくすると平衡は左に移動する 33.一定条件で、容量が一定の密閉容器で、上記の反応が化学平衡状態に達すること ができるのは、 a.3v逆(N2)=v正(H2)    b.v正(HCl)=4v正(SiCl4) c.混合気体の密度は変わらない d.c(N2):c(H2):c(HCl)=1:3:6 河合塾で独自に入手。日本語訳は河合塾。 ⇌

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 前半の選択問題は小問集合で7問(配点 42 点)、後半 の記述、論述問題は大問4題(配点 58 点、大問1つに 3~5の設問)の総合問題である。また、分野別の配点 は理論、無機物質が 58 点、有機化合物が 25 点である。 記述、論述では、思考力を必要とする応用問題がいくつ かある。難易度は日本の難関私立大学や国公立大学個別 (2次)試験とほぼ同じであるが、試験時間はかなり短 いので、時間内にすべて解答することは難しいだろう。  選択問題は、理論2問、無機4問、有機1問で、無機 物質の出題が圧倒的に多い。記述・論述の問題は、無機 物質の反応とそれに対する理論分野の考察を伴う総合問 題で、反応や現象の知見を提示し、その考察を問う問題 が多く出題されている。例えば、2010 年の工場排水中 の NH4 +、NH 3を除く問題では、 はじめに NaOHaq を加 え加温する際、空気を通す理由を化学平衡の観点から論 述させ、さらに、NH4+の酸化反応の熱化学方程式を問う。 また、 HNO3を CH3OH により N2に還元するときに起こ る酸化還元反応の量の関係を問う問題、さらには、2012 年では煙中に含まれる SO2の除去を題材とした同様な 問題が出題されている。有機化合物の関する大問は1題 であり、5~7工程ある合成経路が提示してある。教科 書で取り扱われていない反応については、問題文に説明 が与えてあり、その工程について化学反応式、異性体数 などの設問が用意されている。  問題は第一部分と第二部分からなる。第一部分は台湾 の高1で、第二部分は台湾の高2で履修する内容を反映 しており、 台湾の高1の内容は日本の「化学Ⅰ(現行課 程)」と、高2の内容は日本の「化学Ⅱ(現行課程)」に 対応していると考えてよい。<出題例3>のように、食 塩、酢など家庭で使う調味料、緑茶など食品に含まれる 化学物質やタンパク質やオリゴ糖に関する問題、また、 バイオマスや化石燃料などのエネルギー問題、オゾンな ど環境問題と関連した化学物質を題材とした問題が多い。  センター試験と比べると、やや易しく、選抜試験とい うよりも、基本事項の理解の修得度を測る試験という見 方が適切であろう。  韓国、上海、北京および台湾のすべてに共通すること は、環境問題、エネルギー問題あるいは日常生活に関わ りをもつ化学物質などを題材とし、その現象を化学的に 考える問題が多い。また、韓国、中国(上海)、中国(北 京)、および台湾の教科書では、s、p などの原子軌道、 標準電極電位、エンタルピーなど、日本の教科書では取 り扱われていない内容が取り扱われている。 <出題例3> 2012 年 台湾「自然科」 日常の飲食の中で、いろいろな種類の化学物質に接触するこ とがある。下記の記述で正しいものはどれか?(2 つ選べ) (A)緑茶とコーヒーの中のカフェインは、多くの人に対して 元気を回復させる効果がある (B)セルロースは糖類で、人体で消化されブドウ糖に分解さ れる (C)蛋白質はアミノ酸ポリマーから作られて、人体の成長に 必要な物質である (D)食品にオリゴ糖を添加するのは、その分子がブドウ糖に 比べて小さく、人体に吸収されやすいためである (E)でんぷんと蔗糖は全て重合体に属し、多くの小分子が結 び付いてできた巨大な分子である

台湾

基本事項の理解の修得度を測る試験

総評

中国(北京)

思考力を必要とする応用問題が出題

選択問題では無機分野から多く出題

台湾 大学入学考試中心ウェブサイト(http://www.ceec.edu.tw/)より。日本語 訳は河合塾。

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<出題例1> 2012 年 韓国「生物Ⅰ」 組織、酵素と代謝、遺伝子、進化と系統、生物の集団と いった分野が生物Ⅱで出題されている。この区分のコン セプトは明確である。まず生物Ⅰの範囲は、高校生にとっ て身近でイメージしやすいヒトが題材になっている。生 物Ⅰの分野では、およそ4分の3はヒトに関係がある問 題である。全体的に基礎的な内容が多いが、医療技術に 関する設問については、遺伝子治療など高度な内容が扱 われていることがある<出題例1>。一方、個体レベル よりミクロな細胞、分子のレベルが生物Ⅱで扱われてい る。従って生物Ⅱは、センター試験では範囲外となって いる分野からも多く取り入れられている。日本の学習指 導要領では選択分野の「生物の集団」に入っている内容 も、生物Ⅰと生物Ⅱの両方で扱われている。こうした傾 向を見ると、韓国の生物Ⅰは日本の新課程の「生物基礎」 に近く、生物Ⅱは「生物」に近い。  上海の全国大学統一入試の生物科学試験問題は二部構 成になっており、第一部が選択問題、第二部が選択問題、 数値を記述する問題、論述問題が混在する形式での出題 となっている。試験時間が 120 分、総マーク数が 73 前 後と、今回調査した地域中、試験時間、問題数とも最大 である。  内容も高度で、日本も含めた 5 地域中最も新しい研究 成果がいち早く取り入れられており、全体に分子レベルの 生物学が大幅に出題されている。問題量が多いので解答 は大変であり、難易度は日本の難関国公立大学の個別(2 次)試験と比べると若干解きやすいレベルである。これを 大学受験生全員が受験することを考えると大変難しい。  まず、第一部は一問一答で客観式の試験である。この 部分で、すでに生体物質に関する設問が、どの年度の試  韓国の大学修学能力試験の生物は、生物Ⅰと生物Ⅱに 分かれており、一問一答の客観式でそれぞれ 20 問ずつ 出題される。生物Ⅰ・生物Ⅱともに試験時間は 30 分で ある。日本の大学入試センター試験(以下、センター試 験)の生物Ⅰはマーク数 33 程度で 60 分であるため、時 間当たりのマーク数はセンター試験に比べて多い。知識 問題と実験考察・計算問題の比率は、年度により多少の ばらつきはあるもののほぼ均等で、考察問題も多い。短 時間で多くの情報を処理する能力が必要とされる試験で ある。問題の難易度は、生物Ⅱで出題範囲が広い点を除 けばセンター試験と同程度であろう。  分野の区分については、生殖、遺伝、刺激の受容と反 応、体液の恒常性、免疫といった分野が生物Ⅰ、細胞と 韓国 教育課程評価院ウェブサイト(http://www.kice.re.kr/)より。日本語訳は河合塾。

生 物

各国とも分子レベルの生物学と生態系・環境を重視

科学的思考力を問う問題も出題

中国(上海)

最も新しい研究成果を取り入れた出題

高度な内容、分子レベルの生物学が出題される

韓国

生物Ⅰと生物Ⅱとして出題

考察問題も多く、短時間での情報処理能力が必要

19. 図は、生命工学技術を利用してある遺伝病を持っている患者を治療す る過程の一部を表したものである。 ( カ ) ~ ( タ ) 過程に関する説明として正しいもののみを < 解答例 > の中か ら選んだのはどれか 。[3 点] < 解答例 > k. ( カ ) で DNA リガーゼが使用される。 n. ( ナ ) で、ウイルス A によって正常遺伝子が体細胞 X に導入される。 t. ( タ ) で培養された細胞は、細胞融合技術によって作られた細胞である。 ① k  ② t  ③ k, n   ④ n, t   ⑤ k, n, t ※ 記号については韓国語の表記に従う。 正常な遺伝子 ウイルス DNA DNA 患者の体細胞 X 培養された 細胞を患者へ 注入 (タ) (ナ) ウイルス A (カ) 培養 再組合 DNA 再組合された DNA が入っている ウイルス A を製造 ※ 本記事における日本の高等学校教育課程の名称は、以下のように表記しています。  新課程:2009 年3月に告示された高等学校学習指導要領に基づく教育課程  現行課程:1999 年3月に告示された高等学校学習指導要領に基づく教育課程

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験でも出題されている。  第二部は、1 つのテーマについて4~6問の設問が設 定されており、実験考察問題の比率が高い。この部分 では、例えば 2011 年の PCB に関する設問<出題例2 など、毎年、工学的な技術に関する内容が問われて いる。  さらに、実際の研究の進め方について仮設を立てて検 証する過程を再現する問題も出題されており、科学的な 思考力の養成も重視されている。  上海では分子レベルの生命科学とその工学的な応用が 重視されていると言えるだろう。  北京の全国大学統一入試では、第一部は4科目合わせ て 20 問の一問一答形式の問題である。このうち5問の 設問が生物からの出題である。この部分は知識問題か典 型的な計算問題であり、センター試験と比べて解きやす い。細胞・組織に関する問題が最も多く、続いて生物の 集団に関する問題が多く出題されている。その他には恒 常性や免疫に関する問題も毎年出題されている。  第二部はいずれの年でも、まとまった実験考察問題(記 述式)が3題出題されており、全設問数に占める実験考 察問題の割合が高く、範囲も広いため、センター試験よ り難しい。2012 年には遺伝の問題から遺伝子の塩基配 列に関する設問へと展開するような問題や、水チャネル に関する実験考察問題、また 2011 年にはアグロバクテ リウムを用いたシロイヌナズナの形質転換の問題などが 欄上:2010 ~ 2012 年の出題頻度を記号で示した。◎:毎年多数出題 ○:毎年出題 △:3年中1年または2年出題 ×:出題なし 欄下:代表的な項目やトピックス

中国(北京)

実験考察問題が多く、応用力が試される

<出題例2> 2011 年 中国(上海)「生物」 (五)微生物と酵素に関する次の問いに答えよ。 環境汚染物質 PCB は分解しにくいが、研究により PCB 分解菌内の PCB 加水分解酵素が PCB の分解を促す重要な酵素であることがわかった。 38. 酵素工学によって PCB 加水分解酵素を実際の工程に用いることができ る。酵素工学は通常、酵素の生産、_______、酵素の固定化と酵素 の応用などを含む。酵素の固定化のメリットは、___________ ______である。 (中略) 40. ロドコッカス属とシュードモナス属はどちらも PCB を分解することが できるが、菌 1 グラムあたりで計算したところ、2 つの菌の PCB を分解 する能力はやや異なることが研究によりわかった。この現象についての合 理的な仮説は、______________あるいは________ ______である。 注:下線部に当てはまる文章を論述する問題 河合塾で独自に入手。日本語訳は河合塾。 項目 細胞・組織 生殖・発生 遺伝 刺激の受容と反応 体液・恒常性 韓国 [生物Ⅰ] × × ○ ○ ◎ 例外:生殖 一遺伝子雑種~遺伝子 の相互作用 視覚 反射弓 自律神経 血糖量 心臓の拍動 血圧 肺でのガス交換 排出 韓国 [生物Ⅱ] ○ × × × × 細胞小器官 生体膜 中国 (上海) × × ○ ○ ◎ 例外:減数分裂 生殖 一遺伝子雑種~遺伝子 の相互作用 受容器 ニューロン 膜電位 体温調節 排出 自律神経 中国 (北京) ○ × △ △ ◯ 細胞小器官 体細胞分裂 一遺伝子雑種~遺伝子 の相互作用 ニューロンの構造 血糖量調節 台湾 ○ × △ △ △ 細胞小器官 生体膜 体細胞分裂 一遺伝子雑種~遺伝子 の相互作用 ヒトの神経系 体温調節 排出 <表> 2010 〜 2012 年の入試問題比較 

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出題されており、遺伝子分野を中心とする分子レベルの 生物学が重視されていることがわかる。一方、進化・系 統については出題されていない。  台湾の大学学科能力測験では、生物分野の出題数は多 くない。第一部分では、7~9問の一問一答形式の知識 問題が出題され、第二部分では、あるテーマに沿った問 題が科目を横断して出題される。第二部分でも出題形式 は選択式であり、生物分野では知識で解答できる設問が 多く、考察や計算の比重は高くない。そのためセンター 試験よりも取り組みやすいだろう。  出題分野は 2010 ~ 2012 年までの3年間で出題された 全設問 41 問中「生物の集団」に関する問題が 11 問と多 く、続いて「細胞・組織」が8問、「進化・系統」が6問、 「遺伝子」が5問となっている。集団レベルと物質レベ ルの生命観が重視されていることがわかる。台湾の教育 課程においては、高校 1 年生でバイオームや生態系など

台湾

生物分野の出題が少なく、知識問題が中心

の学習を行い、高校 2 年生で動植物の個体を中心にした 反応や恒常性などを中心に学ぶことになっている。台湾 の大学学科能力測験は高校2年生までの学習内容を問 う試験であるが、動植物の反応や恒常性に関する問題は 少なく、遺伝子分野が学習範囲外にも関わらず出題され ている。ウイルスや予防接種に関する政策的な問題、プ リオン、薬剤耐性菌、バイオマスアルコールなど時事的 な問題が毎年2~3問出題されていることも特徴的で ある。  各国とも分子レベルの生物学と生態系・環境を重視す る傾向が見られた。台湾が比較的基礎的な内容を重視し ていることを除くと、各地域ともセンター試験よりも出 題される分野は広く、高度な内容が盛り込まれている。 各国とも、単なる知識ではなく科学的思考力を問う設問 を入れようと工夫をしていることもうかがえる。ただし、 日本の国公立大学個別(2次)試験に該当する試験がな いことを考えると、成績上位生ほど得点差がつきにくい 出題となっていると推測される。

総評

項目 植物の反応 代謝 遺伝子 タンパク質のはたらき 進化・系統 生物の集団 韓国 [生物Ⅰ] × ○ × △ × ○ 消化酵素 ATP 例外: ウイルスベクター 免疫 バイオーム BOD 測定 韓国 [生物Ⅱ] △ ○ ◎ △ ◎ ○ 光合成 酵素 呼吸と光合成の代 謝経路 複製 タンパク質合成 発現調節 遺伝子工学 輸送タンパク質 進化理論 集団遺伝 系統 分類 個体群 遷移 戦略生態 中国 (上海) ◎ ◎ ◎ ◎ ○ ○ 植物ホルモン 光ー光合成曲線 酵素 呼吸と光合成の代 謝経路 DNA の構造 複製 タンパク質合成 遺伝子工学等 タンパク質の構造 免疫 ホルモン受容体 進化理論 系統 分類 個体群 生態系のバランス 中国 (北京) △ △ ○ ○ × ○ 植物ホルモン ATP アルコール発酵 突然変異 植物の形質転換 免疫 水チャネル 遷移 植生分布 台湾 △ × ○ △ ○ ○ 光周的花芽形成 DNA の構造 クローン作成 免疫 プリオン 系統 分類 個体群 遷移 植生分布 欄上:2010 ~ 2012 年の出題頻度を記号で示した。◎:毎年多数出題 ○:毎年出題 △:3年中1年または2年出題 ×:出題なし 欄下:代表的な項目やトピックス <表> 2010 〜 2012 年の入試問題比較 

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<表> 2010 〜 2012 年の入試問題比較  たものに近い。センター試験と同じような図①~⑤、文 章①~⑤から最も適切なものを選ばせる問題もある。 内容  センター試験と出題分野に大きな違いはないが、<図  科学分野の「地球科学Ⅰ」「地球科学Ⅱ」からの出題 である。「地球科学Ⅰ」は現行課程の「地学基礎」、「地 球科学Ⅱ」は新課程の「地学」に近い内容である。 試験時間と分量  単位時間あたりの問題数は、日本の約 1.3 倍である。 設問形式  一問一答形式に近い小問集合の問題で、ほとんどすべ ての小問に図もしくは表が付随している。暗記を強いる 用語や諸量の数値を問う単純な問題はなく、3つの文章 の正誤の組み合わせ、もしくは5つの文章から正解を1 つ選択するという応用力を重視した問題が出題されてい る。計算問題は、それぞれの選択肢が異なるテーマ・内 容であり、センター試験の計算問題を複数個組み合わせ

地 学

韓国 ・ 台湾では「大気海洋分野」と「天文分野」が

多く出題され、暗記だけでは対応できない問題も多い

韓国

台 湾 固体地球 17% 岩石鉱物 4% 地質 地史 9% 大気海洋 34% 天文 28% 環境 8% 固体地球 12% 岩石鉱物 地質地史 15% 大気海洋 31% 天文 30% 環境 2% 8% その他 2% 韓 国  試験科目として「地学」に対応する教科が理科に存在 する韓国と台湾の試験問題を日本の大学入試センター試 験(以下、センター試験)「地学Ⅰ」と比較 ・ 検討した。 中国では、高等学校第一学年で学ぶ地理の内容すべてが 地学の分野であり、理科の中に含まれないため、今回は 分析の対象としていない。

教科書の内容を反映して科学史が出題

<図表1> 2010 〜 2012 年 韓国・台湾の入試問題 の分野別比較 <出題例1> 2012 年 韓国「地球科学Ⅰ」  以下は、波による岩石の侵食作用を研究するためにチョルスが 先生と交わした対話の一部である。 チョルス:水槽に波発生装置を設置し、岩石を入れて波を起 こし、岩石の変化を観察すればいいのでは? 先生:方法はもっともらしいが、1、2 時間の実験で岩石の変 化を観察することができるかな? こういう地球科学 的現象を研究するときには A ということを考慮しなけ ればならないよ。 A に入る内容として最も適切なものはどれか。 ① 研究対象の時間的規模が非常に大きい。 ② おもに演繹的な研究方法を用いる。 ③ 多くの分野の科学者たちとの共同研究が必要である。 ④ 人工衛星を利用した探査技術を活用する。 ⑤ 対象となる自然現象を実験室で容易に再現できる。 韓国 教育課程評価院ウェブサイト(http://www.kice.re.kr/)より。日本語訳は河合塾。 ※ 本記事における日本の高等学校教育課程の名称は、以下のように表記しています。  新課程:2009 年3月に告示された高等学校学習指導要領に基づく教育課程  現行課程:1999 年3月に告示された高等学校学習指導要領に基づく教育課程 <出題例2> 2010 年 韓国「地球科学Ⅰ」 韓国 教育課程評価院ウェブサイト(http://www.kice.re.kr/)より。日本語訳は河合塾。  図は、プトレマイオスの宇宙観の一部を模式的に表したものであ る。この宇宙観によって説明できる観測事実はどれか。 <解答例> k 最大離角の大きさは金星の方が水星よりも大きい。 n 地球との最短距離は、金星の方が水星よりも短い。 t 金星が満月の形に近い姿で観測される。

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表1>のように、「大気海洋分野」と「天文分野」が他 の分野と比較して出題の割合が高く、<図表2>に示し たテーマの問題が出題されている。日本や台湾と異なり、 <出題例 1 >のように、研究の進め方や地学という学 問の特徴を問う内容も出題されている。また、<出題例 2>のように、教科書の内容を反映して、日本では扱わ れない「ガリレオの金星の満ち欠けの観測記録と天動説 ・ 地動説」などの科学史、「ケプラー式屈折望遠鏡と ニュートン式反射望遠鏡の原理」「渾天儀など古観測器 機」などの観測器具に関する問題が出題されている。 固体地球 岩石鉱物 地質地史 大気海洋 天文 環境 その他 韓国 地震計の記録 溶岩と火山 柱状図の対比 大気圏の温度構造 彗星の観測 二酸化炭素濃度 ・ 地球平均気温 ・ 北極海の海氷面積 地学現象の研究 東アフリカ 大地溝帯 酸素量の変遷と生物 地上天気図 蝶形図と太陽の自転速度 海洋の水温変化 恒星の比較 太平洋の海流 ガリレオの金星観測 積乱雲と氷晶 月の満ち欠け 気象要素 金星の沈む時刻の変化 露点の高度変化 韓国 収束型境界の特徴 偏光顕微鏡写真 化石の図 温暖高気圧と寒冷高気圧 銀河の距離と後退速度の比較 プレートの移動 地質断面図 偏西風波動と地上の気圧配置 太陽の進化とHR 図 海洋底の年齢 クリノメーター 海水温の鉛直分布 火星の視運動 地球内部の 元素組成 地衡風と傾度風 太陽高度の年変化と緯度 大気の安定 ・ 不安定 恒星の色指数と年周視差 潮汐 亜熱帯循環 台湾 沈み込み帯の特徴 原始地球の冷却 上昇流のある海域の特徴 銀河と星間雲の距離の比較 山崩れ 海水の密度差 惑星と恒星の区別 ラニーニャ現象の 影響 X 線望遠鏡の設置場所 気圧と気温の比較 中規模渦の水位 海陸風 東岸と西岸の気候 恒星の半径計算 CO2濃度の変化 音響測定 地球温暖化問題 <図表2> 2012 年 韓国、台湾の入試問題比較 ※ 台湾については、地学分野のみ抽出 [地球科学Ⅱ] [地球科学Ⅰ]  「自然科」問題に含まれる地学分野の問題を分析した。 問題の中には、日本の現行課程「理科総合 A」や「理 科総合 B」に近い出題も散見される。 試験時間と分量  「自然科」問題のうち、地学分野は 25% 程度を占める。 単位時間あたりの問題数は、日本の約 1.4 倍である。

台湾

図表問題は日本や韓国と比べて少ない

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コラム

設問形式  5つの文章(まれに4つや6つ)から 1 つの正解を選 ぶ単一選択問題が多い。一部に、日本や韓国と異なり、 2~3つの正解を選ぶ複数選択問題があり、各設問に正 解の選択数が指定されている。日本や韓国のような正誤 の組み合わせ選択の問題はない。計算問題は、センター 試験同様、結果の数値を選択するもので、全体に占める 分量は日本と同様である。図表を読み取る問題は日本や 韓国と比較して少ない。グラフや図の選択問題は少なく、 センター試験と同じ程度である。 内容  <図表1>のように、韓国と同様、「大気海洋分野」 と「天文分野」が他の分野と比較して出題の割合が高い。 受験生の記憶に新しいと思われる、実際に起きた近年の 地震、台風、日食などの話題を題材にしている年度があ るが、それ以外は、<図表2>のように、日本と出題内 容は似ている。

総評

 イギリス(主としてイングランド)では、伝統的に国 が教育に積極的に関与することは少なく、1980 年代後 半まで、日本の学習指導要領に相当するものは存在して いませんでした。1988 年、当時のサッチャー政権下で 教育改革法が制定され、それに基づいて作られたのが 「ナショナル・カリキュラム 」(以下、NC と省略)です。 NC では、数学、英語(国語)に、科学(理科)を加え た 3 教科をコアと位置づけ、学校の必修教科としました。  実は、それまでのイギリスの初等・中等教育において は、科学の授業をあまり実施していない小学校もありま したし、中学校の科学の授業数も学校によって差がある など、科学教育は充実しているとは言えない状況でした。 しかし、サッチャー首相は、日本やドイツの台頭が著し い中で、国際競争を勝ち抜いていくためには、科学者、 技術者を増やすとともに、国民全体の科学の知識を高め ることが必要になるとして、NC を導入するとともに、 科学の必修化を図ったのです。  この NC と日本の学習指導要領の共通点は、両方とも

イギリス

日常生活のさまざまな問題解決に

科学がどのように機能するのかを重視

広島大学大学院教育学研究科 

磯﨑 哲夫

教授 サッチャー政権の教育改革法に基づいて 作成された 「 ナショナル・カリキュラム 」 (補足)日本では明治からの法律で、理科という言葉が定着しているが、欧米では理科という教科概念はない。全米科学教育スタンダードにも、地域全体 で支える科学教育という捉え方があり、その意味で日本における理科教育とは概念が異なるため、「科学教育」という言葉を適用している。

 

これまで、韓国、中国、台湾における理科の統一試験の問題分析を紹介した。東アジアだ けでなく、世界の理科教育・科学教育はどのようになっているのだろうか。そこで今回は、ア メリカとイギリスの科学教育について、お二人の先生にお話を伺った。  センター試験では、各分野からほぼ均等に出題されて いるが、韓国 ・ 台湾とも「大気海洋分野」と「天文分野」 が多く、岩石鉱物分野、地質地史分野の出題は少ない。 また、日本よりも単位時間当たりに解くべき問題数が多 い上に、文章の選択問題も多い。  センター試験では、大問で1つのテーマが扱われ、そ の中で複数の小問に分かれているため、扱うテーマが限 定されるが、韓国 ・ 台湾では小問の一問一答形式であり、 各小問に1つのテーマを扱えるため、地学の各分野から 幅広く多くの内容を問うのに適している。また、センター 試験のような空欄補充問題、用語や諸量の数値を問う問 題はほとんどなく、それらの暗記では対応できない。そ れぞれの選択肢を吟味しつつ、多角的視点から多くの問 題を解く必要があるため、韓国 ・ 台湾ともセンター試験 よりも難しいと言える。

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小学校から順序性を持たせて、ステップアップするスパ イラルなカリキュラムになっているということです。相 違点は、日本が物理、化学、生物、地学の 4 領域を学習 するのに対して、NC は物理、化学、生物の 3 領域設定 されていますが、地学の内容は、例えば天文は物理、古 生物は生物、地質・岩石は化学分野に含まれていること です。また、NC は公立学校を対象にしたものです。さ らに、日本の学習指導要領には法的拘束力があるのに対 して、NC はあくまでガイドラインである点が最も異な る点です。ガイドラインであるために、教科書検定制度 に相当するものはなく、多様な教科書が作成可能です。  しかし、私立学校の教育や教科書の内容が、NC の影 響を受けないというわけではありません。イギリスでは 16 歳の義務教育修了時に GCSE(注1) という資格試験を 受けて、高等教育進学あるいは就職のための資格証明を 取得します。GCSE の問題を作成するのは3つの試験委 員会で、資格・カリキュラム開発機構(QCA。現在は 新政権の発足に伴って解散)が示す教科基準に準拠して、 試験の目的や評価目標、学習範囲を示した試験詳述書 (specification)を作成します。私立学校も含め多くの学 校では、GCSE の試験への対応のため、試験詳述書を使 って学習しています。つまり、教科書や試験詳述書が NC に準拠しているため、私立学校の教育も間接的に NC の影響を受けていると言えるのです。  NC の特徴は、義務教育期間(5 ~ 16 歳)を学習の発 達段階で4つのキーステージ(5~7歳、~ 11 歳、~ 14 歳、~ 16 歳)に区分し、各段階における到達目標を 設定し、到達度を測定する試験を課していることです。  科学の内容で注目されるのは、学習すべき内容の範囲 のほかに、「科学がどのように機能するのか」(How science works)が柱の1つになっていることです。例 えば「科学が日常生活でどのように活用されているか」 「科学的知識の本質とは何か」「科学者はどのように研究 を進めているのか」などを意識的に教えることを求めて います。そのため、多くの教科書が、単元の始まりのと ころに日常生活との関連を示して学習の動機づけを強め たり、実験・観察の方法と関連づけて 「 科学がどのよう に機能するか 」 について説明したりするなど、さまざま な工夫を凝らしています。  NC は新政権発足に伴って改訂され、2014 年度からの 新しい改訂版では、「How science works」は「Working scientifically」という項目に置き換えられ、従来の内容 に加えて、実験・観察、データの収集方法など、科学的 に物事を行う方法の習得に、これまで以上に重きが置か れています。  次に、高校における日本とイギリスの科学教育にはど のような違いがあるのでしょうか。  イギリスでは、義務教育修了後の2年間の後期中等教 育はAレベルと呼ばれています。最初の1年目がASレ ベル、2年目がA2レベルです。日本との最も大きな違 いは、日本の高校が多様な科目を履修するのに対して、 イギリスはASレベルで5~6科目、A2レベルでは3~ 4科目を学習することです。  イギリスの大学に入学するには、GCE-A レベル試験(注2) という資格試験を受験します。この資格試験の評価は、 大学入学時だけでなく、大学院進学や就職の際にも影響 します。  GCE-A レベル試験は、先に述べた3つの試験委員会 で作成され、それぞれ 40 科目以上の試験を用意してい ます。AS、A2レベルともに、生徒はその中から自分が 志望する大学・学部が要求している科目を選択して学び ます。教科書には A4 サイズより少し大きな版で、AS、 A2レベルそれぞれの教科書が 300 ページ近くのかなり 厚いものもあり、日本より細分化された専門性の高い科 目の内容を学ぶことになります。  しかも、構成が日本とは異なる教科書もあります。日 本の教科書は、単元ごとに科目の体系に基づいて知識を 学んでいきます。イギリスにもそのタイプの教科書は存 在しますが、日常生活や、科学が関連する社会的諸問題 などの文脈を出発点として、課題の解決方法を考えさせ るような構成にした教科書もあるのです。  例えば、<図表1>の右側ように、まず冒頭に、生徒 の興味・関心を喚起するような課題が提示され、次いで その課題を解決する上で必要な知識を学びます。その際 に、例えば国会の審議内容などが示され、それに対して 自分なりの意見をまとめたりもします。イギリスはエビ

(注1)GCSE:General Certificate of Secondary Education  (注2)GCE:General Certificate of Education

「科学がどのように機能するのか」 という観点に重きを置く

日常生活や社会的諸問題を出発点として 意思決定まで求める教科書も

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<図表1>

教科書“Edexcel A2 Biology”と教科書“SNAB for Edexcel A2 Biology”のトピック5におけるトピック構成の比較結果。

図表左側は科目の体系に基づいた学習順序の教科書。右側は文脈を基盤とした課題の解決方法を考えさせるように構成を変えた教科書。 SNAB A2 レベル教科書 5.1 生態系とは何か? 5.2 生態系はエネルギー転移に頼っている 5.3 気候が変動している? 5.4 地球に温度はなぜ変化しているのか? 5.5 未来の気候を予測する 5.6 気候変動に対処する 5.7 適応もしくは死 5.8 正しいバランスを得る Edexcel A2 レベル教科書 5.1 光合成 5.2 生態系はどのように働くのか? 5.3 地球温暖化ー原因、影響、疑問 5.4 種と進化

出典:國府島将平『イギリスの Salters-Nuffield Advanced Biology に関する研究』、広島大学大学院教育学研究科修士論文、p117、2011 年

デンス(証拠となるデータ)を重視する国ですので、デ ータに基づき解釈をすることを学びます。最終的には、 例えば、GCSE レベルの教科書においても「出生前診断 を行うかどうか、あなたはどう判断するか」といった質 問に対して、それまでに学んだ知識や科学的根拠、およ び倫理的な側面も踏まえて、自分なりの意思決定をしま す。大事なのは、このようなプロセスを理解し、科学や 技術が関連する社会的諸問題に対して自分の考えを明確 化し、それを表現することです。  もう1つの違いは、イギリスの方が実験・観察などの 授業時間が多い点です。  これは、大学入学時の試験が、日本は選抜試験である のに対し、イギリスは資格試験である点も影響していま す。A レベルの科学の試験における評価の観点は<図 表2>のような内容です。また、イギリスではデータや 科学的根拠に基づいて、論理的に考えさせる知識活用型 の問題が多く、さらに、GCSE でも、GCE-A レベル試 験でも、必ずコースワークと呼ばれる実験なども評価さ れます。与えられた課題を解決するために、どのような 実験をするのか、自分で実験手順や操作を考え、実際に 実験を行い、データを揃えて結論をレポートにまとめる といった内容です。当然、それに対応できるように、学 校でも実験・観察の機会が豊富に設けられています。  このように、日本の理科教育とイギリスの科学教育に はさまざまな違いがあります。しかし、誤解しないでい ただきたいのは、どちらかが優れているかという単純な 問題ではないということです。私はそれぞれに良さがあ ると考えています。イギリスの A レベルでは少数の教 科を選択し、専門的な内容の学習をしていますが、日本 の高校のようにまずは幅広く基礎力を養成する教育にも 利点があります。もちろん、イギリスの科学教育には、 実験・観察などのコースワークの充実、科学的なものの 考え方の育成、科学が日常生活でどのように活用されて いるか、レポートの書き方(主題を提示し、その証明を 証拠を用いて行い、結論を示す)など、参考にすべき点 も多くあります。 <図表2>GCE-A レベル科学の評価目標   出典:磯崎哲夫「イギリスにおける科学の学力の捉え方」、日本理科教育学会編 著『今こそ理科の学力を問う』p45、2012 年、東洋館出版社 GCSE、GCE - Aレベル試験では 実験などの評価(コースワーク)も実施

参照

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