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人間科学研究 Vol. 27, Supplement(2014)
修士論文要旨
問題と目的
特別支援教育の一形態である「通級による指導」を受け る児童生徒は年々増加している。指導対象の判断に当たっ ては,医学的な診断の有無のみにとらわれずに,個人の障 害の特徴や状態にあわせた対応が求められる。そのため,従 来のアセスメント情報に,客観的な視点からのアセスメン トを加えることにより,より迅速に適切な指導へとつなが る可能性があると考えられる。また,発達障害はワーキン グメモリー(WM)や抑制機能,注意機能といった実行機 能の異常との関連が示されており,近年では,認知トレー ニングによる効果が示されている(Klingberg, 2012)。そ のため,限られた時間の中で児童の状態改善を目的とする 通級による指導においても,認知トレーニングを取り入れ ることが有効と考えられる。しかしながら,現在はスキル 訓練や教科の補充指導などが多く,通級指導教室における 認知トレーニングの効果に関するエビデンスは少ない。
よって,本研究は,通級指導教室に通う児童を診断の有 無によらず,認知機能の特徴から類型化すること(研究1)
と,認知トレーニングを取り入れた通級による指導の効果 を検討すること(研究2)を目的とした。
方法
参加者 埼玉県にある小学校の通級指導教室に通う児童
(研究1:35名,研究2:22名)を対象とした。
課題 1.板書課題:担当者が同席しない場面で板書課題 を実施し,後日行動評定した。課題遂行時間,黒板確認回 数,よそ見,発言の4つを評定した。2.視聴覚連続遂行 課題(視聴覚CPT):視覚刺激と聴覚刺激を用いて,標的 刺激と非標的刺激が呈示されるタスク条件と,標的刺激の みが呈示されるコントロール条件から構成した。3.たし て10をさがせ(10さがし):ランダムな順で羅列した0から 9までの数字から,隣接する2つの数字の合計が10になる ものを探して丸をつける通常指導時に使用されている課題。
研究2のみ実施。
機材 視聴覚CPT実施時に,Near Infra-red Spectroscopy
(NIRS)を用いて,左右背外側前頭前野(DLPFC)の血 管中の総ヘモグロビン濃度長変化(total-Hb)を測定した。
手続き 指導開始の挨拶を行った後,担当者が退出してか ら板書課題を実施した。通常の通級指導課題を行う中で,視
聴覚CPTと10さがし(研究2のみ)を実施した。視聴覚 CPT実施の際には,課題の教示と刺激に関する説明の後,
練習課題を実施してから本試行に移った。本施行に移る前 にNIRSを装着し,フィットしている事を確認した。
結果と考察
研究1 視覚エラー率と聴覚エラー率を用いてクラスター 分析を行った結果,3つのクラスターに類型された(「正確 型」「視覚エラー型」「聴覚エラー型」)。エラー率以外の変数 に関しては,視覚刺激に対する反応時間のばらつき(VSD)
のみ聴覚エラー型と正確型の間に差が示され,total-Hbと 板書課題の変数における差は示されなかった。
研究2 視聴覚CPTの視覚平均反応時間および,板書課題 中のよそ見,10さがしに関しては,有意な時期の主効果が 示された。聴覚エラー率において有意傾向の交互作用が示 され,VSDおよび板書課題中の確認回数,10さがしの交互 作用に関しては,有意ではないものの,中程度の効果量が 示された。total-Hbに関しては,右DLPFCのタスク条件で のみ,交互作用が有意傾向で示され,視覚エラー群のみ post期の増加傾向が示された。
考察 通級による指導を受ける児童を対象にして,認知機 能の側面からの類型化,および,通級による指導の効果に 関して一部示された。指導効果に関して,まず時期の主効 果から,全体の傾向として,指導を受けている課題だけで なく,その他の課題や行動面においても,注意の持続に関 する全体的な指導の効果が確認できたと考えられる。今回 対象とした児童が在籍している通級指導教室では,10さが しのような,注意機能の促進を目的とした介入を継続的に 取り入れている。そのため,今回の結果においても注意機 能における変化が示されたと考えられる。通常1年間の指 導を行っていることをふまえ,今後は継続指導による効果 に関しても検討を行う必要があると考えられる。また,交 互作用の傾向から,各群の特徴に関連した認知機能に対す る効果や,total-Hbの変化と認知機能における行動指標の 関連が一部示唆された。しかしながら,本研究においては,
課題に対する動機づけや指導教室および指導担当者に対す る慣れの統制が行えなかったことや,サンプルサイズの問 題などが残されたため,今後改善した上で再度検討する必 要がある。