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グローバル公共政策ネットワークに関する一考察─

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(1)

序 問題の所在と設定

 近年、グローバル・ガバナンスの制度設計に関する多面的な研究が、社会諸科学の垣根 を越えて学際的に展開されるようになっている。筆者は、このような動向を、グローバル 化に伴う「政治の危機」に際し、政治の再生を求める理論的・実践的挑戦として位置づけ ている。本稿では、その中でもとくに、最近関心が高まっている「グローバル公共政策ネ ットワーク」に関する研究に焦点を当てる。本稿の目的は、グローバル公共政策ネットワ ークをめぐる理論的かつ経験的な比較研究に不可欠な分類法・分析枠組みの素案を提示 し、グローバル化時代において効果的かつ公正な政治を再構築するための一方法として、

グローバル公共政策ネットワークがもつ可能性と問題点について考察することである。本 論に先立って、以下に本稿の基本的問題の所在と設定およびその意義を示したい。

 今日、理論・実践の両面で政治の根本的再検討を迫る背景的要因として、グローバル化 の進展に伴う、次の「三重の越境化」1)による現代世界の変容を指摘することができる。

 まず、ローカルからグローバルにいたる全ての地理的レベルにまたがって、経済、環 境、保健・衛生など広範な分野において、「脱領域化」(

deterritorialization

)、すなわち大 規模な「社会関係・交流の空間的編成の変容」を促す過程が顕在化している2)。しかし、

空間的脱領域化は全ての分野で同じ速度で同じ程度に進んでいるわけではない。むしろ、

分野によっては逆行する傾向、あるいは分野間でトレード・オフの関係が生じることもあ りうる。例えば、社会関係の空間的越境化への政治の対応は経済のグローバル化に対して 大きく後れており、問題が生じるトランスナショナルな空間(グローバル)と、問題への

グローバル公共政策ネットワークに関する 一考察

─グローバル化時代における政治の再生を求めて─

奥 迫  元

1) この「三重の越境化」については、既に拙稿においても言及している。拙稿「国際関係論とグロー バル・ガバナンス論」、『国際関係論のニュー・フロンティア』第4章、成文堂、2010年、112─113 頁、参照。

2) Raffaele Marchetti, “Mapping Alternative Modes of Global Politics,” International Studies Review, Vol.

11, 2009, p. 137.

(2)

対処がなされる「ウェストファリア的な政治空間の枠組み」3)(国民国家)との間のギャッ プの増大が、現代世界における深刻な政治の危機を生じさせている4)。つまり、今日、政 治もまた、トランスナショナル化する地球的諸問題に適切に対処するために、ローカルか らグローバルにいたる包括的システムとしての再編を迫られている。このような「空間の 越境化」を受け、グローバル・ガバナンス論では、国際的相互作用を他のレベルの社会的 相互作用と分離して分析してきた従来の国際関係論の妥当性が問い直され、世界政治が、

ローカル、ナショナル、リージョナルおよびグローバルにまたがるマルチレベルなシステ ムとして捉え直されるとともに、レベル間の相互連繋に関心が注がれるようになってい る5)

 第二に、地球的諸問題がもつ複合的な性質、すなわち「問題領域間の越境化」が挙げら れる。例えば、国際貿易をめぐる政策決定は、しばしば経済、生態系および安全保障に重 大な影響を及ぼすようになっており、一つの政策をめぐって複数の問題領域を同時に考 慮・検討する必要が生じている。さらに、これらは「官僚機構や学問の垣根を越える」相 互連動的な問題であり、各専門領域での機能的分業では適切に対処できないため、学際研 究を通じた複合的なレジームの制度設計・構築・運用が求められている6)

 第三に、上記二つの越境化の帰結として、アクター間の垂直的越境化(地理的レベル 間)と水平的越境化(社会セクター間)が進展しつつある。グローバル化によって生じる 新たな複合的問題への対処には、公的セクター以外の専門家や当事者(stakeholders)も 含む「知識の収集・交換・共有・利用(

open sourcing

)」が必要になる7)。実際、近年、

多様な非国家アクターが公共政策形成にマルチレベルで参加するようになっており、公共 政策の対象としてだけでなく、その主体としても重要な役割を果たすようになっている。

公的セクター(各国政府・官僚機関、国際機関等)と市場セクター(企業・業界団体・民

3) Nancy Fraser, “Transnationalizing the Public Sphere: On the Legitimacy and Efficacy of Public Opinion in a Post-Westphalian World, Theory, Culture & Society, Vol. 24, No. 4, 2007, p. 9.

4) 例えば、Thornsten Bennerらは、国民国家の領域的性質と地球的諸問題がもつトランスナショナ

ルな性質との間の非対称に言及している(Thornsten Benner, Wolfgang H. Reinicke and Jan Martin Witte, “Multisectoral Networks in Global Governance: Towards a Pluralistic System of Accountability,”

Government and Opposition, 2004, p. 194)。同様にRaffaele Marchettiは、人々の活動とその影響が

「トランスナショナルな性質をもつにいたった社会経済的現実」と、国民国家のみに基礎を置く政治 システムとの間の溝を指摘し(Raffaele Marchetti, “A matter of drawing boundaries: global democracy and international exclusion,” Review of International Studies, Vol. 34, 2008, p. 213)、 さ ら にDirk

Lehmkuhlは、「国家ベースのガバナンスと経済活動との間のスケールのミスマッチ」を解消するた

め に 政 治 の ス ケ ー ル を 拡 大 再 編 す る 必 要 が あ る と 主 張 し て い る(Dirk Lehmkuhl, “Resolving Transnational Disputes: Commercial Arbitration and Linkages of Governance Services,” in Mathias Koenig-Archibugi and Michael Zürn, eds., New Modes of Governance in the Global System, London:

Palgrave Macmillan, 2006, p. 109)。

5) Klaus Dingwerth and Philipp Pattberg, “Global Governance as a Perspective on World Politics,” Global Governance, Vol. 12, 2006, p. 192.

6) Thornsten Benner, Wolfgang H. Reinicke and Jan Martin Witte, op. cit., 2004, p. 194.

7) Ibid., p. 194.

(3)

間財団等)、および市民社会セクター(NGOや市民運動グループ等)の間の越境的提携を 通じた包括的なグローバル公共政策ネットワークの登場は、このような「アクター間の越 境化」を象徴するものである。

 このような「三重の越境化」による国際社会の歴史的構造変動に際して、マルチレベル かつマルチセクトラルな視点から包括的に政治を再検討・再構築することは、現代国際研 究の重要課題の一つである。以上の問題関心の下、本稿において筆者は以下の構成に沿っ て考察を行う。

 まず第

1

節では、グローバル化時代の政治再生の基本的視点として、政治の正当性

(legitimacy)の問題について論ずる。ここで筆者は、政治の正当性の要件をアウトプット の正当性(効果)とインプットの正当性(公正)に分けて検討する。

 第

2

節では、正当な政治の再生を求めるに際し、市民社会アクターが重要な役割を果た しうることを示す。ここでは、市民社会アクターが形成しつつある「グローバルな公共域

(global public domain or sphere)」とその意義、および国家と市場を架橋する第三極とし ての市民社会セクターの役割を確認することを通じて、公的セクター、市場セクターおよ び市民社会セクターの

3

セクターから成るグローバルな公共政策ネットワークが生じた背 景を明らかにする。

 第

3

節では、本稿におけるグローバル公共政策ネットワークの定義を示し、多種多様な ネットワーク間の体系的かつ経験的な比較研究を可能にする、グローバル公共政策ネット ワークの分類法と分析枠組みの素案を提示する。

 第

4

節では、グローバル公共政策ネットワークの諸類型のうち、3セクターによる公私 間提携(

Public-Private Partnerships

[以下

PPPs

])をめぐる先行研究について概観する。

さらに、その可能性を最大限に引き出し、問題点をできる限り抑制するための条件として 確認されている

3

セクター間

PPPs

の課題についても論じてみたい。

 最後に、結びでは、自らの分類法・分析枠組みと先行研究を踏まえ、グローバル公共政 策ネットワークの体系的比較研究とその制度設計・運用法の探究を中心とする今後の筆者 の研究計画と、現代公共政策研究におけるその意義を示す。

1 政治における正当性をめぐる問題

 現代世界における政治の再編・再生を求める上で正当性を探究することの重要性につい て、

Klaus Dingwerth

は次のように述べている。

「これまでの研究が上手く捉えらずにいることは、グローバルなルール形成の正当性 をめぐる問題であり、その結果として、ルールがアクターの行動の変化に及ぼす影響 を決定する上で正当性が果たす役割に関する問題である。」8)

(4)

 そこで本節では、政治再生の原点をなす正当性の問題を検討することによって、政治再 生の基本指針を明らかにしたい。

(1)正当性の源泉:効果と公正

 David Heldによれば、グローバル化が生み出す政治の正当性をめぐる問題の根底的要 因 は、 一 方 に お け る

decision-makers

と 他 方 に お け る

decision-takers

も し く は

stakeholders

との間の対称性(symmetry)の破綻、すなわち「意思決定のインプットと

アウトプットの『一致』(‘equivalence’)の崩壊」に他ならず、現代世界において両者の 間の対称性・一致を回復するにはグローバル・ポリティクスの再編が必要となる9)。つま り、人々の生活に深く影響を及ぼす意思決定が彼らの手の及ばない者によってなされるよ うになるにつれ、その決定に従わせられる人々、もしくは重大な影響を被る人々によっ て、「排他的意思決定の正当性が問い質される」ようになっており、彼らに受け入れられ るガバナンス・システムの実現には、「アウトプットとインプットの正当性を同時に満た すことが求められる」のである10)

 この「アウトプットの正当性」と「インプットの正当性」の概念について、Karin

Bäckstrand

は次のように簡潔に定義している。

①アウトプットの正当性:ガバナンスの効果(問題解決能力)に関わる正当性

②インプットの正当性:意思決定の過程における代表性・透明性・アカウンタビリテ ィを軸とする手続き要件に関わる正当性11)

この見解に従えば、アウトプットの正当性は政治の効果をめぐる問題、インプットの正当 性はその公正さに関わる問題として捉えられる。筆者は、前者を「市場の失敗」と「政府 の失敗」(経済・政治の負の外部性)の克服に関わる問題、後者をグローバル・ポリティ

8) Klaus Dingwerth, “The Democratic Legitimacy of Public-Private Rule Making: What Can We Learn from the World Commission on Dams?,” Global Governance, Vol. 11, 2005, p. 66.

9) David Held, “Restructuring Global Governance: Cosmopolitanism, Democracy and the Global Order,”

Millennium: Journal of International Studies, Vol. 37, 2009, p. 544.

10) Dieter Kerwer, “Governing Financial Markets by International Standards,” in Mathias Koenig- Archibugi and Michael Zürn, eds., op. cit., 2006, p. 77.

11) Karin Bäckstrand, “Multi-Stakeholder Partnerships for Sustainable Development: Rethinking Legitimacy, Accountablity and Effectiveness,” European Environment, Vol. 16, 2006, pp. 291─292. なお、

この二つの正当性については他にも多くの研究者が言及している。例えばMagdelena Bexell

Ulrika Mörthは、アウトプットの正当性を、「市民(the demos)が集合的に最重視する目標の実現に

より獲得される正当性」(「人民のための統治」)、インプットの正当性を、公共政策決定への市民の

「積極的参加」を通じて獲得される正当性(「人民による統治」)であるとする(Magdelena Bexell and Ulrika Mörth, “Introduction: Partnerships, Democracy, and Governance,” in Magdelena Bexell and Ulrika Mörth, eds., Democracy and Public-Private Partnerships in Global Governance, London: Palgrave Macmillan, 2010, p. 12)。またAnders Uhlinは、前者をアクターの意思決定の「結果・影響に関わる」

正当性、後者を「アクターとその有権者(constituencies)」の関係に関わる正当性であるとしている

(Anders Uhlin, “Democratic Legitimacy of Transnational Actors: Mapping Out the Conceptual Terrain,”

in Eva Erman and Anders Uhlin, eds., Legitimacy Beyond the State?: Re-examining the Democratic Credentials of Transnational Actors, London: Palgrave Macmillan, 2010, p. 11 and p. 23)。

(5)

クスの民主化に関わる問題として論じていく。

(2)効果をめぐる問題

 グローバル化の進展に伴う外部性に関わる問題の深刻化と、この問題の解決のために政 治が果たすべき役割について、Robert E. Goodinは次のように指摘する。

「ある領域的単位の中で下された決定が、他の領域内の人々の利益に影響を及ぼす限 り……我々には、このような影響を引き起こす主体に行為の結果に対する責任を取ら せるべく、外部性に関わる諸問題を『内部化(internalizing)』できるシステムが新た に必要となる。」12)

しかし、皮肉なことに、政治への需要を急増させる外部性をめぐる諸問題は、とりわけ冷 戦終結後、「公共領域の縮小と共有財の民営化を通じた市場領域への公共領域の吸収」13)、 すなわち政治の圧縮と市場の地理的・機能的拡大を是とする新自由主義的経済のグローバ ル化の下で生じた問題である。確かに、今日、経済規制の緩和による「消極的統合

(negative integration)」を通じた経済のグローバル化と、越境的な規制の拡充・強化を軸 とする「積極的統合(positive integration)」による政治のグローバル化との間には「顕著 な非対称」が存在する14)。しかし、市場は「自らが引き起こす問題・条件を解決する手 段」たりえず、それができる可能性をもつのは「政治だけである」ことは、金融危機、グ ローバル・パンデミックや環境問題などを見ても明らかである15)。したがって今日、従来 の政治の限界を克服できる「新たなタイプの政治の再構築」16)を通じて、「グローバルな レベルで『自由主義を埋め込み直すこと(‘re-embedding liberalism’)』」が求められてい る17)

 ここで、序にて示した「三重の越境化」との関わりにおいて、政治の効果の回復に向け て国際関係論が探究すべき三つの課題を確認することができる。

 第一に、社会空間の越境化を受けて、「方法論的ナショナリズム(国民国家を社会・政 治分析の基礎単位として自明視する傾向)を超えたガバナンス理論の発展」18)が必要であ る。

12) Robert E. Goodin, “Enfranchising All Affected Interests, and Its Alternatives,” Philosophy & Public Affairs, Vol. 35, No. 1, 2007, p. 65.

13) Ronnie D. Lipschuts with James K. Rowe, Globalization, Governmentality and Global Politics:

Regulation for the rest of us?, London and New York: Routledge, 2005, pp. 64─65.

14) Thornsten Benner, Wolfgang H. Reinicke and Jan Martin Witte, op. cit., 2004, p. 194.

15) Ronnie D. Lipschuts with James K. Rowe, op. cit., 2005, pp. 6465.

16) David Chandler, Constructing Global Civil Society: Morality and Power in International Relations, London: Macmillan, 2004, p. 11.

17) Thornsten Benner, Wolfgang H. Reinicke and Jan Martin Witte, op. cit., 2004, p. 194.

18) Mathias Koenig-Archibugi, “Introduction: Institutional Diversity in Global Governance,” in Mathias Koenig-Archibugi and Michael Zürn, eds., op. cit., 2006, p. 2.

(6)

 第二に、問題領域間の越境化の下、現代政治研究はいっそうの学際化が求められてい る。今日グローバル・ポリティクスが取り組むべき外部性の問題は「領域的」(

‘cross- border’)外部性だけではない。「ある問題領域内で生じた問題が他の問題領域に影響を及

ぼすケース」、すなわち「機能的」(cross-sectoral’)外部性の顕在化も指摘されている19)。 こうした複合的問題の解決には諸科学を横断する総合的研究が不可欠である。

 第三の課題はアクター間の越境化に関するものである。「公私(官民)の関係は二項対 立的に捉えられるべきもの」ではなく、「国家(政府)の失敗と市場の失敗の観点からよ り良いガバナンスの枠組みを実現する」20)には、「公私両アクターを含むトランスナショ ナルな」21)公共政策の仕組みが必要とされる。この課題はグローバル公共政策への市民参 加の意義・可能性という争点を含むものであり、次項にて論じるグローバル・ポリティク スの民主化をめぐる問題と深く関わるものである。

(3)公正をめぐる問題

 グローバル・ポリティクスの公正さをめぐる重要な問題の一つである「民主主義の赤 字」について

Robert J. Holton

は次のように指摘する。

「問題は、政治のグローバル化が経済のグローバル化に対して大きく後れていること であり、民主主義の概念とその政治過程がグローバルな相互連関・相互依存の広範な インプリケーションについていけなくなっていることである。」22)

つまり、グローバル化の文脈においては、「日常生活やその条件に関わる選択」に人々が 直接・間接的に参加できるような政治システムの再生23)、言い換えれば「民主的自己決 定」を可能にする新たな政治システムの構築24)が必要とされる。そしてその実現は、国 家間協力だけでは困難であり、マルチレベルにおける国家も含めた多様なアクターの参加 が欠かせない。

 この点に関しては複数の研究分野で関心・見解が共有されている。例えば国際レジーム 研究では、レジームの効果・効率だけでなく、民主主義の諸価値をも同時に促進しうるシ ステムの設計が重要な課題と認識されるようになり25)、グローバル・ガバナンス研究で

19) Alkuin Kölliker, “Governance Arrangements and Public Goods Theory: Explaining Aspects of Publicness, Inclusiveness and Delegation,” in Mathias Koenig-Archibugi and Michael Zürn, eds., op. cit., 2006, pp. 209─210.

20) Magdelena Bexell and Ulrika Mörth, op. cit., 2010, p. 11.

21) Thornsten Benner, Wolfgang H. Reinicke and Jan Martin Witte, op. cit., 2004, p. 194.

22) Robert J. Holton, Making Globalization, London: Palgrave Macmillan, 2005, p. 176.

23) Ronnie D. Lipschuts with James K. Rowe, op. cit., 2005, p. 48.

24) Carol C. Gould, “Self-Determination beyond Sovereignty: Relating Transnational Democracy to Local Autonomy,” Journal of Social Philosophy, Vol. 37, No. 1, 2006, p. 57.

25) Robert O. Keohane, “Accountability in World Politics,” Scandinavian Political Studies, Vol. 29, No. 2, 2006, p. 75; Robert O. Keohane, Stephen Macedo, and Andrew Moravcsik, “Democracy-Enhancing Multilateralism,” International Organization, Vol. 63, 2009, p. 28.

(7)

も、効果的かつ公正なガバナンスの「制度設計をめぐる創造的思考の必要性」26)が指摘さ れている。こうして現在、「国民国家を超えた民主的ガバナンスのアイディア」をめぐる 理解を深め27)、既存のガバナンスの「制度的枠組みとその規範的基礎」の不備を解消 し28)、「民主的な政治を再生する」29)ことのできるグローバルな政治システムを設計するこ とが、現代政治学の今日的課題の一つとして広く認識されている。

 しかし、民主的なグローバル・ポリティクスの構築が極めて困難な挑戦であることは言 うまでもない。現時点で世界政府は存在せず、将来におけるその実現が可能であるのか、

またそもそもそれが望ましいことであるのかどうかについても悲観的な見解が多い。さら に、普遍的な「世界市民」にしてもその実現可能性は極めて乏しい。したがって我々は、

グローバル・デモクラシーを、国民国家を基礎単位として発展してきた近代民主主義シス テムを拡張させること、いわゆる「国内レベルからの類推(domestic analogy)」を通じて 実現させることはできない。つまり、選挙を軸とする代議制民主主義の制度に基づいてグ ローバル・デモクラシーの実現を図るという構想には理論的にも実践的にも無理がある。

その意味で、公正なグローバル・ポリティクスの構築は民主主義の概念・制度自体の歴史 的再検討という大きな課題を内包している。この点に関連して、グローバル・ポリティク スの民主化に関する近年の研究では、選挙によらない多元的なアカウンタビリティ・シス テムの設計に関するアイディアや30)、「熟議型民主主義(

deliberative democracy

)」の可能 性や問題点に関する議論が展開されている。そしてこのような新しい研究が、グローバ ル・デモクラシーの追求に重要な役割を果たすものとして注目するのが市民社会アクター である。

2 市民社会アクターの役割

(1)市民社会アクターへの注目の高まり

 近年、「市民社会、

NGO

およびそのネットワーク」が、国家の不備を補完して、「現代 世界において柔軟かつ俊敏な対応力を実現する方法の一つ」として注目されている31)。ま た、創出されつつある「グローバル市民社会」を、人々が国家を超えたレベルでなされる 政治的意思決定に参加できる場と機会を切り拓くものとして評価する研究も多い。例え ば、トランスナショナルなアドボカシー団体の活動を、「グローバル・ガバナンスの規範

26) Michael Zürn and Mathias Koenig-Archibugi, “The Modes and Dynamics of Global Governance,” in Mathias Koenig-Archibugi and Michael Zürn, eds., op. cit., 2006, p. 251.

27) Klaus Dingwerth, op. cit., 2005, p. 65.

28) Raffaele Marchetti, op. cit., 2009, p. 133.

29) Ronnie D. Lipschuts with James K. Rowe, op. cit., 2005, p. 4.

30) Robert O. Keohane, op. cit., 2006, p. 75.

31) David Chandler, op. cit., 2004, pp. 153─154.

(8)

を変容させる」ことにより「世界政治の再構築に貢献する」ものと捉える研究もある32)。 加えて、近年トランスナショナル・アクターが、「国家および公共セクターが担ってきた 公共政策の分野で権威を発揮するようになってきている」ことも33)、多くの論者が注目す るところである。

 こうした動向の中で、グローバル市民社会と民主化とを結びつけ、グローバルな民主的 政治の発展に市民社会が果たしうる役割を分析することによって、「『下からの』世界の民 主化の潜在的可能性」の検証を試みる研究も開始されている34)

(2)グローバルな公共域の出現

 生活を左右する越境的な意思決定に市民が影響力を行使するためには、意思決定がなさ れる制度やプロセスを監視し、必要な情報を交換・共有するとともに、対話を通じて「世 論」を形成し、これを意思決定者に有効に伝え、新たなアジェンダ設定や政策の変更・撤 回を求めたり、またそのために市民を動員・組織化したりすることを可能にする場・機会 が不可欠となる。これに関し

John Gerald Ruggie

は、「グローバルな公共財の生産をめぐ って言論、論争および行為が形成される制度化された場」としての「グローバルな公共域

(global public domain)の生起」を指摘する35)。彼によれば、それは「トランスナショナ ルな非領域的空間に『存在する』もの」で、ローカルからグローバルにいたる「制度的ネ ットワーク」を通じて編成される36)

 また、

Jens Steffek

も、グローバル化時代における「公的アカウンタビリティ」の実現

には「公共域」(public sphere)が必要であり、これを可能にする「中心要素」を、「有効 なメディア・インフラ」と「トランスナショナルな市民社会」の二つであるとしてい る37)。このうち前者について

Manuel Castells

は、「マス・セルフコミュニケーション」、

32) Kathryn Sikkink, “Restructuring World Politics: The Limits and Asymmetries of Soft Power,” in Sanjeev Khagram, James V. Riker and Kathryn Sikkink, eds., Restructuring World Politics: Transnational Social Movements, Networks, and Norms, Minneapolis and London: University of Minnesota Press, 2002, p. 302.

33) Magdelena Bexell and Ulrika Mörth, op. cit., 2010, p. 3. 彼らによれば、本稿で取り上げる「公私の 垣根を越えるトランスナショナル・パートナーシップの増大」も、トランスナショナル・アクターの 権威の拡大を示す一例である。

34) Mariya Y. Omelicheva, “Global Civil Society and Democratization of World Politics: A Bona Fide Relationship or Illusory Liaison?,” International Studies Review, Vol. 11, 2009, pp. 109─132.

35) John Gerald Ruggie, “Reconstructing the Global Public Domain: Issues, Actors, and Practices,”

European Journal of International Relations, Vol. 10, No. 4, 2004, p. 509. このような公共域の出現に関し て は、 他 に も 多 く の 研 究 者 が 言 及 し て い る。 例 え ばMathias Keonig-Archibugi, “Transnational Corporations and Public Accountability,” Government and Opposition, 2004, p. 257; Diane Stone, “Global Public Policy, Transnational Policy Communities, and Their Networks,” The Policy Studies Journal, Vol.

36, No. 1, 2008, p. 19; Catia Gregoratti, “Transnational Partnerships: What Democracy? Whose Justice?,”

Global Society, Vol. 26, No. 4, 2012, p. 515.

36) John Gerald Ruggie, op. cit., 2004, p. 519.

37) Jens Steffek, “Public Accountability and the Public Sphere of International Governance,” Ethics &

International Affairs, Vol. 24, No. 1, 2010, p. 47.

(9)

つまり「マスメディアを迂回し、時に政府のコントロールをもかいくぐる多様な形態のコ ミュニケーション手段を通じてメッセージを送受信する」ことにより、同時かつ瞬時に

「多対多を結びつけるコミュニケーション・ネットワーク」の生起を指摘する38)。この点 で、グローバル公共域の創出に、インターネット、電子メール、携帯電話等の情報通信技 術と、それに支えられる

Facebook

Twitter

等の

SNS

が果たす役割は大きい。

(3)市民社会セクターの役割の増大とグローバル公共政策ネットワークの発展

(a)第三極としての市民社会セクターの役割

 市民社会セクターが公的セクターと市場セクターとの関わりにおいて果たす役割に関し ては多くの研究者間で一定の見解の一致が見られる。例えば

Mariya Y. Omelicheva

は、

グローバル市民社会を国家システムとグローバル市場の間に創出されつつある空間と位置 づけ、そこにおける国家、市場および市民社会を頂点とする「『複合的マルチラテラリズ ム(complex multilateralism)』 が 織 り な す 三 角 関 係 」 に 注 目 す る39)。 ま た

Ronnie

Lipschuts

らは、グローバル市民社会が、公的セクターと市場セクターを「媒介するチャ

ネル」を供給することで現代政治経済システムの「正当性を回復する」役割を果たしうる と期待する40)

 既に述べた通り、公的セクターと市場セクターの関係は二分法的に捉えられるべきもの ではない。政府の失敗は公共政策の市場化によってのみ補われるものでもなければ、市場 の失敗は公的セクターによる規制の強化によってのみ解決できるものでもない。実際、こ の両セクターを極とする幅広い公共政策空間が創出されるに伴って、市民社会セクターを 媒介として、公共セクター主導型と市場セクター主導型のガバナンスに加えて、三者間に マルチセクトラルな新しいハイブリッド型のガバナンスが生起しており、これらが包括的 なグローバル公共政策ネットワークを形成している。

b

)グローバル公共政策ネットワークの発展と公私提携型ガバナンスの登場

 近年「トランスナショナルな政策空間」41)において「越層的(trans-scalar)で多様なア クターが織りなす」42)新しい「非領域的ガバナンス」様式43)が形成されている。その中で

38) Manuel Castells, “The New Public Sphere: Global Civil Society, Communication Networks, and Global Governance,” The Annals, the American Academy of Political and Social Science, Vol. 616, 2008, p.

90.

39) Mariya Omelicheva, op. cit., 2009, p. 117.

40) Ronnie Lipschuts with James K. Rowe, op. cit., 2005, p. 31.

41) Diane Stone, op. cit., 2008, p. 19.

42) Jan Aart Scholte, “Civil Society and the Legitimation of Global Governance,” Journal of Civil Society, Vol. 3, No. 3, 2007, p. 316.

43) Thomas N. Hale, “Transparency, Accountability, and Global Governance,” Global Governance, Vol. 14, 2008, p. 75.

(10)

とくに研究者の関心を集めているのが上に触れたハイブリッドな政策様式、すなわちグロ ー バ ル 公 私 間 パ ー ト ナ ー シ ッ プ(global public-private partnerships[ 以 下 グ ロ ー バ ル

PPPs])である。従来 PPPs

は、新自由主義が台頭する過程で、先進国を中心に各国内で

行政の効率化を図るべく、いわゆる「新公共経営[new public management(NPM)]」が 導入された際に注目された概念である44)。具体的には公共サービスへの民間企業の参加

(規制緩和・民営化)、公共セクターへの競争原理や成果主義の導入、またこれを促進する ための行政機関の組織改編(例えば独立行政法人化)などである。しかし本稿で取り上げ るグローバル

PPPs

はこれとは大きく異なるものであり、グローバル化の負の外部性を生 む新自由主義をグローバルな政治空間の中に埋め込む(embedding neoliberalism)制度的 実験として捉えられるべきものである。言い換えればそれは、「政府の失敗と市場の失敗 を克服する」ため45)、「公私両アクター間の制度化された越境的相互作用」を通じて形成 される公共政策ネットワークの一形態である46)。その特徴は、「水平的(多様なアクター 間の)かつ垂直的(グローバル、ナショナル、さらにローカル)な協働」である47)。  しかしその一方で、このような非国家アクターを含むグローバルな複合的ガバナンス様 式をめぐる「概念的・理論的合意は未だ脆弱」であり、その理解や評価について多様な見 解が提示されており、「類似した現象」に対しても、以下のような様々な用語が用いられ ている48)

・multi-stakeholder partnerships49)

networked governance

50)

・multi-sectoral networks51)

44) Kathleen McNutt and Leslie A. Pal, “‘Modernizing Government’: Mapping Global Public Policy Networks,” Governance: An International Journal of Policy, Administration, and Institution, Vol. 24, No. 3, 2011, p. 439.

45) B. Guy Peters and Jon Pierre, “Public-Private Partnerships and the Democratic Deficit: Is Performance-Based Legitimacy the Answer?,” in Magdelena Bexell and Ulrika Mörth, eds., op. cit., 2010, p. 44.

46) Marco Schäferhoff, Sabine Campe and Christpher Kaan, “Transnational Public-Private Partnerships in International Relations: Making Sense of Concepts, Research Frameworks, and Results,” International Studies Review, Vol. 11, 2009, p. 455.

47) Christer Jönsson, “Coordinationg Actors in the Fight agains HIV/AIDS: From ‘Lead Agency’ to Public-Private Partnerships,” in Magdelena Bexell and Ulrika Mörth, eds., op. cit., 2010, Ibid., p. 180.

48) Klaus Dingwerth, “North-South Parity in Global Governance: The Affirmative Procedures of the Forest Stewardship Council,” Global Governance, Vol. 14, 2008, p. 54.

49) Mathias Koenig-Archibugiはこれを、「特定分野の社会問題の合意を通じた解決を目的とする、市

民社会、企業、各国の公的機関・国際機関の提携に基づくトランスナショナル・ガバナンスのメカニ ズム」の一つであるとする(Mathias Koenig-Archibugi, “Introduction: Institutional Diversity in Global Governance,” in Mathias Koenig-Archibugi and Michael Zürn, eds., op. cit., 2006, p. 10)。

50) Thornsten Bennerらはこれを、「公共、民間および非営利セクターの提携」による新しい形態の

ガバナンスであり、「グローバル化時代におけるガバナンスの非対称に対処するための実験」と称す る(Thornsten Benner, Wolfgang H. Reinicke and Jan Martin Witte, op. cit., 2004, p. 193)。

51) Ibid., p. 196. Thornsten Bennerらはnetworked governanceとともに、公共セクター、市場セクタ ーおよび市民社会の間の「トランスナショナルな越境的提携・協力」として、multisectoral networks という用語も用いているが、両者はほぼ同一の概念である。

(11)

・partnership networks52)

 このような用語の乱立にも示されるように研究においては未だ開拓途上の分野である が、実践においては、グローバル

PPPs

はガバナンス・メカニズムの一つとして定着して おり、その長・短所に関する評価が進んでいる53)。さらにその過程で多くの研究者間で共 有されるようになっているのが、短所の最小化と長所の最大化を可能にするグローバル

PPPs

の制度設計への関心である54)

 グローバル公共政策ネットワークの発展は「現代世界政治における権威の再編」を示唆 する現象であり、グローバル化時代における政治の再構築をめぐる本質的問題を提起する ものである55)。そして、それが政治の再生に貢献するものとして「期待に応え、陥穽を避 けるための条件を明らかにする」には、まず「経験的な比較研究・評価」が不可欠であ る56)。しかし現時点では、グローバル公共政策ネットワークに関する研究のほとんどは

「単一のケース・スタディ」にとどまるものであり、「体系的な比較研究」は未だ乏し い57)

 そこで次節において筆者は、問題領域を横断して、グローバル

PPPs

を含む全てのタイ プの公共政策ネットワークの比較を可能にする、グローバル公共政策ネットワークの包括 的な分析枠組みについて素案を提示してみたい。

3 グローバル公共政策ネットワークの分析枠組み

(1)分類法:参加セクターの観点からの分類

 筆者は、参加するセクターの観点からグローバル公共政策ネットワークを分類するに際 して、公的セクター(各国政府・省庁、政府間国際機構、地方政府、地域国際機構等)、

市場セクター(企業、業界団体、民間財団等)および市民社会セクター(

NGO

、市民運

52) Karin Bäckstrandは、この用語を、「市民社会、政府および財界に属する多様なアクターの協力に

よって、マルチラテラルな規範とローカルな活動を架橋」する「新たなグローバル・ガバナンスの形 態」を示すものとしている(Karin Bäckstrand, op. cit., 2006, p. 290)。

53) Kent Buse and Andrew M. Harmer, “Seven habits of highly effective global public-private health partnerships: Practice and potential,” Social Science & Medicine, Vol. 64, 2007, p. 259.

54) これに関し、「広範な政策分野にまたがって」、グローバルPPPsの「組織的デザイン、プロセス

およびレトリックに顕著な類似」が生じていることが指摘されている(Klaus Dingwerth and Philipp Pattberg, “World Politics and Organizational Fields: The Case of Transnational Sustainability,” European Journal of International Relations, Vol. 15, No. 4, p. 2009, p. 708)。またAnna Ohanyanは、「グローバル 政策ネットワークの制度的属性が紛争後の平和構築の鍵を握って」おり、その「効果的な制度設計が 政策決定者たちにとって極めて重要になっている」と論じている(Anna Ohanyan, “The Effects of Global Policy Networks on Peacebuilding: Framework of Evaluation,” Global Society, Vol. 24, No. 4, 2010, pp. 533534)。

55) Marco Schäferhoff, Sabine Campe and Christopher Kaan, op. cit., 2009, p. 451.

56) Magdalena Bexell, Jonas Tallberg, and Anders Uhlin, “Democracy in Global Governance: The Promises and Pitfalls of Transnational Actors,” Global Governance, Vol. 16, 2010, p. 83.

57) Ibid., pp. 96─97.

(12)

動、マイノリティ集団等)の

3

セクターを頂点とする三角形を想定する。ここで各セクタ ーに注目し、ⅰ 単一セクター内でのネットワーク(uni-sectoral networks)、ⅱ 2セク ター間のネットワーク(bi-sectoral networks)、およびⅲ 3セクター間のネットワーク

(tri-sectoral networks)、という

3

種類のネットワークを区分できる58)。さらに、これら

3

種の下に以下の計七つのネットワークのタイプを確認することができる59)

 ⅰ 単一セクター内ネットワーク(uni-sectoral networks)

 同一セクター内のアクター間で形成される越境的政策ネットワークであり、以下の

3

タ イプに区分できる。

①公的アクター間ネットワーク(public/public networks)

②市場アクター間ネットワーク(market/market networks)

③市民社会アクター間ネットワーク(civil society/civil society networks)

 ①については、伝統的な多国間国際機構や国家主導の国際レジーム、および

G8・G20

などの政府間ネットワークも含まれる。さらに、近年注目されているトランスガバメンタ ル・ネットワーク(transgovernmental networks)もこれに当てはまる60)。その他、地方 政府間の越境的ネットワーク61)、EUで見られるような地方政府と地域国際機構との間の 連携協力、さらに地域機構間(

inter-regional

)の制度化された提携関係もここに挙げるこ とができるだろう。②の代表的な例としては、企業間あるいはその利益団体間で形成され る、規格の統一や自主規制あるいは行動基準(

codes of conduct

)のルール形成・実施の

58) グローバル公共政策ネットワークを、3セクター全てを含むものに限定する研究者が多い

Thornsten Benner, Wolfgang H. Reinicke and Jan Martin Witte, op. cit., 2004; Ann-Marie Slaughter,

“Building Global Democracy,” Chicago Journal of International Law, Vol. 1, 2000; Diane Stone, op. cit.,

2008.)。しかし筆者は、グローバル公共政策ネットワークを単一セクター型と2セクター型も含む包

括的なものとして捉え、3セクター型をその中の1ネットワーク形態として分けて概念化したい。

59) 参加セクターによる分類の他に、機能の観点から分類することも可能である。一例として、グロ ーバル・ガバナンスに関してMathias Koenig-Archibugiが提示した分類法に倣って(Mathias Koenig- Archubugi, “Introduction: Institutional Diversity in Global Governance,” in Mathias Koenig-Archibugi and Michael Zürn, eds., op. cit., 2006, pp. 12─16)、以下のようなカテゴリーを設定できる。

  ⅰ立法的機能:アドボカシー、アジェンダ・セッティングおよび規範・ルールの形成等   ⅱ行政的機能:政策の実施、ルールの執行、公共サービスの供給等

  ⅲ司法的機能:個別の事例・紛争をめぐるルールの解釈・適用(仲裁や制裁を含む)等

 以上三つの機能と参加アクターの観点から分類される7タイプを組み合わせると、合計21のネット ワークの理念型が得られることになる。このような機能の観点も含む体系的な分類に関しては筆者の 今後の研究課題としたい。

60) トランスガバメンタル・ネットワークに関してはAnn-Marie Slaughterの研究がとくに有名であ

る。今日、国境を越えて急速に波及する問題に迅速・柔軟に対応すべく、各国の公的機関が、それぞ れ他国の同種機関(counterpart)との間に公式・非公式のネットワークを形成している。トランス ガバメンタル・ネットワークでは、伝統的な政府間交渉を通じた条約の締結や、各国立法府における 審議や批准といった手続きに縛られずに決定・運用することが可能な了解覚書(Memorandum of Understanding)等の手法が多用される。

61) ただし地方自治体は、中央政府と比べ、ローカルな市民社会とより密接な関係をもつものである ことに注意する必要がある。

(13)

ためのネットワークがある。③に関しては、特定の問題や問題領域に関わる規範・ルール や具体的な政策について提言を行う多様なアドボカシー・ネットワークを挙げることがで きる。

 ⅱ 2セクター間ネットワーク(bi-sectoral networks)

 二つのセクターの間で形成される越境的な政策ネットワークであり、以下の

3

タイプに 分けられる。

④公的アクター・市場アクター間ネットワーク(public/market networks)

⑤公的アクター・市民社会アクター間ネットワーク(public/civil society networks)

⑥市場アクター・市民社会アクター間ネットワーク(market/civil society networks)

 ④は公的アクターと私的アクターの間に形成されるネットワークの一つであるため、筆 者は、これをグローバル

PPPs

Ⅰと呼ぶことにしたい。代表例として国連のグローバル・

コンパクト(the United Nations Global Compact)がある。⑤も同様に公私間ネットワー クであり、筆者はこれをグローバル

PPPs Ⅱと呼ぶことにする。これに関しては、とくに

人権、環境保護および開発の分野で多くのパートナーシップが発展している62)。⑥は私的 アクター同士のセクターをまたぐネットワークを指す。これに属する事例として、GRI

the Global Reporting Initiative

)、森林管理協議会(

the Forest Stewardship Council

)、海洋 管理協議会(the Marine Stewardship Council)などが挙げられる。

 ⅲ 3セクター間ネットワーク(tri-sectoral networks)

 最後が

3

セクター全てによって形成される公共政策ネットワークである。公私をまたぐ 最も包括的なネットワークであり、これを筆者はグローバル

PPPs

Ⅲと呼ぶことにする。

⑦ 公 的・ 市 場・ 市 民 社 会 ア ク タ ー 間 ネ ッ ト ワ ー ク(

public/market/civil society networks)

  こ れ に 含 ま れ る 代 表 例 と し て は、

the Global Alliance for Vaccine and Immunization

[GAVI]や

the Global Water Partnership、the Global Fund to Fight AIDS, Tuberculosis and

Malaria

[以下

GFATM

]などがある。そのほとんどが特定の問題領域での活動を目的と

するものであるが、the World Commission on Dams[以下

WCD]のように複数の問題領

域をまたぐ複合的な問題(

WCD

の場合は、環境、開発および人権に関わる水資源の問 題)に取り組むものも存在する63)

62) Magdelena Bexell and Ulrika Mörth, op. cit., 2010, p. 3.

63) Thornsten Benner, Wolfgang H. Reinicke and Jan Martin Witte, op. cit., 2004, p. 197.

(14)

(2)制度的属性の分析枠組み

 グローバル公共政策ネットワークの比較研究により、現状におけるその意義あるいは問 題点を確認し、より良いネットワークの制度設計について探究するには、まず個別のネッ トワークの制度的特徴を明らかにできる分析枠組みが不可欠である。そこで筆者は、以下 の三つの次元より構成される座標空間を、グローバル公共政策ネットワークの比較研究の ための分析枠組みの素案として提示する。

 ⅰ 第一次元

 まず、公共性(publicness)と市場性(marketness)を両端とするスペクトラムを設定 する。具体的には、純粋な公的アクター間ネットワークと、純粋な市場アクター間ネット ワークを両極とする連続線であり、その間に多様なハイブリッド型ネットワークを位置づ けることができる。例えば、前項に挙げた

7

タイプについて、タイプ①を公共性の極、タ イプ②を市場性の極に置き、①から順に⑤、⑦、そして③ないしは④、⑥、②のように並 べることができるかもしれない。

 ⅱ 第二次元

 次に、包括性(

inclusiveness

)と排他性(

exclusiveness

)を両端とするスペクトラムを 設定する。この連続線は既に述べた政策のインプットに関わるものであり、ネットワーク のメンバーシップがどの程度ステークホールダーに対して開放的であるか、また参加者が どのような基準・手続きに基づいて選出されるのか、という観点から各ネットワークの位 置が特定される。

 ⅲ 第三次元

 最後に、ネットワークの制度化の程度に関するスペクトラムを設定する。これは政策の

「スループット(

throughput

)」64)とアウトプットに関わる連続線であり、意思決定過程の 様式(例えば

negotiation

deliberation

か)や議決方法(例えばコンセンサスか加重投票 か)、透明性、および政策の結果をめぐるアカウンタビリティ(例えばモニタリングや評 価等)に関する制度化のレベルに応じて位置づけがなされる。

 以上三つの次元を軸として、図のような座標空間を設定することができる。これら三つ

64) インプットの要素を、さらに参加の「範囲(scope)」(決定された政策によって影響を被るステー クホールダーの特定と代表に関わる)と「質(quality)」(平等な参加機会の有無、政策決定過程への 実質的影響力の程度等に関わる)に区分する研究があるが(Magdelena Bexell and Ulrika Mörth, op.

cit., 2010, pp. 12─13)、このうち後者をインプットとアウトプットの中間に位置づけ、「スループット

(throughput)」として概念化する研究者もいる(Eva Erman and Anders Uhlin, op. cit., 2010, p. 11)。

(15)

の次元において

3

7

タイプに分類される個別のネットワークを分析することで、それら の制度的属性を座標として特定し、体系的に比較・評価することが可能となる。

4 グローバル PPPs

Ⅲをめぐるこれまでの評価

 本稿では、以降の考察対象をグローバル

PPPs

Ⅲに絞ることにする。なぜなら、序にて 示した「三つの越境化」との関わりにおいてこれが最も包括的な政治の再構築への実験的 試みと見なすことができるからである。

 グローバル

PPPs

Ⅲをめぐっては、初期の研究段階においては、グローバル・ポリティ クスにおける「民主主義実現の条件」を創出するものと捉える肯定的・楽観的見解が多く を占めたが65)、事例研究が進む中で懐疑論・悲観論が増えてきた。その一方で最近、グロ ーバル

PPPs

Ⅲが現在抱えている限界や問題点を認めた上で、その陥穽を最小化し、長所 を最大限に引き出すための条件や課題を明らかにしようとする研究が開始されている。

 そこで本節では、グローバル

PPPs

Ⅲに関する先行研究について、その意義・可能性、

限界・問題点、およびその課題に分けて概観する。

(1)グローバル PPPs Ⅲの意義と可能性

 グローバル

PPPs

Ⅲが、効果と公正の両面においてグローバル・ポリティクスの正当性 を高められると評価する研究者は多い。まず効果の面に関して、グローバル

PPPs

Ⅲは、

65) Magdalena Bexell, Jonas Tallberg, and Anders Uhlin, op. cit., 2010, p. 81.

制度化の程度

公共性 包括性

図:制度的属性の分析枠組み

(16)

各セクターがもつ資源(資金、スキル・技術、情報・知識等)を協働的関係の下でプー ル、交換・共有、利用することで、グローバルな公共問題の解決に必要な公共財の供給に 貢献しうる公共政策メカニズムとして期待されている66)。また、これを、多様なステーク ホールダー(とくにローカルなニーズ)への柔軟できめ細かい対応を可能にすることで、

従来のガバナンスの不備・限界を克服しうるものとして評価する研究もある67)。さらに、

意思決定に広範なアクターを参加させることが、公共政策をめぐる「オーナーシップを高 めることによってコンプライアンスを向上させる」ことになるとの指摘もある68)。  公正の観点からは、グローバル

PPPs

Ⅲは、これまで周辺化を余儀なくされてきた 人々・集団に「コミュニケーションと討議の場・機会」を提供する点で、ガバナンスの民 主化に貢献しうるものと見なされている69)。この点に関しては、多くの研究者がグローバ ル

PPPs

Ⅲが共有するハイブリッドな制度的性質の意義を指摘している。例えば

Terry

Macdonald

は、今日「グローバル化の文脈」において、「公権力を基本的な権利保護のた

めに有効に活かす」と同時に、その「民主的なコントロールをも可能にする」制度の構築 が必要とされているが70)、その「最大の潜在的可能性」をもつのが、国家の長所と非国家 の長所を備えたハイブリッドな制度であると主張している71)

 さらに多くの研究者が、熟議(deliberation)を通じたグローバル・ポリティクスの民 主化において

PPPs

Ⅲが担いうる可能性を指摘する。例えば

Garrett Wallace Brown

は、

GFATM

に関する研究において、グローバル

PPPs

Ⅲを「民主的なアカウンタビリティと

公平なマルチセクターの参加という熟議の原則に基づく新たな形態のグローバル・ガバナ ンス」として評価している72)

 こうしてグローバル

PPPs

Ⅲは、効果と公正の両面でグローバル・ガバナンスを刷新す る「触媒としての役割を果たしうる」ものとして期待されている73)

(2)グローバル PPPs Ⅲの問題点・限界

 グローバル

PPPs

Ⅲは、「非国家アクターに権威的な意思決定に関与する機会を与える」

ものであるため、「正当性をめぐる重大な問題を提起する」74)。まず、グローバル

PPPs

66) Thornsten Benner, Wolfgang H. Reinicke and Jan Martin Witte, op. cit., 2004, p. 197; Marco Schaäferhoff, Sabine Campe, and Christopher Kaan, op. cit., 2009, p. 452.

67) Jens Martens, “Multistakeholder Partnerships: Future Models of Multilateralism?,” Dialogue on Globalization: Occasional Papers, No. 29, 2007, pp. 32─33.

68) Marco Schaäferhoff, Sabine Campe, and Christopher Kaan, op. cit., 2009, p. 458.

69) Ibid., p. 458.

70) Terry Macdonald, “What’s So Special about States? Liberal Legitimacy in a Globalising World,”

Political Studies, Vol. 56, 2008, p. 549.

71) Ibid., p. 544.

72) Garrett Wallace Brown, “Safeguarding deliberative global governance: the case of The Global Fund to Fight AIDS, Tuberculosis and Malaria,” Review of International Studies, Vol. 36, 2010, pp. 511─513.

73) Thornsten Benner, Wolfgang H. Reinicke and Jan Martin Witte, op. cit., 2004, p. 207.

(17)

の問題点として多くの研究者が指摘するのは、アジェンダ設定を含む公共政策決定過程へ の市場アクターの影響力の強化をめぐる問題である。パートナーシップに参加する有力な 市場アクターは、短期的には自らの私的な利益追求のため、長期的には市場セクターにと って有利な言説・規範を形成し、普及・浸透させるための場として、グローバル

PPPs

Ⅲ を利用するかもしれない75)。したがって

PPPs

は、「自己利益を追求できる制度を選択す ることを企業に可能にし、より拘束力のある規制を講ずるよう国家アクターに迫る政治的 圧力を減少させてしまう」ことで、ガバナンスの質をむしろ悪化させることになりかねな い76)

 批判の目は市民社会アクターにも向けられる。つまり、グローバル・ポリティクスの民 主化の担い手と目される市民社会アクターが、皮肉なことに自らの中にアカウンタビリテ ィ上の問題を抱えているとの指摘である。確かに、NGOの多くは公的アクターや市場ア クターに対してガバナンスの民主化を要求するものの、自らにおける意思決定に誰がどの ように、またどの程度参加しているかが不透明であり、「内部において民主的とはいえな い」77)。さらに、組織の中で特定の集団へのアカウンタビリティが優先されることになれ ば、その分他の集団へのアカウンタビリティは脆弱化する。例えば、多くの

NGO

は自ら の活動資金を民間の財団に依存しており、限られた額の資金(グラント)の獲得をめぐっ て厳しい競争にさらされているため、大手財団(とくにその少数の要職者)の意向が彼ら の活動プログラムの優先順位を決定してしまいかねない状況が生じている78)。そうなる と、こうした財団は一般的に短期間で効果が目に見えやすいプログラムを求める傾向があ るため、取り組みに時間を要し、実績も数値化しにくい、より構造的な問題に関わる活動 が困難になる危険があり、「

NGO

間の有益な協調の可能性」も阻害されてしまう79)。こう して

NGO

は、本来の目標(自らの政策・実践の提言・実現)とその手段(ドナーからの 資金確保)の䪳𪘚によるジレンマに直面し、その自律性・独立性は脅かされることにな る。

 このようなアクター間の「影響力の不均衡」80)の根底に存在するのが世界政治に厳然と 存続するパワーの問題である。市民社会アクターといえどもパワーの問題から逃れること はできない81)。事実、グローバル市民社会アクターの「大多数は欧米の団体によって支配

74) Marco Schäferhoff, Sabine Campe, and Christopher Kaan, op. cit., 2009, p. 452; Jens Martens, op. cit., 2007, pp. 3─5.

75) Ibid., p. 452; Jens Martens, op. cit., 2007, pp. 3─5.

76) Marco Schäferhoff, Sabine Campe, and Christopher Kaan, op. cit., 2009, p. 464.

77) Kathryn Sikkink, “Restructuring World Politics: The Limits and Asymmetries of Soft Power,” in Sanjeev Khagram, James V. Riker and Kathryn Sikkink, eds., op. cit., 2002, p. 306.

78) Ibid., p. 308.

79) Ibid., p. 308.

80) Christpher L. Pallas, “Good Morals or Good Business? NGO Advocacy and the World Bank’s 10th IDA,” in Eva Erman and Anders Uhlin, eds., op. cit., 2010, p. 105.

(18)

されており、北の白人、都市住民、富裕層」が「論争・運動を仕切っている」82)。そして 彼らが追求する価値は、えてしてグローバルに普及・浸透すべき「普遍的」規範と自負さ れるため、規範とパワーの相互作用への彼らの無自覚は、国際関係における従来の不均等 なパワー構造・関係を是正するどころかむしろ増幅させ、ヘゲモニーを強化する危険性を もっている83)

 次に、グローバル

PPPs

自体のアカウンタビリティの問題点も指摘されている。例え ば、意思決定手続きが不透明なこと、および、アクター間で「責任を希薄化させてしま う」ことにおいて、PPPsⅢはアカウンタビリティの問題を抱えていると批判される84)。 また、パワーの格差に起因する欠点を検証する研究もある。それによれば

PPPs

Ⅲは、

「 活 動 の 権 能 が 他 か ら 与 え ら れ て い る わ け で は な い(self-mandated) 点 と、 有 権 者

(constituencies)およびステークホールダーの確定が恣意的である点」で、「参加者の選 出とパワーの不均衡」をめぐって「民主主義的陥穽を抱えている」85)。さらに、構造的パ ワーの問題に関してよりラディカルな批判もある。例えば

Catia Gregoratti

は、新グラム シ主義の国際政治経済学の立場から

PPPs

Ⅲを分析することで、これを権威も正当性も脆 弱な、「不公平なパワー関係と新自由主義的規範の再生産の場」であると断じている86)。  さらに効果の観点からも、現状におけるグローバル

PPPs

の問題点が考察されている。

例えば

Andreas Føllesdal

は、個別の問題領域への特化による公共政策の断片化・近視眼

化を生み出す危険性と、自らが生み出す可能性のある負の外部性を内部化するメカニズム の不在、という「二つのリスク」を指摘する87)。また

Jens Martens

も、「調整がなされぬ まま、数だけが増える」と、活動・機能の重複によって、資源を結集させるどころかむし ろ分散させてしまい、「体系的・包括的な取り組みが妨げられる」結果、総合的な「ガバ

81) Kathryn Sikkinkは、「グローバルな規範の構造とパワーの構造に目を向けずして、グローバルな

秩序の輪郭やシステムの変化の可能性について理解することなどできない」と主張している

(Kathryn Sikkink, “Restructuring World Politics: The Limits and Asymmetries of Soft Power,” in Sanjeev Khagram, James V. Riker and Kathryn Sikkink, eds., op. cit., 2002, p. 306)。

82) Mariya Y. Omelicheva, op. cit., 2009, p. 119. Marco Schäferhoffらも、World Summit on Sustainable

Development[WSSD]にて開始されたPPPsⅢのほとんどが、「発展途上国の草の根レベルの参加」

が不足していると指摘し、従来の「地理的な代表権の不均衡を複製する傾向」を批判している

Marco Schaäferhoff, Sabine Campe, and Christopher Kaan, op. cit., 2009, p. 466)。またJens Martens も、「ほとんどのPPPsは、国際システムに存在するパワー関係・非対称を再生産」、さらには北のア クターによる「支配を強化することでそれを増幅させている」と論じる(Jens Martens, op. cit., 2007, p. 41)。

83) Mariya Y. Omelichevaも、「観念とパワー、『善』と『悪』との間の二分法」は妥当ではなく、「道

義的原則、観念、知識自体がパワーの一形態」でもあることを認識しなければならず、とくに「せめ ぎ合う真実(competing truths)」をめぐって論争・紛争が生じた場合にパワーが重要な役割を果たす ことに注意しなければならない、としている(Mariya Y. Omelicheva, op. cit., 2009, pp. 123─124)。

84) Yannis Papadopoulos, “Problems of Democratic Accountability in Network and Multilevel Governance,” European Law Journal, Vol. 13, No. 4, 2007, p. 473.

85) Magdalena Bexell, Jonas Tallberg, and Anders Uhlin, op. cit., 2010, p. 90.

86) Catia Grregoratti, op. cit., 2012, p. 534.

87) Andreas Føllesdal, “The Legitimacy Challenges for New Modes of Governance: Trustworthy Responsiveness,” Government and Opposition, Vol. 46, No. 1, 2011, p. 82.

(19)

ナンスの効果が損なわれてしまう」ことになると論じる88)

 また、グローバル

PPPs

における活動の偏向の問題も指摘される。例えば、活動対象が

「技術的な対応によって短期間で成果を上げやすい問題」に集中する結果、社会の基本的 な条件に関わり、長期的な取り組みを要する構造的な問題が置き去りにされてしまう可能 性が挙げられている89)

(3)グローバル PPPs Ⅲの課題

 このように、グローバル

PPPs

をめぐっては楽観的立場と批判的立場が存在するが、そ の一方で、アプリオリに肯定したり放棄したりするのではなく、これをより効果的かつ公 正なガバナンス様式にするための条件を特定しようとする研究が進展しつつある90)。そこ で共通する研究課題として以下のものが挙げられる。

 第一はグローバル

PPPs

をめぐる比較研究への関心である。PPPsをより効果的で公正 なガバナンス様式にする条件を明らかにするには理論的・経験的比較研究が不可欠である が91)、これまでの分析は個々の事例研究がほとんどで体系的な比較研究は不十分であ る92)。したがって、グローバル

PPPs

の現状での問題点や今後の可能性について「洗練さ れた理解を得る」ために、異なるタイプのパートナーシップ、および「異なる問題領域 間」の比較研究が求められている93)

 第二に、グローバル

PPPs

Ⅲの制度設計の重要性に対する認識が高まっている94)。グロ ーバル

PPPs

を効果的かつ公正なものにする条件がある程度特定されたら、その条件を満 たす制度の設計が必要となる。とくに注目される争点としては、1)参加アクターの選出 およびそのカテゴリー設定の仕組みと、

2

)新たなアカウンタビリティ概念の構築、さら に、3)迅速・柔軟な意思決定と長期的・包括的視点、あるいはガバナンスの効果と公正 との間のバランスをめぐる問題が挙げられる。まず

1

)に関しては、既存のパートナーシ ップにおいて、その選出・設定が不透明で恣意的であることが批判されている95)。例え ば、参加アクターに関しては、「広くステークホールダーに呼びかけ、意見を募る」こと

88) Jens Martens, op. cit., 2007, pp. 4142. この点に関連して、調整の不足によりネットワークごとに

「新たな仕組みや手続きの整備が求められる」ことになるため、発展途上国に過度の負担を生じさせ る、との指摘もある(Marco Schaäferhoff, Sabine Campe, and Christopher Kaan, op. cit., 2009, pp.

464)。

89) Jens Marterns, op. cit., 2007, pp. 56.

90) Thornsten Benner, Wolfgang H. Reinicke and Jan Martin Witte, op. cit., 2004, p. 192.

91) Marco Schaäferhoff, Sabine Campe, and Christopher Kaan, op. cit., 2009, p. 452.

92) Jens Martens, op. cit., 2007, p. 35.

93) Magdalena Bexell, Jonas Tallberg, and Anders Uhlin, op. cit., 2010, pp. 9197.

94) この点についてMarco Schaäferhoffらは、「PPPsの問題解決能力と正当性は、その制度設計によ って大きく左右される」ため、「今後の研究はトランスナショナルPPPsの制度設計に注目すべきで ある」と主張している(Marco Schaäferhoff, Sabine Campe, and Christopher Kaan, op. cit., 2009, p.

469)。

95) Yannis Papadopoulos, op. cit., 2007, p. 473.

参照

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