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第14回 貧困者向け雇用政策を問い直す

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第14回 貧困者向け雇用政策を問い直す

著者 牧野 百恵

権利 Copyrights 日本貿易振興機構(ジェトロ)アジア

経済研究所 / Institute of Developing

Economies, Japan External Trade Organization (IDE‑JETRO) http://www.ide.go.jp

雑誌名 IDE スクエア ‑‑ コラム 途上国研究の最先端

ページ 1‑2

発行年 2019‑02

出版者 日本貿易振興機構アジア経済研究所

URL http://doi.org/10.20561/00050687

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アジア経済研究所『IDEスクエア』

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第 14 回 貧困者向け雇用政策を問い直す

牧野 百恵 Momoe Makino 2019年2月 今回紹介する研究

Melanie Morten. "Temporary Migration and Endogenous Risk Sharing in Village India,"

Journal of Political Economy, forthcoming

途上国の農村に住む人々の消費平準化の手段として、都市への出稼ぎ(短期的な 労働移住)は有効な方法と考えられてきた。また、消費の変動を小さくするという リスク回避のためだけでなく、消費水準を底上げする目的でも、出稼ぎは大変有効 だと考えられている。例えばインド農村では、全世帯の 20%が少なくとも一人以 上の出稼ぎ者を都市へ送り出し、その収入は世帯収入の半分以上を占めるという。

都市への労働移住が貧困削減、リスク削減に役立つことは明らかに思えるのに、実 際に農村から都市へ長期的に移住する者は稀であるし、短期的な出稼ぎ者ですら 期待されるほど多くない。開発経済学者はこの現象を謎とみなし、解明すべく関心 を寄せてきた。

本研究はこれに対する一つの答として、出稼ぎと村人同士のネットワークを利 用したインフォーマルなリスク分担(助け合い)の 2 つが同時に決定されること に着目する。また、政府による貧困者向け雇用政策はフォーマルな消費平準化の一 手段とみなすことができるが、それによってインフォーマルなリスク分担機能が 追い出される(クラウドアウトされる)のではないかという点に焦点を当てる。

出稼ぎとリスク分担は同時に決まる

本研究では出稼ぎとリスク分担の 2 つが同時に決まる理論モデルを提示する。

村人同士のリスク分担はインフォーマルなので必ずしも頼りにできるわけではな く、出稼ぎという消費平準化のための他の手段によって影響を受ける点が特徴で ある。リスク分担機能は消費と所得の共分散(相関)によって測定し、共分散がゼ ロであればリスク分担が完全に機能していると考える。このモデルは、(1)出稼ぎ によって村人同士のインフォーマルなリスク分担機能が衰えること、(2)リスク分 担機能が村内で出稼ぎ者を出す家計の割合と出稼ぎによる収益率の両方に影響を

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アジア経済研究所『IDEスクエア』

2 与えることを説明する。

インドの ICRISAT(国際半乾燥熱帯作物研究所)による家計のパネルデータを

使った構造推定の結果によると、リスク分担機能が向上すると村内で出稼ぎ者を 出す家計の割合は25ポイント下がる。逆に、出稼ぎによりリスク分担機能(上記 の共分散)が13ポイント低下する。また、リスクのない資金の貸借が可能であり、

それによって消費平準化がなされる場合に比べ、出稼ぎがリスク分担と同時に決 定されて消費平準化がなされる場合には、出稼ぎの効果は消費に換算して32ポイ ント低くなる。

貧困者向け雇用政策(Mahatma Gandhi National Rural Employment Guarantee Act:

MNREGA)の再評価

MNREGAは2005年以来これまでに5,500 万家計を受益者としてきたインドの農 村雇用政策であり、同種の政策では世界最大規模である。MNREGAは最低賃金を保 障することで、貧困者のみが受益者となるセルフターゲットを可能にしている。仮に 出稼ぎとリスク分担が同時に決定されることを考慮すると、MNREGAの効果はいか に再評価されるだろうか。まず、移動費用が高いために出稼ぎができない状況では、

MNREGAによって村人同士のインフォーマルなリスク分担機能が低下し、消費で換

算した厚生水準がかえって悪化することが示される。

次に出稼ぎが可能な状況では、MNREGAによって、出稼ぎ率はMNREGAがない 場合に比べて 25%下がる結果となった。出稼ぎとインフォーマルなリスク分担が同 時に決定されることを考慮すると、MNREGAの効果は消費で換算して50~90%ほど 下がるという。政策を導入するうえでは、インフォーマルな村人同士のネットワーク が果たしているリスク分担の役割や機能を無視してはならないという既存研究のメ ッセージを本研究は強力に裏付けるものだろう。■

著者プロフィール

牧野百恵(まきのももえ)。アジア経済研究所地域研究センター研究員。博士(経済 学)。専門分野は家族経済学、人口経済学。著作に‟Dowry in the Absence of the Legal Protection of Women's Inheritance Rights”(Review of Economics of the Household, 2017)、

‟Marriage, Dowry, and Women's Status in Rural Punjab, Pakistan”(Journal of Population Economics, 2018)等。

参照

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