「相続分不存在証明書」に関する裁判例の研究
その他のタイトル L'etude sur la jurisprudence de l'acte de reception de faveur speciale
著者 千藤 洋三
雑誌名 關西大學法學論集
巻 36
号 3‑5
ページ 561‑604
発行年 1986‑12‑10
URL http://hdl.handle.net/10112/1789
桐
続 不分 存 在 証 明 書L
に 関 す る 裁
千 判
例 の
藤 研
究
洋
. .
.
目 次
一問題の所在
1一民法上の根拠
① 民 法
九O i
l 一
条の 立法 経緯
③ 登 記 先 例
︱︱‑﹁相続分不存在証明書﹂をめぐる裁判例
①相続分不存在証明書を用いた相続登記の可否
③証明内容の虚偽性
⑱ 当 事 者 の 合 意
④ そ の 他 四 結 び に か え て
問 題 の 所 在
共同相続人の間で遺産︑とりわけ土地や建物などの不動産を分割もしくは単独相続とし︑これを登記するには色
々な方法がある︒被相続人の遺言や相続分の指定等がない場合に︑法定相続分と同じ持分割合の登記を申請するには︑
戸籍謄本︵あるいは除籍簿謄本など︶だけが必要である︒しかし︑当事者同士の協議などによって法定相続分と異な
る持分割合による相続登記を申請するには︑戸籍謄本の他に︑
︵﹁
無相
続分
証明
書﹂
︑
︵五
六一
︱︱
)
﹁相続分のない旨の証明書﹂または﹁特別受益証明書﹂などとよばれる︒以下では︑主として
﹁相続分不存在証明書﹂を用いる︶を作成し︑もしくは﹁相続放棄申述受理証明書﹂の交付を家庭裁判所から受け︑
( 1 )
これらを法務局に提出することによって目的を達することが一般的といえよう︒これら三通りの方法のうち︑
分割協議書﹂は︑原則として共同相続人全員が集まって協議し︑合意された内容の分け方を同一書面に記載し︑かつ
全員が署名・押印する方法である︒これは︑誰がどの財産を取得するか︑といったことが一目瞭然と分かるので︑当
事者の意思が明確であり︑後に争いをもたらすことがない︒しかし︑建前は︑全員が一堂に会して話し合い︑また同
一書面に署名並びに押印しなければならないので︑その内容が全員に容易に知れてしまう︒また︑相続放棄は︑被相
続人の死後三ヵ月内に家庭裁判所に放棄の申述をし︑審判を受けなければならないので︑放棄者にとって面倒である
し︑また放棄申述書には︑被相続人の遺産を記載する必要があることから︑遺産の内容が知れてしまうことにもなる︒
このような点を免れる方法として︑よく用いられるのが︑相続分不存在証明書である︒これは︑あらかじめ定型文言
が印刷された一枚の紙で︑司法書士事務所で何人も簡単に手に入れることができる︒被相続人の遺産である土地等の
﹁相
続分
不存
在証
明書
﹂に
関す
る裁
判例
の研
究
﹁遺
産
﹁遺産分割協議書﹂あるいは﹁相続分不存在証明書﹂
三
不動産を単独で承継しようとする者は︑この用紙を各相続人の所に送付して︑署名・押印を求め︑それに印鑑証明を
付けて送り返して貰う︒そして︑単独承継者以外の全相続人の証明書を法務局に提出することによって︑目的を達す
る︒全共同相続人が一堂に会する必要もないし︑また同一書面ではないので︑各相続人が個別に作成することができ
る︒しかも︑遺産内容を記載する必要もないことから︑どれほどの遺産を被相続人が残したかも︑相続人にとっては
分からない︒さらに︑相続人にとっては︑家庭裁判所への相続放棄手続き等のわずらわしさもない︒こうした理由か
ら︑遺産の分割を防ぐためにも︑相続分不存在証明書が用いられることが多い︒
しかし︑この方法は︑簡便なだけに色々と問題がある︒証明書に署名・押印する者が︑証明内容通りの財産を取
得し︑実際に相続分を有しないのであれば︑問題はない︒もしくは︑あっても極めて少ないといえよう︒だが︑ほと
んどの場合が︑実際には贈与を受けていないか︑あるいは受けていてもわずかなものであったに過ぎない︒それにも
かかわらず︑共同相続人のうちの特定の者に遺産を集中させるために︑被相続人の生前にすでに十分な贈与を受けて
いたので相続分がないという証明書を作成する︒これは︑証明書作成者から単独承継者への贈与もしくは遺産の放棄︑
あるいは証明書作成者の相続分を零とする協議の成立があったものと見られうる︒しかし︑後になって意思を翻した
り︑あるいは︑任意の意思に基づくのではなかったとか︑証明書のもっている意味を理解せずに署名・押印したとか︑
さらにはだまされた︑と主張する︒そこから︑この相続分のない旨の証明書の効力を巡って様々な問題が出てくる︒
かつて︑高松家庭裁判所が司法書士等に対する広報活動を行った際に︑この証明書を利用することの損失として︑次
(2 )
のような点を指摘していた︒すなわち︑﹁1相続放棄ではないので︑遺産はとらないが負債は承継するという事態に
なり後日債務の追及をうけるおそれがある︒2生前贈与がないのに贈与をうけた旨の証明をするのだから相続税︵贈 関法第三六巻第三・四•五号
︵五
六四
︶
与税︶の追及を一応うけて紛議を起こしかねない︒3一片の証明書︑しかも自己証明であるから本人の知らぬ間に作
4この方法ですると交換条件︵例えば長男が家屋をとるが︑
す︶の履行を確保し難い︒5親から何も貰わぬのに貰ったことにするのだから︑その時はそのつもりでも︑後日不和
︵この無相続分証明書は︑単なる過去の事実の証明にすぎないのか︑多少とも意思表
示を含むかとの法律問題ともからむ︶︒6未成年の子でも親権者によって簡単にやれるからその利益を害するおそれ
がある︒﹂︒このように︑この証明書を用いる不動産登記には︑多くの問題点がある︒
本稿は︑相続人の中の特定人が遺産である不動産を集中して承継するために︑相続を登記原因とする権利の移転
登記を行う手段としてよく用いられている相続分不存在証明書の効力を︑検討しようとするものである︒この問題に
(3 )
ついては︑すでに先達の優れた諸研究が存在する︒筆者も︑以前に判例評釈という形ではあるが︑当該問題を検討し
(4 )
たことがある︒今回は︑優れた諸見解に教えを受けつつ︑次章で︑相続分不存在証明書の法的根拠を明らかにし︑
いで︑この証明書をめぐる問題点について個別的に検討を加えようとするものである︒
本稿で述べようとする点を予めまとめれば︑以下のようになろう︒
相続分不存在証明書の法的根拠は︑特別受益の持戻し規定である︒この規定の源流は︑
︵五
六五
︶
フランス民法であり︑明治
民法に継受された︒規定の本来の趣旨は︑相続人間の公乎を保証することにある︒規定の制定経緯をみても︑公平化
理念が貫かれている︒ところが︑明治民法が施行されてまもなくして︑同規定をまった<逆利用した不動産登記によ
る単独相続手段としての使用が公認された︒これは︑家督相続が原則であった当時の意識を背景に︑法的根拠として
は︑遺産分割協議の代用手段というものであった︒しかし︑登記先例等によって第二次大戦後もますます利用される
﹁相
続分
不存
在証
明書
﹂に
関す
る裁
判例
の研
究
となったとき争いの種となる︒
三
つ
られるおそれが多分にある︒次男には長男から金を出
にしたがって︑弊害が目立つようになってきた︒裁判例は︑虚偽内容をもった証明書の作成名義人が単独相続を許す 意思をもっているか否かで︑この証明書の効力を判断しているといえよう︒そして︑肯定する場合には︑名義作成人 による相続持分の贈与︑放棄︑あるいは遺産分割協議の成立などを法的根拠とする︒しかし︑虚偽の相続分不存在証 明書をもちいて登記された不動産を購入した第三者の保護をどうするかなどの問題がある︒筆者は︑証明書を用いて の単独相続登記が濫用にわたらないよう︑たとえば︑内容が虚偽であっても︑外国に移住した者による相続放棄手段 としてのみ︑あるいは証明書作成名義人の意思確認を要求するなど︑もう少し絞りをかけるべきだと思う︒
一三
九頁
以下
︒
( 1 )
幾代通﹃不動産登記法︵新版︶﹄︵昭四六︶ーニ0
頁参
照︒
( 2 )
家裁月報一八巻一号︵昭四一︶一三七頁以下︒
( 3 )
太田武男﹁いわゆる﹃特別受益証明書﹄について﹂民事研修三三一号︵昭五九︶一四頁以下︑後に﹃家族法の歴史と展望﹄︵昭六一︶二八七頁以下に所収︒中野英孝﹁民法第九
0 ‑
︱一条第二項のいわゆる﹃相続分なき証明﹄による協議の遣産分
割について﹂書協論集家事・少年編︵昭五四︶一0八頁以下︒糟谷忠男﹁相続放棄の類似手続﹂判タニ五0
号︵
昭四
五︶
一
六三頁以下︒南方暁﹁虚偽の﹃相続分なきことの証明書﹄の効力﹂家族法判例百選︵第一︳一版︶︵昭五五︶一七七頁以下︒大野謙治﹁相続分なき旨の証明書について﹂民事研修︱二二号︵昭四二︶三七頁以下︒幾代通﹁不動産相続登記の実態﹂東北
法学二八巻1一号︵昭三九︶一頁以下︒石田喜久夫﹁事実上の相続放棄﹂家族法体系頂相続③︵昭三五︶一四六頁︒右近健男﹁事実上の相続放棄﹂現代家族法体系5
相続
I I
︵昭五四︶一七七頁以下︒有地亨﹃谷口編・注釈民法箇相続③﹄︵昭四五︶二0三頁以下︒川井健﹁相続分の算定﹂新民法演習5
︵昭
四一
︱‑
)二
0二頁︒谷口知平﹁遺産の分割﹂新民法演習5
︵ 昭 四 一
︱ ‑ ︶
二三
四頁
︒
( 4 )
千藤洋三﹁無相続分証明書の有効性が否定された事例﹂法律時報五三巻三号︵昭五六︶
民 法 上 の 根 拠
関法第三六巻第三・四•五号
ーニ
四
︵五
六六
︶
﹁相
続分
不存
在証
明書
﹂に
関す
る裁
判例
の研
究
あるが︑今は明らかにしえない︒ わが民法上︑特別受益とは︑共同相続人の一人もしくは数人が︑被相続人から︑遺贈を受け︑または婚姻︑養子
縁組のため︑もしくは生計の資本として贈与を受けることをいう︒相続人の間での衡平をはかるために︑特別受益を
得た相続人が︑贈与もしくは遺贈を相続分算定にあたって相続財産全体の中に加えることを︑持戻しとよぶ︒ただし︑
遺贈は︑すでに被相続人が相続開始時に有した財産の価額に最初から加えられているので︑相続分の算定にあたって
現民法九0三条及び九0四条は︑明治民法︵明治一︱︱︱年七月施行︶の一00
七条
及び
一
00八条を第二次大戦後の
新しい家族法の理念に合うように︑たとえば分家等の文言を削除したり片仮名書きを平仮名書きに改めるなどの修正
(2 )
を施しただけで︑その内容に大きな変更はない︒
なお︑明治民法より前の明治二三年に公布されていた旧民法︵いわゆるポアソナード民法︶では︑特別受益の持戻
し規定は設けられていなかった︒なぜ︑これらの規定が旧民法に明規されなかったのかは︑興味のひかれるところで 改めて計算に入れられるわけではない︒
(1)
第九
0 1 1
一条のいわゆる﹁特別受益の持戻し﹂規定である︒この規定は︑わが国において︑本来は相続人の間に衡平を
(1 )
はかるために設けられた︒しかし︑今日では︑単独相続の手段として用いられているわけである︒もともと︑この規
定の制定時に︑こうした使われ方としての発想があったのか否かを検討することにしたい︒ついで︑
証明書﹂による相続登記を認めてきた登記実務の経緯に言及したい︒
民法九0三条の立法経緯
本章
では
︑
ーニ
五
︵五
六七
︶
﹁相続分不存在証明書﹂の効力に関する法的根拠を論じることにする︒制定法上の直接の根拠は︑民法
﹁相続分不存在
に困難となることがあるなど︑ こ ︒t
その
ため
に︑
以下のような説明を行っている︒第一の立法例は︑フランス民法典をはじめとするもので︑ を表示しなくても法律が推測して︑相続分の遺贈物であろうということを推測して定める方法︑第三の立法例は︑
﹁ 最
オランダ、イタリア、イギリス、ドイツ第一草案•第二草案•第三草案、インドなど各国の諸立法を詳細に検討し参
照している︒明治二九年九月二三日に開催された第一八八回法典調査会議において︑穂積陳重起草委員が︑第一 00
九条︵明治民法一00七条・現行民法九0三条︶の提案の趣旨説明において︑遺贈物の返還に関する各国の立法を以
(4 )
下のように分類している︒なお︑明治民法第一00八条︵現行民法九0四条︶の提案の趣旨説明は︑法典調査会の民
(5 )
法議事速記録には見当たらない︒
第一の立法例は︑絶対返還主義で︑被相続人がその生前に於いて贈与したものは悉く返させて︑後に相続分を定め
るにあたってそれを返したものと︑それから被相続人が残したものとを合わせて相続分を定めるという主義︑第二の
立法例は︑被相続人の意思がある場合にだけ遣贈物を返還させる主義で︑これには二種類あり︑その︱つは被相続人
が明らかに相続分の遺贈物であるということを示した場合にのみこれを返させる方法と︑今︱つは明らかにその意思
ま
これらのうち︑穂積陳重起草委員は︑わが国の立法として︑第二のうちの二番目の方法を採用するという提案をし
モ公平且ツ平等卜云フコトヲ極端二実行シャウト云ウ考ヘカラ出マシタ﹂のである︒しかし︑このやり方は︑議論の
表では公平を得ているようであるが︑実際にあたってみると︑長い間財産が不確定となり︑返還に際して証拠が非常
紛擾を惹起し︑且つ﹁本邦二今迄サウ云ウ例ガナイ一人相続ノ制ヲ主トシテ居ル所 った<遺贈物の返還を認めないものである︒ ところで︑明治民法の制定時に︑法典調査委員会は︑フランス民法の持戻し規定をはじめとし︑ 関法第三六巻第三・四•五号
ご一
六
ォー
スト
リア
︑
︵五
六八
︶
︱二 七
︵五
六九
︶
(6 )
デハナイコトデアリマスカラ悉ク返還サセルト云ウ原則ハ本案デハ採用シマセヌ﹂︒第二の立法例のうち︑
法は︑起草委員の方でも採用するか否かを考えたが︑結局採用しないことにした︒その理由は︑例えば分家の際に相
続分の代わりに分家に資本を与えるのだという意思を明示してやる場合は甚だ少ない︒そうすると︑条文を設けても
役に立たず︑却って言わなかったがために︑其の人が独立でやるという心であったというように︑被相続人の意思に
反するようなことになる危険がある︒明示をしなかったときは︑分家をした者が二重取りをするようなことが起こっ
て不公平となる︒第三の立法例は︑印度の相続法などにみられるが︑本案では︑平分主義を採った以上︑この主義も
採らない︒結局︑種々の面俄を避けるように致して︑なるべく狭い範囲において︑かつ被相続人の意思に叶い︑他の
共同相続人のために迷惑にならないという範囲に於いて︑狭くこれを認める方が善くはないか︑というので黙示の意
(7 )
思を法律が推測して極く狭い範囲内に於いてこれを遺贈と看倣すという方の主義を採ったのである︑と︒
こうした法案提出の趣旨説明の後で行われた起草委員と出席委員との間の議論においても︑特にこの規定が単独相
続に用いられる可能性を示唆するような発言は︑どこにもみられない︒いずれにしても︑立法趣旨は︑明らかに共同
相続人の間での衡平の確保であったことは確かであろう︵なお︑法典調査会議事速記録の厳松堂版によれば︑相続人
が被相続人よりすでに遺贈又は贈与を受けたにもかかわらず︑遺産の分割に付き︑共同相続人と同等の法定相続分を
﹁分
割ノ
公乎
ヲ失
シ︑
受け
るの
は︑
( 8 )
ある︒しかし︑この発言は︑商事法務研究会版では見当たらない︶︒ 且ツ被相続人ノ意思二適セザルコト多カルベシ﹂と起草委員は述べていたようで
このように︑現行民法の九
0 1 ︱
一条
・九
0四条の源流であるフランス民法︑並びに明治民法は︑相続人の間での衡
平化のために当該規定を設けたことが明らかである︒しかしながら︑これらの規定が後にみるように︑単独相続の手
﹁相
続分
不存
在証
明書
﹂に
関す
る裁
判例
の研
究
最初の方
︵五
七0
)
戸主以外の家族が有する財産権の承継である遺産相続の二本立てとなっていた︒このうち︑家督相続が主であって︑
しかも長男である子が単独相続をするのが原則となっていた︒要するに︑わが国では︑伝統的に︑相続財産を均等に
分割する相続形態は稀であり︑単独相続が支配的であった︒いいかえれば︑明治民法の特別受益持戻し規定は︑その
本来の使命を果たすことなく︑現行の規定に受け継がれている︒勿論︑今日においては︑家制度の廃止や国民の権利
意識の変化等により︑特別受益の持戻し規定は︑その理念通りの機能を果たしており︑当該規定を適用した裁判例は︑
(9 )
枚挙に遣がない︒しかし︑なお単独相続の意識は︑国民の間に根強く残っており︑とりわけ農業家族においては︑耕
( 10 )
地の分割を防止するための農業資産相続特例法が制定されなかったこともあって︑相続財産の不分割意識は強い︒こ
うした背景のもとに︑特別受益の持戻し規定が︑財産の不分割のために︑利用されることになるのである︒
明治民法起草委員の一人でもある梅博士が明らかにしているように︑被相続人が婚姻︑養子縁組︑分家︑廃絶家再
典のため︑もしくは生計の資本として推定相続人に贈与を行ったときは︑あらかじめ相続分を分与したとみるべき場
( 11 )
合が多い︒そして︑贈与又は遺贈の価額が相続分の価額に等しいときには︑その相続人は一切相続財産の分配に与か
れない︒また︑贈与又は遺贈の価額が相続分の価額を超えるときは︑他の相続人の遺留分を侵害しない以上︑その相
( 12 )
続人は単に相続財産の分配に与かることができないだけである︒
結局︑特別受益という形で相続分にみあう財産があらかじめ渡されたのだから︑それで決済が終わったという発想
が︑この特別受益の持戻し規定の解釈に大きな影響を及ぼしたといえよう︒ 周知のことであるが︑明治民法の相続法体系は︑戸主権と戸主に属する財産権の双方の承継である家督相続と︑ 段として用いられるようになったのは︑何故だろうか︒ 関法第三六巻第三・四•五号
︱二 八
﹁相続分不存在証明書﹂に関する裁判例の研究
ーニ
九
︵五
七一
︶
( 1 )
千藤洋三﹃フランス相続法の研究1
特別受益・遺贈ー﹄︵昭五八︶八頁以下参照︒
( 2 )
我妻栄﹃改正親族・相続法解説﹄︵昭二四︶一八四頁︒戦後の家族法改正の際に︑衆議院で奥野政府委員は︑﹁この九百 三条と申しますのは︑現行法の千七条をほとんどそのままといたしたのであります︒ただ現行法の千七条の中には︑分家︑
廃絶家再興のために贈与を受けたものもはいることになっておりますが︑今後分家とか廃絶家再興というようなことがなく なるわけでありますから︑その部分を削っただけで︑大体千七条をそのまま承継踏襲したわけであります﹂と発言している
︵高窪喜八郎他編﹃学説判例総覧民法相続編山﹄︵昭三五︶六
0
一頁
以下
参照
︒
( 3 )
﹃日本近代立法資料叢書7
法典調査会民法議事速記録七﹄︵昭五九・商事法務研究会︶五六六頁以下︒
( 4 )
註
(3
)前掲書五六六頁以下参照︒
( 5 )
明治三一年発行の﹃民法修正案参考書親族編相続編﹄は︑第千八条について︑﹁本條ハ前條第一項ヲ適用スルニ常リ贈与 ノ価格ヲ定ムル標準ヲ示ッタルモノニシテ若シ本條ノ如ク之ヲ定メスンハ不公乎ノ結果ヲ生スヘキハ特二説明ヲ要セサルナ
リ﹂
とい
う︵
同書
一︱
1 0 八
頁以
下︶
︒
( 6 )
穂積陳重起草委員発言・註
( 3
前掲書五六七頁下段︒なお︑梅謙次郎起草委員は︑﹁外国二於テハ一旦其財産ヲ返還セシ)
メテ然ル後其相続分ヲ定ムルノ例ナキニ非スト雖モ是レ徒二煩雑ヲ加フルノミナラス若シ之ヲ以テ第三者二対抗スルコトヲ 得ルモノト七ハ為メニ取引ノ安全ヲ妨ヶ其不便言フヘカラサルカ故二本条二於テハ単二其贈与又ハ遺贈ノ価格ヲ相続分中ニ 算入スヘキモノトセリ﹂と述べる︵梅﹃民法要義巻之五相続編﹄︵昭五九・大正
1一年版復刻︶︱二四頁︒ここでは︑むし
ろ取引の安全という点が強調されている︒
( 7 )
註
(3
前掲書五六八頁上段︒)
( 8 )
有地亨﹃谷口知乎編注釈民法箇相続③﹄︵昭和四五︶一七二頁参照︒
( 9 )
例えば︑大阪家審昭六一・一・︱︱
‑ 0 家裁月報三八巻六号二八頁︑最判昭五一・三・一八民集︱︱
‑ 0 巻二号一︱一頁など︒
( 1 0 )
中尾英俊﹁農業資産特例法案批判﹂﹃中川善之助他編相続家族問題と家族法
V I ﹄︵昭四九︶ニ︱五頁以下が農業資産特
例法案について詳しい︒
(11)梅•前掲書―二六頁。
(12)梅•前掲書―二四頁以下。
あったかは︑ここからでは明らかにしえない︒ ②
相続分不存在証明書による相続登記は︑何時の頃から︑またどういう理由で行われるようになってきたのかを明
らかにすることがここでの問題点である︒明治三一年七月の明治民法施行後︑ほぼ一0年を経た①明治四四年一0月
︱ ︱ 1 0
日に民刑九0四号民刑局長回答が行われている︒これは︑明治四四年一0月六日付徳島地方裁判所長の照会に答
えたものであった︒この問合わせは二項目に亘るものであったが︑後項がこの問題を扱っており︑次のような極めて興
(1 )
味が惹かれる内容であった︵句読点︑
甲者一人ヵ不動産全部ノ遺産相続登記ヲ申請スルトキハ︑従来日乙者力非訟事件手続法第百四條第百五條︵現行家事
審判法第九条甲類二九号︶二依リ遺産相続ノ握棄ヲ為シタル證明ァルトキ︑⇔乙者ヵ民法第千七條︵現行第九
0 1 ︱ 一 条 ︶
ノ遺贈又ハ贈典ヲ受ケ相続分ヲ有セサル旨ノ開示アル場合二限リ甲者一人二遺産相続ノ登記ヲ許シ来リクル虞︑前項
論者ノ説ヲ是認スルトキハ︑乙者力自分ハ遺産中ノ動産ヲ以テ配営ヲ受ヶ不動産ハ全部甲者二分配シクル旨開示シタ
ルト
キモ
︑
一三
〇
︵五
七二
︶
﹁甲乙二人ノ共同遺産相続人中︑
甲者一人ノクメ不動産全部ノ遺産相続ノ登記ヲ為シ差支=ナキヵ如ク思考セラル如何二候哉﹂︒
する民刑局長の回答は﹁前項ニテ了知アリタシ﹂というものであった︒照会にみられる﹁相続分ヲ有セサル旨ノ開示
アル場合﹂の方法が今日の相続分不存在証明書による相続登記であることは明らかであろう︒つまり︑この明治四四
年の時点で既に︑特別受益の持戻し規定を根拠とした単独相続登記が行われていたことになる︒それが何時のことで
その後︑R昭和八年︱一月ニ︱日民甲一︑三一四号民事局長回答で改めて公認された︒ここでも︑昭和八年一︱
月四日前橋地方裁判所長の﹁登記事務取扱二関スル件﹂の問い合わせに答えたものであった︒貴重な意見・指摘がみ
並び
に傍
点は
︑
筆者による︒以下同じ︶︒ 登記先例 関法第三六巻2第三・四•五号
これに対
︵回
答︶
﹁相
続分
不存
在証
明書
﹂に
関す
る裁
判例
の研
究
ノ次第モアレハナリトノ説︒
本問ノ場合二於テモ尚民法第千十七條︵現行第九一五条︶ノ規定二依リ遺産相続拠棄ノ申述ヲ必要トシ︑裁判 所二相続掬棄ノ申述ヲ為シタルコトヲ認ムヘキ書面ヲ添付七シムルヲ相嘗トス︒蓋シ登記官吏ハ果シテ相続分二超 過スル贈与ヲ受ヶクリヤ否ノ賓体的事賞ヲ審査スルノ権限ナク︑而モ日ノ如キ取扱ヲ認ムルニ於テハ賓際上名ヲ受 贈二籍リ遺産相続ノ掬棄申述ヲ為サス︑登録税ノ逍税ヲ圏ルノ弊ヲ生スル虞アルノミナラス︑遺産相続掬棄ノ場合 ノ登記手績二関スル大正六年五月三十日福井謳裁判所監督判事問合同年六月十八日民第一︑
0五五琥法務局長回答
トノ両説有之且本件ノ場合二関スル適切ナル先例見嘗ラス︒差掛リタル事件モ有之此ノ際︑管内ノ取扱ヲ一定致度候
ニ付
︑
至急何分ノ御指示相煩度此段及禦伺候也︒
本月
四日
附第
五‑
︱1 0
八琥問合ノ件ハ︑第一説ヲ相嘗卜思考致候此段及回答候也﹂︒ ⇔ 申請アリタルトキハ︑之ヲ受理スルヲ相嘗トストノ説︒
(2 )
られるので︑少し長きに亘るがここに掲記してみたい︵旧漢字の一部は新漢字に改めている︶︒
﹁共同遺産相続人中ノ或ル者力婚姻︑養子縁組等ノクメ若ハ生計ノ資本トシテ相続分ノ債格ヲ超過スル財産ノ贈与 ヲ受ヶタルニ因リ︑他ノ遺産相続人ノミニテ遺産相続登記ノ申請ヲ為ス場合二関シ 既二被相続人ノ生前相続分二超過スル贈与ヲ受ヶタル相続人ハ︑民法第千七條︵現行第九
0三条︶第二項ノ規
定二依リ相続分ヲ受クルコトヲ得ス︑而モ民法第千七條︵現行第九
0 1 ︱一条︶第二項ノ規定ハ所謂相続ノ掬棄二該嘗
セサルヲ以テ同法第千十七條︵現行第九一五条︶ヲ適用スヘキ限二非ス︒故二本問ノ場合二於テハ︑単二受贈者カ
相続分二超過スル財産ノ贈与ヲ受ケ其ノ相続分ナキ事実ヲ証スル書面ヲ添付シ他ノ遺産相続人ョリ其ノ相続登記ノ
H
三
︵五
七三
︶
この問い合わせから︑多くのことが明らかとなる︒相続分不存在証明書の利用を肯定する側の説は︑被相続人の生
前に相続分を超える贈与を受けた相続人は︑特別受益の持戻し規定により相続分を受けることができず︑しかもこの
規定は相続の放棄に該当しないから︑相続放棄期間に関する規定の適用もない︑
用手続として濫用される危険性が指摘されている点が注目される︒
三
︵五
七四
︶
という︒これに対して︑反対説は︑
具体的事案について︑登記官吏には実体的審査権がないから︑相続人は︑相続放棄の申述を行うべきである︑゜という
そして︑ここではすでに︑もしも肯定説のような取り扱いを認めると︑登録税を免れること︑あるいは相続放棄の代
相続分不存在証明書を利用した登記をめぐる問題点については︑昭和八年の回答が行われて以後も︑何度かに亘
(3 )
って照会と回答がなされている︒③昭和︱︱︱︱一年︱二月一八日民事甲第九五号民事局長回答は︑徳島司法事務局長の照
会に答えたものである︒すなわち︑親権者である母と数人の未成年者が共同相続人となっている場合︑母が相続人中
の一人である甲に或る不動産の所有権全部を取得させようとして︑他の子供たちと自己の相続分について相続分不存
在証明書を作成し︑所有権移転登記申請があった場合︑これの受理に際して︑特別代理人の選任を要するのか否か︑
という照会に︑特別代理人の選任を要しないものと考える︑と回答した︒④昭和二八年八月一日民事甲第一︑三四八
(4 )
号民事局長回答は︑前記②昭和八年の回答がいまだ維持されているものか否かという前橋地方法務局長の照会に︑維
持されていると答えたものである︒わざわざこのような照会を行わなければならなかったことは︑法務局においても
問題の多い方法であることを十分認識していたことを物語るといえよう︒
(5 )
⑤昭和三0
年四月︱︱︱︱一日民事甲第七四二号民事局長通達は︑相続分不存在証明書の濫用の危険性に多少とも歯止め
をかけた点で非常に大きい意味をもったものであった︒高知地方法務局長の二点に関する照会のうちの一 関法第一ー一六巻第三・四•五号
つ で あ る
﹁相
続分
不在
存証
明書
﹂に
関す
る裁
判例
の研
究
い旨の証明を添付して︑その者を除いて相続登記することも考えられるのです﹂︒
しか
し︑
﹁共同相続人甲︑乙のところ︑乙が民法第九百三条第二項により相続分がない旨の証明書を添付して︑甲より相続に
よる所有権移転登記の申請があった場合に︑乙の印鑑証明書の提出を要しますか﹂という照会に対して︑
﹁積
極に
解
すべきものと考える﹂と回答し︑通達とされたのであった︒なお︑他の一っの照会は︑遺産分割協議書を添付しての
所有権移転登記申請に︑遺産分割協議者の印鑑証明書の提出を要するのか︑というもので︑これも要件とされ︑もし
(6 )
も印鑑証朋書の提出がなければ︑不動産登記法第四十九条第八号により却下の原因になると解された︒それまでの取
り扱いを変更した理由については︑不動産登記に関する我妻教授他による座談会のなかで︑法務省民事局の津島一雄
氏が以下のような説明を行っている︒つまり︑印鑑証明が不要とされてきたのは︑遺産分割の場合と異なり︑当初か
ら相続分がない者を潜在的な登記義務者という関係に立つと解することには無理があるので︑印鑑証明の添付を要件
としている不動産登記法施行細則第四二条︵﹁所有権ノ登記名義人ガ登記義務者トシテ登記ヲ申請スルトキハ其住所地
ノ市町村長又^区長ノ作成シクル印鑑ノ証明書ヲ提出スベシ﹂と明規している︶が働かないとされていたからである︒
﹁実際には相続分のある者が︑不当にも本人に不知の間に特別受益者とされてしまい︑相続回復請求という
事態になることも考えられますし︑それから︑たとえば︑ある不動産について共同相続人全員が共同相続の登記を完
了し︑それから少したって今度別の不動産については︑共同相続人の一人が︑九
0 ‑ ︱一条二項の規定による相続分のな
そこ
で︑
`
﹁ 九 0三条二項の場合における相続分の無いことの証明は︑ある意味において相続を一部分変更するというようなことになる関係上︑その関
係を証するに足りるものと登記官吏において︑形式上確認し得るものでなければならない︒そのためにも︑証明書の
ほかに︑さらに証明書に捺された印と合致した印鑑証明の提出が望ましいという意見が登記官吏の間にもさかんにな
︵五
七五
︶
益な登記をされる当事者の真意を確認するに過ぎない︒ って︑実務上も特別受益者の印鑑証明書の添付を求めて扱っているのが現状です﹂︒
一三
四
﹁印
鑑
なお︑座談会のなかで明らかにされたことだが︑登記官には形式的審査権しかないために︑印鑑証明書の添付は︑
たとえば︑ある不動産については共同相続の登記が完了し︑その後︑他の不動産について相続分不存在証明書による
相続登記がなされる︑といった論理的矛盾をきたす問題のあるケースを防ぐために役にたつものではなく︑ただ不利
いずれにせよ︑相続分不存在証明書を用いての相続登記に際して︑印鑑証明書の添付が要件として課されたことは︑
相続分不存在証明書の濫用に多少なりとも歯止めをかけようとするものであった︒ところが︑昭和︱︱
‑ 0 年代以降︑この
証明書を用いた登記が︑とりわけ大阪から広がりをみせはじめ︑全国的に普及した︒家庭裁判所における相続放棄申
述受理事件件数の減少化傾向は︑この制度の普及によるものであるとさえいわれている︒とくに︑司法書士業務の一
つとして︑司法書士がこの制度の促進に力を入れもののようである︒
(9 )
⑥昭和三五年七月一八日法曹会決議は︑
﹁民
法第
九0 1
︱一条の規定により他の相続人に具体的相続分がないとして相
続人一人だけから相続登記の申請があった場合︑登記官吏は︑登記申請書および添付書面を審査し︑書類上他の相続人
の相続分のないことが認められる以上︑
たと
え︑
たまたま各相続人間に遺産分割協議書が作成されていることを知っ
ているとしても︑当該登記申請の受理を拒むことはできない﹂というものであった︒⑦昭和四0年八月五日民事甲第
( 10 )
一︑九六六号民事局長回答は︑秋田地方法務局長照会に答えたもので︑照会は次のようなものであった︒米国人と結
婚し同国のノースカロライナ州に居住する日本国籍を有する相続人が相続分不存在証明書を提出したときは︑
証明書を添付させるか又はこれにかえ﹃本人の署名拇印であることを証明する﹄旨の在外日本国総領事が証明した書 関法第三六巻第一―-•四・五号
︵五
七六
︶
﹁相
続分
不存
在証
明書
﹂に
関す
る裁
判例
の研
究
面を添付させて当該登記申請を受理するのが相当と考えますところ︑今回別紙﹃相続放棄について﹄
﹃居住証明﹄の
とおりアメリカ合衆国公証人が作成した書面を添付して前記登記の申請がありましたのでこれを受理すべきでないも のと思考しますが反対意見もあって受否を決しかねますから何分の御指示を賜りたくお伺いいたします﹂︒
﹁受理してさしつかえないものと考える﹂というものであった︒⑧昭和四
0年九月ニ︱日民事甲第二︑
( 11 )
八ニ︱号民事局長電報回答は︑
﹁相続人たる満十七歳の未成年者が自ら作成した同法第九百三条第二項の証明書を添 付して相続登記の申請があった場合受理すべきでしょうか︒当該未成年者は︵その年齢からみて︶自己の法定相続分 を認識し得る能力を有するかどうか疑問ですので﹂という秋田地方法務局長の照会に対するもので︑
﹁印鑑証明書の
添付があれば受理してさしつかえない﹂というものであった︒同様に︑⑨昭和四二年︱二月
1一七日民事甲第三︑七一
( 12 )
五号民事局長回答は︑福岡法務局長の照会︑すなわち﹁児童福祉施設の長が︑児童福祉法第四十七条の規定により︑
入所中の未成年者︵児童︶のため︑次の行為をなし︑これに基づいて登記の申請があったときは︑受理してさしつか
えないものと考えますが︑
いささか疑義がありますので︑何分のご指示を賜わりたく︑お伺いします︒
二︑民法第九0
三条第二項の規定による相続分なきことの証明書の作成
﹁貴見のとおりと考える﹂とした︒ 一︑他の共同
︱︱
‑︑
未成
年
( 13 )
最後に︑⑩昭和四六年︱一月二日民事三発第三
0 1 ︱一号民事局第三課長依命回答は︑外務大臣官房領事移住部領事課
長照会に答えたものであった︒在シカゴ総領事から︑
がで
きず
︑
日本国籍を喪失した在米中の相続人が︑本人の日本語による署 名の関係書類に現地公証人の公証を受けたうえで︑日本の登記所に提出するに際して︑公証人が原文書を解すること
日本語の署名では本人が自署したか否か確認できないとして︑公証を拒否されるケースが多々あるという
者の持分の放棄﹂に対して︑ 相続人全員との遺産分割協議 す
る回
答は
︑
一 ︳ ︱
‑ 五
︵五
七七
︶
Jれ に 対
相続分不存在証明書を使用することが公認された背景には何があったと考えるべきであろうか︒家督相続が主流であ
った当時においては︑遺産相続についても︑単独相続が行われることに対する抵抗感は少なかったのであろう︒また︑
今日にみられるように︑遺産相続一本となって︑この証明書が濫用されるようになることは十分予測されなかったよ
うに思われる︒それよりも︑相続された不動産が死者である被相続人名義のままであり続けるよりも︑不動産登記を
実体に合わすことの方が法務局にとっても︑受け入れられる余地が大きかったのであろう︒さらに︑⑩の回答例から
四
この
よう
に︑
相続登記申請に際して︑
一例
証と
いえ
よう
︒
のでよいか︵貴見のとおり︶︒
四 ︑
る必要があるか︵前項により了知されたい︶︒一︑右記相続分不存在の証明書の原文書は︑外国語により作成したも
二 ︑
相違ない旨の公証人の証明を要する︶︒署名本人が当該相続における相続人本人と同一人であることの公
に掲
載す
る︶
︒
﹁ 一 ︑
実情を報告し︑次のように問い合わせてきたものである︵なお︑ここでは読者に理解しやすいよう回答を各項目の後
民法第九百三条の規定に基づく相続分不存在の証明書に行なう本人署名は︑
来本人が日常使用している外国文字の署名でさしつかえないか︵回答
この
場合
︑
証された宣誓書をも添付させる必要があると考えるが如何︵消極に解する︶︒
字による署名とを併記したものでも︑さしつかえないか︵貴見のとおり︶︒ 本人の日常使用する署名と日本文
この
場合
も︑
右記の如き宜誓書を添付す
不動産の所有権移転登記の嘱託承諾書についても同様と考えてよいか︵前各項に
より了知されたい︶﹂︒この⑩昭和四六年回答のケースは︑外国居住者に相続放棄申述を日本の家庭裁判所で行わせる
ことが不可能に近いことを見せつけているような事例である︒相続分不存在証明書の活用をまった<否定しきれない
相続放棄申述の潜脱の危険性等が常に指摘されてきたにもかかわらず︑ 関法第三六巻三・四•五号
一三
六
︵五
七八
日本文字でなく従 ︶
貴見のとおり︒但し︑当該署名本人のものに
こま
︑
, .I .
︐
も分かるように︑外国在住の相続人が相続関係から離脱するためには︑この証明書は不可欠といえる︒しかし︑これ まで明らかにしてきたことから判断して︑相続分不存在証明書による相続登記を認める必然性といったものは存在し
ない
︑ といっても過言ではない︒筆者は︑この制度の存在を全面的に否定するものではないが︑安易な利用のされ方 一定の歯止めをかける必要があるように思う︒次章で裁判例を紹介し︑その方法を探ることにしたい︒
( 1 )
法務省民事局﹃登記関係先例集追加編I﹄︵昭三二︶五一頁以下︒
( 2 )
法務省民事局﹃登記関係先例集上﹄︵昭一︱
1 0 )
六0
1 ︱
一頁
以下
︒
( 3 )
法務省民事局﹃登記関係先例集上﹄︵昭一︱
1 0 )
八八
九頁
︒
( 4 )
法務省民事局﹃登記関係先例集下﹄︵昭三
0) 1 1 0
四七
頁以
下︒
( 5 )
法務省民事局﹃登記関係先例集追加編I﹄︵昭三
11 )
1︱
︱︱
‑︳
五頁
以下
︒
( 6 )
本文の通達に従って︑昭和三二年四月一九日民事財産法調査委員会は︑印鑑証明書の提出のないケースにおいて︑却下す
べきであると決議している︒なお︑同決議は︑﹁申請人以外の共同相続人の印鑑証明書を提出する趣旨は︑不動産登記法施
行細則第四二条の規定によるのではなく︑不動産登記法第四一条の規定による相続を証する書面の一部としての遣産分割協
議書または相続分のないことの証明書の真正なることを担保するためである﹂という︵法曹時報九巻六号︵昭三二︶八ニニ
頁 ︶ ︒
( 7 )
我妻栄他﹃不動産の登記不動産セミナー②﹄︵昭三二︶二六頁︑三八七頁︒(8)太田・前掲書二八九頁、及び二九0頁註(5)参照。糟谷•前掲論文一六四頁参照。
( 9 )
岡垣学﹃先例判例相続法﹄︵昭五三増補版︶一六五頁︒
( 1 0 )
法務省民事局﹃登記関係先例集追加編
w
﹄︵昭四四︶四八二頁以下︒( 1 1 )
法務省民事局﹃登記関係先例集追加編
w
﹄︵昭四四︶五五一頁︒( 1 2 )
法務省民事局﹃登記関係先例集追加編
w
﹄︵
昭四
四︶
︱︱
1 1 一
九頁
︒
( 1 3 )
法務省民事局﹃登記関係先例集追加編>﹄︵昭五一︶五四三頁︒
﹁相続分不存在証明書﹂に関する裁判例の研究
一三
七
︵五
七九
︶
申を行い︑それに回答したものであった︒
また
︑
かりに法務省側で前記通知を出すこと 上申の内容は︑最高裁家庭局から法務省当局に対し︑
﹁﹃
前記
の民
事局
長
①相続分不存在証明書を用いた相続登記の可否 学説の紹介は︑部分的なものに留まらざるをえない︒
(1 )
﹁相続分不存在証明書﹂の効力をめぐって争いとなった一七の裁判例︑並びに学説を紹介しつつ︑問題
点ごとに個別的に検討を加えることにしたい︒ただ︑学説は︑これまでこの問題を本格的に取り上げることがなく︑
せいぜい判例解説や批評︑あるいは相続放棄などの他の論稿の一部において扱ってきたにすぎなかった︒したがって︑
前章の登記先例の経緯で見てきたことから明らかなように︑相続分不存在証明書を用いた相続登記は古くから認め
られてきた︒しかし︑この証明書は︑正規の手続きである相続放棄申述受理証明書の取得や遺産分割協議書の作成を
潜脱する手段となりうる恐れ等が強いことも古くから指摘されてきたところである︒そこで︑このような相続分不存
在証明書による相続登記が︑そもそも許されるのか否かについて︑否定と肯定の考え方が出されうる︒まず否定説で
あるが︑最高裁判所家庭局の見解がこれに該るといえよう︒これは︑昭和四0年奈良家庭裁判所長が最高裁判所に上
回答︵前述②ー筆者註︶は︑旧憲法時代の相当古いもので現在の実情と合わないばかりでなく︑正式分割協議書を作
成した場合のほか︑各相続人間に相続財産および贈与を受けた財産の価格について協議が整い特定の相続人が相続分
を受けることがない旨書面上明らかな場面にのみ申請を受理することとし︑前記回答の乱用にわたらないよう留意さ
れたい︒﹄旨管下登記官吏に通知するようご折衝願いたいと存じます︒
本章
では
︑
﹁相続分不存在証明書﹂をめぐる裁判例
関法第三六巻第三•四・五号
一三
八
︵五
八0
)