• 検索結果がありません。

グローバル化する食文化と ローカリティの変容

N/A
N/A
Protected

Academic year: 2021

シェア "グローバル化する食文化と ローカリティの変容"

Copied!
3
0
0

読み込み中.... (全文を見る)

全文

(1)

グローバル化する食文化と ローカリティの変容

長崎大学多文化社会学部

滝澤 克彦

特集の趣旨

本特集は、 年 月 日に開催された多文化社会学研究会第 回研究会 シンポジウム「グローバル化する食文化とローカリティの変容」に基づいて いる。

グローバル化の問題は、これまで「民族」や「言語」、「宗教」などといっ た様々な題材をもとに考察されてきたが、本シンポジウムでは「食」をとり あげている。「食」は、人の身体に直接的に作用する物質的側面を有しつつ、

一方で民族的アイデンティティや宗教的タブーなどの観念的側面にも深く関 わっている。そのような「食」に焦点を当てることで、グローバル化という 抽象的な問題を、より身近なところから捉えなおしてみよう、というのが本 シンポジウムのもくろみであった。

本来、食文化というのはその社会をとりまく自然環境と切っても切れない 関係にあった。人類は、世界にひろがっていく過程で、動物や植物を自ら持 ち込み、移動先の自然に手を加えながら、一方で自らもその環境に適応しつ つ、環境とのあいだに共依存関係を築き上げてきた。ローカルな「味覚」の 文化は、そのような適応の過程で形成されてきたと考えられる。さらに、「食」

は、人と自然を直接的に結びつける物質的媒体であるばかりでなく、共食や 交換を通して人と人とを結びつける社会的媒体ともなってきた。「食」は、

まさにローカルな社会あるいは文化の極めて重要な物質的基盤であったと言

(2)

える。

例えば、日本でも、照葉樹林の植生をたどって大陸から農耕技術が持ち込 まれたとき、その技術は取捨選択されながら、日本の自然環境に合わせて適 応されてきた。そのなかで、例えば、モチのような料理が特別な「ごちそう」

として人びとに独特の味覚をもたらし、さらに正月行事などと結びついて儀 礼的にも重要な意味をもつようになった。このように、食文化はローカルな 文脈に深く埋め込まれており、そこで重要な社会的意味をもっていた。

しかし、グローバル化は、食文化に大きな変化をもたらしてきた。一つは、

味覚の劇的な変化である。食材の流通拡大は在来の食文化を多様化させたが、

それは「味覚」という人の身体の一部を劇的に変えてしまったのである。ま た、加速するグローバル化は、異なる食文化を身近なものにし、多様な食文 化が混在する状況を各地に生み出している。そのようななか、次々と新しい

「食文化」が生み出され、それがまた人々のアイデンティティの根拠となっ ている。例えば、新たに創出された「郷土食」が地域のアイデンティティの 土台となり、その味が彼らにとってなじみ深いものであるようなある種の「錯 覚」を生み出していることもある。

一方で、食文化のグローバル化や多様化は、「食」自体の社会的意義も変 化させてきた。それは、もはやローカルな文脈において人と自然、人と人を 結びつけるだけのものではない。食材流通のグローバルなネットワークの拡 大によって、地球上のあらゆる環境が人の身体に直接結びつけられるように なったからである。それは、多様化した「食」をめぐる必要(飢餓の解決な ど)や欲求(嗜好の追究など)を満たすための基盤となると同時に、ローカ ルな文脈では考えられなかったリスクを世界中から個人の身体へと運び込む 経路ともなる。人は、毒物や放射能、あるいは宗教的禁忌を口にしてしまう かもしれないというリスクに、かつてないほどさらされているのである。

グローバル化にともなって拡大するリスクの回避は、安全管理を含めた食 材流通システムの合理化に委ねられるが、そのような合理化は、現実には流 通市場における大企業の寡占状況と表裏一体の関係にある。例えば、小麦や トウモロコシ、大豆などの主要な農産品の国際取引において、その 割から

長崎大学 多文化社会研究 Vol.

(3)

割をわずか 社ほどの大企業が占め、農産品の大本である種子の市場につ いても、上位 社で世界シェアの %以上を占めている状況である 。ムス リムの「食」を支えるハラール市場を、これらの非イスラーム大企業が占め ているという実情も、食文化をとりまく世界的状況を象徴している。「食」

はまさにグローバル化を端的に表す主題となっているのである。

これらの事実を踏まえると、我々がものを食べるという営み自体、知らず 知らずのうちに、身体の内側まで「グローバル化」を浸透させる行為である ということに気づくであろう。そこで、改めて「文化」としての「食」がも つ意味を問い直すことの意義は大きいはずである。本特集では、ローカルな 社会がとどめる「食」についての記憶や在来知、そして宗教的な価値などに 関する具体的な事例をもとに、グローバル化する世界におけるローカリティ の変容を捉えるための一つの視角を提示する。

久野秀二( )「多国籍アグリビジネス―農業・食料・種子の支配」桝潟俊子・谷口吉光・立川雅司 編『食と農の社会学―生命と地域の視点から―』ミネルヴァ書房。

参照

関連したドキュメント

主食については戦後の農地解放まで大きな変化はなかったが、戦時中は農民や地主な

北区では、外国人人口の増加等を受けて、多文化共生社会の実現に向けた取組 みを体系化した「北区多文化共生指針」

近年の食品産業の発展に伴い、食品の製造加工技術の多様化、流通の広域化が進む中、乳製品等に

1951 1953 1954 1954 1955年頃 1957 1957 1959 1960 1961 1964 1965 1966 1967 1967 1969 1970 1973年頃 1973 1978 1979 1981 1983 1985年頃 1986 1986 1993年頃 1993年頃 1994 1996 1997

[r]

・ 教育、文化、コミュニケーション、など、具体的に形のない、容易に形骸化する対 策ではなく、⑤のように、システム的に機械的に防止できる設備が必要。.. 質問 質問内容

1978年兵庫県西宮市生まれ。2001年慶應義塾大学総合政策学部卒業、

区分 授業科目の名称 講義等の内容 備考.. 文 化