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在宅で息子が母親を介護する際の心理的プロセスと それに影響を与える要因

その他のタイトル Psychological Process of Caregiving Sons of Elderly Mothers and Influencing Factors

著者 北本 さゆり

発行年 2020‑03‑31

学位授与機関 関西大学

学位授与番号 34416甲第793号

URL http://doi.org/10.32286/00021340

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2020

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月 関西大学審査学位論文

在宅で息子が母親を介護する際の心理的プロセスと それに影響を与える要因

Psychological Process of Caregiving Sons of Elderly Mothers and Influencing Factors

関西大学大学院

人間健康研究科 人間健康専攻

17D2501 北本 さゆり

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在宅で息子が母親を介護する際の心理的プロセスとそれに影響を与える要因

Psychological Process of Caregiving Sons of Elderly Mothers and Influencing Factors

関西大学大学院

人間健康研究科 人間健康専攻 17D2501 北本さゆり

本研究は、母を在宅で介護する息子介護者の心理状態について介護を行う過程に沿って 分析し、その心理状態に影響を与えている要因を明らかにすること、また、母を介護する 息子が抱いている子どもの頃の母のイメージや、その後介護に至るまでの母を含めた家族 との関係が介護にどのような影響を与えるのかを明らかにすることを目的とした。本研究 における独自性の一点目は、母を介護する息子の心理状態を一時点で把捉するのではなく、

介護開始前からのプロセスとして捉えることである。独自性の二点目は、介護している間 の介護者と被介護者との関係性だけでなく、「育てる-育てられる」という関係から「介護 する-される」という関係に変化する両者の関係性に着目し、子どもの頃の母のイメージや その後の関係性が介護に与える影響について分析することである。

本稿は、先行研究の概観、息子介護者に関する統計資料の総説、2つの質的調査および 1つの量的調査に基づいて論じている。第1章は関連する先行文献を概観した。抽出した 先行文献を、「介護に関する尺度(被介護者との関係・肯定的感情・否定的感情)」「男 性介護者の特徴及び困難感」「娘介護者と息子介護者の相違及び夫介護者の実態」「高齢 者虐待の視点から捉えた息子介護者の困難感」の4つに分類し、表にまとめた。これまで の研究の論点を明確にした上で、本研究の独自性・新規性を明らかにした。第2章では、

「データから見た息子介護者の社会的背景」をテーマに、高齢の母親を介護する息子がど のような社会的環境に置かれているのか、それが時代とともにどのように変遷しているの かを概観した。主に公的機関が公表している統計データを用いて、高齢の母親を介護する 息子の社会的背景を導き出し、それが介護を行う上での心理状態にどのような影響を与え ているのかを考察した。第3章では、「息子が母親を介護する際の心理的プロセス」をテ

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ーマに行った質的研究を記載している。母を在宅で介護する息子介護者の心理状態につい て介護の過程に沿って分析し、心理状態に関連する事柄を明らかにすることを目的として 実施した。半構造化面接を実施し、M-GTAを用いて分析した。第4章では、「息子介護 者にとって子どもの頃からの母子関係が母の介護に与える影響」をテーマに行った質的研 究を記載している。息子介護者が抱いている子どもの頃の母のイメージや、母を含めた家 族との関係が介護に与える影響を明らかにすることを目的として実施した。半構造化面接 を実施し、M-GTAを用いて分析した。第5章は、「高齢の女性を介護する介護者の心理 状態とその経時的変化-息子・娘・夫の比較-」をテーマに、高齢の女性の介護者に自記 式アンケート調査を実施した。介護する上での負担感や肯定的感情について、続柄による 違いを明らかにし、さらに、介護開始時と一定期間介護継続後の二時点とを比較すること によって感情の変化を捉えることを目的とした。第6章は、これまでの研究結果を踏まえ、

母を在宅で介護する息子介護者の介護過程に沿った心理状態及び母と息子の関係に着目し た介護における心理状態についてまとめた。なお、第5章では、第3章及び第4章で導き 出した息子介護者の心理的プロセスとそれに関連する事柄を検証するという混合研究法を 用いた。

第1章から第5章までの研究を通して、高齢の母親を在宅で介護する息子介護者の心理 的プロセスとそれに関連する事柄を提示することができた。

本研究の目的の一点目について、介護が始まるまで別々の生活を送っていた母と息子が 介護を通して相互に影響しながら一定のリズムを作り上げ、介護が両者の生活に組み込ま れていく過程を導き出すことができた。

息子介護者は、介護前から両親の言動などにより自分への介護期待を察していたにもか かわらず介護開始時に必要な情報を収集していないことが明らかとなった。また、企業内 で介護に関する情報が行き届いておらず、仕事と介護の両立について見通しが立たず困惑 する雇用者が多数存在することが示された。効果的な情報発信や介護開始時の生活変化を 最小限に抑えられるよう働きながら介護を行える体制づくりが急務である。また、一定期 間介護継続後においては、母の急激な変化が起こると介護リズムの乱れが生じ、介護継続 不安感が増大する危険性が示された。

さらに、息子介護者が母を介護する場合、父の介護も行う可能性が高いことが示唆され た。両親の介護が連続して起こる場合には長期間の介護による疲弊が、同時に起こる場合 には過重な介護負担がのし掛かる危険性を孕んでいた。このようなダブル介護の背景に、

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息子介護者をサポートする副介護者の欠如の可能性があることを支援者は念頭におかなけ ればならない。

本研究の目的の二点目は、息子介護者の子どもの頃から介護に至るまでの母と息子を含 む家族関係が介護に与える影響を明らかにすることであった。介護前からの介護者と被介 護者との関係については、成人期以降も互いの状況が把握できる程度の距離が保たれてい た。しかし、量的調査において、母のことをあまり尊敬していなかったという回答が子介 護者の 1/4 にみられ、関係が良好ではない状態で介護を担っている子介護者が一定数いる ことが明らかとなった。被介護者への尊敬の程度は、介護開始時から一定期間介護継続後 まで長期にわたり認知的介護評価に影響を与えており、両者の関係を適切にアセスメント する重要性が示唆された。

子どもの頃からの母との関係においては、息子介護者は<子どもの頃の記憶にある母の 姿>と<介護を必要とする母の姿>を照らし合わせ、母の言動を母の生き様や性格から意 味づけている様子や、昔のイメージとのギャップに悩む様子を示すことができた。以前と ギャップがあってつらいと感じることは介護継続不安感に関連しており、現在の母を客観 的に受け入れられるような介入が必要である。また、子どもの頃、虐待と思われる行為を 母から受けていた息子介護者は、介護開始時は精神的負担が大きかったものの、現在は冷 静に介護を行っていた。その背景として、介護知識や応用力が身についていたこと、長期 に及ぶ介護の中で母を客観視できる適度な距離感をつかめたこと、将来の予測とそれに対 処できる方法を知っていたことがあり、母の介護を冷静に実践することに繋がっていたの ではないかと考える。介護者と被介護者との関係が子どもの頃に良好でない場合でも、介 護者が被介護者の状況を客観的にみることができれば、負担感の増大を防止できる可能性 が示された。

支援者は、介護者の気持ちを受け止め、必要な情報を適宜提供した上で、介護者が客観 的に介護を行えるようなアプローチを行うことが必要である。

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目 次

序章 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 1

第1章 先行研究の概観 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 7 第1節 介護に関する尺度 (被介護者との関係・肯定的感情・否定的感情)

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 7 第2節 男性介護者の特徴及び困難感 ・・・・・・・・・・・・・・ 9 第3節 娘介護者と息子介護者の相違及び夫介護者の実態 ・・・・・ 11 第4節 高齢者虐待の視点から捉えた息子介護者の困難感 ・・・・・ 13 第5節 小括 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 14

第2章 データから見た息子介護者の社会的背景 ・・・・・・・・・・ 34 第1節 はじめに ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 34 第2節 研究方法 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 35 第3節 研究結果と考察 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 35 第4節 総合考察 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 46 第5節 結語 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 51 第6節 小括 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 52

第3章 息子が母親を介護する際の心理的プロセス ・・・・・・・・・ 56

第1節 緒言 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 56

第2節 研究方法 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 57

第3節 結果と考察 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 59

第4節 総合考察 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 74

第5節 結語 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 78

第6節 小括 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 78

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第4章 息子介護者にとって子どもの頃からの母子関係が母の介護に与える 影響 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 82 第1節 はじめに ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 82 第2節 研究方法 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 83 第3節 結果と考察 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 85 第4節 総合考察 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 96 第5節 結語・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 99 第6節 小括・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・100

第5章 高齢の女性を介護する介護者の心理状態とその経時的変化

-息子・娘・夫の比較- ・・・・・・・・・・・・・・・・・103 第1節 はじめに ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・103 第2節 研究方法 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・104 第3節 研究結果 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・108

第4節 考察 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・114 第5節 結語 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・119

第6節 小括 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・120

第6章 終章 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・123

参考資料 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・132

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1

序 章

研究の動機

介護保険制度が 2000 年に開始され、高齢者介護は家族だけが担うものではなく、社会全 体で支えていくという仕組みができた。しかし、介護を必要とする高齢者に対して、介護 保険制度が提供できるサービスは限られており、要介護度4以上で在宅生活を継続する場 合には、ほとんど終日介護を行っている同居の家族介護者が約半数を占めるなど家族への 負担が大きいことが明らかとなっている(内閣府, 2017)。

介護保険制度において、要支援又は要介護と認定された在宅の高齢者を同居で介護して いる者の性別は、男性 34.0%、女性 66.0%と依然女性が多いものの、男性の割合が増加し ている(厚生労働省,2017a)。男性介護者の内訳は、夫 15.6%、息子 17.2%、その他 1.2%

である。一方、平成 28 年度高齢者虐待の防止、高齢者の養護者に対する支援等に関する法 律(以下、「高齢者虐待防止法」という)に基づく対応状況等に関する調査によると、養護 者による高齢者虐待 16,384 件(虐待者数 17,866 件)のうち、虐待者の続柄は息子が 7,237 人(40.5%)であり、息子が介護者である割合 17.2%に比べ非常に高いことがわかる(厚 生労働省,2018)。つまり、介護をしている息子(以下、「息子介護者」という)は、他 の続柄の介護者に比べて虐待を起こしてしまうような心理状態に陥りやすいことが類推さ れる。また、被虐待高齢者の約8割が女性である(厚生労働省,2018)ことから、母を介 護する息子介護者の介護上の困難の大きさが推察される。男性介護者や息子介護者の困難 感についての先行研究は第1章で詳述する。

ところで、筆者は、二十数年間市役所で保健師として従事し、乳幼児から高齢者まであ らゆる年代のかたの健康支援を行ってきた。保健師とは、保健師助産師看護師法において

「保健師の名称を用いて保健指導に従事することを業とする者」と定められており、保健 師免許及び看護師免許を有している者である。保健師は、都道府県・市町村の保健所や保 健センターで保健行政に従事する行政保健師、企業の産業保健スタッフとして従事する産 業保健師のほか、学校等で学生や教職員の保健に携わる者、地域包括支援センターで高齢 者の相談や介護予防を行う者、健診センター等で健康相談業務を行う者など活動の場は多 岐にわたる(一般社団法人全国保健師教育機関協議会,online)。平成 28 年末現在の就業 保健師数は 51,280 人(男 1,137 人、女 50,143 人)で、就業場所別に実人員をみると、市

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区町村が 28,509 人(55.6%)と最も多く、保健所 7,829 人(15.3%)、都道府県 1,375 人

(2.7%)と合わせると 73.5%が行政保健師として従事していることとなる(厚生労働省, 2017b)。その中で市区町村保健師は、乳幼児や妊婦、成人、高齢者、障害者を含め、すべ ての年代のあらゆる健康レベルの地域住民を対象とし、保健・福祉の総合的な相談や、地 域の健康課題を発見し施策化するなど企画・調整業務も行っている。具体的には、健診・

家庭訪問・健康相談・健康教育などの方法を用いて、育児支援、成人期の生活習慣病予防、

自殺予防、介護予防、健康づくり、児童虐待防止、高齢者虐待防止及び対応、介護者支援 などに従事している。

高齢保健福祉分野において保健師は、地域包括ケアシステムを構築する多職種の構成員 として期待されている。真山(2018)は、地域包括ケアシステムにおいて保健師は、保健・

福祉・医療・介護などの専門職間のコーディネートを行う役割、ケアに関わる自治体の様々 な部署を組織横断的に連携させるための役割、さらに、地域の実情に応じて必要な資源を 見極め自治体政策に反映させる役割があると報告している。筆者は、自治体の高齢福祉課 に勤務している間、多職種の連携調整、介護者支援、高齢者虐待対応、介護予防事業など の業務に携わった。介護者支援としては、男性介護者のつどいを担当し、月1回介護に関 する学習会や交流会の開催を支援してきた。大阪府立大学との共同で行った男性介護者へ のアンケート調査では、男性介護者は介護及び認知症の知識や理解が不足しており、介護 の相談をしない傾向にあることや、介護者自身の健康を確認する場、介護について相談す る場、男性同士で介護の思いを共有する場などを求めていることが明らかになっている(箕 面市・大阪府立大学, 2010)。参加者が語る介護体験では、介護への戸惑いや否定、混乱、

拒否、受容など、さまざまな感情が一人ひとりの言葉によって表出され、介護を行う上で の感情はそれまでの介護者と被介護者の人間関係に大きく左右されることを実感した。一 方で高齢者への虐待を起こしてしまった介護者とも数多く出会った。その続柄は、全国の 傾向と同様、息子が多くを占めていた。そのような介護者に直接気持ちを聞くような機会 は少なかったが、虐待という結果に至ってしまったものの、被介護者である親への愛情を 抱いて介護している様子が窺われる事例が少なからず存在した。

また、長年従事してきた母子保健分野においては、乳幼児の要求に十分に応えることが できず、愛着形成がうまく進まない母子にも数多く出会った。そこで、乳幼児期の「育て る-育てられる」という関係が、長い年月を経て、「介護する-される」という関係となっ て立場が逆転したとき、乳幼児期の経験が介護にどのような影響を与えるのだろうかとい

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う疑問を抱くようになった。乳幼児期から介護を行う年齢に至るまでの期間は長いため、

両者の関係だけでなく父親も含めた家族関係や、地域社会との関係、介護者・被介護者そ れぞれの生活体験などさまざまな事柄が関係しているのではないかと考え、介護を行って いる当事者からのインタビューを通して明らかにしていきたいと思ったことが研究のきっ かけである。

研究の目的

本研究は、母を在宅で介護する息子介護者の心理状態について介護を行う過程に沿って 分析し、その心理状態に影響を与えている要因を明らかにすること、また、母を介護する 息子が抱いている子どもの頃の母のイメージや、その後介護に至るまでの母を含めた家族 との関係が介護にどのような影響を与えるのかを明らかにすることを目的とする。本研究 における独自性の一点目は、母を介護する息子の心理状態を一時点で把捉するのではなく、

介護開始前からのプロセスとして捉えることである。独自性の二点目は、介護している間 の介護者と被介護者との関係性だけでなく、「育てる-育てられる」という関係から「介護 する-介護される」という関係に変化する両者の関係性に着目し、子どもの頃の母のイメー ジやその後の関係性が介護に与える影響について分析することである。

本研究を行うことにより、息子介護者の否定的感情が生じやすい時期とそれに影響を与 える要因を明らかにすることができ、その要因を軽減させるような介入を適切な時期に行 うことが可能となり、否定的感情を和らげることができる。さらに、介護を行う上での肯 定的感情や否定的感情に子どもの頃からの関係性がどのように影響しているかを明らかに することができれば、息子介護者のこれまでの家族関係に応じた支援のあり方の方向性を 示すことができる。

論文の構成

本稿は、先行研究の概観、息子介護者に関する統計資料の総説、2つの質的調査および 1つの量的調査に基づいて論じていく。

第1章では、母親を介護する息子介護者の心理的プロセスについての研究を行うにあた り、関連する先行文献を概観する。抽出した先行文献を、「介護に関する尺度(被介護者

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との関係・肯定的感情・否定的感情)」「男性介護者の特徴及び困難感」「娘介護者と息 子介護者の相違及び夫介護者の実態」「高齢者虐待の視点から捉えた息子介護者の困難感」

の4つに分類し、それぞれの文献の著者(出版年)、論文名、掲載誌、研究の視点、有効 調査対象者と研究方法、研究結果の要約を表にまとめた。先行研究を概観することにより、

これまでの研究の論点を明確にし、未だ明らかにされていないことを導き出し、本研究の 独自性・新規性を論述する。

第2章では、「データから見た息子介護者の社会的背景」をテーマに、高齢の母親を介 護する息子がどのような社会的環境に置かれているのか、それが時代とともにどのように 変遷しているのかを概観した。主に公的機関が公表している統計データを用いて、高齢の 母親を介護する息子の社会的背景を導き出し、それが息子介護者の介護を行う上での心理 状態にどのような影響を与えているのかを考察した。

第3章では、「息子が母親を介護する際の心理的プロセス」をテーマに行った質的研究 を記載している。母を在宅で介護する息子介護者の心理状態について介護の過程に沿って 分析し、心理状態に関連する事柄を明らかにすることを目的として実施した。在宅で母を 介護したことのある息子に半構造化面接を実施し、M-GTAを用いて分析した。

第4章では、「息子介護者にとって子どもの頃からの母子関係が母の介護に与える影響」

をテーマに行った質的研究を記載している。息子介護者が抱いている子どもの頃の母のイ メージや、母を含めた家族との関係が介護に与える影響を明らかにすることを目的として 実施した。在宅で母を介護したことのある息子に半構造化面接を実施し、M-GTAを用い て分析した。

第5章では、第3章及び第4章で示された結果をもとに調査内容を検討し、「高齢の女 性を介護する介護者の心理状態とその経時的変化-息子・娘・夫の比較-」をテーマに、

高齢の女性を介護する介護者(息子・娘・夫)に自記式アンケート調査を実施した。高齢 の女性を介護する上での負担感や肯定的感情について、続柄による違いを明らかにし、さ らにその感情について、介護開始時点と、介護を一定期間継続してからの時点とを比較す ることによって介護者の感情の変化を捉えることを目的とした。

第6章は、以上の調査結果を踏まえ、母を在宅で介護する息子介護者の介護過程に沿っ た心理状態についてまとめるとともに、「育てる-育てられる」という関係から「介護する -介護される」という関係に変化する母と息子の心理状態に着目した感情について述べ、最 後に息子介護者への支援のあり方について提示する。

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研究の方法

本研究は、質的研究と量的研究を合わせた混合研究法(マイク・D.フェターズ,2016)

を採用している。研究の方法は下記(図序-1)のとおりであり、先行研究の概観および研 究(1)から研究(4)までを順次行い、それを総合的に考察し、結論を導き出すことと した。先行研究の概観と研究(1)から研究(4)までの各研究については、それぞれの 章で詳述することとする。

図序-1 研究方法

上記図中の実線は直接関与していることを、点線は研究計画または分析において参照していることを表わす。

初出一覧

本稿の一部は、以下にあげる各稿をもとにして、それらを加筆・修正したものである。

第2章 データから見た息子介護者の社会的背景.関西大学大学院人間健康研究科論集,

2:1-22.(2018)

研究(2)

<質的研究>

「 息 子 が 母 親 を 介 護 す る 際 の 心 理 的 プロセス」

(第3章)

研究(4)

<量的研究>

「高齢の女性を介 護する介護者の心 理状態とその経時 的変化-息子・娘・

夫の比較-」

(第5章)

研究(3)

<質的研究>

「息子介護者にとっ て子どもの頃からの 母子関係が母の介護 に与える影響」

(第4章)

<総合考察>

息子介護者が 在宅で母を介 護する心理的 プロセスにつ いて総合的に 考察する。

(第6章)

研究(1)

<総 説>

「データから 見た息子介護 者の社会的背 景」

(第2章)

先行研究 の概観

(第1章)

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6

第3章 息子が母親を介護する際の心理的プロセス.社会福祉学,60(2):91-109.(2019) 第4章 息子介護者にとって子どもの頃からの母子関係が母の介護に与える影響.藍野大

学紀要,31:25-37.(2018)

第5章 高齢の女性を介護する介護者の心理状態とその経時的変化-息子・娘・夫の比較

-.人間健康学研究,13 に投稿中

文献

一般社団法人全国保健師教育機関協議会(online)保健師の活動の場.

www.zenhokyo.jp/foryou/katsudou.shtml,(参照日 2019 年 7 月 3 日).

厚生労働省(2017a)平成 28 年国民生活基礎調査の概況.http://www.mhlw.go.jp/

toukei/saikin/hw/k-tyosa/k-tyosa16/index.html,(参照日 2018 年 1 月 3 日).

厚生労働省(2017b)平成 28 年衛生行政報告例(就業医療関係者)の概況.

https://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/eisei/16/,(参照日 2019 年 7 月 3 日).

厚生労働省(2018)平成 28 年度高齢者虐待の防止,高齢者の養護者に対する支援等に関 する法律に基づく対応状況等に関する調査結果.http://www.mhlw.go.jp/file/04- Houdouhappyou-12304250-Roukenkyoku-Koureishashienka/0000197120.pdf,(参照日 2018 年 4 月 1 日).

真山達志(2018)分野横断的・包括的ケアシステムにおける保健師の役割-公共政策研究 の視点から-.保健医療科学,67(4):402-412.

マイク・D.フェターズ(2016)第 20 回日本在宅ケア学会学術集会在宅ケア研究における 混合研究法─Mixed Methods in Home Health Care Research-.日本在宅ケア学会 誌,20(1):31-38.

箕面市・大阪府立大学(2010)男性介護者へのアンケート調査結果報告書.箕面市.

http://www8.cao.go.jp/kourei/ishiki/h22/kiso/zentai/,(参照日 2017 年 3 月 1 日).49(4):119-137.

内閣府(2017)平成 29 年度版高齢社会白書.

http://www8.cao.go.jp/kourei/whitepaper/w-2017/html/zenbun/s1_2_3.html,(参 照日 2018 年 5 月 30 日).

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第1章 先行研究の概観

母親を介護する息子介護者の心理的プロセスについての研究を行うにあたり、関連する 先行文献を概観する。

1950 年の 65 歳以上人口の総人口に占める割合(高齢化率)は5%に満たなかったが、

1970 年に7%を超え、さらに、1994 年には 14%を超えた。高齢化率はその後も上昇を続 け、2017 年 10 月 1 日現在、65 歳以上人口は 3,515 万人となり、高齢化率は 27.7%に達し ている(内閣府,2018)。高齢化の進展に伴い、1980 年代には社会的入院や寝たきり老人が 社会問題として取り上げられるようになった。また、65 歳以上の者のいる世帯構成も大き く変化しており、1986 年に 44.8%であった三世代同居が 2016 年には 11.0%と激減し、それ に替わって独居世帯、老夫婦世帯、親と未婚の子のみの世帯が増加している(厚生労働省,

2017)。

このように高齢者をめぐる社会状況が大きく変化しているなかで、高齢者の在宅介護に 関する研究の関心も時代とともに変化してきた。ここでは、息子介護者に関連する文献に ついて、「介護に関する尺度(被介護者との関係・肯定的感情・否定的感情)」(表 1-1)、

「男性介護者の特徴及び困難感」(表 1-2)、「娘介護者と息子介護者の相違及び夫介護者の 実態」(表 1-3)、「高齢者虐待の視点から捉えた息子介護者の困難感」(表 1-4)に分類し、

それぞれを時系列に並べ、研究関心の変遷や示唆された内容等について概観する。なお、

公的統計に関しては第2章において詳述する。

第1節 介護に関する尺度(被介護者との関係・肯定的感情・否定的感情)(表 1-1)

在宅で高齢者を介護する際、介護者の身体的・精神的・経済的負担は計り知れないもの である。そこで、介護者の心情について最初は介護を行う上での負担感に関心が向けられ た。Zarit et al.(1980)は、介護負担を「親族を介護したことによって被る介護者の情緒 的・身体的健康、社会生活および経済的状態に関する苦痛の程度」と定義し、介護負担尺 度を生成した。Zarit et al.(1980)は、介護者の介護負担とそれに影響を与えている因子 との関連を分析し、主介護者以外の家族の訪問頻度が介護者の負担感の程度に有意に影響 していることを報告した。

日本では、市川ほか(1985)が、高齢者と介護者との人間関係の良さを定量的に評価する

(15)

8

ための尺度(CPR)を開発し、武長ほか(1987)が、CPR を用いて介護者・高齢者の人間関係 と高齢者の異常精神症状発現との関連を調べるなど、介護負担に影響を与えている要因を 探求する研究が行われるようになった。武長ほか(1987)の研究では因果関係が明確ではな いものの、高齢者の異常精神症状発現には介護者・高齢者間の人間関係が関連することを 示唆している。また、中谷・東條(1989)や吉田ほか(1997)は、介護者の負担感を測定す る尺度を作成し、同時に影響を与えている要因を調べ、副介護者がいないことや高齢者に 認知症状があることが介護負担感を高めていることを共通の結果として示している。Zarit et al.(1980)の介護負担尺度については日本語版が作成され、医療・介護の現場において 介護負担の評価に使用されているが、現場では時間が限られていることから、より簡便に 介護負担を評価できる短縮版(J-ZBI_8)が作成された(公益財団法人長寿科学振興財団,

2018)。この短縮版は荒井ほか(2003)が作成したもので、Personal Strain 5項目と Role Strain3項目の2つの因子から成る8項目で構成されている。

和気(1998:85)は、介護を行うというストレスに対して、介護者がどのような対処スタ イルをとるのかという点に着目した。対処スタイルは性別や続柄により異なる傾向があり、

息子介護者は他の続柄に比べて感情表出が少ないことや、配偶者に比べ静観・待機をとら ない傾向が示された。

介護負担に関する研究がさかんに行われるなか、徐々に介護肯定感についても関心が向 けられるようになった。Lawton et al.(1989)は、介護を行うときの感情を負担感という一 側面だけでなく個人の対処能力や満足感も含めた包括的なものとして捉え、介護評価 (caregiving appraisal)尺度を作成した。日本では、櫻井(1999)が介護負担感と肯定的感 情を同時に測定できる尺度を開発するとともに、介護肯定感による負担感の軽減効果を調 査した。その結果、肯定感により「限界感」という負担感が軽減されることが示唆された。

山本ほか(2002)は、介護に関する肯定的認識が介護者の QOL や生きがい感、介護継続意 思に与える影響を続柄ごとに検討した。その結果、どの続柄も肯定的認識が「生きがい感」

に強く関連することが示された。同時に夫や息子介護者は肯定的認識、否定的認識ともに

「介護継続意思」に関連することが示唆された。また、陶山ほか(2004)は、介護ストレス 対処行動と介護肯定感の構造を明らかにし、介護肯定感がどのような要因に関連するかを 調査した。介護肯定感として「介護状況に対する充実感」「自己成長感」「高齢者との一体 感」の3因子が抽出され、「接近型」の対処行動と関連していた。広瀬ほか(2005,2006)

は、Lawton の影響を受け、肯定・否定の両側面で構成される「認知的介護評価」の尺度を

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9

開発した(広瀬ほか,2005)。この尺度は、「社会活動制限感」「介護継続不安感」「関係性 における精神的負担感」の否定的側面3因子と「介護役割充足感」「高齢者への親近感」「自 己成長感」の肯定的側面3因子から構成されている。この尺度を用いて、認知的介護評価 に影響を与える要因を探求した調査(広瀬ほか,2006)では、それぞれ仕事の有無、介護 者の健康度、インフォーマルサポートに対する満足感、夜間介護の有無、介護者の年齢が 最も強く関連しており、「自己成長感」に有意に関連する項目がなかったと報告されている。

第2節 男性介護者の特徴及び困難感(表 1-2)

三世代同居が多かった時代には、介護は嫁や妻といった女性が担うことが多く、介護に 関する研究に男性介護者が登場することは少なかった。男性介護者に関する研究が行われ るようになったのは 1990 年代後半である。

馬庭(1996)は、51 人の男性介護者への質問紙とインタビューによる調査を行い、男性介 護者について他者に援助を求めないことや介護を仕事として捉えること、精神的疲労をア ルコールで癒やそうとすることなどを特徴として挙げている。また、奥山(1997)は文献か ら、男性介護者が介護する要介護者は自立度が高いこと、介護に支払う金額が高いこと、

孤立している人が多いことなどを男性介護者の特徴としてまとめている。

2000 年に介護保険制度が開始され、介護は家族だけでなく社会全体で担うべきであると いう趨向にあるものの家族に課せられた役割はまだまだ大きなものであった。そのような 状況で、介護保険制度開始後も家族介護者に関する研究は数多く行われ、男性介護者につ いての研究も盛んに行われるようになった。石橋(2002)は、男性介護者は被介護者とは関 係を築けるものの他の家族員との親密性が低く、専門職に対しては相談や援助を求めない 傾向にあると報告している。また、市森ほか(2004)は男性介護者が抱く最も顕著な困難感 として、「排泄ケア」を取り上げ、男性介護者へのインタビューによって排泄ケアに関する 抵抗感及びそれを受け入れる思いを浮き彫りにしている。杉浦ほか(2004)は、女性のほう が要介護度の重い高齢者を介護していることを報告しており、前述した奥山(1997)と同様 の結果を示している。また、杉浦ほか(2004)は、女性介護者のほうが男性に比べ介護負担 感が大きいものの、多くの対処方略を用いていることを示唆している。

男性介護者への研究が進むなか、津止・斎藤(2007:39-62)は、男性介護者に関する全国 調査を実施した。男性介護者の6割を超える人が健康問題を抱えていること、介護を理由

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に退職した人が2割を超えていること、約4割が「炊事」「裁縫」などの家事に困難を感じ ていること、3割を超える人が「入浴介助」や「排泄介助」に困難を感じていることが明 らかになった。桐野(2010)は、男性介護者は家事全般に困難を感じていることや援助者数 の少なさを報告している。永井ほか(2011)は、同年代の非介護者との比較によって男性 介護者の主観的健康特性を明らかにすることを試みている。その結果、男性介護者は「全 体的健康感」が低く「体の痛み」を自覚していること、ストレスを感じている人が多いこ と、睡眠の質・量ともに良好でないことが明らかになっている。彦ほか(2014)は、男性介 護者のライフイベントと Sense of Coherence(SOC)1)との関連を調べており、1年以内 に退職した人と経済的困難が増した人の SOC 得点が低いことや介護を開始した人の把握可 能感(自分が置かれている状況や、将来起こるであろう状況をある程度予測できる確信)

が低いことが示されている。つまり、介護により退職し経済的不安に陥った場合は対処能 力が低下しやすく、負担感が増強すると考えられる。このように男性介護者の課題として、

健康問題、家事役割遂行の問題、経済的問題が特徴として挙げられてきた。

さらに、桐野ほか(2014)は、男性介護者は友人・知人・近隣の人に相談や援助を求めな い傾向にあり、インフォーマルな人への支援要請が消極的であることを報告している。男 性が周囲への援助を求めない傾向にあることは、前述の馬庭(1996)や奥山(1997)、石橋 (2002)の結果でもみられており、家族形態が変化したり、介護保険制度の周知がある程度 行き渡った状況においても同様の傾向にあることが明らかとなった。松井(2014)は、男性 介護者へのインタビューを通して、「男性ゆえの困難」について分析している。結果、男性 が語る「男性ゆえの困難」は、「仕事と介護の両立の困難」「家事役割遂行の困難」「身体接 触をともなう介護の困難」「介護の仕事化とそれに伴う困難」であると報告している。仕事 との両立に関しては、津止・斎藤(2007:44)の研究における介護を理由に退職した人の多 さや、彦ほか(2014)の研究における退職によるストレス対処能力の低下などとも関連して おり、男性介護者にとっては大きな課題であることがわかる。また、身体接触をともなう 困難感については、市森ほか(2004)の研究や津止・斎藤(2007:57)の研究においても言及 されており、「入浴介助」「排泄介助」は困難感を抱きやすい介助であることが明らかとな っている。松井(2014)は、この「身体接触をともなう介護の困難」については特に息子介 護者にとって困難感が大きいと報告している。斎藤(2016)は、男性が直面しやすい困難・

課題として周囲との付き合いの乏しさや仕事として介護を捉えることなどを挙げている。

その一方で、長年仕事をしてきた人については、マネージメント力が備わっている可能性

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があり、それを介護に活用できるという長所を提示している。彦(2019)は、介護支援専門 員が捉える男性介護者の特徴について、「介護に真摯に取り組む」「閉鎖的な介護生活(思 いを言葉で表出しないなど)」「ケアに関する課題(排泄ケアの課題など)」「家事に関連す る問題(料理が苦手など)」などのカテゴリーを示している。

男性介護者の特徴や困難感が明らかになるにつれ、性差だけでなく続柄別の介護者の意 識や感情を調べる研究も多く行われるようになった。新鞍ほか(2008)は、介護者の続柄 別の負担感や肯定感を調査し、そのなかで息子介護者は他の続柄に比べて経済的負担感が 高いと述べている。春川ほか(2013)が行った介護保険サービス事業所等職員への調査で は、職員が捉える困難事例は「息子が母」「夫が妻」を介護する場合が多く、事業所職員 は被介護者の身体面の不調やBPSDなど被介護者側の状況に着目していることが示され ている。

平山(2014:187)は、28 人の息子介護者からの聞き取りをもとに息子介護者の特徴を分 析している。そこでは、息子介護者は親の自立状態をできるだけ長く維持するために、手 伝いを最小限に抑える「ミニマムケア」を行い、それを消極的と批判的に捉える女きょう だいと衝突してしまうことがあると報告している。平山(2014:187)と同様に、Matthews

(2002)は、親の介護への男きょうだいと女きょうだいの関わり方の違いについて、男き ょうだいは親のケアに対して関わりを少なくすることが最高の実行と考えているが、女き ょうだいは親が子どもに依存することを受け入れるべきであると考えており、そのことを 男きょうだいにも求める傾向があると分析している。岩田・堀口(2016)は、続柄別の認知 評価や対処方略、生活への影響の相違を調査した。その結果、妻を介護する夫や義父を介 護する嫁は社会活動制限感が強く、介護のペース配分が悪く、介護による生活へのネガテ ィブな影響をより強く感じていることが示唆された。

第3節 娘介護者と息子介護者の相違及び夫介護者の実態(表 1-3)

ここまで男性介護者の特徴及び困難感についての先行研究を概観してきたが、一概に男 性介護者と言っても、経済的状況や被介護者との関係性、社会的役割の違いなどから、夫 の場合と息子の場合では量的にも質的にも困難さが異なると考えられる。木下(2009:48- 129)は、妻を介護している 21 人の夫介護者のインタビューをとおして、夫の介護のプロ セスを明らかにしている。結果として、「介護日課の構造化」「改めて夫婦であること」「砂

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時計の時間感覚」という3つのカテゴリーを抽出し、これらのバランスを取りながら介護 している夫の姿を映し出している。中でも、「介護日課の構造化」は重要とされ、介護者と 被介護者が日々の生活の中に介護やサービスを組み入れ、成功体験や失敗体験をスキルと して蓄積し、構造化していくといったゆるやかに流れる夫婦の日常を表している。ここに

「改めて夫婦であること」という愛情の要素と、そう遠くない将来に今の二人の生活が終 わりを迎えることを予測しながらも、その時期がやってこないように願っているといった

「砂時計の時間感覚」という要素が作用している。

また、息子介護者の意識や心理を考える上で、同じ子としての立場である娘介護者との 相違を検討することも重要である。上田ほか(2009)は、被介護者が息子の介護を希望し ているときの虐待は低率であることを示したが、高齢者は一般的に誰に介護を望んでいる のかを調べた研究がある。山口(2008)は、配偶者喪失期にある高齢者がケア・ミックス におけるインフォーマルケアを成人子(息子・娘・息子の妻)のうち介護者として誰を選 好するかについて調査した。その結果、身体的ケアについては男女ともに高齢者は娘への 選好が強いこと、相談については男性高齢者の場合には息子を望むこと、女性高齢者は身 体的ケア・生活援助・相談・声かけのすべての項目において娘を選好する傾向にあること が明らかになった。また、内閣府(2010)が介護の選好の国際比較を行った調査でも、日 本では娘の選好が息子の約 1.5 倍であることが示された。このような結果から母親を介護 する男性は、被介護者から望まれずに介護を始める可能性が高いと考えられる。

中西(2009:45-64)は、20 代未婚男女の将来の親の介護への意向について調査した。そ の結果男女とも「はい」「わからない」に回答が二分されていた。「いいえ」という回答が 非常に少なく誰もがある程度親の介護に関与すべき立場にあると考えていることが示され た。また、将来の親の介護への意向は息子よりも娘のほうが強く、さらに、「わからない」

という回答が多いことから、介護を引き受けるかどうかは今後の家族関係に左右される可 能性が強いことが示唆された。

横瀬(2009, 2010)は、認知症の母親が介護施設利用に到るプロセスについて、それぞ れ娘と息子を対象者とした調査を行い、その違いを分析している。娘介護者は母の認知症 の否認や秘匿の傾向があり、入所を決断したことによる母親への申し訳なさと、施設で適 切な介護を受けて安定している状態の母親を目の当たりにして在宅時の自分の介護の至ら なさを感じて自責の念にかられると述べている。一方、息子介護者は秘匿の傾向はないも のの詳細な情報を収集しサービスや制度をうまく使いこなすこと、義務感あるいは愛情か

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ら一人で、あるいは家族で抱え込む傾向にあることなどを報告している。

Iwata and Horiguchi(2016)は、介護者による自記式アンケートを用いて、被介護者の性 別および介護者の続柄による介護負担の相違を調査した。夫を介護している妻、母親を介 護している娘や息子よりも、義父を介護している嫁の介護負担が大きいこと、妻を介護し ている夫は、「介護役割の積極的な受け入れ」「フォーマルな支援を受けている」「仕事をし ている」ということが心理的苦痛を和らげる重大な要因であること、妻や娘は、「自分のペ ースを保つ」ことが効果的な対処戦略になっていることなどが示され、介護負担やその悪 化要因および軽減要因は続柄により異なることが示唆された。

平山(2017:59)は、息子介護者をジェンダーの視点から捉え、様々な文献をもとに息子 介護者の状況を考察している。男性介護者が介護を行う際には、目に見えない「お膳立て」

の活動(感覚的活動:例えば調理や洗濯、他者との調整など)を女性が担っていることが 多い。男性が世話をする場合に、その世話が機能するためには感覚的活動を通したマネー ジメントが不可欠であり、女性が要介護者となることで男性介護者は他者との関係がとれ なくなる危険性があると指摘している。

第4節 高齢者虐待の視点から捉えた息子介護者の困難感(表 1-4)

介護保険制度において要支援又は要介護と認定された在宅の高齢者を同居で介護してい る者の続柄をみると、夫は 15.6%、息子は 17.2%である(厚生労働省,2017)。平成 28 年 度高齢者虐待防止法に基づく対応状況等に関する調査によると、養護者による高齢者虐待 16,384 件(虐待者数 17,866 件)のうち、虐待者の続柄は息子が 7,237 人(40.5%)であ り(厚生労働省,2018)、息子が介護者である割合 17.2%に比べ非常に高いことがわかる。

つまり、息子介護者は他の続柄の介護者に比べて虐待を起こしてしまうような心理状態に 陥りやすいことが類推される。また、被虐待高齢者の約8割が女性であることから、母を 介護する息子介護者の介護上の困難の大きさが推察される。

そのような状況において、息子介護者を高齢者虐待の加害者として捉え、その原因や背 景を探求する研究が行われている。上田ほか(2009)は、介護支援専門員への調査を行い、

被介護者の介護度の高さ、認知症高齢者の日常生活自立度の低さ、介護者と被介護者の人 間関係の悪さ、介護者の近隣との交流のなさ、配偶者がいないこと、経済状況の悪さ、介 護の協力者がいないこと、親への依存、介護技術の不十分さが息子介護者の虐待発生に影

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響していることを示唆している。一方で、被介護者が息子に介護をしてほしいと希望して いた場合は虐待が低率であると分析している。この結果から、介護に至る前の介護者と被 介護者の関係性が、介護プロセスに少なからず影響を与えていると考えることができる。

大島(2010)は、息子による高齢者虐待事例を「同居している息子」「経済的な課題」「親 子関係」に焦点をあてて分析している。同居している息子が独身の場合、介護の知識・技 術不足、協力者の不在、家庭内での役割を過度に期待される重圧を抱えている。また、経 済的に余裕がないことに影響を受ける場合が多く、さらに依存関係にある親子や関係性の 悪い親子への介入の困難さを指摘している。

認知症介護研究・研修仙台センター(2014)は、高齢者虐待防止法に基づく対応状況の実 態を詳細に明らかにするとともに、高齢者虐待の要因分析を行った。結果、虐待者である 息子を年齢別にみると、50 代が 34.0%と最も多く、40 代が 27.8%、60 代が 19.0%と続 く。また、息子が虐待者である場合はその半数が被虐待者と虐待者のみで構成される世帯 であることがわかった。さらに、息子は他の続柄と比べて「虐待者(養護者)の障害・疾 病」や「経済的困窮(経済的問題)」が虐待の発生要因である割合が高いことが示された。

ただし、発生要因についてはその報告が自治体職員の判断に委ねられているため、事実と 異なる場合もあることに注意が必要である。矢吹ほか(2016)は、高齢者虐待の蓋然性の自 覚を介護者に質問紙にて尋ね、続柄別の特徴をまとめている。その結果、「夫が妻」「息子 が母」を介護している場合は介護放棄の蓋然性の自覚が低いこと、また、「息子が母」を介 護している場合は「頻回の呼び出し」「排泄介助の失敗」「嫌みを言われること」が心理的 虐待につながりやすいことを報告している。湯原(2017:8-31)は、各種統計や文献から介 護殺人の実態を調べるとともに、判例データベースから抽出した介護殺人事件と介護体験 談の分析を行い、事件の背景要因を調査している。その結果、2006 年度から 2014 年度ま での9年間の虐待による死亡例調査において、息子が加害者となったケースが 43.0%と最 も多いことが明らかになった。さらに 2009 年度からは介護サービス利用の有無について の情報が収集されており、死亡例のうちサービスを利用していた人は 51.7%にすぎなかっ た。介護者が将来を悲観し事件に至った事例では、介護者と被介護者の閉じた関係性の問 題と経済的困窮から生活に行き詰まる問題が浮き彫りとなっている。

第5節 小括

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先行研究レビューにより次のようなことが明らかになった。介護に関する介護者の感情 については、まず負担感に注目が集まり、その負担感を調べる尺度が開発されるとともに、

介護者の介護負担に影響を与えている要因が調査された。その結果として、介護者と被介 護者との人間関係、主介護者以外の家族のサポートの有無、被介護者の認知症の程度やB PSDの有無などが介護負担に関連することが示された。その後、介護者の肯定的感情に ついての関心が高まり、介護負担感と同時に介護肯定感を測定できる尺度の開発が行われ るようになった。介護肯定感については、「充実感」「自己成長感」「高齢者との一体感」と いった因子や、「介護役割充足感」「高齢者への親近感」「自己成長感」といった因子が抽出 されるなど、介護肯定感は被介護者との関係性のなかで育まれ、自己を成長させるという 介護継続意思や生きがい感につながる感情であることが明らかになっている。

男性介護者の先行研究からは、男性介護者は周囲の人や専門職に援助を求めにくいこと、

「入浴介助」や「排泄介助」など身体接触をともなう介助に困難を感じていること、家事 遂行に困難を感じていること、仕事との両立に困難を感じていること、介護により退職す る場合の困難感が強いことなどの問題が明らかになっている。一方、男性は長年仕事をし てきた人が多いことからそこで培ったマネージメント力を介護に活用できるという可能性 も示唆されている。男性介護者の中でも息子介護者の場合は、特に仕事との両立が課題と なっており、介護により退職することで経済的困窮につながっていく。また、身体接触を ともなう困難については、夫が妻を介護する場合とは異なる困難感を抱いている可能性も 指摘されている。介護支援専門員からみた困難事例では、「夫が妻」「息子が母」の事例が 多く、息子介護者の場合において特に母を介護する場合に対応困難となりやすいことが示 されていた。さらに、息子介護者が母を介護する場合は、娘介護者と比較すると、母から 望まれずに介護に至る場合が多いことが指摘されており、被介護者との関係性が良好でな い状況で介護を開始する可能性が高いことが推察される。

高齢者虐待の視点から捉えた息子介護者の困難感においては、前述の男性介護者及び息 子介護者の特徴、さらに負担感を高める要因にみられるように、息子介護者は負担感をよ り強く感じる状況に追い込まれていると考えられる。先行研究では、介護者と被介護者の 人間関係の悪さ、近隣との交流のなさ、経済的困窮、副介護者がいないこと、介護技術・

知識の不十分さ、介護者と被介護者の閉じた関係性などが高齢者虐待に影響を与えている と指摘されている。

このように介護者と被介護者との人間関係が介護を行う上での心理状態に大きく影響し

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ていることが多くの研究で明らかになっているが、介護が始まるまでの両者の人間関係を 質的に分析している研究は少ない。特に、息子が母を介護している場合に、その人間関係 は息子が子どもの頃まで遡り、母にどのように育てられたと息子が感じているのか、その 後両者がどのような心理的距離で暮らしていたのかということが介護に影響を与えている 可能性があるが、それを論じている研究は見当たらない。息子による母への虐待件数が多 くを占める現状においてこのことを明らかにする必要がある。

また、息子介護者の負担感の大きさは先行研究で論じられているところであるが、息子 介護者が介護を開始するまでの心理から介護に慣れるまで(あるいは、介護を終了するま で)の心理といった心理的変化のプロセスを論じた研究は見当たらない。息子介護者の困 難感の大きさや内容は経過に伴い変化していくであろう。一時点での困難感だけではなく、

介護プロセス全体を通して、困難感を抱きやすい時期とそれに関連する要因を明らかにす ることが重要である。同様に肯定的感情についても明らかにすることができれば、息子介 護者の困難感を軽減したり、肯定的感情を高めるような支援をより適切な時期に提供する ことが可能になる。

本研究においては、上記二点について、質的研究及び量的研究により息子介護者の心理 を明らかにしていくこととする。

1) 日常生活上におけるストレスフルな出来事に対して、人々が持つ対処能力の一つで ある。その人の持つ3つの確信の感覚の程度によって表現される。3つの確信とは、「把握 可能感」(自分が置かれている状況や、将来起こるであろう状況をある程度予測できる確 信)、「処理可能感」(どんな困難な出来事でも切り抜けられるという感覚や何とかなるとい う確信)、「有意味感」(自分の人生・生活や困難なことを乗り越えることに意味があると感 じたり、やりがいがあると感じる確信)である。

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表 1-1 介護に関する尺度(被介護者との関係・肯定的感情・否定的感情)

著者(出版年) 論文名・掲載誌 研究の視点 有効調査対象者と研究方法 研究結果の要約

Zarit Steven H., Reever Karen E., Bach-Peterson J.

(1980)

Relatives of the Impaired Elderly:

Correlates of Feelings of Burden.

The Gerontologist,

20(6),649-655.

介護負担尺 度(質的)

在宅で暮らす老年性認知症の人 29 人 とその主介護者 29 人に、対象者の自 宅でインタビューを行った。介護者の 平均年齢は 65 歳であった。介護者の うち4人が男性で、25 人が女性であ り、18 人が配偶者、11 人が娘であっ た。インタビューにはそれぞれ約1時 間半かかった。

介護者の健康状態、心理的幸福、財政、社会生活、介護者と被介護者と の関係性などを取り入れた介護負担尺度を開発し、介護者の介護負担と それに影響を与えている因子との関連を分析した。高齢者の認知障害の 程度、記憶および行動の障害、機能的能力、病気の期間などのさまざま な変数のうち、主介護者以外の家族の訪問頻度のみが介護者の負担感の 程度に有意に影響していた。最も重い介護負担が報告された項目は、介 護者自身の時間不足、介護者への被介護者の過度の依存、被介護者の行 動のさらなる悪化に対する介護者の不安であった。

市川・中川・大 井・鈴木・深山他 (1985)

虚弱老人のための介護 者・患者関係

日本公衆衛生雑誌,

32(5) :253-257.

被介護者と 介護者の関 係尺度開発

(量的)

長野県佐久市と沖縄県読谷村で在宅寝 たきり高齢者として市に登録されてい る人の介護者を対象とした。佐久市の 調査は 146 人を対象とし、有効回答数 は 125 人で 1984 年 8-9 月に実施し た。読谷村の調査は 55 人を対象と し、有効回答数は 49 人で 1984 年 2-3 月に実施した。

患者と介護者の人間関係の良さを定量的に評価するための尺度を作成 し、その妥当性や有用性について検討した。第1版の中で重要度の高い 23 項目に、高齢者への敬意に関する項目を 11 項目とダミー6 項目を加 え、計 40 項目とした。そのうち第1成分負荷量の絶対値が高い 20 項目 を介護者・患者間の人間関係の良さを表わす簡便な指標として CPR

(Caretaker-Patient Relationship)スコアとした。敬意を表わす項目 として、「高齢者を尊敬してきたか」「高齢者が一生懸命、仕事をしてき たと思うか」という設問がある。

武長・甲斐・大 井・深山・市川他 (1987)

寝たきり老人における異 常精神症状発現と介護 者・患者関係

日本衛生学雑誌,42(2):

563-569.

被介護者と 介護者の関 係尺度開発

(量的)

長野県佐久市の在宅寝たきり高齢者 146 人の介護者を対象とし、有効回答 数は 125 人であった。1983 年 8-9 月 に、アンケート方式による個別面接法 を用いた。また市保健師に介護者・患 者関係を 4 段階で評価してもらい妥当 性を確認した。

高齢者の異常精神症状発現と介護者・高齢者の人間関係との関連を調査 した。ADL と知力低下度をそろえた際、異常精神症状を伴う群と伴わな い群との間には、CPR(Caretaker-Patient Relationship)スコアに明ら かな差が認められ、有症候群では無症候群より得点が低かった。また、

「尊敬」は、高齢者との人間関係を良くする上で、見落とすことのでき ない要素である。スコアの良い群は保健師の評価と一致し、悪い群の中 には保健師が「良い」という評価をした人が含まれていた。

中谷・東條 (1989)

家族介護者の受ける負 担:負担感の測定と要因 分析

社会老年学,29:27-36.

主観的負担 感尺度の開 発

(量的)

東京都内4区2市に居住する認知症の 症状を有する高齢者 600 人を調査対象 総数とし、訪問面接法による調査の結 果、有効回答回収ケースは 426 ケース

(回収率 71%)であった。データの信 頼性を重視し見直しを行った結果、最 終分析は 401 ケースに限定した。調査 期間は 1987 年 2-3 月であった。

主観的負担を測定できるスケールの開発をめざしての試みと、測定され た主観的負担感に影響を及ぼしている客観的負担について明らかにする ことを目的とした。12 項目からなるスケールについて試用した。主介護 者の健康に支障があること、常勤的職業に就いていないこと、副介護人 がいないことが負担感を高める要因になっていた。認知症状のうち、妄 想・幻覚状態、不安・うつ的状態、攻撃的行動の 3 つの因子が、介護者 の負担感を高めており、徘徊などの問題行動、見当識・記憶障害、不潔 行為の 3 つの因子は負担感に影響を与えていなかった。

(25)

18

著者(出版年) 論文名・掲載誌 研究の視点 有効調査対象者と研究方法 研究結果の要約

Lawton,M.P., Kleban,M.H., and Moss,M., et al

(1989)

Measuring Caregiving Appraisal.

Psychological Sciences,44(3):61- 71.

介護評価

(量的)

レスパイト研究プロジェクトにおける 632 人の介護者の回答と別の研究にお ける 239 人の介護者の回答の成分分析 が同様の結果をもたらしたことにより 介護評価を構成する次元を抽出した。

介護評価(Caregiving Appraisal)という言葉を用いて、介護負担とい う側面だけでなく、中立な側面、肯定的な側面も評価できる複合的スコ アを作成した。「介護評価」を構成するものとして、「介護負担感」「介 護の影響」「介護満足感」「介護マスタリー」「伝統的介護イデオロギ ー」という5つの次元に分類している。

吉田・南・黒田

(1997)

要介護高齢者の介護者の 負担感とその関連要因

社会医学研究,

15:7-12.

介護の精神 的負担感尺 度の開発

(量的)

大阪府 2 市の老人介護者の会会員(385 人)と滋賀県 2 市の保健センター等で 把握されている要介護者の家族(205 人)を対象に 1996 年 4 月に郵送調査 を行った。回収された 327 人のうち調 査時点で在宅療養中の人が 217 人であ った。回答不備を除く 215 人を分析対 象とした。

在宅高齢者の家族介護者の精神的負担感を調べるために 10 項目からな る質問票を作成し、その信頼性と妥当性を検討した。また、負担感と要 介護高齢者、介護者、介護状況に関する要因および保健福祉サービスの 利用との関係を分析した。結果、10 項目の質問は妥当性・信頼性ともに 確認された。介護負担感は、要介護者が全介助よりも部分介助のほうが 高く、認知症状があると高くなる。また、副介護者の欠如や睡眠中に起 こされること、仕事への影響、経済的困難が影響される。サポートする 人間関係が欠如していると負担感が高い。ショートステイ利用者は利用 していない人より負担感が高い。

和気 (1998) 高齢者を介護する家族─

エンパワーメント・アプ ローチの展開にむけて─

川島書店,83-90.

家族介護者 の対処スタ イルを測定 する尺度の 開発

(量的)

1991 年から 1992 年にかけて東京都老 人総合研究所が家族介護者に行った調 査(東京都 A 市・群馬県 B 市・長野県 C 市)をもとに記述している。いずれ も老人保健福祉計画の策定に向けた基 礎資料の作成を目的に実施されたもの である。A 市 415 人、B 市 630 人、C 市 519 人、合計 1,564 人を対象とした。

家族介護者の対処スタイルを測定する尺度を作成し、①問題解決(8項 目)②認知変容(4項目)③回避・情動(3項目)の三次元が抽出され た。作成した尺度を用いて調査した結果、女性は、問題解決型と回避・

情動型をより積極的にとる傾向があった。続柄別では、配偶者は「認知 変容型」、嫁は「回避・情動型」をとる傾向が強い。息子は「問題解決 型」をとらない傾向にある。また息子は、他の続柄に比べ、感情表出が 少ないこと、配偶者に比べ静観・待機をとらない傾向が示された。負担 感は介護期間を除くすべてのストレッサーが強まること、介護者の年齢 が若いこと、介護者の健康状態が悪いこと、さらに別居親族からのソー シャルサポートが得られないことによって高まる。問題解決型対処スタ イルは、友人・知人からのソーシャルサポートが得られること、および 介護者の健康状態が良好であることによって促進される。

表 1-1 介護に関する尺度(被介護者との関係・肯定的感情・否定的感情)

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