厚生労働科学研究費補助金(成育疾患克服等次世代育成総合研究事業)
分担研究報告書
小児睡眠に対する親子で使う睡眠教育アプリ開発に関する研究
研究協力者 石井 隆大 (久留米大学小児科学講座)
研究代表者 永光 信一郎 (久留米大学小児科学講座)
A.研究目的
思春期児童の睡眠障害は23.5%とされ、
精神疾患の発症リスクが懸念される。1)〜2) 加えて、平成30年度厚生労働省子ども子 育て支援推進調査研究事業(五十嵐班)で は、思春期児童の障害調整生命年は精神疾 患が上位を占め、睡眠障害の早期発見およ び介入、予防は喫緊の課題である。
児童の睡眠は、幼少期より親子で相互に 影響し合い母子保健課題と言える。3)本邦 では学童初期から半数が添い寝を必要とせ ず睡眠が自立し始めるため4)、この時期の 適切な睡眠教育・介入を親子へ施すことが 有用ではないかと着目した。
また、Internet and Communication Technology(以下:ICT)技術としてのス マートフォン普及率は固定電話に匹敵し、
ほとんどの世帯に浸透している。
そこで、睡眠障害予防スマートフォンア プリケーション(以下:アプリ)の開発を 本研究目的とした。
B.方法
本研究のロードマップを研究実施日程表 に示す。アプリ開発を目標として、以下の 作業項目を実施した。
(1) 本邦の睡眠介入・教育の実態調査 本邦における睡眠介入・教育研究を医学中 央雑誌(以下:医中誌)の検索から調査する。
キーワードを「小児」「睡眠、また睡眠障害」
「教育」「介入」として検索をした。目的の 文献がない場合はハンドサーチを行うこと とした。加えて、ICT を用いた睡眠介入研 究について調査を実施した。
(2) 睡眠障害スクリーニング尺度の選定 得られた文献から小児睡眠障害の早期発 見のため、本邦および国外で広く利用され ているスクリーニング尺度の選定を行い、
アプリへ実装した。
(3) 開発のコンセプト決定
検索で得た文献から課題を抽出し、アプリ コンテンツのコンセプトを決定した。
思春期の睡眠障害は、うつ病に代表される気分障害などの精神疾患のリスクとなる。この課題は、
母子保健課題にも要因を見出すことができるため、本邦では学童・思春期を対象に数々の睡眠障 害予防の介入を実施している。今回、Internet and Communication Technologyを用いた無料の睡 眠障害スクリーニングおよびモニタリング、教育アプリケーション(以下:アプリ)の開発に着 手した。誰もが簡便に睡眠モニタリングを行え、睡眠障害スクリーニングをアプリで行えること が狙いある。開発は今年度に完了し、次年度にパイロット研究、本研究を予定している。今後は 社会実装を目指すこと、アプリの継続性、アプリ内容の拡充や維持費用の課題克服が求められる。
(4) アプリケーション開発
アプリ開発には外部委託が必要であり、
企業打診を並行した。開発の過程を概説す る。打診から企業協力が得られた後、業務 委託契約を締結した。抽出課題からコンセ プト・尺度を決定の後、外部委託企業とコ ンセプトを共有した。アプリはスマートフ ォン向けアプリ本体であるフロントエンド とサーバ側のデータ管理を行うシステムで あるバックエンドから構成される。フロン トエンドは研究代表者がコンテンツを提供 し、バックエンドのシステム構築が完了し た段階で、フロントエンドをアプリストア へのリリースし、バックエンドを管理サー バへ実装することでアプリの完成とする。
(費用)外部委託に要する費用は、研究代表 者の所有する開発研究費を用い、厚生労働 省科学研究費補助金は開発以外に用いた.
(倫理面への配慮) 本研究はヘルシンキ宣
言および人を対象とする医学系研究に関す る倫理指針を遵守した。
C.研究結果
(1)本邦の睡眠介入・教育の実態調査 医中誌検索の結果に本研究目的に沿う文献 の該当はなく、ハンドサーチを実施した。
その結果、教育領域における睡眠教育の効 果を検討した文献が11件見つかった。その 中で学童思春期に該当する文献は8件であ
った。5〜12)ICTを用いた睡眠介入について
も、検索を実施したが医中誌では該当なく、
ハンドサーチで1件の文献を発見した。13)
これらの文献から以下の課題を抽出した。
・教育コンテンツの質の担保。
・認知行動療法の導入。
・モニタリングと教育を並行することで、
認知の歪みを自覚させること。
・ドロップアウト率低下防止策。
・モニタリング尺度は複数導入。
(2)睡眠障害スクリーニング尺度の選定 本邦では、毛利らにより日本版幼児睡眠質 問票が開発された。14) しかし、国際的な標 準化はされていない。国際的な尺度として は、Owen らが開発した子どもの睡眠習慣 質 問 票 ( Children’s Sleep Habit Questi-
onnaire:以下CSHQ)である。15) 多くの
国で標準化され、広く子どもの睡眠障害の スクリーニング尺度として用いられている。
16〜18)本邦では、土井らにより日本語版が作
成されている。19)しかし、標準化研究は実 施されていない。研究代表者は標準化研究 が完了し、論文投稿準備中である。また、標 準化された尺度として有用性を見出したた め、CSHQを尺度として採用した.
(3)開発のコンセプト決定
上記結果からアプリ開発コンセプトを 以下のように定めた。
・認知行動療法の技法を採用。
・ドロップアウト防止目的に以下を導入。
-コンテンツに親子で読める漫画を採用。
-ゲーミフィケーション概念を導入。
-キャラクターが成長する要素を導入。
・モニタリング尺度は複数使用。
(日本語版CSHQ、睡眠日誌、
起床気分のVisual Analog Scaling)
(4)アプリケーション開発
対応Operation System (以下:OS)はiOS のみとした。ユーザーの費用負担はない。
漫画シナリオを研究代表者が作成し、漫画 家へ作画とアプリコンテンツ作成を依頼し た。ストーリーパートと睡眠教育を目的と したレッスンパートの二部構成で認知行動 療法の技法を取り入れた。(構成は以下)
1. 教材の使い方・導入 2. 睡眠表の導入
3. 睡眠表の見方(評価法)
4. 睡眠表の振り返り(認知の歪み)
5. 行動を変える(行動変容)
6. 振り返りと変化のFeedback
7. クロージング(維持)
アプリケーションの構築
研究代表者は株式会社ケセラセラと開発 の委託契約を締結し、コンテンツを提供、
アプリ本体(フロントエンド)の開発を進 めた。サーバ側の管理(バックエンド)構築 も並行し3月に完成・実装を予定している.
アプリケーション画面A・B
睡眠障害スクリーニング尺度の点数が一 目でわかり、ストーリーをクリアするとア バター(男の子、女の子の2パターン)が豪 華に変化する仕組みを採用した。わかりや すく選択ボタンは可能な限り少なくした。
また、誤作動、誤入力防止のためスクリー ニング尺度の入力にチャイルドロック機能 を搭載している。フリガナなど低学年向け の配慮を行い、努めて表現を平易にした。
アプリケーション画面 A
アプリケーション画面 B
バックエンド画面
管理者がユーザー情報を検索し閲覧できる 構成とした。睡眠時間や CSHQ の変化、
CSHQの平均や標準変化をリアルタイムで 閲覧できる仕組みを構築している。
バックエンド画面 A
D.考察
今回、睡眠障害のスクリーニングおよび睡 眠教育・介入を誰でも無料に利用すること ができるアプリの開発に着手することがで きた。今後、社会実装を目指すため、対象を 限定したパイロット研究を実施し,有用性 の検証研究を行う。
また、先行研究から13)、アプリ継続性やア プリ内容の拡充の課題克服が必須と考えら れる。さらに利用者とのインタラクティブ
(双方向)にも課題があるため、その課題 については他の研究(AIによる自動化など)
との共同展開も期待できると考える.
研究の継続性に関わる維持費については、
成果が得られ社会実装が実現された場合、
最も大きな課題と言える。規模が拡大され
Big Data の集約が可能となった場合、e-
PRO(Electric Patient Reported Outcome:電 子患者報告アウトカム)の必須要項を満た さなければならず、サーバの保全、データ の真正性や見読性を担保することが必須で ある。そのため、現在は無料レンタルサー バでの運用が可能な規模であるが、規模拡 大が実現された場合、ランニングコストが 必ず発生する。加えて、端末の OS に対応 させるためのアプリ自体の保全・改修も求 められる点も懸念される.
E.結論
今回、親子で取り組める児童早期向けの睡 眠介入アプリの開発に着手し、年度内完成 予定である。今後、効果実証研究を行うと ともに課題克服のための改善策を模索する。
【参考文献】
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F.研究発表
石井隆大. 第2回 日本小児心身医学会学 術集会 最優秀演題賞 子どもの睡眠習慣 質問票―日本語版―の標準化研究とその分 析 第37回日本小児心身医学会学術集会 2019年9月14日(広島)
G.知的財産権の出願・登録状況
(予定を含む)
1.特許取得 未定
今後, 特許取得出願の可能性あり 2.実用新案登録 未定
今後, 出願の可能性あり 3.その他 なし