本稿の目的は,東日本大震災の津波被災地にて作られたある紙芝居の作成過程を提示しながら,
震災の記憶がいかに集合化されひとつの物語となっていくのかを明らかにすることである。この紙 芝居は,宮城県七ヶ浜町で毎年開催されている 3.11 のメモリアルイベントで披露するべく作成さ れたものであり,震災時の出来事や教訓を次世代に伝えることを目的としていた。そえゆえ,紙芝 居には町民の被災経験に関する語りが多数盛り込まれた。また,紙芝居の作成には七ヶ浜町で暮ら す住民有志(メモリアルイベント実行委員会)が主体的に関わっていたが,それ以外にも七ヶ浜町で 震災に関する調査を行ってきた研究者(筆者もその一人)も関わってきた。本稿では,まず宮城県 七ヶ浜町の被災状況について述べた上で,紙芝居を作るきっかけ,そしてメモリアルイベント実行 委員会による紙芝居の作成現場について記述し,被災経験が物語として再構成されていくプロセス について検討した。
結果的に,紙芝居は試行錯誤の末に完成し,実行委員会のメンバーにとってもそれをみた町民に とっても共有可能な物語となった。しかし,紙芝居のストーリーを作る中で,ストーリーの方向性や 採用されるエピソードをめぐって作り手同士の葛藤やせめぎ合いがみられた。紙芝居をつくるとい う作業が浮き彫りにしたことは,七ヶ浜町における被災の記憶がバリエーションに富むものであり,
「津波被災地」として一括りにして捉えられることへのある種の抵抗でもあった。何かをコメモレイショ ンする場においては,記憶や声が取捨選択されて共有可能なものへと作り替えられていくことがあ る。そこから漏れ落ちた記憶と当事者たちがどのように向き合っていくのかは今後も注視したい。
【キーワード】東日本大震災,災害,記憶,紙芝居,葛藤 はじめに
❶宮城県七ヶ浜町について
❷「七ヶ浜町の 3.11」物語を作る
❸「震災の記憶」をめぐる葛藤 おわりに
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国立歴史民俗博物館研究報告 第214集 2019年3月
災害の記憶をめぐる実践と葛藤
兼城糸絵
Disasters Memories in Practice and the Struggles Involved:
a Focus on a Memorial Event at an Area Struck by Tsunami in the Great East Japan Earthquake Disaster
KANESHIRO Itoe
[論文要旨]
東日本大震災の津波被災地における メモリアルイベントに注目して