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夫婦同氏規定と憲法

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夫婦同氏規定と憲法 愛媛大学教育学部紀要 第 67 巻 201~212 2020

夫 婦 同 氏 規 定 と 憲 法

( 社 会 科 教 育 講 座 )

中 曽 久 雄

C o u p l e ' s R u le a n d C o n s t i t u t i o n a l L a w H i s a o N A KA S O

( 2 0 2 0 年 9 月 1 日 受 理 )

1 .は じ め に

民 法750条(以下、本規定)は 、婚 姻 の 際 に 夫 又 は 妻 の 氏 を 称 す る こ と と し 、夫婦同 氏を規 定 し て い る 。 旧 民 法 下 で は 、「 戸 主 及 ヒ 家 族 ハ 其 ノ 家 ノ 氏 ヲ 称 ス ル 」( 旧 民 法 746 条 ) こ と が 規 定 さ れ 、 妻 は 原 則 と し て 、「 婚 姻 二 因 リ テ 夫 ノ家二入ル」(旧民法 788 条 ) こ と に よ っ て 夫 の 家 の 氏 を 称 す る も の と さ れ た 。戦 前 で は 、妻 の 夫 の 家 へ の 従 属 的 地 位 を 前 提 と し た 夫 婦 同 氏 原 則 が 定 め ら れ て い た わ け で あ る が 、戦 後 の 民 法 改 正 に よ り こ れ が 否 定 さ れ た 。本 規 定 は 一 見 中 立 的 に み え る が 、圧 倒 的 多 数 の 夫 婦 が 夫 の 氏 を 選 択 し て お り 、婚 姻 後 も 妻 の 氏 を 称 す る こ と を 希 望 す る 女 性 に は 不 利 に 働 く と さ れ て い る1。 従 来 か ら 、 夫婦 同氏を規定し た本規 定 は 、 憲 法 13 条 に よ っ て 保 障 さ れ る 氏 の 変 更 を 強 制 さ れ な い 自 由 、 憲 法 24 条 に よ っ て 保 障 さ れ る 婚 姻 の 自 由 を 侵 害 す る も の で は な い か 、と 指 摘 されてきた。本稿では 、こ う し た 指 摘 を 踏 ま え 本 規 定 の 合 憲 性2を 検 討 す る 。

1 安 西 文 雄・巻 美 矢 紀 ・宍 戸 常 寿 『憲 法 学 読 本』 (有 斐 閣 、2012年) 108 (安 西 文 雄 担 当 )、武 田 万 里 子

「第24条」 芹 沢 斉 ・市 川 正 人・阪 口 正 二 郎 編 『新 基 本 法コンメンタール 憲 法』 (日 本 評 論 社 、2011年) 213 頁、辻 村 みよ子 『憲 法とジェンダー』 (有 斐 閣、2009 年 ) 152頁 。

2 平 成 27年 に最 高 裁が初 めて憲 法 判 断を示 した。そこ

では以 下のように判 示された。まず、13条を侵 害 するか どうかについて、「氏は、婚 姻 及 び家 族に関 する法 制 度 の一 部 として法 律 がその具 体 的な内 容を規 律 しているも のであるから、氏に関 する上 記 人 格 権 の内 容 も、憲 法 上 一 義 的に捉 えられるべきものではなく、憲 法 の趣 旨 を踏 まえつつ定められる法 制 度をまって初 めて具 体 的 に捉 え られるものである。したがって、具 体 的 な法 制 度 を 離 れて、

氏 が変 更 されること自 体 を 捉 えて直 ちに人 格 権 を 侵 害 し 、 違 憲 であるか否 かを 論 ずることは相 当 ではない」。そして 、

「本 件 で問 題となっているのは、婚 姻という身 分 関 係の変 動を自 らの意 思 で選 択 することに伴って夫 婦 の一 方が氏 を改 めるという場 面 であって、自 らの意 思に関 わりなく氏 を改 めることが強 制されるというものではない。氏は 、個 人 の呼 称 としての意 義 があり、名とあいまって社 会 的 に個 人 を他 人から識 別 し特 定 する機 能を有するものであることか らすれば、自 らの意 思のみによって自 由に定 めたり、又 は 改めたりすることを認めることは本 来の性 質 に沿わないも のであり、一 定 の統 一された基 準 に従って定められ、又 は改 められるとすることが不 自 然 な取 扱いとはいえないと ころ、上 記 のように、氏 に、名とは切り離された存 在 として 社 会の構 成 要 素 である家 族の呼 称 としての意 義があるこ とからすれば、氏が、親 子 関 係 など一 定 の身 分 関 係を反 映 し、婚 姻を含 めた身 分 関 係の変 動 に伴って改 められる ことがあり得 ることは、その性 質 上 予 定 されているといえ る」。以 上のような現 行 の法 制 度の下における氏の性 質 等に鑑 みると、婚 姻の際に「氏 の変 更を強 制されない自 由」が憲 法 上 の権 利として保 障される人 格 権 の一 内 容 で あるとはいえず、憲 法 13条 に違 反するものではないとす る。

次に、本 規 定が憲 法141項 に違 反 するかについて である。本 規 定は「夫 婦 が夫 又は妻の氏を称 するものとし ており、夫 婦 がいずれの氏を称 するかを夫 婦となろうとす る者 の間の協 議に委 ねているのであって 、その文 言 上 性 別に基 づく法 的 な差 別 的 取 扱いを定 めているわけではな く」、「夫 婦 同 氏 制 それ自 体 に男 女 間の形 式 的な不 平 等 が存 在 するわけではない。我 が国において、夫 婦 となろう とする者の間 の個々の協 議 の結 果として夫の氏を選 択 す る夫 婦 が圧 倒 的 多 数を占めることが認められるとしても」、

本 規 定「から生 じた結 果 であるということはできない」。

(2)

2 .本 規 定 と 氏 名 権

本 規 定 は 夫 婦 同 氏 原 則 を 規 定 し て い る が 、婚 姻 の 効 果 と し て 、夫 ま た は 妻 の 一 方 は 従 来 通 り の 氏 を 称 す る こ と が で き る が 、他方は氏 を相手 方 の 氏 に 変 更 す る 必 要 が あ る( 当 事 者 が 氏 の 決 定 を し な い 場 合 に は 、 婚 姻 届 は 受 理 さ れ な い )

3。いずれの氏を称するかは当事者に委ねら れて たがって、憲 法141項に違 反 するものではないとす る。

最 後に、本 件が憲 法24条 に違 反するかについて、本 規 定は「婚 姻 の効 力の一 つとして夫 婦 が夫 又は妻 の氏 を称 することを定 めたものであり、婚 姻をすることについて の直 接 の制 約を定めたものではない。仮 に、婚 姻 及 び家 族に関 する法 制 度 の内 容に意に沿 わないところがあるこ とを理 由として婚 姻をしないことを選 択 した者がいるとして も、これをもって、直ちに上 記 法 制 度を定 めた法 律 が婚 姻をすることについて憲法241項の趣 旨に沿 わない 制 約を課 したものと評 価 することはできない」とする。更 に 憲 法24条 にも適 合 するかどうかは、「当 該 法 制 度 の趣 旨 や同 制 度を採 用することにより生ずる影 響につき検 討 し、

当 該 規 定 が個 人の尊 厳と両 性 の本 質 的 平 等の要 請に 照 らして合 理 性を欠き、国 会の立 法 裁 量の範 囲 を超 える ものとみざるを得ないような場 合に当 たるか否かという観 点から判 断 すべきものとするのが相 当 である」。「氏 は、家 族の呼 称 としての意 義があるところ、現 行の民 法 の下に おいても、家 族は社 会 の自 然かつ基 礎 的 な集 団 単 位と 捉 えられ、その呼 称を一つに定めることには合 理 性が認 められる。そして、夫 婦が同 一 の氏を称することは、上 記 の家 族 という一 つの集 団を構 成 する一 員 であることを、対 外 的に公 示 し、識 別 する機 能を有 している。特 に、婚 姻 の重 要 な効 果として夫 婦 間 の子が夫 婦 の共 同 親 権に服 する嫡 出 子となるということがあるところ、嫡 出 子 であること を示 すために子が両 親 双 方と同 氏 である仕 組みを確 保 することにも一 定 の意 義があると考 えられる。また、家 族を 構 成 する個 人が、同 一の氏を称 することにより家 族 という 一 つの集 団を構 成 する一 員 であることを実 感 することに 意 義を見 いだす考 え方 も理 解 できるところである。さらに、

夫 婦 同 氏 制 の下においては、子の立 場として、いずれの 親とも等しく氏を同 じくすることによる利 益を享 受 しやすい といえる」。 また、「氏の選 択に関 し、夫 の氏を選 択 する 夫 婦が圧 倒 的 多 数 を占めている現 状からすれば、妻とな る女 性 が上 記の不 利 益を受 ける場 合が多 い状 況 が生 じ ているものと推 認 できる。さらには、夫 婦となろうとする者 のいずれかがこれらの不 利 益 を受 けることを避 けるために 、 あえて婚 姻 をしないという選 択 をする者 が存 在することもう かがわれる。しかし、夫 婦 同 氏 制は、婚 姻 前の氏を通 称 として使 用 することまで許 さないというものではなく 、近 時 、 婚 姻 前の氏 を通 称として使 用 することが社 会 的 に広 まっ ているところ、上 記 の不 利 益は、このような氏 の通 称 使 用 が広 まることにより一 定 程 度 は緩 和され得るものである」。

したがって、本 規 定は、憲 法24条に違 反 するものではな いとする。本 判 決については、中 曽 久 雄 「夫 婦 同 氏 規 程(民 法750条)の合 憲 性(最 高 裁 大 法 廷 判 決 平 成27 1216日)」地 域 創 成 研 究 年 報 11巻(2016年)41 頁。

3 床 谷 文 雄 「夫 婦 の平 等と別 姓」 法 学 教 室 125

1991年) 1415頁 。

お り 、形 の 上 で は 平 等 で あ る が 、圧 倒 的 に 妻 が 夫 の 氏 を 選 択 し て い る4。そこで 、ま ず 、夫 婦 同 氏 の 問 題 と し て 挙 げ ら れ る の は 、氏名権 の侵害 に つ い て で あ る 。

2 - 1 . 氏 名 権 と 憲 法 13 条

氏 名 は 人 格 的 利 益 に 関 連 し て い る 。こ の 点 は 、 判 例 に お い て も 承 認 さ れ て い る 。氏 名 は「 自 己 そ の も の を あ ら わ す も の・個 人 の 呼 称 の 側 面 を も ち 、自 己 と は 何 か を 確 認 す る 自 己 存 在 確 認 利 益 に か か わ る も の 」で あ る5。また 、NHK日 本 語 訴 訟6で は 、氏 名 を 正 確 に 呼 称 さ れ る 人 格 的 利 益 を 導 く 前 提 と し て 、「 氏 名 は 、 社 会 的 に み れ ば 、個 人 を 他 人 か ら 識 別 し 特 定 す る 機 能 を 有 す る も の で あ る が 、同 時 に 、その個人からみ れば 、 人 が 個 人 と し て 尊 重 さ れ る 基 礎 で あ り 、そ の 個 人 の 人 格 の 象 徴 で あ っ て 、人格権の一内 容を構 成する」と判示した。その後も氏名権侵害は不 法 行 為 と し て 認 め ら れ て い る 。銀 行 口 座 、証 券 顧 客 口 座 開 設 、生 命 保 険 契 約 の 締 結 に 他 人 の 氏 名 を 無 断 使 用 し た こ と が 不 法 行 為 に 該 当 す る か 否 か が 争 わ れ た 事 案7に お い て は 、「氏名 は 、 人 が 個 人 と し て 尊 重 さ れ る 基 礎 で あ り 、そ の 個 人 に と っ て 人 格 の 象 徴 と し て 、その人格 の一部 に な っ て い る も の で あ る か ら 、人格権の 一内容 と し て 、人 は 他 人 に 自 己 の 氏 名 を 無 断 で 使 用 さ れ な い こ と に つ い て 不 法 行 為 法 上 の 保 護 を 受 け う る 人 格 的 な 利 益 を 有 す る も の と い う べ き である」とされている。また 、警察のい わゆる 裏 金 作 り に 使 用 さ れ た 捜 査 用 報 償 費 の 支 払 精 算 書 に 無 断 で 受 取 人 と し て 氏 名 を 使 用 さ れ た 者 が 、氏 名 権 侵 害 に よ る 慰 謝 料 請 求 を 求 め た 事 案8で は 、「 氏 名 は 、 社会的 にみれば 、 個 人 を他 人 か ら 識 別 し 特 定 す る 機 能 を 有 す る も の で あ る が 、同 時 に 、その個人 からみれば 、人 が個人

4 二 宮 周 平 『家 族 法 』 (新 世 社、1999年) 3334 頁。

5 竹 中 勲 『憲 法 上 の自 己 決 定 権』 (成 文 堂 、2010年)

201頁 。

6 最 判 昭 和63216日 民 集 42227頁。

7 東 京 高 判 平2247日 判 例 時 報208381頁 。

8 札 幌 地 判 平17818日 判 例 時 報 1913112 頁。

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2 .本 規 定 と 氏 名 権

本 規 定 は 夫 婦 同 氏 原 則 を 規 定 し て い る が 、婚 姻 の 効 果 と し て 、夫 ま た は 妻 の 一 方 は 従 来 通 り の 氏 を 称 す る こ と が で き る が 、他方は氏 を相手 方 の 氏 に 変 更 す る 必 要 が あ る( 当 事 者 が 氏 の 決 定 を し な い 場 合 に は 、 婚 姻 届 は 受 理 さ れ な い )

3。いずれの氏を称するかは当事者に委ねら れて たがって、憲 法141項に違 反 するものではないとす る。

最 後に、本 件が憲 法 24条 に違 反するかについて、本 規 定は「婚 姻 の効 力の一 つとして夫 婦 が夫 又は妻 の氏 を称 することを定 めたものであり、婚 姻をすることについて の直 接 の制 約を定めたものではない。仮 に、婚 姻 及 び家 族に関 する法 制 度 の内 容に意に沿 わないところがあるこ とを理 由として婚 姻をしないことを選 択 した者がいるとして も、これをもって、直ちに上 記 法 制 度を定 めた法 律 が婚 姻をすることについて憲法241項の趣 旨に沿 わない 制 約を課 したものと評 価 することはできない」とする。更 に 憲 法24条 にも適 合 するかどうかは、「当 該 法 制 度 の趣 旨 や同 制 度を採 用することにより生ずる影 響につき検 討 し、

当 該 規 定 が個 人の尊 厳と両 性 の本 質 的 平 等の要 請に 照 らして合 理 性を欠き、国 会の立 法 裁 量の範 囲 を超 える ものとみざるを得ないような場 合に当 たるか否かという観 点から判 断 すべきものとするのが相 当 である」。「氏 は、家 族の呼 称 としての意 義があるところ、現 行の民 法 の下に おいても、家 族は社 会 の自 然かつ基 礎 的 な集 団 単 位と 捉 えられ、その呼 称を一つに定めることには合 理 性が認 められる。そして、夫 婦が同 一 の氏を称することは、上 記 の家 族 という一 つの集 団を構 成 する一 員 であることを、対 外 的に公 示 し、識 別 する機 能を有 している。特 に、婚 姻 の重 要 な効 果として夫 婦 間 の子が夫 婦 の共 同 親 権に服 する嫡 出 子となるということがあるところ、嫡 出 子 であること を示 すために子が両 親 双 方と同 氏 である仕 組みを確 保 することにも一 定 の意 義があると考 えられる。また、家 族を 構 成 する個 人が、同 一の氏を称 することにより家 族 という 一 つの集 団を構 成 する一 員 であることを実 感 することに 意 義を見 いだす考 え方 も理 解 できるところである。さらに、

夫 婦 同 氏 制 の下においては、子の立 場として、いずれの 親とも等しく氏を同 じくすることによる利 益を享 受 しやすい といえる」。 また、「氏の選 択に関 し、夫 の氏を選 択 する 夫 婦が圧 倒 的 多 数 を占めている現 状からすれば、妻とな る女 性 が上 記の不 利 益を受 ける場 合が多 い状 況 が生 じ ているものと推 認 できる。さらには、夫 婦となろうとする者 のいずれかがこれらの不 利 益 を受 けることを避 けるために 、 あえて婚 姻 をしないという選 択 をする者 が存 在することもう かがわれる。しかし、夫 婦 同 氏 制は、婚 姻 前の氏を通 称 として使 用 することまで許 さないというものではなく 、近 時 、 婚 姻 前の氏 を通 称として使 用 することが社 会 的 に広 まっ ているところ、上 記 の不 利 益は、このような氏 の通 称 使 用 が広 まることにより一 定 程 度 は緩 和され得るものである」。

したがって、本 規 定は、憲 法24条に違 反 するものではな いとする。本 判 決については、中 曽 久 雄 「夫 婦 同 氏 規 程(民 法750条)の合 憲 性(最 高 裁 大 法 廷 判 決 平 成27 1216日)」地 域 創 成 研 究 年 報11巻(2016年)41 頁。

3 床 谷 文 雄 「夫 婦 の平 等と別 姓」 法 学 教 室 125

1991年) 1415頁 。

お り 、形 の 上 で は 平 等 で あ る が 、圧 倒 的 に 妻 が 夫 の 氏 を 選 択 し て い る4。そこで 、ま ず 、夫 婦 同 氏 の 問 題 と し て 挙 げ ら れ る の は 、氏名権 の侵害 に つ い て で あ る 。

2 - 1 . 氏 名 権 と 憲 法 13 条

氏 名 は 人 格 的 利 益 に 関 連 し て い る 。こ の 点 は 、 判 例 に お い て も 承 認 さ れ て い る 。氏 名 は「 自 己 そ の も の を あ ら わ す も の・個 人 の 呼 称 の 側 面 を も ち 、自 己 と は 何 か を 確 認 す る 自 己 存 在 確 認 利 益 に か か わ る も の 」で あ る5。また 、NHK日 本 語 訴 訟6で は 、氏 名 を 正 確 に 呼 称 さ れ る 人 格 的 利 益 を 導 く 前 提 と し て 、「 氏 名 は 、 社 会 的 に み れ ば 、個 人 を 他 人 か ら 識 別 し 特 定 す る 機 能 を 有 す る も の で あ る が 、同 時 に 、その個人からみ れば 、 人 が 個 人 と し て 尊 重 さ れ る 基 礎 で あ り 、そ の 個 人 の 人 格 の 象 徴 で あ っ て 、人格権の一内 容を構 成する」と判示した。その後も氏名権侵害は不 法 行 為 と し て 認 め ら れ て い る 。銀 行 口 座 、証 券 顧 客 口 座 開 設 、生 命 保 険 契 約 の 締 結 に 他 人 の 氏 名 を 無 断 使 用 し た こ と が 不 法 行 為 に 該 当 す る か 否 か が 争 わ れ た 事 案7に お い て は 、「氏名 は 、 人 が 個 人 と し て 尊 重 さ れ る 基 礎 で あ り 、そ の 個 人 に と っ て 人 格 の 象 徴 と し て 、その人格 の一部 に な っ て い る も の で あ る か ら 、人格権の 一内容 と し て 、人 は 他 人 に 自 己 の 氏 名 を 無 断 で 使 用 さ れ な い こ と に つ い て 不 法 行 為 法 上 の 保 護 を 受 け う る 人 格 的 な 利 益 を 有 す る も の と い う べ き である」とされている。また 、警察のい わゆる 裏 金 作 り に 使 用 さ れ た 捜 査 用 報 償 費 の 支 払 精 算 書 に 無 断 で 受 取 人 と し て 氏 名 を 使 用 さ れ た 者 が 、氏 名 権 侵 害 に よ る 慰 謝 料 請 求 を 求 め た 事 案8で は 、「 氏 名 は 、 社会的 にみれば 、 個 人 を他 人 か ら 識 別 し 特 定 す る 機 能 を 有 す る も の で あ る が 、同 時 に 、その個人 からみれば 、人 が個人

4 二 宮 周 平 『家 族 法 』 (新 世 社、1999年) 3334 頁。

5 竹 中 勲 『憲 法 上 の自 己 決 定 権』 (成 文 堂 、2010年)

201頁 。

6 最 判 昭 和63216日 民 集 42227頁。

7 東 京 高 判 平2247日 判 例 時 報208381頁 。

8 札 幌 地 判 平17818日 判 例 時 報 1913112 頁。

と し て 尊 重 さ れ る 基 礎 で あ り 、その個人 の人格 の 象 徴 で あ っ て 、人 格 権 の 一 内 容 を 構 成 す る も の と い う べ き で あ 」 り 、「 他 人 の 氏 名 を 無 断 で 使 用 し 、 真 実 に 反 す る 事 実 を 記 載 す る こ と は 、 日 記 等 の 他 人 の 閲 覧 を 予 定 し な い 個 人 的 な も の に さ れ る 場 合 を 除 き 、原 則 と し て 、そ れ 自 体 で 氏 名 権 を 侵 害 す る も の と 解 す る の が 相 当 で あ る 」 と さ れ て い る 。

こ う し て、判 例 上 、氏 名は 、人の同一 性を示 す も の と し て 人 格 と 密 接 に 関 連 し 、氏名 権が人 格 権 の 一 内 容 し て 位 置 づ け ら れ て い る 。

憲 法 の 観 点 か ら す れ ば 、氏名権の本質は 自己 決 定 権 に 求 め ら れ る こ と に な る9。周知のように 、 自 己 決 定 権 を め ぐ っ て は 以 下 の 学 説 の 対 立 が 存 在 し て い る 。 ま ず 、 人 格 的 自 律 権 説 で あ る 。 人 格 的 自 律 権 説 は 、人 権 保 障 の 基 礎 理 論 と 関 連 さ せ つ つ、自 己 決 定 権 が 保 障 さ れ る 理 由 は 自 己 決 定 が 個 々 人 の 善 き 生 に と っ て 不 可 欠 だ か ら と い う こ と に な る 。そ し て 、人格的自律権 説は 、 列 挙 さ れ て い な い 権 利 の 中 に 人 格 的 自 律 に 調 和 的 性 質 と い う 共 通 項 を 見 出 し 、そうす ること で 自 己 決 定 権 を1つ の 憲 法 上 の 権 利 と し て 基 礎 付 け し 類 型 化 を 行 お う と す る 。人 格 的 自 律 権 説 を 主 張 す る 佐 藤 幸 治 博 士 は 、以下の類型 化を行 う 。13 条 の も と で 補 充 的 保 障 対 象 と な る も の に つ い て 、①「 人 格 価 値 そ の も の に ま つ わ る 権 利 」

( 例 、名 誉 権 、プライヴ ァシーの権利 、環 境 権

〔人格権〕)、②「人格的自律権(自己決定 権)」、

③「 適 正 な手 続 的 処 遇 を う け る 権 利 」お よ び ④

「 参 政 権 的 権 利 」を 挙 げ る 。一 方 で 、① 「 人 格 価 値 そ の も の に ま つ わ る 権 利 」の 内 実 で あ る と さ れ る 名 誉 権 、プ ラ イ ヴ ァ シ ー の 権 利 、環 境 権

(人格権)は 、権 利 の カ テ ゴ リ ー と し て そ れ な り の 特 定 性 ・ 明 確 性 を も っ て い る と い え る が 、 他 方 で 、 ② 「 人 格 的 自 律 権 ( 自 己 決 定 権 )」 の カテゴリーは「漠然としていることは否 めない」

とする。そこで 、② の 内 容 に つ い て 細 分 化 を 行 い 以 下 の よ う に 類 型 化 を 行 う 。ⅰ「自己の 生命 、

9 二 宮 周 平 「氏 名 権 と通 称 使 用」 阪 大 法 学4423 1994年) 497頁 。

身 体 の 処 分 に か か わ る 事 柄 」、ⅱ「家族の 形 成 ・ 維 持 に か か わ る 事 柄 」、 ⅲ 「 リ プ ロ ダ ク シ ョ ン に か か わ る 事 柄 」、 ⅳ 「 そ の 他 の 事 柄 」 に 類 型 化を 行う10。上 述の 類型 化し た以 外の 自由 に つ い て も 、「 規 制 の 趣 旨 ・ 強 度 如 何 に よ っ て は 結 果 的 に 個 別 的 権 利・自 由 の 侵 害 と い う べ き 場 合 がありうる」として 、13 条 の 前 段 の 問 題 に と ど ま ら ず 、後 段 の 補 充 的 保 障 の 対 象 と な る「 自 己 決定権」の侵害とすべき場合がありうる という こと を認 める11。芦 部信 喜博 士も 佐藤 博士 に 近 い 立 場 を 示 し て い る 。芦 部 博 士 は 、13 条 の も と で 保 障 さ れ る 権 利 を「 ① 身体の自由(生命を含 む )、 ② 精 神 活 動 の 自 由 、 ③ 経 済 活 動 の 自 由 、

④ 人 格 価 値 そ の も の に ま つ わ る 権 利 、⑤ 人 格 的 自 律 権 ( 自 己 決 定 権 )、 ⑥ 適 正 な 手 続 的 処 遇 を う け る 権 利 、⑦ 参政的権利 」に類型化す る。も っ と も 、 芦 部 博 士 は 、「 幸 福 追 求 権 の 中 身 を 構 成 す る 人 格 的 利 益 は 、実 際 に は か な り 限 定 さ れ たものとなる」という。というのは 、① に つ い て は 、31条 を い か に 理 解 す る か に も よ る が 、少 な く と も 、刑 事 手 続 に つ い て 手 続・実 体 の 適 正 さ が 要 求 さ れ る と す る な ら ば 、他の詳細 な規定 が 存 在 し 、13条 の 適 用 さ れ る 場 面 は ほ と ん ど な い 。 ま た 、 ② ・ ③ に ついて も 、19~23 条 ・29 条 に よ り カ バ ー さ れ る の で 、13条 が 保 障 機 能 を 及 ぼ す 必 要 は な い 。さ ら に 、⑥ に つ い て は 、行 政 手 続 と 問 題 と な る が 、行政過程におけ る公知 と 聴 聞 は31条 の 問 題 で あ っ て 、⑦ につい ても 、 公 務 就 任 権 を 必 ず し も 13 条 を 根 拠 と す る 必 要 は な く 、ま た 、ど の 規 定 を 根 拠 と し て も 実 体 問 題に 差が 生じ るわ けで はな いと いう12。そ う す る と 、13 条 の 固 有 の 問 題 で あ る の は ④ と ⑤ で あ る 。④ と ⑤ は「広義のプ ライバシー権」として 一 体 的 に 捉 え ら れ13、13条 の も と で 保 障 さ れ る 権 利 ( 広 義 の プ ラ イ バ シ ー 権 ) に つ い て 、「 個

10 佐 藤 幸 治 『現 代 国 家 と人 権』 (有 斐 閣 、2008年)

101頁 。

11 佐 藤・前 掲 注(10 109 頁。

12 芦 部 信 喜 『憲 法 学 Ⅱ 人 権 総 論 』 (有 斐 閣 、1994 年) 351354頁。

13 芦 部・前 掲 注(12 355 頁。

(4)

人 の 人 格 的 生 存 に 不 可 欠 な 利 益 」 の み が 13 条 の も と で 保 護 さ れ る 。

こ れ に 対 し て 、一 般 的 自 由 権 説 で あ る 。も っ と も 、一 般 的 自 由 と は い っ て も 、文 字 通 り す べ て の 自 由 が 保 障 さ れ る わ け で は な く 、他 者に対 し て 加 害 行 為 を 行 う 自 由 は 除 外 し て お り 、保 障 範 囲 を 無 限 定 と は し て な い14。「公共の福祉 に 反 し な い 限 り 一 般 的 に 自 由 を 拘 束 さ れ な い と す る 一 般 的 自 由 権 の 存 在 が 認 め ら れ る 」の で あ る

15。一 般的 自由 権説 は 、 他者 に加 害を 与え る 自 由 を 除 い て 自 由 の 範 囲 を 限 定 し な い 点 で 自 己 決 定 権 の 射 程 が 一 般 的 自 由 に ま で 広 が る こ と になる。したがって 、一 般 的 自 由 権 説 の も と で 、 一般 的自 由と 自己 決定 は同 義と なる16。一 般 的 自 由 権 の も と で 、自 己 決 定 権 の 保 障 に 際 し て の 焦 点 は 、「 自 分 の こ と は 自 分 で 決 め る 、 他 人 の 干 渉 を 受 け な い 」と い う と こ ろ に あ る 。何 に つ い て の 自 己 決 定 と い っ た も の は 、二次的 な意味 し か も た な い 。 た と え 些 細 な こ と で あ っ て も 、 自 己 決 定 を 阻 害 さ れ る と 、自己決定権の 侵害に な る17。も っと も 、 一般 的自 由権 説の もと で 、 自 己 決 定 権 は 、個 々 の 行 為 を 人 権 と し て 保 障 さ れ る の で な く 、一 般 的 行 為 自 由 と い う1 つ の 人 権 と し て 保 障 さ れ る こ と に な る 。そ こ で 、こ の 点 を 憲 法 規 範 の レ ベ ル で の 「 人 権 」 の 保 障 と 、 現 実 の 行 為 の レ ベ ル で の「 人 権 に よ っ て 保 護 さ れ る 行 為 」 と の 相 関 関 係 に 依 拠 し て 説 明 す る 。 オ ー ト バ イ に 乗 る 権 利 、登 山 の 権 利 、馬 に 乗 る 権 利 が 、バ ラ バ ラ の 人 権 と し て 13 条 か ら 出 て く る わ け で は な い 。「 自 分 が 決 め る べ き 問 題 に つ い て 国 家 に よ っ て 不 当 に 制 約 さ れ な い と い う 権 利 が あ り 」、 そ の 1 つ の 内 容 と し て 個 別 の 自由 が存 在す ると いう こと にな る18。 ま た 、 一

14 戸 波 江 二 『憲 法 [新 版] (ぎょうせい、1998年 ) 175178頁 。

15 橋 本 公 亘 『日 本 国 憲 法 』 (有 斐 閣 、1998年) 218

220頁。

16 辻 村 みよ子 『女 性と人 権』 (日 本 評 論 社 、1997年)

238頁 。

17 戸 波 江 二・小 山 剛 「幸 福 追 求 権と自 己 決 定 権」 上 典 之・小 山 剛・山 元 一 編 『憲 法 学 説に聞 く』 (日 本 評 論 社 、2004年) 2 021頁。

18 戸 波・小 山 前 掲 注 (17 11頁。

般 的 自 由 権 説 の も と で も 、自己決定に対 する制 限 が 直 ち に 違 憲 に な る わ け で は な い 。一 般 的 行 為 自 由 は 、自 己 決 定 に つ い て 、人 格 に 関 連 す る 行 為 と そ う で な い も の と の 間 で 違 憲 審 査 の 厳 格 度 に 段 階 付 け を 行 う19

2 - 2 . 本 規 定 は 氏 名 保 持 権 の 侵 害 で あ る の か

こ こ で 問 題 と な っ て い る の は 、一般的な 氏名 の 選 択 の 自 由 と は 区 別 さ れ る と こ ろ の 氏 名 保 持権 であ る20。一般 的な 氏名 の選 択の 自由 に つ い て は 、自 己 決 定 権 と し て 承 認 す べ き で あ る と す る 見 解 が 有 力 で あ る 。 例 え ば 、 憲 法 13 条 か ら「自己の名を他から干渉されずに自由 に選択 し そ れ を 公 証 さ せ る 権 利 」と し て の「 氏 名 選 択 権」が導き出されると主張する見解が存 在する

21。そ こで 、 一 般的 な氏 名選 択の 自由 とは 区 別 さ れ る 氏 名 保 持 権 は 、自 己 決 定 権 と し て 承 認 さ れ る の で あ ろ う か 。自 己 決 定 権 の 本 来 の 趣 旨 か ら す れ ば 、氏 名 保 持 権 に つ い て も 自 己 決 定 権 と し て 承 認 さ れ る 余 地 は 十 分 に あ る 。氏 の 果 た す 役 割 は 単 に 個 人 の 呼 称 で は な く 、氏は名 と結合 す る こ と で 社 会 的 に 自 己 を 認 識 す る と い う 役 割 を 果 た す も の で あ り 、ま た 、氏 は 人 格 の 一 部 で も あ る22。そのために 、「 氏 名 を そ の 意 思 に 反 し て 奪 わ れ な い 権 利 」あ る い は「 そ の 意 思 に 反 し て 氏 名 を 変 更 す る こ と を 強 制 さ れ な い 権 利 」 が 導 き 出 さ れ な く て は な ら な い で あ ろ う23

た だ 、氏 名 保 持 権 を 自 己 決 定 権 と し て 承 認 す る に 際 し て も 、以 下 の 事 項 と の 衡 量 は 必 要 で あ る 。① 明 治 民 法 以 来 夫 婦 は 同 じ 氏 を 称 す る の が 慣 行 で あ る と い う こ と 、② 対外的に夫婦 である こ と が 明 ら か に な り 、社 会 生 活 上 便 利 で あ る と い う こ と 、③ 氏 は 夫 婦 お よ び 家 族 を 結 び つ け る

19 戸 波 江 二 「自 己 決 定 権 の意 義と範 囲」 法 学 教 室 158 1993年) 40

20 内 野 正 幸 『人 権 のオモテとウラ』 (明 石 書 店 、1992 年) 150151頁。

21 小 林 節 「判 例 批 評 」 判 例 時報1117 1984年)

205頁 。

22 二 宮・前 掲 注(4 34頁。

23 東 京 弁 護 士 会・女 性 の権 利に関 する委 員 会 編 『これ からの選 択 夫 婦 別 姓 』 (日 本 評 論 社 、1990年) 77 頁。

(5)

人 の 人 格 的 生 存 に 不 可 欠 な 利 益 」 の み が 13 条 の も と で 保 護 さ れ る 。

こ れ に 対 し て 、一 般 的 自 由 権 説 で あ る 。も っ と も 、一 般 的 自 由 と は い っ て も 、文 字 通 り す べ て の 自 由 が 保 障 さ れ る わ け で は な く 、他 者に対 し て 加 害 行 為 を 行 う 自 由 は 除 外 し て お り 、保 障 範 囲 を 無 限 定 と は し て な い14。「公共の福祉 に 反 し な い 限 り 一 般 的 に 自 由 を 拘 束 さ れ な い と す る 一 般 的 自 由 権 の 存 在 が 認 め ら れ る 」の で あ る

15。一 般的 自由 権説 は 、 他者 に加 害を 与え る 自 由 を 除 い て 自 由 の 範 囲 を 限 定 し な い 点 で 自 己 決 定 権 の 射 程 が 一 般 的 自 由 に ま で 広 が る こ と になる。したがって 、一 般 的 自 由 権 説 の も と で 、 一般 的自 由と 自己 決定 は同 義と なる16。一 般 的 自 由 権 の も と で 、自 己 決 定 権 の 保 障 に 際 し て の 焦 点 は 、「 自 分 の こ と は 自 分 で 決 め る 、 他 人 の 干 渉 を 受 け な い 」と い う と こ ろ に あ る 。何 に つ い て の 自 己 決 定 と い っ た も の は 、二次的 な意味 し か も た な い 。 た と え 些 細 な こ と で あ っ て も 、 自 己 決 定 を 阻 害 さ れ る と 、自己決定権の 侵害に な る17。も っと も 、 一般 的自 由権 説の もと で 、 自 己 決 定 権 は 、個 々 の 行 為 を 人 権 と し て 保 障 さ れ る の で な く 、一 般 的 行 為 自 由 と い う1 つ の 人 権 と し て 保 障 さ れ る こ と に な る 。そ こ で 、こ の 点 を 憲 法 規 範 の レ ベ ル で の 「 人 権 」 の 保 障 と 、 現 実 の 行 為 の レ ベ ル で の「 人 権 に よ っ て 保 護 さ れ る 行 為 」 と の 相 関 関 係 に 依 拠 し て 説 明 す る 。 オ ー ト バ イ に 乗 る 権 利 、登 山 の 権 利 、馬 に 乗 る 権 利 が 、バ ラ バ ラ の 人 権 と し て 13 条 か ら 出 て く る わ け で は な い 。「 自 分 が 決 め る べ き 問 題 に つ い て 国 家 に よ っ て 不 当 に 制 約 さ れ な い と い う 権 利 が あ り 」、 そ の 1 つ の 内 容 と し て 個 別 の 自由 が存 在す ると いう こと にな る18。 ま た 、 一

14 戸 波 江 二 『憲 法 [新 版] (ぎょうせい、1998年 ) 175178頁 。

15 橋 本 公 亘 『日 本 国 憲 法 』 (有 斐 閣 、1998年) 218

220頁。

16 辻 村 みよ子 『女 性と人 権』 (日 本 評 論 社 、1997年)

238頁 。

17 戸 波 江 二・小 山 剛 「幸 福 追 求 権と自 己 決 定 権」 上 典 之・小 山 剛・山 元 一 編 『憲 法 学 説に聞 く』 (日 本 評 論 社 、2004年) 2 021頁。

18 戸 波・小 山 前 掲 注 (17 11頁。

般 的 自 由 権 説 の も と で も 、自己決定に対 する制 限 が 直 ち に 違 憲 に な る わ け で は な い 。一 般 的 行 為 自 由 は 、自 己 決 定 に つ い て 、人 格 に 関 連 す る 行 為 と そ う で な い も の と の 間 で 違 憲 審 査 の 厳 格 度 に 段 階 付 け を 行 う19

2 - 2 . 本 規 定 は 氏 名 保 持 権 の 侵 害 で あ る の か

こ こ で 問 題 と な っ て い る の は 、一般的な 氏名 の 選 択 の 自 由 と は 区 別 さ れ る と こ ろ の 氏 名 保 持権 であ る20。一般 的な 氏名 の選 択の 自由 に つ い て は 、自 己 決 定 権 と し て 承 認 す べ き で あ る と す る 見 解 が 有 力 で あ る 。 例 え ば 、 憲 法 13 条 か ら「自己の名を他から干渉されずに自由 に選択 し そ れ を 公 証 さ せ る 権 利 」と し て の「 氏 名 選 択 権」が導き出されると主張する見解が存 在する

21。そ こで 、 一 般的 な氏 名選 択の 自由 とは 区 別 さ れ る 氏 名 保 持 権 は 、自 己 決 定 権 と し て 承 認 さ れ る の で あ ろ う か 。自 己 決 定 権 の 本 来 の 趣 旨 か ら す れ ば 、氏 名 保 持 権 に つ い て も 自 己 決 定 権 と し て 承 認 さ れ る 余 地 は 十 分 に あ る 。氏 の 果 た す 役 割 は 単 に 個 人 の 呼 称 で は な く 、氏は名 と結合 す る こ と で 社 会 的 に 自 己 を 認 識 す る と い う 役 割 を 果 た す も の で あ り 、ま た 、氏 は 人 格 の 一 部 で も あ る22。そのために 、「 氏 名 を そ の 意 思 に 反 し て 奪 わ れ な い 権 利 」あ る い は「 そ の 意 思 に 反 し て 氏 名 を 変 更 す る こ と を 強 制 さ れ な い 権 利 」 が 導 き 出 さ れ な く て は な ら な い で あ ろ う23

た だ 、氏 名 保 持 権 を 自 己 決 定 権 と し て 承 認 す る に 際 し て も 、以 下 の 事 項 と の 衡 量 は 必 要 で あ る 。① 明 治 民 法 以 来 夫 婦 は 同 じ 氏 を 称 す る の が 慣 行 で あ る と い う こ と 、② 対外的に夫婦 である こ と が 明 ら か に な り 、社 会 生 活 上 便 利 で あ る と い う こ と 、③ 氏 は 夫 婦 お よ び 家 族 を 結 び つ け る

19 戸 波 江 二 「自 己 決 定 権 の意 義と範 囲」 法 学 教 室 158 1993年) 40

20 内 野 正 幸 『人 権 のオモテとウラ』 (明 石 書 店 、1992 年) 150151頁。

21 小 林 節 「判 例 批 評 」 判 例 時報1117 1984年)

205頁 。

22 二 宮・前 掲 注(4 34頁。

23 東 京 弁 護 士 会・女 性 の権 利に関 する委 員 会 編 『これ からの選 択 夫 婦 別 姓 』 (日 本 評 論 社 、1990年) 77 頁。

も の で あ り 、夫 婦 、親 子 が 同 じ 氏 を 称 す る こ と で 一 体 感 が 強 め ら れ る こ と 、④ 夫婦別姓 である と 子 の 姓 の 決 定 が 問 題 と な る と い う こ と で あ る24。 ① ~ ④ の 事項 は重 要で ある とは いえ 、 婚 姻 に 際 し て 氏 を 改 め る の が 圧 倒 的 に 女 性 で あ るこ と25、氏の 変更 をし た女 性が 大き な自 己 喪 失感 に襲 われ る場 合が ある こと26、 夫 の氏 を 称 し す る こ と で 、夫 と の 対 等 な 関 係 が く ず れ 夫 に 従 属 す る 形 に な る こ と 、など氏の変更で 女性が 圧 倒 的 に 社 会 生 活 上 の 不 利 益 を 被 る こ と に 鑑 みれ ば27、自己 決定 権と して の氏 名保 持権 を 侵 害 す る も の と し て 理 論 構 成 す る こ と は 可 能 で あ る よ う に 思 わ れ る28

3 . 本 規 定 と 憲 法 24 条

3 - 1. 憲 法 24 条 の 意 義 と 保 障 内 容

次 に 、 問 題 と な る の が 憲 法 24 条 と の 関 係 で ある。まずは 、24 条 の 意 義 お よ び そ の 保 障 内 容 を 振 り 返 る こ と に し た い 。24 条 は 、 一 般 的 に 、 家族 の在 り方 に関 わる 規定 であ る29。この 点 に つ い て 、辻 村 み よ 子 教 授 は 、家 族 の 在 り 方 に つ い て 以 下 の 3 つ の モ デ ル を 提 示 す る30。 ま ず 、 個 人 の 幸 福 追 求 権 、自 己 決 定 権 、家 族 形 成 権 と い っ た 人 権 保 障 と 平 等 の 徹 底 を め ざ す「 個 人 主 義的 家族 モデ ル 」31であ る。 この モデ ルの も と で 、家 族 は 個 人 主 義 的 原 理 に 支 え ら れ た 人 的 結 合 で あ り、個 人 の 自 己 決 定 権 や プ ラ イ ヴ ァ シ ー 権が 最大 限に 認め られ るこ とに なる32。次 に 、 国 家 に よ る 家 族 の 保 護 と 家 族 構 成 員 へ の 強 制 を求 める 「国 家主 義的 家族 モデ ル」33であ る 。 こ の な か に は 社 会 主 義 国 型 や 途 上 国 型 の ほ か 、

24 床 谷・前 掲 注(3 15 頁。

25 高 井 裕 之 「結 婚 の自 由」 ジュリスト1037 1994 年) 179頁 。

26 浅 倉 むつ子 ・戒 能 民 江 ・若 尾 典 子 『フェミニズム法 学 』

(明 石 書 店 、2004年 ) 123124頁。

27 床 谷・前 掲 注(3 15 頁。

28 辻 村 みよ子 『ジェンダーと人 権』 (日 本 評 論 社 、 1998年) 220頁 。

29 辻 村・前 掲 注(28 236頁。

30 辻 村・前 掲 注(28 237頁。

31 辻 村・前 掲 注(28 237238頁。

32 辻 村・前 掲 注(28 237頁。

33 辻 村・前 掲 注(28 238頁。

日 本 国 憲 法 制 定 過 程 で 示 さ れ た 旧 憲 法 下 の 天 皇 制 絶 対 主 義 型 家 族 モ デ ル 、 さ ら に は 、 伝 統 的・復古的な家族像も含まれる 。これら は「行 き 過 ぎ た 個 人 主 義 を 是 正 し 」、「文化や伝 統を尊 重する」という名のもとに 、国 家 に よ る 家 族 保 護 を 求 め る も の で あ り 、 その本質は前近 代的・

家 父 長 的 家 族 の 復 活 を め ざ す 復 古 的 な 国 家 主 義 的 家 族 像 で あ る34。最後に 、「 共 同 体 的家 族 モ デル 」35である 。こ のモ デル は国 家と 個人 の 中 間 に 共 同 体 と い う 観 念 を お き 、社会ない し共同 体 の 名 の も と に 、中 間 団 体 と し て の 家 族 の 責 務 を 重 視 す る モ デ ル で あ る 。こ の モ デ ル が 出 現 し た 背 景 に は 、個 人 主 義 的 な リ ベ ラ リ ズ ム に 対 す る共同体主義(コミュニタリアニズム)や共和 主義(リパブリカニズム)の影響が存在してい る36

24 条 に お け る 家 族 は 個 人 主 義 的 性 格 を 有 す る も の で あ る 。 そ れ は 24 条 の 制 定 過 程 か ら 明 ら か で あ る 。24条は「前 近 代 性 を 色 濃 く 帯 び て い た 日 本 型 家 族 国 家 観 の 基 層 と し て の『 家 』を 否 定 し 、『 両 性 の 本 質 的 平 等 』と『 個 人 の 尊 厳 』 と い 憲 法 価 値 を 、公 序 と し て 私 法 上 の 家 族 関 係 に課 すも のだ った 」37とされ てい る。 周知 の よ う に 、日 本 に お い て は 、ナ ポ レ オ ン 民 法 の 影 響 を う け て 起 草 さ れ た 1890 年 の 民 法 人 事 編 に お い て 、戸 主 権 や 家 督 相 続 制 を 基 礎 と す る 家 制 度 が構築された。その後 、こ の 旧 民 法 草 案 が 施 行 延期 さ れ た後 、1898 年 に 制定 さ れた 民 法親 族 相 続 編 に お い て は 、家 父 長 的 な 家 制 度 が さ ら に 強 化 さ れ 、 妻 の 「 無 能 力 」( 行 為 能 力 の 否 定 、 家 督 相 続 か ら の 排 除 な ど)、同居・貞操義務が規 定された。家制度は 、帝 国 憲 法 下 に お け る 天 皇 主 権 原 則 と 結 合 し 、家族は「天皇制家父長 家族」

を 形 成 し 国 家 に よ る 国 民 統 合 の 装 置 と し て 家 族を 機能 する こと にな った38。第 二次 大戦 後 、

34 辻 村・前 掲 注(28 238 頁。

35 辻 村・前 掲 注(28 239 頁。

36 辻 村・前 掲 注(28 239 頁。

37 樋 口 陽 一 『国 法 学 人 権 原 論 補 訂』 (有 斐 閣 、 2007年) 145頁 。

38 毛 利 透・小 泉 良 幸 ・淺 野 博 宣・松 本 哲 治 『憲 法 Ⅱ人 権』 (有 斐 閣 、2013年) 8485 (淺 野 博 宣 担 当)、

(6)

24条 は、男 尊 女 卑 思 想 に 基 づ く 家 制 度 の 解 体 と 新しい 家族 観の 構築 を示 そう とし たの で ある39。 し か し 、24 条 の 意 義 は そ れ だ け に と ど ま ら な い

40。24条 は 、「 西 洋 近 代 家 長 個 人 主 義 を 超 え る 」 も の で あ り41、「個人の尊厳」を家族秩序内 ま で に 及 ぼ す と い う 点 に 際 立 っ た 特 色 を 有 し て い る42。すなわち 、24 条の規定する「両性の合 意」、

「 個 人 の 尊 厳 」、「両性の本質的 平等」が意味す るのは「家族が 、究 極 的 に は 平 等 で 自 由 な 個 人 間 の 結 合 で あ る ほ か な い こ と を 示 す も の で 」あ り 、「 家 族 と 、 そ れ 以 外 の 形 態 の 、 諸 個 人 の 自 由 意 志 に 基 づ く 結 合 体 と の 本 質 的 な 差 異 」は 存 在 し な い、と い う こ と で あ る43。さらに 、24条 は 、「 近 代 家 父 長 制 家 族 の な か で 性 的 従 属 と 性 別 役 割 分 業 を 強 い ら れ て き た『 産 む 性 』と し て の女 性に 対し て 個人 の( 人間 と して の) 尊厳―

『産む性』からの解放や出産についての 自己決 定 権―を 認め た こと 」に より 、 女性 の人 権保 障 に と り 「 重 要 な 拠 点 」 と な っ た の で あ る44

次 に 、24 条 の 保 障 内 容 に つ い て で あ る 。従 来 、 24条 に つ い て は 、以 下 の よ う な 見 解 が 主 張 さ れ てきた。まず、制 度 的 保 障 と す る 説 で あ る 。24 条 は 個 人 の 権 利 を 保 障 し た も の で は な く 、む し ろ 、個 人 が 平 等 の 立 場 を も つ こ と が 民 主 政 の 根 本 で あ り、そ れ は 家 庭 生 活 に お い て も 、徹 底 し た 平 等 の 地 位 を 確 保 す る も の で あ る と す る 。次 に 、 平 等 権 の 具 体 化 と す る 説 で あ る 。24条 は 、 13 条 の 個 人 の 尊 厳 の 原 理 と 、14 条 の 平 等 権 を と く に 家 族 生 活 の 諸 関 係 に 対 し て 及 ぼ す も の 辻 村 みよ子 『ジェンダーと法』 (信 山 社 、2005 年 ) 162 頁。

39 渋 谷 秀 樹 『憲 法 2版』 (有 斐 閣 、2013年) 462 頁、野 中 俊 彦 ・中 村 睦 男・高 橋 和 之・高 見 勝 利 『憲 法

5版』 (有 斐 閣 、2012年) 302 (野 中 俊 彦 担 当)、糠 塚 康 江 「人 権の主 体 、平 等」 辻 村 みよ子 編

『ニューアングル憲 法』 (法 律 文 化 社 、2012年) 82頁 、 大 石 眞 『憲 法 講 義 Ⅱ 2版』 (有 斐 閣 、2012年)

90頁。

40 樋 口・前 掲 注(37 145頁。

41 高 井・前 掲 注(25 178頁。

42 もっとも、家 族を公 序とする見 解 も完 全に駆 逐 された わけではない。高 井・前 掲 注(25 177 頁。

43 安 念 潤 司 「憲 法 問 題 としての家 族」 ジュリスト1022 1993年) 5051条 。

44 辻 村・前 掲 注(28 233頁。

である。ただ 、個人の尊 厳の意義は 、平 等原則 の 中 に と り こ ま れ て お り 、結 局 、24 条 は 、平 等 原 則 の 制 度 化 な い し 具 体 的 実 現 の 1 つ で あ り 、 家 族 に 関 す る 諸 事 項 に つ い て 平 等 原 則 が 浸 透 し て い な け れ ば な ら な い こ と を 立 法 上 の 指 針 と し て 示 し て い る と す る 。こ の 見 解 は 、24条 の 関 わ る 問 題 に つ い て は 、 結 局 14 条 が 適 用 さ れ る こ と に な り 、24条 そ れ 自 体 が 具 体 的 権 利 内 容 を構 成す るも ので はな いと する45。次 に 、 制 度 的 保 障 と 平 等 原 則 の 具 体 化 と み る 説 で あ る 。平 等 原 則 の 家 族 生 活 に お け る 具 体 化 の 内 容 と し て 、3 つ の 意 味 が あ る 。 第 1 に 、 各 人 は 、 婚 姻 お よ び 家 族 に 関 し て 、個 人 の 尊 厳 と 両 性 の 本 質 的 平 等 に 従 っ て 、法 的 に 取 り 扱 わ れ る べ き こ と を 国 家 に 対 し て 要 求 で き る 。国 家 の 側 か ら す れ ば 、個 人 の 尊 厳 と 両 性 の 本 質 的 平 等 に 立 脚 し て 、 法 を定 立 し 適 用 する 義 務 が ある 。 第 2 に 、24 条 は 、憲 法 が 、婚 姻 、離 婚 、相 続 に 関 す る 法 制 を 制度 的 に 保 障 した も の で ある 。 第 3 に 、24 条 は 、憲 法 が 、婚 姻 お よ び 家 族 に 関 す る 事 項 に つ い て 原 則 規 範 を 定 め た も の で あ る 。次 に 、自 由 権 と す る 説 で あ る 。24条 は 、家 族 生 活 に お け る 個 人 の 尊 厳 と 両 性 の 平 等 を 要 求 し 、男 性の拘 束 か ら 女 性 の 解 放 を 目 的 と す る 。 そ し て 、13 条 、24条 を 通 じ て 私 人 間 の 身 分 関 係 、家 族生活 関 係 に 発 現 さ せ る こ と を 意 図 し 、24条 は 国 民 に と っ て の 消 極 的 な 自 由 権 的 人 権 を 保 障 す る に す ぎ な い と す る46

近 年 、有 力 に な っ て い る の が 、家 族 に 関 す る 自 己 決 定 を 保 障 し た と す る 説 で あ る 。24条 を 権 利 規 定 で あ る と 理 解 す る と 、13条 と の 関 係 を い か に 考 え る の か が 重 要 な ポ イ ン ト に な る 。辻 村 教 授 は 、13 条 と の 関 係 に お い て 、24 条 の 保 障 内 容 を 以 下 の よ う に 主 張 す る 。24 条 の 保 障 内 容 に つ い て は 、1 項 に お い て 「 夫 婦 の 平 等 」 で な

45 要 するに、24条を14条 に吸 収させるものである。こう した見 解は一 般 的 になっている。野 中・中 村・高 橋 ・高 見・前 掲 注 (39 302 頁 、赤 坂 正 浩 『憲 法 講 義 (人 権 )』

(信 山 社 、2011年) 306頁 。

46 学 説の整 理 については、植 野 妙 実 子 「憲 法 二 四 条 と憲 法『改 正』・教 育 基 本 法『改 正』」 法 律 時 報7811 号(2006年) 14頁。

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