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アドリァマイシン投与後早期における心筋カルニチソの動態

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(1)

日本小児循環器学会雑誌 9巻6号 800〜808頁(1994年)

アドリァマイシン投与後早期における心筋カルニチソの動態

(平成4年5月2日受付)

(平成6年3月7日受理)

東北大学医学部小児科

高  田   修

key words;アドリアマイシン,心毒性, カルニチン

      要  旨

 ラットを用いてアドリアマイシン投与後急性期心筋カルニチソの動態を検索した.生後8週のウィス

ターラットに5mg/kgのアドリアマイシンを7日ごとに腹腔内投与し,1回投与群,2回投与群,3回投 与群,4回投与群の4群について心臓,肝臓,血清のカルニチン値を測定した.アドリアマイシソ投与

により心筋の遊離カルニチソの減少(1,3,4回投与群;p<0.01,2回投与群;p<0.005)とアシル カルニチンの増加を認め,その変化は投与回数とともに増強する傾向がみられた.次にL一カルニチン500

mg/kgを連日腹腔内投与しながらアドリアマイシンを投与した群とアドリアマイシン単独投与群につ

いて心筋カルニチン値を比較した.L・カルニチン併用群の心筋の遊離カルニチンはコントロールに比較 して低値を示したが(p<0.02),アドリアマイシン単独投与群と比較して有意に高い値を示した(p〈

0.001).肝臓と血清では心筋のような大きな変化は認めなかった.

 これらの結果はアドリアマイシン投与後早期の心筋で遊離カルニチンの欠乏状態が起こっており,L一 カルニチンの投与がその欠乏状態を改善することを示唆する.L一カルニチンはアドリアマイシンの心毒 性を改善する可能性のある薬剤と思われた.

         緒  言

 アドリアマイシンは強い抗腫瘍作用があり広く使用 されている薬剤であるが,蓄積投与量が350〜500mg/

m2を越えると重篤な心機能障害を起こす為,その予防 と早期発見のためにさまざまな努力が試みられてき

た.

 心筋代謝改善薬であるカルニチンの投与によりアド リアマイシソの慢性心筋障害の軽減を試みた報告も散 見され1} 一「s)臨床的にも効果が認められている8)12).

Shugらはラットを用いてL一カルニチソの投与により アドリアマイシンの長期投与による心機能の低下と心 筋の組織変化を軽減できたと報告している9)11},しか

しアドリアマイシン投与群の心筋カルニチンの濃度は アドリアマイシン非投与群と比較して差を認めず,ア ドリアマイシンの心筋障害に対するL・カルニチンの

別刷請求先:(〒010)秋田県秋田市南通みその町3      −15

     中通病院小児科      高田  修

保護機序は不明だとしている.Shugらの実験ではア ドリアマイシン投与開始後6週以上経過した慢性期の 心筋カルニチンを測定しており,投与後早期の変化は 観察されていない.その他の報告でもこれまでにアド リアマイシン投与後早期の心筋カルニチンの動態を調 べたものはない.

 そこで本研究ではL・カルニチンの心筋保護機序が アドリアマイシン投与後急性期の心筋カルニチソ動態 を改善することで起こると仮説をたて,ラットを用い て検索した.

     試薬とカルニチンの測定法  1,試薬,投与薬剤

 Perchroric acid;PCA(Sigma), HEPES(Dojin),

acetyl CoA(Sigma), carnitine acetyl−transferase

(Sigma), N・ethylmaleimide(Sigma),〔acetyl−1−14C〕

acety1・coenzyme A(New England Nuclear),アド リアシン(協和醗酵),L一カルニチン(アース製薬)

 II,カルニチンの測定法

(2)

Free Carnitine

Short−Chain Acyicarnitine Long・Chain Acylcarnitine

「一一一一一一一一一rP<O.OOI

「一一一一rP<0』Ol

「一一一一一一rP<0.oa5

rrP<O.OOI

1200

0 00 1

00 8 エbo一Φ≧

Φ

0 0 bo 6

0 40

200

1000

0 0 8

王bの旧Φ≧

0 μΦ

切 400

200

「nt−一一r NS

「一一一一一一一一一一rP<O.OOI

「一一一一一一一一一一一一一一1P<0.005

「一一rP〈D.oel

300

主浬Φ≧

0 0 2

Φ

0 0 1

℃o

「一一一一一一一一一一一一一一1P<0.OOI

「一一一一一一一一一rP〈O,OOI

「一一一一rP<O.OOI

「一一1P<0.oe2

吾{躍

 0  5  10 15 20      0  5  1e 15 20          0  5  10 15 20

      mg/kg       mg/kg       mg/kg

ADR cumulative dose    ADR cumulative dose     ADR cumulative dose      図1a 各アドリアマイシン最終投与量に対する心筋カルニチソの値.

   ADR;アドリアマイシン.各々の測定値(●)と平均値±2SD(★)を示す.

Total Carnitine Free/Total ratio

0 80

0 60

0 40

0 0 2

0 0 0

0 0 8

0 0 6

0   00  

0

4  

2

主煙Φ≧る≧国\一︒∈⊂

「一一一一一一一一一一rP<O.Ol

「一一一一一一一一rP<0』1

「一一一一一rNS

劔 一NS

1.0

;0.5o

「一一一一一一一rP〈0』02

「一一一一一一『一一rP<O.OOI

−一「P<O.OOI r−−rP<a.aal

聾 ¶エー

 遊離カルニチン,短鎖アシルカルニチン,長鎖アシ ルカルニチンの3分画について測定した.0.6N PCA の中でホモゲナイズした組織及び0.6N PCAで処理 した血清を遠沈(15,000rpm,10分)し沈降物を0.2

NKOHで50℃2時間加水分解した後に1N HCIで中

和し長鎖アシルカルニチン測定用とした.上清は alkali buffer(5N KOHと1.5M K2CO3/0.25M trieth−

anolamineを使用直前に2:1で混和)で中和したも のを遊離カルニチソ測定用とした.この上清をさらに 終濃度0.2N KOHで37℃1時間加水分解して酸可溶 性カルニチソとして測定し,この値から遊離カルニチ ンの値を減じたものを短鎖アシルカルニチンの値とし

 0 5 10 15 20       mg/kg ADR cumulative dose

 05101520

       mg/kg ADR cumulative dose

図1b 心筋の総カルニチン値及び遊離カルニチソ/総  カルニチン比.各々の測定値(●)と平均値±2SD  (★)を示す.

(3)

802−(92) 日本小児循環器学会雑誌 第9巻 第6号

Free Carnitine

Short・Chain Acylcarnitine Long−Chain Acylcarnitine

0 0 3

0 0 2

00 1

主b︒田≧も≧b︒\百∈⊂

「一一一rPく口.OOI

「一一一一一一一rP<O.OOI

「一一一rNS rr NS

上宇 ←

二●︑

00 3

0 0 2

0 0 1

主鯉鍵一鍵b︒\石∈⊂

「一一一一一一一一一一一rP<0.001

「一一一一一一一一rP<0.02

⊂一一rNS

「−Ip<o.05

      圭       .些300       Φ       ≧        

遅1

0 0 2 Φ

0 0 1

\凶石∈⊂

「ww一一一一一一一r NS

「一一一一一一一一一一一IP〈O.oa5

「一一一一rNS

L 一NS

4

   ●●

   ●

     ●●   ●

1  1  1

 0  5  10 15 20          0  5  10 15 20          0  5  10 15 20          mg/kg       mg/kg       mg/kg

ADR cumu[ative dose    ADR cumuiative dose    ADR cumulative dose   図2a 肝臓カルニチソの値.各々の測定値(●)と平均値±2SD(★)を示す.

Totaj Carnitine Free/Total ratio

「一一一一一一一一一一一一rP<0.01 r−一一一一一一一rP〈0.01

「一一一一一rNS

「−rNS

︐曇 斗

0 0 主煙鍵ち≧壌き︒ε⊆ 8   CO       ﹄﹁   O       O   nU       O

0 0 2

1』

軍0.5o

「一一一一一一一一rNS

    NS

r−一『一一一rNS

一NS

  05101520     05101520

        mg/kg      mg/kg

 ADR cumulatiVe dose      ADR cumulative dose 図2b 肝臓の総カルニチン値及び遊離カルニチン/総  カルニチン比.各々の測定値(●)と平均値±2SD  (★)を示す.

た,3分画の総和を総カルニチンとした.各分画のカ ルニチンは120mM HEPES buffer pH 7.3,2mM N−ethylmaleimide,25μM〔14C〕acetyl CoA(1μCi/

μmol)の条件下でcarnitine acetyltransferaseと室 温,30分間反応させた,未反応の〔14C〕acetyl CoAを resin(Dowex AG 2×8)で吸着除去した後に,その 遠沈上清のacetylcarnitineをTriton・toluene scintil・

latorで放射活性を測定し,各分画におけるカルニチソ 量を計算した.

      実験方法

 1.アドリアマイシン投与によるカルニチンの動

 生後8週の体重200〜250gのウィスターラットに5 mg/kgのアドリアマイシン(1mg/ml)を7日ごとに 腹腔内投与し,1回投与群(5mg/kg, n=6),2回投 与群(10mg/kg, n=4),3回投与群(15mg/kg, n=

6),4回投与群(20mg/kg, n=4)の各々について最 終投与後24時間に心臓,肝臓,血清を採取してカルニ チンの値を測定した.コントロールは,生理食塩水5 m1/kgを腹腔内投与し,各群につき2匹ずつ,計8匹 で測定した.

 各ラットは10%ウレタン10ml/kgの腹腔内投与に より麻酔した.腋下動脈より採血して脱血死させ,手 早く開胸して心臓を取り出し氷冷した生食内で洗い,

大血管と心房を取り除き左右心室のみとして液体窒素 内で凍結させた.肝臓の一部を切り出して氷冷した生 食内で洗い,液体窒素内で凍結させた.組織の重量を 測定し,5倍量の0.6N PCAの中で細切し,ポリトロ ソにてホモゲナイズ(15秒間回転,30秒間氷冷を3回)

した後に超音波処理した.一部心尖部を凍結直前に切 り出して組織検索用とした.光顕標本はH・E染色と E−M染色で心筋組織標本での壊死の有無を検討した.

電顕標本は微細構造,特にミトコンドリアの変性を検

(4)

Free Carnitine

Short−Chain Acylcarnitine Long−Chain Acylcarnitine

「一一一一一一一一一一rNS

「一一一一一一rP<0.Ol

「一一rNS

「一一rNS

80

   ●

0  

0

ρ9  4

宅\石∈⊂

20

60

0 4

〜ミ百∈⊆

20

「一一一一一一一一一一rNS

「一一一一一一一一一rNS r−一一一一rP<0.05

rr NS

0 4

0 2

盲\石∈⊆

「一一一一一一一一一一一一一一rP<O.agl

「一一一一一一rP<0.OOI

「一一一一一rNS

「−rNS

斗経拝

 0  5  10 15 20      0  5  10 15 20      0  5  10 15 20          mg/kg      mg/kg      mg/kg

ADR cumulative dose    ADR cumulative dose    ADR cumulative dose     図3a 血清カルニチンの値.各々の測定値(●)と平均値±2SD(★)を示す.

Totai Carnitine Free/Total ratio

0  0  0  nU  O  O  nU4  内∠  0  8  ︻0  4  う6

石∈⊂

r−一一一『『『一一一一rNS

「一一一一一一rNS

「一一一一rNS

「−rNS

8. 聾

・︑

・.

°・8

1』

0 5 O鳴﹂

「一一一一一一一一一一rP<a.02

「一一一一一一一一一一1P<0.oa2

「一一一rNS

  0  5  10 15 20      0  5  10 15 20         mg/kg       mg/kg

 ADR cumulative dose     ADR cumulative dose 図3b 血清の総カルニチン値及び遊離カルニチン/総  カルニチン比,各々の測定値(●)と平均値±2SD  (★)を示す.

討した.

 II. Lカルニチン投与の効果.

 生後8週の体重200〜250gのウィスターラットを用 いて以下の4群について実験1)と同様に処理した心 筋,肝臓および血清についてカルニチンを測定した.

 A.コントP一ル:生理食塩水5ml/kgを連日15日 間腹腔内投与(n=8)

 B,アドリアマイシン投与群:1回投与量5mg/kg のアドリアマイシン(lmg/ml)を7日ごとに計3回腹 腔内投与.その間連日生理食塩水5ml/kgを腹腔内投 与(n=8)

 C.カルニチン投与群:1回投与量500mg/kgのL カルニチン(100mg/ml)を連日15日間腹腔内投与(n=

6)

 D.アドリアマイシンとカルニチン併用群:1回投 与量5mg/kgのアドリアマイシン(lmg/ml)を7日ご とに計3回腹腔内投与.その間連日500mg/kgのL一カ ルニチソ(500mg/ml)を腹腔内投与(n=8)

 2種類の薬剤を投与する時は同時に投与した.

 統計処理は二標本t検定にて行い,危険率0.05以下 を有意差ありとした.

(5)

804−(94) 日本小児循環器学会雑誌 第9巻 第6号

Free Carnitine Short・Chain Acylcarnitine Long・Chain Acylcarnitine

0 0 6 1

nU  O  

O O  O  

O

4  り4  01    1    

1

主b㊨旧鍵

0 0 8 Φ

0 0 6

0 40

b。

0 0 2

  「一一一一一一rP<0.001

「一一一一一一rP<O.02

「−rNS

「−rP<0.OOI

●●

4● 8●一●︑

  0 60 品一Φ≧

0 40 Φ     0

      20 壌

∈⊂

  「一一一一一rNS

「一一一一一一一rP<O.Ol

「一一一一r P<0.05

「『一「P〈O.OO1

0 30

00 2

00 1

主bo田≧も≧助\石ξ

  r−一一一一rP<O.05

「一一一一一一一1NS

「一一一rNS

r−一一rP<O.Dgl

2

  ●

f

  C  ADR CAR ADR      C  ADR CAR ADR      C  ADR CAR ADR        十CAR      十CAR       十CAR

図4a L一カルニチソを併用した時のアドリアマイシン投与後心筋カルニチンの値.

 C:コントロール,ADR;アドリァマイシン投与群, CAR;L一カルニチソ投与群,

 ADR+CAR;アドリアマイシンとカルニチソ併用群.各々の測定値(●)と平均  値±2SD(★)を示す,

Totai Carnitine

「一『一一一一rPく0.005

Free/Total ratio

0   0nU  OO   OO2   il 0   ∩UO  

O

6  

4

1    1

主bΩ一①≧ 0  

0

0   02  nU−   

■■

0   0nU  O8   口U

。㊨

\百匡 0  

0

0  nU4  弓4

「一一一一一NS

「一一一一rN5

「−rP<0.Ol

   :

軽F

1.0

io.5o

 「一一一一rPく0.005

「一一一一一一rP<0,01 r−一一一rNS

「一一†P<0.001

甚←

・⁝一.⇔..

1

   C  ADR CAR ADR      C  ADR CAR ADR        十CAR       十CAR

図4b 心筋の総カルニチン値及び遊離カルニチン/総  カルニチン比.各々の測定値(●)と平均値±2SD  (★)を示す.

         結  果

1.アドリアマイシン投与によるカルニチンの動

態.

 1.心筋カルニチンの値を図1aに示す.アドリアマ イシンの投与により遊離カルニチンの減少と(1,3,

4回投与群;p〈0.001,2回投与群;p〈0.005)短鎖 カルニチンの増加(L 3回投与群;p<0.001,2回 投与群;p<0.005)および長鎖アシルカルニチンの増 加(2,3,4回投与群;p<0.001,1回投与群p<

0.002)を認めた.図1bに示すように,総カルニチン の値はそれ程変化せず,遊離カルニチンの値を総カル ニチンの値で除した遊離カルニチン/総カルニチン比 の値はコントロールに比較して,有意に低下していた

(1,2,3回投与群;p〈0.001,4回投与群;p〈

0.002).

 2.肝臓のカルニチン値を図2aに示す.心筋ほどの 変化は示さないが,アドリアマイシンの投与回数が増 えるとともに遊離カルニチン,アシルカルニチン共に 増加する傾向が認められた.図2bに示すように総カ ルニチンも増加しており,遊離カルニチン/総カルニチ ン比は全く差を認めなかった.

 3.血清のカルニチン値を図3aに示す.心筋のよう な明らかな変化は認めなかった.3回以上投与した群 で長鎖アシルカルニチンの有意の増加を認めた(p〈

(6)

Free Carnitine

Short−Chain Acylcarnitine  Long−Chain Acylcarnitine  「一一一一rNS

「一一一一一一一一一一rP〈O.001

「一一一一一1NS

「一一rP〈D.ODI 0

40

0 0 3

0 0 2

主b︒田≧る≧匂︒\ろ∈⊂

00 1

f乎

003 0 0 2

0 0

主巴Φ≧=Φ≧ロ\石E⊆

C  ADR CAR ADR

    十CAR

0

 0

; k

⊇ 封 曇

主b︒一鍵冨≧国\一・ξ  OO       2  ∩U      O      nU  0      0      0

CADRCARADR

    十CAR

 「一一一一rN5

「一一一一一一一rNS r−一一一rNS rrP<O.02

●●

1

C  ADR CAR ADR

    十CAR 図5a 肝臓カルニチソの値.各々の測定値(●)と平均値±2SD(★)を示す.

Total Carnitine Free/Total ratio

0 80

0 0 6

0 0 4

主触Φ﹁ち≧b︒\石ξ

0 0 2

 −NS

「一一一rP〈s・oo1 1.0

「一一一一一1NS

一P<D.OOI

C  ADR CAR ADR

   十CAR

=0.5o 9

 「一一一rP<O.OS

「一一一一一一一一一一1P<0.ao5

r−一一一rNS r−rNS

棄.

f

C  ADR CAR ADR

   十CAR 図5b 肝臓の総カルニチン値及び遊離カルニチン/総  カルニチン比.各々の測定値(●)と平均値±2SD  (★)を示す.

0.001).図3bに示すように総カルニチンは変化を認 めなかったが遊離カルニチン/総カルニチン比で比較 すると低下する傾向を認め,遊離カルニチンの相対的 な減少を示唆した.

 4.コソトロールと3回投与群について,光顕にて組        織変化を検討したが明らかな変化は認めなかった.ま た電顕にてミトコンドリアの変化は認めなかった.

 II. L−hルニチン投与の効果.

 1.心筋カルニチンの値を図4aに示す.遊離カルニ チンの値はコントロールとL一カルニチン投与群で差 を認めなかった.L一カルニチンとアドリアマイシソ併 用群ではコントロールに比較して低値を示したが,ア

ドリアマイシン単独投与群と比較すると有意に高い値 を示した(p<0.001).長鎖アシルカルニチンの値は,

L功ルニチンとアドリアマイシン併用群ではアドリア マイシン単独投与群と比較して危険率0.05以下の有意 差ながら低い値を示し,またコントロールと比較する

と有意差を認めなかった.図4bに示すように遊離カ ルニチン/総カルニチン比は,L・カルニチンとアドリア マイシン併用群ではアドリアマイシン単独投与群に比 べると有意に高い値を示していた(p<O.005).

 2.肝臓のカルニチン値を図5aに示す. L一カルニチ ン投与群をコントロールと比較すると,いずれの値も 差を認めなかった.Lカルニチソとアドリアマイシン 併用群とアドリアマイシン単独投与群との比較ではい ずれの値も差を認めなかった.

 3.血清のカルニチン値を図6aおよび図6bに示

す.L一カルニチン投与群ではコントロールに比較して 遊離カルニチン(p<0.005),短鎖アシルカルニチン

(p<0.01)および長鎖アシルカルニチン(p<0.001),

総カルニチン(p<0.001)はいずれも増加していたが,

遊離カルニチン/総カルニチン比は変化していなかっ た.L一カルニチンとアドリアマイシン併用群ではアド リアマイシン単独投与群に比較して遊離カルニチンが 高値を示していた(p<0.05).

(7)

806−(96) 日本小児循環器学会雑誌 第9巻 第6号

Free Carnitine

Short−Chain Acyicarnitine Long−Chain Acylcarnitine

140 120

100 盲 80

言60

i≡

⊆ 40 20

 「一一一一一rp<O,05

「p−一一一rNS

rr−一一一一rPく0.005

「一「P<O.Dl

破三︑

4

60

0 4

0 2

苫\石∈⊆

  「一一一一rNS

「一一一一一一rP<0』1

「一一一一rP<O.Ol r−一一rp<0』05

●1● 04

0 2

盲\一〇∈⊂

 C  ADR CAR ADR

     十CAR

図6a血清カルニチンの値.

  「一一一一一rP〈O.05

「一一一一一一一一一rP〈0.001

「一一一一一一rP<0.eOl r−一一rP<D.OOI

曇 璃

 C  ADR CAR ADR      C  ADR CAR ADR      十CAR       十CAR

各々の測定値(●)と平均値±2SD(★)を示す.

Total Carnitine Free/Total ratio

0 0 0 0 0 0 0 0 

0

864208642

盲\でE⊂

 「一一一一一一IP<0,05

「一一一一rNS

「一一一一「P〈0.001

rNS         1.0

●%﹁

皇o.5 9

 「一一一rNS

「一一一一一一rNS

「一一一一rNS rrP<0.oal

ー留ぺ:

   C  ADR CAR ADR      C  ADR CAR ADR       十CAR       十CAR

図6b 血清の総カルニチソ値及び遊離カルニチン/総  カルニチン比.各々の測定値(●)と平均値±2SD  (★)を示す.

      考  察

 これまでアドリアマイシンの慢性心毒性による心機 能障害に対し,その予防と早期発見のためにさまざま

な努力が試みられてきた.そのひとつとしてL功ルニ チンの投与も検討され1)〜15)臨床的にも効果が認めら れている8)12),ShugらはラットでLangendorff法を用 いて心機能を評価し,アドリアマイシンの少量長期投 与(2mg/kg/週,6〜7週)による心機能の低下と組

織変化をLカルニチンの投与(500mg/kg/日)により 軽減できたとしている9)11).しかし彼らの実験では,ア

ドリアマイシン投与群と非投与群との間での心筋内の カルニチンの濃度に差を認めず,L功ルニチンの投与 による心筋保護の機序は不明である.他の報告でもア ドリアマイシン投与時の心筋カルニチンの動態を明ら かにしているものはない.

 本研究ではL一カルニチンの心筋保護機序がアドリ アマイシン投与後急性期の心筋カルニチソ動態を改善 することに起因すると仮説をたて,ラットを用いて検

討した.

 まず,アドリアマイシン投与後早期のカルニチンを 測定した.図la,図1bに示すようにアドリアマイシン の投与により心筋ではアシルカルニチンが増加し,遊 離カルニチンが減少していた.また,この変化は投与 回数の増加とともに増強する傾向があり,蓄積毒性に よる影響も示しているように思われた.血清でも3回 投与後に遊離カルニチン/総カルニチソ比が低下する 傾向があるが,心筋の変化と比較してそれ程大きな変 化ではなかった.肝臓ではすべての分画の増加が起 こっていたが遊離カルニチン/総カルニチン比で比較 すると有意差は認めず,心筋で見られる様な遊離カル ニチンの減少は絶対的にも相対的にも起こっていな かった.これらの結果はアドリアマイシン投与後早期 において,心筋内で遊離カルニチンの欠乏状態が起 こっていることを示すものと思われる.

(8)

 またコントロールと3回投与群で比較して光顕では 組織変化を認めず,電顕でもミトコンドリアの変化を 認めなかったが,これは心筋カルニチソ動態の変化が 組織変化やミトコンドリアの変性が発生する前に起

こっていることを示すと思われる.

 次にL一カルニチン投与の効果について検討した.L一

カルニチンの投与量はShugらの実験と同様に500

mg/kg連日投与とした. Lカルニチソ投与群と非投与 群で心筋カルニチンを比較すると短鎖アシルカルニチ

ンの若干の増加を認めるものの遊離カルニチン,長鎖 アシルカルニチン,総カルニチン,遊離iカルニチン/総 カルニチン比の変化を認めず,L・カルニチソの負荷は 正常の心筋カルニチン動態に見かけ上影響を及ぼして いない様に見えた.L一カルニチンとアドリアマイシン 併用群をアドリアマイシン単独投与群と比較すると,

遊離カルニチンの減少と長鎖アシルカルニチンの増加 および遊離カルニチン/総カルニチン比の低下は前者 において有意に軽減しており,L一カルニチンの投与が アドリアマイシンにより引き起こされる心筋カルニチ ンの動態を改善することが示唆された.

 アドリアマイシソ心毒性の機序はまだ不明とされる 点も多く,急性と慢性の心毒性の関係も明らかになっ ていないが,急性心毒性に関しては,心筋でNADH脱 水素酵素とコハク酸脱水素酵素16)17),チトクロームC 酸化酵素18)など電子伝達系の酵素活性が抑制され,酸 素の取り込みが減少し,ATPの産生が低下する19)2°)こ

とが確認されている.

 Neriらはラット心筋スライスを用いてLカルニチ ンの灌流がアドリアマイシンによる心筋の酸素取り込 みの減少とATP産生の低下を改善することを証明し ている10)13).今回の実験で得られた所見とあわせて考 えると,in vivoにおいてもLカルニチンがアドリア マイシン投与による心筋内のエネルギー代謝障害を軽 減する可能性のある薬剤であることを示すものと思わ

れた.

      結  語

 1.ラットを用いてアドリアマイシン投与後急性期 の心筋,肝臓,血清のカルニチンを測定し,心筋では 遊離カルニチンの減少状態が起こることを確認した.

 II. L・カルニチンの投与により心筋の遊離カルニチ ンの減少状態が軽減した.

 III. L・カルニチソはアドリアマイシン投与後早期の 心筋カルニチン動態を改善することにより心毒性を軽 減するものと思われた.

 稿を終えるにあたり,東北大学医学部小児科学教室多田 啓也教授に深謝の意を捧げると共に,御指導協力を賜った 同小児科学教室大浦敏博講師,萩野谷和裕先生,千葉 靖先 生並びに同病態代謝学教室鈴木洋一先生,山形市立病院済 生館小児科尾形 寛先生に心より感謝致します.

 本論文の要旨は第27回日本小児循環器学会(1991年6月,

山形)において発表した.

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Reactive Free Carnitine Decrease in the Early State After the Administration of Adriamycin

       Osamu Takada

Department of Pediatrics, Tohoku University Schoo1 of Medicine

   Adriamycin had been recognized as a cardiotoxic drug. On the other hand, the administration of prophylactic L−carnitine has been reported to show a clinical effect. Myocardial carnitine content following the administration of adriamycin has been reported not to show any change. However, in the early state, there is no information available. This study shows the time−dose effect of adriamycin on myocardial carnitine contents as well as prophylactic L・carnitine administration.

    Experimental subjects,except for the control group, were divided into five groups and, in the first four groups, adriamycin 5 mg/kg was injected intraperitoneally one to four times weekly. In the last group, L−carnitine 500 mg/kg was injected daily, while adriamycin was injected three times weekly・

Rats were sacrificed the day after the last adriamycin injection. Free carnitine, short−and long・chain fatty acyl・carnitine were evaluated on myocardium, hepatic tissue and serum by radioisotopic assay.

    Myocardial free carnitine was significantly depleted when adriamycins were administered.

However, short−and long−chain fatty acyl・carnitines increased. In this experiment, the time・dose effect was not so clear. These changes were not obvious on hepatic tissue and serum. The depletion of myocardial free carnitine was significantly less in the L−carnitine administration group.

    These consequences signify that free carnitine depletion may occur in myocardium after the administration of adriamycin, and it may be protected by the simultaneous administration of L−

carnitine. L・carnitine might be useful to protect adriamycin・induced cardiotoxicity.

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