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修士論文概要(2020 年

2

月) 京都大学大学院工学研究科 都市社会工学専攻

訪日外国人旅行客の観光地に対するロイヤルティの形成要因分析

Analysis on factor forming the loyalty to tourist destinations – forcusing on foreign tourists visiting Japan

内海 侑哉

*

Yuya UTSUMI

*

交通マネジメント工学講座 交通情報工学分野

1

.はじめに

近年,急増傾向にある訪日外国人旅行者数であるが,

観光地の持続的な発展のためには,新規顧客の獲得,及び,

リピーターの養成や確保が必要不可欠である.つまり,リ ピーターを獲得する( revisit ,以降,再訪と称する)こと やリピーター醸成の端緒となるべく,周りの友人や知人 に広めてもらう( recommend,以降,他者への推薦と称す る)ことが重要であるといえる.

観光地の再訪や他者への推薦の主たる決定要因がロイ ヤルティであり,観光地へのロイヤルティの向上を図る ためには,その影響要因だけでなく,要因間の関係性や関 係性の強度について明らかにする必要がある.

本研究では,既往研究(例えば, Waitt

1)

など)で個別に 指摘されているような主観的な変数である内的動機(個 人の心理的要因)と外的動機(目的地のイメージ)と社会 経済変数である個人属性を包括的に用いて分析を行い,

訪日外国人旅行客のロイヤルティの形成要因について,

因果の強さを含めて把握することを目的とする.

2. 調査対象と利用データ

本研究は,タイのチュラロンコン大学にて,観光での 訪日経験のある人を対象に行われたアンケート調査を用 いて行う.この調査は 2018 年 6 月の予備調査と 11 月の 本調査の 2 度に分けて実施された.被験者は主として,

ビジネススクールの社会人学生であり,事前に協力を募 ったうえで,アンケート実施会場にて直接記入してもら うことにより回答を得た.

アンケート調査項目は,個人属性,内的動機,外的動 機,情報入手方法,旅行経験の評価をとりあげ,程度を尋 ねる項目に関しては 7 段階尺度を用いた.

3. 因子分析

海外旅行客の満足度やロイヤルティの形成要因を推定 する前段階として, AGCC と内的動機,外的動機に大別 し因子分析を行う.一例として,内的動機の因子分析の結 果の一部を表-1に示す.内的動機の因子分析の結果か ら「知的好奇心」 「自我高揚」 「自己拡大」 「休息」 「現地交 流」 「関係強化」 「娯楽追及」 「自己没頭」の 8 因子を得た.

同様の分析を個人属性である AGCC(Acculturation to Global Consumer Culture ,異文化への適応性)と外的動機 でも行い,それぞれ「 AGCC (海外文化) 」 「 AGCC (海外

経験) 」の 2 因子と「存在の真正性」 「親近感」 「安全と環 境」 「文化的魅力」 「物質的な真正性」の 5 因子を得た.

4. 共分散構造分析

本研究では,満足度,ロイヤルティに影響を及ぼす潜在 変数間の関係については,図-1に示すように先に内的 動機が働き,外的動機に影響を及ぼすというプロセスを 設定し,それぞれの動機が旅行の満足度に影響を及ぼす ものと想定する.また,内的動機は個人属性から影響を受 けるものとする.

因子分析で得られた因子を用いて,最終的に得られた 因果構造が図-2である. 「ロイヤルティ」形成に直接的 に影響を及ぼすのは「満足度」であり, 「満足度」は内的 動機である「知的好奇心」 ,外的動機である「存在の真正 性」や「親近感」に影響を受けることが示された.また,

「満足度」の先行要因である内的動機と外的動機の 3 因 子のうち,内的動機の「知的好奇心」が及ぼす影響が最も 大きいことが明らかとなった.これは非日常体験である 旅行への欲求(内的動機)が,旅行先の魅力(外的動機)

によって充足され,満足度の向上に繋がるためと理解で きる.また, 「知的好奇心」は, 「AGCC(海外経験) 」か ら影響を受けており, 「AGCC (海外経験) 」は「収入」に

図-1 ロイヤルティの形成要因の因果構造 表-1 因子分析の結果一例

外的動機

満足度 ロイヤルティ 内的動機

個人属性

質問項目 因子1 因子2 因子3 因子4 … 共通性

第1因子(知的好奇心)

新しいことを学ぶ

0.995 0.013 -0.065 -0.082 : 0.836

未知を探検する

0.762 0.008 -0.027 -0.006 : 0.646

: : : : : : :

第2因子(自己高揚)

他の人に影響を与える

-0.001 0.921 -0.096 0.076 : 0.759

他の人から認められたり、尊敬される

0.013 0.858 -0.061 0.027 : 0.645

自分の旅行能力を証明する

0.033 0.715 0.020 -0.045 : 0.610

海外旅行の特別感を感じる

-0.009 0.714 0.054 -0.077 : 0.627

自分の居場所を感じる

-0.054 0.712 0.004 -0.028 : 0.587

: : : : : : :

第3因子(自己拡大)

自分のスキルと能力を伸ばす

-0.014 -0.062 1.003 -0.016 : 0.864

自分のスキルと能力を活かす

-0.075 -0.046 0.957 0.015 : 0.831

: : : : : : :

第4因子(休息)

ゆっくりと過ごし,時間を気にしない

-0.039 -0.083 -0.021 0.850 : 0.731

安らぎと落ち着きを体験する

0.007 -0.024 -0.037 0.730 : 0.517

: : : : : : :

(2)

修士論文概要(2020 年

2

月) 京都大学大学院工学研究科 都市社会工学専攻

起因することが示された.これは収入が高い人ほど,海外 旅行などで海外経験を積む機会があるためと推察される.

パス係数の符号に着目すると, 「知的好奇心」 → 「親近 感」 → 「満足感」のそれぞれのパスで負であった.これは 知的好奇心の高さが異文化や新奇性への興味関心を喚起 し,そこでの異文化体験や新奇性体験が満足度に影響を 与えているためであると考えられる. 「知的好奇心」 → 「存 在の真正性」 → 「満足感」のパスが正であることについて も同様に,知的好奇心がその地方の歴史と結びついた真 正な文化への興味関心を高めているためと推察される.

さらに, 「 AGCC (海外経験) 」→「知的好奇心」の正のパ スを考慮すると,海外経験を積むにしたがい,よりその土 地らしさを感じることのできる旅行体験を求めるように なる可能性が示された.

5. 離散選択モデル

ここでは,再訪意向に関する従属変数に質問項目「近い うちにまた日本に行きたい」 ,推薦意向に関する従属変数 に質問項目「周りの人に日本旅行を勧める」を用いて二項 ロジットモデルをそれぞれ推定し,双方に影響を与える 要因の違いを捉える.満足度を推定する部分については,

簡単のため,知的好奇心を用いる.より煩雑なモデルの場 合, SEM 部分と選択モデル部分を個別に推定することも 可能であるが,今回は満足度を形成する潜在変数のうち 主たる要因である知的好奇心のみを用いることにより,

モデルの尤度を同時に求める同時推定を行い,統計的有 効性を保証する.

結果を表-2に示す.調整済みの Rho-square の値はそ れぞれ 0.390 , 0.383 と良好な結果が得られた.両者の相 違に着目すると,推薦意図では「訪問回数」が有意でなか ったが,再訪意図では正値で有意であった.これは,過去 の旅行経験が多い人ほど,再訪しやすい傾向にあること を示している一方で,推薦意図は訪問回数に依存しない ということを示している.また,推薦意図に関して特筆す べきは「情報源」であり,自ら発信できるツールである

Facebook を利用して情報を集めた人は,より推薦行動を

行いやすい傾向にあることが示された.逆に, Wikipedia は一般に情報を収集するのみのツールであるため負値で あったと考えられる.このように再訪意図と推薦意図と で,影響を及ぼす要因として共通するものと異なるもの が存在し,前者は知的好奇心や満足度が挙げられ,後者で は旅行経験と情報源が挙げられた.

6.

おわりに

本研究では,タイで実施した訪日外国人旅行客に対す るアンケート調査結果を基にして,まだ十分には解明さ れていない観光分野におけるロイヤルティ形成要因につ いて,内的動機,外的動機や個人属性を包括的に用いた分 析を初めて行った.各分析の結果を統合すると,以下のこ とが明らかとなった.

ロイヤルティに影響を及ぼす主たる要因は満足度で ある.

満足度の背景には,存在の真正性や親近感(外的動 機) ,および,知的好奇心(内的動機)があり,知的 好奇心の影響が最も大きい.

知的好奇心には, AGCC や収入(個人属性)が影響 を及ぼす.

ロイヤルティに影響を及ぼす要因のうち満足度非経 由要因として「再訪」には「訪問回数」と「情報源」 ,

「推薦」には「情報源」が働く.

参考文献

1) Waitt, G. : Consuming Heritage: Perceived Historical Authenticity, Annals of Tourism Research, Vol.27, No.4, pp.835-862, 2000.

修士論文指導教員 山田忠史教授

表-2 選択モデル推計結果 図-3 選択モデルの全体像 図-2 最終的に推定された因果構造

Est β Est β

(定数) - - - -

潜在変数

満足度

0.561 4.13 ** 0.570 4.21 ***

(知的好奇心)

4.57 5.49 *** 4.40 5.66 ***

訪問回数

0.292 4.48 * - -

情報源

旅行会社のパンフレット

- - - -

ガイドブック

-2.75 -2.30 * - -

友人に相談

- - - -

Facebook - - 1.33 3.39 ***

Instagram - - - -

Wikipedia - - -1.28 -1.72 †

Est c Est c

収入

0.115 5.69 *** 0.118 5.70 ***

Initial Log Likelihood Final Log Likelihood

Rho-square Adjusted Rho-square

***:p<0.001,**:p<0.01,*:p<0.05,†:p<0.1

t 値 t 値

t 値 t 値

変 数 再訪意図 推薦意図

0.399 0.392

0.390 0.383

-3379.038 -3348.335

-2031.670 -2034.380

社会経済 変数

年齢 年収 日本語 話者ダミー

など

旅行の 満足度

将来の 推薦・再訪 行動の効用

推薦意図 再訪意図

満足度 指標

知的

ε

好奇心

ε 知的好奇心

指標

旅行経験 に関する 変数

訪問回数

情報源 など

SEM

β β β c

c 知的好奇心

K1

K2 .83

.82

満足度 ロイヤルティ

L1

L5 L2

L3

L4 S1

S2

S3 .95 .88

.82

.91

.64

.86 .82 .69 .84 e6

e7 e8

e1

e3

e4

e5 e2 e9

e10

E2 E1

存在の 真正性 EA1

EA2

EA3 .93 .87 .80 e11 e12

e13

E4

親近感 F1

F2

F3 .87 .76

.67 e15

e16 e14

E5 収入

AGCC

(海外経験)

AE1

AE2

AE3 .75 .61 .60 e17

e18 e19

E6

E3

AGFI SRMR RMSEA

0.851 0.066 0.055

.04

.16 -.04

-.18 .29

.34 .21

参照

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