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第5章
顧客ロイヤルティの向上に寄与する要因
滋賀大学データサイエンス学部 幸田遥花
1.問題の所在 私たちは「食」になにを求めているだろうか。「食」には食べることはもちろん、選ぶ、 買う、作る、着飾る、保存する、捨てるなどのたくさんの過程が含まれている。そのすべ ての過程において、私たちはなにを重視し、なにを求めているだろうか。その過程のなか で、サービスを提供する側にはなにが求められているだろうか。 この全ての過程において、顧客が受け取る経験的価値を生み出す、 CX(カスタマーエク スペリエンス)という概念は 2000 年ごろから注目され始めた。顧客の経験的価値を意味す る CX は、顧客のロイヤルティの向上に寄与し、結果的に収益にも繋がるとされている。し かし、実際に CX という概念を戦略的に経営に落とし込めている企業はまだ少ないといわ れている(田中,2018)。 そこで、今回の会社 X との調査では、特に食材配達サービスにおいて、顧客ロイヤルテ ィに大きな影響を及ぼす要因がどのようなものなのかを調査することを目指している。続 く第2節では先行研究を整理し、本稿で分析をする仮説を構築する。第3節では使用する データと変数を概観し第4節で分析結果を報告する。最後に第5節で分析結果から考察を 行う。本研究により、今後の会社 X や食材配達サービス業界が、顧客にさらなる価値を提 供できることを期待する。 2.先行研究と仮説の検討 2-1.先行研究 CX 戦略について示した田中(2018)は、顧客ロイヤルティとは顧客が感情的に満足して いる状態を示しこと、また、顧客のロイヤルティ向上のための取り組みを行うことは、結 果的に収益に貢献するということを示している。 CX とは、「商品やサービスを購入する過 程、利用する過程、その後のサポートの過程における経験的な価値(心理的・感情的な価 値)」であると定義し、既存の商品やサービスを超えた価値提供をすることで、顧客の感情 的な価値につながり、ロイヤルティの向上につながるとしている。また、事例として、ア メリカ合衆国の家電量販店を挙げ、「企業都合のコスト削減や効率化を重視したサーキッ ト・シティ・ストアーズに対し、顧客視点に立った顧客への提供価値を高める取り組みを したベスト・バイでは、業績に大きな違いをもたらした」として、CX 戦略が顧客ロイヤル ティの向上に有効であり、収益の向上に貢献することを示している。また、顧客ロイヤル ティの測定方法として、ブランドや商品の推奨可能性を 10 段階で評価する NPS(ネット・ プロモーター・スコア)が最適な指標であるとしている。 このようにカスタマーエクスペリエンスの概念を検討している先行研究は少ないが、顧31 客ロイヤルティの要因についての分析を行っているものは存在す る。 まず、自動車業界におけるブランド推奨意向の要因を検討した研究には、加藤・津田( 2019) がある。加藤・津田によれば、推奨意向の要因として、ショールームへの訪問有無に有意 な効果はないとしたうえで、商品面より販売店面の要因の方が推奨意向に寄与していると 結論付けた。また、販売店面では特別感、次いで礼儀、専門性、親近感が効果的である一 方、値下げは負の効果 があり、商品面では、安全性能が効果的であるとした。 また、ネットスーパーにおけるロイヤルティを規定する要因を検討した研究には、高橋 (2016)がある。高橋によれば、ロイヤルティは信頼性と買物満足によって規定されると したうえで、商品と配送サービスは、信頼性および買物満足のいずれにも統計的に有意な 影響力をもち、ネットスーパーの利用者にとって今後も最も重要な要素となる としている。 また、価格とプロモーションは信頼性に負の影響を、プロモーションは買物満足に対し負 の影響を、それぞれもつことを示し、これらが商品や配送サービスの質に関する評価とト レードオフになるような状況は望ましくないと示唆している。 このように、顧客ロイヤルティを規定する要因は商材や業態ごとに異なるが、商品の機 能性や効率性における満足度よりも、付加的なサービスによるブランドへの信頼や感情的 な満足がより顧客ロイヤルティの向上に与える影響が大きいと考えられる。本論文では、 これらを踏まえたうえで、特に食材配達サービスにおける顧客ロイヤルティの規定要因を 探ることとした。 2-2.仮説の検討 今回の分析では、顧客ロイヤルティを示す指標として他者への推奨意向を用い、どのよ うな点に満足している顧客は推奨意向が高いのか調べる。本稿では、この「顧客満足度」 を2つに分けて考える。第一に田中(2018)も指摘しているような「経験的な価値」への満 足度である。この「経験的価値」は「顧客のインサイトを汲み取っていて、あればより満 足感を感じられる気の利く性質のサービス」のことであり、例えばスタッフの接客態度や 店内の雰囲気のようなものである。第二に、「本質的な価値」への満足度である。この「本 質的な価値」は「一定水準を満たさなければ不満足の要因になりうるような最低限の提供 価値」のことであり、例えば商品の安全性能や品質のようなものである。今回の 会社 X の 調査では、以下のように分類して、分析を行う。 表1. 食材配達サービスにおける「本質的価値」と「経験的価値」の項目定義 本質的価値 経験的価値 ⚫ 商品の安全性 ⚫ 商品のおいしさ ⚫ 商品の新鮮さ ⚫ 商品の価格 ⚫ 宅配サービス ⚫ 注文の手順 ⚫ 支払いの手順 ⚫ 調理の手軽さ ⚫ 置き配サービス ⚫ 無駄なく使いきれる分量 ⚫ 献立の種類の豊富さ ⚫ 献立の栄養バランス ⚫ レシピ集の見やすさ ⚫ スタッフの対応
32 それでは、以上の2つの満足度はどちらがより顧客ロイヤリティを向上させるのだろう か。本稿では、「本質的価値」よりも「経験的価値」の方がより強く顧客ロイヤリティと関 連しているという仮説を検討する。なぜなら顧客ロイヤルティは商品の機能面でのメリッ トデメリット等への満足感ではなく、顧客と感情面でより深く繋がっていることを示して いると考えられるからである。 仮説を検討するにあたり、まず、他者への推奨可能性と各種サービスへの満足度の相関 をみることで、満足度が高いほど推奨意向が高いという前提が成立す るかどうか確認する。 次に、各種サービスへの満足度の違いがロイヤルティの高さをいかに説明するかを検討す るために、重回帰分析を行う。また、各種サービスへの満足度の背景に共通する要因を探 索する因子分析を行うことで、顧客がどのような点に満足していることがロイヤルティの 向上に繋がるのかを検討する。 3.使用するデータと変数 3-1.使用するデータ 使用するデータには、「食とライフスタイルに関する調査」(以下 会社 X 調査と表記)を 使う。調査の概要を表1に示す。 表2. 調査概要 3-2.使用する変数 従属変数には「会社 X をほかの知人に勧める可能性」を使用する。なお、今回の「 会社 X 調査」では調査の都合上 5 段階尺度とし、2-1で示した NPS のような得点算出 1)は行 っていない。 独立変数には「会社 X の各種サービスに対する満足度」にあたる 15 項目を使用した。具 体的な項目は「商品の安全性」「商品のおいしさ」「商品の新鮮さ」「商品の価格」「調理の 手軽さ」「買いに行く手間が省ける宅配サービス」「留守でも再配達の心配がない置き配サ ービス」「無駄なく使いきれる分量」「献立の種類の豊富さ」「献立の栄養バランス」「レシ ピ集の見やすさ」「注文の手順」「支払いの手順」「スタッフの対応」「 会社 X のサービス全 調査名 食とライフスタイルに関する調査 調査対象 会社Xの利用世帯の中で主に調理を担当している人 調査時期 2020年9月17日~2020年10月2日 調査方法 留置法(郵送による回収) 抽出方法 会社Xの利用世帯から無作為抽出 計画標本 2000 サンプルサイズ 986 回収率 49.3%
33 体」に対する満足度を 5 段階で尋ねるものである。 なお、無回答を欠損値として扱い、一つ以上の設問で欠損値のある回答者は 分析から除 外し、最終的に欠損値のない 848 名を使用した。 図1は「会社 X をほかの知人に勧める可能性」についての回答分布である。この図によ ると、推薦意向が高い顧客は 5 割を超え、一方で、推奨意向が低い顧客は 3%に満たない ことがわかる。また、4 割程の顧客はどちらともいえないと回答している。 図1.会社 X をほかの知人に勧める可能性に関する度数分布 図2は「会社 X の各種サービスに対する満足度」についての回答分布である。この図に よると、いずれの項目においても、「不満」および「どちらかといえば不満」と回答する顧 客は多くとも 1 割未満であり、すべてのサービスにおいて満足度は高いことを示した。特 に高い満足度を示している宅配サービスや置き配サービスに関しては、「不満」「どちらか といえば不満」と答えた顧客は 1%に満たない。次点で、スタッフの対応、商品の安全性 や分量には満足している顧客が多い。一方で、価格や献立の種類の豊富さに関しては、比 較的満足している顧客の割合が少ない。
34 図2.会社 X の各種サービスに対する満足度に関する度数分布 4.分析 4-1.基礎的な分析 まず基礎的な分析として、各種サービスの満足度と他者への推奨可能性について相関を 調べたものを表1に示す。表1によると、まず全ての項目において、満足度によって推奨 可能性に差があることが示された。また、一部の項目を除いて経験的価値とした項目は本 質的価値と比較して推奨可能性との相関が高いことを示した。最も高い相関を示したのは、 本質的価値とした「おいしさ」であった。本質的価値のなかでは「宅配サービス」「注文の 手順」も比較的高い相関を示し、一方で、「価格」「新鮮さ」「安全性」はすべて比較的低い 相関を示した。また、経験的価値とした項目では、「栄養バランス」「献立の種類の豊富さ」 が比較的高い相関を示した。
35 表1. 他者への推奨可能性―各種サービスの満足度間の相関係数 4-2.多変量解析 本節では、他者への推奨可能性を各種サービスの満足度項目について説明する重回帰分 析を行った。変数選択にはステップワイズ法を用いた。調整済み決定係数は 0.145 となり、 変数選択においては P 値が 5%有意で説明力がある変数が選択されたといえる。 結果は表3に示した通りに得られた。この表によると、相関から分かるように「商品の おいしさ」「買いに行く手間が省ける宅配サービス」「献立の栄養バランス」によって他者 への推奨可能性を説明できるといえる。特に、本質的価値とした「おいしさ」「宅配サービ ス」への満足度が高いほど推奨意向が高い傾向にあることが読み取れる。 表3. 重回帰分析結果 他者への推奨可能性 変数 Pearson(r) 満足感 ヨシケイのサービス全体 0.286** ヨシケイの各種サービス 本質的価値 / 商品のおいしさ 0.313** 経験的価値 / 献立の栄養バランス 0.275** 本質的価値 / 買いに行く手間が省ける宅配サービス 0.244** 経験的価値 / 献立の種類の豊富さ 0.237** 本質的価値 / 注文の手順 0.216** 経験的価値 / 調理の手軽さ 0.213** 経験的価値 / 留守でも再配達の心配がない置き配サービス 0.206** 経験的価値 / スタッフの対応 0.206** 経験的価値 / 無駄なく使いきれる分量 0.204** 経験的価値 / レシピ集の見やすさ 0.195** 本質的価値 / お支払いの手順 0.184** 本質的価値 / 商品の価格 0.181** 本質的価値 / 商品の新鮮さ 0.177** 本質的価値 / 商品の安全性 0.161** **. 相関係数は 1% 水準で有意 (両側) 標準化係数 変数 B 標準誤差 B 有意確率 切片 0.633 0.289 * (各種サービスの満足感) 本質的価値 / 商品のおいしさ 0.216 0.045 0.185 *** 本質的価値 / 買いに行く手間が省ける宅配サービス 0.231 0.060 0.134 *** ヨシケイのサービス全体 0.144 0.057 0.102 * 経験的価値 / 献立の栄養バランス 0.112 0.049 0.091 * n 848 R2 0.145 調整済みR2 0.141 Note. +p < . 10 *p < .05 **p < .01 ***p < .001 非標準化係数
36 4-3.因子分析 本節では、各種サービスへの満足度の背景に共通して影響する潜在的な要因があるか、 因子分析により探索し、推奨意向との関連を多変量解析によって検討する。 因子分析では、因子の抽出には最尤法、回転方法にはプロマックス法を用いた。因子数 の決定には固有値1以上を基準として、スクリープロットの検証も合わせ3因子を仮定し た。なお、ほかの項目との共通性が小さい3項目(調理の手軽さ・使い切れる分量・スタ ッフの対応)を分析から除外した。結果、十分な適合度が得られた( χ2(25)=219.81, p = .00)。 表 5 の結果より、まず、第1因子には商品である食材自体の要素やその選択肢の幅、コ ストに関する5項目が十分な因子負荷量を示した。第2因子には支払いや注文の手順、レ シピ集の見やすさと、サービスに対するユーザビリティに関する3項目、第3因子には顧 客へ食材を届ける過程である宅配サービスの要素に関する2項目がまとまった。よって、 第 1 因子を「食事提供における価値」、第2因子を「ユーザビリティ」、第3因子を「宅配 における価値」と想定した。 表5.パターン行列と因子間相関 また、他者への推奨意向について、上記で得られた因子得点を説明変数 とした重回帰分 析を行った。変数選択には強制投入法を用いた。 分析の結果、食事提供における価値への満足度に次いで、宅配における価値への満足度 が推奨意向に影響を与えていることが読み取れる。また、ユーザビリティに対する満足度 は推奨意向に有意な効果は見られない。 こ の モ デ ル 自 体 は 分 散 分 析 よ り 有 意 で あ る こ と が 示 さ れ た が 、 調 整 済 み 決 定 係 数 は 0.113 と低く、適合度は十分でないと判断した。また、全ての変数において VIF<10 である が、第1因子と第2因子間相関は 0.817 を示しており、多重共線性の問題が生じている可 能性がある。 第1因子:食事提供における価値 第2因子:ユーザビリティ 第3因子:宅配における価値 共通性 本質的価値 / 商品の新鮮さ 0.866 -0.153 -0.014 0.476 本質的価値 / 商品のおいしさ 0.658 0.074 -0.026 0.492 本質的価値 / 商品の安全性 0.620 0.072 0.037 0.578 本質的価値 / 商品の価格 0.525 -0.035 0.076 0.286 経験的価値 / 献立の種類の豊富さ 0.413 0.246 -0.014 0.505 経験的価値 / レシピ集の見やすさ -0.007 0.804 -0.105 0.722 本質的価値 / 注文の手順 -0.067 0.736 0.100 0.367 経験的価値 / 献立の栄養バランス 0.396 0.435 -0.040 0.560 本質的価値 / 支払いの手順 0.051 0.394 0.255 0.561 経験的価値 / 置き配サービス -0.021 -0.023 0.870 0.558 本質的価値 / 宅配サービス 0.052 0.004 0.685 0.369 第1因子:食事提供における価値 1.000 0.708 0.417 第2因子:ユーザビリティ 0.708 1.000 0.531 第3因子:宅配における価値 0.417 0.531 1.000 因子相関行列
37 表6.因子得点を用いた重回帰分析結果 5.考察 本稿では、特に食材配達サービスにおいて、顧客ロイヤルティに大きな影響を及ぼす要 因がどのようなものなのかを調査した。仮説として、一定水準を満たさなければ不満足の 要因になりうるような最低限の提供価値である「本質的な価値」への満足度よりも、顧客 のインサイトを汲み取っていて、あればより満足感を感じられる気の利く性質のサービス である「経験的価値」への満足度の方が、より顧客ロイヤルティに大きな影響を及ぼすこ とを検証した。分析の結果、推薦意向の要因として本質的価値よりも経験的価値への満足 感が高いとはいえないことが明らかとなった。 まず、相関分析の結果より、サービスへの満足度が高ければ推奨意向も高い傾向がみら れた。そのなかでも顕著だったのはおいしさへの満足度であった。仮説において一定水準 が保たれていなければ不満に繋がる性質からおいしさは本質的価値と位置づけており、仮 説は立証できなかったといえる。これについて、おいしさを感じることによる感情的な満 足感や幸福感を得られることもあり、おいしさへの満足感が高いほど推奨意向が高まるこ とは自然なことであると考える。また、比較的低い相関がみられた価格について、ロイヤ ルティが高い顧客はブランドやサービスを使う際に金銭的コストを厭わないという定義そ のものに適う結果であったと考えている。 次に、重回帰分析の結果より、推奨意向に比較的強い影響を与える要因として、食材の おいしさや宅配サービスへの満足感があることがわかった。仮説においてこれらは本質的 な価値と位置付けたため、仮説は立証できなかったといえる。 また、因子分析の結果より、食材配達サービスの価値にはまず二つの側面があると考え た。食事提供における価値提供と宅配サービスにおける価値提供である。また、ユーザビ リティという観点での価値提供はそれら二側面 に関連しているが、特に食事提供における 価値とより関連が強いと考える。因子得点を用いた重回帰分析の結果も含めると、他者へ の推奨意向は食事提供における価値への満足度によって説明される部分が大きいことがわ かる。 以上の結果から、推奨意向にはおいしさや宅配サービス自体への評価が反映されており、 食材配達サービスにおいては、ロイヤルティが高い顧客は食事提供という側面における満 標準化係数 変数 B 標準誤差 B 有意確率 切片 3.697 0.027 *** 第1因子:食事提供における価値 0.163 0.052 0.177 ** 第2因子:ユーザビリティ 0.078 0.058 0.084 第3因子:宅配における価値 0.116 0.039 0.124 ** n 848 R2 0.113 調整済みR2 0.110 Note. +p < . 10 *p < .05 **p < .01 ***p < .001 非標準化係数
38 足度が高い傾向があると考える。またアンケート結果より、宅配サービスへの満足度は高 い反面、食事提供における満足度は向上の余地があることが読み取れる。 したがって、今 後推奨意向をより向上していくためには、食事提供における価値を向上していくことが有 効であると考える。具体的には以下の2点が挙げられる。1つ目は、おいしさへの満足度 を向上する取り組みであり、2つ目は献立の栄養バランスへの満足度を向上する取り組み である。これらに対する取り組みについて、味覚的なおいしさや栄養バランスそのものを 見直すだけでなく、視覚的なイメージとして顧客に伝えることや、よりおいしさや栄養バ ランスを高められる仕掛けを顧客に与えることによって、これらの満足感を向上させ、結 果的にロイヤルティを高めることに繋がると考える。 最後に、今回の分析の課題として2点指摘する。 一点目は、顧客ロイヤルティを測る指標に推奨意向を用いた点について、提供している サービスや業界にとって適切かどうかを判断する必要がある。例えば、食材配達サービス を利用していない人に対して利用を勧めるなど、他者の食文化に対して影響を与えること は、ほかのサービスや商品を勧めることよりも心理的ハードルが高い可能性もある。また、 複数回購入や定期購入を前提としている商品やサービスにおいては、いかに継続するかよ りもいかに離反しないかがロイヤルティをより示しているといえる。加えて、今回の調査 は任意回答だったため、このアンケートに回答している時点である程度 会社 X に対するロ イヤルティという概念が表れているともいえる。そのような点を考慮すると、今回の調査 ではロイヤルティを測る指標を利用頻度とする方が現実的であったとも考えられる。 二点目は、経験的価値の定義や概念について、今回の仮説においての分類は検討が不十 分であった。食事および宅配サービスにおいて最低限必要な提供価値と感じるものは人そ れぞれ異なるが、今回の調査では本当の意味での経験的価値として使い心地の 面でしか捉 えられていなかった。因子分析の解釈を組み合わせれば、食事を提供するサービス、宅配 サービスそれぞれにユーザビリティや顧客体験を向上したり、おいしさなどの既存の価値 をより体感したりすることができる仕組みがあれば、食材配達サービス全体としての経験 的価値への満足度ひいてはロイヤルティの向上に繋がるのではないだろうか。 6.むすび 本調査の結果、食材配達サービスにおいては、食事提供の面での満足感がより顧客の推 奨意向に影響していることがわかった。ただし、調査においては、食材配達サービスの業 態特性を踏まえたロイヤルティの定義などが今後も課題として残った。 また、カスタマーエクスペリエンスの向上という観点では、普段提供されているサービ スに加え、なんらかの顧客接点を設置し、顧客の感情的な満足感を定点観測することが必 要だと考えている。すなわち、顧客のサービスや商品に対するニーズや課題解決に対して 応えるような、既存のビジネスモデルやサービスを超え 、新たな文化を提供することが、 顧客にとっての新たな体験価値を生み出し、ブランドに対する愛着に繋がるのかもしれな い。
39 注 1)NPS は一般的に顧客ロイヤルティを測る指標として用いられ、以下の手順で得点が算出 される。まず、企業(商品・サービス・ブランド)を親しい友人や同僚にすすめる可能 性を 0 から 10 の 10 段階で評価させる。ここで、10~9 点をつけた顧客を推奨者、8~7 点をつけた顧客を中立者、6 点以下をつけた顧客を批判者と呼び、推奨者の割合から批 判者の割合を引いた数値を算出する。 参考文献 加藤拓巳・津田和彦,2020,「推奨意向の観点から見た自動車業界のショールームに対する 一考察」『マーケティングジャーナル』40(1):85-95. 髙橋郁夫,2016,「イノベーターとしてのネットスーパー─ 業態ロイヤルユーザーの分析 から見た特徴と課題 ─」『マーケティングジャーナル』36(2):5-20 田中達雄,2018,『CX (カスタマーエクスペリエンス) 戦略――顧客の心とつながる経験価 値経営』東洋経済新報社.