別紙1
論 文 審 査 の 要 旨
報告番号 甲・乙 第 3055 号 氏 名 大 和 田 弘 幸
論文審査担当者
主査 教授 尾関 雅彦 副査 教授 中村 雅典
副査 教授 代田 達夫
(論文審査の要旨)
学位申請論文「Antimicrobial property of titanium plates treated with silica -bound protamine」
について,上記の主査 1 名,副査 2 名が個別に審査を行った.
本研究では,旧来から接着性の改善のために行われてきたシリカ処理が塩基性ペプチドも吸着 することに着目し,吸着した塩基性ペプチドの抗菌性が口腔内細菌に対する有効性を検討した.
それらを明らかにする方法として,塩基性ペプチドであるプロタミンがシリカ表面に吸着することを 確認するため FTIR の RAS 法を用いた.鏡面研磨された金属表面において信号強度が増大する.
水洗前後と表面を掻き落とした粉末の測定を行い比較した.抗菌性は JIS Z2801 の抗菌試験に準 拠し,標準のS.Aureus, E.ColiにC.Albicansを実験群に追加した.また,シリカ処理は歯科では金 属や陶材の接着力強化に用いられてきたがレジンに対しては通常は使われないため,試料作製の 処理条件も検討した.
金属表面に吸着したプロタミンは水洗で落ちたがシリカは落ちなかった.表面から採取した粉末 からはペプチドが検出された.抗菌性試験では抗菌性および抗真菌性の JIS 基準を大幅に上回っ た.レジンを熱損傷させずに処理するためには,6cm 以上の距離を起き真下からあぶる方法が適し ていることが明らかになった.
従来から使われてきたシリカ処理器具と食品あるいは医薬品として流通するプロタミンを用いて,
抗 菌 ,抗真 菌 性を義歯に与 えることができることがわかった.抗 菌 成分 の除 去 ,付加 ,および付 け 替 えが可 能 な方 法 であるため臨 床 応 用 が期 待 される.付 け替 える抗 菌 物 質 の探 索 など,さらなる 研究が必要である.
本論文の審査にあたり副査から多くの質問があり,その一部と回答を以下に示す.
中村委員の質問とそれに対する回答:
1.金属床のチタン表面の性状による差はないか.
表面性状による差はあると考えている.今回検討したのは表面に限局した抗菌性であり,例え ば表面特性の一要因である表面積が大きくなれば相関的に効果が高まると思われる.
(主査が記載)
2.チタン表面処理法によるプロタミンの抗真菌作用に差はないか.
チタン酸化膜に光触媒反応を利用した抗菌作用 の報告があり,酸化チタン自身が抗菌剤として ではなく,光励起反応によって生じる活性酸素が抗菌作用を発現 し細菌細胞壁に酸化 および分解 を生じさせる.酸化 膜の結晶構 造や膜厚を電 気 化学的 に処 理することが可能であり,プロタミンの 抗菌作用に差をもたらすと考えられる.
代田委員の質問とそれに対する回答:
1.義歯表面で増殖する主な細菌は何か.
偏 性 嫌 気 性 菌 (Veillonella,Bifidobacterium,Lacto-bacillus) , お よ び 通 性 性 嫌 気 性 菌
(Streptocoocus(Str.salivarius) 、Lactobacillus) が 考 え ら れ る . ま た ,Stretococcus sanguinis, Stretococcus gordonii,Stretococcus mitis,Streptococcus oralisなどはデンチャープラークを形成 し 細 菌 増 殖 の 足 場 と な る 可 能 性 が 示 唆 さ れ て い る . 真 菌 に 代 表 さ れ る カ ン ジ ダ 菌 に 関 し て は C.albicans が最も多く,次いでC.glabrata が検出されると思われる.
2.シリカと吸着したプロタミンの抗菌力はどの程度持続するのか.
本研究でシリカ処理後のプロタミン吸着が水洗によって低下しないことを FT-IR 分析により明ら かにしているが, 経 時 的にはプロタミンによる抗菌 効 果 は低 下していくことが考 えられる. さらに抗 菌 性 が低 下しプロタミンの吸 着が確 認されなくなった場 合でも, シリカ処理 は長期 間にわたり維持 されるので,簡便に繰り返し処理が可能であると思われる. 今後, in vitro における研究も検討して いく予定である.
尾関委員 の質問とそれに対する回答:
1.何故、塩基性ペプチドとしてプロタミンを選んだのか.
プロタミンは精子の DNA を守るタンパク質である.多くの種にあるが,サケの卵であるイクラおよび 筋子は食用として広く流通するが,白子 は廃棄されることが多く資源に余裕があり安定的に供給さ れる.また,ペプチドとしては高温およびアルカリ環境下に強く抽出が容易である.プロタミン以外の 塩基性ペプチドとしては,ラクトフェリンの応用が考えられる.
2.シラノペンによる処理でレジンは劣化しないか.
シラノペン処 理 時 の炎 による直 接 的 な加 熱 がレジンの融 点 を超 えないように注 意 する必 要 があ る.他 にもサンドブラスターを使 うロカテックシステムによるシリカコーティングも応 用 されていて,今 後 検 討 したい.工 業 的には液 体 を塗 布 するものもあるが,医 療 分 野 への応 用 は難 しいと考えてい る.
これらの試 問 に対 する回答 は,適 切 かつ明 解であった.また,尾 関 委 員は主 査 の立 場 から,
両副査の質問に対する回答の妥当性を確認した.
以上の審査結果から,本論文を博士(歯学)の学位授与に値するものと判定した.
(主査が記載)