中央大学大学院理工学研究科情報工学専攻 修士論文
首都直下地震による鉄道利用者の被害想定
A Damage Estimation of Railway Passengers by an Attack of a Near-Field Earthquake
in the Tokyo Metropolitan Area
川口 真由
Mayu KAWAGUCHI
学籍番号
05N8100006B指導教員 田口 東 教授
概要
現在,首都圏における鉄道定期券利用者はおよそ 800 万人にのぼり,朝の通勤・通学時間 帯や,夕方の帰宅時間帯には利用者で電車内は混雑する.一方で,首都圏では近いうちに直 下型の地震が発生すると予想されている.朝夕のラッシュ時に地震が発生すると,鉄道利用 者にも多くの被害が生じると考えられる.そこで,本研究では首都直下地震により鉄道利用 者が受ける被害について見積もることを目的とする.
首都直下地震による被害想定は,行政を中心に行なわれている.しかしながら,これらの 被害想定では,地震が発生する時刻をいくつか設定しており,設定されていない時刻に地震 が発生した場合の被害については言及していない.さらに,包括的な被害を推計しているた め,鉄道利用者が受ける被害の詳細は明らかではない.
一方,首都圏で鉄道を利用する人の流れを再現する方法については,いくつかの既存研究 が存在する.鉄道網(空間ネットワーク)を時間軸方向に拡張し,時空間ネットワークを構 築することで,鉄道利用者の流れを詳細に再現することが可能である.しかし,既存研究に おいては,朝の通勤・通学時間帯に限って,鉄道利用者の流れの再現,解析が行なわれてき た.
本研究では,市販の時刻表の電子データを基に時空間ネットワークを構築し,一日を通じ た鉄道利用者の流れを再現する.いつ,どこに,どのくらいの鉄道利用者がいるかを詳細に 知ることができるので,首都直下地震により鉄道利用者が受ける被害を,一日を通じて詳細 に見積もることが可能となる.具体的には,大都市で起きる地震で大きな問題となる帰宅困 難者数を見積もる.さらに,首都直下地震として東京湾北部地震と都心西部直下地震の 2 タ イプの地震を想定し,パニックの発生しやすい地下鉄の利用者数や,脱線により発生する死 傷者数の推計を行なう.
キーワード:首都直下地震,被害想定,時空間ネットワーク,帰宅困難者
目次
第1章 序論... 1
1.1 研究背景... 1
1.2 研究目的... 2
第2章 時空間ネットワーク... 4
2.1 対象範囲... 4
2.2 時空間ネットワークの構築... 5
2.2.1 停車ノード... 5
2.2.2 走行リンク... 6
2.2.3 待ちリンク... 7
2.2.4 待ち合わせリンク... 7
2.2.5 乗り換えリンク... 8
2.3 時空間ネットワーク... 9
第3章 鉄道利用者の時空間分布... 11
3.1 大都市交通センサス... 11
3.2 時空間分布... 14
3.2.1 最短時間経路... 15
3.2.2 鉄道利用者の時空間分布... 16
3.2.3 時刻・利用状況別利用者数集計... 18
3.2.4 時刻・走行速度別利用者数集計... 18
第4章 帰宅困難者... 21
4.1 距離分布... 21
4.1.1 最寄駅からの距離分布... 21
4.1.2 自宅最寄駅,勤務先最寄駅からの距離分布... 22
4.2 帰宅困難者... 25
第5章 震度ごとの地域内利用者... 29
5.1 想定する地震... 29
5.2 震度ごとの地域内利用者... 31
5.2.1 東京湾北部地震... 31
5.2.2 都心西部直下地震... 35
第6章 被害推計... 41
6.1 地下鉄... 41
6.1.1 地下鉄駅の階数... 42
6.1.2 地下鉄利用者の階数別集計... 43
6.2 脱線電車内の利用者... 48
6.2.1 脱線率... 48
6.2.2 脱線電車数と脱線電車内の利用者数... 48
6.3 死傷者... 55
6.3.1 死傷率... 55
6.3.2 死傷者数推計パターン... 56
6.3.3 東京湾北部地震パターン1 ... 58
6.3.4 東京湾北部地震パターン2 ... 61
6.3.5 都心西部直下地震パターン1 ... 64
6.3.6 都心西部直下地震パターン2 ... 67
第7章 結論... 70
7.1 まとめ... 70
7.2 今後の課題... 70
謝辞... 72
参考文献... 73
第 1 章
序論
首都圏では,近いうちに直下型の地震が発生すると予想されている.また,現在,首都圏 における鉄道定期券利用者は,およそ 800 万人にのぼり,朝の通勤・通学時間帯や夕方の帰 宅時間帯には利用者で電車内は混雑する.そのため,朝夕のラッシュ時に地震が発生すると,
鉄道利用者にも多くの被害が生じると考えられる.そこで,本研究では首都直下地震により 鉄道利用者が受ける被害を推計することを目的とする.
1.1
研究背景
首都直下地震を対象とした被害想定は,行政を中心に行なわれている[12,13].内閣府[13] に よると,首都圏では200年から300年間隔で,関東大震災クラスの地震が発生している.関 東大震災は,1923年に発生した大地震で,地震規模を表わすマグニチュード(以下,Mとす る)は8である.少なくとも今後100年間は,関東大震災クラスの地震が首都圏で発生する 可能性は低い.一方で,関東大震災クラスの地震が発生しない期間は静穏期と活動期に分け られ,活動期には M7 クラスの直下地震が数回発生する.図 1.1は,内閣府[13] による首都 直下地震の切迫性を示す図である.
内閣府[13] や東京都[12] の被害想定では,地震が発生する時刻をいくつか設定しているが,
設定されていない時刻に地震が起きるとどのくらいの被害が発生するかについては言及して いない.さらに,包括的な被害の推計を行なっているため,鉄道利用者が受ける被害の詳細 は明らかではない.
一方,首都圏では,通勤や通学のために鉄道を長距離利用する人も多い.そのため,首都 圏で大地震が起きると,電車事故による死傷者だけでなく,公共交通機関がマヒすることに より帰宅困難者が大量に発生するという問題がある.2005年 7 月 23 日に千葉県北西部を震
は,今後,地震の対策を立てるにあたり有用である.
ところで,空間ネットワークを時間軸方向に拡張した時空間ネットワークを用い,鉄道利 用者がいつ,どこに,どのくらいいるかを求める方法については,いくつかの既存研究が存
在する[7,14].これらの既存研究では,朝の通勤・通学時間帯に限って鉄道利用者の流れを再
現,解析している.本研究では,首都直下地震による被害を見積もるにあたり,時間を限定 せず,一日を通じた鉄道利用者の流れを把握する.
図1.1 首都直下地震の切迫性[13]
1.2
研究目的
時空間ネットワークを用いて求めた鉄道利用者の時空間分布を基に,首都直下地震により 鉄道利用者が受ける被害を見積もることを本研究の目的とする.鉄道利用者が受ける被害と してさまざまなものが考えられるが,本研究では大都市で地震が発生したときに大きな問題 となる帰宅困難者の数や,都心で発達している地下鉄を利用している人の数,死傷者数を見 積もる.ただし,対象とするのは鉄道定期券利用者である.
本研究では,まず第 2 章で電子化した時刻表を用いて時空間ネットワークを構築する.続 く第 3章では,第2 章で構築した時空間ネットワークと,首都圏で鉄道定期券を利用してい る人のアンケートデータを基に,一日を通じた鉄道利用者の流れを再現する.この結果を用 いて,第 4 章以降では地震により鉄道利用者が受ける被害について考える.はじめに,大都 市で起きる地震で大きな問題となる帰宅困難者の数を見積もる(第4章).つぎに,第5章で 想定する地震について述べ,震度ごとの地域にどのくらいの利用者がいるのか計算する.さ らに第 6 章では,地下鉄利用中に地震にあう人の数や,鉄道利用中の死傷者数を推計する.
死傷者数の推計では,電車の走行速度により死傷率が変動する場合と,走行速度にかかわら
ず一定の場合を仮定する.
第 2 章
時空間ネットワーク
鉄道は,時刻表に従い運行する公共交通機関である.時刻表どおりに運行する鉄道は,時 間変化を離散的に捉えることができる.この特性を利用し,鉄道網(空間ネットワーク)を 時間軸方向に拡張した静的なネットワーク(時空間ネットワーク)上で,鉄道利用者の流れ を再現する.時空間ネットワークは元のネットワークに比べ大規模であるが,構造が単純で あり,また,鉄道利用者の流れを正確に再現できる[7].そこで,本章では空間ネットワーク を時間軸方向に拡張し,時空間ネットワークを構築する.
2.1
対象範囲
本研究で対象とするのは,2000 年に実施された大都市交通センサス[1] が対象としている
首都圏128路線1,815駅である.図2.1に対象範囲の鉄道網を示す.図中の緑色の線がJR山
手線である.
東京
横浜
大宮
八王子
千葉 東京
横浜
大宮
八王子
千葉
(a) 対象範囲全体
渋谷 新宿
上野
東京 渋谷
新宿
上野
東京
(b) 都心部拡大 図2.1 対象範囲の鉄道網
2.2
時空間ネットワークの構築
乗車から降車までの鉄道利用者の行動の流れをネットワーク上で表現するため,図 2.1 の 鉄道網で表わされる空間ネットワークを時間軸方向に拡張し,時空間ネットワークを構築す る.既存の研究[7,14] では,市販の紙の時刻表から擬似時刻表を作成し,時空間ネットワー クを構築している.しかし,この方法には手作業が含まれるため,擬似時刻表の作成に時間 がかかる.そのため,朝の通勤・通学時間帯に限定した研究がされてきた.また,紙の時刻 表には駅から電車が出発する時刻しか記載されていない場合が多い.そこで,本研究では市 販の時刻表の電子データ(以下,電子時刻表とする)を基に時空間ネットワークを構築する.
使用する電子時刻表は,全国JR時刻表2005年1月号と,JTBパブリッシングの私鉄データ
(2005 年 2 月 10日現在)である.電子時刻表を基に構築した時空間ネットワークを用いる ことで,一日を通じた鉄道利用者の流れの解析が可能となる.
鉄道利用を開始してから終了するまでの鉄道利用者の行動は,以下の行動に分類できる.
・電車に乗って次の駅に移動する行動
・駅で次の電車を待つ行動
・駅で待ち合わせを行なう電車に乗り換える行動
・駅で別の路線に乗り換える行動
ここで,各駅停車の電車が後続の急行電車を待って発車するようなことを,駅での待ち合 わせと呼ぶ.これら一連の鉄道利用者の行動をノードとリンクとして定義し,ネットワーク の要素として表現する.
・停車ノード :各駅における各電車の停車
・走行リンク :電車に乗って次の駅に移動する行動
・待ちリンク :駅で次の電車を待つ行動
・待ち合わせリンク :駅で待ち合わせを行なう電車に乗り換える行動
・乗り換えリンク :駅で別の路線に乗り換える行動
2.2.1 停車ノード
各駅における各電車の停車を,停車ノードとして定義する.電子時刻表には,駅に電車が 到着する時刻(着時刻)と駅から電車が出発する時刻(発時刻)が分単位で記載されている.
・着ノード :各駅における各電車の到着
・発ノード :各駅における各電車の出発
・着発間リンク :電車の到着から出発までの停車
停車ノード 着ノード
着発間リンク 発ノード
停車ノード 着ノード
着発間リンク 発ノード
図2.2 停車ノード
着ノードは着時刻と停車している駅(停車駅)の情報を,発ノードは発時刻と停車駅の情 報を持つ.
2.2.2 走行リンク
電車に乗って次の駅に移動する行動を,走行リンクとして定義する.走行リンクは,移動 元の駅の発ノードから移動先の駅の着ノードへのリンクとして表現する(図2.3).
着ノード 発ノード
走行リンク 着発間リンク
着ノード 発ノード
走行リンク 着発間リンク
図2.3 走行リンク
走行リンクは,電車の種別,編成定員の情報を持つ.ここで,電車の種別は,2000年に実 施された大都市交通センサス[1] を参考に,「各駅停車」,「快速,急行等」,「有料列車」,「新 幹線」に分類する.また,編成定員とは,混雑率が 100[%] のときに電車一本に乗車してい る人数のことである.ただし,混雑率 100[%] とは,「座席につくか,吊り革につかまるか,
ドア付近の柱につかまることができる」状態(図2.4)をいう[6].
(a) 100% (b) 150% (c) 180% (d) 200% (e) 250%
図2.4 混雑率の目安
2.2.3 待ちリンク
駅で次の電車を待つ行動を,待ちリンクとして定義する.待ちリンクは,各発ノードから つぎにその駅を出発する電車の発ノードへのリンクとして表現する(図2.5).
着ノード 発ノード
走行リンク 着発間リンク
電車11 電車12
電車13 待ちリンク
時間
着ノード 発ノード
走行リンク 着発間リンク
電車11 電車12
電車13 待ちリンク
着ノード 発ノード
走行リンク 着発間リンク
電車11 電車12
電車13 待ちリンク
時間 時間
図2.5 待ちリンク
2.2.4 待ち合わせリンク
駅で待ち合わせを行なう電車に乗り換える行動を,待ち合わせリンクとして定義する.図 2.6のように,A駅に先に到着する電車11の着ノードから,A駅に電車11より後に到着し,
先に出発する電車12の発ノードへのリンクとして表現する.図2.7(a) の赤い線は,電車の待 ち合わせを利用し,A駅で電車11から電車12 に乗り換える様子を表わしている.同様に図
2.7(b) の赤い線は,A駅で電車12から電車11に乗り換える様子を表わしている.
着ノード
発ノード
走行リンク 着発間リンク
電車11 電車12
待ちリンク
待ち合わせリンク A駅
時間
着ノード
発ノード
走行リンク 着発間リンク
電車11 電車12
待ちリンク
待ち合わせリンク A駅
着ノード
発ノード
走行リンク 着発間リンク
電車11 電車12
待ちリンク
待ち合わせリンク A駅
時間 時間
図2.6 待ち合わせリンク
電車11 電車12
A駅 時間
電車11 電車12
A駅 電車11
電車12
A駅 時間
時間
(a) 電車11から電車12への乗り換え
電車11 電車12
A駅 時間
電車11 電車12
A駅 電車11
電車12
A駅 時間
時間
(b) 電車12から電車11への乗り換え 図2.7 待ち合わせによる乗り換え
2.2.5 乗り換えリンク
駅で別の路線に乗り換える行動を,乗り換えリンクとして定義する.図 2.8 のように,路 線1と路線2はB駅とB’駅で乗り換えが可能であるとする.乗り換えが可能である駅間での 乗り換えは,乗り換え元の駅の着ノードから,乗り換え先の駅の発ノードのうち,乗り換え をして間に合う最も早い発ノードへのリンクとして表現し,このリンクを乗り換えリンクと する(図2.9).
乗り換えが可能な駅対には,同一構内にあり乗り換えに時間がほとんどかからない駅対(同 一駅と呼ぶ)と,離れた場所にある,改札を通過するなど乗り換えに時間がかかる駅対(乗 換駅と呼ぶ)がある.同一駅,乗換駅は田口[7] を参考にする.[7] では,駅名が同じか似通 っている駅対,大都市交通センサスに実際に乗り換えの記録がある駅対を拾い出して,駅間 の距離,駅の構造,事業者などを調べ,個別に判断して同一駅か乗換駅かを決定している.
乗り換え所要時間は,同一駅の場合は0[分],乗換駅の場合は
( ) ( )
] [ ] 2
m/
[ 55
] m ] [
[
2 2
分 分 分
時間
乗換駅の乗り換え所要 − + − +
= xs xt ys yt
とする.ここで,乗換駅s,tの座標をそれぞれ
(
xs, ys)
,(
xt,yt)
,歩行速度を55[m/分](= 3.3[km/時]),階段や改札の通過にかかる時間を2[分] とする.
路線1 路線2D駅
B’駅
E駅 A駅
B駅 C駅
路線1 路線2D駅
B’駅
E駅 A駅
B駅 C駅
図2.8 乗り換え
B駅
B’駅 着ノード
発ノード
走行リンク
着発間リンク
電車11 電車12 待ちリンク 電車22
電車21
乗り換えリンク 時間
B駅
B’駅 着ノード
発ノード
走行リンク
着発間リンク
電車11 電車12 待ちリンク 電車22
電車21
乗り換えリンク B駅
B’駅 着ノード
発ノード
走行リンク
着発間リンク
電車11 電車12 待ちリンク 電車22
電車21
乗り換えリンク 時間
時間
図2.9 乗り換えリンク
2.3
時空間ネットワーク
首都圏の鉄道網を時間軸方向に拡張し,時空間ネットワークを構築する.対象とする電車
鉄道網を時空間ネットワークで表わすと,図2.10のようになる.図2.10は,リンクの種類に より色を分けて表示している.また,この時空間ネットワークの総ノード数は746,871,総リ
ンク数は3,053,930である(表2.1).
図2.10 時空間ネットワーク
表2.1 時空間ネットワークの規模
ノード 746,871
リンク 3,053,930
走行リンク 507,513 着発間リンク 197,863 待ちリンク 533,737 待ち合わせリンク 20,973 乗り換えリンク 1,793,844
第 3 章
鉄道利用者の時空間分布
本章では,第 2 章で構築した時空間ネットワークを用い,いつ,どこに,どのくらいの鉄 道利用者がいるかを求める.さらに,各利用者が何をしているか,どのくらいの速度で走行 している電車に乗っているかを把握することで,地震発生時の被害を詳細に推計するための データとする.
3.1
大都市交通センサス
大都市交通センサス[1] とは,首都圏,中京圏,近畿圏の三大都市圏における鉄道,バス等 の大量公共交通機関の利用実態を調査し,利用状況を把握することにより,三大都市圏にお ける都市交通政策を立案するための基礎資料を提供することを目的に実施される交通統計調 査である[4].本研究では,2000年に実施された調査のうち,首都圏の鉄道定期券利用者調査 を使用する.鉄道定期券利用者調査の調査期間は 2000年 10月23日(月)~27日(金)で ある.全体でおよそ800万人にのぼる鉄道定期券利用者のうち,約30万人がサンプルとして 選ばれている.以後,2000年に実施された首都圏の鉄道定期券利用者調査を大都市交通セン サスと呼ぶ.
大都市交通センサスは,首都圏の鉄道定期券利用者(以下,鉄道利用者または利用者とす る)を対象に,通勤・通学のデータとして,自宅を出発した時刻,通勤・通学のための鉄道利 用を開始した時刻,通勤・通学のための鉄道利用を終了した時刻,勤務地・就学地へ到着し た時刻,鉄道利用経路などの項目が記載されている.ここで,鉄道利用経路とは,通勤・通 学のための鉄道利用を開始した駅,通勤・通学のための鉄道利用を終了した駅,途中で別の 路線に乗り換える駅,利用電車の種別(「各駅停車のみ」,「快速,急行等」,「有料列車」,「新 幹線」に分類)である.以後,鉄道利用を開始した時刻を乗車時刻,鉄道利用を終了した時
大都市交通センサスはサンプル調査であるため,これらの項目に加え,各レコードにそのレ コードが何人分を代表するか(拡大率)が記載されている.
図 3.1 は,通勤・通学と帰宅に関して,乗車時刻,降車時刻による累積利用者数を示した ものである.大都市交通センサスはアンケート形式で調査が行なわれるため,乗車時刻,降 車時刻など時刻に関する項目では7時45分や18時00分というようなきりのいい時刻の回答 が多い.しかし,実際の電車の時刻表は,このようにきりのいい時刻ではない.そこで,そ れぞれのレコードの乗車時刻,降車時刻を前に4分,後に5 分ずつ拡げ,各データを均等に 振り分けている(図3.2,図3.3).ただし,帰宅に関する回答では,18時00分や19時30分 というように30分単位の回答が多いため,前述のように均等に振り分けても,通勤・通学に 比べ時刻による偏りがある.
0 2 4 6 8
6時00分 7時00分 8時00分 9時00分
鉄道利用者数(百万人)
乗車時刻 降車時刻
(a) 通勤・通学
0 2 4 6 8
17時00分 18時00分 19時00分 20時00分 21時00分 22時00分 23時00分
鉄道利用者数(百万人)
乗車時刻 降車時刻
(b) 帰宅
図3.1 乗降車時刻による累積利用者数
0 10 20 30 40
7時00分 7時05分 7時10分 7時15分 7時20分 7時25分 7時30分 7時35分 7時40分 7時45分 7時50分 7時55分
利用者数(万人)
乗車時刻(回答どおり) 降車時刻(回答どおり)
乗車時刻(振り分け後) 降車時刻(振り分け後)
図3.2 乗降車時刻による利用者数の集計(通勤・通学)
0 10 20 30 40
17時45分 17時50分 17時55分 18時00分 18時05分 18時10分 18時15分 18時20分 18時25分 18時30分 18時35分 18時40分
利用者数(万人)
乗車時刻(回答どおり) 降車時刻(回答どおり)
乗車時刻(振り分け後) 降車時刻(振り分け後)
図3.3 乗降車時刻による利用者数の集計(帰宅)
図 3.1 から,通勤・通学では多くの利用者が短い時間帯に集中して鉄道を利用しているこ と,帰宅では長時間にわたり多くの利用者が鉄道を利用していることがわかる.また,図3.4 に旅行時間10分ごとに利用者数をまとめて集計した結果を示す.ここで,旅行時間とは乗車 駅で乗車してから降車駅で降車するまでの鉄道を利用している時間のことで,乗り換えにか かる時間や電車を待つ時間を含む.通勤・通学,帰宅ともに旅行時間が 30分から40分ほど の利用者が多く,ほとんどの利用者が90分以内に鉄道利用を終了している.
0 50 100 150
~10分 ~20分 ~30分 ~40分 ~50分 ~60分 ~70分 ~80分 ~90分 ~100分 ~110分 ~120分 ~130分 ~140分 ~150分 ~160分 ~170分 ~180分 180分以上
旅行時間
利用者数(万人)
通勤・通学 帰宅
図3.4 旅行時間別利用者数集計
の移動が多いことがわかる.
(a) 乗車駅 (b) 降車駅
図3.5 乗降車駅別集計(通勤・通学)
(a) 乗車駅 (b) 降車駅
図3.6 乗降車駅別集計(帰宅)
3.2
時空間分布
第 2 章で構築した時空間ネットワークと大都市交通センサスを用いて,鉄道利用者の流れ を把握する.鉄道利用者は旅行時間が最も短い経路を選択すると仮定し,最短時間経路問題 を解くことで時空間ネットワーク上での鉄道利用者の移動を求める.最短時間経路問題はダ イクストラ法を用いて解く.ただし,大都市交通センサスに記載されている利用者ごとの乗 車時刻や鉄道利用経路,利用電車の種別(以下,電車種別とする)は反映させる.ところで,
大都市交通センサスには帰宅に関する鉄道利用経路,電車種別の記載がない.そのため,通 勤・通学のための乗車駅が帰宅のための降車駅と同じで,かつ,通勤・通学のための降車駅 が帰宅のための乗車駅と同じ場合は,帰宅のための鉄道利用経路を通勤・通学の逆とし,電 車種別は通勤・通学と同じとする.それ以外の場合は,鉄道利用経路,電車種別を考慮しな
い.通勤・通学のための乗車駅と帰宅のための降車駅,通勤・通学のための降車駅と帰宅の ための乗車駅がともに一致するのは全体の鉄道利用者数のおよそ88[%] で,およそ12[%] が 一致しない.
3.2.1 最短時間経路
時空間ネットワークと大都市交通センサスを用いて最短時間経路問題を解き,時空間ネッ トワーク上での鉄道利用者の移動を求める.最短時間経路問題はダイクストラ法を用いて解 く.最短時間経路問題を解いた結果から,旅行時間1分ごとに利用者数を集計すると,図3.7 が得られる.図3.7から,旅行時間が30分ほどの利用者が最も多く,ほとんどの利用者が90 分以内に鉄道利用を終了することがわかる.
0 10 20 30
0 10 20 30 40 50 60 70 80 90 100 110 120 130 140 150 160 170 180
旅行時間(分)
利用者数(万人)
図3.7 旅行時間別利用者数集計
また,図 3.8 は大都市交通センサスの回答どおりの旅行時間を横軸に,最短時間経路での 旅行時間を縦軸にとり,利用者数が多いほど赤く,少ないほど青く表示したものである.大 都市交通センサスの乗車時刻,降車時刻はきりのいい時刻の回答が多い.そのため 5 分刻み で縦に長い線が現われているが,45度の線に沿って利用者数の多い点が現われている.よっ て,大都市交通センサスの旅行時間と最短時間経路の旅行時間はよく一致しているといえ,
時空間ネットワーク上で最短時間経路問題を解くことにより鉄道利用者の流れが再現できる ことがわかる.
大都市交通センサス 旅行時間(分)
最短時間経路旅行時間(分)
大都市交通センサス 旅行時間(分)
最短時間経路旅行時間(分)
図3.8 旅行時間
3.2.2 鉄道利用者の時空間分布
時空間ネットワーク上で最短時間経路を求めることにより,「いつ」,「どこに」,「どのくら いの」利用者がいるかがわかる.図 3.9 は,最短時間経路問題を解くことにより求められた 鉄道利用者の時空間分布である.電車一本一本の位置を線で表わし,空いているほど青く,
混雑しているほど赤くなるように各電車を色分けして表示している.
7 時ごろから通勤・通学のための鉄道利用が活発になり,朝早い時間帯は放射線状に伸び る路線上で郊外から都心に移動する利用者が多い.また,8 時ごろは都心部でも利用者が多 く,9 時ごろに通勤・通学による鉄道利用が落ち着く.朝の通勤・通学時間帯と比べ,昼間 は走行している電車の数も少なく,利用者数も少ない.そして,17時ごろから帰宅のための 鉄道利用が始まり,18時ごろに帰宅のための鉄道利用はピークとなる.帰宅のための鉄道利 用は,利用する時間帯が分散するため,通勤・通学時間帯に比べ混雑は少ないが,長時間に わたり多くの人が鉄道を利用する状態が続く.
図3.9 鉄道利用者の時空間分布
3.2.3 時刻・利用状況別利用者数集計
時空間ネットワーク上で鉄道利用者の流れを再現することにより,ある時刻に各利用者が それぞれ何をしているのか(以下,利用状況とする)がわかる.そこで,利用状況を「電車
(走行中)」,「電車(停車中)」,「ホーム」,「乗り換え」に分類し,時間軸に沿って利用者数 を集計する(図3.10).
・電車(走行中) :走行中の電車に乗っている
・電車(停車中) :駅で停車している電車に乗っている
・ホーム :ホームで電車を待っている
・乗り換え :駅で乗り換えのために移動している
0 50 100 150
5時00分 6時00分 7時00分 8時00分 9時00分 10時00分 11時00分 12時00分 13時00分 14時00分 15時00分 16時00分 17時00分 18時00分 19時00分 20時00分 21時00分 22時00分 23時00分
利用者数(万人) 電車(走行中) 電車(停車中) ホーム 乗り換え
図3.10 時刻・利用状況別利用者数集計
鉄道利用が活発になる朝の通勤・通学時間帯と夕方の帰宅時間帯には,走行中の電車に乗 っている利用者も多い.通勤・通学のための鉄道利用が最も多くなる 8 時ごろには,帰宅の ピークである18時ごろの約2倍のおよそ120万人が走行中の電車に乗っている.また,停車 中の電車の中にいる利用者や,ホームで電車を待っている利用者,別の路線に乗り換えをす る利用者も多く,8時ごろにはおよそ120万人,18時ごろにはおよそ62万人が駅にいる.
3.2.4 時刻・走行速度別利用者数集計
電車の走行速度がどのように変化するか(以下,運転パターンとする)を仮定し,「どのく らいの速度で」走行している電車に,「どのくらいの」利用者が乗っているのか計算する.運 転パターンは以下のように仮定する(図3.11).
ある連続する2駅の駅間距離をD,所要時間をTとする.また,電車の加速度と減速度は 等しいと仮定し,加減速度をaとする.加減速する時間をTaとすると,一定速度走行時の走
行速度Vは
Ta
a V = ⋅ となる.駅間距離Dは
( )
( )
(
a)
a a
a a
a
T T T a
T T V
T V T
T V T V D
−
⋅
⋅
=
−
⋅
=
⋅
⋅ +
⋅
−
⋅ +
⋅
⋅
= 2
2 1 2
1
であるから,加減速する時間Taは
2 − ⋅ ⋅ + =0
⋅T a T T D
a a a
を解き求める.ただし,T = 1[分] のときはV = D[m/分],T = 2[分] のときはV = D/2[m/分] と する.また,新幹線の加減速度をa = 1,600[m/分/分],その他の加減速度をa = 3,000[m/分/分] と する.ある駅を出発してからの時間をt (>0) とすると,走行速度vは
( )
( )
⎪⎩
⎪⎨
⎧
−
⋅
−
−
⋅
=
のとき)
<
≦
(
のとき)
<
≦
(
のとき)
<
(
T t T T t
a V
T T t T V
T t t
a v
a
a a
a
2
2
となる.
時間 V
T
Ta Ta
走行速度
時間 V
T
Ta Ta
走行速度
図3.11 運転パターン
以上のような運転パターンに従って電車が運行していると仮定し,鉄道利用者を時間軸に 沿って走行速度別に集計すると,図3.12を得る.通勤・通学時間帯では,走行速度の速い電 車の利用者数が最も多くなる時間帯は,走行速度の遅い電車の利用者数が最も多くなる時間 帯より早い.一方,帰宅時間帯では,走行速度の遅い電車の利用者数が最も多くなる時間帯 が,走行速度の速い電車に比べ早い.これは,駅間の距離が長い郊外では電車の走行速度が 速く,駅間の距離が短い都心では電車の走行速度が遅いためと考えられる.
0 50 100
5時00分 6時00分 7時00分 8時00分 9時00分 10時00分 11時00分 12時00分 13時00分 14時00分 15時00分 16時00分 17時00分 18時00分 19時00分 20時00分 21時00分 22時00分 23時00分
利用者数(万人)
~40km/hour ~60km/hour ~80km/hour
~100km/hour 100km/hour~
図3.12 時刻・走行速度別利用者数集計
第 4 章
帰宅困難者
大地震が発生すると,停電や点検により電車は停止する.復旧には時間がかかるため,鉄 道利用者は徒歩での移動を余儀なくされる.一方,首都圏では電車を利用して通勤する人が 多く,自宅のある郊外から都心へ長距離移動を行なう人も少なくない.そのため,地震によ り多くの鉄道利用者がすぐには帰宅できない可能性がある.そこで,本章では帰宅困難者数 を見積もる.
帰宅困難者とは,地震などの大きな自然災害による公共交通機関の停止によって,帰宅が 困難となる人々のことである.特に遠方からの通勤・通学者が集まる都心部では,多くの帰 宅困難者が発生すると考えられる.内閣府[13] によると,12時に地震が発生すると,東京都 内だけで約390万人,1都 3県(埼玉県,千葉県,東京都,神奈川県)で約650万人の帰宅 困難者が生じる.これは,通勤・通学者だけでなく,私事目的による滞留者も考慮している.
一方,1都 3 県合計で約650万人の帰宅困難者のうち,通勤・通学目的は約570万人(およ そ88%)であり,東京都内では約390万人の帰宅困難者のうち,約350万人(およそ90%) が通勤・通学目的である.
4.1
距離分布
震度 5 強程度の地震が発生すると,電車は停電や点検のため停止する.地震の規模が大き ければ,復旧までに多くの時間を要する.そのため,鉄道利用者はまず現在地から最も近い 駅まで徒歩で移動し,場合によっては,自宅などに徒歩で向かうことになる.本節では,地 震が発生したとき,各利用者がそれぞれの場所から最も近い駅まで,あるいは自宅や勤務地・
就業地までどのくらいの距離のところにいるのかを把握する.
で,ある時刻に各利用者が最寄駅からどれくらいのところにいるのかを求める.ここで,あ る時刻に乗車している電車と同一事業者の駅のうち,現在地から最も直線距離の短い駅を最 寄駅とする.
時間軸に沿って,最寄駅からの距離ごとに利用者数を集計する.そして,人の歩行速度を 第2章で乗り換え所要時間を求めるときと同じ55[m/分](= 3.3[km/時])とし,最寄駅までの 所要時間 5 分ごとに利用者数をまとめ,図4.1を得る.最寄駅から0 分,すなわち駅で停車 中の電車内にいたり,ホームで電車を待っていたり,同一駅で乗り換えをしている利用者は,
8 時ごろに最も多くなり,その数はおよそ 77 万人にのぼる.その他の利用者のほとんどが,
最寄駅から徒歩で15分以内(825[m]以内)の範囲にいる一方,7時30分ごろには最寄駅から
30分(1,650[m])を超えるところにいる利用者もおよそ7万 7千人にのぼる.また,最寄駅
からの距離は,カーブや坂などを考慮せずに直線距離として求めているため,実際の最寄駅 からの距離より短い.さらに,足元が不安定な線路上を多くの利用者がいっせいに歩くため,
実際には歩行速度は55[m/分] より遅くなり,それに伴い最寄駅までにかかる時間も長くなる と考えられる.
0 20 40 60 80
5時00分 6時00分 7時00分 8時00分 9時00分 10時00分 11時00分 12時00分 13時00分 14時00分 15時00分 16時00分 17時00分 18時00分 19時00分 20時00分 21時00分 22時00分 23時00分
利用者数(万人)
0分 ~5分 ~10分 ~15分 ~20分 ~25分 ~30分 30分~
図4.1 最寄駅からの距離分布
4.1.2 自宅最寄駅,勤務先最寄駅からの距離分布
帰宅困難者数を見積もるために,自宅最寄駅あるいは勤務先最寄駅からの距離分布を求め る.ここで,大都市交通センサスの通勤・通学のための乗車駅を自宅の最寄りの駅(自宅最 寄駅),通勤・通学のための降車駅を勤務地・就学地の最寄りの駅(勤務先最寄駅)とする.
図 4.2 は,各利用者の自宅最寄駅と勤務先最寄駅との直線距離(以下,旅行距離とする)を
求め,1[km] ごとに利用者数をまとめたものである.旅行距離が10[km] 程度の利用者が最も
多い一方,50[km] を超える利用者もおよそ16万人いる.
0 10 20 30 40
0 10 20 30 40 50 60 70 80 90 100
旅行距離(km)
利用者数(万人)
図4.2 旅行距離分布
つぎに,図4.2を通勤・通学のための乗車時刻別,降車時刻別に集計すると,図4.3を得る.
図 4.3 から,鉄道利用を開始する時刻が早い利用者ほど,旅行距離が長いことがわかる.一 方,鉄道利用を終了する時刻による旅行距離の相違はみられない.
0 2 4 6 8 10
0 10 20 30 40 50 60 70
旅行距離(km)
利用者数(万人)
~7時00分
~7時30分
~8時00分
~8時30分
~9時00分 9時00分~
(a) 乗車時刻別
0 2 4 6 8 10
0 10 20 30 40 50 60 70
旅行距離(km)
利用者数(万人)
~8時00分
~8時30分
~9時00分
~9時30分
~10時00分 10時00分~
(b) 降車時刻別 図4.3 乗降車時刻別旅行距離分布
自宅と勤務地・就学地が近ければ,地震により電車をはじめとする公共交通機関が停止し ても,徒歩で帰宅することができる.しかし,自宅と勤務地・就学地が遠い場合,どこにい るときに地震が発生するかによって,帰宅が可能か困難かが決まると考えられる.そこで,
第 3 章で求めた鉄道利用者の時空間分布から,自宅最寄駅からの距離分布を,時間軸に沿っ
0 20 40 60 80
5時00分 6時00分 7時00分 8時00分 9時00分 10時00分 11時00分 12時00分 13時00分 14時00分 15時00分 16時00分 17時00分 18時00分 19時00分 20時00分 21時00分 22時00分 23時00分
利用者数(万人)
0km ~5km ~10km ~15km ~20km ~25km ~30km 30km~
図4.4 自宅最寄駅からの距離分布
利用者の集中する8時ごろには,自宅最寄駅までの距離が10[km] 以内である利用者がおよ そ110万人である一方,30[km] を超える利用者もおよそ23万人にのぼる.
つぎに,勤務先最寄駅からの距離分布を図4.5に示す.
0 20 40 60 80
5時00分 6時00分 7時00分 8時00分 9時00分 10時00分 11時00分 12時00分 13時00分 14時00分 15時00分 16時00分 17時00分 18時00分 19時00分 20時00分 21時00分 22時00分 23時00分
利用者数(万人)
0km ~5km ~10km ~15km ~20km ~25km ~30km 30km~
図4.5 勤務先最寄駅からの距離分布
図 4.5 より,朝の通勤・通学時間帯では,時間を追って勤務先最寄駅までの距離の長い利 用者のピークから徐々に距離の短い利用者のピークが現われる.これより,徐々に利用者が 勤務地・就学地に近づいていることがわかる.また,勤務先最寄駅までの距離が30[km] を超 える利用者のピークが7 時すぎに現われることから,遠方に自宅のある利用者は7 時ごろ自 宅を出発し,鉄道利用を開始すると考えられる.
以上より,地震の発生時刻によって,自宅最寄駅や勤務先最寄駅からの距離が遠い場所に いる鉄道利用者が多いことがわかる.そこで,自宅最寄駅,勤務先最寄駅のうち近いほうか らの距離分布を求める(図4.6).
0 20 40 60 80 100 120
5時00分 6時00分 7時00分 8時00分 9時00分 10時00分 11時00分 12時00分 13時00分 14時00分 15時00分 16時00分 17時00分 18時00分 19時00分 20時00分 21時00分 22時00分 23時00分
利用者数(万人)
0km ~5km ~10km ~15km ~20km ~25km ~30km 30km~
図4.6 自宅最寄駅あるいは勤務先最寄駅からの距離分布
自宅最寄駅からの距離分布,勤務先最寄駅からの距離分布に比べ,自宅最寄駅あるいは勤 務先最寄駅からの距離が10[km] を超える鉄道利用者が大幅に少ない.これは,自宅から離れ ると勤務先に近づき,勤務先から離れると自宅に近づくことによる.自宅最寄駅あるいは勤 務先最寄駅までの距離が 10[km] 以内の利用者は,鉄道利用が最も活発な 8 時ごろにおよそ 180 万人である一方,30[km] を超える利用者は8,000 人弱である.自宅最寄駅あるいは勤務 先最寄駅までの距離が20[km] ~30[km] である鉄道利用者を合わせても6万人程度である.
4.2
帰宅困難者
4.1.2節で求めた自宅最寄駅からの距離分布,自宅最寄駅あるいは勤務先最寄駅からの距離
分布を用いて,帰宅困難者数を推計する.本研究で対象とするのは,鉄道利用者のうち,地 震発生時に鉄道を利用中の人に限る.
4.2.1 帰宅可能・帰宅困難判定方法
内閣府[13] や東京都[12] では,帰宅が困難である割合(帰宅困難割合)を自宅までの距離 帯別に設定している.自宅までの距離が10[km] 以内であれば全員が帰宅可能(帰宅困難割合
するためである.
以上を参考にし,本研究では図4.7のように帰宅困難割合を設定する.
自宅までの距離(km)
100
帰宅困難割合(%)
0 10 20
自宅までの距離(km)
100
帰宅困難割合(%)
0 10 20
図4.7 帰宅困難割合
自宅までの距離をDhome[km] とすると,帰宅困難割合pdiff[%] は
⎪⎪
⎩
⎪⎪
⎨
⎧
− ×
= −
)
<
(
)
≦
<
(
)
≦
(
home home home
home
diff
20 100
20 10
10 100 20
10
10 0
D D D
D p
となる.
4.2.2 帰宅困難者数の推計
4.2.1節の帰宅可能・帰宅困難判定方法に従い,帰宅困難者数の推計を行なう.ただし,本
研究では地震発生時に鉄道を利用している利用者のみを対象とする.また,地震が発生する と関東全域の鉄道すべてが利用できなくなると仮定する.
はじめに,地震が発生すると,鉄道利用者は全員自宅に帰ろうとすると仮定する(パター ンA).この仮定に基づき,それぞれの利用者が帰宅可能であるか帰宅困難であるかを判定し,
時間軸に沿って集計する(図 4.8).ただし,判定の基準となる距離は,自宅最寄駅までの直 線距離とする.
0 50 100 150
5時00分 6時00分 7時00分 8時00分 9時00分 10時00分 11時00分 12時00分 13時00分 14時00分 15時00分 16時00分 17時00分 18時00分 19時00分 20時00分 21時00分 22時00分 23時00分
利用者数(万人)
帰宅可能 帰宅困難
図4.8 帰宅困難者数(パターンA)
パターンAでは,8時ごろにもっとも帰宅困難者が多くなり,その数はおよそ87万人にの ぼる.これは,その時間の鉄道利用者数の約38[%] にあたる.
つぎに,地震が発生すると,鉄道利用者は自宅あるいは勤務地・就学地のうち近いほうに 向かうと仮定し(パターンB),それぞれの利用者が帰宅可能であるか帰宅困難であるかを判 定し,時間軸に沿って集計する(図 4.9).ただし,判定の基準となる距離は,自宅最寄駅あ るいは勤務先最寄駅までの直線距離のうち,短いほうとする.また,表 4.1 に鉄道利用者が 最も多くなる8時00分に地震が発生した場合の帰宅が可能である利用者(帰宅可能者とする)
の数と帰宅困難者数を示す.
0 50 100 150 200 250
5時00分 6時00分 7時00分 8時00分 9時00分 10時00分 11時00分 12時00分 13時00分 14時00分 15時00分 16時00分 17時00分 18時00分 19時00分 20時00分 21時00分 22時00分 23時00分
利用者数(万人)
帰宅可能 帰宅困難
表4.1 帰宅困難者数(8時00分)
帰宅可能者数 帰宅困難者数 パターンA およそ146万人 およそ86万人 パターンB およそ211万人 およそ21万人
パターンBは,パターンAに比べ帰宅困難者数は少なく,帰宅可能者数は多い.パターン Aでは8時ごろに帰宅困難者数が最も多くなるが,パターンBでは7時40分ごろに最も帰宅 困難者数が多くなる.これは,自宅から遠ざかるにつれ勤務地・就学地に近づくことによる.
また,パターンBでは帰宅困難者数は最大でおよそ22万人で,これはその時間の鉄道利用者
数の約10[%] である.
以上より,大地震が発生したときには,自宅に向かうことだけを考えるのではなく,勤務 地・就学地に向かうことも考えると,帰宅困難者が大幅に減ることがわかる.
第 5 章
震度ごとの地域内利用者
大地震により鉄道利用者が受ける被害を見積もるために,震度ごとの地域内にいる鉄道利 用者数を計算する.これは,震度により受ける被害が大きく異なるためである.本章では,
まず想定する地震について説明し,つぎに震度ごとの地域内にいる電車の本数や鉄道利用者 数を計算する.
5.1
想定する地震
中央防災会議[8] では,18 タイプの地震を想定し,それぞれの地震が発生したときの被害 を推計している.本研究では,この18タイプの地震のうち,東京湾北部地震と都心西部直下 地震を対象とする.東京湾北部地震は,想定されている18タイプの地震の中でも発生する可 能性が高く,都心部に大きな被害をもたらすと考えられている.また,都心西部直下地震は,
発生する可能性は東京湾北部地震に比べ低いものの,18タイプの地震の中で最も人的被害が 大きくなると考えられている.
東京湾北部地震は,東京湾の江東区沿岸を震源とする地震で,地震の規模はM7.3である.
また,都心西部直下地震は,西新宿の都庁直下を震源とする地震で,地震の規模はM6.9であ る.図5.1,図5.2に,内閣府[13] による東京湾北部地震と都心西部直下地震の震度分布を示 す.
本研究では,図 5.1,図 5.2 の震度分布にあうように,同心円として震度分布を仮定する.
東京湾北部地震の震度分布を表5.1,図5.3のように仮定する.また,都心西部直下地震の震 度分布を表5.2,図5.4のように仮定する.図5.3と図5.4は対象範囲の路線図と震度分布を 重ねて表示したものである.
(a) 震度分布 (b) 震度分布(都心部)
図5.1 震度分布(東京湾北部地震)[13]
(a) 震度分布 (b) 震度分布(都心部)
図5.2 震度分布(都心西部直下地震)[13]
表5.1 震度分布の仮定(東京湾北部地震)
震度 震源からの距離
震度6強 半径20.0km以内
震度6弱 半径40.0km以内
震度5強 半径60.0km以内
震度5弱 半径75.0km以内
震度4 半径90.0km以内
震源 震度6強
震度6弱
震度5強 震度5弱 震度4
震源 震度6強
震度6弱
震度5強 震度5弱 震度4
図5.3 路線図と震度分布(東京湾北部地震)
表5.2 震度分布の仮定(都心西部直下地震)
震度 震源からの距離
震度6強 半径15.0km以内
震度6弱 半径25.0km以内
震度5強 半径37.5km以内
震度5弱 半径50.0km以内
震度4 半径100.0km以内 震源
震度6強 震度6弱 震度5強 震度5弱
震度4
震源 震度6強
震度6弱 震度5強 震度5弱
震度4
図5.4 路線図と震度分布(都心西部直下地震)
5.2
震度ごとの地域内利用者
震度により,受ける被害の大きさは異なる.よって,地震の被害を見積もるためには,震 度ごとの地域内にどれくらいの鉄道利用者がいるか把握する必要がある.本節では,想定す る各地震について,第 3 章で求めた鉄道利用者の時空間分布を基に,震度ごとの地域内にい る鉄道利用者の数を計算する.
5.2.1 東京湾北部地震
東京湾北部地震について考える.鉄道利用者の時空間分布と東京湾北部地震の震度分布を 重ねることで,震度ごとの地域内にいる鉄道利用者数を計算する.図 5.5 は,左に鉄道利用 者の時空間分布と震度分布を重ねた図を,右に震度ごとの地域内にいる鉄道利用者数を棒グ ラフで表わし,表示したものである.鉄道利用者の時空間分布は,電車一本一本の位置を点 で表わし,利用者が少ないほど青く,利用者が多いほど赤くなるように表示する.そして,
震度分布は,中心の赤い点が震源を表わし,同心円の内側から橙色が震度 6 強,黄色が震度 6弱,黄緑色が震度5強,青色が震度5弱,水色が震度4を表わす.また,時間軸に沿って,
震度ごとの地域内にいる電車の本数と利用者数を集計し,図5.6,図5.7に示す.ただし,電 車の本数は,利用者がいる電車のみを数える.
図5.5 震度ごとの地域内利用者数
0 1 2 3
5時00分 6時00分 7時00分 8時00分 9時00分 10時00分 11時00分 12時00分 13時00分 14時00分 15時00分 16時00分 17時00分 18時00分 19時00分 20時00分 21時00分 22時00分 23時00分
電車本数(千本)
震度6強 震度6弱 震度5強 震度5弱 震度4 震度3以下
図5.6 震度ごとの地域内電車本数集計
0 50 100 150
5時00分 6時00分 7時00分 8時00分 9時00分 10時00分 11時00分 12時00分 13時00分 14時00分 15時00分 16時00分 17時00分 18時00分 19時00分 20時00分 21時00分 22時00分 23時00分
利用者数(万人)
震度6強 震度6弱 震度5強 震度5弱 震度4 震度3以下
図5.7 震度ごとの地域内利用者数集計
一日で最も鉄道利用が活発になる 8 時ごろには,震度6 強の地域をおよそ2,500 本の電車 が走行し,鉄道利用者数は110万人を超える.これは,8時ごろの総鉄道利用者数の約半数に あたる.また,朝の通勤・通学時間帯では,勤務地の集中する都心部を含む震度 6 強の地域 で鉄道を利用している人が最も多くなる時刻が,その他の地域に比べ遅いことがわかる.帰 宅のための鉄道利用が活発になる18時ごろには,震度6強の地域をおよそ1,900本の電車が 走行し,およそ60万人が鉄道を利用している.
つぎに,震度ごとの地域内にいる鉄道利用者を利用状況別,走行速度別に集計する.図5.8, 図5.9は,鉄道利用が活発な8時00分に,震度ごとの地域内でそれぞれの利用者が何をして いるか,どのくらいの速度で走行している電車に乗っているかで分類し,集計したものであ る.
0 25 50 75
震度6強 震度6弱 震度5強 震度5弱 震度4 震度3以下
利用者数(万人)
電車(走行中)
電車(停車中)
ホーム 乗り換え
0 25 50 75
震度6強 震度6弱 震度5強 震度5弱 震度4 震度3以下
利用者数(万人)
~40km/時
~60km/時
~80km/時
~100km/時 100km/時~