卒業研究論文
通勤通学を対象とした 鉄道時空間ネットワークの構築と 着席の効用を考慮した交通量配分モデル
学籍番号 08D8104017I 西澤 拓海
指導教員 田口 東 教授 2012年3月
i
あらまし
本研究では,はじめに電子時刻表を用いて近畿圏鉄道の時空間ネットワークを構築する.
また,交通量配分の代表的な手法である利用者均衡配分の定式化と解法について述べ,着 席の効用を考慮した交通量配分問題へと拡張する.さらに,東急田園都市線に対して着席 の効用を考慮した交通量配分を行ない,通常の利用者均衡配分との旅客流動の違いについ て比較,考察する.
キーワード:鉄道ネットワーク,近畿圏鉄道,時空間ネットワーク,利用者均衡配分
ii
目次
第1章 序論 ... 1
第2章 近畿圏鉄道の時空間ネットワーク ... 2
2.1 時空間ネットワークの概要 ... 2
2.2 近畿圏鉄道網 ... 2
2.3 使用するデータ ... 3
2.3.1 時刻表データ ... 3
2.3.2 MAPPLEポイントデータ ... 3
2.3.2.1 緯度・経度の平面直角座標への変換 ... 4
2.4 時空間ネットワークの構築 ... 6
2.4.1 ノードとリンクの定義 ... 6
2.4.1.1 駅ノード ... 7
2.4.1.2 走行リンク ... 8
2.4.1.3 待ちリンク ... 8
2.4.1.4 待ち合わせリンク ... 9
2.4.1.5 乗換リンク ... 10
2.4.2 構築した近畿圏鉄道の時空間ネットワーク ... 13
第3章 交通量配分 ... 15
3.1 利用者均衡配分 ... 15
3.2.1 利用者均衡モデル ... 15
3.2.2 利用者均衡配分の定式化 ... 15
3.2 利用者均衡配分の解法 ... 17
3.2.1 Dijkstra法 ... 17
3.2.2 Frank-Wolfe法 ... 17
第4章 着席の効用を考慮した交通量配分モデル ... 20
4.1 着席走行リンクと立席走行リンク ... 20
4.2 リンクに容量制約がある場合のFrank-Wolfe法 ... 21
4.3 着席の効用を考慮した交通量配分問題の解法 ... 22
4.4 適用事例:東急田園都市線 ... 25
iii
4.4.1 路線の概要 ... 25
4.4.2 使用するデータ ... 25
4.4.3 シミュレーション結果 ... 26
第5章 結論 ... 32
5.1 まとめ ... 32
5.2 今後の課題 ... 32
謝辞... 33
参考文献 ... 34
1
第
1章 序論
日本の大都市圏における鉄道は網状に発達しており,主要な交通手段として日々多くの 人々に利用されている.特に,通勤・通学の足として重要な役割を担っているため,朝夕 のラッシュ時間帯には多くの利用者が集中する.その結果ラッシュ時間帯において,乗客 の集中による慢性的な混雑や遅延などの様々な問題が生じており,これらの問題を取り上 げた様々な研究が行なわれている.特に[5] では,利用者が特に多い首都圏鉄道に対し,時 空間ネットワークを構築して OD 交通量を与え,様々な状況下での列車と利用者の動きを 分析している.しかし,こういった問題は首都圏だけではなく,その他の大都市圏でも同 様に起きており,首都圏に次いで鉄道利用者が多い近畿圏でもその傾向が強いと考えられ る.
与えられた交通需要をネットワーク上の経路に配分する手法としては,利用者均衡配分 を用いるのが一般的である.利用者均衡配分では,ネットワーク上の列車の走行を表すリ ンクにリンクコスト関数が与えられていて,各利用者はリンクコストの和が最小となるよ うに経路を選択する.リンクコスト関数は旅行時間と混雑度の関数として定義されており,
これによって“多尐混んでいても早く目的地に着きたい利用者”や“混む列車を避けて行 く利用者”を表すことができる.しかし,始発列車が存在する駅では,始発列車を待つ利 用者が尐なからず存在する.これまで提案されてきたモデルでは,こういった“座って行 きたいので次の列車を待つ”あるいは“尐し戻ってから目的地へ向かう”という行動を表 すことができていない.
そこで本研究では,まず,近畿圏鉄道に対して時空間ネットワークを構築する.これに より,首都圏鉄道に対して行なわれてきた既存の研究成果を,近畿圏鉄道に対しても適用 できるようになる.次に,利用者均衡配分を基にして,着席の効用を考慮した交通量配分 のモデルを構築する.例として,実際に東急田園都市線に適用して旅客流動を再現し,通 常の利用者均衡配分との違いを比較,考察する.
2
第
2章 近畿圏鉄道の時空間ネットワーク
2.1
時空間ネットワークの概要
鉄道ネットワークとは,駅をノードとして駅間にリンクを張ったものをいう.通常,鉄 道ネットワーク上で旅客流動を再現しようとすると,鉄道が持つ時間依存性により,動的 な問題を解く事になる.しかし,本研究で扱う鉄道網のような大規模なネットワークにお いて,ネットワークフロー問題を動的に解くことは非常に困難である.
そこで,通常の鉄道ネットワークを時間軸方向に拡張し,3次元の静的なネットワークを 構築する.この 3 次元ネットワークを時空間ネットワークと呼ぶ.時空間ネットワークで はノードとリンクは膨大な量になってしまうが,ネットワークフロー問題を静的に解くこ とができ,動的に解く場合と比べて遥かに簡単に解を得られる[5] [6] .
本章では,時空間ネットワークの構築方法について述べ,近畿圏鉄道の時空間ネットワ ークを構築する.
2.2
近畿圏鉄道網
一般的に近畿圏とは,大阪府を中心とした京都府,兵庫県などの地域の総称である.2005 年に実施された第 10 回大都市交通センサスの近畿圏調査では,2 府(大阪府,京都府)5 県(滋賀県,奈良県,兵庫県,三重県,和歌山県)の計 184 市区町村が調査対象となって いる[9] .近畿圏鉄道網は大阪市を中心として,中心部の周辺にはJR大阪環状線が走って いる.JR大阪環状線の内側には地下鉄路線が網目状に張り巡らされており,私鉄やJRの 路線は中心部から郊外に向けて放射状に広がっている.
本研究では,第 10 回大都市交通センサスの調査対象路線のうち,2008 年に廃止された 三木鉄道の路線を除いた104路線を対象とする.図2.1 (a) に対象範囲の全体図,図2.1(b) に中心部を拡大したものを示す(JR大阪環状線を橙色で表してある).
3
(a) 近畿圏全体 (b) 大阪中心部 図2.1 対象路線
2.3
使用するデータ
2.3.1 時刻表データ
時空間ネットワークは,列車の動きを静的に表すために用いるネットワークである.列 車の動きを再現するために,JR時刻表と私鉄時刻表の2つの時刻表のデジタルデータを用 いる.JR時刻表は2010年12月のデータ,私鉄時刻表は2010年6月のデータを使用する.
以降,JR時刻表と私鉄時刻表のデジタルデータを合わせて,時刻表データと呼ぶ.
2.3.2 MAPPLEポイントデータ
時空間ネットワークは 3 次元のネットワーク構造を持つ.そのため,ネットワークを構 築する際には,各ノードの空間座標が必要となる.空間座標 (𝑥, 𝑦, 𝑧) のうち,𝑧 は各ノード が持つ時刻の情報を与えればよいが,𝑥 と 𝑦 については各駅の地図上の位置が必要である.
そこで,MAPPLE ポイントデータ[4] より緯度と経度のデータを抽出し,それを各ノード の空間座標のうち, 𝑥 と 𝑦 の2成分として与えることにする.
MAPPLEポイントデータは,全国の公共機関や交通機関などの名称,緯度・経度,住所
などの情報を保有する属性データであり,データは 9 つのテーブルから構成されている.
表2.1に,本研究で使用したT_MASTテーブルのデータ概要を示す.
大阪
神戸 京都
大阪
難波 天王寺
4
表2.1 T_MASTテーブル No. フィールド名 内容・仕様
1 ID ユニークキー
2 分類コード 属性分類を表す4桁のコード
3 行政JISコード 都道府県・市町村を表す5桁のコード
4 緯度 日本測地系,1/1000秒単位(小数点以下切捨て)
5 経度 日本測地系,1/1000秒単位(小数点以下切捨て)
6 座標精度 1/10000から1/200000までの4種類 7 名称 目標物名称
8 名称よみ 名称の全角ひらがな読み 9 付属1 都道府県名
10 付属2 市区町村名
11 付属3 路線名
12 付属4 グループID
13 付属5 駅コード
14 付属6 路線ID
15 付属7 路線名通称 16 付属8 会社名通称 17 付属9 データなし
2.3.2.1 緯度・経度の平面直角座標への変換
地球は楕円体であるので,地球上の点の水平位置は経度と緯度を用いて表すのが本来適 切である.しかし,緯度・経度のままで測量計算を行なうと楕円体の曲面上で計算を行な うことになるので,点を平面に投影してその上で計算する方がはるかに簡単である.そこ で用いられるのが平面直角座標系である.
日本における平面直角座標系は,原点をX=0.000[m],Y=0.000[m]とし,原点における子 午線と一致する軸をX軸,原点でX軸と直交する軸をY軸とする,東西130km以内が適 用範囲の座標系である[11] .図 2.2 に平面直角座標系の概要を示す.本研究では,東西
130km以内という条件を考慮して,大阪駅の緯度と経度を原点に設定する.
5
図2.2 平面直角座標系
緯度 𝜙 と経度 𝜓 から平面直角座標 (𝑥, 𝑦) への変換は,𝑁 を卯酉線曲率半径,𝑆 を子午線弧
長,𝑒𝑡 を第二離心率として,
𝑥 = {(𝑆 − 𝑆0) +1
2𝑁cos2𝜙 ⋅ 𝑡(Δ𝜆)2+ 1
24𝑁cos4𝜙 ⋅ 𝑡(5 − 𝑡2+ 9𝜂2+ 4𝜂4)(Δ𝜆)4
− 1
720𝑁cos6𝜙 ⋅ 𝑡(−61 + 58𝑡2− 𝑡4− 270𝜂2+ 330𝑡2𝜂2)(Δ𝜆)6
− 1
40320𝑁cos8𝜙 ⋅ 𝑡(−1385 + 3111𝑡2− 543𝑡4+ 𝑡6)(Δ𝜆)8} ⋅ 𝑚0
(2.1)
𝑦 = {𝑁cos𝜙 ⋅ Δ𝜆 −1
6𝑁cos3𝜙(−1 + 𝑡2− 𝜂2)(Δ𝜆)3
− 1
120𝑁cos5𝜙(−5 + 18𝑡2− 𝑡4− 14𝜂2+ 58𝑡2𝜂2)(Δ𝜆)5
− 1
5040𝑁cos7𝜙(−61 + 479𝑡2− 179𝑡4+ 𝑡6)(Δ𝜆)7} ⋅ 𝑚0
(2.2)
で行なう.ただし,
𝑎 = 6377397.155 ,𝐹 = 299.152813 ,𝑒𝑡=√2F − 1
𝐹 − 1 ,𝑁 = (𝑎 ⋅ 𝐹
𝐹 − 1 ) /√1 + 𝑒𝑡2cos2𝜙 , 𝑡 = tan 𝜙 ,𝜂2= 𝑒𝑡2cos2𝜙 ,𝛥𝜆 = 𝜆 − 𝜆0 ,𝑚0= 0.9999
であり,𝜙0 は座標系原点の緯度,𝑆0 は赤道から座標系原点までの子午線弧長である[12] . また,赤道から緯度𝜙までの子午線弧長𝑆 は,
X=0.000[m]
Y=0.000[m]
X 北
Y
東
東西130km以内
6 𝑛 = 1
2𝐹 − 1,𝐶1= 1 +𝑛2 4 +𝑛4
64+ 𝑛6
256+ 25
16384𝑛8,𝐶2= −3
2(𝑛 −𝑛3 8 −𝑛5
64− 5
1024𝑛7) , 𝐶3=15
16(𝑛2−𝑛4 4 − 5
128𝑛6− 7
512𝑛8) ,𝐶4= −35
48(𝑛3− 5
16𝑛5− 7
128𝑛7) , 𝐶5=315
512(𝑛4− 7
20𝑛6− 21
320𝑛8) ,𝐶6= − 693
1280(𝑛5−3
8𝑛7) ,𝐶7=1001
2048(𝑛6−11
28𝑛8) , 𝐶8= − 6435
14336𝑛7,𝐶9=109395 262144𝑛8
として,
𝑆 = 𝑎
1 + 𝑛(𝐶1𝜙 + 𝐶2sin 2𝜙 + 𝐶3sin 4𝜙 + 𝐶4sin 6𝜙 + 𝐶5sin 8𝜙 + 𝐶6sin 10𝜙 + 𝐶7sin 12𝜙 + 𝐶8sin 14𝜙 + 𝐶9sin 16𝜙)
(2.3)
で求める[2] .
平面直角座標系においては東西方向がY軸,南北方向がX軸であり,東西方向を左右方 向の軸とすると,通常の 2 次元平面座標系とは逆に定義されている.本研究では,座標の 扱いを容易にするため,各ノードの空間座標 (𝑥, 𝑦, 𝑧) は平面直角座標系の Y 座標の値を 𝑥 ,m- ,平面直角座標系のX座標の値を 𝑦 ,m- ,時刻を 𝑧 [分] とする.
2.4
時空間ネットワークの構築
2.4.1 ノードとリンクの定義
鉄道利用者の行動は,以下のように分類できる.
・ 列車に乗って次の駅に移動する.
・ 駅で次の列車を待つ.
・ 駅で待ち合わせを行なう列車に乗り換える.
・ 駅から別の路線の駅に乗り換える.
ここで,すべての駅に停車する列車(以下,緩行列車と呼ぶ)が,通過する駅を持つ列車
(以下,優等列車と呼ぶ)を駅で待ってから発車することを待ち合わせと呼ぶ.これらの 行動の分類を基に,時空間ネットワークにおけるノードとリンクを以下のように定義する.
7
・ 駅ノード : 各駅における各列車の停車を表すノード
・ 走行リンク : 列車に乗って次の駅に移動する行動を表すリンク
・ 待ちリンク : 駅で次の列車を待つ行動を表すリンク
・ 待ち合わせリンク : 駅で待ち合わせをする列車への乗換を表すリンク
・ 乗換リンク : 駅から別の路線の駅への乗換を表すリンク
2.4.1.1 駅ノード
駅ノードは駅における列車の停車を表すノードであり,以下の要素に分類できる.
・ 着ノード : 列車の駅への到着を表すノード
・ 発ノード : 列車の駅からの発車を表すノード
・ 着発間リンク : 列車の到着から発車までの駅での停車を表すリンク
着ノードは時刻表データにおける列車の到着時刻と停車する駅(停車駅)の情報,発ノー ドは発車時刻と停車駅の情報をそれぞれ持っており,時刻の基本単位は[分]である.ただし,
時刻表データの中には,到着時刻が存在せず発時刻のみを持つ駅も存在するため,こうい った駅では発ノードのみで駅ノードを構成する.以降,発ノードと着ノードの両方を持つ 駅を着発別,着ノードを持たない駅を着発同時駅とする.図2.3が着発別駅の駅ノードの概 念図である.
図2.3 駅ノード(着発別)
2.4.1.2 走行リンク
走行リンクは,列車に乗って駅から次の駅へ移動する行動を表すリンクである.走行リ ンクは発ノードを始点とし,次の駅が着発別の場合は着ノードが,着発同時の場合は発ノ ードが,それぞれ終点となる.図2.4が走行リンクの概念図である.
着ノード 発ノード 着発間リンク 駅ノード
8
図2.4 走行リンク
各走行リンクは,列車種別と容量の情報を持つ.列車種別は,2005年に実施された大都 市交通センサスを参考に,緩行列車,無料優等列車,有料優等列車,新幹線の 4 種類に分 類する.容量は車両定員に編成両数をかけたものとし,各路線の列車種別ごとに定義する.
容量と乗車人数(リンク交通量)が等しいとき,混雑率は100[%] となる.図2.5に,列車 の混雑率の目安を示す[6] .(a)~(e)はそれぞれ以下の状態に対応する.
(a):座席につくか,吊革につかまるか,ドア付近の柱につかまることができる.
(b):肩が触れ合う程度で,新聞は楽に読める.
(c):体が触れ合うが,新聞は読める.
(d):体が触れ合い相当な圧迫感があるが,週刊誌程度なら何とか読める.
(e):電車が揺れるたびに体が斜めになって,身動きができず手も動かせない.
(a)100% (b)150% (c)180% (d)200% (e)250%
図2.5 混雑率の目安
2.4.1.3 待ちリンク
待ちリンクは,駅で次の列車を待つ行動を表すリンクであり,発ノードを始点とし,次 の列車の発ノードを終点とする.駅ごとに,最初に発車する列車(始発列車)から最後に
着発間リンク
走行リンク 駅ノード
(着発同時)
駅ノード
(着発別)
9
発車する列車(終発列車)まで順に繋ぐ.図2.6が待ちリンクの概念図である.
図2.6 待ちリンク
2.4.1.4 待ち合わせリンク
待ち合わせリンクは,駅で待ち合わせをする列車への乗換を表し,駅に先に到着する列 車の着ノードを始点,後に到着して先に発車する列車の発ノードを終点とする.
図2.7において,駅Aに先に到着した列車11は列車12と待ち合わせをし,列車12より も後に発車する.列車12は列車11よりも後に到着し,駅Aで列車11を追い抜いて先に発 車する.
列車11から列車12に乗り換える行動は,列車11の走行リンク→着ノード→待ち合わせ リンク→発ノード→列車12の走行リンク,とたどることで表せる.また,列車12から列 車11に乗り換える行動は,列車12 の走行リンク→着ノード→着発間リンク→発ノード→
待ちリンク→発ノード→列車11の走行リンク,とたどることで表せる.
時 間 の 向き 着発間リンク
走行リンク
駅ノード
待ちリンク
列車13
列車12
列車11
10
図2.7 待ち合わせリンク
2.4.1.5 乗換リンク
乗換リンクは,駅から別の路線の駅への乗換を表すリンクである.乗換リンクは,駅に 到着する列車の着ノードを始点とし,乗換先の駅に到着する列車の中で,乗換をして間に 合いかつ時刻が最も早い発ノードを終点とする.図2.8において,路線1の駅B と路線2 の駅B’ は乗換可能な駅対であるとすると,駅Bから駅B’ および駅B’ から駅Bへの乗換 リンクは図2.9のようになる.
図2.8 乗換駅
時 間 の 向 き 着発間リンク
走行リンク 待ちリンク
列車12(優等列車)
列車11(緩行列車)
待ち合わせリンク 駅A
路線1 路線2
駅B
駅A 駅C 駅B’
乗換可能
11
図2.9 乗換リンク
乗換リンクの終点を決定するためには,乗換に必要な時間(乗換時間)を定義する必要 がある.そこで,乗換時間の駅ごとの違いを考慮して,乗換ができる駅を乗換に時間がか からない駅(同一視駅)と乗換に一定の時間が必要な駅(乗換可能駅)に分類し,それぞ れに対して乗換時間を定義する.
乗換リンクの始点となる駅の座標を (𝑥𝑠, 𝑦𝑠) ,終点となる駅の座標を(𝑥𝑡, 𝑦𝑡) として,駅間 の距離 𝑑 ,m- を
𝑑 = √(𝑥𝑠− 𝑥𝑡)2+ (𝑦𝑠− 𝑦𝑡)2 (2.4)
で求める.乗換の際の歩行速度を55 [m/分] と定義して,同一視駅は歩行時間が1分以内の 距離を基準とする.また,乗換リンクには乗換時間が与えられているため多めに範囲をと っても問題ないと考え,乗換可能駅は15分以内となる距離を基準とする.具体的には,以 下のステップで乗換可能駅と同一視駅を決定する(図2.10に図示する).
(ア) 任意の駅を選択する.
(イ) 選択した駅以外のすべての駅に対し, 𝑑 ≤ 825 を満たす駅のうちで路線ごとに最も近 い駅(最小の 𝑑 を持つ駅)を乗換可能駅の候補とする.すなわち,乗換可能駅の候補
列車12
列車21 乗換リンク
(駅B’ から駅Bへの乗換)
乗換リンク
(駅Bから駅B’ への乗換)
時間 の 向 き 着発間リンク
駅 B
走行リンク 待ちリンク 駅B’
列車22
列車11
12 は路線ごとにたかだか1駅である.
(ウ) (イ)の候補のうち,𝑑 ≤ 55 を満たす駅を列挙する.
(エ) (ウ)の駅のうち,同一事業者の駅と直通運転がある路線の駅をそれぞれ同一視駅とす
る.
(オ) (エ)で決定した同一視駅のうち,新幹線と在来線の乗換は同一視駅から除外する.ま
た,地下鉄路線同士の乗換は[8] で駅構内図を確認し,一部の例外を除いて同一視駅 から除外する.
(カ) (イ)の駅のうち,同一視駅となっていないものを乗換可能駅とする.
(キ) (ア)に戻り,すべての駅を選択し終えるまで繰り返す.
図2.10 同一視駅と乗換可能駅の決定
同一視駅に対応する乗換リンクを同一視駅間乗換リンク,乗換可能駅に対応する乗換リ ンクを乗換可能駅間乗換リンクとする.同一視駅間の乗換時間は0 [分]とし,乗換可能駅対 の乗換時間は,改札や階段などの通過にかかる時間が最低でも2分必要と考えて,
乗換時間 [分] = 𝑑
55+ 2 (2.5)
とする.
NO 同一事業者の駅or直通運転がある
𝑑 ≤ 825
𝑑 ≤ 55
新幹線と在来線の乗換ではない and
地下鉄路線同士の乗換ではない
YES
YES
YES
地下鉄路線同士の乗換 and
同一ホーム上で乗換可能 NO
NO
乗換可能駅 同一視駅
YES YES NO
NO
乗換不可
13
2.4.2 構築した近畿圏鉄道の時空間ネットワーク
時刻表データから対象路線の平日に運行される列車を抽出し,それを基にノードとリン クを作成して,近畿圏鉄道の時空間ネットワークを構築した.構築した時空間ネットワー クの規模を表2.2に,全体像を図2.11と図2.12に,それぞれ示す.図2.11と図2.12にお いて,青色が緩行電車の走行リンク,水色が無料優等列車の走行リンク,緑色が有料優等 列車の走行リンク,赤色が新幹線の走行リンク,橙色が待ちリンク,黄色が着発間リンク,
黄緑が待ち合わせリンク,薄緑色が乗換リンクである.
表2.2 時空間ネットワークの規模 ノード総数 501,097 リンク総数 1,927,324 待ちリンク数 329,238 待ち合わせリンク数 13,648 着発間リンク数 169,349 走行リンク数 306,835 同一視駅間乗換リンク数 438,581 乗換可能駅間乗換リンク数 669,673
図2.11 近畿圏鉄道の時空間ネットワーク
14
図2.12 近畿圏鉄道の時空間ネットワーク
15
第
3章 交通量配分
3.1
利用者均衡配分
ネットワークに対して出発地から目的地への交通量(OD交通量)と交通量の配分原則が 与えられたとき,各リンクにどのように交通量が配分されるかを求める問題を,交通量配 分問題という.交通量配分の主な手法として,利用者の経路選択行動を基本とする利用者 均衡配分が挙げられる.本節では,利用者均衡配分について [3] , [5] , [7] を参考にして述 べる.
3.1.1 利用者均衡モデル
交通量の配分原則はWardrop(1952)により提唱され,以下のように定義されている.
Wardropの第1原則
利用される経路の旅行時間は皆等しく,利用されない経路の旅行時間よりも小さいか,
せいぜい等しい(等時間原則).
この配分原則が成立するためには,次の2つの条件を満たす必要がある.
① すべての利用者は常に旅行時間を最小とするように行動する(最小費用経路選択仮説)
② 利用者は常に利用可能な経路についての完全な情報を得ている(完全情報仮説)
この配分原則は,利用者が各々の経路選択行動を最適化した結果到達する均衡状態を表す ものなので,利用者均衡配分(UE:User Equilibrium)と呼ばれる.
3.1.2 利用者均衡配分の定式化
時空間ネットワーク上で利用者均衡配分を解くことを考える.利用者はある一定の時刻 Δ ごとに出発すると仮定し,利用者が選択する経路のコストは通過する各枝のコストの和 であるとする.出発時刻が区間 ,𝑡, 𝑡 + Δ) であり,出発地を 𝑟 とする利用者の人数を 𝑓𝑟(𝑡)と 表し,これらの利用者がネットワークに流入するノードをソース 𝑟(𝑡) と呼ぶ.目的地を 𝑠 と する利用者がネットワークから流出するノードをシンク𝑠と呼び,ソース 𝑟(𝑡) からシンク 𝑠 へ向かう利用者の人数を 𝑒𝑠𝑟(𝑡)とする.また,ソース 𝑟(𝑡) を出発した利用者のうち,リンク
16
𝑎 を通過する利用者の人数を 𝑢𝑎𝑟(𝑡)とする.ソース 𝑟(𝑡) からは出発地の発ノードのうち時刻 𝑡 以降の最早時刻のノードへリンク(出発リンク)が張られており,シンク 𝑠 へは目的地 𝑠 の すべての着ノードからリンク(退去リンク)が張られている.
ノード 𝑖 を始点とする枝の集合を𝜕:𝑖 ,終点とする枝の集合を𝜕;𝑖 とし,時空間ネットワ ークの着ノードと発ノードを合わせた列車ノードの集合を𝑁1,ソースの集合を𝑁2,シンク の集合を𝑁3,リンクの集合を𝐴とする.リンク 𝑎 を通過する利用者の人数を𝑢𝑎= ∑𝑟(𝑡)𝑢𝑎𝑟(𝑡)と して,リンク𝑎 のコストをリンクコスト関数𝜙𝑎(𝑢𝑎) で与えるとき,利用者均衡配分は以下 のような非線形最適化問題として定式化できる.
min. 𝑍𝑝= ∑ ∫ 𝜙𝑢𝑎 𝑎(𝑤)𝑑𝑤
0
𝑎∈𝐴
(3.1)
subject to ∑ 𝑢𝑎𝑟(𝑡)
𝑎∈𝜕−𝑟(𝑡)
− ∑ 𝑢𝑏𝑟(𝑡)
𝑏∈𝜕+𝑟(𝑡)
= − ∑ 𝑒𝑠𝑟(𝑡)
𝑠
= −𝑓𝑟(𝑡)
∀𝑟(𝑡) ∈ 𝑁2 ,∀𝑠 ∈ 𝑁3 (3.2)
∑ 𝑢𝑎𝑟(𝑡)
𝑎∈𝜕−𝑠
− ∑ 𝑢𝑏𝑟(𝑡)
𝑏∈𝜕+𝑠
= 𝑒𝑠𝑟(𝑡) ∀𝑟(𝑡) ∈ 𝑁2,∀𝑠 ∈ 𝑁3 (3.3)
∑ 𝑢𝑎𝑟(𝑡)
𝑎∈𝜕−𝑖
− ∑ 𝑢𝑏𝑟(𝑡)
𝑏∈𝜕+𝑖
= 0 ∀𝑖 ∈ 𝑁1,∀𝑟(𝑡) ∈ 𝑁2 ,
∀𝑠 ∈ 𝑁3 (3.4)
𝑢𝑎= ∑ 𝑢𝑎𝑟(𝑡)
𝑟(𝑡) ∀𝑎 ∈ 𝐴 (3.5)
𝑢𝑎≥ 0 ∀𝑎 ∈ 𝐴 (3.6)
式(3.2)から(3.4)はネットワーク上の各ノードにおける流量の保存則を表しており,
式(3.2)がソース,式(3.3)がシンク,式(3.4)がそれ以外のノードに対応している.
待ちリンク,待ち合わせリンク,着発間リンク,乗換リンクのリンクコストはリンク所 要時間 𝑡𝑎 ,出発リンクと退去リンクのリンクコストは0とする.走行リンクのリンクコス ト𝜙𝑎(𝑢𝑎) は,𝐶𝑎をリンク𝑎 の容量,𝛼 > 0 と 𝛽 > 0 をパラメータとして,以下の式で与える.
𝜙𝑎(𝑢𝑎) = 𝑡𝑎(1 + 𝛼 (𝑢𝑎
𝐶𝑎)𝛽) (3.7)
式(3.7)には,リンク交通量 𝑢𝑎 がリンク容量 𝐶𝑎 よりも大きくなると値が急激に増加する という性質を持たせてある.
17
3.2
利用者均衡配分の解法
3.2.1 Dijkstra法
利用者均衡配分を解く過程において最短経路探索が頻繁に行なわれる(詳しくは 3.2.2 節で述べる)ため,効率のよい最短経路探索アルゴリズムを選ぶ必要がある.ここでは,
代表的な最短経路探索アルゴリズムであるDijkstra法について述べる.
Dijkstra 法では,解法の各段階ですべてのノードが,ある起点 o からの最短経路とその
コスト(最短経路コスト)が決定したノードの集合 𝐾 か,最短経路が決定していないノー ドの集合 𝐾̅ のいずれかに含まれる.起点oを選んだときに,起点を中心にして外側に1つ ずつ最短経路が決定したノードが増えていき,最短経路が決定したノードは 𝐾̅ から 𝐾 に移 される.よって最終的に,起点o から到達可能なすべてのノードについて,起点 o からの 最短経路を求めることができる.
𝐹𝑖 をノード 𝑖 の先行ポインタ,𝑡𝑖𝑚 をノード𝑖 を始点としノード 𝑚 を終点とするリンクの
リンクコストとして,Dijkstra法は以下の手順で行なわれる.
ステップ1 すべてのノード 𝑛 ∈ 𝑁 に対して,部分的最小コスト𝑐𝑛= ∞(あるいは非常に大
きい値),𝐹𝑛= 0 ,𝑛 ∈ 𝐾̅ とする(この段階では,𝐾̅ = 𝑁 となる).起点をoと し, 𝑐o= 0 ,𝑖 = o とする.ノードoを集合 𝐾 に移す(o ∈ 𝐾,o ∉ 𝐾̅). ステップ2 ノード 𝑖 を起点とするすべてのリンクの終点ノード 𝑚 に対して,𝑐𝑚> 𝑐𝑖+ 𝑡𝑖𝑚 ならば 𝑐𝑚= 𝑐𝑖+ 𝑡𝑖𝑚 ,𝐹𝑚= 𝑖 とする.
ステップ3 𝐾̅ の中から部分的最小コストが最小となるノード 𝑗 ,すなわち 𝑝 ∈ 𝐾̅ に対して
𝑐𝑗= min𝑝∈𝐾̅𝑐𝑝を満たすノード 𝑗 を探す.
ステップ4 𝑐𝑝= ∞ となるノード以外がすべて 𝐾 に移れば終了とする.そうでなければ𝑗を 𝐾̅ に移し, 𝑖 = 𝑗 としてステップ2に戻る.
起点oから到達可能なすべてのノード 𝑛 に対して,oからの最短経路は,先行ポインタを起 点に到達するまで順にたどっていき,それを逆順に列挙することで求めることができる.
3.2.2 Frank-Wolfe法
Frank-Wolfe法は,凸計画問題のアルゴリズムに基づいた利用者均衡配分の解法である.
外 部 ル ー プ の𝑛 回 目 の 計 算 に お け る リ ン ク 交 通 量 を 𝑢𝑎(𝑛) と し ,𝜙𝑎(𝑛)= 𝜙𝑎.𝑢𝑎(𝑛)/ ,
18 𝑚𝑎(𝑛)=𝑑𝜙𝑑𝑢𝑎
𝑎|
𝑢𝑎<𝑢𝑎(𝑛) と表す.また,内部ループの𝑚 回目の計算における補助リンク交通量を
𝑣𝑎(𝑚),補助リンクコストを 𝜙̂𝑎(𝑚)とする.
すべてのソース𝑟(𝑡) を通し番号1,2,3, … , |𝑁2| で区別して,all-or-nothing 法は以下手順で 行なう.
ステップ1 𝑛 = 0 とする.すべてのリンク交通量 𝑢𝑎 を0とする.
ステップ2 𝑛 番目のソース𝑟(𝑡) に対応するすべてのシンク𝑠 への最短経路をDijkstra法で
求める.
ステップ3 𝑛 番目のソース𝑟(𝑡) に対応するすべてのシンク𝑠 に対して,先行ポインタを利
用して最短経路上のリンク𝑎 を列挙しながら,リンク𝑎 のリンク交通量 𝑢𝑎 に 𝑒𝑠𝑟(𝑡)を加えていく.
ステップ4 𝑛 = |𝑁2| なら終了.そうでなければ 𝑛 = 𝑛 + 1 としてステップ2へ戻る.
このとき,Frank-Wolfe 法は以下のステップで計算が行なわれる.ステップ 3 からステ ップ7が内部ループ,ステップ2からステップ9が外部ループである.
ステップ1 すべてのリンク𝑎 に対して 𝑢𝑎(0)= 0 ,𝜙𝑎(0)= 𝑡𝑎とする.各ODペアに対して 𝜙𝑎(0)に関する最短経路でall-or-nothing法を行ない,初期リンク交通量 𝑢𝑎(1) を 求める.𝑛 = 1 とする.
ステップ2 すべてのリンク𝑎 に対して,𝜙𝑎(𝑛)と 𝑚𝑎(𝑛)を計算する.
ステップ3 𝑚 = 0 とし,すべてのリンク𝑎 に対して𝑣𝑎(𝑚)= 𝑢𝑎(𝑛)とする.
ステップ4 すべてのリンク𝑎 に対して 𝜙̂𝑎(𝑚)= 𝜙𝑎(𝑛)+ 𝑚𝑎(𝑛)⋅ .𝑣𝑎(𝑚)− 𝑢𝑎(𝑛)/ とする.
ステップ5 𝜙̂𝑎(𝑚)に関する最短経路でall-or-nothing法を行なう.このときのリンク𝑎 のリ ンク交通量を𝑣̂𝑎 とする.
ステップ6 以下の一次元最適化問題を解いて𝛼 を求め,リンク交通量を 𝑣𝑎(𝑚:1)= 𝛼𝑣̂𝑎+ (1 − 𝛼)𝑣𝑎(𝑚)と更新する.
min.
𝑍𝑄𝑃.𝑣𝑎(𝑚:1)/ = ∑ 𝜙𝑎(𝑛)⋅ .𝑣𝑎(𝑚)− 𝑢𝑎(𝑛)/
𝑎∈𝐴
+1
2∑ 𝑚𝑎(𝑛)⋅ .𝑣𝑎(𝑚)− 𝑢𝑎(𝑛)/2
𝑎∈𝐴
(3.8)
subject to 𝛼 ≤ 1 (3.9)
𝛼 ≥ 0 (3.10)
19
ステップ7 𝑚 ≥ min*4, 𝑛/3+ ならば𝑣𝑎= 𝑣𝑎(𝑚:1)としてステップ8へ.そうでなければ 𝑚 = 𝑚 + 1 としてステップ4へ戻る.
ステップ8 以下の一次元最適化問題を解いて𝛼 を求め,リンク交通量を 𝑢𝑎(𝑛:1)= 𝛼𝑣𝑎+ (1 − 𝛼)𝑢𝑎(𝑛)と更新する.
min. 𝑍𝑝.𝑢𝑎(𝑛:1)/ (3.11)
subject to 𝛼 ≤ 1 (3.12)
𝛼 ≥ 0 (3.13)
ステップ9 以下の収束条件式(式(3.14),(3.15),(3.16))のいずれかを満たしていれ ば終了する.そうでなければ 𝑛 = 𝑛 + 1 としてステップ2へ戻る.
収束条件式:
∑ |𝑢𝑎(𝑛:1)− 𝑢𝑎(𝑛)|
𝑎∈𝐴
𝜙𝑎.𝑢𝑎(𝑛)/ ≤ 𝜖1 𝜖1:定数 (3.14)
max𝑎 |𝑢𝑎(𝑛:1)− 𝑢𝑎(𝑛)
𝑢𝑎(𝑛) | ≤ 𝜖2 𝜖2:定数 (3.15)
𝑛 > 𝐾 𝐾:反復回数(任意) (3.16)
Frank-Wolfe法では,内部ループにおいてall-or-nothing法で配分を行なった結果 *𝑣̂𝑎+ と そ の 時 点 で の リ ン ク 交 通 量 {𝑣𝑎(𝑚)} か ら , 次 の 時 点 で の リ ン ク 交 通 量 {𝑣𝑎(𝑚:1)} を 𝑍𝑄𝑃.𝑣𝑎(𝑚:1)/ が最小となるような 𝛼 ( 0 ≤ 𝛼 ≤ 1 ) で 𝑣𝑎(𝑚:1)= 𝛼𝑣̂𝑎+ (1 − 𝛼)𝑣𝑎(𝑚) として求め,
これを一定回数行なった結果を 𝑣𝑎= 𝑣𝑎(𝑚:1) としている.その結果を用いて,外部ループに おいて次の時点でのリンク交通量 {𝑢𝑎(𝑛:1)} を, 𝑍𝑝.𝑢𝑎(𝑛:1)/ が最小となるような 𝛼 ( 0 ≤ 𝛼 ≤ 1 ) で 𝑢𝑎(𝑛:1)= 𝛼𝑣𝑎+ (1 − 𝛼)𝑢𝑎(𝑛) として求めている.したがって,各 OD ペアについて
all-or-nothing法で配分を行なった経路と経路交通量, α ( 0 ≤ α ≤ 1 ) の値を全反復回数に
おいて記憶しておくことで,各 OD ペア間の流量がどの経路に分割して流れているかを知 ることができる.
20
第
4章 着席の効用を考慮した交通量配分モデル
4.1
着席走行リンクと立席走行リンク
2.4.1 節で時空間ネットワークにおける駅間の列車の動きを表すリンクを,走行リンク と定義した.利用者均衡配分では,走行リンクのリンクコストはリンク交通量とリンク所 要時間の関数で与えられており,同一の走行リンクを通過する利用者は,同一のコストを 被るものと考えた.しかし,利用者が非常に多いラッシュ時間帯においては着席している 利用者と立っている利用者の被るコストは明らかに異なると考えられる.着席している場 合,車内の混雑率が増しても利用者が感じる圧迫感はあまり変化せず,不快感も上昇しな いと考えられるため,コストは交通量によらずほぼ一定であると考えられる.一方で,立 っている場合は,車内の混雑率が上がれば上がるほど圧迫感が増し,それにともなって不 快感が上昇すると考えられるため,コストは交通量が増えるに従って高くなると考えられ る.
そこで,着席の効用を考慮に入れて交通量配分問題を解くために,時空間ネットワーク の走行リンクを以下のように再定義する.
・ 着席走行リンク : 着席して駅間を移動する行動を表すリンク
・ 立席走行リンク : 立って駅間を移動する行動を表すリンク
すべての走行リンクに対して,着席走行リンクと立席走行リンクを 1 つずつ対応させる
(図4.1).したがって,着席走行リンクと立席走行リンクの始点と終点,所要時間 𝑡𝑎 は,
元の走行リンクと同一である.
図4.1 着席走行リンクと立席走行リンク 着席走行リンク 着発間リンク
立席走行リンク 駅ノード
21
混雑率が100 % の列車では,利用者は座席につくか,吊革につかまるか,ドア付近の柱 につかまることができる状態である. 1人分の座席に対して1人分の吊革が対応し,座席 と吊革以外の場所にもほぼ同数の利用者がいると考えると,混雑率が100%である列車にお ける着席している利用者と立っている利用者の比は,1:2 であると考えられる.したがっ て,着席走行リンクと立席走行リンクのリンク容量𝐶𝑎 は,それぞれ元の走行リンクの1/3 , 2/3であるとする.また,着席できる利用者には上限があるので,着席走行リンクの容量制 約の上限𝐷𝑎を𝐶𝑎 で与える.
リンクコストはリンクごとに与えることができるという特徴を利用して,立席走行リン クのリンクコストは式(3.7)で与え,着席走行リンクのリンクコストは混雑に関する項を 除いて所要時間 𝑡𝑎 とする.異なるリンクコストを与えることで,それぞれにおける利用者 の状態の違いを表すことができる.パラメータ 𝛼 と 𝛽 は[5] を参考にして,具体的には以下 の3つの式で与える.
𝜙𝑎(𝑢𝑎) = 𝑡𝑎(1 + 0.02 (𝑢𝑎
𝐶𝑎)4.5) リンク𝑎 が立席走行リンクであり,
時刻が7時30分より前の場合 (4.1)
𝜙𝑎(𝑢𝑎) = 𝑡𝑎(1 + 0.1 (𝑢𝑎
𝐶𝑎)4.5) リンク𝑎 が立席走行リンクであり,
時刻が7時30分以降の場合 (4.2)
𝜙𝑎(𝑢𝑎) = 𝑡𝑎 リンク𝑎 が着席走行リンクの場合 (4.3)
4.2
リンクに容量制約がある場合の
Frank-Wolfe法
ここでは,リンクに容量制約が与えられた場合の利用者均衡配分の解法について述べる.
ここで,リンクの容量制約とは,ある交通量を超えるとリンクを利用することができない という条件のことである.
利用者均衡配分の解法にFrank-Wolfe法を用いる場合,3.2.3節のステップ6とステップ 8において,リンク交通量がリンクの容量制約を超えないように,𝛼 を𝛼𝑚𝑎𝑥で制限すればよ い.具体的には,𝐷𝑎 をリンク𝑎 の容量制約の上限として,ステップ6を以下のステップ6’ で,
ステップ8を以下のステップ8’ で,それぞれ置き換える.
ステップ6’ 以下の一次元最適化問題を解いて𝛼 を求め,リンク交通量を 𝑣𝑎(𝑚:1)= 𝛼𝑣̂𝑎+ (1 − 𝛼)𝑣𝑎(𝑚)と更新する.