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連帯債権規定の新設と残された課題

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Ⅰ はじめに

平成29年の民法改正(平成29年法律第44号。以下,本改正と言う。)で は,多数当事者の債権債務関係に関する規定が,条文の構成,内容ともに 大きく改正された。本改正によって,各法制度がどのように改正されたの かについては,既に多くの論稿において解説されている。しかしその多く は,最終的に決定された規定の内容と特に関連する議論については言及す るが,例えば実際の審議において提案はされたものの,継続的な議論が見 られなかった論点などについては十分な検討は加えられていないと言える

( 1 )。議論の大まかな流れと結果を確認するだけでは,改正法の検証をす

( 1 ) 本稿執筆までに触れた本改正関連解説書として,民法(債権法)改正検討委員会 編『詳解・債権法改正の基本方針Ⅲ』(商事法務,2009年),大村敦志=道垣内弘人編

『解説民法(債権法)改正のポイント』(有斐閣,2017年),潮見佳男『民法(債権関 係)改正法の概要』(金融財政事情研究会,2017年),潮見佳男=北居功=高須順一=

赫高規=中込一洋=松岡久和編著『Before/After 民法改正』(弘文堂,2017年)(以下,

Before/After と言う。),債権法研究会編『詳説 改正債権法』(金融財政事情研究会,

2017年),筒井健夫=村松秀樹『一問一答 民法(債権関係)改正』(商事法務,2018 年),安永正昭=鎌田薫=能見善久監修『債権法改正と民法学Ⅱ』(商事法務,2018 論 説

連帯債権規定の新設と残された課題

―民法改正関連資料からの考察―

近 藤 優 子

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るために不十分であり,審議過程において提案された種々の意見について,

たとえそれが改正に大きな影響を与えるものでなかったにしろ,何が採択 され,何が保留されたのか,そしてその理由は何だったのかを明らかにし ておくことが,後の研究を進めるうえで不可欠となる。

本稿では,今回改正された規定の中でも,とりわけ連帯債権(民法第三編 第三節第三款432条~435条の 2 )の規定について考察する。連帯債権は,改 正前の民法には規定されていなかったが,解釈上認められていた概念である。

連帯債権とは,複数の債権者が 1 人の債務者に対し各自独立に全部または一 部の給付を請求することができ,かつ複数の債権者のうちの一人が弁済を受 領した場合には,総債権者について弁済の効力が生じる関係とされる。債権,

債務関係の中には,学説や裁判例において連帯債権関係として評価される ものも少なくない。しかし,そこには,連帯債権の一部の特徴(すなわち,

各債権者が全部を請求する権利を有し,債務者は一倍額のみ弁済すれば債 務から解放されるという特徴)のみに依拠して「連帯債権的」や「連帯債 権のような」と表現される事例も含まれており,現状では連帯債権が制度 として確立されているとは言えない。そのような中で,本改正によって連 帯債権はその成立要件,効果を条文上明記されるに至った。

本稿の目的は,連帯債権規定の新設趣旨,射程についてどのような議論が なされたのかを明らかにし,新設された連帯債権像を明確にすることにある。

最終的に,新設された連帯債権の規定を検証するための布石としたい。注目 すべきは,特に成立要件の解釈,そして,任意規定として規定するに適した 効力が与えられたのか否かである。まずは,多数当事者の債権債務関係に係 る議論を確認し,本改正での議論を経てなお残されている課題を指摘する。

年),潮見佳男=千葉恵美子=片山直也=山野目章夫編『詳解 改正民法』(商事法務,

2018年),平野裕之『新債権法の論点と解釈』(慶應義塾大学出版会,2019年)

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Ⅱ 多数当事者の債権債務関係に関する審議

1 .多数当事者の債権債務関係規定の概要

まず,本改正での審議の進め方を確認したい( 2 )。法制審議会民法(債権 関係)部会(全99回)は, 3 つのステージに分けて議論が進められる。い ずれの部会においても,まず法務省民事局が立案した検討事項及び条文案 が提出され(部会資料),それを基に議論する。第 1 ステージ(部会第 1 回~部会第26回)では,改正論議の対象とすべき論点の整理を行い,「民 法(債権関係)の改正に関する中間的な論点整理」(以下,中間的な論点整 理と言う。)を取りまとめる。次に,第 2 ステージ(部会第30回~部会第71 回)では,引き続き各論点につき審議し,「民法(債権関係)の改正に関す る中間試案」(以下,中間試案と言う。)を取りまとめる。ここで,より技 術的なテーマ等に関しては補充的に分科会が設けられ,別途審議が進めら れた。最後に,第 3 ステージ(部会第74回~部会第99回)では,改正要綱 案のとりまとめに向けて,さらに議論を重ねる。中間的な論点整理,中間 試案が出されると,その都度パブリックコメントの手続きが採られる。

連帯債権については,第 6 回会議(部会資料 8 - 2 ),第21回会議(部会 資料21),「民法(債権関係)の改正に関する中間的な論点整理案」(部会 資料26),第43回会議(部会資料36),第66回会議(部会資料55),第77回 会議(部会資料67B),第92回会議(部会資料80-1 ,80-2 ,80-3 ),第 95回会議(部会資料82-1 ),第96回会議(部会資料83-1 ,83-2 ),ま た,第 1 分科会の第 3 回,第 4 回会議にて審議されている。

本改正の結果として,多数当事者の債権債務関係は次の点について変更

( 2 )  法務省 HP,法制審議会-民法(債権関係)部会「民法(債権関係)部会の審議 の進め方について」http://www.moj.go.jp/content/000103339.pdf(閲覧日2019年 7 月 10日)

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された。まず,多数当事者の債権債務の分類が見直された。従来,当事者 多数の場合に給付の性質が可分であれば分割債権となる原則が採られ,そ の例外としての「連帯」,「不可分」という債権債務関係が置かれていた。

また,不可分債権債務については,可分給付についても意思表示によって 不可分債権債務となり得ると規定されていた(改正前428条,430条)。本 改正では,分割債権原則を採用することは維持された。他方,「連帯」と

「不可分」の成立は,純粋に債権の目的物が性質上可分なのか不可分なの かというところで区別されることとなった。すなわち,改正前428条,430 条それぞれの文言にあった「当事者の意思表示による不可分」債権債務は 削除され,不可分債権債務の成立要件は文言上「債権の目的がその性質上 不可分である場合」のみとされている。

そして,連帯債務については,その効果が見直された。従来,連帯債務 者の一人について生じた事由は相対的効力を原則としながらも,多くの絶 対的効力事由が規定されていた(弁済(432条),履行の請求(434条),更 改(435条),相殺(436条),免除(437条),混同(438条),消滅時効の完 成(439条))。これらの絶対的効力事由のうち,履行の請求については,債 権担保力を強化する一方で主観的共同関係がない債務者にとって不利益 となることが( 3 ),その他の絶対的効力事由(更改・免除・消滅時効の完 成)については,債権担保力を弱める方向に作用すること( 4 )が指摘され てきた。そこで本改正では,履行の請求,免除,消滅時効の完成について

( 3 ) 我妻栄『新訂債権総論(民法講義Ⅳ)』(岩波書店,1964年)415頁,とくに解除 およびその前提としての履行の催告に関して淡路剛久『連帯債権の研究』(弘文堂,

1975年)241頁以下。ただし,於保不二雄『債権総論(法律学全集)』(有斐閣,1972 年)207頁,西村信雄編『注釈民法(11)』(有斐閣,1965年)〔椿寿夫〕82頁

( 4 ) 椿・前掲注( 3 )90頁,同101頁,於保・前掲注( 3 )233頁,更改・免除につい て山中康雄「連帯債務の本質」勝本正晃=村教三編集代表『私法学の諸問題(一)』

(有斐閣,1955年)391頁

(5)

は相対的効力事由とした( 5 )

その結果,前述のとおり連帯債務と不可分債務との効果の面での差異が ほとんどなくなったため,両者の関係は,給付の性質上不可分か否かとい う点で区別することとなった。

さて,改正案は当初から,この「連帯」と「不可分」を給付の性質で区 別するという概念整理の仕方を「債務」でするのであれば,同様の整理を

「債権」についても行うことによって,債権債務の間でパラレルな関係と する方針を打ち出していた( 6 )。その結果,改正前民法では条文上明記さ れていなかった連帯債権が新設されることとなり,債権,債務それぞれに ついて「分割」「不可分」「連帯」関係が規定されることとなった。

2 .連帯債権に関する規定案の変遷と論点

連帯債権に関する規定を新設するうえで,次のような論点が提示された。

すなわち,①連帯債権規定の新設についての是非,②新設する場合の成立 要件および効力である。各論点について,法制審議会における審議の流れ と,条文案の変化を以下で追っていく。

( 1 )連帯債権規定の新設

まず,第 6 回会議部会資料によれば,連帯債権について次のように提案 する。「復代理人に対する本人と代理人の権利(民法第107条第 2 項)や,

転借人に対する賃貸人と転貸人の権利(民法第613条)について,連帯債 権という概念を認める見解もある。この連帯債権に関する規定を新設する

( 5 ) このように絶対的効力事由を制限する制度に舵を切った背景の一つには,従来 の不真正連帯債務,すなわち,「相互の人的な関係がない場合」を基本として制度 設計するという連帯債務のコンセプトの変更がある。窪田充見「連帯債務―複数の 賠償義務者間における求償をめぐる枠組み―」法の支配190号60頁。詳しくは,本 稿Ⅱ 3 ( 2 )。

( 6 ) 第 6 回会議部会資料 8-2 ;144頁

(6)

という考え方があるが,どのように考えるか」。そして,連帯債権を含め た多数当事者の債権債務関係の概念整理について次のように提案する。す なわち,連帯債権には,連帯債務の規定が類推適用されると考えられてい るため,連帯債権と不可分債権との違いは,絶対的効力事由の数というこ とになる。ところで,連帯債務4 4 4 4の効力については,本改正において絶対的 効力事由を絞り込む方針が出されていることから( 7 ),連帯債務と不可分 債務は効力においてほとんど差異がなくなる。すると,連帯債務規定が類 推適用される連帯債権と,不可分債権についても同じく効力における差異 がなくなると言える。このように考えるならば,不可分債権債務と連帯 債権債務は,純粋に給付の可分性で区別するという概念整理が可能となる。

このように,多数当事者の規律を債権と債務でパラレルに対応させること になると説明する( 8 )

また,このほか,部会資料とは別に,本改正審議における参考資料 1( 9 ) を見ると,裁判例にみられる連帯債権の事例として,同一損害に対する複 数人の損害賠償請求権を挙げている。さらに,解釈論として改正前民法に おける債権の二重譲受人の債務者に対する権利について,一定の場合に連 帯債権とする学説を挙げる。

すなわち,これまで解釈上認められていた連帯債権関係について条文に 明記し,同時に多数当事者の債権債務関係の規定について,債権と債務と がパラレルに規定されるように改正することが提案理由である。

第 6 回会議の審議においては,この点について特に言及されていない。

第21回会議までの時点では,岡委員による第一東京弁護士会の意見の報

( 7 ) 第 6 回会議部会資料 8 - 2 ;130頁

( 8 ) 第 6 回会議部会資料 8 - 2 ;144頁

( 9 ) 民法(債権法)改正検討委員会編『債権法改正の基本方針』(商事法務,2009年)

373頁。これは学者有志グループが取りまとめた具体的な改正規定の提案であり,第 1 回会議にて配布されている。第 1 回会議議事録 8 頁(筒井幹事発言)

(7)

告として,実務上の重要性の低さや議論の未成熟故に,連帯債権を論点か ら落としてもよいと考えられている旨の発言(10)があったほかは,特に意 見は見られない。

ここまでの中間的な論点整理を経て,中間試案の作成に向けた議論に入 り(11),引き続き同様の内容で「連帯債権という概念の導入の可否」が提案 される(12)。第43回会議では,連帯債権という概念の活用場面の一つとし て,担保付きシンジケートローンの担保管理手法(13)としての連帯債権構

(10) 第21回会議議事録48頁(岡委員発言)

(11) なお,中間的な論点整理が出された段階でパブリックコメントにより各所からの 意見が寄せられる。そこでは,概ね賛成,反対意見は拮抗している。賛成理由につ いては,規定化により概念が整理され明確になることのほか,実務上必要な場面が あることが挙げられている。他方,反対理由については,内容の不明確さから,あ えて規定する必要性の乏しさを挙げる。第35回会議部会資料33-2 ;624,625頁

(12) 第43回会議部会資料36;38頁

(13) 担保付きシンジケートローンの担保管理手法の一つとして「パラレル・デット方 式」が利用される場合,これは連帯債権になると言われている。シンジケートロー ンとは,借入人と貸付人が一対一で個別に融資条件を交渉して別々の融資契約を締 結する相対金融とは異なり,アレンジャー(借入人と貸付人間の契約を取り付ける 仲介役)が借入人の依頼を受けて,シンジケートローンへの参加意向のある複数の 金融機関の融資を招聘し,参加金融機関団であるシンジケート団を形成し,借入人 と参加金融機関が一つの契約書をもって融資契約を締結する融資方法をいう。シン ジケートローンによって生ずる権利義務は,各参加金融機関と借入人との間で個別 に発生する。シンジケートローンにおいても様々な資産に対して担保設定を可能に し,かつ貸付債権の譲渡に伴って逐一煩瑣な担保権設定の手続きを経なくとも済 むようにするために様々な手法がある中,パラレル・デット方式はその一つであ り,貸付人ではない第三者を担保権者にすることによって担保管理を行う方法であ る。セキュリティエージェントと呼ばれる担保管理者と借入人の間にパラレル・デ ットと呼ばれる債権を成立させ,これを他の貸付人の保有する各貸付債権と連帯債 権の関係にすることによって,いずれかの貸付債権が譲渡された場合であっても,

担保権について移転手続きを採る必要がなくなる。このような連帯債権構成をとる 担保付きシンジケートローンにおけるパラレル・デット方式については,村上智裕

(8)

成の有用性について言及される(14)

続く第66回会議では,連帯債権規定の新設の可否については特に言及さ れていない。

ところが,第77回会議では,事務局側から連帯債権規定の新設についてよ り積極的な必要性を示すよう求められた。第77回会議の部会資料では,一転 して,「不可分債権及び連帯債権」というタイトルのもと,「中間試案で示さ れている連帯債権に関する規定は,これに不可分債権と同様の規律が妥当し,

不可分債権との異同はその内容が性質上不可分であるかどうかによるとされ る。同様の規律が妥当するのに,現在のように意思表示による不可分債権の

「担保付きシンジケートローンにおけるパラレル・デット条項の意義」NBL902号 37頁,洞雞敏夫=島崎哲「国内シンジケートローンにおけるパラレル・デット方式 の活用―連帯債権構成による担保権の集中管理―」SFJ Journal Vol.5,洞雞敏夫=

池田順一=島崎哲「パラレルデット方式による新しい担保付シンジケートローンの 試み(上)――パラレルデット方式の諸外国における活用状況と日本法上の位置付 け」NBL952号24頁,鈴木健太郎=宇治野壮歩「連帯債権を利用したパラレル・デ ット―民法(債権関係)改正に関する中間試案に基づく論点整理―」金法1988号62 頁などが詳しい。

(14) 中間的な論点整理に対して寄せられたパブリックコメントの中には,例えば次の ような意見がある。担保付きシンジケートローンにおけるパラレル・デットにおい て連帯債権が利用されること,そして,そのパラレル・デットというスキームの利 用を前提とすれば,連帯債権の効力は「当初から連帯債権を当事者全員の合意によ って設定する場合だけでなく,既存の債権(例えば,パラレル・デットのスキーム においては貸付人の有するローン債権)と連帯する新たな債権(例えば,パラレ ル・デットのスキームにおいては担保エージェントの有する被担保債権)を設定す ることができるよう留意されたい。かかる設定を可能とする方法としては,例え ば,①債務者による新債権者に対する一方的債務負担の意思表示によって連帯債権 を設定できるとの規定を設けることや,②原債権者と新債権者との合意により連帯 債権を設定し,指名債権の譲渡に準じた対抗要件具備の方法を設けることが考えら れる」という具体的な意見が出されている(第35回会議部会資料33-2 ;624頁(西 村あさひ有志発言))。第43回会議議事録51頁(佐藤関係官発言),53頁(岡本委員 発言)

(9)

制度が用意されているだけでは足りず,このような連帯債権概念を設けるべ き実際上の必要性として,どのようなことが考えられるか」という提案がな される(15)。このときの審議では,改正審議の冒頭から中盤にかけて列挙され ていた裁判例や法解釈において見られる連帯債権事例については言及されず,

むしろ担保付きシンジケートローンのための需要がより前面に押し出される 形となる(16)。もっとも,より直接的に連帯債権の必要性を問われた際に は,「例えば連帯債権という概念についての実務上の必要性があるか,と いうようなことももちろん議論されるべき」ではあるが,「どちらかとい うと,意思表示による不可分という,あの言い方というか思考法を分かり やすいと感ずるかどうかという観点から物を見て議論が積み重ねられてき た」こと,従って,「意思表示による不可分という概念整理が概念整理と して,もちろん論理的にはあり得るし,従来用いられてきたものであるけ れども,平明な概念整理でないというふうに考えるのであるならば,まず,

連帯債務と不可分債務について中間試案の発想のような区分けによる新し い概念整理をすべきですし,そこをそうするのであれば債権のほうについ ても,債権者複数の場合について同様に考えなければならないことでしょ う」,「そうすると,そこも連帯債権と不可分債権という,平明であると考 えられる,統一性があると考えられる概念整理をすべき」である,という 見解が示された(17)

(15) 第77回会議部会資料67B; 6 頁。また,同会議議事録25頁では,笹井関係官によ る説明の中で,中間試案において現在の不可分債権に関する規定と同様の規定を設 けるという案が示されていたことに触れ,「不可分債権と同様の規律が妥当すると すれば,当事者の意思による不可分債権と実質的にどのように異なるのかが問題に なるように思われ」ること,「当事者の意思による不可分債権ではなく,連帯債権 という概念を設ける必要性としてどのようなことが考えられるか」,という質問が 出された。

(16) 第77回会議議事録25頁(中原委員発言)

(17) 第77回会議議事録26頁(山野目幹事発言)

(10)

このように第77回会議部会資料では連帯債権規定の新設が留保され,改 めて新設の必要性を問い直す方向で提案がなされていたが,この後の第92 回会議部会資料では,再び連帯債権の規定が置かれることとなった。その 理由につき,連帯債務4 4 4 4について,意思表示による不可分債務を廃止し,連 帯債務と不可分債務との区別を給付の可分性に従って整理したこと,そし て,「可分債権を意思表示によって連帯して負担する場合と性質上の不可 分債権の場合とでは一定の差異が認められること」を挙げている(18)

他方,改正審議の過程では,規定の新設に関してはこれ以上問われてい ない。審議当初は,連帯債権と考えられる複数の事例が挙げられていたの に対し,要綱案を取りまとめる段に至ると,「概念整理」以上の連帯債権 明文化の必要性について改めて問われた際に具体的な連帯債権の事例とし て挙げられたのは,シンジケートローンのみであった。

( 2 )連帯債権の成立要件および効力

①成立要件

連帯債権の成立要件については,第43回会議以降に審議対象に挙がる。

第43回会議では,まず連帯債権の要件として「同一の可分給付を目的とす る債権について複数の債権者がある場合には,当該債権は,法律の規定に よるほか,当事者の意思表示によって,連帯債権となる」旨規定する提案 が出された(19)

ここで問題とされたのは,「当事者の意思表示」(20)の,当事者とは誰を指

(18) 第92回会議部会資料80-3 ;11頁

(19) 第43回会議部会資料36;38頁

(20) なお,この成立要件の文言については,部会資料36までは「意思表示」,部会資 料55では「当事者の合意」となっていたが,連帯債務の成立要件における同様の文 言について遺言が含まれるのか否かという指摘があったため(第66回会議議事録 1 頁中田委員発言),連帯債務については部会資料67A で「法律行為」に変更された。

「法律行為」への変更に対しては,連帯債務の成立根拠がはっきりするということ から賛成意見が多く見られた(第92回会議議事録27頁山本敬三幹事,潮見幹事発

(11)

すのか,そして,意思表示の解釈,さらには,法律の規定や当事者の意思 表示以外にも連帯関係が生じる可能性の有無である。

ⅰ当事者とは誰か

意思表示の「当事者」とは誰なのか。このことは,連帯債権,連帯債務 いずれの規定にも明示されていない。

連帯債権の当事者についてはじめて言及されたのは第43回会議である。

佐藤関係官より,「ここで言う当事者というのは,全連帯債権者及び債務 者を指すという理解」でよいかとの質問が出る(21)。ここでの佐藤関係官 の問題意識は,仮に一部の債権者と債務者のみで合意することが可能とす るならば,①金銭債務の全額の履行が連帯債権者の一人に対してなされた 後,受け取った金銭を分配する前に,その履行を受けた連帯債権者が破産 してしまったような場合,他の連帯債権者は自己の持分について分配を得 られないというリスクが生じることとなること,②反社会的な勢力が介在 したような場合には,そうした者との関係で分配を請求することとなる危 険があることを指摘する。この発言に対し,金関係官は,全債権者と債務 者の合意であるという考えを示し,鎌田部会長,中田委員もこれに同意を 示す(22)

この問題は第77回会議で再び議論され,連帯債権の概念を規定する場合 には,成立要件を明確にした方がよいこと,連帯債務の合意と連帯債権の 合意とでは「当事者」となる者が異なると考えられること,そして,連帯 債権の方は,一部の債権者が債務者と連帯の合意をしてしまうと,他の債

言)ものの,他の条文の文言との整合性から部会資料82-1 では再び「当事者の意 思表示」に戻されており,連帯債権についても同様の文言となる。

(21) 第43回会議議事録51頁(佐藤関係官発言)

(22) このとき,金関係官は,連帯債権において連帯の免除がされる場合には,必ずし も全債権者との間で合意する必要はないのではないかとの見解も示している。第43 回会議議事録52頁(金関係官発言)

(12)

権者を害することになるため,債権者全員と債務者との合意が必要である という意見(23)が出されている。

これ以降の会議では,連帯債権の合意の当事者については触れられていな い。

ⅱ「法令の規定」の射程および「意思表示」の内容

次に,連帯債権の発生原因たる「法令の規定」の射程,「意思表示」内 容の解釈についてはどのような審議がなされたのかを確認する。

成立要件の文言およびその射程をどのように解するのかという問題では,

とくに性質上不可分でもなければ当事者の合意にもよらない場合に,今ま で便宜的に連帯債権,あるいは連帯債権的と称されてきた関係性をどこま でカバーすることになるのかが問われる(24)

まず,第43回会議においてはじめて連帯債権の成立要件案が出される。

すなわち,「同一の可分給付を目的とする債権について複数の債権者があ る場合には,当該債権は,法律の規定によるほか,当事者の意思表示に よって,連帯債権となる旨の規定を設けるという考え方があり得るが,ど のように考えるか。」と提案する。加えて,「連帯債務については,法律の 規定によるほか,当事者の意思表示によっても成立するものとされている から,連帯債権という概念を導入する場合には,これについても,法律の 規定によるほか,当事者の意思表示によっても成立するものとすべきであ ると考えられる」と補足する(25)。この後の提案(26)においても,細かい表 現の違いはあるものの,発生原因は「法令の規定」と「当事者の意思表示」

である。

(23) 第77回会議議事録27頁(中田委員発言)

(24) 第77回会議議事録27頁(鎌田部会長発言)

(25) 第43回会議部会資料36;38頁,39頁

(26) 中間試案,第66回会議部会資料55; 6 頁,第92回会議部会資料80-3 ;11頁,第 95回会議部会資料82-1 ;23頁

(13)

さて,この連帯債権の「法令の規定」の射程や,「意思表示」の内容に ついて,連帯債権に関する審議の中では特に言及されていない。一方,こ の問題は,連帯債務4 4 4 4の成立要件をめぐる議論の中ではしばしば登場し,そ こでは,連帯債務と連帯債権とで共通する論点も扱われている。そこで,

成立要件の解釈については,後述する「 3 .連帯債務をめぐる議論」で確 認する。

ⅲ性質上不可分な金銭債権債務の位置づけ

本改正審議の中でしばしば問題となったのが,性質上不可分な金銭債権 債務の位置づけである。本改正により,「不可分」と「連帯」を給付の可 分性で区別することとなったため,今まで合意による不可分債権債務とさ れてきたものは連帯債権債務となる。しかし,不可分給付の対価となる金 銭債務のように,判例(27)が可分給付であるにも関わらず性質上不可分と 判断した金銭債務を本改正においてどのように位置づけるのかという問題 も度々言及された。この問題は,審議中もっぱら金銭債務について議論さ れたが,もちろんこの議論は債権関係についても妥当する。

この議論は第66回で発議され,第77回会議で一応の決着を見る(28)。す なわち,事務局側の一貫した立場として本改正案では給付の性質が不可分 であれば不可分債権債務,可分であれば連帯債権債務として区別をし,対 価との関係は考慮しないとする。しかし,そもそも不可分給付の対価(金 銭)が性質上不可分4 4 4 4 4 4となるという立場は解釈上導かれているものであり,

事務局の立場も金銭債務を「性質上不可分」と解釈する余地まで否定する 趣旨ではないことが説明されている(29)。この場合には,例えば共同賃借

(27) 例えば山林共有者の負う監守料の支払義務や共同賃料債務などがある(前者は,

大判昭和 7 年 6 月 8 日裁判例 6 民179頁,後者は,大判大正11年11月24日民集 1 巻670 頁)。我妻・前掲注( 3 )391頁

(28) 第66回会議議事録 8 頁,第77回会議議事録 7 頁,26頁(いずれも岡委員発言)

(29) 第66回会議議事録 8 頁-10頁(川嶋関係官,道垣内幹事,内田委員発言),第77

(14)

人の金銭債権債務についても不可分と評価し得る余地が残されることにな る。

もっとも,金銭について性質上不可分という解釈がなされない4 4 4 4 4場合,ま たは当事者の合意が認定できない場合に,例えば共同賃貸借による賃料債 務が分割債務となるのか,あるいは連帯債務となるのかは別途問題となる。

さらに,金銭債務が共同相続された場合には通常は合意がないと考えられ るため,分割債務となるのか,あるいは相続法理による修正があるのか という問題もある(30)。この点については,共同の賃借人の賃料債務を不 可分債務だと考えるのだとすれば,これを共同相続した場合も同様となり,

既発生の賃料債務については原則に返って分割となると考える立場のほか,

契約の性質から考えて債務者全員が全額支払義務を負っているものと見る ときは,黙示の合意と構成する余地もあるという見解が出ている(31)

②連帯債権者の一人に生じた事由の効力

次に,連帯債権者の一人に生じた事由の効力についてどのような規定を 設けるかについて議論された。本稿Ⅱ 2 ( 1 )で触れたように,本改正は 連帯債務の効力と不可分債務の効力との間にほとんど差異がなくなること を前提としたうえで,「連帯」と「不可分」との区別を給付の可分性のみ に置くという概念整理を採用した。これに伴い,債権についても「連帯」

と「不可分」とがそれぞれ規定されることとなったが,これは実質的に改 正前の不可分債権の規定を連帯債権に置き換えるということであり,改正 前429条(不可分債権者の一人に生じた更改又は免除)をそのまま連帯債 権に適用する規定に改めるという形で提案された(32)

この点,第43回会議において,連帯債権債務と不可分債権債務とを給付

回会議議事録10頁(笹井関係官発言)

(30) 第77回会議議事録 7 頁(岡委員発言)

(31) 第77回会議議事録 7 頁(笹井関係官発言), 8 頁(内田委員発言)

(32) 第 6 回会議部会資料 8 - 2 ;145頁

(15)

の可分性で区別するという整理をする場合,仮にそのように整理したとし ても,不可分債権債務と連帯債権債務に同じ規律を適用するのが常に妥 当なのかという疑問が,鹿野幹事より呈されている(33)。この疑問の背景 として,不可分債権債務と,意思表示による連帯債権債務の違いを挙げ る。すなわち,給付の性質上不可分となる不可分債権債務とは異なり,意 思表示による連帯債権債務は,「性質上可分であるにもかかわらず,当事 者が意思で連帯して債務を負いましょうという場合」であり,そうであれ ば「複数の債務者間における関係がより密にある場合と言えるのではない か」と説明する。

そこで,債権関係について見ると,改正前429条 1 項は,不可分債権者 の一人に生じた更改又は免除について相対的効力とする規定である。これ を相対的効力とする理由は,不可分債権者と債務者の間で更改又は免除が 行われたとしても,他の不可分債権者は債務者に対して(給付不可分であ るが故に)全部給付を求めるよりほかにないためである。そのために同項 は,更改又は免除をした不可分債権者に対して,その者が分与を受けるべ き利益を債務者に対して償還するよう規定している。そうであるならば,

不可分債権とは異なり可分給付を目的とする連帯債権について更改又は免 除がなされる場合には,はじめから絶対的効力を認めてよいのではないか という指摘がなされた(34)。このほか,不動産に対する不法行為の損害賠 償の事例,すなわち,抵当不動産侵害がなされた場合の不法行為者に対す る所有権者と抵当権者の損害賠償請求権が抵当権の額の範囲で連帯関係に

(33) 第43回会議議事録42頁(鹿野幹事発言)

(34) 第43回会議議事録51頁(鹿野幹事発言)。この回の部会資料では,不可分債権者 のうちの一人に生じた事由の効力に関しても,改正前429条 1 項の規定を維持する とともに,混同や代物弁済があった場合についても同項と同様の規定を設けること を提案している(部会資料36;36頁)ため,そもそも不可分債権の規律の内容が定 まっていないうちに「同様に規定する」ことは妥当ではないとも指摘する。

(16)

なるという事例において,仮に抵当権者が免除をした場合に,その額の限 度で所有権者の損害賠償額が減少するというのは妥当ではないということ も指摘された(35)。また,鹿野幹事は,連帯債権者の一人に生じた事由の 効力の検討にあたって留意すべき点に言及する。すなわち,「連帯債務の ところで指摘があったのと同じように,ここでも,連帯債権と一言で言っ ても,かなりいろいろなものが含まれ得るように思われ」ること,従っ て,「その類型と場面によって,絶対的効力を認めるべきものか,それと も,そうではないのかという検討をする必要があるように思」う,との指 摘がなされる(36)

ところが,第66回会議では,第43回会議で出された意見は踏襲されなかっ た。むしろ,連帯債権者の一人との更改,免除,これらに加えて混同につ いても相対的効力事由とする提案がなされた(37)。混同を相対的効力事由と する理由もまた更改,免除と同様に,「同項〔=改正前429条 1 項〕は,不可 分債権者の一人との間に混同があった場合にも類推適用されると解される

(最判昭和36年 3 月 2 日民集15巻 3 号337頁参照)ので,これを反映させてい る。」と,説明されている(38)

(35) 第43回会議議事録54頁(道垣内幹事発言)

(36) 第43回会議議事録55頁(鹿野幹事発言)。この発言の趣旨として,免除について,

各債権者に持分割合ないし権利割合があるとするならば,それについては求償の循 環を避けるという趣旨で,絶対的効力を認めてもよいのではないか,と説明してい る。同56頁

(37) なお,この間に第一分科会第 3 , 4 回会議で多数当事者の債権債務関係について 検討されているが,連帯債権の効力については触れられなかった。

(38) 第66回会議部会資料55; 7 頁。この後に取りまとめられた中間試案に対して寄せ られたパブリックコメントでの意見では,この点について多くの賛成意見が見られ る一方で,「不可分債権に関する規定を維持することには賛成であるが,連帯債権は 絶対効を残すべきであり,不可分債権に関する規定と同じにすることには反対する。

(愛知弁司法制度調査委)」「混同及び相殺については,連帯債務の場合と同様に求償 の循環の問題が生じるので,絶対的効力を認めるのが妥当である。(東弁)」との意

(17)

しかし,中間試案を経た第77回会議では一転し,この「改正前429条 1 項のトレース」という方針にブレーキがかけられる。すなわち,改めて 連帯債権に改正前429条 1 項を適用することの妥当性が問われたのである。

部会資料の説明によれば,改正前429条 1 項が債権者の一人との間に生じ た更改又は免除について相対的効力と規定するのは,債権の内容が性質上 不可分な債権を前提としているためである。そうであれば,性質上可分な 債権については,債権者は,当初から(改正前429条 1 項では後から債務 者に償還されることになる)更改等をした債権者に分与されるべき利益を,

はじめから差し引いた分を請求することも可能であるため,改正前429条 1 項と同様の規律を連帯債権にも設けなければならない必然性はない。ま た,連帯債務の債権者の通常の意思などを考慮して,連帯債務者の一人に 生じた事由の効力を絶対的効力から相対的効力に改めることが検討されて いるのと同様に,連帯債権についても,更改や免除は相対的効力を有する と考えるべきであるとの判断もあり得るため,以上の点について検討する ことが提案されている(39)

この点について,同会議の議事録からは特に意見が述べられた様子は見 られない。

第92回会議においては,次のように提案される。すなわち,「連帯債権 者の一人と債務者との間に更改又は免除があった場合には,その連帯債権 者が権利を有する部分については,他の債権者は,履行を請求すること ができない」とし,混同については,「連帯債権者の一人と債務者との間 に混同があったときは,債務者は,弁済をしたものとみなす」とした(40)。 ここに至って,更改,免除,混同の絶対的効力が条文案の形で明示され

見がある。部会資料71-4 ;27頁,29頁

(39) 第77回会議部会資料67B; 8 頁

(40) 第92回会議部会資料80-3 ;12頁 

(18)

た。

さらに,この回には重要な指摘がある。連帯債権の対内関係に関する規 定,すなわち,連帯債権者に各持分に従った分与請求権があることを明記 した規定が置かれていないこと,そして,連帯債権者の一人に生じた相殺 について規定がないことに対する指摘である。特に相殺に関して,連帯債 権者ABがいる場合に,「Aと債務者の相殺について絶対効にするかどう かというのは,Aの無資力リスクを債務者が負担するのか,それとももう 一人の債権者Bが負担するのかという問題があったり,あるいはBの連帯 債権について担保や保証が付いている場合,どうなるのかというような問 題」があると指摘される(41)。この指摘に対しては,事務局からは,持分 割合の分与請求権につき「原案は解釈で足りる」との考えを前提に書いて いるが,少し考えてみるとの返答がある。また,相殺についても,再度検 討するとの返答であった(42)

第96回会議では,更改又は免除は第92回会議における審議が踏襲され,

更改又は免除をした連帯債権者が「その権利を失わなければ分与される部 分について」絶対的効力とする案となった。混同については,「弁済した ものとみなす」とし,絶対的効力事由とされた。また,連帯債権者の一人 との間の相殺について,新たに条文案が示された。すわなち,「債務者が 連帯債権者の一人に対して債権を有する場合において,その債務者が相殺 を援用したときは,その相殺は,他の連帯債権者に対してもその効力を生 ずる」という規定案となった(43)

この相殺の絶対的効力規定の提案の説明には,第92回会議において指摘 を受けたところである,相殺した連帯債権者の無資力リスクを,債務者が

(41) 第92回会議議事録30頁(中田委員発言)

(42) 第92回会議議事録31頁(脇村関係官発言)

(43) 第96回会議部会資料83-2 ;15,16頁

(19)

負うのか,あるいは他の連帯債権者が負うのかという問に対する回答が付 される。すなわち,その説明によれば,AとBが連帯債権者である場合に

「確かに,その〔=Aと債務者との間の〕相殺の効果がBにも及ぶと,B は債務者に対して連帯債権を行使することができず,Aに対して求償権を 行使することとなるので,仮に,債務者が資力を有し,他方で,Aが無資 力であるような場合には,Bは害されることになるように思われる。しか し,そもそも,債務者が資力を有しないAに現金で弁済し,Aがその現金 を費消したような場合には,BはAから償還を受けることができず,債務 者に対しても連帯債権を行使することができないことからすると,弁済と 実質的に同じ効果を有する相殺の場面でAが無資力である危険をBが負担 するのは,むしろバランスが取れているように思われる。加えて,Bに相 殺の効力が及ばないこととすると,相殺をした債務者の相殺に対する期待 が害されるほか,Bは,債務者から全額を受け取りながら,Aに対しその 持分を償還しなければならなくなるなど,その後の処理が迂遠なものとな ることは否定できない。」との説明がなされている(44)。この説明に対して 第96回会議ではさらに,「債務者が,無資力の連帯債権者に対する債権を 安く取得して,それで相殺するという場合の問題が残るわけです。それに 対する手当が必要ではないか」との指摘を受けているが(45),最終的にこ のままの形で要綱案が取りまとめられた。

3 .連帯債務をめぐる議論

( 1 )連帯債務の成立要件の解釈

まず,第43回会議において連帯債務の成立要件たる「意思表示」が意味 するところについて議論された。ここでは,道垣内委員より当事者の明示

(44) 第96回会議部会資料83-2 ;16頁

(45) 第96回会議議事録23頁(中田委員発言)

(20)

の意思表示がない場合で,「共同の行為によって債務を負った」という類 型について,これを「意思表示」に含めるか否かという問が出される(46)(47)。 この問に対しては,事務局は,「共同の行為によって債務を負った」とい う類型が仮に「一般法理」と認められるならば「法律の規定」に含まれる という考え方が示された(48)。この「一般法理」の扱いについては,松本 委員から次のような見解も出る。すなわち,「一般法理」というものは結 局のところ「当事者の意思の推測」や「一般的な解釈」であって,個別の 契約の趣旨から連帯の意思の有無を判断すればよく,それがなければ原則 分割ということになる。従って,「ここで言う当事者の意思表示というの を明示の意思表示に限定する必要は全くない」という意見である(49)。最 後に,このような「共同行為」の解釈は「意思表示」の解釈としてコント

(46) 第 6 回会議部会資料 8 - 2 ;129頁では,商法第511条第 1 項「数人の者がその一 人又は全員のために商行為となる行為によって債務を負担したときは,その債務は,

各自が連帯して負担する」という規定について,「取引の安全を図る必要性は商取 引のみならず民事取引にも妥当することから,民事の一般ルールとすべきであると の見解がある。この見解によれば,数人が一個の商行為によって債務を負担した場 合に限定せず,数人が一個の行為によって債務を負担した場合には広く一般的に連 帯債務の成立を認めることになる。」とし,この点についても検討するよう提案し ている。第43回会議部会資料36; 5 頁においても,「商法第511条第 1 項の一般ルー ル化」として提案されている。また,学説においても,「共同の行為によって債務 を負う」場合(これを「主観的な共同関係」や「共同事業関係や共同生活関係」と 呼ぶものもの含む)を連帯債務の発生原因と考えるものがある。道垣内委員の発 言意図は,これらの場合について,いずれの文言に含むものと解するのかを明確に すべくなされたものと思われる。民法(債権法)改正検討委員会全体会議(第13 回)議事録 6 頁, 7 頁(https://www.shojihomu.or.jp/documents/10448/1966166/

gijiroku013.pdf/47dafc49-a286-488b-8ad8-802522244aeb)(閲覧日2019年 7 月10 日)。

(47) 第43回会議議事録15頁(道垣内幹事発言)

(48) 第43回会議議事録16頁(金関係官発言) 

(49) 第43回会議議事録16頁(松本委員発言)

(21)

ロールすることも考え得る旨の見解(50)が示され,収束する(51)

さらに,明示に意思表示する場合についても,その内容の具体性と効果 が問われている。

これに関して,「当事者の意思表示によって連帯債務となるという場合 の当事者の意思表示というのは何かということで,連帯しますという言葉 が連帯債務成立の意思表示なのかということです。」「連帯しますと言えば フルセットでこの場合はこう,この場合はこうというのが自動的に決まる ということであり,正に意思表示の中身は何ですかといったら連帯ですと いうだけで,連帯ということでどういう効果が発生するのか知らなくても その意思表示をしたということになるという話なのか,それとも言わばア ラカルト的なものも連帯の意思表示ということになるのかという点が一つ 問題になるのではないか」との見解も出されている(52)

第77回会議では,冒頭で,数名が債務不履行責任を負う場合について,

従来は719条を準用して連帯債務を肯定するという運用がなされていると ころ,このような場合に改正案では連帯債務の成立要件を満たさないと考 えるのかという質問が出る(53)。これに対しては,具体的条文の準用が認め られるケースにおいては,「法令の規定」に含まれる旨回答されている(54)

このほか,第92回会議では,「意思表示」という文言は,厳密には「法 律行為」の意であることが確認される(55)。連帯債務の成立要件の解釈に

(50) 第43回会議議事録17頁(道垣内幹事発言)

(51) もっとも,ここで道垣内幹事は,「共同行為性」という概念は「意思表示」とい う概念とは別のコントロール概念なのではないか,とも述べている。

(52) 第43回会議議事録21頁(松本委員発言)

(53) 第77回会議議事録 4 頁(安永委員発言)

(54) 第77回会議議事録 4 頁(笹井関係官発言)

(55) 第92回会議議事録26頁(山本敬三幹事発言)。連帯債務の要件のうち「当事者の 意思表示」については,第77回会議での部会資料では「法律行為」と規定されてい た(これは,例えば一定金額を共同相続人の連帯債務とすることを内容とする遺言

(22)

ついての審議はここまでとなる。

( 2 )連帯債務者の一人について生じた事由の効力

連帯債権者の一人に生じた事由の効力は,改正前の不可分債権の効力に 修正を加える形で定められた。他方で,連帯債務について債務者の一人に ついて生じた事由の効力を決するに際しては,より根本的かつ本質的な議 論が展開された。すなわち,本改正では現行法において連帯債務と不真正 連帯債務とで効果を区別するという解釈,より具体的に言えば,連帯債務 者間の関係性に応じた効果の区別を,条文上に反映させることが試みられ たのである。結論から言えば,改正法では,連帯債務者間の関係性を区別 できるような基準を明文に表す試みは断念され,より一般的な(より多く の事例で見られる)不真正連帯債務における関係性を連帯関係の基礎とし て規定することを決めたのである(56)。その結果として,連帯債務は不可 分債務の規定との差異がなくなり,その流れで連帯債権規定が置かれたの は前述のとおりである。

連帯債務と連帯債権とを,必ずしも表裏一体に考える必要はない。連帯債 務が生じる場面と,連帯債権が生じる場面とでは,当事者の意思も,考慮

によっても成立することを念頭に置いたものである。部会資料67A; 1 頁)。しか し,これが第92回会議の提案において再び「意思表示」という文言に戻っていたこ とから,この指摘を受けた。「意思表示」という文言を置くと,契約の場合にはこ れを「両方の意思表示の合致」と読み込まなくてはならないため,正確性を欠くと いうこと(同議事録27頁(山本敬三幹事発言)),また,連帯債務が何に基づいて成 立するのかを明確にするため(同議事録27頁(潮見幹事発言))にも,「意思表示」

ではなく,「法律行為」と表現すべきであることが指摘される。

(56) 不真正連帯債務をベースに置くことの前提には,連帯債務者間に一定の関係性が 見られる場合には,効果について特約を結ぶであろうという期待があるが,争いが 生じた場合にはその都度契約解釈によって効果(黙示の特約)を認めるということ になるのか否かは明らかにされていない。平野・前掲注( 1 )172頁もこの点を指 摘する。

(23)

すべき利益状態もまったく異なるからである。しかしながら,両者とも分 割原則を採用しており,連帯関係は条文上例外として位置づけられている という点,そして,いずれもその効力において相対的効力を原則とする点 は,共通している。より厳密に言えば,むしろ新設する連帯債権は連帯債 務規定の構造に合わせるように規定された。そうだとすれば,同じ構造,

文言で規定されている両者の区別,すなわち解釈上の共通項と差異を明ら かにしていく必要がある。とりわけ結果として不真正連帯債務を取り込ん だ連帯債務をめぐる議論とは異なり,当事者の関係性に一切着目されるこ となく規定された連帯債権については,解釈上何を考慮すべきかというこ とを明らかにするためにも,連帯債務における議論の流れを追うことは重 要だと考える。本改正において連帯債権,連帯債務それぞれの絶対的効力 事由を認める根拠をどこに求めたかという点も,今後さらに検討を進めて いくうえで明らかにされるべきである。なぜなら,従来,連帯債務者の一 人に生じた効力のうち,絶対的効力事由については,その根拠を連帯債務 者どうしの関連共同性の強さに求める立場が有力であった。そして,本改 正審議においても,連帯債務の効果を検討するための前提として,連帯関 係にある者の関係性を整理することが効果に影響を与えるというコンセン サスがとられていたことは審議の過程からも明らかである。そこで,以下 では,連帯債務に関する議論において連帯債務者間の関係性がいかなる影 響を与えているかという点を見ていきたい。

( 3 )「協働関係」という概念の帰趨

まず,「連帯債務者の一人について生じた事由の効力等」につき,検討 事項として相殺をのぞく絶対的効力事由の見直しの要否が提案される。こ の提案理由を要約すると,改正前民法が連帯債務の効力として相対的効力 を原則としつつも多くの絶対的効力事由を定めていることについて,履行 の請求以外の絶対的効力事由については,連帯債務の人的担保としての機 能を弱め得ることが懸念されている。この懸念は,共同不法行為者が損害

(24)

賠償債務を負担する場面では特に重要であり,判例・学説においては,共 同不法行為による損害賠償請求権については,不真正連帯債務が適用され ている。また理論的にも,不真正連帯債務には絶対的効力事由を認める根 拠たる連帯債務者間の主観的な関連性が必ずしもあるわけでないことから,

他の債務者に影響が及ぶ絶対的効力事由の基礎を欠くことになる。そして,

今回の改正では,不真正連帯債務の取扱いについても検討するものとされ た(57)

第 6 回会議議事録によれば,連帯債務者の一人に生じた効力を検討する うえでは,債権者だけでなく債務者の利益も考慮し,その際に「『連帯』

というのが,具体的にどういう内部的な関係を持ったものなのかというこ とも考えるべき」(58)という意見が出されている。

つづく第21回会議に出された提案には,「絶対的効力事由を見直すかどう かについて,債権者と連帯債務者との間の適切な利害調整に留意しつつ」

検討することが含まれた(59)

中間的な論点整理が出された後,第43回会議では次のような提案がされ る。すなわち,連帯債務者の一人について生じた事由のうち,特に履行の 請求について甲,乙,丙― 1 ,丙― 2 の 4 つの案が出されたのである。絶 対的効力事由とする甲案,相対的効力事由とする乙案のほか,「絶対的効力 事由であることを原則としつつ,各債務者間に協働関係がない場合に限り 相対的効力事由とする旨の規定に改めるものとする。」丙― 1 案と,「相対 的効力事由であることを原則としつつ,各債務者間に協働関係がある場合 に限り絶対的効力事由とする旨の規定に改めるものとする。」丙― 2 案が加 わった。ここから,「協働関係」という言葉を一つのメルクマールとして効

(57) 第 6 回会議部会資料 8 - 2 ;130頁

(58) 第 6 回会議議事録25頁(鹿野幹事意見)

(59) 第21回会議部会資料21;25頁

(25)

力を整理する試みが検討されることになる(60)。この「協働関係」という文 言を含む案を持ち出す理由は,次のとおりである。改正前434条の規定に 対しては,これを絶対的効力とすることの利点と問題点が指摘されている。

すなわち,債権者にとっては連帯債務の担保的機能を強化するものである のに対して,連帯債務者にとっては,連帯債務者間の関係によっては自ら が知らない間に履行遅滞に陥る,あるいは消滅時効が中断するなど不測の 不利益を被るおそれがある。このことから,もし連帯債務者間で履行の請 求を受けたことを互いに連絡し合うことが期待できるような関係(これを

「協働関係」という言葉で表している。)がある場合には,絶対的効力を認 めても債務者の不利益にはならないと評価できることから,債務者間に一 定の関係性があることを要件として効力を振り分ける試みであることが説 明されている(61)

また,不真正連帯債務の位置づけに関する問題は,求償関係にも影響を 与える。すなわち,「一部弁済をした場合の求償関係」について,連帯債 務者が自己の負担部分に満たない額の弁済をした場合であっても,他の連 帯債務者に対し各自の負担割合に応じた額の求償をすることができるか否 かについて検討を促す提案がなされる。その説明として,判例(大判大正 6 年 5 月 3 日民録23輯863頁)は,連帯債務者の一人が自己の負担部分に 満たない額の弁済をした場合であっても,他の連帯債務者に対して各自の

(60) この「協働関係」の「協働」というワーディングにつき,「共同」との違いが不 明確であるという指摘が大島委員より出される(第43回会議議事録18頁)。議事録 によれば,この指摘に対して明確な回答は出されていない。この言葉の当て方は,

本改正第 1 回会議参考資料 1 を作成した民法(債権法)改正委員会による基本方針 作成のための全体会議内でも用いられていたものである。ここでは連帯債務の発生 原因として認められる関係性と,絶対的効力事由の根拠を区別する趣旨で,前者を

「共同」,後者を「協働」としたという発言が見られる。民法(債権法)改正検討委 員会全体会議(第13回)議事録・前掲注(46) 9 頁(道垣内発言)

(61) 第43回会議部会資料36; 7 頁以下

(26)

負担部分の割合に応じた求償をすることができるとしている。他方,不真 正連帯債務については,前記判例の立場とは異なり,自己の負担部分を超 える出捐をしてはじめて他の債務者に対して求償をすることができると解 されている(62)。このことから,「『連帯債務者の一人について生じた事由の 効力等』における各検討の結果として,連帯債務における絶対的効力事由 を絞ることになる場合には,不真正連帯債務と連帯債務との間に上記求償 関係に関する差異のみが残ることになる可能性がある。その場合には,不 真正連帯債務という概念を上記求償関係に関する差異のみを持って残す必 要があるのかどうか」といった問題が生じることが述べられている(63)

これらの提案を受けた第43回会議では,不真正連帯債務を条文上どのよ うに位置づけるかという問題に集中して議論が進められることとなる。そ してこの問題が,連帯債務者の一人に対する履行の請求や求償請求権だけ に限らず,成立要件,内部的な負担割合,履行の請求以外の事由(更改,

免除,消滅時効の完成,他の連帯債務者による相殺の援用)など,多数債 務者関係の諸条項を定めるうえでも鍵となってくることが明らかになる(64)。 この問題の扱いにくさは,鎌田部会長による「連帯債務の検討の結果次第 で,不真正連帯債務について規定を設ける必要があるかどうか,その内容 をどうするかを考える。それが決まると,また両者の関係の調整その他で 検討をもう一度やらなければいけないというような関係に立つと,そうい うふうなことだろうと思いますので,まずは,何が典型的か自体に問題が あるのかもしれませんが,典型的な連帯債務について次の課題でもありま す連帯債務者の一人について生じた事由の効力等について審議をした上で,

(62) 最判昭和63年 7 月 1 日民集42巻 6 号451頁

(63) 第43回会議部会資料36;20頁

(64) もしある条文の内容を絶対的効力とした場合に,他の連帯債務者の存在を知らな い連帯債務者についてもその条文が適用されるのか,といった質問もされている。

第43回会議議事録21頁(中田委員発言)

(27)

不真正連帯債務の取扱いについて議論をさせていただければと思います。」

という発言(65)に現れていると言える。

この不真正連帯債務の位置づけに関する問題は,議論が進むにつれ,① 連帯債務者間の関係性として何が典型的かという問題と,②それをどのよ うに明文化するかという問題に解体されていく。

①についてより具体的に言えば,連帯債務にもいくつかのタイプがある ことはおおよそ見解の一致が見られるが,事例数が圧倒的に多いいわゆる 不真正連帯債務を典型とするのか,あるいは契約中心に議論を進めてきた 本部会においてはやはり契約による連帯債務を典型とするのかという議論 となる。

そして②については,条文化するうえでそれをどのように表記するか,

すなわち,甲案や乙案のように効力をどちらかに決めて規定し,そうでな い場合には独立して規定するなり規定を補充する(66)なりで対応するのか,

あるいは「協働関係」のような一つの概念で(仮にそれが最も適格な言葉 とは言い難いものであったとしても)効果を区分けすることによって異な る効果を併記すべきであるかという議論となる。ここでの議論は分科会に 持ち越されることになるが,多くの意見の中で見えてくるのは,連帯債務 には不真正連帯債務に限らず様々なタイプがあること,そして,それらの 類型が外部からもわかるような基準を設けることが望ましいということで ある。

また,「一部弁済をした場合の求償関係」をめぐる論点に関しては,山

(65) 第43回会議議事録15頁(鎌田部会長発言)

(66) 第43回会議議事録27頁では,鹿野幹事の提案として,仮に絶対的効力を認めると した場合には,それによるデメリット(履行の請求を受けていない連帯債務者にと っては知らぬ間に履行遅滞や消滅時効の中断が生じること)に対しては債権者に対 して催告の通知を要求することで対応するなど,補充的な仕組みを含めて検討する べきとする見解が出されている。

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