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連 帯 債 務 者 間 に お け る 相 殺 の 援 用

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(1)

連帯債務者間における相殺の援用

園田格

連帯債務において︑連帯債務者の一人について生じた事由が他の連帯債務者に如何な効力を及ぼすかに関しては︑

これを︑絶対的効力を生ずる事由と相対的効力を生ずるとに分って考察するのが一般である︒前者に該当するものと

しては弁済・代物弁済・供託・相殺︑債務者の過失及び遅滞︑履行の請求︑更改︑免除︑混同︑時効の完成があげら

れ︑後者に属するものとして︑それ以外の事由は他の債務者に対してその効力を及ぼさないが︑主なものには請求以

外の原因に基づく時効の中断︑請求以外の原因に基づく履行遅滞︑確定判決などがかぞえられる︒

本稿でとりあげる問題は︑右の事由のうち相対的効力を有すると解されている確定判決の効力をめぐってのもので

ある︒このことは民事訴訟法学者である兼子教授によって以前にとりあげられたところであるが︑いまだ民法学者の

間で充分の解明がなされていないように思われる︒教授は︑判決の既判力の範囲として論ずる限り︑その主観的範囲

からいっても客観的範囲からいっても︑連帯債務の場合といえども連帯債務者の勝敗に拘らず相対的効力を有するに

止まると解され︑またいわゆる判決の反射効についても︑連帯債務の場合には︑債務者の一人の受けた勝訴判決の反

射効も一般には他の債務者に及ばぬと論ぜられるが︑ただ︑判決理由中の判断が既判力を生ずる唯一の例外として相

(2)

一 一 一 六

殺の抗弁に対しては問題が残るとされている︒すなわら︑民法四三六条一項に関しては次のように説かれる︒

第四三六条第一項は連帯債務者の一人が債権者に対して有する債権を以て為した相殺は絶対的効力を生ずる旨を規定

する︒而して債権者との聞の訴訟で此の相殺を抗弁とした場合は︑其の効果に付いて判断した判決は対等額に付いて

既判力を有するから(民訴一九九条二項)︑相殺を有効とする判決は受働債権(連帯債務)及び自働債権が相殺前に

存在し相殺の結果対等額で消滅した乙とが確定されるに至る︒此の如く相殺の抗弁に付ての判断は既判力を生ずる点

で他の抗弁と異るから︑予備的(仮定的)相殺の抗弁に於ては他の否認や抗弁を審理し其の理由なきこと︑即ち他の

経 営 と 経 済

﹁ 民

点では受働債権の存在する乙とを確めてからでなければ︑相殺に基づき請求を棄却し得ぬのである︒当事者間で相殺

の効果が確定される以上││其の客観的当否は間わずとも

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其の債務者は債権者との関係で既判力により確定せら

れた自己の自働債権を犠牲として︑即ち自己の出捕に依り債務を消滅せしめたこととなるのであるから︑相殺の絶対

的効力を認める本条項に依り他の債務者の為にも反射的影響を及ぼし︑此等の者も亦債権者に対し右判決を援用して

相殺に因り債務の消滅した旨を抗弁し得べきである︒又相殺に因り勝訴した債務者は原則として他の債務者に対し共

同の免責を得たものとして其の負担部分の求償を為し得るものと云わねばならぬ︒蓋し若しそうでないとすれば︑彼

は債権者に対しては最早自働債権の弁済を求め得ず(四四三条一項但書の場合を除︑き)︑而も他の債務者よりは求償

し得ぬ窮地に陥るであろう︒之相殺の効果に付いて既判力を生ずるが故で︑若し弁済等の事由であれば之に付ては既

判力は及ばぬから︑之を理由に勝訴しても他の理由で既に債務の在しなかった場合には︑他の債務者に対して求償し

得ぬ代りに︑債権者に対して弁済額をば不当利得として返還を求めることは何等既判力により妨げられぬのである︒

即ち自働債権を有する債務者の相殺の抗弁を認容した判決は︑他の債務者にも反射的効果を及ぼす点で所謂絶対的効

力を承認すべきである︒﹂

(3)

次に民法四三六条二項に関して述べられると乙ろをみよう︒ ﹁四三六条二項に依り︑連帯債務者の一人が他の者の

債権者に対して有する債権に基づき其の負担部分に付て相殺を援用する旨の抗弁を訴訟上提出した場合に︑之に基づ

き勝訴した限度に於て其の判決にも同様な効果を認め得ぬであろうか︒尤も白働債権を有する債務者が自ら相殺して

仕舞って居れば︑他の債務者は第一項に依り債務消滅の効果を主張すれば宜いし︑又債権者との聞の訴訟で相殺を抗

弁したが理由なしとの理由で敗訴して居れば︑既判力を受け││其の判断の当否に拘らず││再び自ら同一の相殺を

以て主張し得ぬ状態にあるから︑他の債務者に於ても之に代って更に相殺を主張し得ぬ乙とは云う迄もない︒

若し右第二項に所調﹃相殺ノ援用﹂が︑他の連帯債務者の有する債権を以て其の債務を負担部分の限度に於て債権

者との関係でも絶対的に消滅せしめる意思表示で︑其の結果自己及び之以外の連帯債務者の為にも絶対的効力を及ぼ

すものと解するならば︑之を訴訟に於て主張するは本来の相殺の抗弁である乙ととなる︒此の場合援用者は他の債務

者と債権者との聞に相殺の効果を生ぜしめ得る権能︑即ち此の限度に於て他の債務者の債務の管理権並びに其の債権

を相殺に供する処分権を附与せられて居り︑随って右権能に基づき自己の訴訟に於て相殺の抗弁を為すは︑判決中の

相殺の抗弁に付ての判断が既判力を有する関係上︑他人の権利を自己の名を以て訴訟上主張し之に付て既判力ある判

断を受ける訴訟追行権(司円

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円ぬのま)を有し︑之に付ての判決は他人の利益に関し当事者となりたる者

に対するものとして︑民訴法第二

O

一条第二項の趣旨により相殺の抗弁の当否に関しては自働債権を有する債務者の

ために若くは之に対して既判力を及ぼすと考えねばならぬであろう︒通常他人の利益に関し自己の名を以て訴訟を為

し得る権能は︑請求自体即ち訴訟物を成す権利関係に付てのみ考えられるが︑之判決の既判力は請求の当否に付ての

み生ずるのが原別である乙とに基づくもので︑相殺の抗弁の如く訴訟物たらざる権利関係に付ても既判力の物的範囲

が拡張される場合ならば︑其の攻撃防禦方法としての権利主張にも同様に訴訟追行権なるものが考えられて然るべき

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三 入

である︒此の関係は例えば遺言執行者が当事者として相続財産に属する債権に基づき︑又船長が海難救助料の請求の

経 営 と 経 済

被告として︑債務者の債権を以て相殺の抗弁を為すが如き場合に︑訴訟物たる権利関係以外に相殺の抗弁に関しても

訴訟追行権を認むべきことと理論上同様であり︑唯此等の場合は訴訟物自体も当事者の個人的利益に無関係であるに

対し︑連帯債務者の場合は︑訴訟物は自己の債務である点で異るのみである︒故に他の債務者の債権に基づき相殺の

抗弁を為した場合は︑其の判決は右の抗弁の当否に付ての判断に関する限り︑恰も自働債権を有する債務者が債権者

より訴えられて相殺の抗弁を提出したと同様に︑此の本人の為に文は対して既判力を生ずべく︑随って若し相殺の抗

弁が白働債権の不存在の理由等で排斥された場合は本人も債権者に対し最早同一の相殺の効果を主張し得ぬに至るの

である︒文若し相殺の抗弁が認容された場合には同様に援用者及び本人と債権者との聞に効力を生ずるのみならず︑

他の連帯債務者の為にも其の反射的効果を及ぼし︑此等の者も相殺に因る債務の消滅を以て抗弁し得ることとなる︒

此等

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姑果は第二項の﹃相殺ノ援用﹄を実体法上本来の相殺であるとの前提を採る限り︑不可避の結論と云わねばな

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右の問題提起について︑民法学者はその見解を注目すべきものであると指摘しながらも論評していないようである︒

連帯債務の性質論は︑占有理論とならんで民法学上の難問の一つなのであるが︑近代立法は連帯債務に一種の性質

のみを認め︑現時の学説は一般に債務複数説をとっている︒ただドイツ普通法の解釈としては︑連帯債務につき共同

連帯(同

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円 宮 円 ︒ 豆 仲 間 忠 吉 ロ ) と を 区 別 し ︑ 前 者 は 一 個 の 債 務 で あ り ︑ 後 者 は

複数の債務であるとするのが通説であった︒しかし︑近代立法は連帯債務を二種に区別することを認めず︑わが民法

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もこれをとっている︒

そうだとすれば連帯債務は別個独立の債務であるのだから︑連帯債務者の一人について生じた事由は他の債務者に

効力を及ぼさないのを原則とし︑ただ共同目的によって連結せられる範囲すなわち債権者の債権の確保満足を与える

行為のみ︑例外として絶対的効力を生︒すべきこととなるわけである︒しかし︑この点は立法例は分れ︑絶対的効力を

生ずる事由の範囲は広狭様々である︒たとえば︑ドイツ民法では︑弁済・代物弁済・供託・相殺︑免除︑債権者遅滞

以外の事項は相対的効力として狭く︑フランス民法は︑弁済︑一債務者の過失による物の滅失または遅滞中の物の滅

失︑訴求による時効中断︑訴求された遅滞責任︑抗弁権︑相続による混同︑更改︑免除︑混同︑宣誓︑請求または承

認による時効の中断について絶対的効力を認めて広くなっている︒わが民法はその中聞に位するといわれるが︑むし

A

ろいちじるしくフランス民法に近く広く認められていると考えられる︒

ところで︑右にみたように連帯債務の性質を眺めると︑連帯債務者の一人と債権者との聞に下された確定判決が他

の債務者にその既判力を及ぼすかは︑当然に否定的に解釈されるべきことになるのである︒さらにいえば︑連帯債務

について複数説をとる限り︑債務は同一物ではなく︑債務者が同一人でない以上︑連帯債務者の一人についての確定

判決は他の債務者に対し既判力を及ぼし得ない乙ととなる︒したがって︑確定判決の効力も相対的であると一般にい

われるのである︒

また︑民事訴訟法上︑既判力の範囲の点からいっても︑連帯債務の場合に債務者の一人に対する確定判決が他の債

務者に既判力を及ぼさず︑反射効も他の債務者に及ぼないと論断される乙とが原則となる︒

しかしながら︑唯判決理由中の判断が既判力を生ずる唯一の例外である相殺の抗弁について︑民法上の解釈として

債務者の一人の受けた判決が如何なる意味においても他の債務者に影響を与えないと解する乙とができるかが問題と

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なるわけである︒さきにみた如く︑兼子教授が疑問を提出されたのも肯けるところである︒

それでは︑兼子教授のこの問題に対する解決をみてみよう︒民法四三六条一項の場合は︑反射的効果を及ぼす点で

Fhu 

所謂絶対的効力を生ずるものと解されるが︑民法四三六条二項の場合は︑その﹁相殺ノ援用﹂は文字上第一項の自働

債権者のなすものと同様に見えるに拘らず(四五七条二項は﹁相殺ヲ対抗スル﹂するの語を用いる)︑実体法上既に

本来の相殺ではなく︑単に自己の債務を消滅せしめる関係においてのみ相殺の効果を生ぜしめる相対的効果を有する

相殺の意思表示か︑ないしは他人の債務が相殺適状にある乙とを理由として自己の債務の弁済を拒絶する抗弁権の主

ヴ '

張と構成すべきではないかとされる︒その理由は次の如くである︒﹁元来相殺の効果を自動的にせず︑債権者の意思

表示に繋らしめて居るのは︑相殺を為すべきか否かの選択を其の本人の意思に任した次第であるから︑単なる連帯債

務者間で他の者が之に干渉して相殺を為すことを許すことは立法論としては行過ぎではないかとも思われるが︑相殺

と云う以上常に其の効果は本人にも及ぶ絶対的なものであると解釈することは益々其の権能を強めることとなり︑市

も前述の如く其の理論上の帰結として之に基く相殺の抗弁に付ての判決の既判力は利害を問わず本人に及ぶ乙とを認

めねばならぬこととなる︒大体此の条項の立法趣旨は援用者をして債権者との関係では他の債務者の負担部分の限度

で其の弁済を免れしめ︑他方其の債権を有する債務者との関係では負担部分を求償する迂路を通らずに片附ける点に

あるのだから︑相殺の援用は之に必要な効果を生ずる程度で認めれば足り︑敢て其の債務者自身で為すと同様な意味

で其の権利行使の代位を認めるには及ばぬのである︒そこで前述の如く他人の権利に基く自己の債務の履行拒絶権乃

至は相対的相殺の効果を生ぜしめる権能を認めることが最も此の目的に適合することとなる︒

一般に或者の法律的地位が他の者の法律関係を基礎とし之に附随して定まる場合︑特に保証債務又は之に類する第

二次的責任を負う場合に於て︑他人の義務に附着する抗弁権や他人が其の法律関係に付て有する形成権を自己の利益

(7)

の為に援用︑行使し得るかの問題を生ずる︒此の場合単なる履行拒絶権の性質を有する抗弁権(例えば同時履行の抗

弁)の援用を認めることは︑援用者自身の義務に付ても履行拒絶権の作用のみを有すること疑ないが︑或者の法律関

係の変更消滅を生ぜしめる形成権例えば時効援用権︑取消権︑相殺権︑解除権の如きは其の本人が之を行使すれば何

人に対する関係でも劃一的且全面的に其の効果を生ずるを原則とするが︑他人に之が代位行使を許容すると︑本人の

法律関係に全面的変更を生ぜしめ之が地位に重大な干渉を加える結果となる為︑明文のない限り行使権者の範囲を其

の本人以外に拡張するのが鴎踏せられる傾向にある︒併しかかる態度は其の発生に関しては其の者の法律関係に附随

するも︑其の後に於ては独立に取扱わるべき第三者の地位を︑飽く迄形成権者本人の怒意に繋らしめ︑該第三者の期

待を裏切り之を不安の状態に置く結果となる︒そこで両者の利益の調和を計る方法として先づ取消︑相殺の効果を全

面的絶対的とする従来の考え方を一応尊重し乍ら︑而も此の種の形成権の行使自体ではなく︑其の存在に基いて第三者

に自己の利益を擁護する為︑即ち其の義務の履行を免れ若は之を拒否し得る限度に於て︑履行拒絶権を認める乙とが

考えられる︒保証人文は之比類する附従的責任を負う者に或程度此の種の抗弁権を附与することは既に各立法例に於

ても認めて居る所である︒此の知く或者の形成権の存在が他の者にとっては抗弁権に転化することを認める場合に於

ても︑其の態様には強弱二種があり得る︒即ち一は形成権の存続に繋らしめる延期的乃至一時的抗弁権を認めるもの

で︑之に依れば形成権者の掲棄︑喪失に因り一且存在した抗弁権も亦消滅に帰し︑結局形成権者の意思に依り第三者

の地位が左右されることとなる︒例えば取消原因あるも爾後の本人の追認︑取消権の消滅時効に因り消滅する場合や

時効完成せるに拘らず之が援用権を描棄する場合の如︑きである︒其の二は徹底的に第三者の地位の独立を保障する為

に︑其の抗弁権を形成権の発生事由に直接繋らしめ︑其の後は之と運命を共にせぬこととする滅却的又は永久的抗弁

権等を認めることである︒而して此の二者の中聞に立つ構成として︑従来の取消九相殺等の効果を全面的絶対的と為

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す考え方を止揚して︑直接第三者に形成権の行使の権能を認め乍ら︑其の効果を相対的に行使者自身との関係に於て

のみ生ぜしめると為す理論が考えられ︑之は第三者をして自己の意思表示で積極的に自己の法律関係の変更例えば債

務の消滅を生ぜしめ得る点では延期的抗弁説に比し強い権能であるが︑本人に形成権の帰属して居る聞に之を行使せ

ねばならぬ点では︑永久的抗弁権に比しては弱い権能を認めるものである︒此の他人の形成権の相対的行使の観念は

︒ ︒

近時末弘博士の提唱される所で︑保証人は主債務者の債務負担の法律行為に基く取消権を保証債務を消滅せしめる為

に行使し得るが︑之は専ら保証人に付てのみ債務消滅の効果を生ずるに止まり︑主債務者には何等の影響を及ぼさぬ

と解すべきものと説かれる際に用いられるのである︒此の形成権の相対的行使の観念は先づ取消等の効果の相対性を

認容し得る乙とを前提とするが︑既に実定法の明文で詐欺に因る取消の効果の相対性(民法九六条三項)を認め︑又

解釈上詐害行為の取消(民法四二四条)の効果の相対性が説かれる点から見ても︑理論上不可能と為すべき理由はな

い︒唯前述の如く第三者の積極的利益の擁護方法としては充分であるが︑本人の形成権の消滅に附従する為に保護に

欠ける難点が伴うのではあるまいか︒然も保証人の場合などは我が民法の解釈としても単に保証債務の状態的な附従

性を理由とする取消権の代位行使を認めるよりは︑保証契約が主債務の暇庇なき成立を前提として為されるを通常と

する点から︑保証人は主債務の取消原因に基く滅却的永久的抗弁権を認める方がよりスリ

i

スな構成とも思われる︒

併し民法第四三六条第二項に所謂﹁相殺ノ援用﹂の場合は︑此の相対的な相殺権の行使を認めるのが却って適当の

様である︒蓋し取消と異り相殺の適状は必ずしも連帯債務発生当時に予期される訳ではなく︑他の連帯債務者にとっ

てはむしろ偶然な事情であるから︑一且相殺権が発生したとて之に基き他の債務者に永久的抗弁権を認めることは甚

だ複雑不安定な状態を生ずる虞がある︒故に他の債務者は或債務者が其の債権を以て相殺を為し得る聞に︑裁判外で

あれ︑とも角相殺の意思表示を為して置かねばならぬとする必要がある︒而して一且之を為した者は本来相殺権を有

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する債務者の負担部分の範囲で永久的に自己の債務を免れ爾後に本人の相殺権が消滅しても影響を受けない︒他方此

の効果は本人や之以外の他の債務者には無関係であり︑本人としては別に本来の相殺を為すと否との自由を有するし

又之を為さぬ聞に自働債権の弁済︑移転等に因り相殺適状が無くなれば最早相殺し得なくなる︒之以外の他の債務者

も相殺権者が相殺せぬ限り夫々自己の債務を免れる関係で相殺を為し得る︒此の様に解しても何等矛盾混乱を惹起す

ることはないと思う︒

そ乙で他の連帯債務者が相殺を援用して之を訴訟上抗弁として提出した場合は︑自働債権の絶対的処分を為すもの

でない点から︑本来の相殺の抗弁ではなく︑判決中之に対する判断には民訴法第一九九条第二項に依る既判力を認め

る必要なく︑随って其の判決の効力は自働債権を有する連帯債務者には及ばず︑又夫以外の他の債務者も反射的影響

を受けぬとの結論に達し︑結局前述の一般原則へ戻る乙ととなる︒﹂

確定判決の反射的効力又は反射効

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とは︑当事者聞における確定判決の存在が︑本来既判力の

及ばない第三者に対して反射的に利益・不利益を及ぼす現象︑たとえば主債務者の勝訴・敗訴の保証人に対する効果

合名会社に対する判決の社員に対する効果の知きを指すのであるが︑民事訴訟法学上かかる効果が認められるかどう

かについては争いのあるところである︒兼子教授は乙れを強調する立場をとられる︒

債権者の聞の判決の既判力は受けないが︑債務者が勝訴判決を得て債権者に弁済する必要がなくなれば︑保証債務の

附従性から保証人も債権者に対してその勝訴の判決を援用する乙とができる︒同様に共有者は︑他の共有者が共有物

について取戻︑妨害排除等の請求で第三者に対して勝訴した場合は︑これを保存行為として︑これに対してその判決 ﹁例えば︑保証人は主債務者と

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を援用できる︒逆に不利に働く場合として︑破産債権者は︑債権調査に際して他の債権者が既に破産者に対して有す

る確定判決の既判力を承認しなければない︒一般に当事者間で自由に処分できる権利関係について︑確定判決があっ

たときは︑その既判力の標準時に︑当事者間の契約を判決通りに処分したのと同様に見て︑第三者が当事者聞の関係

を判定すべき場合は︑既判力で確定されたところに従って取扱わなければならない︒これに反し︑既判力の標準時前

に既にその権利関係について直接の利害関係をもっていたり︑その以前の状態を判断するには︑既判力と無関係に︑

自己の立場で権利を主張し又処理することができる︒刑事裁判や行政庁が当事者間の関係を判断して︑裁判や処分を

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する場合も同様である︒判決のこの種の効果を特に反射的効力と呼ぶ乙とができるよと説かれる︒

乙れに対して︑三ヶ月教授は批判的立場に立たれる︒すなわち︑ ﹁:::その効果として︑第三者に対する裁判にお

いて裁判所はその点に関して実質的審理に立入る乙とが許きれず︑当然判断の前提として拘束的に受容しなければな

らぬとするのであれば︑実質的には既判力の第三者への拡張というべく︑特段の規定のない限り既判力は当事者間に

のみ生ずるという原則と矛盾するといわねばならない︒立法論として︑かかる者に対する関係で既判力を及ぼした方

がよいかどうかの問題としてはともかくとして︑解釈論としてとれを認める乙とはその限界を超えているように思わ

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︒ ﹂

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さ ら

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﹁兼子博士はこうした反射効なるものを基礎づけうる乙とが︑既判力本質論としての権利実

在説の一つの効用である乙とを力説される︒しかし既判力理論としてこうした立場をとるとしても︑確定判決による

権利の実在化は決して対世的な実在化ではなく︑主観的(人的)限界を本質的に伴った法的実在として認められてい

るに止まるのであるから︑かかる主観的制約を伴った法的実在を根拠にして︑第三者に対する右の如込叫制度的な拘束

的効果を導き出す乙とは︑やはり一つの飛躍がなくては難しいといわなければならないこと述べられる︒

かくして︑連帯債務者の一人と債権者との間に存在する確定判決が他の連帯債務者に対して如何なる効力を及ぼす

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かの問題は︑判決理由中に既判力を認める唯一の場合である相殺の抗弁をめぐって︑訴訟法上も議論の存することが

分るが︑事柄が既判力の本質にまで遡るのでここで触れる余裕はない︒にど︑実体法上︑右の点についてどのように

考えたらいいかを述べてみたい︒

まず︑判決の反射的効果を認めるとすれば︑民法四三六条一項に当る場合は実体法上いわゆる絶対的効力を生ずる

わけであるから︑それについて民訴法上判決理由中に既判力を認める民訴一九九条二項により︑反射的効力が他の連

帯債務者に及ぶ乙ととなり︑乙こに確定判決が絶対的事由に該当する乙とを認めなければならない︒しかし民法四三

六条二項に当る場合の解釈についてはどうであろうか︒兼子教授は乙の場合にいわゆる相殺の相対的効果をみる立場

を前提として︑確定判決の効力は他の連帯債務者に及ばないと解される︒そこで︑民法四三六条二項においてそのよ

うな解釈ができるか否かを考えることにする︒民法上の通説は︑連帯債務者の一人が反対債権を有する場合に他の連

帯債務者はこれをもって相殺をなし得るということについて︑その負担部分について反対債権を有する債務者がなし

たと同様の効果の発生を認める︒すなわち効果としては第一項と同じであり︑ただその範囲が限定されるに止まると

するのである︒ドイツ民法四二二条二項︑フランス民法一二九四条三項など他の立法例は︑逆に相殺権の援用を明文

をもって禁止している︒わが民法がこれを許した理由とされるのは︑求償関係をなるべく簡略にし︑かつ反対債権を

有する債務者をして相殺権行使の機会を与えることの便宜を考慮したものとする点にある︒この見解に対して民法四

三六条二項の相殺に相対的効果を与える乙とは困難であろう︒また︑主債務者の有する反対債権をもって保証人が相

殺をなし得るか否かにつき︑民法四五七条二項は︑債権者に対抗できる旨を規定するが︑この対抗の意味について︑

民法上の解釈としては相殺が反対債権を処分する乙とを意味することから抗弁権の行使ではないとし︑反対債権をも

つ主債務者が相殺権を行使したと同様な効果があると解するのが一般である︒その理由とするのは︑民法四三六条二

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四 六

a

U

項と同じく︑保証人を保護しかっ法律関係の簡易な決済とを目的として特に設けられた便宜規定だとする点にある︒

経 営 と 経 済 フランス民法は一二九四条において同様の規定をおいているが︑ドイツ民法七七

O

条二項は主たる債務者が相殺権を

有する聞は保証人に履行拒絶権を認めるに止めている︒したがって︑民法四五七条二項において相殺に相対的効果を

与えるのも無理があるといわ︑ざるを得ない︒

そうだとすると︑民法四三六条二項において実体法上相殺に絶対的効果を与えると解する限り︑それに関する確定

判決の反射的効果も︑第一項の場合と同様に他の連帯債務者に影響を及ぼし︑いわゆる絶対的効力を生ずる場合と解

きざるを得ないであろう︒もっとも︑右の乙とは消滅事由として絶対的効力をみとめられている限りで反射的効力が

他の連帯債務者にも及ぶが︑しかしそれは右消滅事由が絶対的効力をみとめられているためにそのような結果になる

のであって︑確定判決の反射的効力がおよぶが故にそうなるのではないということになる︒

このことに関し︑用語の面でかなり異るが︑山中教授は確定判決の効力に︑連帯債務者聞の相殺をめぐって︑他の

連帯債務者に絶対的効力を認めておられる︒すなわち︑ドイツ民法四二五条は債権者が連帯債務者の一人に対し勝訴

敗訴の判決をえても相対的効力あるにすぎぬ︑と明定するが︑ドイツ普通法では債権者敗訴の判決のみ絶対的を生ず

ると説が多かった︒たとえば判決が︑すでに弁済︑代物弁済︑供託のなされた乙とを理由に︑相殺の抗弁を理由あり

として債権者を敗訴せしめた場合に︑絶対的効力をもつのは︑それらの事由によるのであって︑判決によるのではな

いというのが︑ドイツ民法の趣旨であろう︒しかしそれらの事由がはたして有効か否かを︑他の連帯債務者は右判決

に国輔束きれず争いうるとしては︑ある連帯債務者に対する関係では相殺が有効だと判決され︑他の連帯債務者に対す

る関係では右の相殺は無効だと判決される乙とも起り得て︑相殺の効力が破壊されるわけである︒絶対的効力を生ず

ると認められた事由に関する限り︑判決もまた他の連帯債務者に対して嬬判力をもち︑すなわち絶対的効力をもっと

(13)

解すべきではないか︑と説かれる︒ただし︑右絶対的効力を生ずる事由が判決の嬬判力の内容とならぬ限りは︑右判

決は絶対的効力をもたぬのであるから︑実際上は︑債権者勝訴の給付判決は絶対的効力なく︑債務者敗訴の場合にの

み︑それも絶対的効力を生ずる事由が判決主文に包含せられるか︑または相殺をもって対抗したる額についてのみ相

殺のため主張した請求の成立または不成立の判断が(民訴五九条一項)︑絶対的効力を生じ得る余地があるのみであ

HU 

ることを注意すべきである︑とされる︒

以上︑提起された問題について実体法上の解釈に関して述べて来たが︑窮極的には訴訟法上いわゆる反射的効力な

るものを如何にみるかに解決がかかっているように思われる︒

兼子一・連帯債務者の一人の受けた判決の効果(民事法研究第一巻所収)三七八頁以下︒

ω

兼子前掲三入

O

頁 以

下 ︒

同たとえば︑我妻教授(民法講義町・債権総論二

O

五頁)︑柏木教授(判例債権法総論下巻三五頁)︑於保教授(債権総論・法

樟学全集二

O

巻 一

一 一

一 一

頁 )

な ど

( 1 )   ( 7 )   ( 6 )   ( 5 )   ( 4 )  

我妻前掲二

O

一頁︑柚木前掲二五頁︑於保前掲二

O

五 頁

以 下

兼子前掲三八

O

頁 ︒

兼子前掲三八三頁︒

兼子前掲三人四頁以下︒

( 9 )   ( 8 )  

末弘厳太郎・主債務者の取消権と保証人(法律時報入巻一号二

O

頁︑民法雑記帳下巻九頁以下)︒

兼子一・民事訴訟法体系(昭和三一年)三五二頁以下︒なお︑兼子・実体法と訴訟法一六三頁以下参照︒

三ヶ月・民事訴訟法(法律学全集三五巻)三五頁︒なお︑判例は最高裁昭和三一年七月二

O

自 民

集 一

O

巻九六五頁において︑

連帯債務者聞における相殺の援用

(14)

経 営 と 経 済

7¥ 

土地の賃借入が賃貸人からの賃料不払による解除そ理由とする明渡訴訟で敗訴した場合︑転借入はその判決の反射的効力そ受け

て︑賃貸人に対し賃借権の消滅を争うことができないとした下級審判決に対し︑法理上の根拠そ

' m ハ ︿

' h

のとして破棄している︒

乙の判例について︑兼子教授は︑請求の理由如何に拘らず︑賃借入の敗訴判決は︑第三者との関係では実体的には︑口頭弁論終

結当時に当事者間の和解によって賃貸借の合意解除をしたのと同視すべきであるから︑有効な転貸借の存する場合賃貸人賃借人

間の合意解除による賃借権の消械は︑転借入に対抗できないと解釈するならば(我妻・債権各論中巻︹六七一三参照)︑転借入

は賃借入の敗訴判決の反射的効力を受けないものといわなければならず︑乙の点で判旨の結論は正当である︑とされ(兼子前掲

・実体法と訴訟法一六六頁註︹五七︼)︑三ヶ月教授は︑反射効が問題となる事例ではないから︑判例が確定的に反射効を否定

したものとはいえない面があるが︑反射効理論に対する判例の消極的態度を推知せしめる一応の手掛りとなるもの︑とみられる

( 三 ヶ 月 前 掲 三 五 頁 ) ︒

ついでに︑相殺の抗弁と既判力の関係について也︑兼子︑三ヶ月両教授の問にやや見解の相違があるのでそれそ誌にあげてお

と う

兼 子 教 授 は ︑ ﹁相殺は他の抗弁権と異り︑請求とその発生原因において無関係な反対債権とを対等額で消滅させる効呆そ抗弁 ︒

とするものであるため︑ ζ れに既判力を認めないと︑請求の存否についての紛争が閏働債権の存否の紛争に移し換えられて︑判

決による解決が無意義となるおそれがあるので︑一挙に乙の点を解決する趣旨からの特例である︒即ち被告は相殺を排斥されて

敗訴しても︑後日反対債権を主張して同一金額そ取戻す乙とができるし︑叉相殺によって請求を排斥したのに拘らず︑請求が別

の理由で不存在であった乙とを主張して︑その債権を二重に利用することができる ζ とになるからである︒(イ)相殺の効果が

自働債権の存否に基いて実質的に判断された場合に限られ︑相殺のボ適状や相殺の意思表示の無効を理由として排斥した場合は

含まれない︒したがって︑判決においても︑乙の点を明確に判断しなければならない︒(ロ)相殺の抗ムサを排斥した場合は︑自

働債権(反対債権)の不存在が確定される︒乙れを認容して︑請求の全部叉は一部を棄却した場合は︑請求である受働債権と自

(15)

働債権とが共に存在し︑それが請求によって消滅したとの効果が確定される︒したがって︑予備的(仮定的)相殺の抗弁につい

ては︑受働債権の存在を確めた上で判断すべきで︑乙れを仮定して相殺の抗弁により直ちに請求を棄却する乙とは許きれない︒

自働債権の存否については︑相殺を対抗した舗についてのみ既判力を生じる口したがって請求金額そ超える乙とはあり得ないこ

と説かれる(兼子・前掲・体系三四四頁以下)︒

一 一

一 ヶ

月 教

授 は

﹁:::右の目的そ達するためには︑相殺のため主張した債権そ再び利用しようとしても既判力で妨げられると

しておけば充分である︒

( a )

反対債権が相殺の抗弁として主張されたが︑かかる反対債権は認められないとしてその相殺の抗

弁が排斥されたときに︑反対債権の不存在につき既判力が生ずるのは︑かかる例外を認めた以上当然で異論をみない︒(b)問

題は相殺の抗弁が認容されたときに︑何について既判力が生ずるかである︒乙の点については︑﹃相殺のため主張したる請求の

成立叉は不成立﹄の判断につき既判力が生ずると規定することと関連し︑いろいろ問題がある口

( I

)

相殺の抗弁が認められれ

ば︑反対債権は消滅するのであるから︑そもそも請求(反対債権)の成立につき既判力が生ずると解する実益はない︒実益があ

るのはあくまでも相殺に供した債権の不存在が確定しておく乙とであるからである︒

( E

)

相殺の抗弁を容れた場合は従って対

当額につき反対債権の不存在が確定されるとともに(乙れが一九九条二項の本旨である)︑受働債権も対当額につき不存布であ

ることが確定される︒即ち一

OO

万円の請求に対し︑三

O

万円の反対債権が相殺の抗弁として認容されたときは︑七

O

万円の債

権が確定されるに止まるのであって︑強いて原告の債権と被告の債権がともに存在し︑それが相殺によって消滅した乙とについ

て既判力が生ずる(兼子・体系三四四頁)と説明する必要はない(尚保判決の制度そもつドイツではかかる理論構成の実益があ

るが︑かかる制度そ認めないわが国ではその実益はない):::︒﹂と述べておられる(一一一ヶ月前掲一二三頁以下)︒

我妻前掲二

O

一頁以下︑於保前掲二

O

入頁︑柏木前掲二六頁以下︑参照︒

我妻前掲二三二頁︑我妻 H 有泉・債権法コシメンタール一二三頁︑柏木前掲入一頁︑於保前掲二四四頁︑参照︒

( 1 2 )   ( 1 1 )   (

13 )  

山中康雄・債権法総則講義一七七頁以下︒

連帯債務者間における相殺の援用

(16)

経 営 と 経 済 五

O

仙 ま た

ζ の乙とは︑ひいては相殺権の行使に関する私法的考察方法と訴訟法的考察方法の問題にもつながると思われるが︑そ

れについては︑山木戸克己・訴訟における契約解除ならびに相殺︹﹁民事訴訟の基礎的理論﹂所収︑五二頁以下)がある︒

参照

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