• 検索結果がありません。

Ⅲ 分析と今後の課題

ドキュメント内 連帯債権規定の新設と残された課題 (ページ 33-40)

以上に見てきた改正審議過程の議論から,本改正において,条文化され

(79) 第77回会議議事録15頁(中井委員発言)。なお,これらの中井委員の意見に対し ては,内田委員より「中間試案で,相対効の原則を採って,その上で更に個別に 見直していったところ,やはり絶対効を認めたほうがいいものがあるということで,

今その調整をしている段階です。」という見解を述べている(同議事録15頁)。

(80) 第77回会議議事録18頁以下

(81) 第77回会議議事録18頁(内田委員発言),20頁(佐成委員発言)

(82) 第92回会議部会資料80-1 ; 4 頁, 5 頁,同部会資料80-3 ; 8 頁

(83) 第92回,第95回,第96回会議

た連帯債権規定についてどこまで審議が尽くされたのか,そして,残され た問題を明らかにしていく。

1 .連帯債権規定の新設経緯の分析

まず,審議において連帯債権規定の新設にどのような意義が見出されて いたのか。結論から言えば,それは消極的なものであったと言えるだろう。

連帯債権の明文化により,確かに613条 1 項の賃貸人の転借人に対する賃 料請求権と転貸人の転借人に対する賃料請求権との関係,復代理人に対す る本人と代理人の権利との関係など,連帯債権と考えられる関係に法的根 拠が与えられる。また,本改正審議の参考資料 1 によれば,同一損害に対 する複数人の損害賠償請求権や,債権の多重譲渡における債務者に対する 債権譲受人の権利などが挙げられていた。これに加え,担保付きシンジ ケートローンのパラレル・デット方式に条文上の根拠を与えるという見解 がパブコメをはじめとして審議の随所で挙げられた。

他方,連帯債権の新設についてはこのような実質的な理由だけではなく,

条文の体系的な整理という目的もあった。すなわち,多数当事者の債権債務 関係について,まず連帯債務の絶対的効力事由の絞り込み,連帯債務と不可 分債務との効果における差異がなくなることを前提として,「連帯」と「不 可分」との差異をもっぱら給付の可分性にのみ依拠させるという概念整理を する。そして,この概念整理のもとで多数当事者の債務関係を「分割」「不 可分」「連帯」と分類し規定する。それを,債務と債権でパラレルな関係に なるように,多数当事者の債権関係についても整備するというものである。

このように,連帯債権の新設には,概念を明確化するという理由と,条 文体系上の理由が挙げられている。しかしながら,審議の過程を見ると,

両者には随分温度差があるように思われる。というのは,前者の理由につ いては,第 6 回部会資料で触れられて以降,審議中に特に言及された様子 はない。第77回会議にて,とりわけ連帯債権規定を新設する必要性を問わ

れた際には,担保付きシンジケートローンが挙げられるのみであり,その 他の事例については一切触れられていない。本改正審議全体を通じて見て も,上述した連帯債権と考えられる諸債権関係は,連帯債権の規定内容を 検討するに際して,特に念頭に置かれた様子はないのである。その一方で,

事務局による検討事項や条文案においてもっぱら強調されたのは,体系上 の理由の方であった。

以上を見るに,本改正における連帯債権規定の新設の第一義的な目的は,

やはり多数当事者の債権債務関係規定の大きな枠組みの中で,分割債権債 務,不可分債権債務と,連帯債権債務をパラレルに規定しより「平明」か つ「統一的な」条文構成にするというところにあるだろう。

2 .連帯債権規定の射程

次に,成立要件をめぐる議論から連帯債権の射程を分析する。

連帯債権の発生原因については最終的に「法令の規定」と「当事者の意思 表示」と規定された。「当事者の意思表示」については,「当事者」とは誰を 指すか,そして,「意思表示」と認められる範囲についても解釈が必要となる。

まず,合意の「当事者」に関しては,連帯債権者となる全ての債権者と,

債務者を指すとする見解で概ね一致している。ここでは,連帯債権関係の 孕むリスクが考慮されている。すなわち,一部の連帯債権者と債務者との 間のみで連帯債権関係が成立してしまうと,弁済を受けた債権者が他の債 権者に対して各債権者の持分に従った分与をしないまま無資力となってし まった場合に,他の債権者を害することになる。さらに,債権者の中に反 社会的勢力が介在してしまうと,それらの者に対して分与請求を行使する ことに危険が伴うこと(従って,結局権利行使ができなくなるおそれがある こと)が挙げられている。前者は,連帯債権に内在する債権者の無資力リス クと呼ばれるものであり,従来から学説でも指摘されていたものである。

次に,連帯の「意思表示」の解釈に関しては,連帯債権については特に

議論されていない。他方で連帯債務に関して言えば,従来から「意思表 示」とは,明示の意思表示に限らず,黙示の意思表示も広く認められてき た(84)。すなわち,債務者全員の資力が総合的に考慮されたと見るべき特 別の事情がある場合には,黙示の意思表示があったものと解釈されてきた。

本改正審議中も,多くの場面で契約解釈によって黙示の意思表示と認めら れる事例が挙げられている。

また,共有不動産の賃料などの事例で見られるように,可分債務であっ ても「不可分の対価は不可分」とすることについては,改正後もなお解釈 上「性質上の不可分債務」とする余地は残されているとするものの,これ を「黙示の合意」による連帯と見る見解,そして原則に立ち返り分割債務 と見る見解で意見は分かれていた。

また,「法令の規定」に含まれるものとしては,改正前後の規定の中で 直接的に連帯債権を明記しているものはない。しかし,部会資料ではすで に,613条 1 項(賃貸人の転借人に対する賃料請求権と転貸人の転借人に 対する賃料請求権との関係)や,107条第 2 項(復代理人に対する本人と 代理人の権利)が挙げられており,これが法令の規定に基づく連帯債権と 言えよう。

「法令の規定」なのか「当事者の意思表示」なのかが明確でないものとして,

例えば「一般法理」の扱いについて言及されている。連帯債務4の要件に関す る議論を見ると,この「一般法理」については,「法令の規定」に含むとす るか「意思表示」として解釈するかはどちらでも解釈は可能であると言えそ うである。

ところで,連帯債務と連帯債権との議論の深度の違いをどのように捉え るべきだろうか。改正審議中では,この連帯債務における「意思表示」の 解釈と連帯債権における「意思表示」の解釈について一切のすり合わせが

(84) 椿・前掲注( 3 )25頁

行われていない。この事実をもって,連帯債務と連帯債権とが全く無関係 の制度と理解されているのか,連帯債務についての議論の帰結が連帯債権 についても妥当すると考えられているのかは,議事録からは推察すること ができない。ここは,今後の検討を要すると言えよう(85)

さらには,いままで「連帯債権」あるいは「連帯債権的」と評されてき た債権関係について,今回の改正の結果として連帯債権の要件を満たすも のか否かということは,改めて検討が必要となってくる。今回審議におい てはあまり触れられなかったが,債権の二重譲受人の債務者に対する権利 は,これを連帯債権と解する説が有力である(86)(87)。このほか,一つの不 動産売買に対して生じた複数人の仲介業者の報酬請求権や,工業所有権侵 害における権利者と実施権者の損害賠償請求権なども,連帯債権だとする 裁判例がある(88)。とりわけ,審議中にも言及されていた「性質上不可分

(85) 分割原則の修正を債務と債権とで同じように認めてよいかについては,有力な批 判がある(椿・前掲注( 3 )24頁) 。また, 1 つの可分給付に複数の債権者が関与 する場合で,共有物に関して生じた債権(売買代金債権,賃料債権,共有物への不 法行為に基づく損害賠償請求権)は分割債権となるとされている。我妻・前掲注

( 3 )388頁,於保・前掲注( 3 )188頁,椿・前掲注( 3 )25頁

(86) 最判昭和55年 1 月11日民集34巻 1 号42頁は,指名債権が多重譲渡され,対抗要件 となる確定日付ある証書による通知が第三債務者のもとに同時に到達した事案につ いて,「各譲受人は,第三債務者に対しそれぞれの譲受債権についてその全額の弁 済を請求することができ,譲受人の一人から弁済の請求を受けた第三債務者は,他 の譲受人に対する弁済その他の債務消滅事由がない限り,単に同順位の譲受人が他 に存在することを理由として弁済の責めを免れることはできない」と判示した。こ の判決の立場を連帯債権,あるいは不真正連帯債権であると解する学説が多勢を占 めている。なお,筆者はこの立場には批判的である。詳しくは拙稿「不可分債権・

連帯債権の供託的機能に関する一考察―弁済者保護制度,分割債権原則との比較分 析を通じて―」法学新報123巻 1 ・ 2 号185頁

(87) 学説では,これを「法律の規定」に含めると解しているものがある。潮見佳男

『新債権総論Ⅱ』(信山社,2018年)625頁

(88) これらの裁判例の詳細については拙稿「裁判における連帯債権の認定基準」中央

ドキュメント内 連帯債権規定の新設と残された課題 (ページ 33-40)

関連したドキュメント