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博 士 ( 水 産 学 ) 永 尾 次 郎

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Academic year: 2021

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博 士 ( 水 産 学 ) 永 尾 次 郎      学位 論文題 名

ク 1J ガニ Tebnessus cheiragonus の成 長と生 殖に関 する研究 学 位 論 文 内 容 の 要 旨

  力 二 類 の 雌 の 生殖 周 期 は 、交 尾、 産卵 、幼 生孵 化の3つの イペ ント によ って 区分 できるが、一般に冷水性のカ二類は、産卵から孵化までの抱卵期が 数0月 〜1年 以 上 と長 く 、1産 卵 期 に1回 し か 産 卵 で き な い。 この ため 、゛

成長 は生 殖の影響を強く受けると予想され、成長と生殖の調節機構が繁殖様 式の 決定 に大きく関与すると考えられる。クリガ二科は、ケガニ等の水産有 用種 を含 む冷水性の分類群であるが、交尾後に卵巣成熟が進行する点で、同 じく 冷水 性のクモガ二科と異なる繁殖様式を有する。しかし、クリガニ科力 二類 の成 長と生殖に関しては十分な知見がなく、両者の関係が繁殖様式に果 たす 役割 は明らかでない。そこで本研究では、沿岸性で採集・飼育の容易な クリ ガニ を対象として、幼生着底後の生活史におけるクリガニの成長と生殖 の関 係を 明らかにするため、成長過程、雌雄の生殖腺の成熟周期、卵発生過 程 を 調 査 し 、 成 長 と 生 殖 が 繁 殖 様 式 に 果 た す 役 割 を 考 察 し た 。   孵 化 後1年 目 の 稚 ガ ニ の 各齢 期に おける 形態 変化 を、 天然 メガ 口バ から 得 た 稚 ガ ニ の 飼 育に よ っ て 調ぺ た結 果、 その 外部 性徴 は、 雄の2齢に おい て 、 第3〜5腹 肢 の 内 肢 の 消 失 と 、 第1腹肢 の 出 現 に よ り 初 め て 観 察 さ れ た 。 そ れ 以 降 は 、3齢 と4齢 に お い て 、 雌 の 生 殖 孔 と 雄 のべ ニス の形 成が それ ぞれ 観察された。また、飼育下での孵化当年の各齢期における脱皮日を 調 べ た 結 果 、5月 末 に 着 底 し た 稚 ガ ニ は ・ 、 およ そ12日 に1回の 間隔 で脱 皮 し ( 平 均 水 温15.3℃ ) 、9月 初旬 まで に7齢 (甲 長約17 mm)に 達し た。

さ ら に 、 孵 化 後1年 以 降 の 成長 を明 らかに する ため 、飼 育下 で脱 皮さ せた 雌雄の脱皮毎のEFl長増加量を調ぺた。その結果、脱皮前後の甲艮の関係は回 帰直線に近似された。この回n吾直線を孵化後1 f .以内の稚ガニの成長とあ わせ て考 察した結果、北海道南部の臼尻漁港周辺に生息するクリガニは、雌

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雄ともに着底後、生涯におよそ16回の脱皮をすると推定された。さらに、

1995〜1998年において臼尻漁港周辺で採集した雌雄の甲長組成の年変化を 調 べた結果か ら、12齢から13齢 への脱皮と、13齢から14齢への脱皮は、

雄 で は 秋 〜 冬 季 、 雌 で は 春 季 の1年 に1回 、 起 き る と 推 定 さ れ た 。   クリガ二雌雄の性成熟周期を明らかにするため、臼尻漁港周辺で採集した 雌雄の各種生殖器官(精巣、輸精管、卵巣)の組織形態と重量指数(体重あ たりの器官重量の比率)の季節変化を調べた。組織観察の結果、精巣は多数 の精小嚢が付属する輸精小管によって構成された。各精小嚢は、ほぽ同一の 精子形成段階の生殖細胞を内腔に含んでいた。精小嚢は精子形成段階に基づ い て6期の 成熟度に区 分された。 各成熟度の精小嚢の2ケ月毎の平均出現 頻度を調べた結果、交尾期の精巣では第一精母細胞を包む精小嚢の出現率が 高いことが分かった。このことから、交尾期に精原細胞から分裂した精母細 胞は、交尾期以降に精子となり、翌年まで精巣または輸精管中に貯蔵される と考えられた。輸精管は形態的特徴から、輸精管前部、輸精管中部、輸精管 後部に分けられた。輸精管の重量指数は、明瞭な周年変化を示さなかったが、

輸精管後部に多数存在する盲嚢内の平均精包密度は、交尾期以前では高く、

以後では低下する傾向があった。このことから、盲嚢は精子貯蔵機能を有し、

交尾期を推定する指標として、盲嚢内の精包密度が有効なことが示唆された。

一方、卵巣組織の横断面中央部には、卵原細胞からなる増殖中心が存在した。

卵巣の成熟度は増殖中心から独立した卵母細胞の卵形成段階に基づいて、5 期に区分された。各成熟度の卵巣の出現と卵巣重量指数の季節変化から、卵 巣成熟周期を推定した結果、3〜7月の交尾期以降に卵黄蓄積が開始され、9

〜10月に産卵する年周期性が確認された。

  クリガニの抱卵期における生態を把握するための基礎知見として、卵発生 を追跡観察し、発生段階を区分した。その結果、胚の形態変化から卵発生段 階 は9期に区分された。さらに、抱卵時間に影響を与える要因として水温 を考え、6 C、iiC、16こC、および天然海水による流水実験区における卵 発生の進行と水温の関係を調べた。その結果、卵発生初期における胚の成長 と 眼色素の沈 着の速度は 、6℃よ りも、11℃と16℃において 高い傾向が あ った。しかし、産卵から孵化までに要した日数は、6℃、11℃、流水実 験区(平均水温9.5℃)で、それぞれ171、164、186日であった。これらの

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結果 から、胚の成長速度は、水温の影響を受けるが、抱卵時間は水温だけで は決 定され ず、 卵の 自律 的な 成長 以外 にも 決定 要因 があ ると 推察された。

  繁 殖行動に重要な役割を持つ部位として鋏脚と腹節に着目し、甲長に対す る それ ら の 相 対 成 長 を 調べ た。 その 結果 、雄で は甲 長約32.2mmから 、鋏 脚の 成長率が増加した。この増加は、交尾行動に参加する雌雄の体サイズ組 成と あわせて考察した結果、雄の交尾行動の開始に関連すると推察された。

また、雌の腹節の成長率は、甲長約5.2〜47.2mmの範囲で高い値を示した。

これ は、抱卵のための腹節の大型化に関連すると考えられた。また、雄の腹 節は 、甲長 約44.2 mmか ら成 長率 が減 少し た。 これ は交 尾相 手の雌の相対 的 な 体 サ イ ズ の 減 少 に 対 応 し た 形 態 変 化 と 考 え ら れ た 。   ク リガ二雌は卵巣と生殖孔の間に存在する受精嚢において、雄から受け渡 され る精子を貯蔵する。繁殖行動にともなう貯蔵精子の動態を解明するため に、 雌の甲長と交尾・産卵期の前後における貯蔵精子数を比較した。その結 果、 精子数は雌の体サイズと正の相関を示し、年毎の貯蔵精子数の収支は平 均的 に余剰を生じていることが示唆された。一方、交尾期と産卵期の前後で は、 雌の体サイズに関係なく、貯蔵精子数は有意な変動を示さなかった。こ れは 、1回 の交 尾で 雄か ら受 け渡 される精子数が安定していないためと推察 され た。さらに、貯蔵精子の授精活性の変化を調べるため、交尾期に雄から 隔離 して飼育した無交尾雌が産出した卵の受精率を調べ、正常に交尾した雌 の卵 と比較した。その結果、無交尾雌の産出卵と交尾雌の卵の受精率に有意 差がなかった。このことから、年毎に余剰として受精嚢に貯蔵される精子は、

少な くとも 交尾 後1年間 は授 精活 性を維 持し 、そ のj卯間 ては 雌は再交尾な しでも卵を授精できることが示された。

  クリガニは、近緑種のケガニと同様に幼生孵化後に一定の卵巣成熟j朝問を 有し 、その間に脱皮(成長)と交尾をするという生殖周期を有した。このよ うな 周期性は、冷水性のクリガ二科において、長期化する抱卵期間への適応 とし て、生殖と成長に必要な時間をそれぞれ分割した結果として形成された と考えられた。

  一 般にカ二類を対象とする漁業では、大型の雄が対象とされるため、漁獲 によ る雌への性比の偏りに加え、雄の体サイズの低下が起きるため、その交 尾・ 授精への影響が危惧される。多様な体サイズが混在するクリガニでも、

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大型 雄の 除去は雄の小型化を引き起こし、大型雌の交尾可能な雄との遭遇率 の減 少が 予想される。また、交尾が成立する場合でも雄が受け渡す射精物量 が減少する可能性がある。このため、クリガニ科でも、雌の保護だけでなく、

雄の 体サ イズや体サイズ毎の漁獲量を十分に検討する必要があると考えられ た。

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学 位 論 文 審 査の 要旨 主査

副査 副査 副査

教 授   島 教 授   山 教 授   小 助教授  桜

崎 健 二 崎 文 雄 城 春 雄 井 泰 憲

     学位論文題名

クリガニTehnessus cheiragonus の成長と生殖に関する研究

  一般 に冷水性の カ二類は、 抱卵期が数 ケ月〜1年以上と長く、1産卵期に1 回しか産卵できない。このため、成長は生殖の影響を強く受け、成長と生殖の調 節機構は繁殖様式の決定に大きく関与する。クリガ二科は、ケガ二等の水産有用 種を含む冷水性の分類群であるが、交尾後に卵巣成熟が進行する点で、同じく冷 水性のクモガニ科と異なる繁殖様式を有する。しかし、クリガニ科の成長と生殖 については十分な知見がなく、それらが繁殖様式に与える影響は明らかでない。

本研究は、沿岸性で採集・飼育が容易なクリガニを対象として、幼生着底後の生 活史における成長過程と生殖周期を明らかにし、成長と生殖の関係が繁殖様式に 与える影響を解明することを目的として行われた。

  孵化後1年目の稚ガニの各齢期における形態変化を、北海道南部の臼尻沿岸 で採集したヌガ口バから得た稚ガニの飼育によって調べた。その結果、稚ガニは 2齢において、腹肢の形態に基づいて性判別が可能になった。また、各齢期への 脱 皮目を調 べた結果、5月に 着底した稚 ガニは、約12日 に1回 の間隔で脱 皮 し、9月まで に7齢 に達した。 さらに、孵 化後1年以降の成長を明らかにする ために、雌雄の脱皮毎の甲長増加量を調べた結果、脱皮前後の甲長の関係は回帰 直線に近似された。これらの結果から、臼尻沿岸のクリガニは、着底後、雌雄と もに生涯に約16回脱皮すると推定された。

  雌雄の性成熟周期を明らかにするため、臼尻沿岸で採集した雌雄の生殖器官の 組織形態と重量指数(体重あたりの器官重量の比率)の季節変化を調べた。精巣 は多数の精小嚢が付属する輸精小管によって構成され、各精小嚢は内腔に含まれ る生殖細胞の精子形成段階から6期の成熟度に区分された。各成熟度の精小嚢 の2ケ月毎の平均出現頻度から、交尾期の精巣では第一精母細胞を含む精小嚢 の出現率が高かったことが分かった。このことから、精原細胞から分裂した精母 細1胞は交尾期以降に精子となり、翌年まで精巣または輸精管中に貯蔵されると考 えられた。また、輸精管に付属する盲嚢の精包密度は、交尾期以前では高く、以 後では低下する傾向があった。このため、盲嚢の精子密度は、交尾期を推定する 指標として有効なことが示唆された。卵巣成熟度は各卵巣に含まれる卵母細胞の

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卵形成段階から5期に区分された。各成熟度の卵巣の出現と、重量指数の季節 変化から、卵巣は3〜7月の交尾期以降に卵黄蓄積を開始し、9〜10月に産卵す る年周期性を示すことが分かった。

  抱卵期に関する知見を得るために卵発生を追跡観察し、胚の形態変化から発生 段階を区分した結果、発生段階は9期に区分された。さらに、抱卵時間に影響 を与える要因として水温を考え、異なる水温下での卵発生の進行と水温の関係を 調ぺた結果、卵発生初期の胚の成長速度は、低温よりも高温で速かった。しかし、

抱卵日数には水温の影響が認められなかったことから、胚の成長速度は水温に依 存 す る が 、 抱 卵 時 間 は 水 温 以 外 の 決 定 要 因 も 持 っ と 推 察 さ れ た 。   繁殖行動に重要な役割を持つ部位として鋏脚と腹節に着目し、甲長に対するそ れらの部位の相対成長を調ぺた。その結果、雄の甲長約32.2 mmから見られる 鋏脚の成長率の増加は、交尾行動の開始に関連すると推察された。また、雌の腹 節の成長率が甲長約5.2〜47.2 mrnの範囲で高い値を示したことは、抱卵に備え て腹節が大型化することに関連すると考えられた。

  雌の精子貯蔵器官である受精嚢における精子の動態を解明するために、雌の体 サイズと、交尾・産卵期にともなう貯蔵精子数を変動を調べた。その結果、貯蔵 精子数は雌の体サイズと正の相関を示し、年毎の精子加入数は減耗数より多いこ とが示唆された。また、雌の体サイズ区分毎の貯蔵精子数は、時期的な変動を示 さなかった。これは、1回の交尾で雄が受け渡す精子数のばらっきが大きいこと を示すと推察された。さらに、貯蔵精子の受精能の変化を調べるため、交尾則に 交尾させなかった雌と、交尾した雌の産出卵の受精率を比較した。その結果、受 精率に差はなかったことから、貯蔵精子は、交尾後1年間は受精能を保てると 推定された。

  以上より、クリガこは、幼生孵化後に一定の卵巣成熟期間を有し、その期間に 成長と交尾を行うという生殖周期を有した。このような周期性は、冷水域での抱 卵期の長期化への適応として、生殖と成長に必要な時間を分割した結果として形 成されたと考えられた。

  以上の研究成果は、これまで不明であったクリガニ科の成長過程と繁殖様式の 特徴を明らかにしたのみでなく、冷水性力二類の資源管理を行う上で不可欠な再 生産に関する新たな視点をもたらしたものして高く評価され、本論文が博士(水 産 学 ) の 学 位 請 求 論 文 と し て 相 当 の 業 績 で あ る と 認 定 し た 。

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